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<報告書は前編:後編から成る>
ユニヴァースナイト護衛 陸軍支援 ヤクーツク防衛 ラインホールド攻撃
【ヤクーツク防衛】
●ヤクーツク:開戦前
急遽発令されたダイヤモンドリング作戦の後方指揮所として、ヤクーツクは申し分の無い位置にあった。地図の上では、だが。
「急ぎ、防衛体制を整えよ。バグアは必ず此処を狙う」
到着後、矢継ぎ早に指示を出しながらも、ヴェレッタ・オリム(gz0162)中将はそれが遅きに失していると理解していた。ヤクーツクの防備が十分に調うまで、バグアは待ってはくれないだろう。それを暫くの間だけでも、食い止める事が出来ねば、負ける。
「‥‥傭兵、か」
寒空を見上げた中将の視界の中、行動を開始した傭兵部隊の翼が西へと遠ざかっていく。
「smsはこれよりウランバートル方面軍を威力偵察する」
敵を最初に確認したのは、藤田あやこ(ga0204)率いる航空部隊『sms』だった。ウランバートルから直行したにしては会敵地点がやや北にずれているとの私見が、同隊のマーガレット・ラランド(ga6439)から付記されている。
「情報の蓄積は勝利に繋がります」
その情報は、アヤカ・ステラマリス(ga8848)ら『ゆんゆん』が徐々に収拾し、友軍へと提供していた。
「北上して、ウダーチナヤからの部隊と合流した可能性もありますね」
得られた情報の整理を行っていた『歩兵小隊ゾルダート』の周防 誠(ga7131)がそう指摘する。
「‥‥とすれば、数の予測が変わってくるぞ」
腕組みする立浪 光佑(gb2422)は、ウダーチナヤに存在する敵の概数を思って歯噛みした。そのうちのどれだけがこちらに向かっているのか、現時点で知る術は無い。
「先は長いですし、一つずつ確実に事を進めましょうか‥‥」
敵の動きを知ることが、この先の戦いに繋がる、とエミリア・オルテンシア(gb4263)は言う。彼女達は、いずれ生身での直接攻撃の機会があると信じて、その為の情報収集を志向していた。
●ヤクーツク西方
正規軍と共にヤクーツク西方に先行展開していたのは、この方面の傭兵中でも最大規模の『放課後クラブ隊』だ。しかし、正面の敵数は彼らの目から見ても圧倒的だった。
「俺たちの意地にかけても、ここは通せねぇなぁ!」
隊を鼓舞するように気勢をあげるゼラス(ga2924)を、ファティマ・クリストフ(ga1276)は心配げに見やる。長射程のプロトン砲による一斉射撃が、空を埋めた。
「こっから先は通行止めだ!」
その光線を掻い潜って、篠崎 宗也(gb3875)らが、反撃を行う。バグアの初手の攻撃は、思うように効果を上げていない。
「1人じゃナい! 皆に護ラれる分ダけ、私が皆を護ル!」
クラリア・レスタント(gb4258)のイビルアイズが、敵の照準を効果的に狂わせていた。彼女へと機首を向けたHWが、爆発と共に姿勢を崩す。
「俺を倒してから行きな!」
直下から急上昇してきた近伊 蒔(ga3161)の濃藍のシュテルンが、その横腹を叩いていた。
「とっととお家に帰りなさいっ!」
お互いに認める好敵手の愛原 菜緒(ga2853)が止めを刺す。
「旧型機でも、積み上げた戦訓が勝利を呼んでくれるの!」
フィオ・フィリアネス(ga0124)の指揮下にあるS−01やR−01は、ロシア軍の旧式KVと歩調をあわせ、予想以上の善戦で敵の攻勢に持ちこたえていた。が、少々の善戦では数の差はいかんともし難い。
「‥‥ほむ。このままだとさすがに厳しいですネ」
後方から左右へと、押し包むように動く敵の配置を確認。優勢に奢らず今のうちにと赤霧・連(ga0668)が退き鉦を鳴らしかけた、その時。
「こちら、8246小隊航空班。状況を確認しました。これより貴隊の援護に向かいます」
同じく西側に隊を配していた『8246小隊』水上・未早(ga0049)からの通信が、意外なほどはっきりと届いた。
「皆、頼んだわよ。こっちのことは任せておいて」
陸上部隊の高瀬・由真(ga8215)が地殻計測器の反応に耳を傾けつつ、彼女達を見送る。
「‥‥これより電子支援を開始する!」
桜崎・正人(ga0100)の声。彼らチーム『G・L』と【瞬雷】は、空陸両面から通信の確保を試みていた。
●ヤクーツク乱戦模様
ヤクーツク周辺では、統制の無いバグア小部隊による攻撃が続いていた。
「マジカル♪ シスターズ出動にゃ〜♪」
「愛と正義の魔法少女 まじかる☆ブルーの参上よ!」
大中取り混ぜたキメラの大群を、西村・千佳(ga4714)、天道 桃華(gb0097)らが食い止める。横並びで名乗るのはヒロイン的に必須なのだろうか。
「ハッ、このクソ寒い中ゾロゾロと‥‥。ご苦労なこったぜ!」
鈍名 レイジ(ga8428)が言い放つ。ヤクーツクの陸戦隊中、最大戦力の『ラーズグリーズ隊』は何波目かも判らない攻勢を捌いていた。
「来なさい‥‥ツンドラにキスさせてあげるわ」
レンジを越えた敵へ、冴城 アスカ(gb4188)が銃弾のシャワーを浴びせる。
「迂闊すぎんだよ‥‥喰らいやがれェ!」
ブレイズ・S・イーグル(ga7498)が突破してきたゴーレムへと雪村を振りぬいた。致命傷を受けつつも道連れとばかりに砲口を向けた敵機を、雪村・さつき(ga5400)が真横から撃ち抜く。
「にしても、そろそろ弾も‥‥」
「次、来たよ!」
斑鳩・眩(ga1433)の声に、正面を向く彼ら。瞬間、キメラの群れへと猛烈な横撃が加えられた。
「状況、了解。支援するよッ!」
M2(ga8024)の言葉に続いて、『404隊』が手持ちの火力を一斉に浴びせかける。
「ここまで来たら、一匹も通さず、といきたいですねぇ」
「全くだ。‥‥っと、遅れたが『LYNX』も援護させて貰う」
蛇穴・シュウ(ga8426)の声に、伊佐美 希明(ga0214)の言葉が被った。
「ドコを選ぶか迷ったんじゃが、ここで良かったかの?」
輸送コンテナを搬送していた沖 貞肋(gb0648)が、ニッと笑う。
「この寒いのに敵さんもよくやるねぇ‥‥」
そんな相棒の軽口を聞き流し、上空の間 空海(ga0178)は鋭い目で敵を射抜く。直後、吾妻 大和(ga0175)との息のあった斉射が敵の勢いを止めた。
「がんばるぞー!」
アーク・ウイング(gb4432)のシュテルンが放った狙撃が、そこを叩く。彼らのような、小隊に属さない機も少数ならではの小回りで要所を固めていた。
「まずは数を減らしていかないとね!」
