極東ロシア戦線
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<報告書は前編:後編から成る>

降下部隊迎撃  残敵追撃戦  UK弐番艦防衛  バークレー撃退


【UK弐番艦防衛】

●魚座の襲来
『バグアの進入を確認、隔壁を順次閉鎖していきます。非戦闘員の方は避難を開始してください』
 ユニバースナイト弐番艦内、【臨時オペレーター小隊】の椿(gb4266)による艦橋からの艦内放送が各通路に響く。
 無論、彼女は本来弐番艦のオペレーターではない。被害状況の報告や確認に艦内は人手を割かれているため、オペレーターの数が足らないのだ。
 赤いランプが通路で点滅し、色をまき散らしながらけたたましいサイレンが鳴る。
 分厚い隔壁が勢い良く動き、艦首に通じる通路を閉鎖していった。
「派手な歓迎じゃねぇか、ええ?」
 立ちふさがる壁を前にして、アスレード(gz0165)はニヤリと笑い、隔壁を拳一つ叩き込むことで吹き飛ばす。
 轟音か金属音か、通路に鋼鉄の板がバウンドしながら転がると、閃光弾がアスレードの足元へと飛んできた。
 閃光があたりを包みこみ、それを隠れ蓑とするように、AU−KVを纏った傭兵の一団がアスレードに飛びかかる。
 ドラグーンで構成された小隊【竜装騎兵】、華組と呼ばれる攻撃隊が地を蹴り、タイミングを測った一瞬で吶喊を仕掛けた。
『アスレード覚悟ですっ!』
 背後に回り込み、水無月春奈(gb4000)が天剣「ラジエル」を振りかぶる。銀光一閃、助走を付けて斬り込んだ一撃に手応えはなく、驚愕は一秒すら満ちず、横腹に衝撃を受けて中断させられる。
「この程度予想してねぇと思ったか?」
 続き、背中に衝突の痛みが走った。言葉は耳に届かず、肺を強打されて呼吸が止まる。揺さぶられる思考で、なんとなく反撃を受けたことだけ理解し、壁にめり込んだ体がずる、と落ちた。
『春奈さん!? 一歩遅れましたが、作戦コード”竜氷”開始ですよ!』
 輸送ヘリを使い、月組の鬼道・麗那(gb1939)がラインホールド側から【伯爵兵団】と共に攻め込んでくる。
 中にいる華組や雪組、連携をしている小隊の【ヒヨコ隊】、【乙女組】、【聴講生部隊『竜友』】が一斉に動き始めた。
「クックックッ、いいぞ、そうこなくっちゃなァ!」
 双方向からの攻撃を受け止め、流す。一対一なら問題もないだろう弐番艦の通路は、しかし乱戦には決して向いていない。
 結果、傭兵たちは他人を気遣う余り、身軽なアスレードに動きがついていかず、連携もうまく作用せずにもたつく一方だった。
 【羅刹】や【青剣】など、単独で戦う猛者でさえも勢いを打ち消され、隙を縫われる度にどこかしら傷を負う。
 その一方、アスレードは思うままに密集している傭兵たちの中へ突っ込み、暴力の限りを尽くしていた。
「おらァッ! これがバグアの力だァァッ!」
 口元をゆがめ、叫ぶアスレードは全身から“闘気”としか言いようがない何かを放つ。
 黒く、アスレードを覆う禍々しい気配。本能が警鐘を鳴らし、様子を見るため距離を取ろうとすれば、それより遥か早い速度で、衝撃波が囲む傭兵たちを打ち据えた。
『り‥‥理不尽な‥‥』
「てめぇは邪魔なんだよ‥‥どけ」
 吹き飛ばされ、床に転がる麗那をアスレードが蹴り飛ばす。更に数メートル吹き飛びながらも、変わらず通路の間を塞ぐ彼女に、アスレードが眉をひそめた。
『断ります。この先へは‥‥いかせません』
「ならよぉ、いっぺん死んで見るかぁ? あぁん?」
 震える片膝を強引に突き、立ち上がろうとする麗那にアスレードの抜き手が迫る。
 避けることも出来ず、痛みと衝撃を覚悟して、目を閉じる麗那の前に春奈が飛び出してきた。
 グシャアと、春奈の肩にアスレードの手が入る。纏う装甲は粉砕され、肉が切り裂かれた先に血管が破裂し、痛みのシグナルで視界が白く染められる中。動く瞬間、その理由が口を突いて出ていた。
『私は‥‥仲間を守ります』
「ふんっ‥‥くだらねぇっ! 突破口は開いてやったぜ、パーティの始まりだ!」
 肉に埋まった手を振りかぶり、春奈と共に麗那をなぎ払うと、アスレードは強化人間達を通信機で呼び寄せる。
 傭兵たちは動けない、攻撃を仕掛ける隙がない。”竜氷”に参加していた【BLUE&RED】は負傷者の回収をしつつ、アスレードの後ろ姿を見ることしかできなかった。

