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<報告書は前編:後編から成る>
広域後方支援 ヤクーツク防衛 歩兵戦闘 ラインホールド攻撃
【広域後方支援】
●鈍色の大地から
白銀世界。その言葉に相応しく、真白き雪原が辺り一帯を覆った、ヤクーツクからウダーチヌイにかけての広域地帯。
が、今となっては、それは虚しくも過去の光景となっていた。その白い大地が続く一面には、本来見受けられないはずである鉄くずの残骸や、無残な戦闘跡、散らばった物資や不発のミサイル等など、到底美しいと呼ぶには程遠い人工物の数々が。
そう、まるでそれは、白き世界を鈍色の世界へと変えてしまうかのように‥‥
『ここが正念場だ。お前ら、愛してるぜ!』
しかし、ここまできてむざむざ相手に勝利を与えてやるつもりはない。いや、むしろ、ここまで至る為に払ったたくさんの犠牲の為にも、絶対に負けるわけにはいかないのだ。
傭兵達へ向けて現状の状態中継を行っていた小隊【FM−Rev】の大河・剣(ga5065)は、場所は最前線から後方支援まで、戦いに身を投じる全ての仲間を励ますかのよう、中継する声にも力を入れる。
『作戦終了までは、ぱーふぇくつに生放送しますのですよーん』
こう意気込むは、同じくFM−Revのルュニス(ga4722)。ラジオ局が何時襲われてもいいように、建物の横には彼女のKVが雪村を内蔵したまま何時でも戦闘に移れるよう整備済みだ。
最初にこの地で火花が散ってからどれほどの時間が経ったのだろうか。短くとも、果てしなく長いようにも感じ取れた。
だが、鈍色の大地へと変わり果てていく大地を舞台に開始された作戦も、いよいよ本フェイズで最終局面へと移行し始める。
辛い戦いに終止符が打たれた時、最後に笑うのはどちらなのか。
いつか見た日々を取り戻す為、人類にとって決して譲れない戦いが、今始る――
●後方支援
戦争では、どうしても各小隊、或いは個々レベルでの戦闘がピックアップされだがちだが、勿論、それは後方にて戦う者達があってこそだ。
ここでは、そうした裏において、本戦いに貢献した傭兵達を少し挙げてみるとしよう。
「俺の本能が叫ぶのだ! 飛行場をぉ、建設しまくれとォォォ!!」
まずは、他の参加者とは違い一風変わった発想の下、ひたすら小規模な野戦飛行場の建設に勤しんでいたチーム【ゲソレンジャー】をご紹介。
その中の一人、本能の赴くままに叫びながら、威勢よく飛行場作りに励むは這い寄る秩序(ga4737)。
一見無謀そうにも見える彼らの行いだが、侮るなかれ。飛行場と言うよりも、補給地として言葉を言いかえればお解り頂けるよう、戦場においての中継ポイントを確保することの重要性は語るまでもない。
「今日は穴掘り頑張る、よ」
「この一戦で‥‥戦局は変わるッ! 必ず死守するぞっ!」
が、傍から見れば何とシュールな光景だろうか。KV用のシャベルでせっせと穴を掘る祈良(gb1597)がいるかと思えば、近づいてくる敵に飛行場作成を邪魔されぬようDr.ヘナチョコビッチ(ga4119)は弾幕の嵐。
こうして、着々と建設を進めていくゲソレンジャーの面々だったのだが、時間的に立派な飛行場が完成したときには、戦いは既に終わっていそうな気がすることは、今は言うまい。
「にゃにゃい〜んばすた〜〜〜〜〜っ!!」
「命の鼓動の交響曲、止めさせません!」
一方、こちらは最前線とはいかないまでも、戦線からあぶれ出してきたキメラなどの駆逐に当たっていた小隊【フルーツバスケットα】のアヤカ(ga4624)。
可愛らしい台詞とは裏腹に、ちゃっかりエネルギー集積砲による光の束をキメラへと一直線の彼女の近くでは、戦場に響く爆発音などから伝わる振動を肌で感じるかのように、小森バウト(ga4700)が奮闘中。
「音楽がある限り、僕は負けない!」
そう叫び、小森の対戦車砲から絶え間なく響くビートは、彼にとってはロックベーストと言ったところか。だが、願わくば、何時かその耳に平和な音色だけが奏でる世界がやってきてほしいと、切な願いがあることもまた事実であった。
『すぐ助けに行くから、待ってて!』
後方支援に定義を設けることは難しいが、上述したように積極的に敵の排他を努めるのも後方支援であれば、ネルソン・フィリッピ(ga5155)のように戦場を駆け巡り負傷者の救出に従事することも、また立派な後方支援におけるひとつの選択肢であったろう。
小隊規模に関わらず味方からの緊急要請を受信しては、リッジウェイと共に対人救助と輸送を同時に担当するネルソン。リッジウェイの拡張性を活かした、見事な貢献だ。
「盗聴されるほど俺達の網はたいしたものってことだろ?」
場面は変わり、ミールヌイ。そこでは、最大の臨時拠点であることもあり、若葉【蕾】による情報の統括や分析が秒単位で行われていた。
如何にも、敵の挙動や言動からして無線などによる情報が筒抜けになっていたらしい人類側だが、新暗号の開発など考慮に入れるものの、やはりそれが実を結ぶかと言われれば厳しい状況である。
そんななか、若葉【蕾】は[L]情報網の形成を主軸に、全体配信と個別配信を区別することで、より情報の信頼性を底上げすると同時に、迅速な連携を作る足かがり的な役割も担うことにも成功していた。
やはり、戦争の最大のポイントは情報戦なのだ。アキト=柿崎(ga7330)を始めとし、三間坂 響介(ga4627)は、逆に盗聴される程の価値があるからこそ、絶対にそれを疎かにしてはならないと意気込む。
戦闘と情報網の統制。難しい大役ではあるが、だからこそ遣り甲斐があると同時に、彼らのひたすらな眼差しに熱を入れる原因に成りえるのも、確かな事実であったろう。
「さて、と。お次はどの子ですの♪」
また、数多のKVが出撃する以上、やはり問題となってくるのは損傷した機体の回収や修復作業などの効率化だ。
機体の破損状況を分析しながら、整備に携わるソル・ルイス・ラウール(ga6996)が所属するのは、遊佐アキラ(ga7091)率いる小隊【EGG】。
以前から機体の整備や回収に貢献してきた為であろうか。手慣れた様子でアキラは作業に集中する。
「仕事、少ない方がいいんだけど、な」
胸に想うは、少しでも多くの機体を戦場に送りだせるように、との願い。軽度の損傷の機体から順に点検を開始していくアキラだが、やはり生々しい疵跡を見れば、戦場の悲惨さは手に取るように分かる。
