極東ロシア戦線
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4月17日の報告・2
4月17日の報告
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4月3日の報告

<報告書は前編:後編から成る>

降下部隊迎撃  残敵追撃戦  UK弐番艦防衛  バークレー撃退


【降下部隊迎撃】

●高度10000m
 UPC軍のAWACS(早期警戒管制機)が、衛星軌道上から降下してくる降下艇の軌道を算出したデータを、高高度迎撃作戦に参戦するKVへと転送。
 同時にコクピットに座るほぼ全員がスロットルを最大推力の更に上、ブーストに叩き込む。
 SES機関が通常以上の駆動を発揮するため、エアインテークから大量の大気を吸入。それに応じて、ジェットエンジンから排気されるジェット噴流が瞬時に膨大なものへと変じる。
 弾かれたように加速する傭兵のKVは118機。戦線全体に展開する総数の20%に満たない数であった。

●高度40000m
 現時点でKVが上昇可能な限界高度が約4万m前後。2万m以降はKVの限界を超えているため、もはや弾道飛行に等しい状態となる。
 コクピット外の風景は既に空と言うよりは、宇宙といった方が相応しいだろう。定義では宇宙と地球の境界は高度50〜80kmの中間圏と呼ばれる領域を抜けた先だが、視覚的にその境界上を飛翔していた。
「景色は良いが‥‥此処も戦場か」
 比企岩十郎(ga4886)が風防越しに見える青く輝く地球を眺めながら、岩龍の特殊電子波長装置を起動させる。
 眼前に広がる無数の降下艇を睨み据え、千頭・紅葉(ga6521)がロングボウの複合ミサイル誘導システムを起動。HUD上にて射程圏外を告げていた表記が消え、降下艇の1機をロックした事を告げる。
「この一撃でっ!」
 ロックオンと同時に彼女の指がトリガーを引き、機体翼下のホーミングミサイルが射出される。
 彼女以外にも同様に、最長射程を誇るロングボウは4機が高高度迎撃作戦に参戦している。そのうち2機は1つがKVのレンタル価格に匹敵するK−02小型ホーミングミサイルを搭載していた。
 先制攻撃にて放たれるミサイルの総数は1500発を超えた。
 視界を埋めるほどの爆光が眼前で閃き、無数の降下艇が内部にキメラやワームを抱えたまま四散する。しかし、多数のミサイル弾を持ってしても全ての降下艇に対処しきる事は出来ない。
 ロングボウの攻撃の後、降下艇を射程圏に収めた各機から次々とミサイルやロケットといった長射程の兵装が嵐の如く叩き込まれる。
「こ、ここなら敵の機体出てこないよね? えっと、あ、あれが目標‥‥かな?」
 全ての搭載弾薬を吐き出す勢いで、緋桜 咲希(gb5515)の駆るロジーナの翼下に5基搭載された8連装ロケットランチャーが、降下艇へと降り注ぐ。
 必殺の一撃ではなく、後に続く味方機に撃墜を託す為1機に集中弾を叩き込むのではなく、細かく機体を振り、散布するように放っていた。
 彼女の言葉どおり降下艇の護衛機と呼べる機体は周囲には存在しなかった。
 ソードウィングによる斬撃を企図したKVも何機か存在したが、大気の薄い高高度ではまともな機動は取れない。精々が、姿勢や軌道を僅かに制御するレベルであった。
 バグア軍の護衛機が存在しないのは高高度戦闘を行う機体が用意されていなかったためだった。
「よーし、一つでっかい花火と行こうか!」
 オラトリオ隊の弓亜 石榴(ga0468)が隊長機の合図と同時にイビルアイズのロックオンキャンセラーを発振、同時に射程圏内である事を確認し、指がミサイルの発射装置を弾く。同隊に属する総数7機に及ぶ機体から一斉に発射されたミサイルが無傷の降下艇を捉える。
 彼女の言葉どおりに花火のように連続で花開いた爆発が降下艇を包む。
 次第に突破を許す形となる。
 少ない攻撃の機会を活かす為、多くの機体が持てる弾薬のほぼ全てを叩き込み、無数の降下艇が爆発し四散するが、次第に突破を許す形となる。
 バグア軍降下艇の数に対し、火力が足りなさ過ぎるのがその原因だ。月狼といった大規模部隊も参加していたが、やはり数が足りない。強襲降下を前提としていない為、降下艇の装甲が薄いとは言えヘルメットワーム級の装甲は施されている。
 機動が制御できないため、追撃もままならない。
 そうした突破状況は、傭兵たちが構築した情報網【L】及びULT軍を通じて地上に展開する仲間たちへと転送された。

●航空戦闘
 突破を果たした敵機を通常高度に展開したSL高高度迎撃部隊、sms、エクスプローズといった小隊に属する機体を始め多くの機体が迎撃する。
 とはいえ、相手の速度が尋常ではない。
「一機でもいい、確実に沈めろ!」
 メテオルを率いるマリア・ベースハート(ga7273)は先回りし、降下艇の周囲を螺旋状に追撃する作戦に乗っていたが、降下艇の降下速度があまりに速すぎる。
 ブーストを起動した状態でようやく追いつける速度で降下していく敵を追撃するのは並大抵ではない、事前に【L】で情報が伝達されていない限り、この高度での追撃は不可能に近かっただろう。
 通常の機動が可能な高度であれば一端突破を許したとしても、本来なら反転し追撃が可能だが、反転を終える頃には既に地上への降下が為されている。
 また、この高度となれば、降下艇が吹き飛んでもカーゴ内で生き延びていたヘルメットワームが多数迎撃に向かってくる。
「この砲火を以って、招かれざる来訪者をもてなすとしましょう」
 大規模部隊である月狼は全領域に部隊を展開していた。
 同隊の新居・やすかず(ga1891)は47mm対空機関砲等の比較的長射程の兵装を、高速で降下していく降下艇をブーストで追撃しつつ撃ち放つ。
 弾丸が降下艇の装甲を穿つが、同時に側面から放たれたヘルメットワームのプロトン砲が彼の機体のエンジン部を吹き飛ばす。
 制御不能となった機体が誘爆し、四散する直前にイジェクションレバーを引き脱出を果たす。
「下りたきゃ下ろさせてやるぜ? ただ行き着く先は地獄だがなぁ!!」
 同隊所属の味方機が次々と撃ち落とされていく中、玖堂 鷹秀(ga5346)が損傷した降下艇を指揮下の機体に指示し集中砲火を叩き込むが、彼の機体もまたヘルメットワーム数機の放ったプロトン砲の直撃弾を受け、吹き飛んだ。
「最後の最後で、邪魔されてたまるかっ!」
 敵降下艇を追撃するため、必然的に一直線の機動を取らざるを得ない味方機が次々と撃墜されていく中、キョーコ・クルック(ga4770)の駆るアンジェリカが放った閃光が、ヘルメットワーム数機を吹き飛ばす。
 知覚攻撃に優れた性能を発揮するアンジェリカだが、充分に改造を施された彼女の機体から放たれる高分子レーザーは必殺の一撃となり、次々とヘルメットワームを撃ち落していく。
 キョーコの機体を後方から放たれた一撃が掠める。無人機ではありえない精度で放たれる攻撃に、彼女はヘルメットワームの追撃を諦め、回避に専念する。
 降下を果たしたのは無人機だけではない、宇宙に待機していたバークレー派のバグア、強化人間も一緒に降下してきていた。
「本星仕様かっ、招かれざる客人には退出願うぞ!」
「宇宙の果てまで飛んでけ、ですの!」
 孫六 兼元(gb5331)が執拗にキョーコ機を狙う本星仕様ヘルメットワームを、ノーマ・ビブリオ(gb4948)と共に追撃する。   
 