●怒涛の進軍
 アスレードの通信に呼応して、キメラや強化人間達がカタパルトよりユニバースナイト弐番艦へ雪崩れ込んでくる。
 【月狼】と【LYNXS】の一部が外にて防戦するも、バグア軍が攻め込む勢いは止められないでいた。
 防衛ラインを突破されれば、格納庫で待ち構えていた次の部隊が激流のように襲ってくる敵を相手取る。
「兵は巧遅より拙速を尊ぶ‥‥ですわ。突撃します、援護頼みますわよ!」
 KVの武装に匹敵するほど強力な一撃をもって、【歩兵小隊ゾルダート】のエリザ(gb3560)が押し寄せるキメラを一閃した。
 掛け声と旋風が呼び水となり、【明治剣客浪漫団】が束になって敵にぶつかっていく。
 見目は戦国時代映画の一シーンのようでもあるが、映画でも漫画でもなく現実に起こっていることだ。
 互いの命を賭け、掴むべき物のために両者は一歩も譲らず戦い始める。
 マンモスタイプのキメラが、大きな牙と体をもって傭兵たちを踏み荒らしにくれば、剣を振るって押し返し、後方からの援護射撃で仕留めるものもいた。
 違いがあるとすればバグアは連携を好まず、人類は仲間をもって戦っているのだ。
 数で押し始めるキメラ達に勝つとするならば、そこしかない。
「味方に当てるなよっ! 一斉発射! 突撃隊員はその後俺に続けっ!」
 【ラーズグリーズ隊】のブレイズ・S・イーグル(gb7498)は隊員に指示をだしたあと、獲物のコンユンクシオで手前のツンドラオオカミのようなキメラの首をなぎ払った。
 キメラが次々と蹴散らされ、死体が床に転がる。
 傷口から血が飛び散り、冷たい格納庫を生暖かい赤で浸し始めた。
 傭兵たちがキメラの対処に回っている間に、強化人間達は弐番艦の各地に散るため壁や天井を走って傭兵達の壁を抜けていく。
「強化人間は後回しーとにかくキメラを食い止めるよー。中の人たちに強化人間のことは[L]で伝えておいてー」
 スローテンポな調子を崩さず、【若葉【参】】の篠森 大和(gb2064)は隊員に指示をだし、隊員達と協力して作ったバリケードでキメラによる激流を押さえようと動いた。
 机や台などを通路に広げ、アスレードによって吹き飛ばされた隔壁までも使ってバリケードを張る。
 轟音すら連れて、押し寄せてきた波が一瞬止まった。
「早く倒さないとこれからが大変ですわ」
 竜斬斧を使い、エリザがマンモスキメラの頭部をカチ割って潰す。
「ああ、そうだ‥‥なっ!」
 何匹目かのツンドラオオカミを真っ二つにしたブレイズは息をついた。
 艦内に通じる通路付近付近では、赤いマフラー、赤い服の人型キメラ達が格納庫にあるミサイルなどを投げて、バリケードの破壊を試みる。
 だが、投げる前に【イエローマフラー隊】の面々がミサイルを持つ手元を狙って無力化させ、人型キメラを倒した。
 傭兵側とバグア側、双方似たような姿が戦いあう光景は、特撮ものの様にも見えなくはない。
「ありがとー助かったよ」
 そっとバリケードの端から頭を覗かせて、大和はぼやいた。
 【カンパネラの放課後】が援軍に訪れ、バリケードを強化するも、さすがに数に押し負け突破を許してしまう。
「多少中に入られましたわね‥‥ですが、私たちは今、目の前のことをするまでです。それがノブレス・オブリージュというものですわ」
 エリザが後ろを気にしながらも前を向き、バイザー越しにキメラをにらんだ。
 貴族としての勤めを果たすべく、エリザは敵の中心へ突っ込み、隊員達もそれに続く。
「我らが鋼の結束による盾を打ち砕けると思うな? 螺旋の鋼槍で穿ち貫く!」
 【Cadenza】の鋼 蒼志(ga0165)がドリルスピアを手に、隊員とペアになってマンモスキメラなどの大型のキメラを狙いだした。
 他の隊員もペアになり、大型の手ごわそうなキメラを中心に駆逐を始める。
 救急キットを携えた【カンパネラ自由隊】もはいりだし、戦闘による負傷者の治療を格納庫での片隅で取り掛かり始めた。
 キメラの流れこそ緩くはなったが、それでも戦闘は続き、互いが傷つけあうことに終わりは見えない。
「鬼ごっこ。さて、本当の鬼はどっちかな‥‥」
 大和はそっと呟くと、そのまま戦線の維持に尽力を尽くすのだった。
 
●戦線叫況
「状況を報告せよ」
 SESを搭載した槍を床に打ちつけながら、艦橋でハインリッヒ・ブラット(gz0100)准将が指令を飛ばす。
 アスレードが何処に向かっているかわからないが、最悪艦橋での戦闘も辞さないつもりなのだ。
『こちら動力部の【H―DM2】のシュナイダーだ。強化人間と交戦中、苦戦をしいられてるが、何とかしてるよ』
 艦内通信装置を通して艦橋に動力部の様子が映し出される。
『あんたら、死ぬんじゃないよ! 非戦闘員は逃げな――ここからはあたし達傭兵の仕事だ!』
 後ろで戦う小隊員に激を飛ばし、レーゲン・シュナイダー(ga4458)は戦いを続けていた。
「至急援軍を送れ、近くの者に連絡をしろ!」
 ブラットは状況を鑑みて指示をだすも、傭兵の情報網[L]は一部状況の報告が途絶えている。
 格納庫前にいた【ラウンドナイツ】が任を承り、援護に向かい始めた。
 何にせよ、統制されてきた情報網に亀裂が生じだしたのは事実であり、対策の必要性をブラットは感じる。
(「傭兵の自由に頼りすぎたか‥‥軍人として怠慢だな」)
『【AidFeather】のブラッドリィです。治療拠点を確保、アスレードと交戦した方にかなり負傷者がでている模様です。非戦闘員の方も何人か搬送されています』
 アイロン・ブラッドリィ(ga1047)が音声のみの通信を行ってきた。
 言った傍から通信機越しにうめき声が聞こえ、アイロンの言葉が事実であることが伝わる。
「そのまま持ち堪えてくれ、協力感謝する」
 自嘲する間もないと思いながらも、ブラッドは次々来る伝令に耳を傾けた。
「非戦闘員の避難は【LERAJE】と【ヒルクライム】の協力によりスムーズに進んでいます。強化人間が来ましたが【StlikerS】と【リンガーベル】が支援をしてくれています」
 オペレーターが安堵の息を漏らしながらブラッドへと伝える。どうやら人的損害は抑えられそうだ。
『突入してくるキメラ、強化人間はいないようです〜。うひゃぁ!? 火の手が〜』
 【EGG】の真珠(gb1870)が、AU−KVで艦内を走りながら消化活動や被害報告を手伝っている。
「‥‥消火活動をそのまま頼む」
 ブラッドは一瞬唖然とするが、咳払い一つで冷静になり指示を出した。
 弐番艦の各地で傭兵達がフォローにまで回っている。
「この艦を落とされるわけにはいかんな‥‥。
 ――キメラの対処へ戦えるものを回せ。UPC軍人として傭兵にばかり頼りすぎるな!」
 予想を超える動きをしている傭兵に、ブラッドは自分にも言い聞かせるように部下に激を飛ばすのだった。

●精鋭対決
「おらおらおらぁっ!」
 ドアを押し開け入ってきたキメラに飛びかかり、八十島 天鉞(gb5797)はキメラを馬乗りにしてメタルナックルで殴りつける。隔壁を含めたドアなど、死角からの奇襲で彼は何匹もの敵を倒していた。
 拳の下でキメラが絶命したのを確認すると、八十島はそのまま次へと向かおうとする。
「伏せなさいっ!」
 上から声が聞こえたかと思うと――【突撃機動小隊【魔弾】】のロッテ・ヴァステル(ga0066)が壁を走り、天井から八十島を攻撃しようとした強化人間を蹴り飛ばした。
「な、なんだ‥‥」
 吹き飛ばした敵へ矢や銃弾が襲い掛かり、次にロッテのような白兵タイプの人員が間合いを詰めて追い込む。
 統制の取れた動きに八十島が唖然としているうちに戦いは決着がついた。
 強化人間相手では、個人で戦うには限界がある――そう判断した八十島はロッテ達に軽く礼を告げ、別の場所の応援をしに動き始める。
 その姿を見送った後、次の小型ハッチへ向かおうとロッテ達が動いたとき、【G.B.H】のアレックスが【Hemutite】と【パラメディック】、【524支援小隊】らと共に入れ替わるように合流してきた。
「強化人間の対処はここを追ってくればいいと聞いたからな。微力ながら助太刀するぜ」
 ファイヤーパターンの描かれたAU−KV姿のアレックスは存在そのものが力を持っている。
 反撃を行う、烽火の合図には適任だ。
「宜しく頼むわ。来るわよ‥‥アスレードと一緒にぞろぞろと」
 ロッテが艦橋からの連絡を受けながら通路の先を見ると、数個の点が恐るべき速さで近づいてきていた。
 ――点はすぐに人影と変わり、そして正体を露わにする。
「多少は楽しませてくれるかぁ、ええっ!」
 中央にはアスレードの姿があった。興奮と悦楽の表情を浮かべながら駆けてくる。
 だが、アスレードよりも先に数人の強化人間が動いた。
 各々が手にした銃の引き金を連続して引くと――無数の形容し難い光線が傭兵たちに襲いかかった。
『アスレードには構うなっ! まずは強化人間からでいい!』
「確実的に一体一体潰すわよ」
 光線をかいくぐるようにかわしつつ、アレックスとロッテが10人近い隊員を率いて強化人間にぶつかる。
 強化人間の一体にアレックスのランス「エクスプロード」が突き刺さり、炎による小型の爆発が起こる。
 それでも強化人間は醜悪な笑みを浮かべて立ち、アレックスを掌の一撃で突き飛ばした。
『俺はお前達のように一人で戦っているんじゃないっ!』
 アレックスがAU−KVの車輪を逆回転させて踏みとどまると、穴を埋めるように、仲間が前に飛び出して強化人間へと襲い掛かる。
「そうよ、私たちは一人じゃない。人を捨てた貴方達に本当の力というものを教えてあげるわ」
 ロッテが対峙している相手に【Hemutite】の面々が連携して攻撃を仕掛ける――。
 ――しかし。
「ふんっ、ここは突破させてもらうぜ、あばよっ!」
 アスレードは傭兵たちを嘲笑うかのようにその上を飛び越えると、艦橋へ向け走り出した。