だが、苦い気持ちのままKVに触れては、整備不良を起こす原因になってしまう場合もあるだろう。辛い現実と戦いながらも、EGGは黙々とKVに新たな命を吹きこんでいくのだった。
●最悪の悪魔
『はぁ‥‥あたし1人じゃ、そんなに信用できないってのかしらねー。プリちゃんショックかもぉ↓』
『そんなことなくてよ。あくまで、わたしはおまけ程度ってとこかしら♪』
バグア軍本拠地。そこでは、先の戦いでそのポテンシャルを見せつけたプリマヴェーラ・ネヴェと、とある1機の機影が見てとれた。
爪をいじりながら、コクピット内で足を組み不満をこぼすネヴェに、まだ幼く感じられる声の持ち主は続ける。
『それにー、行動は別々にしましょうよ。お互い、やりたいことはあるだろうしね』
『んー。あたしはUPCのワンワンの泣き声が聴ければそれでいいんだけどー。まっ、適当にやっとくわ♪』
高いテンションで、語尾に絵文字がついてきそうな喋り方をするネヴェに比べ、一方はおとなしくおしとやかそうな口調の様子。
『それじゃ、いきましょうか』
『了解〜♪ さぁって。今日は、ペット用に誰かワンコを1人お持ち帰りしようかしら〜』
1人が声を発したと同時に、既にそこには続く声しか残っていなかった。圧倒的な速度で曇天を突き抜ける2機の機影。
1機はネヴェの搭乗するFR。そして‥‥
『プリマヴェーラじゃないけど、わたしも機体の1つぐらいは貰っていこうかな』
あぁ、何ということか。大きな敵戦力としては、ネヴェのFRだけと考えられていた広域後方支援。
だが、その上空に突如として現れたのは――
「うそ‥‥。何で、アイツが‥‥」
わずか数機しか確認されていないものの、その戦闘レベルは壮絶なものと判断される――ステアーだ!
しかも、ソレに身を置くは、最初期の頃から確認されていた人類の忌むべき敵、リリアン・ドースン。
かくして、最悪の敵を迎えたロシアの空では、戦いの終幕へと向かう前に、新たな戦いの火蓋が切って落とされる。
熾烈を極めし局面は、続々と数を増やす負傷者を見据えながらも、なおも止まることを許しはしない――
●舞う赤翼
『その迷彩――剥がさせてもらいましょう』
ステアー出現の報を受け、傭兵達の頭を真っ先に過ったのは、FRの存在だった。敵も本腰を入れて、最高の手札を切った状態。
この混乱とインパクトが傭兵に影響を与える今、ネヴェからすればそれは絶好の機会だろう。
まずネヴェの存在に気づいたのは、赤外線による探査を続け、逐一FRに警戒をしていた空戦部隊【Simoon】のフリューゲル(ga6829)。
「見える見える見える‥‥、そこっ!」
瞬間、レーダーの僅かなブレ幅を確認した鳳 つばき(ga7830)の試作型「スラスターライフル」が火を噴く。
焼けつく大気。歪む空間から、はっきりと可視光レベルの波長域として目に捉えられた姿は‥‥
『ちょっと、いきなり何すんのよ! マジ信じらんな〜い。ぶっ殺す☆』
戦場に姿を見せるのは3度目ネヴェと‥‥彼女のFRだった――
『誰であろうと‥‥補給線は、僕らが守る‥‥』
静かに、しかし徐々に口調を強めながら無線越しにラシード・アル・ラハル(ga6190)は声を発する。
少年兵。そんな言葉で片付けるには、あまりにも無粋な大役――小隊長という荷を背負いながら、彼は銃口をFRへと向けた。
静かに息を呑む彼の表情は、幼さを残す顔立ちからは打って変わり、静かに獲物を見つめる鋭い目へ。
『Simoon全機、迎撃体制!』
放たれた一声。了解、その言葉が空戦部隊Simoonの全機から彼の耳に伝わるまでには、既にネヴェのFRへ向けて鮮やかな爆発による華が咲き誇っていた。
『今度こそ、あのゾディアックのオバンを倒す!』
対ネヴェとの戦闘が開始された空域――ミールヌイ上空周辺では、戦力の増幅の為、拠点の防衛にあたっていた若葉【弐】が警戒レベル最大で各々武装の展開を開始。
オバンかどうかはさておき、打倒ネヴェに闘志を燃やす坂井 胡瓜(gb3540)の少し先では、激しい火花を散らしながら次々と機体を蹴散らしていくFRの姿が。
『FRの接近には気をつけろ。気張っていけよ!』
対EQとの戦闘も忙しいものの、やはり気になるのは上空で戦うFRの様子である。此処ミールヌイは人類にとって非常に重要となる拠点。何としても、FRによる爆撃などの被害を出すわけにはいかない。施設内部には、負傷者を始め生身で活動する傭兵も多々存在しているのだから。
「何度も同じ動きが通じると思うな‥‥そこだ!」
『あははは、やるじゃないの! でもー、多分無理♪』
小隊とのシンクロ率が極めて高い連携を見せながら、高い洞察眼を駆使しG放電装置のトリガーを引く緋沼 京夜(ga6138)だが、まるで錐揉み回転するかのようにそれをかわしたネヴェは、お返しと言わんばかりに接近しつつライフルを撃ち抜く。
放たれた弾丸、伝わる衝撃。機体の装甲を剥ぐ痛烈な一撃が、FRの凄まじい戦闘力を物語っている。
『一斉にかかれ! 周りをよく見て互いにフォローするのじゃ! FRと言えど操縦者の目は2つだけだからの』
だが、幸いにも数ではこちらが勝る状況。藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)らは、ここぞとばかりに多方位からの飽和攻撃!
『ほらほらぁ、そんなに慌てないでよぉ。あたしって人気者ね↑』
『ふん‥‥人気者じゃなくて、邪魔ものの間違いでしょ。さっさとお帰り願うわよ! 皆、協力をお願い!』
しかし、ネヴェの動作は先の戦いで見せたものより、更に上をいくかのようなものだった。アンジェリカ 楊(ga7681)の追撃も虚しく空を切るだけで、交戦すればするほど疵が増えていくのは人類の方。
と、その時、ラテンポップスを彷彿とさせるステップをリズムカルに踏み、空を飛びまわっていたFRの無線に、突如として強制通信が割り込んでくる。
『随分とぎゃんぎゃん吠えるのね。最も、その程度じゃ女としてたかがしれてるさね』
「!?」
ハッとするや否や、脳が即座に言葉の意味を理解し、憤怒の表情で無心の発信源を探るネヴェ。しかし、その無線の声はなお続く。
『と言うか、良い年してギャル語使うなって話よね』
『‥‥へー、随分と生意気な口利いてくれるのね‥‥。調子乗ってんじゃないわよ! 出てきなぁ!』
明らかに先刻と違い、口調を荒げたネヴェは高度を下げエネルギーの集合体を放射!