●高度0m
 地表まであとわずかとなりながらも、降下艇は一向に減速する様子を見せない。
 見る間に大きくなる敵降下艇に向けて、地上に展開する多数のKVや対空車両から上空へ向けて対空射撃が展開される。
「何が落ちて来ようと、狙って撃つ‥‥それだけよ」
 Gargoyleのマリア・リウトプランド(ga4091)は降り注ぐ大型の残骸を試作型スラターライフルで撃破し、落下する残骸による損害を抑えるために動いていた。
 もっとも狙うのは残骸だけではなく降下艇も含まれるが。
 KVは対空攻撃に関しては高い性能を持たないが、濃密な弾幕を逃れる術は殆ど無い。
 何機もの降下艇が地表に到達する前に四散する。
「うわっ!?」
 誰かの声が無線を通じて届く。マッハ6超という高速で迫る降下艇との衝突を慌てて回避しようと、地上に展開した部隊が後退した直後、地表数十mという激突寸前で、バグア軍降下艇が急減速。
 やや乱暴ながら続々と降下艇がタッチダウンを行う。
 人類側ではどうしてもパラシュートなどの減速装置が必要なところを、慣性制御技術で降下速度を打ち消しているからこそできる芸当だ。
 カーゴが展開し、無数の陸戦ワームやキメラがあふれ出す。
 降下直後を狙っていた傭兵達から大量の火線が溢れるが、敵の数は多い。
「‥‥」
 無言のまま、初実戦を迎えるハンク(gb6104)は味方の攻撃に合わせ、支援射撃を行う。
 彼の戦い方は最も戦力的に優秀な味方を援護すると言う物で、援護された味方機が縦横無尽に戦う事を可能とするものだ。
「ジャイアント・ホームランってな!」
 LH水泳部に属するマートル・ヴァンテージ(gb3812)は愛機ビーストソウルを駆り、サーベイジを上乗せした状態でKVジャイアントハンマーをフルスイング。
 直撃を受けた大型キメラが吹っ飛んでいく。
 最も敵が多い地域をと情報網に教えてもらおうと思ったが、敵の数が想像以上に多く、情報網でもその数を完全には把握していないため、水中機を人型形態にして戦う仲間の小隊員と共に目前の敵との戦闘を継続中だ。
 状況的にあまり存在しないが、水中機も一応陸上での戦闘は可能なのだ。
 戦況は完全な乱戦状態へと陥っていた。
 地上から対空砲火を狙った部隊や、着地時の隙を狙った部隊は必然的に無数に降りる降下艇の付近に位置する事になる。周囲を囲み囲まれ、傭兵隊もバグアも四方八方からの砲火に晒されている。
 分散状況は戦域に展開された情報網や三日月といったもので把握されていたが、そうした把握があまりに無意味な戦況だった。
「‥‥来たか。貴様ら、再び空へ還れると思うなよ!」
 放課後クラブ隊の霧夜 一(gb5319)が高速で迫るゴーレムを初めとする陸戦戦力に、同隊に属する仲間と共にガトリング砲を撃ち、ディフェンダーを叩き込む。
 砲火の応酬に何機もの敵機が撃墜され、同様に味方にも大きな損害が生じる。
「マジカル♪バーストレイン!」
 隊長機の指示と同時にマジカル♪シスターズに属する小野塚・美鈴(ga9125)がガトリング系の連射兵装を叩き込み、数で迫る大型キメラを次々と打ち抜いていく。
 比較的隊の後方に位置した彼女は、味方機との集中砲火によるキメラ群を一掃する事に成功するが、続いて姿を現す陸戦ワームの大部隊に息を呑む。
 更にそのワーム群を率いるかのように動く本星仕様の動きは無人機とは一線を画す機動で、周囲のKVを次々に叩き落していく。
 バグアも、無人機や少数のエース級の強化人間に頼るのではなく、戦略を本腰を入れての戦いに切り替え始めたのか、こうしたバグア兵が搭乗すると思しき機体は各地で散見される。
 戦闘能力自体はゾディアックには及ばない物の、いずれもエースに値する実力を発揮した。
 幸い、然程数が多くないのが救いではあったが。

●無色の戦い
 全ての降下艇が地上に降下し終えた現状でも空中戦は熾烈を極めた。
 ヘルメットワームが放つプロトン砲がKVを捉え、その機体を大地に叩き落すも別の機から放たれたミサイルや砲弾によって爆発四散する。
 そうした中をプリマヴェーラ・ネヴェが光学迷彩を展開しながら飛行していた。
 完全なステルスに近い光学迷彩を誇るのみならず、驚異的な戦闘力を兼ね備える機体だが積極的な攻撃は避け、ファームライドが来たと声高に述べてはいなかった。
 何故なら、現在の彼女は撤退中。機体本体へのダメージは少ないとはいえ残燃料も心許ない状態では、交戦は極力避けるに限る。
 念のためと傍受状態にしていた通信機からは彼女を挑発するためか、色々な言葉が飛び出る。
『負け犬ネヴェがしっぽ巻いて逃げ帰るみたい』
 アーク・トゥルスの宮明 梨彩(gb0377)の言葉にやや感情を動かされながらも、アスレードのように燃料切れで不時着などという無様な真似は避けたい。
 数機のKVが、IRSTの鼻を利かせて索敵しているのをモニターで確認して少しうんざりする。
 明らかに格下と見ている相手からの挑発とうろちょろと目障りな索敵機にネヴェの心が攻撃に傾いた。
「!?」
 IRSTの画面に不審な影を確認した佐東 零(gb2895)が反応する前に、光弾が彼女の機体を貫く。護衛に回っていた武藤 煉(gb1042)が反応する暇さえなかった。
 爆発四散する護衛対象にファームライドの攻撃とは分かった物の、肝心の居場所が定かではない
「仲間は絶対にやらせませんっ!」
 ハニービーの高原真菜(gb2894)が決意を胸にするも、彼女の思いとは裏腹に姿を見せる事無くネヴェは次々に撃墜を続ける。
 赤外線反応は確かに対ファームライドの索敵に有効な機能ではあるが、ワイバーンのものはともかく、通常の機体に搭載された其れはあくまで補助的な機能であり有効距離もそう大きくはない。
 更に現状のネヴェは攻撃よりも逃げに思考が傾いている。
 無用な追撃をしない限り、捉えるのは困難である。一瞬捉える事に成功しても、IRSTは前方にしか効果が得られないため、すぐに範囲外に出られてしまう。
「ホントは全滅させたいトコだけど‥‥もう燃料がやばいね」
 地上に降下して眼前に現れる機体の側面や背面からグレイブを叩きつけ、位置を気取られないように注意を傾ける。
 無駄に挑発してくる敵を優先的に叩き落していく。
 不可視の状態を最大限活用し、ハニービーとアークトゥルスの機体を次々に撃墜していく。
 先のフェイズでは油断から光学迷彩を破られたが、光学迷彩さえ破られなければファームライドはシェイドやステアーにも比する難敵となる。
 交戦により穴を開け、ネヴェは悠々と戦域を離脱する。
 傭兵隊が彼女を捉える事無く翻弄された要因は、索敵を疎かにした事だろう。
 対ファームライドの基本戦術は多数のワイバーンによる索敵及びペイント弾の使用による光学迷彩の無力化だが、今回はその戦術が採られる事は無かった。