●チョコをもって魚を制す
「ついに見つけましたよ、アスレード!」
 【Ws】というタッグを味方と組んでいた佐渡川 歩(gb4026)はアスレードを見つけると板チョコを投げる。
「チョコを投げるだとぉ? てめぇ、食べ物を粗末にするとはどういう了見だ? あぁぁん!」
 アスレードは宙を舞う板チョコに目もくれず、弾丸のように飛んでくるドラグーンの一撃を喰らいながらもカウンターパンチをぶつけた。
 鎧が一瞬で砕け、崩れ落ちる。
 チョコはまだ落下している途中だ。
 そのままアスレードは歩の懐へ飛び込み、ソバットで壁に叩きつける。
 倒れる歩には目もくれず、落下するチョコをバク宙しながら咥え、カリッと齧った。
「ほ‥‥ほら、アスレードさん次のチョコですよ〜。早く来ないと食べちゃいますからね〜」
 一瞬の出来事に体が固まった佐伽羅 黎紀(ga8601)は気を取り直してチョコで引き寄せようと試す。
 アスレードに対応する味方の集結の為に、時間を稼がなければならないのだ。情報網[L]で連絡はしているので、何処まで時間を稼げるかが問題である。
「俺の前でチョコを食べようってのか?」
 黎紀の背中にアスレードが苛立った声を上げる。
「そうですよ、おいしそうなチョコですけど‥‥捨てちゃいます!」
 黎紀はチョコを壁に叩きつけると艦橋から離れるように通路を逃げる、味方のいるところへとアスレードを引き寄せるためである。
「てめぇぇぇっ!」
 激昂する声が背中から聞こえ、ペイント弾を用意していた黎紀はドンと何かにぶつかった。
「‥‥った、あ、アスレード!」
 思わず尻餅をつく黎紀が見えげたものはかなり後方にいたはずのアスレードである。
「チョコの傷みをてめぇも味わうかぁ? おらぁっ!」
 ペイント弾を撃とうとするが、腕を掴まれグギリと折られた。
 痛みに言葉が出ないまま黎紀は軽々と片手で持ち上げられ、壁に床にと連続して叩きつけられる。
 黎紀の全身が軋み、手に持ったサーベルを落とすとアスレードは気が済んだのか黎紀の体をぽいっと投げ捨てた。
「お客さん困りますね〜〜。ヒトのシマで勝手されちゃ!」
 黎紀が身をもって稼いだ時間、そして誘い込んだ場所で九条・護(gb2093)は面制圧射撃を用意し、【FANG】の仲間と共にアスレードに向かって一斉攻撃を仕掛ける。
 続いてMAKOTO(ga4693)が相方と共に間合いを詰め、『獣突』を繰り出した。
 ガード体勢のアスレードが衝撃で下がる。
「受け取ってください私の気持ち〜〜。コレが愛だ!」
 MAKOTOがすかさずチョコレートケーキを胸の高さへと投げた。
 他の隊員からもいくつかチョコが投げられる。
「てめぇら‥‥俺を馬鹿にするのもいい加減にしやがれぇっ! チョコを粗末にすんじゃねぇぇっ!」
 アスレードはチョコレートケーキを掴むと、MAKOTOを蹴り上げ天井へめり込ませた。
 そのまま横にいる護の頭へ踵落しを叩き込み、板チョコをあいた手で掴む。
 息をつく間もなく衝撃波を全身から飛ばし、【FANG】の残りメンバーもろとも通路を変形させた。
 瓦礫と血の散らばる通路でアスレードはチョコレートケーキを食べ出す。
「1年ぶりね。私の事を覚えてるかしら? アスレード!」
 静かになった通路にファルル・キーリア(ga4815)の声が響く。
「ファームライドを奪いに来た女か! クックックッ覚えてるぜぇぇ、忘れるかよぉっ!」
 チョコレートケーキを食べ終えて、ぺろりとアスレードは舌で自らの唇を舐めた。
「復讐するなら来なさい! 相手になるわ!」
 ファルルが挑発しながらイアリスを構えると、アスレードの体が揺れる。
 次の瞬間、アスレードの姿はファルルの背後にあった。
 手刀で彼女の背中を斬る――血が飛び散り、アスレードの顔を紅に塗れた。
「くっ‥‥舐められたものね。これくらいでやられるわけないでしょう」
 倒れながらも睨み付けてくるファルル。アスレードは彼女にビンタを一撃当てて転がした後、首を掴んで持ち上げた。
「いい目をしてやがる‥‥クックックッ、そうでなくっちゃなぁ? 楽しい相手だぜ、てめぇはよぉ」
 ぎりぎりとファルルの首が絞められていく。
「‥‥くっ。私は‥‥楽しくないわ」
 苦しみを耐えながらファルルはアスレードを一瞥すると、力が抜ける前にフォルトゥナ・マヨールーをアスレードの顔面に向けて放った。
 ドンと大きな衝撃が生まれフォースフィールドが発生し、ファルルとアスレードが正反対に吹き飛ぶ。
「このっ、アマァァァ!」
 アスレードがファルルを追い、トドメを刺そうと動いたとき間に風が割り込んだ。
「さて、ちょいと頑張ってみようか‥‥!」
 ギル・ファウスト(gb3269)が虚勢を張りながらアスレードをファルルの方へ向かわせまいと食い止める。
 その頃には、その場に数多の傭兵達が集まってきていた。彼らは皆小隊に所属してはいないが、強敵に対応すべくここに来たのである。
「雑魚がぞろぞろと!」
 アスレードが拳をギルにぶつけようとすると、ギルはロエティシアをアスレードの胸にたたきつけて踏みとどまる。
「そうでもないぜ‥‥人間はマンモスだって倒せたんだ。同じ体つきをしている宇宙人くらい‥‥どうとでもない」
 ガスガスとアスレードに殴り蹴られながらもギルは精一杯腕を減り込ませアスレードに掴みかかっていた。
 一秒でも負傷者を助ける時間と、強化人間と戦っている味方の勝利を待つために――。
「いってくれるじゃねぇか‥‥てめぇはいい精神を持っているぜぇぇっ! だが、俺が機嫌の悪いときにあったのがてめぇの運のつきだ。ここで犬死するんだな」
 アスレードの抜き手がついにギルの胴を貫いた。
 あまりの光景に、その場の傭兵の誰もが目を閉じる。
 それを予感していたかのようにギルは不敵に笑った。
「犬死? 違うな‥‥俺の勝ちだ!」
 震える手で閃光手榴弾を出すと爆破させる。
 アスレードがそれに面食らっていると、悲惨な光景で目を閉じていた傭兵達が一斉にアスレードで攻撃を仕掛けてくる。
「――味なことを‥‥クソ野郎っ!」
 ギルの死体を傭兵達に投げつけるとアスレードはふらつく足取りで動き始めた。
 そこへ――強化人間を倒したアレックスやロッテが達が、合流しようと走ってくる。
「ここで退いてやる‥‥。この胸の傷‥‥忘れねぇからな――人間!」
 壁に追い込まれたアスレードは弐番艦の壁を破壊すると、飛んできたヘルメットワームに乗って逃げ出した。
「こちらラウールです。被害状況の報告をします、弐番艦の壁よりアスレードが壁を破壊したのち逃走、負傷者多数、死亡者一名‥‥確認しました」
 艦内を回っていたルノ・ルイス・ラウール(ga7078)は艦橋に向けて届けたくない通信を行う。
『わかった。強化人間らは撤退しているようだが、キメラはまだ艦内にいる。すまないが手の空いているものはそちらの対処に回ってくれ』
 ――ブラット准将から、戦いの終わりを告げるような返答が帰ってきた。


