己丑北伐
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<報告書は前編:後編から成る>

オーストラリア迎撃  瀋陽解放作戦・地上  地下潜入作戦  参番艦救援作戦


【地下潜入作戦】

「こちらフリージア1。後方に敵影は無し‥‥そちらの様子は?」
『――騒がしいよ、すごく』
 九条院つばめ(ga6530)の通信に答えて、セラ・インフィールド(ga1889)は思わず苦笑を浮かべた――ように見えた。普段の表情と何ら変わらないだけで、本人は至って真面目だ。
 彼等ガーデン小隊を初めとするKV部隊は、融合炉へ向かう大通路を進んでいた。
 大通路はただの通路とは思えぬ程に広く、KVが活動する為に必要な最低限のスペースは確保されている。ただ、元々KVが活動するように、それも、激しい戦闘を行う事を前提に作られた施設ではない。幾ら広いとはいえ、周囲には壁や天井が迫り、その動きは大きな制約下に置かれていた。
 擱座したウェンディゴ(ga4290)のロジーナは、その大型シールドを掲げ身構えるが、シールドを掲げたのも束の間。ロジーナは集中砲火を受けるとあっさり機能を停止し、がくりと倒れ付す。
「ちい、これ以上は無理か!」
 動かなくなったロジーナから脱出するウェンディゴ。
 元々避ける気は無かったが、このスペースではなお更避けられない。状況次第では、友軍の歩兵部隊を庇って耐える事だけが唯一の選択肢だった。
「先行します‥‥!」
 擱座したロジーナを踏み越えるようにして、星井 由愛(gb1898)の翔幻が突出した。
『単機では無茶です!』
 微紅羅 魔璃華(gb9084)はリンドヴルムのバイザーを下げ、声を荒げる。
 だが由愛は、それでもなお歩兵部隊の前へと押し出で、弾幕を張る。止める言葉も聞かずに前へ、前へと、強攻の姿勢を崩さなかった。周囲の味方から支援を受けられるだけの距離を保ってはいるが、やはり、迂闊だ。
 ただそれは――
「っ!?」
 隔壁を突破したその先、翔幻に影がかぶさった。
 照明を背に、サイズを掲げるタロスが、彼女の翔幻目掛けて飛びかかった。避ける余裕は、無い。彼女は咄嗟にガトリングガンを向け、高速で弾丸をばら撒く。
 飛び散る火花。
 タロスの腹やら胸やらを貫き、あるいは弾け、弾丸が踊る。
 直後、サイズが翔幻を叩き割った。
 装甲を撒き散らしながら仰け反る翔幻。タロスの一撃で、そのまま背後へと倒れる。振り下ろしたサイズを振るい、横薙ぎに掲げるタロス。機能を停止した翔幻を避けて一歩を踏み出した途端、頭部らしき部分が吹き飛んだ。
「‥‥」
 サビーネ・バーゼル(gb2677)は、コックピットの中、じっとスコープを睨んでいた。
 命中弾を確認するより早く次弾を装填し、躊躇無くトリガーに力を込める。S-01Hの構えたスナイパーライフルG3が煙を吐いた。
 命中弾。
 つまらぬ標的だ。
『火力集中、急いで!』
 通信機から聞こえる澤本 咲夜(gb4360)の声。ぐらつくタロスへと、友軍機からの砲火が集中する中、弾丸と共に突出し、リンガーベル所属の、レヴィア ストレイカー(ga5340)機がヘビーガトリングを振るった。
 寄せる敵を薙ぎ倒し、由愛の翔幻を引き摺る。
「単機で突出だなんて、無茶をしますね」
『けどそしたら、敵の奇襲を受けるのは私だけで済みますから‥‥』
 オドオドとしながらも、確固とした意志の感じられる声。
 由愛のその言葉に、レヴィアの表情が強張った。
「ばか!」
 思わず、インカムに怒鳴る。
「残された人達がどんな気持ちになるか、少しは考えなさいよ!」
『‥‥』
 怒鳴る彼女自身、あるいは境遇が影響しているのかもしれないが、仲間の窮地となると条件反射的に動いてしまう。半ば自分へ言い聞かせるようなその叱責に、由愛は縮こまって押し黙った。
「無茶をしたら、私達だって放っておけな――」
『お話中すまないが』
 通信機に表示される小隊名は、K.o.t.R.T.のコード。声の主、フラウ(gb4316)はロングボウを屈めさせ、肩に砲座を展開させていた。
「退避せよ。爆破する」
『なっ!?』
 その通信に、レヴィアは慌て、ローラーダッシュで後退をかけた。翔幻が引き摺られ、床に火花を散らす。入れ違いに、砲弾が放たれた。
 フラウだけでなく、他にも多数のKVが一斉に砲撃を仕掛ける。グレネードランチャーやキャノン砲が次々と光る。榴弾や擲弾等の高い攻撃力を誇り、なおかつ激しい爆炎を噴き上げる弾頭がバグアの防衛部隊に集中する。
 隔壁を中心とするその一角は消し飛んだ。
 屋内故に避ける事もかなわず、爆風に煽られる敵機。
 その隙を逃さず、熱と爆風にひしゃげた隔壁を突破して、各KV部隊は一斉にその先へと殺到した。
「分かれ道?」
 小隊と共に隔壁を突破したその先、T字に分岐点を前に、シャーリィ・アッシュ(gb1884)は辺りを見回した。
『発電所はその先、更に地下よ』
 響く声。通信を聞き逃すまいと、彼女はインカムをぎゅっと耳に押し当てる。後方に設置された拠点で、マイクを取るカーラ・ルデリア(ga7022)。ハニービー各員の動きを確認しながら、地図を読み取って、マイクに告げた。
「エレベーターが見える? こっちでモニターしてる限り、KVで行けるのはそこまでみ――っう」
 突然の雑音に、思わず耳を離す。
 無線が雑音に取って代われたのは、前線でも同時の出来事だった。インカムを首に掛けなおし、モニターを見詰めるシャーリィ。
「‥‥ジャミングか」
 ただ、KVでこれ以上前進できない事だけは聞き取れた。ここから先は、歩兵部隊の仕事だ。
『ここは確保する。歩兵部隊はこの先へ!』
 誰からとも無く、短距離通信が発せられた。
 その声に突き動かされるようにしてエレベーターパネルへと取り付く黒羽 怜(ga8642)。探査の眼を発動しつつ、状態を調べる。リフト式の貨物エレベーター、その隔壁は開かれたが、斜め下方の奥深く、エレベーターが上ってくる様子は無い。
 おそらくは、バグアの手によって電力供給をカットされてしまったのだ。
「エレベーターはダメです。動きませんね」
「であれば、直接参りましょう」
 鬼道・麗那(gb1939)ら、竜装騎兵らがエレベーターへと飛び込む。続く他の歩兵部隊。地下へと向かう奥底、遠ざかっていく喧騒。
「さてと‥‥後はここを維持しておかないとね」
 マスクを直し、十得・梨緒(ga0524)が呟く。
 月狼やガーデンをはじめとするKV部隊が、左右に展開して身構える。同時に、左右に分かれた経路の奥で何かが蠢いた。