一瞬で雪は蒸発し、焦げ付く大地を見下ろすネヴェの下には、通信の発信源と思しき無線局が。
‥‥しかし
『ふん、ざまぁみ‥‥』
『あはっ、バーカ。そんな攻撃じゃ、傷一つ付けられないよん』
『なっ!?』
どういうわけか、一方的な通信が途絶えることはない。
実はこれ、ネヴェが無線を傍受していたことから、ふと考案するにいたったカーラ・ルデリア(ga7022)の策だったり。
嫌らしくも見事ながら、ネヴェの性格を逆手にとり、同小隊【ハニービー】のステラ・レインウォータ(ga6643)やクラウディア・マリウス(ga6559)らと心理トラップを仕掛けることに成功した彼女は、ネヴェの意識を傾けることで時間稼ぎを行っていたのだ。
何処だ、そこか。パイロット用ヘルメットがなければ、思わず爪をかみしめたくなるほどキレたネヴェは、陸へと降り周囲の基地護衛機を蹴散らしながらミルーヌイ本部へと突き進んでいく。
しかし、考え抜かれた策は実を結ぶもの‥‥。僅かながも、激情に任せ苛立ちを露わにしてしまったネヴェの前には――
『こっから先は通さねぇぜ! 仲間の為に‥‥ッ!』
『あーもうっ! ムカついてきたわね‥‥覚悟しなさいよ、UPCの犬どもが!』
【アーク・トゥルス】率いる、武藤 煉(gb1042)が急接近!
こうして、狂気を含む大地での死闘は、覚悟した者だけを招き許し、いよいよ終盤へと加速する‥‥
●閉じる幕と新たな舞台
『反撃の隙は与えるな! やられる前にやるぜ!』
四方の空間を完全に我がものとしたかの如き動作で、武藤機は爪を味方や周囲に引っ掛けるよう移動しながら、一気にFRとの距離を詰める。
20m、10m――捕捉!
『‥‥これで終いにする』
『借りは返す‥‥』
FRを体ごと拘束し、更にカララク(gb1394)と冥姫=虚鐘=黒呂亜守(ga4859)がワイヤーとドリルで抱擁。これなら逃げられない! しかし
『――ッ』
トドメを刺す前に弾かれたのは武藤だった。ここまでくると、さすがにその莫大なエネルギーを生み出すバグアの技術力に感嘆すら感じてしまうほどだが、FRはグレイヴを構えた状態で左右のカララクや冥姫も薙ぎ払う!
『友が命を賭けているのだ‥‥俺が下がるわけにはいかんな‥‥!!』
だが、仲間が続くことにより作り上げた瞬間、そこに一手投じたのがヴィンセント・ライザス(gb2625)。最初から捨て身の突撃を行った彼は、ありったけの弾薬をぶち込みつつ盾でグレイヴを押さえつけ、のしかかり!
引き裂かれるようにグレイプが振られ、周囲に電光の放電が奔る。それでも退かぬライザスのロングボウ。見れば、既に彼はコクピットから緊急脱出し、空のKVによる質量だけを頼りにFRを押さえている。
『まだ‥‥終わっちゃいない‥‥』
時間をかけ過ぎた――既にネヴェの周辺には、UPCからの増援が見受けられるなか、先程空にて討ちもらしたラシードらも降り立ってくる。
『あたしとしたことが、つい熱くなりすぎちゃったわね。まあいいわ、何れこの借りは返す‥‥』
刹那、足元の雪を柱の様にせき立て、FRは飛び立つ。その姿にはまだ余力が感じ取れていたが、実際にネヴェの前に表示される警告には、残り練力が極端に低いことを表すメッセージ。
『これ以上の面倒はごめんね。あとはリリアンに任せて、あたしは帰るとするわ♪』
このように、どこか口惜しそうにも軽い口調で呟いたネヴェの視線のはるか先には、リリアン率いる大軍が圧倒的な戦力の下、傭兵達に痛みを植え付けていた――。
『前に出過ぎないで! 来るよ!!』
その地点における状況は最悪だった。対FRに意識を取られ過ぎだったのもあるが、充分な戦力を持つ小隊が不足していた為もあり、リリアンによる陸からの進軍の歯止めが効かなかったのだ。
いや‥‥まだ、リリアンの率いていた部隊が対陸戦形態だったのが幸いだろう。もし、空から攻撃を仕掛けられていようものなら、多数の部隊方針が陸戦だったこともあり、恐らくミルーヌイは既に落ちていたはずだ。
『経験の中で培った若葉の絆‥‥簡単に破られるわけないでしょーが!!』
FRなどの強敵とはなるべく回避したかったものの、現実はそれを許してくれなかった。若葉【壱】の夕風悠(ga3948)は大多数のワームと交戦しながら、篠森 あすか(ga0126)の指示を仰ぐ。
戦力不足。この一言に尽きる現状。何としても護り切らなければならぬ防衛ラインに、予想を上回る強敵が出現したことで、本来対EQやキメラ、対FRを目標に掲げていたチームも戦力の補強に向かうことを余儀なくされる。
そう、相手はあのステアー。ゾディアックのFRの更に上をいく存在なのだから。
『Alter−Leaderより各機。ここを護り切る、力を貸してくれ』
そんな中、この奮闘に最も貢献していた小隊が、ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)らによって構成された小隊【オルタネイティヴ】だった。
対FRに拘らず、柔軟に基地の防衛に徹していた為、迅速にリリアンの部隊と対峙することとなったオルタネイティヴは、じわりじわりと確実に敵の戦力を削いでいく。
『こちらオルタネイティヴ所属、Alter‐02。これより敵陣に吶喊するよ!』
剣翼を展開し、両手両脚には刃のコーティング。切り込み隊長と云わんばかりに、蒼河 拓人(gb2873)は先陣を切って駆け抜けていく。
駆ける駆けるミカガミ、その度に巻きあがる雪煙。ワームに食い込む機爪「プレスティシモ」には機油がベッタリと付着するが、洗う水の元ならすぐ下にある。落ちることのない斬れ味、輝く閃き。
「抜かせるかよ‥‥」
更にその横では、拓人と同じA分隊の抹竹(gb1405)が、情報統括を担当するB分隊の指示の下、バルカンとライフルによる制圧的弾壁を形成。力越しに押してくる戦線を、必死で押し返す重要な役を担う。
『ほらほら、どうしたの、押されてるじゃない。私が助けてあげるんだから、必ず仕留めなさいよ』
しかし、やはりそう簡単に事が進むはずはない。リリアンはステアーに搭載された強化妨害機能を駆使し、後方で部隊の支援に徹するかと思うと、その能力を100%以上発揮したEQやワーム、キメラを利用して襲ってくるではないか。
『リリアンが後方に引っ込んでいるせいで、接触すらろくに叶いませんね‥‥』
比較的ゾディアックの面々は、自ら進んで前線に出てくる者が多いのとは違い、後衛で完全なサポート体制を維持するリリアン。ある意味ステアーの戦闘能力が封じ込められる為、幸いと言えば幸いだが、言うまでもなく遠距離からの支援能力も他の機体の追随は許さない性能だ。
どちらにせよ、人類側にとって圧倒的にまずい状態なのは変わらなかった。と、その時!