<担当 : 橘真斗 >


【バークレー撃退】

 体長、凡そ1メートル後半から2メートル前半。
 不気味な様相の者も見られるが、おおよそは、人間の姿をしている。
 そう、おおよそは。
「アレがバグア、ですか」
 飯島 修司(ga7951)がやれやれと、溜息混じりに操縦桿を握り直す。
 バークレーなどはまだ人間に近い方だ。
 バグアの中には、爬虫類を思わせる者や、果てはキメラとしか思えぬような者も混じっている。
「動いた――来ます!」
 0's所属、シャレム・グラン(ga6298)がインカムへと叫ぶ。
 レドームを展開するウーフーが、遮蔽物の裏に身を屈め、レーザー砲を構えた。
 ラインホールド撃沈の後、シベリアにおける決戦は残敵に対する掃討戦、殲滅戦へと移りつつあった。
「管制機は前へ出過ぎないで下さい!」
 岩龍やウーフーを中心に情報管制を開始するサイレントヴェールやユグドラシル。
 護衛班長、佐倉・拓人(ga9970)がウーフーを部隊前衛に押し出し、敵の突撃を警戒して身構える。
 各種通信網は、今回、他の戦域において無線傍受や情報の漏洩が発生した。一部では利用そのものを警戒する意見もあったが、少なくとも、常識的に考えれば、生身の敵が相手であればその心配は少ない筈だ。
「常識的に考えれば、な‥‥」
 エルファブラ・A・A(gb3451)がぼやく。
 相手の存在が非常識極まりないのは良く解っている。
「各機散開。好きに動かせるな」
 狭霧 雷(ga6900)ら、ファフニールが三隊に別れ、弾幕を展開する。
「周囲の敵から仕留める。バラバラになって動くなよ」
 リディス(ga0022)の指示の元、展開する8246小隊。
 居並ぶKVが盾襖を組み上げて、その隙間から銃眼が覗く。
「早い‥‥見失うな」
 同時に展開する、【瞬雷】所属のゲック・W・カーン(ga0078)ら二機のスカイスクレイパーがアンチジャミングを開始した。
「生身でKVを倒すか‥‥化け物だな、ホント」
 佐間・優(ga2974)が、険しい表情で敵を見据える。
「例えダメージが無くとも牽制にはなる。弾が無くなるまで撃ち続けろ!」
『了解!』
 ガトリングガンやマシンガンといった各種連射銃が弾丸を吐き出す。激しい弾幕が敵集団を出迎え、反撃の隙を与えさせず、あくまで牽制として、敵の疲弊を狙って唸り声をあげた。盾襖の中には空薬莢が溢れかえり、銃身は焼きついて湯気を立ち昇らせる。
 コックピットの中にまで硝煙の臭いが染み込みそうだった。
 が、それでも尚、その弾幕の中を、数体のバグアが突破する。手にした大型の、銃らしき物から放たれたプロトンの粒子が、岸・雪色(ga0318)のレーザーシールドに弾かれる。
 同時に、バグア周辺で地がめくれ上がった。
「釣り上げろ、空で仕留めるぞ!」
 シャスール・ド・リスだ。敵集団目掛けて叩き込んだグレネードやロケット弾、数発。弾幕の只中で爆発に煽られ、一部のバグアは上空へと飛び上がる。
 翼を揺らめかせるバグアの群れうぃ、ベアリング弾が襲う。
「えぇい、次から次へと‥‥!」
 上昇したバグアは、その面単位で敵を狙うミサイルからの散弾を防ぎ、あるいはフォースフィールドで弾き返す。すれ違い様の一撃を辛うじて避けつつも、上杉 怜央(gb5468)は敵の動きを眼で追った。
「バグアにも必ず弱みがある筈‥‥」
「バークレーは昇ってこない、か」
 一方、小隊に編隊を維持させつつ、クラーク・エアハルト(ga4961)は地上へと眼を転じる。バークレーは上昇せず、未だ陸上に居る。
 とはいえ、今交戦中のバグアもまた、高い戦闘能力を誇っている事は事実だ。
 まずは眼前の敵を撃ち果たさねばならない。
『CDL! 全機、一斉射撃!』
 クラークの号令が飛ぶ。
 同時に編隊が散開し、周囲から一斉にミサイルを放つ。
 先程と同じ、ベアリング弾を満載したミサイルが炸裂しう。そに攻撃だけで撃墜には至らぬものの、動きは、鈍る。
「今だ! 各機、荷電粒――」
『待って下さい!』
 砲を掲げていた小隊各機が、上杉の言葉に手を止めた。
 危険を知らされて警戒する隊員達だが、上杉が言葉を尽くすよりも早く、敵が急激なカーブを描いて包囲網の中から離脱する。その動きは、彼等の予想していたものと違う。慣性制御による機動のそれと、酷似しているのだ。
「クッ、一度距離を!」
 Cerberus(ga8178)が、機を突っ込ませる。先頭にいた水理 和奏(ga1500)を狙った敵からの攻撃を自機を盾に庇い、エンジンが火を吹くと同時に脱出する。これが契機となって、シャスール・ド・リスは、潮のように素早く隊を退かせる。全員での生還が最優先だった。
「航空戦でダメだというのなら!」
 入れ替わりに、白鐘剣一郎(ga0184)ら、ペガサス分隊が敵を抑えに掛かる。
 対するバグアもまた、入り乱れるミサイルの合間を縫う。胸もあれば、長い髪が風に揺れている。外見はまさしく人間の女性のようにも思えるが、顔には四つもの眼が並んでいる。
「死になさいッ!」
 そのバグアが、手にした銃を掲げ――隙が生じた。
「人類を甘く見るのはもうやめなさい!」
 空を走った弾丸が、バグアのどてっ腹を撃ち抜いた。
「今ですっ!」
 ライフルによる狙撃を仕掛けたのは、赤村菜桜(ga5494)とそのS−01だった。
 ふら付くバグアを、彼等は見逃さない。その頭上を押さえ込むようにして弾幕を展開し、或いは命中打そのものを以って地上へと叩き返す。
「逃がさない‥‥!」
 墜落したバグアが起き上がるよりも早く、機動小隊『修羅の風』、柊 理(ga8731)の阿修羅が地を蹴る。力強い四足の猛獣がワイヤーを射出し、バグアを絡め取るが、しかし、起き上がったバグアの下半身に、まるで蜘蛛のような脚が伸びて大地に突き立てられた。
 最早、ここまで来ればキメラと大差無い。
「コイツ‥‥! 本当に何なんだ、バグアって!?」
 ピンと張ったワイヤーが軋む。
 阿修羅がますます出力を上げてバックすると同時に、ワイヤーを電流が流れた。突然の電流にびくりと身体を震わせ、引きずられるバグア。
「今だっ」
 レティ・クリムゾン(ga8679)がコックピットで喉を振るわせる。
「一体ずつ確実に撃破! この機を逃すな!」
 半包囲隊形を取るTitania隊。周辺の傭兵とも協力しつつ、孤立したバグアを一体ずつ集中攻撃する事で、バークレーとの合流を阻止する。連動して動いていた、フィン・アークライト(gb4265)が、視界の隅に映ったバークレーの動きをインカムへと告げた。
「バークレーが動きます!」
「そうは行くか!」
 最も素早く動いたのは、フェニックス隊所属の雪野 氷冥(ga0216)のアヌビスだ。腕を突き出して、腕部からせりあがったグレネードランチャーを敵へと放つ。
「この程度ではなあッ!」
 広がる爆炎の只中を、バークレーが突っ切った。
「くぅ、距離を取れっ」
 夕凪 沙良(ga3920)の指示も虚しく、バークレーは一挙にその距離を詰めてしまう。連携しての弾幕を掻い潜り、懐へと回りこまれる。雪野機が、辛うじてその動きに追随しつつ、ロンゴミニアドを掲げる。
「悪いけどただじゃ――」
「邪魔だッ!」
 だが、その機槍が飛ぶよりも遥かに素早く、バークレーの拳が飛んだ。
 アヌビスの膝関節が一撃で粉砕され、機は勢いそのままに地へと叩きつけられる。更には、助けに入ろうとした僚機までも、バークレーの攻撃に晒された。
「その程度でこの俺を殺そうと言うのか?」
 地を蹴って次なる獲物を狙うバークレーを、二重三重に、弾幕が襲う。
 プロジェクトSGや咎人といった各小隊がバークレーの疲弊を狙い、入れ替わり立ち代り弾丸を浴びせる。
「フハハハハ! そうだ! そう来なくてはな!」
 挑戦的とも思えるその攻撃の只中へと突っ込んでゆくバークレー。
「圧倒的な力の差というものを、貴様らに教えてやるわ!」
 少なくない被害を出しつつも結果的に、彼ら傭兵の重厚な攻撃が、バークレーとその側近達を引き離していった。