「戦場を駆ける美しき薔薇、参りますわ!」
 メシア・ローザリア(gb6467)の高笑いが、エレベーターシャフトに木霊する。
 薔薇姫、及び月狼第肆師団の各隊、炎狼、氷狼、夢幻の各隊が前進し、突き進む。先陣争いさながら、敵無きシャフトを進む傭兵達は、我先にと突き進む。メシアも最前列にあって可能な限り罠に備えていたが、障害物が少なく見通しの良いエレベーターシャフトにあって、罠らしき影は見当たらなかった。
「何か怪しげな音がするにゃ〜」
 むっと顔をしかめさせるアヤカ(ga4624)。
 遠く響く羽音。小型のキメラだ。
 羽虫や蝙蝠のような小型キメラが、シャフトを昇って来る。
「どんどん進むのにゃ〜!」
 アヤカの指示で、キメラを迎撃するフルーツバスケット各員。
 近く迫るキメラの群れを前に、十六夜 紫月(gb2187)は小さな溜息を漏らした。
「突破するぞ」
「うん」
 隣を走る月宮 空音(gb2693)は、十六夜の言葉に静かに頷く。暗がりの中、空音の握る機械剣に光りが生じる。
「邪魔をしないで!」
 進路を塞ぐように襲い掛かる羽虫を、機械剣で切り裂く。
 薙ぎ払い、生じた隙へ身を滑り込ませた。十六夜と二人、交戦は避け、雑魚には構わずシャフトを下って行く。
 いずれにせよ敵の抵抗は散発的で、彼等は難なく抵抗を粉砕した。AUKVを中心に素早く駆け抜ける歩兵部隊を阻める敵は無く、傭兵達は、瞬く間にシャフトを降り切る。
「このまま何も無ければ良いんだけど‥‥そうは行かないよね」
 空音の呟きは、当然に対する警戒だった。
「伏せろ!」
 隣の十六夜が、彼女の背へ腕を廻し、殴るようにして共に伏せる。
 シャフトを下り切ったその先に、砲火がきらめいた。
 頭上を掠める砲弾。過ぎ去って、後方の壁に砕けて炸裂する。その一撃を皮切りに、前方より次々と飛来する徹甲弾、火炎弾、銃弾。その他ありとあらゆる弾丸。挙句擲弾を撃ちこまれて、辺り一帯を爆炎が嘗め回した。
 未だシャフトを降り切って居なかった者達は辛うじて脚を止め、降り終えた中でも、床に伏せ損ねた傭兵達が宙に巻き上げられる。
 しんと静まり返る地下。
『――ア、アー、テステス。もしもし、聞こえますかー?』
 キンとハウリングが響いて後、手持ちスピーカー特有のくぐもった音が聞こえる。声の主は、小型のミサイルランチャーを抱えた少年。
『ここから先には動力炉があるので通せんぼします。お帰りくださーい。いじょ♪』
 水瓶座、甲斐蓮斗だ。
 スピーカーよりの声が途絶えると同時に、攻撃が再開された。弾幕は先程より弱まり、代わって彼等を襲うのは、近接戦闘用のキメラと、多数の人型。おそらくは、強化人間やバグアたち。
「うるせえ! 仕事増やしやがって!」
 AUKVを身に纏い、芹沢ヒロミ(gb2089)がシャフトを飛び降りた。
 仲間と共に爆ぜ上げられた傭兵へと駆け寄る。救助中でもお構い無しに襲い掛かるキメラ目掛け、白銀のジャスティスナックルが唸った。
 とはいえ、数が多い。
 ちまちまと戦っているだけでは体力負けしかねない。彼等FOOLに襲い掛かったキメラを蹴り飛ばして、上月・舞夏(gb4518)が着地する。
「早く怪我人を連れてけ!」
 少女らしからぬ怒号が飛んだ。
「迎撃だ、一気に片付けるぞっ!」
 「スターダスト」の脚部が開く。真デヴァステイターを掴み、攻め寄せるキメラ目掛け片っ端から引き金を引いた。飛び散る体液、弾け飛ぶ肉片。彼等ヒルクライムやスター☆ライズといった小隊が、敵の数をものともせずに前進する。
 あるいは取っ組み合いの喧嘩さながらに衝突するキメラらと傭兵達。
 その喧騒の中より一歩出でて、強化人間が駆けた。
 AUKVの中より敵を見詰めながら「ヴァルキュリア」のバイザーを降ろし、エリザ(gb3560)は腰溜めに竜斬斧を構える。
「こちらこそ手加減は致しませんわよ。命が惜しければ――」
「寝言抜かせ!」
 言い終えるより早く、刃を抜く強化人間。
「――ならば良いでしょう!」
 大振りに空を裂く竜斬斧。強化人間は跳んだ。斧の一撃を避け、天井を蹴って身を翻した。エリザは咄嗟に斧を掲げ、その柄で刃を受ける。弾ける火花。
 飛び退き、再び剣を構えて床を蹴るバグア。
 対するエリザは体勢を立て直す事もできず、そのまま背後に転倒した――かのように見えた。隙と見て一気に詰め寄った強化人間の首を、鋭い矢が貫いていた。エリザの背後に持していた、ラウル・カミーユ(ga7242)による一撃だ。
 血にむせ返り、動きを止める強化人間。
 その彼の胸を、身を屈めたエリザの竜斬斧が叩き割った。
「手加減はしないと申した筈です」