中でも、風宮・閃夏(ga4632)のロジーナの奮戦は、現地軍の歓呼を浴びている。ボロボロになりつつも突破してきた大型HWが待ち構えていた『Legions』の迎撃を受け、墜ちた。
「猿が猿と嘲るか。その矛盾に気付く事無しか‥‥」
北西へ目をむけて言ったL45・ヴィネ(ga7285)がふと視線を戻す。敵は、堕ちつつもキノコ状の何かをばら撒いていた。
「MIはこちらに任せろ! 新米が不利とは限らないぞ!」
もともと、MIは防戦向きの特殊兵器だ。メシー・フローネル(ga7174)達『Raven』は化けキノコを見るや、それが幻覚効果を生み出す前に次々と破壊していく。その周囲が僅かに揺れた。EQ対応の為に待ち構えていた『青い薔薇』各機が色めきたつ。
「皆様、お気をつけください!」
耳を澄ましていたティル・エーメスト(gb0476)の声。
「今です‥‥」
自らの声がまだ中に漂う間に、レンヤ・ジュイティエフ(gb5437)は攻撃を叩き込む。剣を一閃させた遠倉 雨音(gb0338)が、巻き上げられた氷土の向こうに消えた。
「――ご心配なく。そう簡単に落とされるほど『黒鋼』はやわではないですから」
仲間の声に、返る言葉。
「必要なら補修に戻れ。それまでここは『SteelyGirl』が預かった」
難敵に押された戦線へ、タルト・ローズレッド(gb1537)達が駆けつける。
「護ります。貴女を」
同じくフォローに回った琥珀(gb4240)が囁く。隣に立つ虎姫(gb4389)を護り、そして2人で仲間を守る。それが『虎瞳』の戦いだ。
「寒‥‥」
晴れぬ曇り空、そして途切れぬ敵を見上げて名塚 朱乃(ga6571)が呟いた。
「次弾装填、さてと‥‥次はアレでも狙うか」
道路沿いに腰を据え、雪上迷彩で姿を隠したウェンディゴ(ga4290)の狙撃が、大型キメラを血の染みに変えた。向き直った群れが彼女を捕らえるよりも早く、嵐のような猛射がその横っ面を叩く。
「骨は拾わないから、全機生還なさい!」
ロッテ・ヴァステル(ga0066)率いる『魔弾』が突撃機動小隊との呼び名に恥じぬ縦横の動きを見せていた。西の会敵の知らせにも、彼女は動揺する事は無い。
「ウランバートル側に引付ける動きに見える。ウダーチヌイ側からの戦力展開には要警戒だ」
遠近組み合わせた連携でゴーレムを下し、一息ついた所で月影・透夜(ga1806)が注意を促した。
「了解。偏らぬように、調整させてもらおう」
個人参加の傭兵に多い遊撃戦力へと、オルランド・イブラヒム(ga2438)が指示を出す。
「次はそっちか、分ったよ」
「いかに味方を生存させるかだな」
頷きあう黒羽 怜(ga8642)と水円・一(gb0495)のような単独参加、『エリュシオン隊』のような部隊であっても、戦力の隙を埋める事を志向する者にとって、管制役の存在はありがたかった。
「戦いが長引けば、私たちも頑張りどころですわよ?」
損傷機の報告が入れば、ソル・ルイス・ラウール(ga6996)のような回収役が動く。
「一秒も無駄にはできません」
愛輝(ga3159)達『Hemutite』はあるいは生身で、あるいは車両でと駆け回り、命を救い上げていた。
「舌を噛むなよ」
ツァディ・クラモト(ga6649)の声に、リリエーヌ・諷華・冬堂(ga1855)が無言で頷く。彼女の属する『ペル・エム・フル』は戦果と引き換えに大きな被害を受けていた。
「寒いけど、頑張ろ‥‥」
補給・救護の拠点は、白鳳 雛那(ga4679)ら『櫻第二小隊』や『わんわんわんこ』といった部隊が確保している。救える命をその手に、と願い走る『パラメディック』隊も拠点から数度目の出撃を行っていた。
「疲れたか? 変わろう」
寿 源次(ga3427)に言われた御津川 千奈(gz0179)が頷く。入れ替わりの瞬間。
「右、敵です!」
覚醒中には珍しい、エドワード・リトヴァク(gb0542)の大声。伸ばした手の先をゆっくりと、砲弾が貝依(gb3165)のリッジウェイに吸い込まれる。
「局長!?」
悲鳴が、木霊した。回収の為に足を止めた機体は格好の的なのだ。直後、『Kali・Yuga』隊も同様の攻撃を受ける。が、隊長機の被弾直前に、佐倉・咲江(gb1946)が割り込んでいた。
「サキ、寝たら駄目ー! 何されるかわからないよ、ボクに!」
「‥‥寝ないとは思う」
庇われる形になったレイチェル・レッドレイ(gb2739)が彼女に声を掛けつつ後送する。感動的な場面のはずだが、台詞とイタい機体ペイントのせいで台無しだった。
救護部隊が危険に晒されるのを食い止めるべく、『Astraea』隊が援護に向かう。
「この程度の寒さで我等の魂の炎を消せると思うなっ!」
抜刀した不破 梓(ga3236)のシュテルンのすぐ脇を、六堂源治(ga8154)のバイパーが固めた。
「全力全開!! 気合入れるッスよ!! 全員でココを守り抜くッス!!」
「1つ、『頼れる先輩』目指して頑張りますか」
源治の檄に答えて、田中 直人(gb2062)が敵陣を掃射する。弾雨を抜けた敵へは、『Astraea』各機の剣林が待ち受けていた。
「俺が『見る』‥‥合わせろ!」
黒川丈一朗(ga0776)の掛け声と同時に、依神 隼瀬(gb2747)が氷土を蹴る。
「行くよ『雪白』! ここは守り切る!」
金属の打ち合わされる音と、爆発音。そして歓声が響いた。
●青と赤
「アレ、やばそーじゃね?」
「‥‥かも。っていうか、逃げる!」
OZ(ga4015)の指す先を見た空閑 ハバキ(ga5172)は煙幕を張って後退をかける。赤いHW群の視認報告が、すぐに回線を渡った。
「相手の色が違う? やることなんて、大体同じよ!」
ルー・シレティカ(ga8513)の言葉に、ジェーン・シレティカ(ga8510)も肩を竦めて同意した。姉妹の属する『八十六』は、既に空からの襲撃を数度撃退している。
「とはいえ、万が一の事は考えておくべきですね」
サック・R・アントン(gb5156)の警鐘に、警戒を強めるヤクーツク直衛部隊。すぐに、綺麗な横隊を組んだ赤いHW群が、視認される。3名の戦傷者を抱えつつも、残る仲間達の奮起で戦線の一翼を担っていた『渡鴉』にもその知らせは届いていた。
「赤い‥‥HWだと」
交戦の合間、聞こえた通信に天(ga9852)が、目を見開く。
「やはり、ここに来たか」
御影・朔夜(ga0240)が小さく苦笑した。
「俺は行ける」
「ケツはもってやるよ。行って来な」
「恨みではないが、仲間の借りは返しておかねばな?」
口々に言う仲間達と共に、鴉は新手の正面へと渡る。
その時、ファルル・キーリア(ga4815)がレーダーの僅かな乱れに気づいたのは、あの赤い機体との縁深き故、だろうか。
