|
 |
<報告書は前編:後編から成る>
広域後方支援 ヤクーツク防衛 歩兵戦闘 ラインホールド攻撃
【広域後方支援】
ミールヌイ鉱山。
ウダーチヌイから一歩下がった所と言った説明がわかいやすいだろうか。兄弟分と言った趣のある露天掘りの鉱山だ。
かつては、ウダーチヌイと同じ様に、周囲に鉱夫達の町があり、その周囲にはいくつもの搬出用道路が延びていた町。だが今、その面影は皆無と言っていいだろう。かつて鉱石を運んでいた道路は寸断され、アスファルトの瓦礫が転がるのみとなっている。そこかしこに残る戦闘の跡は回収されることもなく、ただ残骸として当時の状況を伝えるのみとなっていた。
それでも、他よりはマシだ。飛行場はカンパネラの一部生徒により奪還され、付属するように立てられた資材置き場もまた、無事に確保されている。
補給も逃げ場もない中で大きな被害を出しながら戦うことに比べれば、一応の整備や万一の時に治療が受けられる今の状況は望ましい方向にある。
すでに交戦も起こっていたが、後方に位置するこの場所は、さながら前線基地と言った様相を見せていた。
「やはり、来たか‥‥」
だが、戦局の安定に胸をなでおろしていたのも束の間、所属しているアングラー小隊から離れて護衛任務についていたザン・エフティング(ga5141)がそう呟く。
情報を受信しつつ周りの敵の動きに注意していたところ、ミールヌイの鉱山から現れるキメラの群を感知したそうだ。
「ここは守るさ、俺にできる事をやるだけだ」
それを、通信網『L』によって知った彼は、出来たばかりの恋人を気にかけつつ、同じ様に、情報網へ耳を傾けていた何人かと共に鉱山へと向かう。
既に鉱山からは、遠目に見れば黒い巨人か何かと思えるほどの様相を持ち、徐々にその個々の姿を形作っていく。
「殺虫剤でも撒きたい気分だな‥‥ヤクーツクを護る為、新たな力を呼び覚ます。こい『漆黒』…大武装変だ!」
学園特風カンパリオン、夏目 リョウ(gb2267)、アヌビスに搭乗し、ディフェンダー2本をクロスさせる。
「行くぞ漆黒…恐怖を覆い、全ての人を夜の安らぎで包め!」
たたっと地面を蹴る漆黒。クロスされたディフェンダーが降りぬかれ、10秒が経過しない内に肉塊が1つ、大地に落ちる。
それを皮切りに、基地を狙おうとするキメラ達との激闘が始まっていた。
「目障りなんだよ、てめーらはチョロチョロと!」
相棒の鯨井レム(gb2666)と共に、そのキメラを狩りに来たシルバーラッシュ(gb1998)が、目の前をちょろついている小型キメラを追いかけている。
地味な仕事に見えるが、ここを確実に掃討しておかなければ、時間経過と共に被害は増すばかりとなる。
「大が小を兼ねるかと言えば、KV戦闘ではそうとばかりも限らない‥‥」
同じ様に、小型キメラを相手にするレム。KVからは見え難い彼らだが、基地へ入り込めば、それこそ一大事になりそうだ。大物に注意が向きがちな状況だからこそ、細やかなケアが必要だと言うのが、彼の弁。
「釣りはいらねぇ! 全部くれてやる!」
ディエゴ・ベルティーニ(gb4816)が、壊れた建物の影から、弾丸の雨を降らせている。直後、壁の後ろ側へと引っ込み、リロード。それを繰り返している間に、ジロー(ga3426)がキメラを、ビームコーティングアックスで叩き切っていた。
『全機に通達。戦局は我が方に有利。このまま戦線を維持せよ」
「了解。さて、槍は不得手だが‥‥たち程度ならあしらえるよ」
神咲 刹那(gb5472)が駆るハヤブサの機体は、キメラの一撃を腕で払うと、槍を棒高跳びの要領で地面に突き刺し、自らの機体を名前そのままに高く空に舞わせる。
唐突に期待が視界から消えたキメラが状況を理解し、振り向いた時にはもう遅い。
「‥‥ゲームオーバーだ」
ガドリングがキメラの頭を打ち抜き、とどめとばかりに差し出されたつま先は、肉塊を大地に打ち付けた、
キメラも大軍隊なれば、初期こそ乱戦になったものの、所詮はバグアが放った烏合の集。
被害を受けつつも徐々に戦線を築き、押し上げていく能力者たち。
「地殻変動装置に反応あり。バグア地下兵器ワーム、『アースクェイク』が来ます。気をつけて!」
ルカ・ブルーリバー(gb4180)が情報網を使って警告を鳴らし、容易なミッション達成という希望を打ち砕かれた能力者たちは、まだ想定の範囲内だと歯軋りをしながらもKVを前線へと向ける。
KVの車輪がロシアの凍土を砕く音が鳴り響く中、資材置き場の中心に巨大な穴が開く。出てきたのは、土竜をでかくしたような姿のアースクェイクが3匹。
その攻撃はまっすぐキャンプへと向かっていた。程なくしてアースクェイクの咆哮と、KVから放たれるミサイルとが交錯する。
「おかしいと思いませんか? 所長」
異変に気付いたのは、西研の面々だ。
「情報が漏れていると耳にしたのだが、な。どうにも攻め方が幼稚だねぇ」
キメラの動きを分析していた ハワード・ラヴクラフト(ga4512)にそう答えるドクター・ウェスト(ga0241)。覚醒状態のままで参加している彼の目は、明け方にもわかりやすく光っている。
「大体広げすぎなんですよ。他の作戦では要らない情報も流してる。駄々漏れしても仕方ないですね、これじゃ」
通信網の探査を行っていたジョー・マロウ(ga8570)がそうぼやく。確認できるだけでも、傭兵達の敷いた情報網が数チャンネル。それに、後方支援型の部隊が、次々と情報を持ってくる。混線しないはずがない。
「バグアの技術なら暗号解析などお手の物でしょうし‥‥とはいえ、情報技術では差がありすぎます。人類側の情報が漏れることなんて気にしていたらバグアと戦ってられませんが」
「うう、この身が無事であれば、対応策も練れるのだがねー。とりあえず、新しいアレを試してみてくれたまえー」
それを、バグアが探知していないとも思えないハワード、混戦している中にバグアの気配がないかと細かく周波数を調整し、雑踏の塊へその身を投じる。