●混戦から
 陸上にて降下したバグア軍との交戦を続けるKV隊の外縁部から無数のゴーレム、陸戦ワーム、キメラが殺到した。
 残存兵力をかき集めたシモン率いる部隊だ。
 混戦状態にある戦線をなんとか制御可能な物とする為、外縁部からKV隊を排除しバークレー揮下の兵力を一箇所に集中させるためでもあった。
「地殻変化計測器に反応‥‥アースクエイクが来ます!」
 忌瀬 唯(ga7204)の言葉に、周囲に展開するKVが素早くその場を離脱する。
 数瞬の後、地面を突き破り、巨大な蚯蚓のような体躯を持つアースクエイクの体が出現する。
 幸い警告が功を奏し、飲まれたものは居ないようだ。
 無防備な姿を晒したアースクエイクに対し、集中攻撃が叩き込まれる。
 戦場の各所に地下を経由し奇襲を仕掛けるアースクエイクやサンドワームは、地殻変化計測器を搭載したKVの警告もあり、然程大きな損害を与える事が出来ずに終わる。
 僅かな混乱を与える事はできたものの、攻撃される事が分かってしまえばそれはもはや奇襲にはならない。
 幾度かの交戦経験は、充分な実績を積みヨーロッパ戦では脅威と目されたアースクエイクも効果的な対応法を身につけた傭兵にとってはもはや、ちょっと厄介な敵に成り下がっていた。
「敵の数数えた? 俺は途中で諦めたよ‥‥っと」
 ガンアンツの草壁 賢之(ga7033)が尽きる事無く現れる敵戦力に、ややうんざりとした調子でつぶやく。
 重傷を負いながらも前線に立つ隊長機を気にかけつつ、ゴーレムなどの強敵に一斉射撃を浴びせ、撃墜していく。
 陸戦の戦況は混戦な事を差し引いても、人類軍が押されている状態だった。高高度迎撃部隊が少なすぎた為に、降下に成功したバグアの降下艇が数多く、それに比例して敵戦力も膨大な数となっていた。
「まぁ、この数がラインホールド落とす前に来なくて良かったが、それにしても、凄い数だな‥‥」
 ガンアンツ付近に展開するI.C.E率いるレイヴァー(gb0805)が特殊電子波長装置にて電波状況を改善しながら草壁の言葉に応じる。
 情報網から得られる情報を元に敵の層の厚さ、進行方向から今までの混戦とは異なる状況を悟る。
 ステアー発見の報が確認されたのはその直後だった。
 その報告は情報網を通じて、戦域に展開する傭兵達に伝えられる。
 比較的損傷の少ない放課後クラブの機体が、シモンを狙い移動を開始する。
「最後までご苦労さんだね、シモン。ここらで墜ちて休んだらどうよ? 永遠に!」
 新条 拓那(ga1294)がシュテルンのPRMシステムを起動し、ステアーを狙い機体を走らせる。
「傭兵と言うのは自信過剰な者が多いな」
 損傷したステアーと言えど、KVにとってはまだ充分に脅威だ。更に今の彼は部隊という壁に積極的に利用している。
 シモンからの指示を受け、彼の周囲に展開するゴーレム、陸戦ワームからの集中砲火が新条のシュテルンを打ち砕く。
「貴方の存在が拓那さんを危険にする!」
「知らんよ」
 撃墜された新条機を前に頭に血を上らせた石動 小夜子(ga0121)の砲撃を機体を傾ける事で回避し、反撃として放つプロトン砲が石動のアンジェリカを容易く撃墜する。
「マ‥‥クールマ機、後退を! シモンの相手は俺がします!」
 突っ込んでいく若葉【弐】に属する仲間を制し、前に出る井出 一真(ga6977)。
 しかし、ステアーを狙うには、前方に多数展開するゴーレムやら何とかする必要がある。如何に重装甲を誇る雷電とて、既に幾度かの交戦で機体には少なくないダメージを受けている、この中で突破するのは困難だ。

 シモンの介入で無目的に周囲の敵に対する攻撃を続けていたバグア軍が統制の取れた動きを見せるに応じ、その対応に苦慮していた傭兵及びUPC軍もまた、戦列を立て直し、統制の取れた戦いとなっていた。
 完全な乱戦、消耗戦からはこれで脱出したと言える。
 戦線が統制の取れたものになり、前線が構築されるに連れ、救助活動も本格化していた。
 今まではどこもかしこも前線でまともな救助活動が取れない状態だった。
 中でも負傷者をより多くの救助に成功したのはニモ・ニーノ(gb4833)だ、愛機であるハヤブサに装備されたメトロニウムスコップで塹壕を掘り、本格的な救助が来るまで負傷者を待機させ、周囲に情報を発信。
 中継された情報により、軍やリッジウェイ保持者の救助を行わせるという方法は、効果的に味方を救っていった。
「いま助けにいくからねー!」
 彼女は前線を駆け回り、メトロニウムスコップ片手に撃墜されたKVや戦闘車両からパイロットを救出していく。
 FM−Revもまた、戦況が落ち着くに連れて、本来のラジオ放送を開始していた。
「泣き言を言う尻には鞭を入れますからね」
 部下を叱咤激励しながら、藍晶・紫蘭(ga4631)が軍無線、情報網問わず雑多な情報を統合し、放送原稿を作成。更に応援の歌やお便りコーナーなどを展開し始める。