『――重力波に微弱ながらも乱れ‥‥? ‥‥これは!』
『ここから先は一歩たりとも通さん!! よって全員ぶっとばす!』
――試作型対バグアロックオンキャンセラー。イビルアイズに許されし特異的支援特化機能。有人機であるステアーにこそ効かないものの、それはリリアンの手勢に対して効果を発揮し、攻撃を制限する。
リリアンが舌打ちする先では、風見トウマ(gb0908)が彼女同じく味方の支援に努めていた!
『逃げない、EQが怖くても逃げない、逃げない‥‥逃げないんだからっ‥‥!』
『ちっ、増援か』
口調が少し変化したかのようなリリアン。絶対的に優勢だったはずのバグア軍だが、気がつけば【白銀の魔弾】の部隊が応援に到着していた――
子供だろうが、やる時にはやってやる。そう叫ぶ氷雨 テルノ(gb2319)らの射撃による援護を受け、鬼非鬼 つー(gb0847)は敵陣へ突っ込んでいく。
如何に大軍であろうと、リリアンほどの頭を潰せば機能は停止するはずだ。こう考え、本来FRに対応するはずだった白銀の魔弾は対象を変更し、ステアーへ。
もし、彼らが当初の予定通り友軍と協力し、FRと対峙出来ていたのならFRの撃墜も可能だったかもしれない。
しかし、戦場にシナリオなどないのだ。その時その時で、戦力を有すると認められるチームだからこそ背負わなくてはならない宿命‥‥。隊長のサルファ(ga9419)は、味方の煙幕に紛れリリアンへ!
『お前達の面もいい加減見飽きた。ここで、落ちろ‥‥!』
『あなた達だけが、進化しているとは思わないことです‥‥。新機体は、こちらにも、ね』
朧 幸乃(ga3078)がサルファの背をあずかる様にして、リリアンのステアーへ機槍「ロンゴミニアト」の一撃!
――ガガッ
『やってくれたな‥‥』
鈍い音を立てるとともに、完全に口調の変わったリリアンは、絶対に2機を逃がすまいと攻撃のギミックを今回初めて開放する。本気になれば、周囲一面を吹っ飛ばせるほどの能力は秘めているはずだ。
やられるか。だが、一矢報いることはできた。そう少なからずもサルファ達が唇をかみしめた瞬間――
『リリ‥アンか‥‥至急‥‥ラインホールドへと‥‥帰還‥‥せ‥‥ガガッピー』
『バークレーさま!?』
ふと無線に全意識を持っていかれるリリアン。バークレーからの緊急連絡――これは、明らかにラインホールドに危害が及んだ証拠!
『ちっ、殺すのは次の機会にするか』
幼い声に不釣り合いな声色で空へと飛び立つステアー。
非常に苦くギリギリながらも、何とか輸送ラインや防衛網を最後まで確保できた人類。
それは、間違いなく他区域で戦う傭兵達の戦いにとっても、勝利へと近づく第一歩であったと言えよう。
多くの血を吸い、なおも張り裂けるほどの痛みを感じる程の冷気を発する鈍色の大地は、静寂に包まれていく。
しかし、明けない夜はない。また、終わらぬ冬もない。
今はこの悲しき冷たさも、いずれは来るであろう暖かい日々へと続く第一歩だと、切に願わずにはいられない――
<担当 : 羽 月 渚 >
【ヤクーツク防衛】
ヤクーツクの防衛戦は、堅調に推移していた。これまでの所は。
「経過など戦いでは意味が無い。最後まで、勝たねばな」
オリム中将は、戦域図を睨む。ウランバートルから発したバグアの援軍は、そろそろ西側防衛網に接触する頃だ。
「傭兵隊より、レナ川への偵察計画が上がっていますが」
一瞥して、中将は頭を振る。
「無用。地上偵察はロシア軍に任せるように伝えろ。戦力には相応の使い方がある」
だが、迂回攻撃自体は悪くない、彼女は付け足した。地図上で、北西に配された2艦と、G4弾頭を示す大きな青が動き出す。
「これよりダイヤモンドリングは最終段階に入る。‥‥勝利か滅亡を選ぶ時が来た。総員、死力を尽くせ!」
●
先立って敵に接触したのは、藤田あやこ(ga0204)率いる『sms』だった。
「後ろから‥‥!」
常夜ケイ(ga4803)の悲鳴。機首を返したマーガレット・ラランド(ga6439)が、異常な速度で迫る影に息を呑む。
「聞こえているか、ステアーは既に増援と合流している。繰り返‥‥」
必死に警告を放つも、目の前の敵が展開した濃密なジャミングを貫く事が出来たかどうか。しかし、相応に場数を踏んだ偵察隊が瞬時に壊滅した事。それ自体が後方に情報を伝えている。
『うろうろされては目障りだ‥‥。にしても、やはり足りん』
シモンは渋い声で呟いた。兵力は、ウランバートルの増援により持ち直している。だが、指揮官に関しては相変わらず不足していた。ゾディアックとは言わずとも、強化人間やバグアを回されていれば多少はましなのだが、有人機の殆どはバークレー直下で防衛に当たっている。
『あの巨人で勝てると思っておるのだろうよ、あの御仁は』
ファームライドを失い、一時ウダーチナヤに帰還したカッシングは、すぐに此処へ戻されていた。バークレーにしてみれば、最前線は失敗の代償として回す先、という認識なのだろう。あるいは、邪魔者をか。
(‥‥無能者め。兵器に驕るか)
言葉には出さず、シモンは唇をゆがめた。手元が不足ならば、相応の戦いをすればよい。
『カッシング卿、この間の貸しを返して貰おう。この場は預けるが、構わんな?』
『まぁ、出来るだけ粘ってみるがね』
苦笑するカッシングに、シモンは頷いた。それで充分だ、と。
●
西に展開していた『8246小隊』は、今回も敵に正面からぶつかる事となった。
「総力戦だ、各機やられるなよ!」
仲間達を鼓舞してから、リディス(ga0022)は上空を睨む。敵主力はウランバートルからの航空部隊という中、傭兵達の編成は地上に偏っていた。上を預けた仲間達の苦戦は免れまい。
「敵戦列が乱れたぞ、あそ‥‥!?」