『あーあ。プリマに付き合ってたら、こんなトコまで来ちゃったよー』
聞こえて来たのは、ノイズ交じりの子供の声。
『子供はお黙り☆』
もう1人は、女性だった。若いと言えば、若い‥‥30代くらいの。
『僕の方が先輩なんだぞー』
『関係ないでしょー。まったく、うるさいっつーの☆』
データベースに照らし合わせると、どうやらゾディアックの2人‥‥プリマヴェーラ・ネヴェと甲斐蓮斗らしい。しかし、周囲を見回しても、その姿は見えなかった。
「会話だけでは、何とも言えないが‥‥腑に落ちないところもある。警戒を強めるように報告をしようではないか」
「了解。怪我人は下がってくださいね!」
伝令を聴いた『たそがれ』の軍勢の1人、エリク=ユスト=エンク(ga1072)が、燃料補給をのついでに基地へとKVを向ける。途中進入してきたワームの一匹をなぎ払い、基地へと到着する。
「反撃開始、それなら私は全力でフォローするわ!」
内部では桐生院・桜花(gb0837)が、アジュール・ロサ小隊への助勢に入っていた。救護作業に入ろうとする桜花の後ろから、キメラが群がろうとする。それを、打ち抜く1発の弾丸。
「近づくなって言ってるだろ」
六方善処(gb5599)が放った狙撃眼のようだ。市街地とは少し違うが、隠れる場所はEGG小隊の面々がたくさん作ってくれていた。
「みな、多くを救おう! 生きてこの土地を守るんだ!」
そこに、東雲・智弥(gb2833)がリッジウェイで乗り付けてくる。同じカンパネラ自由隊のベロニカ・ジーン(gb4328)が、竜脈を通じて、戦意高揚のための歌声を流している。
「なにかお手伝いできること‥‥あっ!そうだ♪」
その歌を聞いたニモ・ニーノ(gb4833)、何を思ったか、流しているベロニカに近づいて、こう提案してきた。
「あのねっ。折角作った通信施設も、通信量の増大をキャッチされて設置場所がバレて攻撃されたら嫌だよね?」
あちこちに設置した『通信網』。それに彼女は、暗号っぽいでたらめな伝言を流すよう頼んでくる。
「そうだね。じゃあこっち使って」
せっかくだから採用。あちこちに作られた通信用施設に、そのでたらめ暗号が回る。
「こちらAlter−Leader。各機、応答せよ」
その偽情報に惑わされないよう、オルタネイティヴ小隊のヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)が、戦場に散らばる各機に、指示を送っている。
「各小隊、各機とデータリンクだ。傍受対策としてミールヌイ基地を中心に東西南北をABCD、100m毎に1として情報を纏めて」
さながら碁盤の目のように、彼の小隊が並ぶ。彼らの集めた敵の情報は、情報網を通じ、リンクする。
「了解。こちらのデータも送ります」
「A12、D6に敵発見の報有り。ガーデン・サルビア隊、S・G隊、応戦願う」
404隊から離れて行動していたV・V(ga4450)がそう言って、哨戒機を飛び立たせる。
眼下には、まるでコロニーのように、そこかしこにキャンプが出来上がり、周囲では護衛が散発的な戦闘行動をしている。
「哨戒機より報告! ‥‥識別、バグア新鋭機、ファームライドであると思われます!」
『狙われないとでも思った?』
声が聞こえた。通信網から。
能力たちがざわめく間もなく、補給を行っていたヴァルキュリア小隊に火の手があがる。姿をくらましていたFRはその姿をあらわすと、巣穴に忍び込む土竜かミミズのように、キャンプへと進入してくる。
「やはり補給線を狙ったか‥‥だろうな」
「この傷が癒えるまでは戦闘は禁物なんだけどね」
食堂を守ろうとする周太郎(gb5584)が支援を要請している間、やはり怪我を負った状態のファルル・キーリア(ga4815)が、煙幕を張っている。少し煙いが、我慢するしかない。
「資材置き場まで下がって! 何とか飛行場として使えるようにしたから!」
ハーベスター小隊の、ハルイチバン(gb3025)が、隣の資材置き場に、何とか離着陸できる場所を作ったとコールしてくる。滑走路までは行かないが、人型であれば、何とか着陸出来る状態だ。
「あ‥‥晩御飯‥食べてないや‥‥」
移動する間、すきっ腹を抱えながらも、クーナー(gb5669)が敵の目を引きつけていた。同じ炊き出し部隊の面々と陣を構築しつつ、後退する。
「EQは外まで引っ張りますよぉー」
障害となるEQは、同じ小隊の佐竹 優理(ga4607)が、適切な位置を心がけるながら、EQとの間に割り込んでいた。いかに人数の多い小隊とは言え、相手が悪い。口ずさんでいる余裕はなさそうだ。その予想通り、動けなくなってしまう。
「動けなくなった機体を発見ですか? すぐに向かいます!」
一方で、フルーツバスケットβの風間由姫(ga4628)が、救出任務にあたっている。機体のハッチを強制的に開き、中の能力者を無理やり引きずりだす。だが、そうしている間にも、足元には絶え間ない揺れが感じられていた。
「姫、気をつけてください! サンドワームが来てるようです!」
側に張り付いた神塚獅狼(ga6742)がそう叫ぶ。が、目の前の怪我人をほうってはおけない。覚悟を決めた刹那、攻撃がほんの少しそれる。どうやら、咲坂 八葉(gb4740)のアンチジャミングが、功を奏したようだ。
「ったく。なんて無茶な作戦だよ。でも、やるしかないってな」
その間に、長谷川京一(gb5804)が負傷者の回収に回る。資材置き場と飛行場に設置された、臨時のキャンプ。そこに運び込まれた彼らは、傭兵達による手厚い看護を受けていた。
「よく頑張りましたね。後はゆっくり休んでください」
アリッサ・コール(ga8506)がにっこりと笑顔で出迎えた。もっとも、手当てをしている方は、それどころじゃないのだが。
「すみません、こっちに包帯ー!」
「お腹がすいているひとは、こちらへー。ボルシチ配給しますー」