「‥‥FRが来るわ。徐々に後退して突出させて。敵に戦線を乱せさせないで!」
此度の戦場では、鹵獲の英雄も一介の兵士。その声は指示と言うより周囲に注意を呼びかけただけなのだが、敵からはそう見えなかったようだ。遠距離からのプロトン砲が数条、彼女の機体へと刺さる。
『やれやれ、兵力など残っていないではないか。この状況で指揮を執れとは、あの御仁も出し惜しみするのがよろしくない』
苦笑するようなクリス・カッシング(gz0112)の声と共に、赤い機体が陽炎のように姿を現した。
「敵機捕捉! 皆さん、無茶はしないように!」
憤懣をぶつけるように速度を上げる『渡鴉』各機に、イリアス・ニーベルング(ga6358)が声をかける。
指揮中枢を担っていた『Titania』レティ・クリムゾン(ga8679)の元へ知らせが入ったのは、その直後だった。瞬時に熊谷真帆(ga3826)・三島玲奈(ga3848)の2機の雷電を含む部隊の大半を失った『sms』からの報告だ。
「青い‥‥集団? それにステアーだと! それが本命か」
新手が混戦模様の西側戦線を南へ大きく迂回し、ヤクーツクへ向かっている事は、西方面の後方仮設拠点を構築していた『AidFeather』アイロン・ブラッドリィ(ga1067)よりの続報で明らかになった。
『やれやれ、無様な所を見せたようだ』
カッシングがぼやく。シモン(gz0121)のステアーがヤクーツクに迫った頃には、真紅のHWはその数を半数以下に減らしていた。
『仕方があるまい。元より駒が足りないのだ』
シモンが言うのは、兵力ではない。指揮を執る能力の有る者があと2名、いや1名いれば、ヤクーツクに迫る事も可能であろうに。バークレーが手元に集めたゾディアックを、1人寄こすだけでいいのだ。
●西方、再び
バグアの誤算は、今ひとつ。西で抗戦する人類側分遣隊の予想外の善戦だった。
「ここは絶対に通さん‥‥故郷に敗北の二文字を飾るわけにはいかないからな!」
8246小隊長のリディス(ga0022)が先頭で槍を振るい、次々に敵を討ち取っていく。彼女だけによる力戦ではない。
「皆の戻る場所を護らないと‥‥」
「此処は‥‥通さず‥‥」
脇を固める宇佐見 香澄(ga4110)やL3・ヴァサーゴ(ga7281)ら隊員達の力もある。
「守る者のないあんた達に‥‥あたしは絶対に負ける訳にはいかないんだから!
背後を支えた玖珂・円(ga9340)の元へは、小隊以外の無所属の救護隊や輸送隊も集結していた。
「清く正しい霧山久留里! 後ろで花を咲かせけり!」
好奇心もあってか、霧山 久留里(gb1935)は一通りの支援業務へ首を突っ込み、結果として成果を上げている。
「物資をお持ちしました。どうぞ」
御山・誠志郎(gb4256)が、どかっと弾薬を積み上げた。
「仕事があっても無くても、喜べないよな‥‥」
救難信号に耳を澄ますレイヴァー(gb0805)を狙う敵に、奇声と共に遠方からミサイルが刺さった。
「悪いね、命をかけてでも守りたい奴らが出来たんでねぇ」
同じく『I.C.E』の七ツ夜 龍哉(gb3424)が敵の射線を遮るように前へ。
彼らが拾い上げた声を頼りに、救いの手が伸びていく。
「ったく、どいつもコイツも無茶ばっかりしやがって」
数度目の緊急要請に、『マーズドライブ』のシルバーラッシュ(gb1998)が苦笑した。
「よし行くぞ、僕達の出番だ」
彼の背を叩いて、鯨井レム(gb2666)が先行する。背負ったこたつむりは、仲間を寒さから護る為だ。
「全弾一斉発射!!」
ベル(ga0924)の号令に、周辺数機がミサイルを叩き込む。後方を支える仲間のお陰で、弾の心配は要らない。
「‥‥今は目の前のことに集中するんだ」
爆煙を抜けてきたHWがブレイズ・カーディナル(ga1851)に叩き落された。
「皆のフォローは任せてもらいますよ」
彼らの防衛をくぐり抜けて東へ向かう敵の情報に、相澤瞳(ga4728)がラインを維持。
「全く、寒い上にきつい仕事だねぇ‥‥。本当にさ!」
月浜・如水(gb4789)のような無所属機も経由して後方へと逐次届いていた。
「隊長! 防衛ラインから漏れた敵集団だっ! 位置を送るぞ!」
「了解。鯨は確実に落としますよ!」
叢雲(ga2494)以下、『八咫烏』が邀撃に回る。向かってくる護衛のHWにも無傷の物はない。
「突入を支援します!」
対HWを意識した編成の『櫻第一小隊』がそのHW隊に牙を剥いた。茜・フォックステイル(ga0014)の狙撃が傷ついた敵に止めを刺す。
「ここを抜かせはしませんよっ!」
ヴァシュカ(ga7064)のレーザーが、大型HWを貫通した。破孔から紅蓮の炎が吹き上げる。
「小遣い貯めてようやく買えたバイパーの力、見せてやるよ!」
櫻隊の支援を受け、BFへと突貫した佐々木優介(ga4478)が吼えた。
「こっちがお留守ですよ!」
対空砲火を潜り、不知火真琴(ga7201)の放ったロケット弾が下部射出口に刺さる。炎を上げ始めた巨艦と、楓姫(gb0349)のバイパーが交差した。
「運が無かったのよ‥‥あなた達は」
ブリッジを剣翼で潰された鯨は立て直す事も出来ず大地に激突、四散する。AWの時の様に無数ではない。1つ、2つと潰していけば、終わりの見える数だった。
●青の戦い
『戦力はここにあるだけか』
『まぁ、お互いにやれる事をすれば良いではないか。それ以上の義理はあるまいよ』
相手の内心の苛立ちを察してか、喉を鳴らすように老人が笑った。立場的にはバークレーの下であるシモンは、沈黙でそれに答える。意思疎通は、それで十分だった。
『が、ここまでやられた以上、一泡くらいは吹かせてやらんと彼らに失礼。少し、任せても?』
『好きにするといい。請け負おう』
後退する赤いHW隊の中、真紅の機体が姿を消すのを視界に入れたシモンは小さく頷く。確かに、調子付かせては今後の為にも厄介だ。
「オウル1より各機へ」
周辺から呼び集めたのだろう雑多なワームを前衛に置き新手の青は後に控えた布陣だと、里見・さやか(ga0153)が報告する。主力は空中部隊だが、直下にキメラなども集まっているようだ。
「総力戦か。正面は我々が。アークバード各機、共に進み、共に撃て」
アルヴァイム(ga5051)の指示に、『アークバード』の各隊が攻撃隊形をとった。分隊規模では、飲まれる。
「此処がやられたら、お終いですね」
「‥‥」
哨戒機の護衛が担当のなつき(ga5710)と月薙・赫音(ga1628)も戦列に加わった。
「手すきの仲間は、南西に向かって。数に気圧されるな!」