 シャフト先での戦いは、一進一退が続いていた。
 互いに遮蔽物に身を隠しての銃撃戦。時折敵方が仕掛けてくる小規模な突撃を迎撃するばかりで時間は無為に過ぎていく。要所要所では傭兵達が優勢にあったが、シャフトから先へ進む事ができない。
「三匹め!」
 キメラの撃破を確認して、海東 静馬(gb6988)は身を屈めた。
 今まで彼の頭の在った地点を掠めていく敵の弾丸。アサルトライフルの弾丸を交換しながら、怒鳴るようにして問い掛けた。
「時間は!?」
「今一時間ジャストを過ぎたところだ!」
 戦闘の喧騒の中、精一杯声を張り上げて答えるリペア(gb0848)。
 タイムリミットは二時間前後。既に半分が過ぎている。
「ちゅうもーく! 皆聞いて」
 瓦礫の裏、漆黒で塗装されたリンドヴルム。そのバイザーを上げて、紫藤 望(gb2057)が笑顔を見せた。
「私達リンガーベルが突破口を開くから、一気に突っ切って」
「行けるのか?」
 月城 紗夜(gb6417)の問いに、頷く。
「どっちにしたって、このままじゃ埒があかないよ」
「‥‥よし。我は賛成だ」
 紗夜の眼が、他はどうかと問い掛ける。戦場では、反論が無い事は賛成と同じだ。兵は神速を尊ぶ。巧遅であるぐらいなら拙速であるべきだった。彼等は手早く打ち合わせを済ませると、リンガーベルを中心として、前線に近い遮蔽物の裏へと集まった。
「それじゃ――いっけえぇぇぇっ!」
 号令が下る。
 遠見 一夏(gb1872)が真っ先に飛び出した。プロテクトシールドを構え、「ハーキュレイ」共々一気果敢に突進する。激しい衝撃。足りぬ装甲を竜の鱗で補い、自身を遮蔽物として、脚部ローラーで無理矢理前進する。
 数十メートル前進した地点で、盾がひしゃげた。
 限界と見て同時、彼女の背後より他の傭兵が飛び出す。
「さっさとここを出ていきなっ」
 瞬天速。床を一蹴りにして一気果敢に切り込むリペア。その動きに追随できなかったキメラを一匹、蛍火でなます切りに打った。リペアに続き、他の切り込み隊員も次々にかちこむ。
 生じる乱れ。
 敵の乱れを見逃さず、各小隊や傭兵が一斉に動いた。
「‥‥?」
 流石に、彼等が突破を試みている事に気付いたのだろう。ハッとして、ミサイルランチャーを掲げる蓮斗。
「そうはい――」
「そうは行くか!」
 声と同時に、閃光が弾けた。
 シャスール・ド・リス、クラーク・エアハルト(ga4961)の投げた閃光手榴弾だ。辺りを覆う閃光に、思わず眼を閉じる蓮斗。
(「皆が作ってくれた機会‥‥」)
 小さな影が、閃光を背に走る。
「無駄にはしないっ!」
 ルベウスを掲げた、水理 和奏(ga1500)が這わんばかりに前へのめり、床を蹴った。蓮斗の隙を狙い、鋭い一閃が放たれる。彼が咄嗟に突き出したミサイルランチャーを砕き、槍は彼の利き肩を刺し貫いた。
「ぐっ」
 ぐいと腕を引っ張ると、肉が裂けて穂先が外れた。
 その勢いのままに、彼は喧騒の中へと紛れる。躊躇う様子すら見せず、そのまま背を向けて離脱した。元々、延長戦まで付き合う気は無いらしかった。