佐間・優(ga2974)の声が、不意に途切れる。はっと目を向ければ、近代の戦場に不似合いな姿のゴーレムが優機を下していた。八脚の戦馬に跨った緋色の侍。リディスはその機体を知っている。
「‥‥奴か?」
『ご希望に添えず申し訳ないが』
受けに回ったリディス機の腕が吹き飛んだ。
『可愛い弟子が機体の都合を付けてくれたので、働かぬわけにもいかなくなってね』
周囲からの一斉射撃が、老人の追撃を封じる。
「YAHA! ハッピートリガーエンド☆のもじを舐めるでない」
とっさに射撃指示を出した阿野次 のもじ(ga5480)が機内で胸を張った。
「あはっ♪ 麗華さん、ヴァサーゴさん! 怪我はしないように、です♪」
伊万里 冬無(ga8209)は反撃を警戒するように距離を取り直す。
「盾にもなれず‥‥、申し訳ありません」
彼女達の援護の間に、岸・雪色(ga0318)が撃破された仲間を回収した。
●
北側には『SteelyGirl』と『ガンアンツ』の2隊を中軸とする防衛線が構築されている。共に陸戦を主とする小隊だけあって、抜かりは無い。何機かは、KVが篭れるような塹壕を用意していた。
「さて、化物共を撃ち砕くとしましょうか」
大型キメラを前面に突撃を繰り返す敵を、秋月 宗一(ga6557)が銃火で迎える。
「兎に角全部、叩き帰すぜ」
宗一の後方から、八幡 九重(gb1574)が援護した。同時に、複数の計測器が反応する。
「地下に、異変。‥‥EQ、です」
御堂 桜(gb5199)が精一杯の声を上げた。塹壕にとって、地下からの攻撃は悪夢そのものだ。
「銃兵蟻の力、見せてやります!」
飛び上がったヘリオドール(gb0265)が変形しようとした所を、EQが直下から弾き飛ばす。
「我々がいる限り、バグアに楽はさせませんよ!」
逆の塹壕から比留間・トナリノ(ga1355)達がEQの勢いを止めた。
「―――――撃ち抜くッ!!」
皇 千糸(ga0843)がもう1射を加える。しかし、巨体はまだ倒れない。
「簡単に抜かせはしない。体勢を整えろ、戦線を押上げるぞ」
駆けつけた『魔弾』の月影・透夜(ga1806)らが稼いだ時間で、両隊は素早く反撃の構えを取る。
「負けられませんので、容赦はしません」
味方のカバーに入りつつ、加賀 弓(ga8749)が引き金を引いた。
「援護くらいはさせてもらおう」
無所属のイリーナ・アベリツェフ(gb5842)が投げたグレネードが小型キメラの群れを吹き飛ばした。
「僕らの小隊が落とす必要は無い。どこかが落とせばいいんです」
御山・映(ga0052)が呟く。EQが、ついに沈黙した。目先の勝利に奢らず、傭兵達は綻んだラインの修復を始める。
「バ、バリケードを作り直すの、手伝います‥‥!」
ツルハシとスコップを手に、辻峰・鏡花(ga1870)が作業へと加わった。いや、加わろうとした瞬間、R−01の頭部が吹き飛んだ。
「敵か‥‥!? どこだ」
慌てて身を隠そうとするKVの中、タルト・ローズレッド(gb1537)とトナリノが次々に撃ち抜かれた。
「‥‥これ、は‥‥」
ロッテ・ヴァステル(ga0066)機が崩れるのを見た幸臼・小鳥(ga0067)が震える。囮を立てての、狙撃。少女とEQという違いはあれど、この手口には覚えがあった。
「シモン‥‥。シモンがいます」
「何!?」
再び、キメラが攻め寄せる。優秀な陸戦隊といえども、指揮官を失い狙撃を警戒しながらの交戦では充分な力を発揮できない。弾道を見切って反撃に出るのか、ラインの維持か、あるいは後退するのか。選べぬまま、貴重な数秒が過ぎた。
「お願い! この人を後方に! はやく!」
『パラメディック』の椎野 こだま(gb4181)が息を呑む。機体から引きずり出されたトナリノは血を流しつつも、搬送されたリッジウェイから通信回線を要求した。
「各員、2km後退して立て直してください。私は無事です」
糸が切れたように崩れる彼女を、寿 源次(ga3427)が支える。
「心が折れぬ限り、負けは無い‥‥、か」
ならばその心を繋ぐのが彼らのような救護隊の仕事だ。重傷者を後方へ、軽傷者はこの場で。少しでも長く、戦えるように。彼らの撤収を支援すべく、『ブルーレパード』が上空の敵機を引き受ける。
「ここを持ち堪えたら勝てるぞ〜!」
青いHWに正対したハルカ(ga0640)は、仲間を鼓舞した。敵もこちら以上に少数だが、精鋭のようだ。
「後顧の憂いは断っておくべきやね。ウチらのやけどな!」
烏谷・小町(gb0765)と、2機で1機を相手取る。
「オォっと、ワタシの前で仲間はやらせマセン!」
鼻面を向けた別のHWは、ロナルド・ファンマルス(ga3268)がミサイルで牽制していた。
「久しぶりの空戦で酔ってきた」
短いが激しい空戦を切り抜けた『404隊』のリリエーヌ・風華・冬堂(ga1862)がそんな事を言う。
●
西方上空は、乱戦であった。
「8246小隊のエンブレムに賭けて! 我々が居る限り此処は抜かせない!!」
「……にゃ!!」
水上・未早(ga0049)の気炎に憐(gb0172)が乗る。未早はこれまでに数度の危地を食い止めていた。
「これ以上進みたければ、俺たちを退かしてみろ! ‥‥できるものならな!」
下がるHWの横列へ、ブレイズ・カーディナル(ga1851)が吼える。しかし、その奥からすぐに新手の敵機が向かってきた。ぞろぞろと飛んでくる敵機の数は無尽蔵にすら思え、唯一の救いは行動が単調な事か。
「敵機確認‥‥これより攻撃に移る」
『アークバード』の月薙・赫音(ga1628)が、宣言と同時にトリガーを引く。
「LH倒しといて本拠地陥落、じゃ間抜けでしょ? 皆、此処は守り抜くわよ!」
「行きますよ、人類の意地です」