周辺の指示を行っていた『Titania』咲坂 七海(gb4223)の声に、東や南側から応答が帰る。しかし、それまでの瞬時、今の戦力で持ちこたえねばならない。
「ホーク03、敵機を捕捉、援護を要請する!」
「ぜ、絶対に止めてみせます…!」
雑賀 幸輔(ga6073)と藤宮紅緒(ga5157)のロッテが、軽快さと速度で敵をかき回した。
「ゲートだのアグリッパだの‥‥人の故郷に無粋なモノ作ってんじゃないわよ!」
リン=アスターナ(ga4615)の突撃は、シモンが直卒部隊を差し向けるより早い。舌打ちしつつ自身の狙撃銃を向けるも、急場に対応しきれぬ旧式HWが射線を遮った。
『‥‥駒は主に似るか、無能め』
早々に駆逐されつつある寄せ集めの背後から、青いHW群が正確な一斉射撃を3度敢行する。勝ちに乗りかけた人類側の行き脚が僅かに鈍った。その瞬間、狙撃兵上がりのシモンが狙ったのは指揮官だ。情報の流れ、通信の流れから、どこを狙うべきか。戦場を渡り歩いた男の知識が教えてくれる。
「落とさせへんよ!!」
「やらせるかあっ!!」
篠原 悠(ga1826)、そして砕牙 九郎(ga7366)のカバーを受けつつも、青き鋭鋒の的になったレティが脱落した。しかし、エースであり周囲に指示を出していた3機を失ってなお、能力者たちの動きに大きな乱れは無い。
『インドとは、違うということか』
この場で、下らぬ男の為に賭けるのは、惜しい。ふとそんな思考が過ぎった。
「9時の方向。一斉射撃!」
「集中して攻撃するのですよ!」
和泉野・カズキ(ga8382)と如月・菫(gb1886)の指示に、周囲の無所属機を含めた各機がタイミングを合わせる。
「いかなる状況であれ、撃たれるよりは撃つべきだ」
村田シンジ(ga2146)のナイチンゲールがUK−10AAMを立て続けに放った。その攻撃を急旋回で振り切りつつ、機首を返したシモンはプロトン砲を剣の如く薙ぐ。それは、連携すれば抗しうるという甘い考えを断ち切るように鋭く。
「‥‥生きて戻ってみせ、ます!」
「やれることは‥‥やる!」
聞こえてきたマリア(ga9180)の声に、思わず割って入った七海真(gb2668)を纏めて吹き飛ばした。
●潜行する赤
「‥‥ここで敵、ですの?」
『トライデント』のアーシェラ・シフォン(ga8854)が気づいたときには、数機のゴーレムを中軸とした部隊が迫っていた。
「補給に向かいかけた時に、とは‥‥」
うまくいかないな、と篠ノ頭 すず(gb0337)は苦笑する。『フェアリー・チェス』を始め、ここにいたのは小部隊、かつ軽度の損傷を受けた物ばかりだ。
「右と、左をお願いします。私たちが中央を」
『フェニックス』の夕凪 沙良(ga3920)が咄嗟に出した指示は、敵の迎撃に辛うじて間に合った。
「ここを素通りできるなんて、思わないでよね!」
十字砲火の中、切り込んだ雪野 氷冥(ga0216)が敵機に槍を突き立て、抉る。反撃はこれまでよりも連携が取れていた。それを、怪訝に思う余裕も無く。
「すずは、私が‥‥!」
恋人を庇い、皆城 乙姫(gb0047)機が崩れた。敵も半減しているが、『トライデント』隊が交戦不能に追い込まれている。
「厳しいか‥‥。だがやるしかないな」
状況を見て取った『赤熱鉄』、星名 煌(gb3846)らがその穴を埋めた。
「さぁて、騎兵隊の到着だ!」
同隊のフェオ・テルミット(gb3255)が、どこか楽しげに続く。戦場に持ち込んだ僅かな拮抗の隙を、見えない死神が通り過ぎた。
『少しは、働いて貰わんとなぁ』
楽しげに笑うカッシングの背後で、4機目のゴーレムが吹き飛んだ。彼もまた、シモン同様に情報の流れを読んでいる。傭兵側の通信網の中に流れ込む一方の場所がある、と看破した2人は行きがけの駄賃にその破壊を目論んだのだ。目指した位置は、ヤクーツクのやや外縁に傭兵が設置した拠点である。
「‥‥げ」
書類片手に外へと駆け出した古井安男(ga0587)は、目の前に現れた赤い死神に、その一言しか出せなかった。
『諸君に10秒差し上げよう。逃げたまえ』
建物に砲口を向けたカッシングのFRを、ライフル弾が掠める。
「溜まった鬱憤はここで発散させてもらうか‥‥。フフフ‥‥」
補給に戻っていた伊流奈(ga3880)が、次弾を装填しつつ笑っていた。
『ぬぅっ?』
カウント7秒で施設にプロトン砲を撃ち込み、そのままFRは鎌を抜く。
「‥‥最後の最後まで、諦めるなよ?」
ジーン・ロスヴァイセ(ga4903)が孫のような年齢の伊流奈へ言ってから、緋色の悪魔に向き直った。
●打ちて、別れる
狙撃手の鍛えられた視力は、その位置に爆発が生じたのを確認していた。一際大きな爆発は、おそらく施設の誘爆。続く2つはKVの大破だろう。
『引き時か。これ以上は無駄だな』
芽生えた希望に実力と言う剣を突きつけてから、シモンは天高く自機を駆け上がらせる。人類側で追随不能な高速を見せ付けるように。行き去る機内から一度だけ背後を見て、微かに口元を歪めた。
『やれやれ、老骨には少々厳しいですなぁ』
ややあって追いついてきた老人の機体も、無傷とは程遠い。ステアーも、手傷を受けた。だが、『人類如き』に受けた手傷は、あの男と交わす言葉よりもよほど清々しいものだった。
「‥‥敵、引き上げて行きます」
奉丈・遮那(ga0352)の声に、皆が一斉に吐いた息が各々の耳をくすぐった。傭兵、及び軍部隊の損害は大なれど、ヤクーツク自体への被害は最小限に抑えられている。敵情を撮り続けていたピコ・ブラウニー(gb3814)が、勝利に一息つく兵士たちの姿へ思わずカメラを向けていた。
<担当 : 紀藤 トキ >
【ラインホールド攻撃】
●作戦開始
『敵航空機発見。これより戦闘を開始する』
誰かの言葉が、通信に乗った。
傭兵達の間に走る緊張。数百機と連なる航空機の群れが、シベリアの寒空を飛ぶ。一方では陸上を走るKVの姿もある。彼等傭兵の小隊マークやパーソナルカラーに染められたKVが、次々と敵戦力に接近する。
「‥‥たまには人類を舐めていた事を、後悔させてやらないといけませんね」
レイアーティ(ga7618)のKVが加速するや、彼に付き従う少数のグリフィン隊各員が、同様に敵機への攻撃を開始した。
陸戦部隊の先頭を進むグリフィン隊。
「簡単には落とされないよ! このシュテルン、買ったばかりなんだからぁ!」
神城 姫奈(gb4662)が吼え、シュテルンからライフルの弾丸を放つ。ケルベロスの脳天を貫く弾丸。しかし、先頭に現れた大型キメラの群れは怯む様子も見せず、数に任せて嵩に攻めかかってくる。
「数には数‥‥じゃないけれど!」