KOKUI(ga7499)が医療品をがらがらと運び、エル27(gb3750)が鍋いっぱいのボルシチから、美味しそうな湯気を立ち上らせる。
「スブロフもありますけど、お酒は控えめにー」
重症者から治療していた古都 洋恵(ga7634)が、スブロフを持ってきた。あまり怪我人にアルコールはよろしくないが、寒いときには暖かいものが一番だと言うのは、一致した見解だ。
「…幸運を祈る!」
こうして、回復した傭兵達は、鬼子母神 幸人(ga9012)らに見送られ、再び戦場へと旅立っていく。ラジオにのっとった方式で、FM−Revから流れてきたのは、早坂恵(ga4882)の戦意高揚鼓舞。
「皆の闘志はまだ消えていないか!ここで我々が倒れれば全てが終わる・・戦えるものは剣を取れ!弱きもののために立ち上がれ!」
共に流されるのは、Innocence(ga8305)が持ち込んだ曲だった。サウンドブラスター間で使ってるそれが1曲終わったあと、別の曲に切り替わる。
「にゃんにゃもにゅーん、本日もるゅににんのお時間ですよー」
情報網には記された名前は、るゅににんの息抜きラジオ。放映担当のルュニス(ga4722)が絶賛放映中だ。
「この番組は、メガコーポレーション各社と。皆様の明日と安全を守るUPC。傭兵の皆様に質のよい品物をお届けするULTの提供でお送りします」
CMの間に、藍晶・紫蘭(ga4631)からルュニスに原稿が渡される。それには、赤枠で囲まれた嘘原稿「新型機部隊がロケットブースター装着で音速突撃作戦」と記してあった。
「ふにぇま、新型機フェニックス部隊が音速でLHの背中にびゅっびゅーんですって、るゅににんも見たかったのす。じゃあここで1曲」
気が抜ける独特の言語をもって、るゅににんは嘘原稿を大音響で流している。雪かきをしながら、瓜生 巴(ga5119)は「良い曲がかかると、作業がはかどるもんだなー」と呟く。
『あーあ。ここは音楽祭じゃないのにねー』
『ラテンミュージックの方が良いに決まってるわよ。サンバのリズムでカーニバルってね!』
相変わらず、姿は見えない。だあ、確実に『そのあたりにいる』状態のゾディアック。こちらの攻撃が当たっているのかは、今ひとつわからなかったが、口調からすると、ダメージが通じていないわけではなさそうだ。
「マズイな。居場所がバレたようだ。時間を稼ぐ‥‥逃げろ!」
ならば、手はある。ヴィリー・トレーダー(gb3854)が、ラジオ局を狙ってくるゴーレム部隊に、立ちふさがる。動物型ばかりではなく、人型も投入してきたようだ。
「こちらS1から各機へ! ラウンドナイツにばっかりにイイ格好させるな!」
だが、こちらとて、まだいくつかの部隊が残っていた。そのひとつ、SMG小隊の火絵 楓(gb0095)がマントを広げながらそう指示している。言われたとおり、展開する小隊の面々。
「援護する。さ、あいつの腹の中かき回してきてよ。道は作るから」
そんなSMG各機より先立って、ロックキャンセラーを起動させた二桜塚・如月(ga5663)が、目の前の障害をビームコーティングアクスで攻撃する。
「は〜い、そのまま進んでくださーい!」
黄色いマフラーをたなびかせながら、イエローマフラー隊がさながら動物を追い立てる遊牧民のように、敵を狩っている。香原 唯(ga0401)の誘導中、ガンアンツのまひる(ga9244)は、こう呟いていた。
「ガンアンツらしい仕事だわ…。自分が多少は成長した事を、見せてあげたいけど」
部隊を率いる比留間・トナリノ(ga1355)には、ずいぶんと世話になった。諸事情あって、小隊にいるのはこの作戦が最後なのだから。有終の美は飾りたいと思う。
「やっと…ここまで来ましたしね」
「美しい組曲をお聞かせしましょう」
気がつけば、あちこちで陣や連携を組んでいた。それを、荘厳な組曲と考えた小森バウト(ga4700)は、同じ部隊の辰巳 空(ga4698)と、ハーモニーを奏でるかのように守られながら、KV小太刀を振るう。旧式機ではあるが、負けはしないと。空はストライクシールドで、敵のゴーレムをぶん殴っていた。
「見えないからこそ…視えるものがあります…。そこっ!」
白に薄紫の機体で、シールドにエンブレムを施したシエラ(ga3258)が敵の先陣を切り、真っ先に突っ込んでいく。リッジウエイが重量を生かして、ハーベスター達を運ぶ。
『もう‥‥がっつき屋さん☆』
だが、無茶をした何人かが生贄になった。やったのはプリマの方だ。レンは今回、プリマのフォローに徹しているらしい。
「隊長、危ない! こっちへ!」
確実にFRがいる。そう判断するハニービーの面々。小隊を率いるカーラ・ルデリア(ga7022)は、配下の高坂 旭(gb1941)達と共に作り上げた偽装陣地へとおびき出そうとする。KVが隠れられる場所をメトロニウムシャベルで掘り出した旭。その隙間にもぐりこんだまま、カーラは、既にプリマ達にバレているであろう情報網を通じ、こう宣言する。
「地獄の花園へようこそ。いつ攻撃されるか分らない恐怖はいかが?」
『それはこっちのセリフだけどね』
答えたのは、レン。そう言うと、潜んでいる場所ごと潰そうと、カーラが潜んでいると思しきエリアに上から連続攻撃を食らわせる。
「この好機を逃すな!」
だが、それはゲソレンジャーにとって最大のチャンスだった。KV用兎耳アンテナで周囲を警戒していたユナユナ(ga8508)が、KVの残骸にかくしたフレア弾を、偽装陣地の周囲に配し、手元のグレネードを握り締める。
「……えと…寒いときには…焚き火をすれば…暖かく…なりますよね…きっと‥!」
どぉんっと、焚き火と言うには、若干盛大すぎる炎が上がった。直前で体を翻したのが、炎に照らされてちらりと見える。が、部隊を率いていた這い寄る秩序(ga4737)は、構わず叫ぶ。
「この陣地こそ、いわば喉元に刺さったトゲ! 護りきるぞ!!」