「もう、十分だ‥‥全て朽ち果てろッ!」
 眼前に迫るゴーレムの斬撃をストライクシールドで受け止め、A.Guardianの七織 希更(gb2167)が突撃ガトリングを叩き込む。
 無論、幾ら近距離からの射撃とはいえ、ガトリング程度でゴーレムを倒すのは難しい。
「送り届けてやろう。行き着くのは地獄だがな」
 意に介さず、更に振り上げられたバグア製の大剣が振り上げられた刹那、ゴーレムの胸部からダブルヘッドスピアの穂先が飛び出す。
 七織と巧みな連携を組むイリアス(gb2760)の一撃だ。
「諦めないぞ! 絶対に、最後の最後まで! 私はまだっ‥‥生きている!」
 ワイバーンの四足での疾走を活かし、攻撃を巧みに回避する皐月・B・マイア(ga5514)。
 少しずつ敵の勢力が弱まっているのを彼女は感じていた。

「‥‥こんな所だろう」
 戦局が立て直された後、暫くして。撤退の目処が立ったのか、シモンをはじめとしたバグア軍は無人機を盾にし、各後方へと速やかに離脱していく。

 戦闘は半ば泥沼の消耗戦の様相を呈したが、一応バグア側の撤退という形になり、人類側の勝利に終わった。
 人類側の被害も大きく、撤退していくシモンやバグア兵を追撃する事は適わず、追撃に移るより先に負傷者の救助、救出が先とされた。


<担当 : 左月一車 >



【残敵追撃戦】

●ファームライド
 ダイアモンドリング。
 ラインホールドの撃破、ゲートの無力化を達成したことで、この作戦は人類側の勝利に終わったといえよう。
 バークレーをはじめとした一部のバグアは未だに徹底抗戦を続けているものの、形勢逆転には繋がるまい。
 ここで重要になってくるのは、勝利の余勢を駆って更にバグアを攻め立て、広大なロシアの競合地域を少しでも多く人類側の支配圏に組み入れることだ。
 戦線の整理・縮小、それに伴う戦力の集中といった利点を考えれば、疲弊したUPC極東ロシア軍にとってどれ程ありがたいことかは想像がつくだろう。
 競合地域の解放。
 そのためには、単機で戦線を蹂躙できるFR、ステアーといった強力な敵機を如何にしてこの地域から駆逐するかが重要となる。
 特に、FRは搭乗者であるゾディアックの性格もあってか神出鬼没だ。
 後の禍根は断っておく必要があった。
 
 白い荒野を、二つの赤い影が疾走する。
 凍土を巻き上げ、疎らな木々を縫い、小さな渓谷沿いを走る機影。刻まれているのは双子座のエンブレム。
 ジェミニ、ミカ・ユーティライネンとユカ・ユーティライネンの駆るFRだ。
 だが、往時の姿を知るものが見れば、幾許かの違和感を覚えるかもしれない。
 二人は今、脇目も振らずに逃げているのだ。
 その後を追うのは、【天衝本隊】を筆頭とする天衝、【ガーデン・ルピナス隊】を筆頭とするガーデンといった大規模小隊をはじめ、【Astraea】などの各小隊、及び個人参加の能力者たち。
 波濤の如く押し寄せるその勢いは、双子座を守らんと割り込むワームやキメラを打ち払い、突き破っていく。
 遂に彼らの砲火が、FRの周囲にも着弾し始めた。
 追撃を振り切れず、反撃に転じる気配も無い。ゾディアック双子座、その不調はやはり真実であるらしい。
 不調であること、そして何より年端もいかぬ子供であること。
 それらが混じり、メアリー・エッセンバル(ga0194)の脳裏に一筋の憐憫を芽生えさせる。
『多くの命を奪ってきたあなた達を、子供扱いはしない‥‥全機、フルアタック!』
 一瞬よぎったその思考を振り払い、彼女は力強く仲間たちに号令をかけた。
『アイリスリーダーより各機、照準双子座。撃ち方始め! 07、08は二機を分断するぞ、我に続け!』
 応じて、神撫(gb0167)の合図と共にガーデン・アイリスが一斉に砲撃を開始する。
 それだけでは終わらない。
『砲撃開始‥‥叩き、落とします!!』
 ルノア・アラバスター(gb5133)をはじめ、翁 天信(gb1456)、そして梶原 静香(ga8925)といったルピナスの面々からも雨霰と弾雨が注ぐ。
 無論、弾幕に参加しているのはガーデンだけではない。
 その場に展開する各小隊、個人参加者も含めた、まさに飽和火力がFRを襲った。
『ううっ!』
『この‥‥調子にのって‥‥!』
 間断なく撃ち込まれる弾丸、レーザーの嵐。
 ジェミニの二機から、苦痛と怨嗟の声が漏れる。
 爆炎に大気が揺らぎ、凍土が溶けて霧状の水蒸気がもうもうと立ち込めた。
 その赤と白のカーテンをSESの咆哮が吹き散らし、ガーデンの【ガーベラ】【デイジー】の両隊が吶喊する。
『ガーベラ01より各機、派手に決めますよ!』
『ガーベラ02、了解。三度目の正直、にしてあげるわ。――次は絶対に無い!
『ガーベラ05了解です。‥‥今度こそ、逃さない! 堕ちろっ!!』』
 鈴葉・シロウ(ga4772)を中心に、智久 百合歌(ga4980)、リゼット・ランドルフ(ga5171)を左右に、両端それぞれを崔 南斗(ga4407)、壬影(ga8457)という前衛五機による超攻撃陣形。
 鹿嶋 悠(gb1333)の指揮の下、彼とシャーリィ・アッシュ(gb1884)の機体を先頭に突き進む【デイジー隊】と共に、攻撃で一瞬動きを止めた双子座を引き離すべく畳み掛けていく。
 一気に乱戦の様相を呈した戦場で、硬質の金属同士がぶつかり合う音が響いた。