「フリージア隊、ルピナス前面に展開し迎撃。目標選定は各機に任せます!」
呟くメアリー・エッセンバル(ga0194)の言葉に、打てば響くように反応する九条院つばめ(ga6530)。ガーデンや月狼といった大部隊が展開し、敵の前衛に圧力を掛け始めた。
「こちら柿原、ゴーレム一機撃破」
「了解です――星組、応答して下さい」
柿原 錬(gb1931)の報告や、水無月 春奈(gb4000)の管制。竜装騎兵本隊で交わされる通信。水無月からの報告を受けて、鬼道・麗那(gb1939)がじっとモニターを見つめる。
「華組は前進しすぎないようにして下さい。雪組の航空優勢圏から外れます!」
竜脈の通信回線を用い、指示を飛ばす。
だが今は、指揮統率よりも先に、優先すると決めた仕事がある。
「竜宮の構築を急ぎましょう」
「ハーベスターは配置につきました」
「こちらユグドラシル。通信感度良好。陣地も早く頼むよ」
シエラ(ga3258)の言葉に錦織・長郎(ga8268)が言葉を返す。
竜氷と名づけられた作戦に基づき、彼らは可能な限り前線に近い位置へ野戦陣地を構築し始めていた。ただ、敵の攻撃は激しく、最前線ではない彼らの元へも、時折流れ弾が到達する。
「とんだ里帰りだな‥‥!」
リッジウェイに響く兆弾の音。セルゲイ・バトゥーリン(ga4438)は厳つい顔をしかめた。
「こっちこっちー! 資材はそこへぶちまけといて!」
リンカーベルのリペア(gb0848)がワッと大声をあげ、手を振るう。
隊のKVが簡易滑走路を作らんと凍りつく土を殴りつけたかと思えば、湯を沸かす為の穴も掘る。滑走路があれば、離着陸の安全性は大きく向上する。
●アグリッパ
敵防衛線に対し攻撃を仕掛ける傭兵達の前に立ちはだかる、ゴーレムやタートルワーム。その真正面にて盾を掲げたゴーレムの腰を、リッターシュピースの穂先が貫いた。
「ぼくはその、壁をこじ開ける。邪魔はさせないよ」
柿原ミズキ(ga9347)のシュテルンが、敵中へと切り込んだのだ。
反撃とばかりに彼女を狙う攻撃を、今しがた貫いたゴーレムを盾に、耐え凌ぐ柿原。回り込もうと地を蹴るキメラの胴体を、高分子レーザーの束が貫く。銃を掲げ、隣へ並ぶもう一機のシュテルン。彼女とて、無闇やたらと前進したのではない。
「ありがと。ナイスタイミング!」
「この調子でどんどん行くよー!」
通信画面でニッと笑う風花 澪(gb1573)。
「前進だ! この気を逃すな!」
可愛らしい顔に似合わぬ、真田 一(ga0039)のぶっきらぼうな怒号が飛ぶ。彼の指示に従い、月狼の一部が進み、その数と綿密な連携を活かし、じりじりと歩を進めていく。
アグリッパの有効範囲は凡そ10km程度と見られている。
航空部隊による攻撃を仕掛ければ、陸路よりも遥かに素早く距離を詰められる。にも関わらず、彼らはあえてそれを避けた。アグリッパの特殊機能による集中砲火を回避する為だ。
「眼前に立塞がる敵壁を、夜修羅が噛み砕く!」
ディアブロの掲げるリヒトシュヴェルトが、敵ゴーレムを真っ二つに叩ききる。
「オレに続けぇッ!」
隊長である山崎 健二(ga8182)の後ろに続き、夜修羅の各機が突進する。
前進に従って敵の抵抗は激しくなってはいくが、傭兵達の士気は高い。攻勢の続く彼らを前にすれば、もはや勢いが違った――その時までは。
「敵機接――しまった!」
先頭を行くレイル・セレイン(ga9348)の通信が、突如途絶えた。
直後、吹き上がる爆発。
バグア側から飛来した一機の機影が、近づく。
「ヘルメットワーム‥‥?」
ただ一機、単独で一直線にこちらへ向かってくる敵影を見つめ、アシャ(gb3323)は思わず呟いた。自身の記憶を手繰る限り、その姿はヘルメットワームのそれに似ていたのだ。似ては、いたのだが。
「‥‥違う!?」
叫ぶが早いか、少年の翔幻は幻霧と煙幕を同時に展開した。
その煙の中を突っ切る弾丸が、翔幻の肩を穿つ。
アシャの展開した欺瞞効果によって、辛うじて攻撃を避ける傭兵達。そんな彼らの脇を、超低空を飛ぶ『ヘルメットワーム』がすり抜けて行く。その姿は、ヘルメットワームのそれに似ていながら、明らかに違う機体と判断できるものだった。
睨み据え、天道・大河(ga9197)は無線機へ大声を張り上げた。
「新型だ、気をつけろ!」
その言葉が、通信網を介して他の小隊へと伝わる。そして同時に、他に二箇所で、ゴーレムとファームライドが発見されたとの報が入った。
「奴等の進行路は三方向‥‥俺と、ジェミニ、キャンサーで一箇所づつ虱潰しか」
コックピットの中で、アスレードが口端を持ち上げた。
戦場に現れたゴーレムが、大型のクロムソードを振り回し、次々とKVを切り伏せていく。その動きを見つめ、身構えるGargoyleの隊員達。
「あのエンブレム! 蟹座――ギルマンか!」
聖・真琴(ga1622)が、ギロリとゴーレムを睨みつける。月狼やガーデンと連絡を取り合うが、しかし、両隊もまた、敵新鋭機への対応に忙殺されている。
「出てきたは良いが、陸に現れたらしいな?」
「仕方ない、空中投下で行くしかないね」
無荒戸 哲夫(ga3815)の皮肉っぽい笑みに応じて、ドクター・ウェスト(ga0241)が指示を出す。GSA。西研は編隊を組み、高度を落としつつゴーレム目掛けて突進する。
ロバート・ブレイク(ga4291)のイビルアイズと連携し、国谷 真彼(ga2331)がゴーレムを正面に捉えた。
「ラージフレア一斉展開! いきますよ!」
ゴーレム上空のヘルメットワーム渦中を突っ切る西研。
殆どすれ違い様、全機は次々とG放電装置を切り離した。電撃の奔流が辺りを包み、地表をめくり上げる。うち数発が、ゴーレムの装甲を焼く。空対空ではない以上確実性には欠けるものの、盲撃ちにミサイルを叩き込むよりは遥かにマシだった。
「――今だ!」
動きが鈍ったと見て、皐月・B・マイア(ga5514)がアヌビスを駆けさせた。
機盾レグルスを構え、ブーストを併用して一足飛びに距離を詰めんと飛ぶ。そのシールド表層へ、次々と弾丸が突き刺さる。その後ろに続いて、聖のディアブロが駆け抜ける。
皐月の攻撃を避け、逆袈裟に彼女を切り裂くゴーレム。その懐に、ディアブロが飛び込んだ。
「ケリ付けるまでは、何度だって立ち上がる!」
聖の言葉に、ギルマンは応えない。
「出てこいやぁっ!」
一閃。
聖機が軸足を踏み込み、力の限りライトニングファングを振るう。がりがりと周囲へ響く、豪快な金属音。ライトニングファングとクロムブレイドが、互いの刃へと食い込んでいた。
「上手い‥‥!」