「ここから先へはイカせないよッ!! ゲッソーだけに…なぁんてねッ☆」
冗談こそ交えているが、ミヅキ・ミナセ(ga8502)からは、ミサイルポッドの雨霰が乱射される。
『魚介類なんて、大人しく料理されてればいいのよっ!』
彼女の出身地に魚介料理があるかどうかは知らないが、プリマは言葉と共にゲソ達を蹴り飛ばす。あおりを受けて、上空から低空飛行していたブルーレパードが被弾し、何人かが犠牲になる中、至近距離だと判断した秩序が合図を送る。
「今だ! 撃てえええ!!」
ゼロ距離射撃。ミナセがレーザークローをお見舞いし、ブルーレパードのハルカ(ga0640)もまた、特殊能力を込めた螺旋ミサイルを叩き込む。
「お帰り願おうか……各機、照準――撃てっ!」
それに呼応するように、空戦部隊Simoonの緋沼 京夜(ga6138)が、音頭をとり、部隊でFRが潜んでいると思しきエリアへ自機の特殊能力を注ぎ込む。
「よーし、頑張っちゃうぞぉ!」
ガレキが盛大に吹き飛ばされる中、姫野蜜柑(gb3909)が、そのガレキを木の葉がわりにして、小太刀でもって急襲する。
「見たか! これぞ地球人の知恵の結晶、死んだふりだ!」
自慢げな蜜柑。言いながらも、ダッシュで後退している。そこへ追い討ちがかかる。避けきれない蜜柑をかばうように、ガーデン・ロサ小隊が陣を組んでいた。
「……これより作戦を開始する。救助班、突撃開始」
部隊を率いる梶原 暁彦(ga5332)が、各機にそう告げる。それに呼応し、総勢14名がいっせいに駆けだしていた。
『中々面白い事してくれるじゃない。けど覚えときなよ。本気の返礼は、すぐ足元にあるってね‥‥』
『行くよ、プリマ。余計な事なんて、言わなくて良いだろ?』
レンが撤収を促す。不機嫌そうなのは、結構なダメージを食らわせたせいだろうか。
「やっと帰ってくれたか‥‥」
哨戒していた霞澄はそう呟くと、『ミッションコンプリート』のサインを、各情報網へと流すのだった。
<担当 : 姫野里美>
【ヤクーツク防衛】
≪ヤクーツク防衛≫
●幕開け
「オリム中将、悪い報せです。ウランバートル方面から、本基地に向けて進軍するバグア一派の大軍が確認されました」
「そうか‥‥」
――サハ共和国首都ヤクーツク
今回のロシア大規模作戦において、要とも云える人類側の基地が存在するヤクーツクでは、予想していたとはいえ、伝えられた絶望的な事実を前にヴェレッタ・オリム中将が苦い顔で窓から外を見つめていた。
その目には美しい白銀の世界が映しだされているが、いずれここも戦火に染まるやもしれない危機的状況‥‥。そう、バグアの勢力が、新たにヤクーツクに向けての増援を送り込んできたのだ。
「先の戦いでは何とか切り抜けられましたが、今度はどうなるか‥‥」
「しかし、ここで退くわけにはいくまい」
報告官の、焦りと、若干の恐怖を帯びた声が赤裸々に語る現実を、中将はまるで弾き返すかのように強く言い返す。彼女が諭す通り、ここで退けば一時的な被害は確かに抑えられるものの、それは明らかに後の人類側における敗北を濃厚なものにすることとなるだろう。
そんな中、更に言葉を続ける中将。
「私はな、机上における戦いで負けるつもりはなかった」
「はい?」
「だが、時には念密に練り上げた作戦や、巧みな策を用いた戦術をも超える存在に出会ったのだ。それが何か、分るか?」
「‥‥」
普段とは違い、どこか静かに低い声で、自らに語るかのよう言葉を放つ彼女を見て、報告官は生唾を飲み込む。
そして、差別的な性格で有名な中将が彼に言った一言とは――
「それはな‥‥傭兵らの、可能性だよ」
こうして、ヤクーツクの防衛に当たる全傭兵に向けて、中将の喝にも似た命令が下る。
ロシアが人類の拠点ヤクーツク。そこに向かう敵を一匹残らず迎撃せよ。そして、這いずり回ってでも生き残れ、と。
吹雪く白雪にはやがて弾丸が混じり、大地に広がる永久凍土にはやがて血の雨が降るだろう。
それでも、この戦いの先にある微かな希望を掴む為――今、ここヤクーツクにて激戦の火蓋が切って落とさせるのであった。
●絶対死守
「斬る‥‥喩えどんな敵が来ようが、ただ斬り捨てるのみ!」
ヤクーツク、陸上防衛ライン。そこでは、いくつものKVが立ち並び層となりながら、拠点を中心にある種の膜を作る様に防衛網の展開がされていた。
絶え間なく襲いくる敵に、リディス(ga0022)率いる【8246小隊】のベールクト(ga0040)は、遠距離から牽制射撃を行いつつも徐々に距離を詰めて横薙ぎの一閃。振りかざされる一撃の衝撃で周囲の雪を舞わせながら、敵の注意を引きつける。
「ヤクーツク防衛ポイント、空域周辺の全KVへ。防衛線の綻びを埋めます。協力してください!」
一方、こちらは同じく8246小隊の水上・未早(ga0049)が、ベールクトら陸上班が戦う上空にて、航空班の指揮系統における中枢を担っていた。的確な支持と連携にて、確実にHWを一機ずつ沈めていく水上達。
今回彼女の指示していたように、フリーのKVに呼びかけを行うことで連携の密を高めていた8246小隊だが、予め【瞬雷】と【チーム『G・L』】とも共同戦線を張ることにより、その情報網の伝達をより迅速なものへと昇華していた点は実に見事なものであった。
「こちらCポイント。数が手薄だ、応援を頼む」
どんなに数を終結させつつ陣形の構想を練ろうと、敵からのアプローチにおける微細な変化や周囲の状況などによって刻々と変化してゆく戦場。その戦場の空気を巧みに読み取りながら、ゲック・W・カーン(ga0078)が味方機への救援を要請する。
数分後、彼の指摘した通り集結し出す陸上ワームの数々。だが
「キリがねーッスね! あーくそ! めんどくせえ! ‥‥でも敵を確実に斬り伏せていく俺。うはっ、マジパネェっ!」
瞬時に駆け付けた植松・カルマ(ga8288)の真ツインブレイドが突き刺さる!