 少なくない抵抗をものともせずに突破した傭兵達は、道中幾度目かとなる隔壁を開閉した。敵からの攻撃が無い事を素早く確認すると同時に、どっと雪崩れ込む。
 だが、その隔壁はいつものものと違った。
 そこが開かれた先には、数階が吹き抜けになった部屋が広がり、その中央には、重低音を響かせる、巨大な動力炉が座していた。それが異常な稼働状況にある事は、いかな素人にも察せた。
 不気味な音を響かせ、炉より発せられた熱気が部屋を満たしている。
 今にも閃光と共に炉心が融解しても不思議ではない。あまりの熱気に、接近を躊躇してしまう程だった。
「これが動力炉か‥‥」
 引き金に手を掛けたまま、シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)は思わず息をのむ。
 手元でカートリッジを入れ替えながらも、視線は四方へと走り、探し出すべき敵の姿を尋ねる。
「私はここにいますよ」
 嫌な緊張感の中、澄んだ声に傭兵達の視線が集まった。
 彼女は、動力炉に腰掛けていた。シェイク・カーン。かつてはバークレーの単なる秘書として、今はこの瀋陽における最も重要な敵として、傭兵達の前に立ちはだかるバグアだった。
 異常な加熱状態にある炉心に直に座り、なお平然とした表情で、彼女は飛び降りた。
 軽やかに床へ降り、突入してきた傭兵達をゆっくりと見回す。
「やはり、ここまで来ましたね‥‥いえ‥‥来てしまえるのですね」
 溜息混じりに言葉を漏らすシェイク。
 彼女の周囲に、次々と強化人間達が現れる。これまで、有能であるか否か、ただその一点のみを求めて集められてきた兵士達だ。傭兵達にも、緊張が走る。
「クスクス‥‥」
 ただ、彼等傭兵の只中においても、この状況下で笑える者も居る。J.D(gb1533)は、ショットガンの銃身に弾丸を送り、ゆらとシェイクらを見渡した。
「最後は、どこまで楽しませてくれるの?」
「御望みのままに」
 その言葉に、真上銀斗(gb8516)がDEヴォルフカスタムを構える。
「そこまで往生際が良いのなら、どいて下さい」
「そうですね‥‥なんと答えるべきでしょう」
 顎に手をやり、ふと考えを巡らすシェイク。バグアとしての記憶ではない、シェイクの記憶の中、言葉を辿った。
「あぁ」
 何か良い言葉を思いついたのだろう。
 にこりと微笑んで、首を傾げた。
「‥‥俺の尻をなめろ?」
 言葉と共に、強化人間達が飛んだ。
 無意味な問答で機先を制される訳にはいかない。傭兵達もまた、敵の動きを見極め、各々得物を手に展開する。
「炎狼は進み続ける‥‥ですよね?」
「ああそうだ! 奴らに構うな! 狙いを定めろ! 
 銀斗の言葉に笑うフーノ・タチバナ(gb8011)。
「正面、突撃ィ!」
 破壊用の爆弾を準備してきた部隊を中心に、強化人間達を迎撃する。
 これまで戦闘力を温存してきた竜装騎兵もまた、ドラグーンを中心として隊列を組み、敵へ襲い掛かる。
「心まで鋼鉄に武装する学生達!」
 AUKVのバイザー越しに、マリエ・クラヴサン(gb2694)のおデコが、まるで自身が光源であるかの如く光り輝いた。ガトリングシールドで敵の攻撃を弾きつつ弾丸をばら撒き、行く手を阻む強化人間を牽制して遮二無二先陣を突き進む。
「悪を蹴散らして正義を示しましょう!」
「あぁ、これで終わりにする!」
 金色のAUKVが、鮫島 流(gb1867)が彼女の弾幕を背に、グラファイトソードを掲げて突貫する。マリエの弾幕に怯んだ隙を狙い、スキルに意識を集中し、飛び上がって刃を振るう。
 強化人間は背中に手をやると、両手に手斧を握り締めて走った。
 だが、流の一撃を受け止めるには遅く、斧を掲げるよりもはやく、刃が右肩に食い込んでいた。右腕を落とされなおも振るわれる、左手に残った斧。その手斧が、「舞蹴」の上腕装甲を弾き飛ばした。
「くっ‥‥」
 だが、腕の筋まではやられていない。
「おおっ!」
 彼は着地と同時に次なる一閃を放つ。剣は脇腹を凪ぎ、鮮血が吹き出る。やはり、人間だ。人間でありながら、何の為にバグアに同心するのか。それを知るよすがは無い。
 ただ全力で切り結ぶしかないのだ。
 敵さんも、シェイクが手塩に掛けて集めた精鋭だ。隙や戸惑いを見せれば、討たれるのは自分達だ。
 乱戦となる竜装騎兵華組。その喧騒から離れて星組のヨグ=ニグラス(gb1949)は一人、スナイパーライフルを掲げた。ボルトを操作して薬莢をはじき出すと、専用の徹甲弾を詰め込む。
「はずさないっ」
 狙いをつけ、戦闘の合間を縫うようにして放つ。
 シェイクの背後、狙いは動力炉。
「‥‥」
 ちらりと、シェイクの眼が動いた。銃を構えるヨグと、視線が合う。失敗した、今の一撃を防がれる――ヨグの直感は告げるが、直感とは裏腹に、シェイクは微動だにしなかった。動力炉へ命中するに任せ、それを防ぐ素振りすら無い。
「どんな強力な力でも、運用するには動力‥‥いや、違う!?」
 明治剣客浪漫団の一人、ルチア(gb3045)は、エネルギーガンを手にシェイクの周囲を走りながらも、咄嗟に飛び退き、牽制の弾丸を放った。炉心からのエネルギー供給を断ってシェイクの弱体化を図る――その試みがあえなく阻まれる。
 そもそもシェイクと炉心の間には何も無かったのだ。
 普段通りのまま、外見的には何ら変化が無い。
「残念ですが‥‥」
 動力炉に攻撃が命中する事も厭わず、シェイクは動いた。
 眼にも留まらぬ速さで懐に潜り込まれ、胴に蹴りを喰らって吹っ飛ぶ。
「必要以上のエネルギーは無用でして‥‥力ばかりを肥大化させるのは趣味ではありませんから」
「悪あがきはよせよ寄生虫」
 ゆっくりと歩くシェイク向け、エル・デイビッド(gb4145)のレーザーガンが光った。練力の筋が脇目もふらずにシェイクを狙う。その光りを前に、彼女は、掌を掲げた。光りが弾かれ、切り裂かれるように拡散して消える。
「悪あがきは、貴方がた人類の十八番ではございませんか?」
 掌には青白い放電が輝き、一瞬に失せた。
「あがくが故に、未だ膝を屈していない」
 ふいに、彼女の姿が消えた。
 シェイクの姿を追っていた傭兵達は、突然の動きに戸惑う。光学迷彩、ではない。消えたシェイクは、嵐 一人(gb1968)の背後に立ち、その浅黒い細指を走らせていた。
 肩に突き刺さる指。
「なっ」
 骨の砕ける音が、身体の中に響く。
 それでも嵐は、肩の痛みをまるでものともせずに一歩を踏み込んだ。多少の痛みやダメージで、怯むような性格ではない。彼はむしろ、その一瞬を狙ってシェイクの首を取らんとするタイプの男だった。
 幸運があるとすれば、今やられた腕は、盾をとる腕。天剣「ラジエル」を振るうのに不都合は無い。
「――でやあっ!」
 そして彼の動きは、素早かった。
 龍の角による一撃は、並みの敵であれば仕留められた反撃だ。問題は、とっさの事で援護攻撃も得られなかったうえに、相手が並みの敵ではなかった事だった。
 振るった剣はシェイクの拳に弾かれ、直後、彼の視界は暗転する。
 握り締めた拳に顎を捉えられ、強烈な一撃を喰らう。
「それで止められるとお思いですか?」
「ぬかすな!」
 誰かが叫んだ。
 恐るべき速度で床を駆け抜けるシェイク。並みの傭兵では動きを追う事すら敵わず、隙を見せた者から次々と討たれてゆく。だが彼等は、シェイクの一撃一撃の破壊力が強力で無いにも関わらず苦戦していた。
 そもそも彼等は、ここへ到達するまでに幾重にも重ねられた防衛線を突破してきた。体力的にも練力的にも、万全の状態とは言い難い。
 それが、今、響いてきたのだ。
「貴方がたは私を止めねばならないのでしょう?」
 指の骨を小さく鳴らし、歩く。
「戦いに仕切りなおしはありませんよ。どうしました、手札切れですか?」
 そういう自分とて、既に手札は切り尽くした。
 辺り転がる強化人間の骸の数は、戦闘中の強化人間の数を上回っている。
 ただ、傭兵達と強化人間達との乱戦の中にあって、シェイクの周辺だけが不思議と静かだった。彼女は、ずり落ちそうになった眼鏡を小さく直して周囲を見渡す。溜息混じりに何か言いわんと、薄っすら口を開いた。
 まさに、その瞬間。
「まだだ!」
 その大声に振り返るシェイク。後ろ髪が揺れる。
 ガリガリと金属をこする音が、フレームの曲がるシャッター音が聞こえる。油圧シャッターが途中で動かなくなり、金属がひしゃげていく嫌な音が。一人先行して、サイクロン(ga0284)は叫んだ。
「とっておきのジョーカーが残ってんだよ!」
「――ッ!?」
 まさかとの表情で振り返るシェイク。
 接近するサイクロンを蹴り飛ばして至近距離からの銃撃こそ防ぐが――いや、その動作こそが、続く攻撃に対応する暇を失わせてしまった。
「やれえっ!」
「伏せろ!」
 直後、轟音。
 対ヘルメットワーム用の徹甲弾が、シェイクの眼前で砕けた。
「つぅッ――」
 腕を交差した地点に、フィールドのようなものが形成されて、その砲弾を砕いた。彼女が、交差した腕の先に見たのは、ナイトフォーゲル。資材搬入口から銃口を覗かせる、ルシェット・メイシャ(gb8147)のバイパー。
 その補助シートには鯨井レム(gb2666)、ルシェット自身の隣には、シルバーラッシュ(gb1998)が捕まっている。一瞬の戸惑いと共に、再びトリガーに力を込める。
 135mm対戦車砲が轟音と共に弾丸を吐き出す。
 弾丸は、運悪く直線上に迷い込んだ強化人間を粉々にし、シェイクを吹き飛ばして動力炉に突き刺さった。
 バイパーは資材搬入用のエレベーターの中に無理矢理押し込まれ、身動き一つ取れない。ルシェットにしても、コックピットから周囲を確認する為、目視で照準をつけているような状態だ。
「いいぞ、もっと撃ち込んでやれ!」
「‥‥静かにして下さい」
 歓声を上げるシルバーラッシュを制し、砲を操作するルシェット。
「無茶な!」
 シェイクは、瓦礫の中から身を起こし、思わず一人ごちた。
 やっている事は無茶苦茶だ。どうしても動力炉まで辿り着ける道が無いかと探りあて、挙句、友軍のKVを狩り出して大砲を持ち込む。射線が通ればそれで良いとはシルバーラッシュの言葉だが、無茶で、強引にも程がある。
「しかし‥‥」
 してやられた。
「覚悟‥‥!」
 天(ga9852)の血桜が煌く。腕を押さえながら飛び退いたシェイクの背から、ヒューイ・焔(ga8434)が切りかかる。これを迎え撃たんと振り向き、紙一重でヒューイの顔面に拳を叩き込んだ。
 腕が一本やられただけだ。ダメージは大した事無い。まだやれる。
 まだ――
「‥‥ぁ」
 眼鏡を取り落として、慌てて手を伸ばす。
 だがその直後、彼女は唐突に、全身の力が抜けるのを感じた。
 がくりと膝をつき、己の胸を見やる。
 ぽっかりと空いた大穴が、青白い火花を散らしている。
「今のは、誰?」
 ふいに背後へ顔を向けた。
 アンチシペイターライフルを構えた鷹代 由稀(ga1601)の顔を認めると、彼女は、その場にどうと倒れた。動きが止まったのを見て、カートリッジを入れ替える由稀。
「‥‥やった?」
「らしいわね」
 イリアス・ニーベルング(ga6358)がセリアティスを手に、ゆっくりとシェイクに近寄る。
 残った強化人間達も、シェイクが討たれた隙を突いて撃破され、あるいは逃亡を試みる。戦闘の大勢は決した。だから、今更、背後を脅かす敵もいないのだ。いないのだが、それでも由稀は、イリアスの背後を離れなかった。
 ここで逃がせば、後に禍根が残る。
 傍らまでやってくると、まだ息があるのを見て、すっと槍を持ち上げる。 
「‥‥待って」
「命乞い?」
「冗談でしょう‥‥負けた私が生きながらえて、どうすると‥‥」
 ならば何だと問うよりも早く、彼女は動力炉付近の操作パネルへ顔を向けた。
「緊急コードを入力すれば‥‥暴走は止まります」
「どういうつもり?」
 由稀が問う。
 対するシェイクは、ぼんやりとした表情で二人を見上げる。
「私‥‥もう十分に、負けましたし‥‥」
「‥‥」
「敗者に、勝者を殺す権利は‥‥ありませんから‥‥」
 イリアスは構えを解き、膝をついた。
 シェイクが何をどう考えているかなんて、興味は無い。ただ、動力炉の暴走が止まるのであればそれで良い。彼女の流儀に付き合う訳ではない。誰一人欠けずに帰還する為、少しでも被害を抑える為に、それが役立つだけだ。
「コードを」
 息も絶え絶えのシェイクが小さく頷き、口を開く。
「3、2、9、5――っ」
 数字を紡ぐ言葉は、突然に途絶えた。最後まで言い終えぬうちに青白い炎が立ち上り、放電現象を起こしながら、シェイクの身体を焼き尽くしていく。由稀は慌ててイリアスを抱き寄せ、シェイクから引き離す。
 炎から身を守るようにして彼女を胸の中に抱き、青白い炎をじっと見詰めた。
「‥‥何よそれ」
 一人、口篭る。
 背後から、爆薬セットの知らせと、撤収の合図が飛び込んできた。