金城 エンタ(ga4154)のディアブロが、一歩遅れてギルマンに迫った。
一瞬背を屈めるディアブロ。人工筋肉とブースターを活かしたギガントナックルが、ギルマンのゴーレムへ強力な一撃を叩き込む。
ぐらりと揺れながら、踏ん張るゴーレム。
「‥‥今だ!」
動きが鈍った――そう見て、御凪 由梨香(ga8726)達T−ストーン小隊が地を走る。先頭に、彼やクリス・ディータ(ga8189)のディアブロを押し立て、大火力で一気に押し通る狙いだった。
しかし、その意図を読み取ったのか、或いは他からの援軍か。
突破を図った彼るの眼前に次々とキメラが表れ、その行く手を阻む。
「どけよ! 通せってんだ!」
ハンマーを振り回し、一歩一歩進むアルト・ハーニー(ga8228)。
攻勢を維持しようにも、とにかく数をもって彼らの攻撃に対し死体の壁を築くバグア。このままアグリッパまで突き進む事は、非常に難しい事と思われた。
瞬く間に数機分の残骸を積み上げて、二機のファームライドが大鎌を構える。
「ニコイチのファームライド‥‥獅子座じゃない」
何処無く悔しげな表情を浮かべ、シャーリィ・アッシュ(gb1884)はモニターの敵機を見つめた。彼女達デイジー分隊の正面にガーベラ、バーベナの両分隊、百戦錬磨の兵共が展開する。
「アグリッパへ到達するには、あれを突破しなくてはならない、か」
「えぇ、臆する訳にはいきませんからね」
セラ・インフィールド(ga1889)の言葉に、夏 炎西(ga4178)が頷く。
『『どけえっ』』
ガーデン隊の只中へ顔を向け、幼い声と共にファームライドが加速した。
「来る!?」
智久 百合歌(ga4980)のワイバーンがマイクロブーストを噴射しつつ、高分子レーザーをファームライド目掛けばら撒く。しかし尚、速度を落とさず弾丸の嵐の中を突っ切って来る。格闘戦に持ち込もうとしている事は明白だ。
智久機の前脚を、刃が寸断する。
「抜けられた! 気をつけて!」
「させるか」
リュイン・カミーユ(ga3871)の雷電が、その巨体を大推力で突っ込ませる。掲げられたヒートディフェンダー目掛け、ジェミニが大鎌を叩き付ける。
「子供には過ぎた玩具なんだよ!」
『そんな攻撃で僕達をやれ――ゴホッ!』
「!?」
ジェミニが何かに咽返った。ガクリと動きの鈍るファームライド。
一瞬の違和感も他所に、リュイン機のショルダータックルがファームライドの胴を打つ。試作練剣「雪村」へマニピュレーターを伸ばしつつ、リュインは叫んだ。
「透! やれっ!」
「マニューバ機動‥‥雪村展開」
ふらつくファームライドを捉え、鐘依 透(ga6282)のミカガミが地を蹴る。接近戦に特化したマニューバが機を敵の死角へと機を滑り込ませる。迸る練力の奔流が、ミカガミの右腕に光の刃を形成する。
「誰も、誰もやらせない‥‥っ!」
走る雪村。
だが、その刃がファームライドを捉えるより早く、彼の機体を振動が襲った。
『あっちいけえ!』
「くっ!」
片割れの体当たりに逸れる軌道。
雪村は敵の大鎌を握っている腕を掠め落とすと同時に、役目を終えて霧散する。このチャンスを逃すまいとリュインの雷電がブースターを展開するも、ファームライドは背を向け、一目散に逃げ出してしまう。
戦闘時間、僅かに三分だ。
「‥‥何しに来たんだ。罠か?」
「罠のようなもんは見当たりゃしねー、です」
首を傾げる有栖川 涼(ga6896)の疑問に、シーヴ・フェルセン(ga5638)が呟く。神撫(gb0167)も、同様の結論を下した。
「同じく。不審点は見当たりません」
「何かしら‥‥けど、彼らの都合に合わせる必要も無いわ。前進よ、アグリッパまであと少し。頑張りましょう!」
エッセンバルの言葉を合図に、ガーデンは前進を再開した。
来たばかりのファームライドに逃げられて、キメラやゴーレムを中心とした敵防衛線が瞬く間に突破される。キメラの本能がそうさせたのか、その隙を埋めようと、隣り合った三時方向のアグリッパ周辺から、じわり、じわりと敵防衛部隊が移動を開始する。
そんな動きを、遠めに認める一隊。
「‥‥これを待ってたんだ」
鋼 蒼志(ga0165)が、頷くように面を上げる。
「ガムビエル戦の借りは‥‥ここで返してやる! 響け、Cadenza!」
「了解。Cadenzaより『L』へ。これより当小隊は、強襲を仕掛けます!」
神無月 真夜(ga0672)の言葉が、通信網に流れる。
鋼以下、Cadenza小隊の各機が、突如として戦場へ乱入する。友軍を囮にする程の割り切りをもって、手薄となった三時方向へと、十機前後のKVが殴り込んだ。
「こちら0's。電子支援を開始する!」
「同じく、私達も支援に入ります」
大和長門(ga7140)のウーフーが後衛として随行したかと思えば、佐伽羅 黎紀(ga8601)やルクレツィア(ga9000)ら、他の傭兵もまた、通信網の情報を頼りに次々と合流する。彼等が戦場で組み上げた即席の小隊が、Cadenzaの脇を固めた。
「ズドラストヴィーテ、エスコートは頼んだ」
Cadenza所属の黒江 開裡(ga8341)が、小さな笑みを浮かべた。
減ったとは言え、敵の防衛戦力がゼロになった訳でもなく、強襲を仕掛ける彼等にとっては、友軍機の合流ほど心強いものは無い。
「‥‥堕天使共の羽もぎは任せた」
得物を握らせて、嘉雅土(gb2174)のKVが隣へ並ぶ。アグリッパ攻撃班のエスコートが自分の任務と心得ている以上、華は無くとも、それで良いのだ。
「悪いけど‥‥お前等に構ってる暇無いんだよね!」
霽月(ga6395)のスカイスクレイパーが、敵の攻撃をかわし、木々の合間を縫って走る。暁の騎士団は立ちはだかる敵を排除するどころか、無視するほどの勢いで、とにかくアグリッパへと向かう。
多数の傭兵が合流し、ある程度の数に纏まった彼等強襲部隊は、最初の勢いを殺さぬまま、一直線にアグリッパを目指して進んでいた。
ふいに、視界から敵が減る。
「無駄な戦闘は避けたいところだけど‥‥」
彼らの前に現れたのは、針葉樹林の中から今まさに飛び立たんとするアグリッパの姿だった。ヴォルク・ホルス(ga5761)の口元に、薄っすらと笑みが浮かぶ。
「こいつを始末するのは、無駄な戦闘、じゃないからね〜」
暁の騎士団が三方向に展開し、十字砲火を浴びせかける。
飛び立つ寸前にあったアグリッパを銃弾が貫き、次々と襲い掛かる団員たちが切り刻む。
「もう一撃‥‥うわっ!?」
振り返ったグレン・アシュテイア(gb4293)のKVが、敵ミサイルの攻撃を受け、転倒する。混乱から立ち直りつつある敵が、アグリッパを回収せんと殺到する。
「逃がさへん‥‥!」