●バグア
「空に残ってる分は、私たちでやりますよ〜」
 ハルカ(ga0640)の指示の下、烏谷・小町(gb0765)、霞澄 セラフィエル(ga0495)の三機が最前列へと進む。彼女等ブルーレパードの展開とほぼ同時に、アクアリウム各機もまた、機を加速させてバグアへと接近した。
「あれが‥‥敵」
 アグレアーブル(ga0095)が呟く。
 アクアリウム各機は、攻撃を仕掛けると同時に、バグアの一挙一動をつぶさに観察していた。その戦闘能力はもちろんの事、感情の有無や、忠誠心といった、そうした眼に見え辛い面までを。
「‥‥貴様らっ!」
 ブルーレパードによる、ミサイルから速射弾まで硬軟織り交ぜた攻撃を前に、防戦一方だったバグアが、唐突に動いた。
 急激な機動で弾幕から脱したバグアが、己の右腕を掲げる。
 掲げられた腕はぐにゃりと変形し、まるで銃口のように伸びて、閃光に輝く。
「よーやく『化けの皮』が剥がれたってか!?」
 ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)が、その射線上に味方を見るや雷電を滑り込ませた。直後、走る光条。エンジン部が焼かれ、炎を吹き上げる。辛うじて踏みとどまりはしたが、これ以上持ちはすまい。
「トドメぇ!」
 もう一人のバグアが上空へと舞い上がり、満身創痍の雷電へと向かう。
 その右足を、マイクロミサイルの爆発がもぎ取った。
「なっ!?」
 視線を転じるや、視界一面を無数のミサイルが埋め尽くしていた。
「逃げる隙間なんて与えませんよ」
 鏑木 硯(ga0280)のディアブロによる、カプロイアミサイルによる集中砲火だった。250発に及ぶミサイルがただ一点を目指して無数の尾を引く。殺到するミサイルの嵐を前にして、バグアは声にならぬ悲鳴を上げながら、無数の爆発の中へと消えた。
「や、やられたのか!?」
 来る筈の追撃が無く、手を砲へと変えたバグアが、慌てて上空を見上げる。
 その胸部に穴が穿たれた。
「余所見してる暇があって?」
 L14・レライエ(ga9113)機がアグレッシブフォースと共に放ったスナイパーライフル。追撃とばかりに放たれたストレイキャットが、友軍による弾幕の中加速し、バグアを爆炎で煽る。
 爆発に煽られて吹き飛ばされたバグア目掛けて一直線に急降下する、シーク・パロット(ga6306)のアンジェリカ。
「これでおしまいですっ!」
 SESエンハンサによる強力なレーザーが、バグアの頭部を撃ち抜いた。