<担当 : 御神楽 >

<監修 : 音無奏 >
<文責 : クラウドゲームス株式会社>


【三番艦救援作戦】

 第三艦橋が海溝に沈んでいくなか、海面まで浮上した三番艦では、緊急を要する事態が発生していた。
「敵、未だに増殖を行っています! このままでは――ガガッ、此処も――‥‥」
「おい、どうした!? くそっ、あの化け物どもめ!」
 相次ぐ悲鳴。そしてそこに広がる光景は、混乱の一言。
「まさか復活の真似ごとをするとは‥‥往生際が悪いな」
 船内の傭兵に緊急で通達が届く。その報せに、うんざりと言った顔つきで刀を握るのは富士 景継(gb9320)。
 バイオステアーと分裂体。それが、彼の耳に告げられた今回の敵主目標の名であった。
 そう、あの忌々しき人類の敵、ステアーから誕生した新たな生命体の名だ。

「自分達を助けてくれようとした参番艦‥‥くれてやるわけには行きません!」
「そうだな。それに‥‥シモン、貴様に何時までも好きにはさせん。返してもらうぞ、この艦を」
 休息も束の間。再び臨戦態勢へと入る8246小隊では、あまり表情には出さずとも、静かに意気込むベル(ga0924)の言葉にリディス(ga0022)が頷く。
 その際、リディスの言った決意。それは、確かにシモンに向けられたものであった。
 だが――
『各傭兵に告ぐ。敵は分裂を繰り返し散開中。索敵及び駆逐を同時進行で遂行せよ!』
 艦内に響き渡る緊急指令。それは、今から対峙する敵が、これまでにない未知の存在であろうことを告げている。
 シモン。確かにそれは、シモンの搭乗していたステアーから生まれたモノ。
 しかし、そこに彼としての存在は最早感じられなかった。

 ただ生をうけ、あらゆる感情は吐き出され。生への執着もなければ、欲もなく。
 それは破壊を繰り返す、人類にとっての悪の塊‥‥。
 かくして、死という重荷を背負いし艦の中にて、譲れぬ戦いが幕を開けた。