このまま逃げ切られてはならない――沢良宜 命(ga0673)のアンジェリカが大地を踏みしめ、大型レーザーガン「デルタレイ」を掲げる。
「人の命を踏みにじった罪、今こそ禊いで貰うわ!」
銃口から伸びるレーザーが、一直線にアグリッパを貫いた。吹き上がる爆炎。直後、アグリッパは閃光と共に砕け散る。そのアグリッパは、奇しくも、一度取り逃した『ガムビエル』だった。
●危険な奴
「このままでは‥‥」
月狼十八番隊を率いる鏡音・月海(gb3956)が、悔しそうに唇を噛んだ。
敵味方の攻防がますます激しさを増しているというのに、今の彼女達は、ややまばらな敵を始末しつつ、友軍の無事を祈るしか無い。ここから少し進めば、そこはアグリッパの影響範囲。航空部隊を、無防備なままそこへ突入させる訳には行かないのだ。
「くぅ‥‥早い‥‥!」
イスル・イェーガー(gb0925)のウーフーが、ガトリング砲を振るった。他の十三番隊の面々もまた、敵キメラやワーム、そしてこの新型ヘルメットワームへの対応に忙殺されていた。その新型ヘルメットワームの素早い動きを捉えられず、月狼の一部連携が乱される。
「落ち着け。敵は一機、手数はそう多くない! 弾薬の尽きた機体は下がって補給へ!」
セレスタ・レネンティア(gb1731)の指示が飛ぶ。
事実、敵新鋭機は一機だ。力押しに押し切れない事は無いだろうが、彼等はそのようにリスキーな強攻策には、打って出なかった。あくまで攻撃に耐えて、一瞬の隙を探っている。
その時だった――
「血祭りにあげてやるぜ」
急降下したヘルメットワームが、ソードウィングを翻して地表スレスレを飛んだ。
朧月。
作戦が発せられる。
月狼の各分隊は可能な限り素早く周囲へ展開し、幻霧を発生させる。霧の中へ紛れ込み、姿を隠す幾多のKV。アスレードがその不可解な動きに、眉を持ち上げる。
危険だ。そう察知して急制動を掛けた刹那、霧の中から幾筋もの光条が飛び交った。
部隊員の数と連携を生かした、辺り一面を覆う波状攻撃。
それらの攻撃を避けんとして、ヘルメットワームの機動が大きく弧を描いた。
「よし‥‥こっち来い!」
「尻尾をつかんでやる‥‥」
神浦 麗歌(gb0922)や月森 花(ga0053)達が、練剣等の格闘武器を手に、幻霧の中から飛び出すと同時にそれらを振るう。空気を切り裂き、あるいは焼き、ヘルメットワームへと迫る刃。
それでも次々と刃を避ける最中、終夜に続けて抜き放たれた柄から、光が放たれた。
「捉えたあ!」
「残念だったな!」
宗太郎=シルエイト(ga4261)と、真田 一(ga0039)の二人だった。終夜の斬撃から間髪入れずの、SESエンハンサーやブーストまで併用した雪村による奇襲。
その切っ先は、確かにヘルメットワームを捕らえていた。
「俺達はそう易しか‥‥何だ!?」
「――やばい! 退け!」
フォース・フィールド接触の瞬間、雪村から放出されている練力が、輝かんばかりに弾かれる。アンジェリカの胴体をソードウィングで寸断し、アスレードのヘルメットワームが一直線に飛ぶ。斬撃に姿勢を崩していた終夜へと、オイルに濡れた翼が襲い掛かる。
「死ねッ!」
その刹那、如月・由梨(ga1805)のディアブロが、間に割って入っていた。
「無月さんに近づく敵は全て――」
知覚剣がダメなら――彼女の心が奥底で、憎悪にも似た攻撃性が吼え猛る。ディアブロのアグレッシブファング。ディフェンダーによる、他の追随を許さぬ圧倒的な実体剣がヘルメットワームを正面から捉え、そして、フォースフィールドに弾かれた。
『今のコイツにはなぁ!』
コックピット脇を掠める、ソードウィング。
『何やったって無駄なんだよ! ハハハハハ!』
響くアスレードの高笑い。
『朧月』を駆け抜けると共に、展開されていたフォースフィールドがふわりと拡散する。ヘルメットワームの装甲に残る傷は、とてもあの大火力攻撃を受けた傷跡とは思えぬ程に浅かった。
●戦場の綻び
負傷した兵士の応急措置で血に濡れる腕。
東雲・智弥(gb2833)を隊長とする、カンパネラ自由隊だ。
「大丈夫、傷は浅い!」
慣れないながらも、傷口の止血だけでもと手を動かす。隣では他の傭兵が、救援要請の為に無線機を手にしている。
『安心して。直ぐ向かうわ。そこに助けを必要としている人がいる限り‥‥なんてねっ!』
無線機の向こうから聞こえる、美崎 瑠璃(gb0339)の明るい声。
「行くよ、Lapis!」
その言葉通り、ワイバーンが四足で駆け、現場へと急行する。彼女達の機動小隊『修羅の風』をはじめとして、ヘイムダル等の小隊も、情報網からもたらされる報告を元に、ひっきりなしに前線と陣地を往復している。
「あとは仕上げをごろうじろ‥‥っと」
テンタコルス海兵隊、ヒカル・スローター(ga0535)がバイパーにスナイパーライフルを掲げさせる。近隣の味方を支援しつつ、十字砲火を浴びせて一匹ずつ、確実に仕留めて行く。
「負傷者の輸送路に敵を入れる訳にはいきませんからね」
聴講生部隊『竜友』のドニー・レイド(gb4089)が、呟く。
彼等後方部隊の護衛部隊は、特別忙しい様子ではなかった。敵の戦力は主に迎撃へ廻されており、後方の拠点を襲う敵は少数での奇襲がメインだったからだ。ただその一方、気の休まる時が無いのもまた事実だった。
『永久凍土諸共打ち砕いてやるッ!』
「‥‥歌?」
『熱く激しく力強くッ! 貫けェッ!』
本部へ物資の回収に向かっていた柴鬼 幸紀(gb0645)は、思わず首を傾げた。竜脈を通じてハードロックが響き渡る。
「悪くは無い‥‥けど、今はこっちが先か!」
エリク=ユスト=エンク(ga1072)のシュテルンが、多数のプロペランとタンクを積載して空を飛ぶ。
「先導します、こちらへ」
ニウァリス・アルメリア(gb2734)の翔幻がふわりと上昇する。その背後に続いて、エリクは小さく眼を伏せた。
「助かります」
「いえ、守るのが俺達の役目ですから‥‥」
貴重な運搬機が飛べば、必ず護衛機が上がってくる。多少効率は悪いが、戦場に程近いここではそれが一番安全かつ確実なのもまた事実。天地 明日美(gb2400)の機が物資を運んでくるや、ガーデン・サルビア隊の各員がわっと集まった。
「テントは?」
「そっち!」
「医療キット、持ってくから!」
バタバタと救護班が走り回る。待威 勇輝(gb4230)達は、必要な物資を脇に抱えるが早いか、血だまりと化しつつある救護室へと、駆け足で舞い戻っていった。
「撃破されたアグリッパは西へ配置した『ガムビエル』に、東南東『ハマリエル』」
「二基か。ゾディアックに守らせていた筈だ。奴等はどうした!」