 アルケオプテリクスを率い、ルナフィリア・天剣(ga8313)が眼下の敵を睨む。
 空を飛びかうバグアは、友軍の攻撃によって次々と数を減らしているが、一方、その地形もあってか、敵味方共に損害が少なく、陸上には、まだ相当数のバグアが残されている。
「アルケオワンより各機へ」
 彼女等アルケオプテリクスの空戦隊は、陸戦隊による戦闘が始まるよりも一足先に、地上を走るバグアへと狙いを定めた。
「これより爆弾を投下する。私に続け!」
 ブーストによって加速の上、G放電装置が切り離される。
「ぐ!?」
 眩い閃光と共に、周囲全域が電撃で満たされる。彼女達のように編隊を組む小隊だけでなく、彼岸・桜(ga1873)のような傭兵達もまた、これを機と見て接近し、次々と投弾する。
 Gプラズマ弾による、半径50m四方を包む放電が続いた。
「ナマモノは焼却処分ですっ」
 神経系を寸断され、ぐらりとバグアが揺れる。その隙を逃さず、赤熱鉄やElevadoといった各小隊が殺到し、包囲網より離脱せんと、バグアはあがく。
「ッハ、じゃあさようならなんて逃がせるかよ」
 フェオ・テルミット(gb3255)が、その行く手をガトリングガンの弾幕で阻み、
「小さいが‥‥だからこそドリルで攻撃する意味がある!」
 動きを封ぜられた敵へと接近するR・A・ピックマン(ga4926)。機から展開されたツイストドリルが、逃げ回るバグアを狙うが、逆に、木々の合間から飛び出したバグアに頭部を吹き飛ばされる。
 手にしているのはSESが搭載されていると思しき銃。
 おそらくは、能力者をヨリシロとしたバグアだ。
 続く二撃、三撃に次々と間接を撃ち砕かれ、イビルアイズが地に倒れる。その機を踏み越え、木々を縫って次々と姿を現すバグアの群れ。そのうちの一体が、練剣による一撃で蒸発した。
 風(ga4739)だ。戦線の穴を埋めるように突出し、インカムへと叫ぶ。
「戦線を包囲網にするよ。みんな、力を貸して!」
「‥‥手伝ってやる」
 スヴェトラーナ・王(ga4482)が機を走らせ、H12ミサイルポッドからミサイルをばら撒いた。次々と放たれるミサイルが、木々もろとも、バグアを襲う。編隊を崩されかかり、慌てて、弾幕による壁を迂回せんと試みるバグア。
 だが、迂回を試みる先頭集団が、新たな弾幕に包まれて次々と討ち取られる。夜十字・信人(ga8235)達、アクティブ・ガンナーによる待ち伏せだった。しかし敵もまた、立ちはだかる小隊目掛け、火力を集中させてくる。
「貴様等! あまり甘く見――」
「――燃え尽きろ」
 あくまで抗戦姿勢を見せるバグアが地を蹴るが、その眼前にあったのは、KVの拳と、小型の燃料タンクだった。ロデリック・カルバー(gb4205)とその翔幻が大地を踏みしめ、躊躇い無く敵を殴りつける。
 燃料が飛び散り、腕を放した直後、友軍の流れ弾が引火してバグアは火達磨と化す。
 フォースフィールドがある為に大ダメージは期待できぬが、身体全体を燃料まみれにされたバグアは、その炎を振り払う事もできずふらふらと踊る。
「詰めはキッチリ最後まで!」
 森の中へと溶け込む各種迷彩によって隠れ潜むアクティブ・ガンナーから、山崎・恵太郎(gb1902)のロジーナが躍り出る。一直線に走る「黒竜」が、バグアを貫き、真っ二つに切り裂いた。