「最善の一手にて、少しでも多く奴らを叩き落す。攻撃開始!」
更に、こちらでは【フェアリー・チェス】が小隊長ジェイ・ガーランド(ga9899)の指揮の元、迫りくる敵を怒涛の勢いで駆逐。紅 アリカ(ga8708)が隊の目となることにより、多角的攻撃から自身らを護りつつ、討伐と並行して優位な位置どりも進めていた。
「‥‥くっ。‥‥ここで後れを取るわけには‥‥」
しかし、休む暇もない敵の波状攻撃の前では、弾幕の壁も時に虚しくわずかの隙を許してしまうものだ。やられる、そうアリカが確信した瞬間
「やれやれ。まだリタイアには早いだろ」
「‥‥あ、ありがとう」
横ギリギリを突き抜けたジェイの機槍! その切っ先には、腹部を貫かれて動きを停止したワームが。
チェスと言う小隊名が象徴する様に、戦場を盤に見立て巧みな戦局を展開するフェアリー・チェスの横では、【フェニックス】のメンバーが同じく迎撃を行っていた。
新鋭機が登場すれば、そのデータを採取しようと待ちかまえつつ火力支援をする夜羽 ハク(ga8230)。弱音を吐いてはいられない状況だけに、操縦桿を握りしめる腕にも力が入る。
「護るものがあるから、負けられないんだ!」
こちらは、小隊名に何か意味深げなものを感じる【明治剣客浪漫団】のシン・ブラウ・シュッツ(gb2155)。護るべきものがある‥‥その一言が自らに勇気を与え、一筋の煌めきと共に敵の密集する空域を射抜く。
「CWを確認した。迎撃するぞ」
「了解だ」
判別不明の怪音波が周囲に発せられ、周囲を歪めめられるほどの衝撃を脳に叩きつけられそうな空間の中、シンの後方からヘビーガトリング砲で辺りのCWをディッツァー・ライ(gb2224)は排他へ。
同小隊として、ライと同じく援護に回るルチア(gb3045)は、白雪(gb2228)との定期的な連絡も忘れていない。
崩される防衛ライン。しかし、どこかに穴があけば即座にその修復へと応援が加わり、ギリギリながらも戦局の均衡は保たれていた。
しかし、なおも勢いの止まらないバグアの進軍。矛先をぶつけ合ってから時間は僅かなものも、一向に先の見えない戦いに少なからずとも不安を覚えていた者は少なくないだろう。
それでも人類の勝利をもぎ取る為、白銀の世界を舞台に繰り広げられる争いは、なおも熾烈を極めていくのだった――
●駆ける者、羽ばたく者
さて、依然として全体の指揮は下がらずとも、個々単位での焦りが見え隠れする傭兵が目立ち始めたヤクーツク。
丁度バグア側も空と陸とに別れて進攻をしていた為、人類側も無論空と陸の双方に戦力を送る必要があったのだが、ここで空と陸、及び本拠地周辺と各区域ごとに活躍した面々に焦点を当てるとしよう。
「前方に大軍を確認! 後ろの皆、指示よろしくね♪」
まずは、比較的傭兵となって日が浅いもののメンバーも見受けられる【スタートライン空戦隊】だ。
スタートライン‥‥これは、今から始る戦いに向けての各想いを小隊名として掲げたものだろうか。何れにせよ、リーダーの御崎緋音(ga8646)は明るい声で小隊メンバーの緊張を和らげるよう指示を行うと、本来扱いが難しいとされるソードウィングの近接近戦闘から、レーザー砲やライフルでの遠距離射撃など、非常に幅広い兵器を操り自在に空を舞う。
「‥‥ぶっ潰す!!」
小隊同じく、最前線を飛ぶ須佐 武流(ga1461)。ハヤブサ、その機体名に象徴されるかの如き瞬きの刹那、彼の剣翼はHWとの交差時に敵の翼をもぎ取っていた。翼を失くし地へと真っ逆さまのHWを視認しつつ、再び次の目標へと照準を設定。
「おいらがどこまで出来るかやってみるよ!」
そんな彼の近くでは、菱美 雫(ga7479)とペアを組むルンバ・ルンバ(ga9442)が自身の力を試すかのように弾丸の雨を降らせる。
「突出は‥‥駄目、ですよ‥‥。必ず味方と連携して、敵に当たって下さい‥‥」
「分ってるって♪」
意気込むルンバに声をかけながら、相機の雫がウーフーもG放電装置を放射!
空に煌めく一筋の集束光。瞬間、ソレは見事に敵機を焦がしていた。
「ここで敵を迎え撃つ、各員観測機用意。一本釣りにしてやるぞ!」
一方、こちらはスタートライン空戦隊の対となる存在の【スタートライン陸戦隊】の赤村 咲(ga1042)。測定器を利用することで、陸戦で最も警戒すべきであろうEQに最大の警戒を促す。
「こちらGF02。EQの出現を確認‥‥後衛は援護をお願い。SG前衛隊、突撃‥‥!」
と、その時赤村の指示を受けていた瑞浪 時雨(a5130)が見事EQをおびき出すことに成功。
計測器の恩恵もあり、地中からの痛烈な一撃を交わした瑞浪は、そのまま小隊レベルで敵を包囲するよう無線越しに声を発する。
「皆、無事に帰ろう!」
「勿論! こんな所であっさりやられるわけにはいかないよっ!」
赤村の一声に勢いよく住谷・世鳴(gb5448)が返事すると、レッグドリルでの熱い抱擁。
摩擦音と共にEQから噴き出す体液。それを一身に浴びながら次いで赤い霧(gb5521)のR-01が突進!