『周辺警戒、[L]通信リンク開始‥‥盤上の配置は、とね。――地上の戦況は概ね良好。戦域内の敵脅威レベル低下中。‥‥ユニヴァースナイト壱番艦より入電。ウダーチヌイ近辺の敵戦力、凡そ二割減。作戦はフェイズ1からフェイズ2へ』
『了解。この辺は本隊と四神、爪牙に任せて平気そうだ。遊撃隊は引き続き周囲の哨戒に当たる。各機、続け』
 イリス・B・マーシュ(gb5664)からの報告に、【天衝遊撃隊】を率いる暁・N・リトヴァク(ga6931)はリラックスした様子で仲間に声をかける。
 FRが地上に展開したことで、天衝は攻撃に向かう者たちの邪魔を排除すべく制空権の確保に乗り出していた。
 目標をスムーズに切り替えられる点で、彼らはやはり歴戦の小隊だといえるだろう。
 中でも、【天衝本隊】の狭間 久志(ga9021)の活躍は特筆に価する。
「天衝での最後の仕事だ。王零‥‥恩は返すぞ」
 呟いて、すれ違い様のHWをソードウィングで綺麗に切断する。
 彼の駆るハヤブサは見事な機動性で敵の攻撃を悉く回避し、最終的な損耗率は他の機体と比べて明らかに小さかった。
『紅天、右翼。神威はこのまま正面の敵群を散らす。四神は上空へ、爪牙は各隊の撃ち漏らしを叩け』
 漸 王零(ga2930)の指示で、見事な軌道を描いて天衝の各隊は戦域を駆け巡る。
 空が落ち着くまで、それ程時間はかからなかった。

 一方、地上では人類とバグア、双方のKV同士による激しい陸上戦が展開されていた。
 不調とは言え、曲がりなりにもゾディアック。
 分断された状態での、実質一対多数という戦闘でも中々崩れはしなかった。
 じわりじわりと後退しつつも、決定的な隙は与えない。
(「このまま粘れば‥‥!」)
 ミカはちらりと周囲の地形を確認する。
 双子座はウダーチヌイから見て南西に進んでいたが、その辺りは標高が高くなっていて入り組んだ地形が多い。
 果たして、渓谷の先には分岐した細い谷が間近に迫っていた。
 だが、能力者にとっては望ましくない、そんな戦況を一変させたのは【Astraea】だ。
『ゲートを巡ったこの戦、開いたのは我々の未来への門‥‥このまま押し開ける!』
 不破 梓(ga3236)がヒートディフェンダーを手に、ガーデンの攻勢を凌ぎかけた双子座を強襲した。
『ここで負ける訳にはいかなくて、ねッ!』
 隊長の攻撃を援護するべく、依神 隼瀬(gb2747)などの隊員が一斉に砲火を集中する。
 この動きにガーデンも即応し、一旦間合いを取りつつも射撃でジェミニの足止めを実行した。
 スムーズな小隊間連携の影には、前園・タクヤ(gb5676)や六道 菜々美(gb1551)といった情報管制を担当する者の力があったことは指摘しておくべきだろう。
『次から次へ‥‥うっ‥‥』
『! お前たち、『僕』に手を出すなぁあ!』
 唐突にジェミニの一機が体勢を崩す。
 反射的に、もう一機が強引に包囲を突破してカバーに入ろうとする。
『悪いな、そいつを待ってたんだよ!』
 必然的にジェミニの視野が狭窄に陥ったその一瞬を、虎視眈々と狙っていた者がいた。
 J・御堂(ga8185)、彼の駆るディアブロが機体ごとぶつかるかのような勢いで、カバーに向かったFRを弾き飛ばす。
 それでもFRはすぐに体勢を立て直すと、憎悪を込めた反撃を見舞った。
 単機で抗うには高すぎる攻撃力に、Jのディアブロが悲鳴をあげる。そこを救ったのは、不知火 チコ(gb4476)のハヤブサだ。
『さぁ、ウチとも踊っておくれやす〜』
 奔流の如く吐き出されるガトリングによって、Jは辛くも離脱に成功する。
『こんなにも僕たちの邪魔をする‥‥お前たちは嫌いだ! 大っ嫌いだ!』
 思うように進まない戦闘に、激昂したようにジェミニが叫ぶ。
『それはこちらの台詞だ。いい加減、汝らの顔は見飽きた。消え失せろ!』
 【ガーデン・バーベナ隊】のリュイン・カミーユ(ga3871)の言葉を引き金に、再びガーデンが前進する。
 二度目の激突を担うのは上記のバーベナ、そして【フリージア】だ。
 決然とした意思を秘め、九条院つばめ(ga6530)が高らかに声を上げる。
『打ち破る‥‥! 私たち【ガーデン】全員の絆の力で! 貴方達の魂の絆を! フリージア、前進!』
『バーベナ、こちらも前進です』
 応じて、セラ・インフィールド(ga1889)も指示を下す。
 足並みを揃えたKVの隊列が、その一歩を踏み出す。
『『突撃!』』
 号令一下、ブーストの咆哮が周囲を圧した。
 怒涛の勢いで迫る二隊の後方、及び側面から、同戦域に展開するKVによる援護射撃が飛ぶ。
 大地が沸騰し、大気が震える。
 火山の爆発にも似た轟音と振動が戦場を包む中、それでもFRは抗う。
 迫る剣を、槍を、槌を受け、あるいは叩き落し、驟雨の如き砲火の中を踊るようにすり抜けて回避する。
 大荒れの戦場、そして乱戦。その間隙を突いて迫る隊があった。
 【暁の騎士団】、奇襲隊。
『この時を‥‥待っていた!』
 ジェミニの意識からは、彼らの存在は完全に抜け落ちていた。
 そこを看破したカルマ・シュタット(ga6302)は、即座にブーストを発動する。
 試作剣「雪村」のみを装備したシュテルンが、寸毫の間にFRへと斬りかかる。
『っ! こいつ‥‥!』
 迎撃すらままならず、一文字にFRの表面装甲が切り裂かれた。
 次の瞬間、三本の鋼線がその両腕と左脚部に巻きつく。
 【フリージア】の三機による拘束作戦。奇襲からの拘束というこの連携は決して意図したものではない。強いていえば、対双子座というものへの執念の結晶だろう。
 結果、決定的な隙がFRに生じる。
『いっけええええええ!』
 それは誰の叫びだったか。
 流れるような六機のKVによる波状攻撃がFRを捉え、遂にそのエンジンが吹き飛んだ。

 時は、僅かに遡る。
 その時点では、天衝、【戦術部隊『渡鴉』】といった面々によってほぼ制空権は確保されていた。
 異変をまず察知したのは、【裏飯屋】のミゲル・メンドゥーサ(gb2200)だ。
『何や‥‥? 雲が、裂けて‥‥』
 不自然な雲の切れ目を発見した彼は、程無くしてその意味を悟る。
 FR襲来。
 緊急の警報が[L]を通じて広がったのは、それから約十秒後。
 驚くべき伝達速度だが、それでも僅かに遅かった。