●最後の獣
「これ以上は‥‥もたない‥‥」
 息を飲む、サーシャ・ヴァレンシア(ga6139)。
 友軍と連携しつつの波状攻撃を仕掛けていたプロジェクトSG小隊だが、バークレーとの接触が早かった事もあり、波状攻撃の際に受ける反撃で、戦力は確実に低下しつつあった。
 盾を掲げた紫藤 武(ga9977)のテンタクルスが、虚を突かれ、拳に肩をもぎ取られる。
「くうっ、一撃が重い!」
「遅いわあ!」
 回し蹴りを胴体に喰らい、弾き飛ばされるテンタクルス。止むを得ず、彼は機を捨てるしかなかった。
「フハハハハハ!」
 大声で、腹の底から笑い声を上げるバークレー。
「うわあ、資料どころじゃないかも‥‥?」
 偵察用カメラを搭載したスカイスクレイパーが、慌ててバックする。ピコ・ブラウニー(gb3814)は、バークレーの動きを眼で追いながらもその戦闘力に息を飲んだ。
 距離をとろうとする傭兵の動きを見咎め、バークレーは地を蹴って飛ぶ。閉所であればともかく、ここまで開けた地形では、素早さに任せて動きたい放題。無論、素早いだけでもない。
「突破する気か‥‥気負う必要は無い、少しでも時間を稼ごう」
 時任 絃也(ga0983)が、周囲の無所属機と共に銃を掲げ、突っ込んでくるバークレーを押し留めようとする。
「ちょこまかするんじゃねえよ! ゴキブリかテメェは!」
 ガトリング砲を振るう、風怪(ga4718)がバイパー。
 その安定した巨体から放たれる弾跡は、確実にバークレーを捉えていた――が。バークレーはしかし、自身に迫る弾丸をものともせずに弾き、バイパーへと迫る。
「冗談キツイぜ!」
 すれ違い様に、脇腹を破壊されるバイパー。
「気をつけろ、突破された!」
 時任の言葉に後退を試みる後衛のKV群だが、その防御力と素早さにの前には迎撃の意味も薄く、徐々に距離を詰められてしまう。かさにかかって責めかかるバークレー。しかし、バークレーごと、周囲の大地が電撃に焼き尽くされていった。
 【西研】によるGSAだ。
 先の第一次接触時と同じ攻撃で迫り、同時に、陸上に展開する8246小隊各機が弾幕を展開し、西兼の一部は、その僅かな時間を狙って陸上へと降下する。
「こちら一葉。敵の――っ!?」
 地に着くよりも早く、音影 一葉(ga9077)のディスタンが激しい振動に襲われる。
 機体全身が軋み、悲鳴をあげる。胸部に突き立てられたバークレーの腕が、内部の配線やら何やらを引き千切る。
「えらく無防備だな? 死にに来たかッ!」
「命を賭けずにできるなら‥‥」
 頬を伝う冷や汗。
「最初からやってるんですよ‥‥全く」
 危険を肌で察知して、彼女はディスタンを加速させると同時に、シート共々、コックピットから離脱した。煽られ、地面へと突っ込むディスタンとバークレー。エンジンが爆炎を吹き上げ、機体各部が炎に包まれる。
 燃え盛る炎の中から、ゆらりとバークレーが立ち上がった。
「今ので何機目だったか。フン、貴様等では脆過ぎるわ!」
 身を包んでいた翼が大きく広がり、群がる炎を払う。
『殆ど無傷じゃねえか‥‥』
『化け物めッ!』
 通信回線を飛び交う、傭兵達の愚痴。
 シェイドやステアーに比べればマシとはいえ、相手は生身。別の意味で反則にさえ感じてしまう。
「どうした、掛かってこんのなら俺から――」
『聞こえるかっ、ジョージ・バークレー』
 にたりと笑みを浮かべていたバークレーが、外部スピーカーからの声に、眉を持ち上げた。
『カラのガリーニン、喜んで頂けましたか?』
「ナニィ?」
『子どもの策に嵌るなんて、こうなって当然ですね』
 声の主はイビルアイズ。明星 那由他(ga4081)だった。見下したようなその物言い。彼の言葉通り、そして何より声からも、それが子供であるという事は明らかで。
「‥‥おのれえぇぇぇい!」
 獣のような野太い声で、バークレーが吼えた。
(来る!)
 息を飲んで、明星は全速力で後退する。普段の彼に似合わぬあの物言いも、全ては演技だった。
 何もかもを無視して、バークレーが直進する。ある意味で、二度、バークレーは策に嵌った。ただ問題は、明星もまた、バークレーの戦闘能力を正確には見切っていなかった事だろう。
 腕を大振りに振るうや、走る衝撃波がイビルアイズの表面装甲を弾く。
 バラバラと装甲版を脱落させながら、その衝撃に弾かれて、イビルアイズが背中から倒れた。間を置かずに飛び掛るバークレー。
「これほどだなんて‥‥!」
 辺りに、銃声が轟いた。
 あるいは、銃声と呼べば誤りになる。その銃声は一つではなく、まるで家屋の屋根を打つ嵐の音のように、耳を覆わんばかりに鳴り響く。
「な、何だッ!?」
 飛び上がったバークレーを狙う一斉射撃。
「非常識にも程があるけどな‥‥」
 コックピットで、操縦桿を握り締める鷹代 朋(ga1602)。
「その非常識を、常識で打ち崩してやるっての!」
 傭兵達は互いに示し合わせ、あるいはその場その場で声を掛け、一斉にバークレーを狙った。その数、火線の量は圧倒的だった。最早、攻撃を展開している傭兵本人達でさえ、この一斉射撃に参加している総員を把握していなかったろう。
「役目を果たしますか」
 大部隊だけではなく、トライデントや花咲兄弟、ラーズグリースといた小規模な部隊もまた、これらの攻撃に加わっている。飽和攻撃という言葉がこれほど似合う場面も無い。
「ぬ‥‥ぐぅ!?」
 最初はただじっと耐えていたバークレーは、しかし、その余りの激しさに耐えかねて、遂に離脱を試みた。射線の中心地から身を翻し、翼を羽ばたかせるバークレー。無論、これらの一斉射が、それで途切れる訳も無い。
 戦闘に、流れが生じた。
 待ち構えていた白兵戦仕様のKVが、その隙を逃すまいと喰らい付く。煙幕の只中から平坂 桃香(ga1831)のハンマーボールが飛んだかと思えば、神崎・神無(ga1871)がR−01にロンゴミニアトを抱えて突っ込む。
「悪あがきも、ここま――」
「どけえッ!」
 ロンゴミニアトの穂先を踏み台に飛ぶ、バークレーの膝蹴りがR−01の装甲をひしゃげさせた。
『手を休めず、攻撃を‥‥』
 終夜・無月(ga3084)が静かに指示を発する。
 月狼だけでなく、白銀の魔弾や咎人といった各小隊は、バークレーの行く手を弾丸とKVの両輪で阻む。
「R−01最後の晴れ舞台、決めさせてもらう!」
 沢辺 朋宏(ga4488)が姉妹と共に、攻撃を仕掛ける。あるいは小隊【HB】もまた、バークレーがUKを狙わぬと見て、改めて十字砲火を浴びせ掛ける。
「ええい! この程度で、俺を殺せるとでも思ったか!?」
「――地面に叩き落します」
 一人激高するバークレーを他所に、月神陽子(ga5549)はただ黙々と、愛機と共に突貫した。やや高くジャンプしたバイパーが、その手にした盾を振り回し、鈍い金属音と共に相手を打ち据える。
 地上へと墜落したそのチャンスを逃すまいと、白銀の魔弾隊が迫る。
 月神はそのまま、逆手に構えたロンゴミニアトでもってバークレーを貫かんと、ブーストと共に急降下する。
「これで――!」
 月神が、槍の穂先に見据えたバークレー。
 その腕に陽炎が揺らめいた。
「舐めるなあぁぁぁっ!」
「くっ!?」
 加速と共にバークレーを捉えた筈の槍が、素手で粉砕される。バークレーが地を蹴て掌を突き出すにつれ、槍はまるで飴細工のように一直線に引き裂かれ、灼熱に輝く腕は槍諸共マニピュレーターを粉砕し、機体胸部へと突き刺さる。
「貴様等猿共など!」
 腕を一振りする旅に、バイパーの四肢が寸断されて行く。
「漸進派だろうが急進派だろうが!」
 手刀から発せられた手刀が、バイパーの胴をかち割った。
「所詮は我等の家畜に過ぎんという事が!」
 ガクリと動きを止める、月神機。
 異様なバークレーの動きに、サルファ(ga9419)は素早く決断を下す。
「‥‥全機離脱!」
 一斉に離脱を図る白銀の魔弾だが、その動きを見逃さず、バークレーは次なる標的を彼らと見据える。
「何故解らぬかあぁぁぁッ!」