『グオオォォ』
巨体をくねらせながら悶えるEQ。そこには、有りっ丈の弾丸を撃ち込まれて焼け焦げた背部の外皮と、赤い霧によって身体へと突貫してくるKVスピアが。
「KVの代わりに、こいつでも腹に詰め込んでろ!」
言い放つ赤い霧。一切の慈悲を与えられず、スピアを回転させながら削り取られていくEQの身体の破片が、ボタボタと地に落ちていく。だが
「!?」
それは意外なほどの反撃だった。気づけば、鈍い音ともに吹っ飛ばされる赤い霧のKV。
身体がデカければ、それに比例して生命力も高いのであろうか。既に風穴となりそうな傷を与えられつつも、未だ命絶えぬEQ。
巨躯を操り、そいつはそのまま巨大な口で瑞浪のアンジェリカを呑みこもうとした瞬間――
――ガガガッ
高く円状に舞い散った足元の雪。そこでは、瑞浪機の試作剣「雪村」がEQにトドメを刺していた!
「ナイスだ、瑞浪さんっ」
彼女に向けてサムズアップする赤村。一瞬たりとも油断すれば命取りとなる戦場の厳しさと、その緊張感に負けない傭兵の強さが垣間見れた瞬間であっただろう。
「うふふふ〜、ミサイル花火、綺麗ですよ♪ やはり、芸術は爆発です♪」
「それは分りましたから、もう少し自分の機体を護ることを覚えなさいですわ!」
「あぁん♪ こんな状況でも鞭を飛ばすとは。さすがですね、麗華さん♪」
「‥‥」
本拠地上空。護りを完全に捨て、ギガブラスターミサイルで空を彩る伊万里 冬無(ga8209)に内心ひやひやの大鳥居・麗華(gb0839)は、シュテルンのPRMシステムを使用しつつ伊万里機を身を挺して護っていた。
どうにも護りに転じるのは不本意なのだろうか。狂気に満ちた笑みと共に伊万里はミサイルを連射。世話が焼けると愚痴をこぼしつつも、ちゃっかり彼女を護る麗華がまた妙に切ない。
「さて‥‥簡単に連携は崩させませんよ‥‥」
彼女達と同じ空域では、同小隊のベル(ga0924)が圧倒的な数を誇るHW向け、I-01「ドゥオーモ」を一斉射出するシーンも。
被弾により高度を下げ、地へと垂直に首を垂れ行くHW。その落下の衝撃が振動となり伝わる地上では、リリエーヌ・風華・冬堂(ga1862)が敵ワームに殴る蹴るの肉弾戦中だ!
「宇宙人なら宇宙人らしいやり方を見せろっての」
そう怒声らしきものを放ちながら、ガッシガシとワームのボディに打撲痕を刻みつける。若干、彼女のイメージする宇宙人らしい戦い方が如何なるものなのか気になるが、今は置いておこう。
「タイミング合わせて‥‥行けるか?」
攻撃の集約。言うなれば、戦力を一点に集中することで単体を効率よく破壊する、一種の高い攻撃力を秘めた単純かつ明快な戦術。
それを【功】という名と共に、作戦の相談時に案を提案していたのがレティ・クリムゾン(ga8679)なのだが、彼女の呼びかけに応じたM2(ga8024)は、周囲の連携者とタイミングを合わせることにより陸にてEQへの対処へと当っていた。
「めどいわねぇ」
何てことをぼやきつつも、電子支援を駆使してM2のサポートに徹するパイロープ(ga9034)。
尚、彼、彼女らの周辺では先述したレティ率いる【Titania】が周囲の戦況を伺いつつ作戦本部の守護に努める光景が。
「誰が来ようが同じだ。エースだけでは抜けはしない!」
叫び、武器を構えつつも全体の指揮系統中心として、脳内の血液をフル回転で巡らせる。この過酷な極限状態で、正確さと迅速さを求めるのは難しい。が、それはレティが幾度となく試練を乗り越えてきた結果だろうか。
KVから足を地につけるまで、終始冷静な判断を下し続けた彼女は、紛れもなく評価に値するものであったと言えよう。
●赤と青の煌めき
『やれやれ。老体に鞭打つとは、正にこのことですなぁ』
『まったく‥‥先の戦いを見ても、なおこの程度の増援とはな』
まだ機体についた生々しい疵も残る中、FRとステアーに搭乗したカッシングとシモンは、激戦区より少々離れた上空にて戦況を窺っていた。
『仕方あるまいよ。ヤクーツクへの進攻よりも、あの御仁は自らが居られる場所の安全を確保したいでしょうからな』
不敵な笑みをこぼしつつ、カッシングはあまり興味のない様に返す。
人類側を完全に制圧するには、今一つ物足りない勢力に不満を覗かせるシモンとは打って変わり、彼自体はそこまでこの戦いに興味はない様にも見てとれるが‥‥
『私は上空の防衛網に穴を開けてやるとしよう‥‥。地上を任せても構わないか』
『あぁ、構わんよ。ククク、今回も楽しませてくれることを祈らなくてはなぁ』
明確に人類へと敵意を見せつけるシモン。逆に、こちらは悟るには難しい思慮が不気味さを一層際立たせているカッシング。
こうして、いよいよ人類側の拠点ヤクーツクに、再び最悪の悪魔が襲いかかるのだった。
「抜かせん!」
場面は戻り再び本基地周辺。第一波として押し寄せてきた敵をあらかた片付けた人類。
J・御堂(ga8185)は、各小隊が取り逃がした敵の生き残りを臨機応変に迎撃していた。
急接近しつつ、ディフェンダーの刃を勢いよく突き立て、坦々と自らの仕事をこなしていた彼。
しかし、予想すらできぬその悲劇は、突如として彼の身に襲い来る。