 片側のエンジンを破壊され、動きを止めた双子座のFR。 
 ――やった。
 その場の誰もが思い、少しだけ、ほんの少しだけ気を緩めた。
『どっかーん!』
『きゃあ!?』
『うわっ!』
 突如、大破したFRと対峙するフリージア、そしてもう一機を押さえ込んでいたバーベナのKV数機が弾き飛ばされた。
 直後に流れる、FR襲来の警報。
『くそ、新手か!』
 【Astraea】の田中 直人(gb2062)、ナオミ・セルフィス(ga5325)は反射的にペイント弾をばら撒く。
『んー、もう少し驚いてよ。つまんないの』
 色を付けられたことで、あっさりとFRは光学迷彩を解除した。
 そこに刻まれたマークは水瓶座。甲斐蓮斗だ。
 今回の作戦全体を通して、水瓶座が大暴れしたという記録は少ない。つまり、今は万全に近い状態、ということだ。
 不調説のあった双子座でさえ、ここまでやってようやく一機。
 招かれざる客は、ものの見事に形勢を逆転させた。
『やっぱりさー、バランスって大事だと思うんだよね』
 明るい調子で話しながら、蓮斗は膝を突いたFRに手を貸し、立ち上がらせる。
 即座に寄り添うもう一機のジェミニにけらけらと笑いながら、少年は続ける。
『こっちばっかり負けてるのもアレだしさ、ちょっとだけ頑張ろうかな、なーんて』
『おしゃべりはそこまでにしてもらおう!』
 相手のペースに引き込まれまいと梓が仕掛け、【Astraea】の各機がそれに続いた。
 交錯するFRとKV。
 すれ違い様の攻防で、六堂源治(ga8154)と黒川丈一朗(ga0776)の二機がスパークを上げて動かなくなった。
『やっぱ、正面からじゃ‥‥!』
 前園・タクヤ(gb5676)が咄嗟に発射した煙幕銃で追撃は避けたものの、蓮斗と双子座の姿もまた見えなくなる。
『ほら、今のうちに。エンジン、一基残ってれば飛べるでしょ』
『‥‥わかった』
 そんな会話の直後、飛行形態に変形したFRが煙幕を突き抜けて飛び出し、一気に加速する。
『絶対、絶っっ対に仕返ししてやる! お前たちのこと覚えたからな!』
 半ば涙声のような捨て台詞を残して、二機の機体はくねった渓谷を曲芸のようにすり抜け、見えなくなった。
 網の目のように広がるそこへ進入された以上、双子座の追撃は――断念せざるを得ない。
『もう少し‥‥もう少しだったのに‥‥!』
『水瓶座‥‥この落とし前は、きっちり払いやがるです』
 逃した魚は大きすぎた。
 それを悔やむつばめの脇から一歩進み出て、シーヴ・フェルセン(ga5638)が氷点下の眼差しを煙幕の中に向ける。
 彼女の視線を振り切るように、蓮斗のFRもまた宙へと舞い上がった。
『お生憎だね。今日の僕は、空戦をやりたい気分なんだ。丁度いい的も一杯いるしさぁ‥‥ちょっと遊ばせてよ!』
『‥‥舐められたものだな。『渡鴉』全機、目標は水瓶座に変更だ』
『ふん、いい度胸だ。天衝の力、その身に刻むがいい』
 挑発にも似た言葉に御影・朔夜(ga0240)と王零が応じ、穏やかだった空が騒ぎ始めた。

●赤い魔女と蠍座の少女
 ウダーチヌイ周辺。
 ウダーチナヤパイプ周辺では未だバークレーとKVによる激闘が繰り広げられているが、そこからやや離れたこの辺りでは既に掃討戦の段階に入っている。
 だが、敗北したとは言えバグアの残存戦力は決して少なくはない。
 それらを如何に消耗させるかが、今後の戦略のカギといっても過言ではないだろう。
 敵の数を減らすことは、人類側の支配圏を押し広げることに直結するのだ。
 その意味では、ここに展開する能力者たちの活躍は注目に値しよう。
 中でも特色ある活動を繰り広げた小隊としては、やはり【IMP】を挙げる必要がある。
 緋霧 絢(ga3668)、夕凪 春花(ga3152)、大和・美月姫(ga8994)、ジーラ(ga0077)の四人からなる小隊だが、彼女らのいずれもが所謂「歌って戦える」新時代のアイドルなのだ。
 ソニックフォン・ブラスターという装備も駆使し、時に歌い、時に敵を駆逐するその姿は正規軍をはじめ、士気の向上に大きく貢献していた。
『これが終わればボクたちの勝ち。皆頑張って! この歌を君たちに贈るよ!』
 近隣の敵を一掃したことを確認すると、ジーラのMCと共に再び歌が流れ始める。彼女らが歌うたびに声援が増えている気がするのは、きっと気のせいではない。
 特徴的といえば、【学園特風カンパリオン】も挙げざるを得まい。
 どこか懐かしさを感じる小隊名に恥じず、小隊長にして唯一の隊員である夏目 リョウ(gb2267)の戦い振りは往年のヒーローを髣髴とさせるものだ。
『燃え上がれ鬼火‥‥今必殺のフレキシブルアタックだ!』
 気合一閃。二刀のヒートディフェンダーを手に戦場を駆ける姿は、妙な頼もしさを感じさせる。
 彼の活躍を戦術的なものとすれば、同様に一人で戦略的な活躍をした人物もいる。
 【WIZARD】のオルランド・イブラヒム(ga2438)だ。
 戦線からはやや下がった場所に位置し、[L]による情報収集とその整理を行い、周囲の各小隊に伝達する。
 いわば、各小隊の情報管制役の補佐ともいえる役割だが、その有無によって伝達の速度や円滑性、確度などはかなりの差が出るだろう。
 負担は非常に大きいが、その効果は確かだったと言っていい。
 このように個性的なメンバーの活躍は目立ちがちだが、一方で【「八十六」】や【若葉【壱】】といった小隊の堅実な働きも大きな効果を上げていたことは忘れずに付記しておく。

 ウダーチヌイから西へ100km程。
 一人の少女が、ステアーのコックピット内で小さくため息をついた。
「部隊集結状況が悪い。このままでは予定の数に達しないわね」
 リリアン・ドースン。ステアーを駆る赤い魔女。
 能力者ならば、一度は耳にしたことがあるであろう名前だ。
 ゾディアック出現以前から度々現れては人類を苦しめ、乗機であるステアーの性能はFRをも凌ぐ。
「まったく、ラインホールドが壊れたくらいで‥‥。負けは負けと認めて、残存兵力はちゃんと撤退させなさいよ」
 ジョージ・バークレーがどうやら切り札を使ったらしいことはわかっていたが、そこに至る思考がリリアンには理解しかねた。
 ブライトンに切り捨てられた、という事実を知らない少女には、バークレーの行動は単なる自暴自棄に思えたのだ。
 ラインホールドが陥ちたことで統制を失った多くのキメラやワーム。
 それらに彼女が下した命令は一つ。『西へ』。
 西ではバグアモスクワ方面軍、そしてウランバートル方面軍が未だに健在だ。そこまで抜ければ、戦力を再編できる。
 バークレーがやらないならば、私が。リリアンがそう考えるまでには、それ程かからなかった。
 だが、それは遅々として進まない。現に今、彼女の目の前にある戦力は、全体の一割にも満たなかった。
「‥‥やはり、邪魔な奴らを何とかしないと、駄目か」
 言葉と共にステアーがゆっくりとその身を宙に浮かべる。
「にしても、この忙しい時にあの子はどこをほっつき歩いてるのかしら?」
 そんな呟きを置き去りにして、赤い悪魔は東へと向かう。
 100kmの距離など、ステアーにかかれば指呼の距離にも等しい。