●異形の者達
「全く、厄介なことになったものだ。最悪は参番艦ごとの処分かな? これは」
 参番艦。それは人類の誇る最高の兵器である。兵器、と言えば聞こえは悪いが、つまるところは人類の希望。
 その希望がかつてない危機に直面した今、一刻の猶予も傭兵達に与えられてはいなかった。
「ふん、そうはさせんさ。我らの力を見くびるでないぞ!」
 目の前にバイオステアーと呼ばれる存在を迎え、改めて事態の緊急性を示唆する緑川 安則(ga0157)に対し、彼と同小隊のシリウス・ガーランド(ga5113)は異形に怯む様子もなくガトリングを向ける。
 参番艦ごとの処分。緑川の言うとおり、場合によってはこの参番艦ごと海中に沈められる可能性も否めない状況。
 しかし、だからと言って潔く退くわけにはいかないのも事実だ。
「皆用意は良いな? 俺たちの力でここは凌ぐしかないからな。気合入れていくぜ!」
 緑川率いる特務部隊:零小隊に続き、こちらもバイオステアーへの対処へと向かっていた暁の騎士団。
「ふふ、微塵切りにして炒メシの材料にしてあげますよ」
「いや、それはマズイだろ、やっぱ‥‥」
 団員フィーロ(ga7235)の言葉にツッコミは忘れずとも、ライフルで的確に射撃を試みるのは隊長のヴォルク・ホルス(ga5761)。
 今回の戦域は、艦内。まして、自軍のだ。故に、派手な爆撃などの戦法が不可能であった為、彼らには何よりも丁寧かつ正確な殲滅が求められていた。
「し、支援しますっ、射線に気をつけてください!」
「ロック完了? それじゃ、いきましょうか!」
 が、そこは普段から馴染みの深いメンバー。巧みな連携を駆使するレア・デュラン(ga6212)やグリク・フィルドライン(ga6256)は、狭い場所だけに互いの射線に気を配り、着実に手数を重ねていく。
「おいたが過ぎれば、お仕置きしなきゃね? 戦場に、戦士の歌を!」
「ありったけのロマンを君にお届け!」
 更にこちらは、最前線でスパークワイヤーを操るシェリー・ローズ(ga3501)。
 今回の敵は未知数。だからこそ、まずは敵を束縛しそのまま雨霧 零(ga4508)らの弾丸の嵐へと繋いでいた小隊ヴァルキュリアーズ。
 残りの弾がなくれなれば補給すれば良い。そうとばかり、手当たりしだいに弾幕を張る雨霧ではあったが、確実に敵の生命力を奪うソレは、やがてバイオステアーの首を地に垂れさせた。
「相手は何であれ、どうやら破壊は可能のようですね。ならば、成す事は変わりません。貴方達にはここで果ててもらいます」
 と、その様子を確認したBlitz隊の鳴神 伊織(ga0421)は、そのままバイオステアーにハイディフェンダーで斬りかかっては後退を繰り返す。
 そして――そんな彼女が誘導した敵を待ち構えていたのは、
「やっかいなモンだが‥‥ハッ♪ 知能は猿並みだな!」
 周囲に障害物のない、広い空間でのピアース・空木(gb6362)やリヴァル・クロウ(gb2337)による遠慮のない一斉攻撃であった。

 さて、艦内ではバイオステアーとKVがぶつかる中、分裂体の排他作業に追われていたのは歩兵部隊の面々。
「次から次へと‥‥面倒ですわね‥‥」
 こちらは、分裂体が被害を出しているとの連絡を受け、イの一番に飛び出したミルファリア・クラウソナス(gb4229)ら【G.B.H】隊。
 仲間との距離や位置を把握して、連携を重視しつつ前線で特注品のフリルパラソルを振るうクラウソナスだが、さすがに次々と現れる分裂体の前に言葉を濁すのも無理はない。
「救援にいらした船を、見殺しにはできません」
 だが、ここで自分達が参番艦を護り抜かなければ、間違いなくこの艦は皆を道連れに墓場へ直行だ。
「強い敵が問題ではありません。船を沈めないことが最優先ですわ」
 そう小隊に語りかけ、士気を高める水無月 蒼依(gb4278)は、分裂体の中でも比較的小さい個体を狙い、確実に敵の数を減らしていく。
「分裂体? はっ、相手が誰だろうと関係ねぇな。俺はこのケイブルクで突きまくるだけだ!」
 そして、その近くで戦う岡村啓太(ga6215)も、敵の数に気後れすることはなく勇敢に槍を煌めかせる。
「ギシャア!」
「言葉も話せず、ただ破壊して回る‥‥随分と迷惑な野郎だな!」
 一歩、強く踏み込んだ啓太。瞬間、襲いかかる触手ごと、彼の槍は敵を貫いていた。

「あぁ! ほらほら、サキ! あっちにヌルヌル触手がいるよ♪」
「がぅ‥‥本当に触手‥‥。バグアも随分と悪趣味‥‥」
 最初こそ戸惑いのあった人類側だったが、傭兵の展開により、艦内でも一応の落ち着きは取り戻しつつあった参番艦。
 その特質性や異形性からも、初めこそ不気味に思えたバイオステアー並びに分裂体であったが、通常通り破壊できることが分かった以上、傭兵達も最後の士気を奮い立たせていた。
 そんななか、こちらは他の小隊と違い、独自の視点で分裂体へと向かっていたKali・Yuga隊。
「触手に粘液‥‥ま、まさかこれ程とは‥‥ハァハァ」
 敵を発見したかと思うや否や、なんとそのままレイチェル・レッドレイ(gb2739)と佐倉・咲江(gb1946)の2人は触手向けダイブ。
 一見無謀に見えるものの、実はその身を犠牲に弱点を探そうと試みていた彼女達。
「レイチ―‥‥さすがに、それ以上は‥‥」
 とりあえずレイチェルの顔が気持ち良さそうなのはおいといて、レイチェルの限界まで粘ったあとは、佐倉がクタクタの彼女を救出するという流れのようだ。
 そんな作戦の結論からいえば、結局分裂体には、レイチェルの読んだ核的なものは存在しなかった。が、逆に言えば、その報せが傭兵達の迷いを消すことに至ったのも事実である。
「有効な攻撃もなければ弱点もない。だけど、やれる事を全力でやる‥‥それだけよ」
 弱点はない。だが、斬って、撃って倒せない相手でもない。ならば、やるべきことは簡単。
 迷っている暇はないと、とにかく敵目がけ射撃するGargoyle隊のマリア・リウトプランド(ga4091)に次いで、同隊の雪代 蛍(gb3625)は薙刀の一閃で敵を屠る。
 エネルギーを放出し終えるまで粘り勝つか、一定以上攻撃を与えられれば、ステアーの分裂体と言えど生身で勝てぬ相手ではない。
 この確かな事実を胸に、歩兵隊は更に引き金を引く力を強めていくのだった。