リン=アスターナ(ga4615)に頷き、大島 菱義(ga4322)が続いた。
「各機へ、敵の動向に注意。あの爺がまともな用兵をするとは思えん」
隊長機のアルヴァイム(ga5051)からの指示に、アンドレアス・ラーセン(ga6523)が舌打ちする。
「今、妙な物を出されるとまずいぞ」
彼が指摘した通り、前線は現状の敵の相手で手一杯だった。
「落ちも落とさせもしない。それが俺の戦い方だ」
雑賀 幸輔(ga6073)が小型HWへと向かう。その上は、藤宮紅緒(ga5157)がカバーしていた。
「オリム姉御の元にゃ行かせねえ! あの人の唇は僕が頂くんだからねェェッ!」
危険な事を叫びつつ、翠の肥満(ga2348)が止めを刺す。あ、食われた。
『私語は慎め、傭兵!』
防衛戦だけに、後方への通信線は確保されている状況であった。
「‥‥全く」
中将はシートに腰を沈める。航空戦は敵有利で進んでいた。傭兵はよく動いているのだが、数が足りない。既に大型を含むHWに突破を許していた。
「なのに、悲壮感の欠片も無いのだな、連中は」
地下へ退避を勧める部下の言葉を、彼女は片手を一振りして退ける。ここの設備では地下で指揮を執り続けるのは難しい。
「対空部隊を展開しろ。他からも兵力を回‥‥」
彼女の声を、悲鳴のような報告が遮る。
「き、北にシモンが現れた?」
「バカな。どういう速度だ!?」
ざわつく部下の中、オリムはホッと息をついていた。
「西はまだカッシングを確認しているな? 見失うな、と伝えろ。北にステアーが出たなら、奴らにそれ以上の戦力は無い」
ステアーが高速で北に回ったとしても、主戦力はそうは行かない。側面攻撃に指揮官を当てざるを得ぬ所に、オリムはバグアの限界を見て取った。
「南と東は最小限でいい。北に回せ」
矢継ぎ早に指示を出しながら、彼女は思い出したように付け足す。
「司令部要員は拳銃を確認せよ。総力戦である」
戦いの帰趨は彼女の目を持ってしてもまだ見えていなかった。
●
見えざる狙撃手に混乱する北面で、『スタートライン陸戦隊』は良く踏み止まっていた。
「通信は任せろ。連携して奴らを潰してやれ!」
統制を保てたのは、赤い霧(gb5521)の存在に多くが拠るだろう。いかにシモンとは言え、身を隠したままの管制機は狙えない。
「しつこいわね!」
シェリー・神谷(ga7813)機に喰らいついた大型キメラへ、右手から銃弾がめり込んだ。
「ふっふっふ、蜂の巣にしてやんよ」
高坂・真人(ga8438)が笑いながら弾を送り続けている。彼のような小隊に属さない傭兵も、大きな力になっていた。上空でも『スタートライン空戦隊』が善戦を繰り広げている。
「攻撃対象は俺が作る。お前たちはそれを撃ち落せ! 終わったら次だ!」
動きの違う須佐 武流(ga1461)を隊長と見た青いHWが、彼を追い詰める。しかし、須佐の回避運動は、追う側にも隙を作らずにはいない。
「ミサイル宅急便、おまたせですわ♪」
ノーマ・ビブリオ(gb4948)が、敵の後背から直撃を与えた。苦戦するHWを援護しようと、飛行キメラが上がってくる。
「1,2,3‥‥。こりゃまた、たくさんいますねー」
庸輔(gb5986)が笑った。
「‥‥最後までやり遂げて帰ろう」
ごくりと唾を飲んでから、僚機へそう言うルンバ・ルンバ(ga9442)。
「絶対、ぜ〜たい、やらせないんだから」
その機体の前に、ソーニャ(gb5824)がカバーに入る。
●
西側のバグアの動きは力押しだった。というより、それ位しかできないと言う事だろう。転機は、早かった。
『背後に敵だと?』
戦線を大きく迂回した『放課後クラブ隊』の出現に、カッシングは舌打ちする。
「貫け! ここを突破して友軍と合流する! 俺達の意地ごと、貫き通せ!」
「みんな仲良しですから、放課後クラブの連携に隙は無いのですよ〜」
先頭に立つゼラス(ga2924)が、回頭中のBFへ攻撃を加え、アイリス(ga3942)が挟み込むように追撃した。
「お前達はここで落ちろ‥‥!」
ここぞとばかり、秋津玲司(gb5395)の攻撃が鈍重な輸送艦を叩きのめす。
「全ては初午成就の為に!」
水雲 紫(gb0709)の声。春を座して待つのではなく、引き寄せるのが彼女の意思だ。
「ふむむ‥‥怪しいのです」
御坂 美緒(ga0466)の示した先で、白い亀が砲身を上げた。本来は、偽装退却での奇襲に使うべく老人が温存していた砲兵隊だ。
「支援機でも攻撃は出来るんだよ」
空間 明衣(ga0220)が弾幕で対空攻撃を阻害する。
「残念、この道は通行止め!」
その隙に降下した近伊 蒔(ga3161)が、亀の隊列へ槍を向けた。
「自分にも出来る事があるのなら!」
ファブニール(gb4785)もその後に続く。一方、正面でも戦局は動いていた。
「さぁて‥‥敵さんはどんな感じかしらねぇ?」
低空を飛ぶ『エンジェルフェザー』メデュリエイル(gb1506)が、起伏の無い地表に展開した敵の状況を確認する。
「私にできるのはこれだけだから‥‥!」
HWを鏑木・響(gb3938)が迎撃する間に、彼女が分析結果を原隊へ送る。
「了解。エンジェルフェザーは側面より敵機を挟み込むわよ!」
空漸司・由佳里(ga9240)以下、僅か2名の分隊が側面攻撃を敢行した。普通ならば即座に押し潰される。しかし、敵の気が側面に向いた一瞬に、『ブラックアサルト』が突貫した。
「アサルト2、アサルト1に続くぞ! 突撃ぃ!」
「えいえいおーデスヨ!」
火茄神・濡恩(ga8562)の後ろに、ニルナ・クロフォード(ga0063)がつく。
「アサルト6‥‥じゃんじゃん撃つっすよ」
真田・勇(ga5001)も含め、各機はここが先途とばかりに弾丸と練力を注ぎ込んでいた。
「では‥‥参ります!」