『敵ゴーレム、撤退に入ります。キメラは掃討完了』
『へへ、ゴーレムだって逃さないよ!』
 【オルタネイティヴ】が、大規模な敵陸上戦力の追撃に当たっていた。
 フローネ・バルクホルン(gb4744)の管制に従い、蒼河 拓人(gb2873)が更に攻撃を仕掛けんとした時。
『そこまでにしてもらおうかしら』
 一陣の風のように、彼らの前にステアーが降り立った。
 思わぬ遭遇に、ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)が声を上げる。
『ステアー‥‥!? リリアンか!』
『気安く呼び捨てにしないで欲しいわ』
 この強敵を前にして、A・B・Cの各分隊が咄嗟に対エース用の陣形を組みなおす。
 こうした事態も想定済みだったと見え、その動きはそつが無い。
『邪魔する輩は全て叩き斬りますわよ‥‥覚悟なさいませ!』
『私の台詞ね、それは』
 ソフィリア・エクセル(gb4220)の言葉に不機嫌そうに答えながら、ステアーも迎撃の構えを取る。
 しかし、対策が取ってあるとはいえ、それが通用するかとなるとまた別の問題だ。
 結果としてセージ(ga3997)と拓人の二機が墜とされ、セージのシュテルンは未回収となってしまう。
 といっても、彼らの動きは無駄だった訳ではない。
 ステアー現る。
 この情報はすぐに[L]で共有され、他の者たちに警戒を促した。
 加えて、何よりも彼らがステアーを足止めした時間こそが、この戦いで最も重要なものなのだ。
 リリアンの目的は、バグア残存部隊の糾合にある。それも、できる限り多数を集めたい、という条件付だ。
 となれば、現在の彼女にとって最も忌避すべき状況は時間の浪費。
 言い換えれば、一定の時間さえ稼げれば、リリアンは自ずから撤退するということだ。
 しかも、もしもその時間でリリアンを包囲することが出来れば、あるいはステアーの撃墜すら可能かもしれない。
 そして、その「撃墜」を狙う者たちがいた。
 【蒼穹武士団】はリリアン・ドースン撃墜を目標に掲げ、出現の報を聞くや急行してきていたのだ。
 程無く、彼らは少女を発見する。
 雪ノ下正和(ga0219)はその姿を捉えるなり、名乗りをあげた。
『リリアン・ドースン! 俺の名は雪ノ下正和! いざ、尋常に勝負っ!』
『俺を、俺たちを止められるものなら止めてみやがれ!』
 続けて名乗りをあげたのはリュウセイ(ga8181)だ。
 いっそ潔いほどに近接兵装のみで武装した蒼穹武士団の面々だったが、やはりそれでは厳しかった。
『ええい、暑苦しいっ』
 彼らにとっての誤算は、他の新鋭機対応部隊の大半が双子座を追って離れていたことだ。
 逆に、彼らにとっての幸運は、リリアンが時間を意識する余り攻撃を徹底しなかったこと。
 それが蒼穹武士団の壊滅を、すんでのところで免れさせた。

 本来ならば、専門で対処する必要があるほどの敵がステアーである。
 しかし、逆説的ではあるのだが、今回はステアー対応が薄かったからこそ生じた利点というのもあった。
 これには、ステアーを駆るリリアンの目的も大きく絡む。
 彼女の目的は、先にも挙げたとおり残存部隊の糾合である。故に、能力者との戦闘は無いに越した事はないのだ。
 立ち塞がる相手と一々戦う暇は、彼女には無かった。
 この戦場には個人参加の能力者も多く、【フェアリー・チェス】【エリュシオン隊】【IMP】といった少人数編成の小隊も揃っていた。
 それらを発見したとしても、ステアーは残存部隊の撤収作業を優先した。
 能力者側も不用意に仕掛けなかったため、かなりの範囲の情報を[L]で共有することができた、というわけだ。
 そのため、ステアーのいる場所を避けつつ掃討を行う、ということも不可能ではなかった。
 対策としては消極的にも映るが、「味方の損耗を抑えつつ、敵に出血を強いる」というこの作戦の目的を考えれば十分に効果的なものといえるだろう。
 リリアンは西から来襲し、広い戦場を回っては残存部隊を適宜西へと向かわせている。
 であるならば、南北へと向かえばステアーと出会う確率はぐんと下がる。
 小回りの利く小隊の多くはそれに従って戦線を南北に広げ、未だウダーチヌイから東に展開する敵の退路を断った。
 それでも何割かはリリアンによって西へと離脱を始めていたが、全体としてみれば順調といって良い。
 ともあれ、両者の思惑は奇妙に噛み合ったまま時は幾許か進み、転機を迎える。

『水瓶座は撤退したそうです』
『そうか‥‥これで、残るはリリアン一人というわけだな』
 ハンナ・ルーベンス(ga5138)からの報告に、アルヴァイム(ga5051)が頷く。
 天衝・『渡鴉』と交戦していた水瓶座、甲斐蓮斗は現れた時と同じく唐突に去ったという。
 恐らくは錬力切れだろうが、あれだけの規模の部隊と単機で渡り合い、切り抜けたという事実は、改めてゾディアックの手強さを示している。
 少なくない被害を出した能力者側だが、帰り掛けの駄賃にステアーに一撃を見舞ってやろう、という程度にはまだまだ意気軒昂であるようだ。
『こうなるとガーデンとかにも戻ってきて欲しいですが、そりゃー贅沢ですかね』
 おどけたように言うのは翠の肥満(ga2348)だ。
 ガーデンなどの陸戦部隊は、現在ウダーチヌイ南西からウダーチヌイに向けて進軍中である。
 ミールヌイからの援軍と合わせて、南部一帯に広がったキメラやワームを駆逐しつつ進んでいるという。
 そこで、速度に勝る空戦部隊が先行してこちらと合流する、という手筈となっている。
『無いものねだりしても始まりませんって。あるもので何とかする、が戦場の基本でしょ』
 笑って雑賀 幸輔(ga6073)が応じれば、翠も違いないと笑い返す。
 そんな会話の間にも、彼らは数体のキメラを屠っていた。流石に、腕利きの多い【アークバード】メンバーといったところか。
『‥‥よし。アークバード各機、星海からの来賓がお帰りだ。盛大な鉄火でお送りしよう』
『ふふん、送り狼ってのも悪くないねェー!! リリアン君には、貴重な経験をさせてあげようじゃないかー』
 アルヴァイムの決定に、獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)が軽口を叩く。
 綺麗な隊列を組んで方向転換すると、彼らはステアーを目指してスロットルを押し込んだ。
 その動きを受けて、他の者たちも動き始める。
『若葉各機へ、ステアーはエースに任せて、私たちは私たちの仕事をするわよ』
 篠森 あすか(ga0126)の指揮の下、若葉隊は気合を入れなおしたかのように戦果を伸ばしていく。
 【SteelyGirl】【T−ストーン】【櫻第一小隊】といった小隊も、機を逃さず周辺の敵を一掃にかかった。
 小隊に属していない者たちも個人で、あるいは簡単な連携を組んでスコアを刻んでいく。
 残る懸念は、ステアーのみ。
 誰しもがそう考えていた。