●墓標への道
 艦内で戦闘が開始されてから、どれ程の時間が経っただろうか。既にバイオステアーと分裂体の侵食に伴い、傭兵達の展開もほぼ完了していた。
「やっぱり水中戦は好きだけどさ、この爆音だけは勘弁してほしいな」
 本フェイズの参番艦救援作戦では、艦内部に展開した敵の排他が主任務であったが、勿論敵は内部だけではない。
「ステアーは生物兵器みたいだが、参番艦丸ごとステアーに支配されるのは勘弁」
 数こそ少なかったものの、水陸用KVビーストソウルのみで構成された、ゴエイ・カーン(ga6315)らが所属する特務部隊:壱小隊は、外に逃げた分裂体や、オーストラリア方面からやってきたマンタワームなどの駆逐に一役買っていた。
 水中を奔る弾丸。渦を作るその弾道は、射線場に位置する敵を次々と撃ち抜いてく。
 ――だが‥‥
「‥‥たく。キモっ! 本っ当、趣味悪いにも程があるってね」
「まったくだ‥‥さ、次も派手にいこうか」
 それは、壱小隊の戦う海面より少し下の海中と、装甲1枚隔てた艦内のとある一室にて起きた。
 他の歩兵班と同じく、生身で分裂体と戦っていたGargoyle隊の聖・真琴(ga1622)らが、その部屋の分裂体を全て片付け終わり、次の区画へと移動していようとした時。突如として、彼女達の背後に位置する壁から亀裂が走ったのだ。
「え?」
「――綾乃!!」
 振り向き、叫ぶ真琴。その前方に位置する聖・綾乃(ga7770)の後方から、瞬間的にマンタワームの一部が除いた。そして、間髪いれず亀裂から吹きだしてきたのは水飛沫。
「くっ、かはっ」
「この手に捕まって!」
 浸水。
 それは、想定し得る事態でも、最悪に部類されるものだった。水の凄まじい圧力に体を叩きつけられながらも、何とか桜井 唯子(ga8759)の伸ばされた手を掴んだ綾乃は海水から逃れ、そのままイレーネ・V・ノイエ(ga4317)達の手によって室内の扉が閉められる。
「はぁ‥‥はぁ‥‥はは、ここの扉が頑丈で良かった」
 水浸しの綾乃を抱えつつ、目の前の強固な特殊金属の壁を見て安堵の溜息を吐く桜井。
 火器管制室。それが、彼女達が今まで戦っていた一室の名だった。そう、実は不幸中の幸いにも、この参番艦内でも最も強固な扉を有する部屋のひとつがここだったのだ。
「これなら、海水のこれ以上の浸水は防げるな」
 やれやれと言った表情で言うイレーネだが、確かに此処の浸水は、艦内の位置から考えてもこれ以上の被害を呼ぶ心配はないだろう。
 しかし、真琴達の直面した事態が、次に何処で起きるかはわからない。そして、それは同時に、水中部隊の少なさが浮き彫りになっているようなものである。
「回復を急がないと。ゆっくりしている暇はなさそうだね」
 スキルを使い回復を急ぐフィオナ・フレーバー(gb0176)の手を借りた後、Gargoyle隊は再び分裂体のもとへと足を進めるのだった。

 浸水の報告は、歩兵隊の動きを鈍らせるには十分なものだった。やはり、そこに少なからずの恐怖が生まれるのだ。
 だが、そんな報告を受けても、一切影響を受けずに次々と分裂体を蹴散らしていく部隊もあった。
「やっぱりナマモノは拾っちゃダメですね、何が潜んでるかわからない」
「まったくね。あーもう、勿論クリーニング代は別に出るのよね、これ!?」
 そのひとつが、鯨井昼寝(ga0488)率いるアクアリウム隊である。
 多数の分裂体に囲まれても、怯む様子なく疾風脚で敵を吹き飛ばす平坂 桃香(ga1831)からのパスを受け、飛んでくる分裂体にトドメの一撃を放つゴールドラッシュ(ga3170)。
 その際飛び散る体液と粘液に顔を顰めつつも、後で本部からガッポリ給金を頂こうと思い士気を高める。
 しかし、水没の危機に直面しつつも、何故彼女達の戦いの冴えが衰えないのか。その答えは、実に簡単だった。
「オッケー、ここもあらかた片付いね。次はどうする?」
「そうね、私達は他の部隊が通らないルートを進むわ。指令室に浸水の可能性がある場所を教えてもらうよう通達して」
「了解♪」
 あえて水没の可能性があるルートを選択した昼寝は、なんと横の邪魔な隔壁を壊し進み始める。そしてその手に確と握られていたのは、エアタンク。
 そう――水中戦は任せてと言わんばかりに、この戦域における戦闘は、正しく彼女達にとって絶好の狩り場であったのだ。
「掃除も、骨が折れるな」
 昼寝を先頭に進んで行くツァディ・クラモト(ga6649)達。その各メンバーの手には、エアタンクや水中用武器といった、特殊装備が光っていた。
 然るべき武器と、枠に捉われぬ行動力。それらを実現した部隊がどれ程の強さを誇るか。アクアリウム隊は、正にそれを実証して見せた戦いにもなったであろう。

 さて、内部からの被害に加え、外部からの攻撃も痛手ではあったが、それでも敵個体の確実な減少により、戦況は幾分希望的なものになっていた。
「ギ‥‥グガガ‥‥」
「往生際の悪さも一品と言う訳か。だがその妄執、断たせて貰う!」
 最早人語ともバグア語とも取れぬ、ただ奇怪な声を発する分裂体。
 斬っても斬っても、中々絶命までには至らぬ渋とさにある種の不気味さはあったが、徐々に立ち回りも確立してきた白鐘剣一郎(ga0184)らペガサス隊は、近場の敵の情報を得ては、果敢に挑んで行く。
「はっ、ステアーだか何だか知らねぇがな! そんなんで俺達が止められると思ったか!」
 そして、それはゼラス率いる、この放課後クラブ隊にとっても同じことだった。
「アンタ達、戦艦より墓場が似合ってるぜ!」
 威勢よく声を発した後、メンバーの死角を補う形でイアリスの一太刀を浴びせる鉄 迅(ga6843)。
 次々と蹴散らされていく分裂体を前に、メンバー達は一層勢いづく。その表情は、各々気迫に満ちている。
「これが‥‥こんな醜態が! お前の望んだ末路かよ! シモンの大馬鹿野郎ぉ!」
 ただ、叫べども何ら反応を示さぬ分裂体を前に、一種の虚しさすら感じていた新条 拓那(ga1294)1人を除いて――