『これは良い玩具だ。どれ、少し遊んではくれんかね?』
「!?」
耳に伝わる声。思考する暇などなかった。気づけば、ディアブロの腕がちぎり取られる寸前までダメージを負っているではないか。局部的とはいえ、警告メッセージとともに発せられた破損率は実に80%。
――FR出現
全KVへと優先度Sで伝えられた事実。数分後、カッシングの元へと駆け付けたKVの大破した無残な姿が、周囲には散らばることとなる。
『どれ、これで十分だろう。ククク、後はゆっくりと本部を目指さんとなぁ』
が、次に集まってくる能力者達は知る由もなかった。一か所で暴れ敵の気を引きつけた後、光学迷彩にてヤクーツク本部をカッシングが目指していたことなど。
そう、彼は知っていたのだ。如何に強固な結束力であろうが、如何に手強い戦力を揃えようが、一度中枢を潰せば、そこから派生する部隊の士気に壊滅的ダメージが及ぶことを。
「おいでなすったね。皆、援護頼む! いつまでも好き放題させるかよ、シモン!」
「やれやれ‥‥良い加減、貴様も地に叩きつけられてみるか? 新条‥‥」
そして、カッシングより彼方の上空では、こちらも激闘を予感させる光景が広がっていた。
どちらに傾くか判らぬ天秤。果たして、天の秤は人類とバグア、どちらを選ぶのか。
あぁ、いよいよ加速し出す歯車。
大地と空にて開始される衝突に血沸くかのように、吹雪は一層その強さを増していく――
●そして
『ふむぅ‥‥先ほどの戦闘のせいか。光学迷彩にぶれが発生したか‥‥』
もう基地は手の届く所だというのに。カッシングは、【ブラックアサルト】の火茄神・渉(ga8569)の視界に僅かにとまり、その存在を教えてしまっていた。
「へっ。そんなんじゃ俺は騙されないぜ。どっからでもかかって来い! 絶対に通しはしない!」
『ほほぉ、これはまた随分と威勢の良い』
燃えるサムライ魂。ディフェンダーを構え、彼はカッシングに上段からの振り下ろし‥‥だが
『えっ――』
突如としてディアブロに伝わるかつてないほどの衝撃に揺さぶられ、コクピットに頭を叩きつけられる火茄神。
目の前には、双刃のグレイヴを携えたFRの姿。ディアブロの赤い塗装が片方の刃身に付着している光景を見て、火茄神は視認すら難しい速度で一撃が放たれたことを悟る。
『くっ』
全神経を研ぎ澄まし、アイギスを展開し直し構えるが、既にディアブロの腹部には損傷した個所から火花放電現象が。と、その時
「新鋭機には連携して当たるんだ。烏合して通じる程、甘い相手じゃないぞ」
情報網[L]とリンクしていたことにより、即座に救援に駆け付けた翠の肥満(ga2348)らチーム【アークバード】が登場!
「老体にこの寒さは堪えるでしょう? 引っ込んでなさいよ、カッシング‥‥!」
「ククク、いやはや、御尤も。では、君達を屠った後、私は帰らせてもらおうとするかね」
リン=アスターナ(ga4615)の威嚇に、嘲笑するかの如くカッシングはライフルを向ける。
刹那、雪の中を幾重もの直線が翔けた! 響く警告アラート。速い、わずか数秒でリンの隣にいたKVの頭部は弾き飛んでいる。
『FRにだけ気を取られてはいけません。各機、充分に警戒を』
ハンナ・ルーベンス(ga5138)が注意を呼び掛ける中、カッシングへ一斉に制圧射撃が開始される防衛ライン。
しかし、高速で移動しつつ次々と敵対するKVを一撃のもと葬り去るカッシングは、正にゾディアックと言うべきか。
「太陽と天空の魔法少女! マジカル♪ ブルーの参上よっ♪」
と、そこに加わるのは【マジカル♪シスターズ】の天道 桃華(gb0097)や西村・千佳(ga4714)ら5人。
いける! 数で勝るこちらがこのまま押し切れば‥‥そう誰もが思い砲口を絶えずFRに向けた! ――しかし
『ひとぉり、ククク‥ふたぁり。ほら、どうしたぁ、次は纏めてさんにぃん』
それは、あまりにも信じ難く恐ろしい光景だった。無慈悲に薙ぎ払われ、瞬きの間にKVへ痛々しい痕を刻みこんでいく円月刀。
「そん‥‥な」
数分後、カッシングの目の前に広がっていたのは、関節部や機動中枢部を破壊され機能を停止した、KVの悲しき姿。
『やれやれ。わざわざ出向いたというのに‥‥これでは、収穫は望めんなぁ』
ぼやくカッシング。そう、これが、この圧倒的すぎる制圧力こそが、赤い悪魔と恐れられる最大の所以なのだ‥‥
『まぁ良い。次にお会いできる日を楽しみにしているよ、傭兵諸君。ククク』
そろそろ潮時か。そう思い、表示される残りの練力を確認したカッシングは、シモンに無線で告げ一足先に帰還しようとヤクーツク基地に背を向ける。
もう彼の前に立ちはだかる者はいない。静かに、倒れたKVに雪が積もっていく様を憐れむかのように見つめながら、FRが陸上形態から飛行形態へと変わろうとする。
こうして、ヤクーツクの地から赤き機影は飛び立った‥‥いや、飛び立つはずだった――
『‥‥待っていたわ、この瞬間を!』
『むぅ!?』
耳に響いた声。カッシングが向きを変えたその前方には
『覚悟なさい‥‥お仕置きの時間よ‥‥逃がさないから』
突撃機動小隊【魔弾】のロッテ・ヴァステル(ga0066)が、カッシングめがけ飛び出していた!!