「俺達も、過去に寄生された者達も、皆‥‥お前らの為に生きてるんじゃない!」
 ブレイズ・カーディナル(ga1851)が叫ぶ。
 友軍の砲火に合わせて振るったスレッジハンマーは地を穿ち、鎖を断ち切って迫るバークレーに、機が弾き飛ばされる。圧倒的な力を誇るバグア。しかしそれでも、今ならば、彼らの攻撃によって、その機動力はやや拘束されつつあった。
「させない‥‥っ!」
 朧 幸乃(ga3078)は盾を押し出し、最高速度で突貫した。
 ワイバーンに取り付けられた盾ごとバークレーへ体当たりを仕掛けるが、全推力を賭しての体当たりでさえ、その拳に粉砕される。盾と共に脚部を、その肩間接部分から破壊されて、ワイバーンがタイガの只中に横転する。
 バークレーの掌がコックピットハッチへと掴みかかるや否や、まるで紙を引き裂くようにして、ハッチがこじ開けられる。
「ククク、気分はどうだ?」
 硝煙交じりの、シベリアの冷たい風が吹き込む。
「俺は最高だ。格下のゴミをいたぶるのは最高の気分だよ。フハハハハ!」
 ゲラゲラと野卑な笑い声を上げるバークレー。折れた腕を抱えて、朧はじっと、相手の眼を見据えた。
「何だ。その表情は」
 バークレーの額に青筋が浮かぶ。
「‥‥」
「少しは、恐怖に歪ませろ!」
 横薙ぎに振るわれた拳。ヘルメットを一撃で粉砕され、頭蓋骨にヒビを入れられた。装甲板を破壊するような拳だ。能力者でなければ一発でミンチになっている。
「泣け! 喚け!」
 それでも彼女は、激痛に苦悶の表情を浮かべつつもなお、黙ってバークレーを見据える。
「どうした!? 命乞いをしろ!」
 首を鷲掴みにされ、朧の小柄な身体は軽々と持ち上げられてしまう。
「けほっ‥‥」
「今更助けてはやらんがなあ!」
 首が、締め上げられる。
「お互い、猿ですら‥‥」
「ぬ?」
「猿ですらない、化け物‥‥能力者も、ヨリシロも‥‥同、じ‥‥」
 彼女の言葉に、そしてそれ以上にその表情に、顔を歪めるバークレー。
(‥‥何だと言うのだ、この眼は?)
 恐怖を見せぬその『猿』に、その時、バークレーは確かにたじろんだ。血走った眼が、わなわなと震える。
「貴方に‥‥人としての、死‥‥を‥‥」
「き‥‥貴様ァ、我々を同列に扱うか!?」
 ミシリと、首の骨が軋んだ。
「このままくびり殺してくれるわ! 猿共が調子に乗っ――」
『調子に乗ってるのはそっちでしょうがっ』
「ぬうッ!?」
 迫る機体を前に、バークレーは彼女の身体を放り捨てる。奉丈・遮那(ga0352)が、ワイバーンを突っ込ませた。両手を掲げて身構えるバークレー共々、彼のワイバーンはフルブーストで加速する。
「無茶し過ぎだ!」
 ウーフー、霧島 亜夜(ga3511)の機が月神の援護に入り、同時に、瓜生 巴(ga5119)の雷電が撃墜された両機に駆け寄る。
「今投げ飛ばされた人は!?」
 ヤタガラス隊の、ストローヘッド(gb4968)がKVを固定させ、救急セットを手に飛び降りた。次々と撃墜されていく一方で、傭兵達はまた、その被害を最小限に抑えようと奮戦している。
「早くして下さいっ。そう時間は稼げません」
「ぬおおおおっ!」
 奉丈の言葉が、バークレーの叫びに掻き消される。
 両手を組み合わせてのハンマーがワイバーンの首元を打っていた。生じた反動で抜け出すバークレーだが、その身体を、続けて衝撃が襲う。ナイチンゲールが一機、組み付きかねぬ勢いで雪村を振り下ろしていた。
 稲葉 徹二(ga0163)が、コックピットで嘯く。
「二度はやんねェぞ、こんな博打ッ‥‥!」
「貴様等は――」
 返す刃が振り上げられるも、そのマニピュレーターはバークレーのカカト落としによって破壊される。
「――何故、力を恐れんのだ!?」
 閃光が、辺り一帯の視界を覆う。
 それと同時だった。
「この筋肉馬鹿! 頭まで筋肉なてめぇが指揮官だから負けるんだよ!!」
 セシル シルメリア(gb4275)は、意図的な挑発の言葉を並べつつも、イビルアイズのマニピュレーターを伸ばし、バークレーに掴みかかる。あと一歩で届かぬマニピュレーター。だが、次々と喰らい付こうとする傭兵達の攻撃は、相手に、確かな隙を強いていた。
「その腕頂いたぁ!」
 ヨネモトタケシ(gb0843)のアヌビスが、二刀流で襲い掛かり、カウンターに沈み、続けて、月狼からの荷粒子砲の奔流が、無防備となったバークレーの表皮を焼いら。
「さ、猿共が‥‥我々が本気を出せば、貴様等人類なぞ、一人残らず皆殺しにする事だってできるのだぞ!?」
 砲撃の熱冷めやらぬ間に、第二、第三の傭兵が、バークレー目掛けて牙を剥いていた。
「その我々に、何故牙を剥く! 貴様等は!?」
 『攻』による弾幕の開始より数分。
「俺達の死に場所はここじゃねぇ」
 仲間の盾を踏み台に、宗太郎=シルエイト(ga4261)のスカイスクレイパーが飛び掛る。
 傭兵達はもう、嫌だった。
 彼等は今、相手が何年生きてきたかは知らないが、人類を見下すその異星人を相手に、謂われ無き生存競争を強いられている。何もかも無茶苦茶にしてしまったバグアに。それも、こんな傲慢な男の道連れにされるのだけはゴメンだった。
「逝きたきゃてめェ一人で勝手に逝きやがれ!」
「黙れェ!」
 咆哮、そして反撃。バークレーの拳に、スカイスクレイパーは破壊されて地に打ち付けられた。だが同時に、バークレーの腕は装甲に引っ掛かり、肘から先がもげ落ちる。
 唖然とした表情で、バークレーが震える。
「何故力を恐れんのだ!? 最後の一人まで戦う気なのか!? 我々バグアに、貴様等如きが勝てる訳‥‥!!」
 今や、彼の叫び声は、一種命乞いのようでさえあった。
 傭兵達の度重なる攻撃、動きを拘束しようとする数々の策に、上がる息。
「馬鹿だ! きっ、貴様等は大馬鹿共だ!」
 血走った瞳に浮かぶのは、もはや怒りではなく、焦燥と恐怖の色だけ。そして沸き起こったその焦りは、一瞬に戦いの機敏を賭さねばならぬ今とあっては、これ以上ない隙となっていた。
 瞬時、光の刃が、バークレーの背から下を焼いた。
「この烈光で終止符を!」
 ティーダ(ga7172)のアンジェリカが、SESエンハンサーを起動させ、あらん限りの出力で雪村を振るう。下半身の蒸発し、バークレーの身体がくるくると宙を舞う。
 ボロボロになったディアブロが、上空から現れる。アテナイによる凄まじい弾幕が、フラフラと揺らぐバークレーの逃げ道を防いでいた。
 対する、ディアブロのコックピット。南部 祐希(ga4390)は黙ったまま、ディアブロの操縦に意識を集める。
「この一撃は‥‥!」
 一瞬の交錯。
 グングニルの穂先が、バークレーの胸へ突き立てられた。アグレッシブフォースにより、グングニルに搭載されたSESが、限界まで出力を高める。同時に、フルブースト。最大出力で回転するエンジンがノズルを開放し、シベリアの凍付いた大地目掛け加速する。
 バグアのその表情は、恐怖に歪んでいた。
「ぐぬおおおあああああ!」
 悲鳴とも怒号ともつかぬバークレーの叫びが響く。
 だが最早、その叫びに、その内容に耳を傾けたところでどんな意義がある。
 もう、どうでも良い事だ。
 地響き。土煙。土くれへ深々と突き立てられるグングニル。土塊に巻き込まれ、槍と土の摩擦に引き裂かれてバラバラになるソレ。衝突の衝撃に膝を折り、ディアブロが大地に叩き付けられる。
 バークレーは消えた。
 グングニルで、粉々になるまで磨り潰した。
「‥‥」
 衝撃に揺れていたコックピットが、しんと静まり返る。
 冷や汗が一筋、喉を伝う。黙りこくったままの南部。今何を考えているのかは解らない。彼女はただ黙って、槍先へと視線を転じた。そこには、何かが焦げ付いているだけだ。
 覚醒故のポーカーフェイスを崩さぬまま、彼女は小さく溜息を吐いた。
 彼等は、勝ったのだ。


<担当 : 御 神 楽 >

<監修 : 音 無 奏 >

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