出来た隙間に、『櫻第一小隊』の大曽根櫻(ga0005)が踏み込む。
「ふん!」
立ちふさがったキメラが、クリスティーナ・ロート(ga0619)に撃破された。広がった傷口に、『マジカル♪シスターズ』が突入する。
「行くわよ〜! 豪華絢爛! マジカル♪ソードダンスッ!!」
天道 桃華(gb0097)の合図で、敵は一気に斬り立てられ浮き足立った。
『ぬぅ。歯がゆいな』
近接戦に特化したゴーレムは、大部隊を指揮するようにはそもそも出来ていない。崩れた戦線を立て直す事を放棄した老人は、再び前線へと機体を向ける。
●
「まあ雑兵は雑兵らしく、な。ん?」
味方が勝機に乗じる間も、3機1組で粘り強くラインを維持していた『ペル・エム・フル』のトゥルカトゥーラ(ga8634)に、緋色の影が襲い掛かった。
「‥‥」
リリエーヌ・諷華・冬堂(ga1855)に、仲間からの退却指示が届く。カッシングの突出を知らせる急報が、情報網を巡った。老人が口の端をあげる。
『‥‥それが、司令機かね』
温存していた赤い直属HWがオルランド・イブラヒム(ga2438)へと突貫した。『榊分隊』の反撃を受けつつも、錐の如く揉み込む。仲間の窮地に、地上で交戦していた『Astraea』も空へ上がった。
「危ない橋は叩いて壊せ、ってな」
敵の機動を遮るように、前園・タクヤ(gb5676)は仲間の配置を指示する。
「これより先へは通さん‥‥落ちたいものから前に出ろっ!!」
不破 梓(ga3236)が赤い敵機にエネルギー弾を叩き込み。
「吼えろバイパーッ!!」
砕けた装甲へ、六堂源治(ga8154)が螺旋弾頭を撃ち込む。また1機、赤いHWが爆散した。が、犠牲を覚悟の突撃は防衛網を抜け、オルランドに迫る。
「隊長を狙って指揮の分断、いつまでも上手くいくと思うなよ‥‥」
鳴り響くロックオン警報の中、オルランドは口元だけで笑った。情報の流量を多くして偽装しただけで、彼は真の指揮機ではない。
「今、お助けいたしますわ!」
ジェニー・ライザス(gb4272)が、脱出したオルランドを狙う敵を排除した。
『むう、乱れぬか?』
「ここを守らねば、味方が窮地に追い込まれる」
『Peach Bom』の穂摘・来駆(gb0832)の切込みを捌いた所へ。
「行くわよ。止まってられないもの」
『フェニックス』雪野 氷冥(ga0216)の槍が、八脚馬に突き刺さった。老人の動きが、鈍る。
「メインディッシュを摘み食いだ。各員、テーブルマナーはOKか」
『アクティブ・ガンナー』夜十字・信人(ga8235)の号令に、示し合わせていた『Titania』が銃火で答えた。
「連携の切欠を作るんやっ! 総員一斉射撃!!」
篠原 悠(ga1826)に、レティ・クリムゾン(ga8679)が頷く。
「私達は独りでは無い。バグア等に負けるものか!」
『ぬぅ!?』
「さって、がんばってこ〜♪」
緩い口調とは裏腹に、橘=沙夜(gb4297)の照準は鋭い。
「だー!! エース級の相手なんざ、歴戦の猛者に任せようぜ!?」
「もっともだが、駄目だ」
字夜・由利奈(ga1660)の進言は、あっさり却下された。
『やりおる』
気づかぬ間に接近を許したせいか。しかし、追い込まれる理由は今ひとつ。
「ま、何時もらしくやろうぜ。何時もらしくな。‥‥うん、問題だねそれ!」
「‥‥僕が先は読む。貴方は目の前の敵に集中して」
老人の位置は、芹架・セロリ(ga8801)に捕捉されている。後席の寄島トヨミ(gb5484)が回避予測のみに注力していた。
「くそっ、通信が錯綜している‥‥! しっかりしろ、俺!」
咲坂 七海(gb4223)も、隊へと情報を送る。
「弾幕で足止めよろしく‥‥その隙に狙い撃て!」
情報を咀嚼し、指示を出すのは鷹代 朋(ga1602)の役目だった。
「掛かってこいやー! って、こっち来るなー!」
如月・菫(gb1886)の弾を、侍が踊る様に避ける。カッシングは砲火の中で砕牙 九郎(ga7366)を下し、フォビア(ga6553)の攻撃も余裕で捌いた。その瞬間、鬼火が目の前で焚かれる。
『チッ』
眩んだ目で、アンジェリナ(ga6940)の雪村を回避。そこが、老人の限界だった。
「この一撃を次に‥‥明日に‥‥繋げる‥‥っ!」
騎士が、侍を。セフィリア・アッシュ(gb2541)の槍が、ゴーレムの腹を。貫く。
『ぐっ!?』
くぐもった声。
「仕留めたか!?」
ゴーレムが、大きく跳躍した。
『ク、クククククッ。また会おう、傭兵諸君』
急降下してきた黒塗りの回収機。移乗した機内でも笑い続ける老人の手は、赤く染まっていた。ゴーレムを投棄し、北を目指して加速を開始する。眼下では、背後から戦線を断ち割った『放課後クラブ』の鋭鋒が大勢を決していた。
●
「計測器に反応ありじゃ。EQが、近いぞ」
『青い薔薇』のオブライエン(ga9542)が数度目の警告を発する。残るEQは距離を取ったまま姿を見せない。
「‥‥そろそろ、来るかな?」
呟いたシルフィドール・ジルバ(gb2663)機が貫かれた。弾道を追った先に、やはりステアーはない。撃たれてからでは、間に合わないのだ。
「よし! かかって来いよ!」
ウェンディゴ(ga4290)が、大砲を脇に抱えて目を引くように暴れ始めた。すぐに、光弾が頭部を吹き飛ばす。
「‥‥穴、から?」
『フェアリー・チェス』の紅 アリカ(ga8708)が目を見張った。敵は、EQの穴を利用していたのだ。種は割れてしまえば造作も無い物だった。劣勢な空戦部隊に、下を見る余裕が無かったのも災いしたのだろう。
「話は聞かせてもらった。何とかしてみよう」
サーシャ・ヴァレンシア(ga6139)達『プロジェクトSG小隊』は、非情な用意をしていた。