――ガガガッ
『これはこれは、中々良い不意打ちだ』
ロッテのアヌビスによる突進から繰り出された機槍「グングニル」の超撃。飛行形態へと機体をシフトしていたこともあり、一瞬反応が遅れてしまったカッシングのFRは避ける暇がなく、グレイヴで何とか槍を受け流すことに。が
「これで終わりじゃないぜ!」
「我が円月刀で屠って上げる!」
「相手がだれであろうと‥‥負けていられません!」
「私と機体の力を‥全て集めて‥‥今、そこですぅ!」
『なにぃ!?』
予想をはるかに上回る光景。気づけば、互いの機体が作り出す死角に紛れ、月影・透夜(ga1806)、羅・蓮華(ga4706)、楓華(ga4514)、幸臼・小鳥(ga0067)らが多方向からの波状攻撃で襲ってくるではないか!
右に避けるか、それとも左か。いや、これは避けきれない!
『ぐぬぅ‥‥!』
まるでFRの身を削いでいくかのように繰り広げられる攻撃の中、思わず目標に目移りしながらも、何とかカッシングは反撃に繋げようとする。
だが、届かないのだ。あと一歩のところで、加賀 弓(ga8749)にグレイヴは受け止められてしまう。
そして――
「数合わせの駒と思わんといてや! ウチだって、負けられへん戦いがあるんや!」
「いきます‥‥」
挟み込むかのように迫りくる相沢 仁奈(ga0099)と御山・映(ga0052)のKV。その腕には雪村とブレイク・ホーク!
まずい、さすがにこの攻撃を食らうわけにはいかない。咄嗟にグレイヴで捌こうと機体を反転させる。まず、相沢の武器を叩き無力化、次は御山のブレイク・ホークを――
「おじいちゃん直伝、霞刃」
『――ッ!? こ‥‥れは‥‥』
胴部に伝わる衝撃。そこでは、ブレイク・ホークを主武器とカモフラージュした御山の本命、雪村が抜刀されていた!
「今よ、トドメを!」
叫ぶロッテ。あと少し、あと少しでFRを落とせる!
「ククク、クハハハ。いや、結構。実に結構!」
「!?」
すると、どうしたことか突如高笑いを始めるカッシング。と、同時に、その笑いに呼応するかのように集まってくるは機械型のキメラ。
『ふむ、これは良いものを見せてもらった。それでは、私はここで失礼するとしよう』
「くっ‥‥まちなさ」
逃がすかと接近するロッテだが、バグア仕様の強烈なライフルが脚部を撃ち抜く。
かくして、最終的に逃げられこそしたものの、結果は虎視眈眈と小隊を伏せ、一瞬の好機を待ちかまえていた魔弾の、実に見事な作戦勝ちであったと言えよう。
少なからず、ロッテは慕う人を追いやった黒幕に、一矢報いたのもまた確かな事実だった。
『やれやれ、これは手痛い目にあってしまったな』
ヤクーツクから少し離れた地帯。
そこでは、溜息をつきながら救援部隊の到着を待つカッシングの姿が。彼の横には、ボロボロとなったFRが見受けられる。
そお、何とかロッテ達から逃げ出せれたは良いものも、途中で遂にFRが機能を停止。止むを得ず、不時着していたのだ。
『むぅ、ひとまずはここに置いて行かなくてはいかんか‥‥。仕方あるまい』
こうして、カッシングは緊急で駆け付けた部隊に引き連れられ帰還することとなる。ただ、白い大地の上に赤い悪魔を残しながら‥‥
●災いの空
――同時刻
「よお、シモン。そろそろ決着つけないとな!」
『威勢だけは相変わらず良いようだが‥‥口では何とでも言える』
陸にて激戦が行われている中、上空でもシモンの前に【放課後クラブ隊】が立ちはだかっていた。
最もシモンと因縁のある新条 拓那(ga1294)を援護するように展開する面々。
と、その時。シモンのバグア仕様スナイパーライフルがまず火を噴き、いよいよ静寂が破られる!
「ここは通行止めだ‥‥通りたければ、その命が駄賃変わりだ」
『ふ、別にヤクーツク基地になど興味はさしてない。あるのは、お前達との交戦のみだ』
相手の実力を観察するかのように、近伊 蒔(ga3161)のガトリングをかわしたシモンはプロトン方を一直線。掠っただけにもかかわらず、近伊のシュテルンには焦げ跡が。
「空は皆のものです。いきますよ!」
「タクナさんの邪魔はさせない!」
連携。小隊魔弾と同じく、この言葉が最も似合うであろうチームの放課後クラブ隊は、個々による互いのサポートを重視し、視野を広く持ちながらシモンに的を絞らせず攻撃を展開。
「貫き通せ、ここが正念場だぞ! 弾幕だ! 絶対死守!」
空に響くゼラス(ga2924)の声。石動 小夜子(ga0121)らの援護射撃と相まって形成された弾壁は、CWやHWの介入を一切許さない程!
「シモォォン! これが俺の覚悟だ、持って行けぇ!」
レーザー砲の光が空に煌めく。自らを囮にする意味も込めて、感情をむき出しにする新条のシュテルンに向かい、シモンはライフルの弾丸を一発。
破損する翼。だが、それでも退かぬ新条。しかも、放課後クラブが時間を稼いだことにより、新たにシモンと対峙したことのあるリディスらも戦線に加勢してくる。
『ふっ、貴様も少しは腕を上げた様だな‥‥次の機会にまたゆっくり遊んでやる』
周囲を見渡し、改めてこう告げるシモン。見れば、人類側もボロボロではあるものの、確かに当初送られたバグア軍を押し戻しているではないか。
『カッシングも退いたか‥‥。頃合いだな』
こうして、災いを呼ぶ悪魔を戻すことに成功した人類。その一報は、下がりかけていた人類の士気を奮い立たせるには充分なものであった。
暗雲の立ちこめる空に日が射すのは何時になるのか。或いは、そんな日など訪れないのか。
希望ある未来を勝ち取る為、戦い傷ついた傭兵達に、ロシアの女神、復活を司りしЖива(ジヴァ)の祝福があらんことを――
<担当 : 羽 月 渚 >
<監修 : 音 無 奏 >
後編へ
|
|
 |
 |
 |