「アスレード様は健在。搭乗機が多少損傷しましたが一切問題ありません。ギルマン様は損耗が激しいとの報告もありましたが、踏み留まっておられます。ジェミニは接敵と同時に退却――報告は以上です」
「面白い冗談だな。えぇ?」
「冗談ではありません。事実で――」
秘書官のオデコがごつんと小突かれ、黒い長髪が、さらりと揺れる。
「僅か数分で退却か。ジェミニ共め、遊びではないんだぞ!」
掌に拳を撃ちつけ、バークレーは苛立たしげにモニターを睨みつけた。
欠落したアグリッパ方面へ、次々と人類側戦力が侵入している。中には当然、ラインホールドやゲートを狙って爆装した機もいるであろうし、ユニヴァースナイト二番艦も控えている。
「止むをえん。ラインホールドで直接迎撃する! 敵本隊を正面に捉えろ!」
「ハッ!」
彼の号令に従い、ブリッジクルーが素早く動く。その中には、人類とは違う異形の者さえ、ちらほらと見当たった。慌しさを増すブリッジの中央、指揮官卓に腰を下ろしたバークレーがおもむろに腕を組む。
「空飛ぶ戦艦か‥‥バークレーの記憶には情報が無いな」
「閣下。何か?」
「独り言だ。火器管制システム切り替え、主砲発射用意!」
再び、怒号が飛んだ。
アグリッパさえ無くなれば、ラインホールドからの超長距離攻撃の脅威は大幅に軽減される。
「さぁ行っておいでour heroes♪ この空を奪い返しに♪」
二桜塚・如月(ga5663)が楽しげな声を上げる。最前列の背後に付けた彼のイビルアイズがロックオンキャンセラーを展開し、先鋒隊を支援する。先程まで突入を躊躇していた航空隊も敵ヘルメットワームを駆逐しつつあり、ユニヴァースナイトの巨体がその背後に続いていた。
周囲を飛び交う、ラインホールドからのホーミングレーザーやホーミングミサイルの嵐。
「砲撃準備! 敵に一撃を加え、一番艦到着の前に橋頭堡を築く!」
「砲撃準備ぃ! 射軸と艦運動を連動させよ!」
ブラッド准将の指示の元、艦長の号令と共にユニヴァースナイト二番艦の主砲が展開される。
全長800mにも及ぶ巨体からせり上がる主砲。その動きに、傭兵達の間にどよめきが上がった。射線上から退避するKVと、その意味する事にやや遅れて気付くヘルメットワーム。
彼等がその圧倒的加速性をもって移動を開始した時、ユニヴァースナイトの主砲が輝いた。
数機のヘルメットワームがその威力に耐え切れず、爆発する。
数秒と経たず、ラインホールドへと光の筋が延びた。
「ちょ、直撃弾です!」
「‥‥」
黙るバークレー。
秘書官は息を飲み、迫る光を見つめる。
ラインホールドのフォースフィールドを貫き、拡散する光。ユニヴァースナイトによる主砲の一撃がその装甲を焦がし、巨体を揺るがす。
「ク、クックック‥‥」
バークレーが、小さく喉を鳴らした。
その場に残っていたのは、先程と変わらぬラインホールドだった。その装甲に破損こそ見られても、とても大ダメージを与えられたようには思えない。
「‥‥再射撃準備!」
ブラッドの命令が飛ぶ。
主砲充填の合間を縫うように放たれる荷電粒子砲が、ラインホールドの装甲を焼き焦がす。
「ハハハハ! 健気なものだな、えぇ! 礼砲だ。主砲を見舞ってやれ」
全身から数多の対空砲火を打ち上げながら、ラインホールドの両肩がゆっくりと動く。その砲身が帯電しているのか、周辺の空気がばちばちと弾ける。
「‥‥ラインホールドが主砲を展開!」
「何だと!?」
「くそ、離脱しろ!」
サイレントヴェール所属、パチェ・K・シャリア(gb3373)から発せられた情報が、通信網「L」に接続した各傭兵へと届く。機を翻し、直ちに離脱して行くKV群。ユニヴァースナイトもまた、逆噴射を掛け、その巨体をゆっくりと移動させ始めた。
メインブリッジで、ブラッド准将が立ち上がる。
「主砲充填中止。艦長、操艦は任せる!」
「ハッ! 面舵35度、エンジンは最大出力で廻せ!」
操舵手が必死で、命綱を手繰り寄せる。
先程までゆっくりと回避運動をとっていたユニヴァースナイトは、水平を保つ事さえ放棄して、全速力で艦を移動させる。
「ラインホールドに高エネルギー反応! 来ます!」
「総員、振動に備えろ!」
艦長の怒号と前後して、空を光が走った。
ユニヴァースナイト二番艦の側面を掠めた光条が雲を霧散させ、その向こうへと走る。逃げ遅れたキメラやナイトフォーゲルは、爆発する事すら無く、文字通り消滅する。
数秒間、周辺一帯を照らす程の圧倒的な光の筋。
直撃を免れたユニヴァースナイトさえ、焼かれた側面装甲から小さな爆発が巻き起こる。直撃していれば、タダで済むとか済まないとかいうレベルでは無い。大慌てで艦橋を走り回るブリッジクルー達。傭兵や正規軍のKVは崩れた編隊を正しつつも、徐々に戦線を縮小していく。
「‥‥己の不明を恥じるべきか」
ブラッド准将が落ち着いた様子で、モニターを睨みつける。
「これ以上は危険だ。アグリッパの一角を崩した以上、暫くは時間がある。一番艦の到着を待つしかない。一度戦線を縮小させる」
急速に離脱していくユニヴァースナイト。
一方のラインホールドのブリッジではクルー達が勝利を確信した笑みを浮かべている。双方の戦闘能力にここまでの差があるのだ。対空火器が強化されている上に、アグリッパを従えているこのラインホールドに敵は無い。
「まさしく浮沈艦だ」
「閣下。我々の勝利は決まったようなものですな」
方々から上がる声。
だがその時、この戦場の一角に、小さな綻びがあった。
「まさか、こんな‥‥」
一機の翔幻が、盾を構えて立ち尽くしていた。
星井 由愛(gb1898)だ。
陸路をLHまで接近していた彼女は、一部始終を見つめ、今また撤退を前にラインホールドへと視線を転じた。目の前に広がった光景を思い出してごくりと息を飲みながらも、彼女は肩から伸びる主砲を見つめる。
主砲を撃ち終えたラインホールドが、ゆっくりと主砲を起こす。
同時に、主砲基部に『板』が広がった。一本の主砲につき、開いた『板』は十二枚。板の裏側に設置されている、ダクトらしきもの。それらダクトから、もの凄い勢いで蒸気が吐き出されていく。
「‥‥これって‥‥もしかして‥‥」
ハッとして、モニターを見やる。
赤外線画面では、主砲周辺が真赤に染まっている。
(私の妄想じゃないよね‥‥?)
疑念は確信に変わる。ならば、早くここを離脱しなければ。皆に、この事を伝えなければ――彼女の翔幻は踵を返し、直ちに戦場を離脱した。
<担当 : 御 神 楽 >
後編へ
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