「なぜ我がこんなことせにゃならんのだ‥‥!?」
リンドヴルムに跨ったアメリア・バルナック(gb2163)が、雪原を走る。低い視点からならば敵を見つけやすい、かもしれない。
「うわぁ!」
『何!?』
塹壕の中にステアーの姿を認めた少女が、閃光手榴弾を投げつける。遮光装置は万全に作動した。シモンが反応できなかったのは、まさにその瞬間、LH大破の知らせが入っていたからだ。
『あの男は、勝つ気があるのか?』
忌々しげに呟き、シモンは自機の状態をチェックした。損傷は無く、エネルギーにも余裕がある。もう一押しすれば。思った瞬間、視界が黒に閉ざされた。
「‥‥皆‥‥無事に帰ってこなきゃめっ!」
ミント(ga6290)が撃ちこんだ煙幕。それを切り裂いて絶斗(ga9337)が突進する。
「この剣に想いを乗せて‥‥全力で行くぞ‥‥!」
『チッ!』
穴が邪魔になった。絶斗機を至近で撃ちぬいたステアーの装甲にも浅い傷がついている。変形したステアーに、直上から切り込む機影。
「‥‥飛び立つタイミング‥‥!」
離陸を中止し、リーゼロッテ・御剣(ga5669)の剣翼を回避する。
「もうひと踏ん張りかな」
ガトリング砲を唸らせる神崎 凛(gb3826)ごと、プロトン砲で薙ぎ払った。降りた周囲には2機単位の敵が散在するだけで、統制の取れた部隊はいない。そう思ったシモンの肌に、戦慄が走った。
●
「敵降下確認‥‥迎撃をお願い致します」
神無月 真夜(ga0672)の声と共に、散っていた『Cadenza』が部隊としての顔を取り戻す。
「私の身を盾にしてでもっ‥‥絶対に護り抜きますっ!!」
攻撃に専念する隊長機を守る。その一念で機体を駆るミスティ・グラムランド(ga9164)。
「フ‥‥頼りにしてますよ、ミスティさん。――さぁ、往こうか!」
鋼 蒼志(ga0165)が攻撃の合図を下し、突貫した。
『罠‥‥だと?』
通信は傍受していた。罠の気配は欠片も無かったはずだ。シモンは己の――借り物の――記憶を手繰り、その答えを見つける。無線封鎖。そう、当然だ。自分でもそうしただろう。
「通行止めなんだ。お帰り願おうか、ねぇ!!」
「行くえ‥‥今度こそ決着や!絶対に此処は抜かせへん!」
雪切・冬也(ga8651)と沢良宜 命(ga0673)の交差射撃を、下がって回避。
「落とさせる訳にはいかないわ」
間に入ったアズメリア・カンス(ga8233)の、片腕を吹き飛ばした。
「そんじゃ、ちょいと派手に行きますか」
風羽・シン(ga8190)のライフル弾は、誘い。その後の時枝・悠(ga8810)が振り下ろした斧をギリギリで避わし、撃ち返す。
「次こそは、などと言う気は無い。勝って帰る、確実にだ」
崩れ落ちる悠の声は、敗北者の物ではなかった。
「さて、オーラスを飾りに行こうか」
『‥‥クッ』
黒江 開裡(ga8341)のレッグドリル。これも罠だ。判っていても、避けぬわけにはいかなかった。
「貫け!」
突き出された蒼志の槍先が左肩に刺さる。強引に後退しつつ、応射。着弾の確認もせずに変形する。致命傷には程遠いが、頭を冷やすには充分だった。
『‥‥これで、あの男への義理は果たしたな』
これ以上損傷を重ねれば、修復にも相応の時間が掛かる。LHが失われた今、他人の失点を補う為に自分が手札を切る必要を、シモンは感じなかった。
「ステアー、後退」
短い報告に、指揮所の中将は頷く。
「西を抜けた敵機はどうなったか」
その質問が聞こえていたかの様に、防空隊から報告が入った。
●
やや時間を遡り、西。
「うっし。これ以降は部隊内通信も極力切るぞっ。レーダーよく見とけよ!」
『八咫烏』の皇 樹(ga4599)が言う。
「いつもより、戦場の動きを良くみないと、ですね」
不知火真琴(ga7201)が頷いた。散開されたら厄介だ。出来れば、纏まっている間に叩くのが望ましい。
抜けた敵に最初に遭遇したのは『八十六』隊である。
「まったく、数が多いわね‥‥」
「撃ち落とせるだけ撃ち落しましょ」
ジェーン・シレティカ(ga8510)とルー・シレティカ(ga8513)の姉妹は、両翼に分かれ息のあった機動でラインを護持していた。
「うぅ‥‥安心して寝る為に‥‥」
エルネア・クトゥフィド(ga8463)も弾幕を張り、敵を足止めする。だが、足りない。弾幕を抜けてきたHWに息を呑んだ瞬間。
「全機突入! 柔らかい横腹を食い散らしてやりましょう!」
叢雲(ga2494)の声が、空を裂いた。
「人のサポートは得意なんですよ、えぇ」
エルネアに迫った敵にレーザーを叩き込みつつ、佐々木優介(ga4478)が笑う。
「ここから先は一機たりとも‥‥いや、塵一つとて通れると思うな!」
「八咫烏を見た奴は発狂するんだってな」
中核と思しき大型HWへ向かう鹿島 綾(gb4549)に、紫藤 文(ga9763)がボソッと付け足した。『八十六』が支える戦線へ、『八咫烏』が再度アプローチをかける。
「これで終わりかしら‥‥?」
周囲を見回した三塚綾南(gb2633)が呟いたのは、3度目の攻撃の後。
「『八十六』より‥‥情報です」
ジャック・フォルズマン(ga7692)が指揮所へと通信を送る。敵は全滅、当方の被害は軽微なり、と。
●
『警戒レベルを赤からオレンジへ。手空きの者は、出迎えに出ても構わんぞ』
そんな基地内通信を聞いて、シートから腰を上げる中将。
「北米に戻ったら、准将と少し話し合わねばならんな。今後の方針について」
屋上へと通じる階段へ向かいながら、彼女はそう呟いていた。
<担当 : 紀藤トキ >
<監修 : 音 無 奏 >
後編へ
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