『目標を視認。周囲には飛行キメラ多数。アークバード各機、ホーク隊を先頭に突入するぞ』
『諦めたと思ってたら、懲りない奴らね‥‥!』
 苛立ちを隠そうともせず、リリアンはフェザー砲とプロトン砲を掃射する。
 能力者たちはバレルロールを描いてそれらの光条を回避しようとするも、掠めた何機かの装甲が熱量で歪む。
 お返しとばかりに、ホーク隊の各機からミサイルとG放電が飛んだ。
 ステアーはそれを避けようとして、何を思ったか結局動かずにその攻撃を受けきる。
 彼女が避けていれば、後ろのキメラに当たっていただろう。
 折角集めた戦力を、ここで無駄にしないための苦肉の策、と言えた。
 しかし、それを察しても手加減してやる義理などありはしない。
『バグアが即席で群れたってたかが知れてるってこと、思い知らせてあげるわ!』
 リン=アスターナ(ga4615)の言葉と同時に、ホークのやや後方に展開していたギース隊が一斉に射撃を開始する。
 ステアーではなく、その後ろのキメラ群を狙ったものだ。
 さしものステアーとて、広範に渡ったその火線を一機で防げるものではない。
 結果、少なくない数のキメラが、断末魔の声すら上げずに燃え落ちた。
 その様子に、心中でリリアンは舌打ちをする。
『ええい、飛べるとは言ってもキメラの速度などタカが知れているか』
『余所見をする暇など無いぞ! うおおっ、見ててくれ中将! 愛機が落ちても僕は飛べる! 君がいるからアアアッ!』
 物騒なことを叫びながら、翠はロングボウの真骨頂、新型複合式ミサイル誘導システムを発動する。
 強化されたミサイルが音を突き破って飛び、ステアーへと食らいついた。
 爆炎の中からフェザー砲が乱射され、ホーク隊の装甲を焼く。
 流石のリリアンといえど、キメラを庇いながらの戦闘では実力の半分も発揮できないのだろう。
 常ならば当に蹴散らしているはずの相手を前に劣勢を強いられる事実に、彼女は血が滲む程に唇を噛み締めた。
 その時、ステアーの後方で、つまりキメラの群れのど真ん中で爆発が巻き起こった。
 反射的に振り返ったリリアンの目に飛び込んだのは、水瓶座を撃退してはせ参じた天衝、そして『渡鴉』の機体。
 数十機にもなるKVが、ステアーを完全に包囲する。
『年貢の納め時だな、リリアン・ドースン』
『ふん、お前たちの棺桶が増えるだけよ』
 ハンデだったキメラがいなくなったとは言え、彼女にとって劣勢であることに変わりはない。
 それでも尚この態度が取れるのは、確固たる実力とそれに裏打ちされたプライド故であろう。
 最悪、ステアーが暫く使えなくなることも覚悟するべきか。
 少女がそんなことを考えた時だ。
『助けが必要でしょうか? リリアン様』
 声と共に銃弾が飛来し、北側の包囲の一角が突破される。
 不可視の敵による強力な攻撃。疑いようもなく、FRであった。
『‥‥随分劇的な登場ね? エヴァ・ハイレシス』
 その言葉にどよめきが起こる。
 エヴァ・ハイレシス。ゾディアック蠍座を継いだ少女。
 特徴は、本人の戦闘能力というよりはむしろ‥‥。
『な、キメラ、なのか!? 速い!』
『落ち着け! 陣形を組みなおすんだ!』
 直属に控えるキメラの、異常な戦闘能力ではないだろうか。
『こんな場所に長居は無用ですよ。さ、行きましょう』
『あら、そういう割には随分と長い用事だったようね?』
 その言葉には意味深な笑いで返すと、エヴァのFRはおもむろに多弾頭ミサイルを斉射する。
 巻き起こった爆発で包囲網は崩れ、駄目押しのように放たれたプロトン砲が完全に穴を空ける。
 その穴を、二機と一体は悠々と通過していった。
『蠍座‥‥エヴァ・ハイレシス! くそっ、予感はしていたのに‥‥!』
 八神零(ga7992)が悔しげに操縦桿を叩く。
 水瓶座に続き、またしてもノーマークのゾディアックの存在がネックとなった。
 蠍座の動きは不可解な点が多い。
 出現した方向を考えればウダーチナヤパイプ方面にいた公算は大きいが、北方の部隊が特に強敵と出会ったという報告はない。
 ウダーチナヤパイプ、能力者たちとバークレーらが死闘を繰り広げるその近辺でエヴァは何をしていたのだろうか。
 不可解な謎を残しつつも、最大の脅威は西へと去っていった。



 ウダーチヌイからミールヌイを結ぶラインは完全に確保され、更にはヤクーツクを含めたトライアングル地帯は人類側の勢力圏といって良い状態となった。
 西側も、ほぼサハ共和国の国境線近辺まで押し返すことに成功している。
 北方に関しては、北極海に面するバグア勢力圏もあって大きな進捗は無かったものの、触手のように侵食してきていた競合地域の根元を切り落とすことはできた。
 水瓶座と蠍座、そしてステアーの被害は少なくなかったが、それらを差し引いたとしても十分な戦果といえるだろう。
 ヨーロッパ攻防戦、グラナダ攻略戦に引き続き、三度人類は失地を奪還したのだ。
 長かったロシアでの戦いも、人類側の勝利という結末でようやく終わりを見る。
 だが、今の能力者、そして正規軍の心境を最も適切に表しているのは、九十九 嵐導(ga0051)が呟いた言葉ではないだろうか。
「ようやく終い、か‥‥」


<担当 : 瀬良はひふ >


<監修 : 音 無 奏 >

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