「最初はどこのB級ホラー映画かと思ったが‥‥大分コイツらも数が減って来たな」
 場面は変わり、再びバイオステアーと対峙するKV班。明け方から始ったこの作戦も、気付けば時刻は既に正午を回っていた。
 序盤の熾烈さを考えれば、幾分かマシになってきたなと、8246小隊のベールクト(ga0040)も肩の力を抜いて言う。
「にしても‥‥宇宙人の美的感覚だけは、一万年経っても理解出来そうに無いですね‥‥」
 と、周囲に散らばる無残な死骸を前に、思わず目を逸らすのはヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)。
 全てのエネルギーを放出し、体中の至る所に斬撃や弾丸を撃ち込まれたその姿は、正しく異形の最期に相応しいと言える程のものだ。
「侵食された箇所も、排他作業と並行して補修作業が行われ始めています。このままいけば、一先ず沈没の危機は免れそうですね」
 水上・未早(ga0049)から伝えられた無線越しの声に、安堵の表情を浮かべる傭兵達。どうやら、外で猛攻を揮っていたワーム達も、遅れて到着した水中軍の手によって、ある程度抑えられている様子だった。
「よし、このままバイオステアー本体の破壊の報を待ちつつ、我々は最後の排他活動へと移行する!」
 力強くリディスは喝を入れる。
 そう、あとはこのまま艦底に根を張った最大のバイオステアー(バイオステアー本体)が破壊され次第、残りの敵勢力を駆逐して帰還するだけ――

 ――のはずだった。

「!? い、今のは‥‥」
 ドォオンという音とともに、激しく揺れ動いた船内。その振動に冷や汗が首を撫でたのは、生身で救出活動を行っていたザン・エフティング(ga5141)。
「はは、救出にいって海の藻屑に、なんてかっこ悪いったらねぇな」
 思わず言葉を濁す彼。
 そう、参番艦の上空において、遂にバグア側による空爆が始ったのだ‥‥

 緊急を要する事態を脱しても、息つく間もなく次の緊急事態が空から降ってくる。
 艦内、海中からの攻撃だけでなく、上空にも敵の息がかかり始めた今、これ以上の任務続行は完全な賭けであった。
「見つけた‥‥。五大湖から続くステアーの悪夢‥‥ここで全てを終わらせる!」
 そして――。空からの爆撃に耐える参番艦の最深部。
 そこでは、バイオステアー本体を眼前に捉えたAstraea隊のアンジェリナ(ga6940)達が、既に展開を終えていた。
 ここに至るまでの道は、KV班や、危険も顧みず先遣隊として活躍した歩兵隊によって築かれた道。
 それは墓標への道しるべなどではなく、勝利へと続くための道しるべ。
 不気味に胎動する異形。これを叩けるか否かで、自分たちの明暗も決定するのは言うまでもない。
 こうして、いよいよ参番艦での戦闘に決着がつける為、最後の激戦が始るのだった。

●艦底での決戦
「禍々しいだけの化け物なんか‥‥!」
「跡形も無く、燃え尽きなさい!」
 KV用エレベーターから降り、更に進んだ最深部に潜みし最悪の種。
 その姿は、ナオミ・セルフィス(ga5325)の言うとおり、正しく禍々しい化けものであった。
 バイオステアー本体を視認次第、まず斬り込んだ小隊の1つ、Astraea隊。
 あちらは、ややヒト型とも取れる不気味な形状の物質を中心に、四方八方至る所へ根らしきものが這っていたが、まずは盾で警戒しつつ粒子砲を撃ち込むティーダ(ga7172)。
 広い空間を彩る光。辺りを焦げ付かせながら、その煌めきがバイオステアーに突き刺さった。
「一気に突っ走るぞ‥‥突撃ぃぃぃっ!!!」
 そして、敵の反応も待たぬまま鹿嶋 悠(gb1333)やティーダは追撃を仕掛ける。
 艦の侵食を止めるためにも、一刻も早い討伐を。その一心を胸に、味方の援護射撃による爆炎を突き抜け、敵へと放たれる雪村や機斧といった各々の兵器。
 ――しかし
「なっ!」
 突如、下から突き抜けてきた鋭い針のような物体が、鹿嶋の強固な雷電の腕をもぎ取った。
「く、このっ」
 しかも、そのまま雷電ごと上へ昇っていったソレは、直後、上空からティーダの機体へ向けKVを真っ逆さまに叩きつけてくるではないか!
「――ッ!」
 激しい震動に頭を揺さぶられ、雪村が虚しく地を撫でる。思わず地に膝をつくアンジェリカ。
「こ‥のぉ!!」
 そんな2人を目の前に、これ以上の追撃を押さえようとバイオステアー本体に急接近し、機杭を打ちつける六堂源治(ga8154)。
 グォォンという音ともに感じた、確かな手応え。だが、まだだとばかりに源治は、機体を回転させ解放した剣翼でバイオステアーを斬り裂く。
 一瞬、周囲を包んだ静寂。やったか? そう後方のメンバーが思った、刹那!
「グ‥ガ‥ギギ‥ギャヒ」
「!?」
「危ない!!」
 目の前のバイオステアーが奇怪な声を上げたと思えば、誰かが後方で叫ぶ声が聞こえた。その瞬きの間に、1度操縦席を照らしたアラームランプ。
 そして、気付けば六堂のバイパー改には、無数の触手が貫通していた。

「そん‥な」
 警報ランプやアラートすら機能を停止する。よもや、本当に死と隣り合わせになったKVの中が、これほど何もなく静かなものだったとは。
 そのまま、触手を引き抜くどころか、横に薙ぎバイパーを真っ二つ寸前にまで半壊させたバイオステアー。それは正に、常識を超える桁外れの存在。
 更に、何よりもその場にいた者達の目を疑わせた光景が‥‥
「あれは‥‥まずい、ステアーは機体を取り込もうとしてます!」
 佐倉・拓人(ga9970)の一言と同時に、我に帰る傭兵達。その前では、なんと無数の根が、源治を始め、鹿嶋やティーダと言った機能を停止したKVを呑みこもうとしているでないか!
「今度は‥‥私達が救う番よ!」
 おそらくはエネルギーを得ようとしているのだろう。頭ではそう理解出来る。
 それでも、その様子に驚愕の表情は隠せないが、仲間の窮地を助けるべく動いたエンジェル・フェザー隊は、倒れている機体を救うべく次々と攻撃を仕掛ける。
 加速する勢いに重量を乗せ、重いディフェンダーの一撃を放つ空漸司・由佳里(ga9240)ら。しかし、一斉にかけた圧力をまるで嘲笑うかのように、「グギギ」とバイオステアーが声を上げたかと思えば、その口と思しき部分がガバッと大きく開く。
「アレ‥は‥」
 その口に目が行った時。それは同時に、KVのスクリーンから外の映像が途切れる瞬間でもあった。
「うそ‥‥だろ」
 次々と噴射される粘液が、襲いかかるKVを一切の躊躇なく溶解させていくのだ。
 その光景は、かつてないものであったろう。KVの誇る硬度すら、まるで粘土の塊のように思えてしまう程なのだから。
 戦闘は、原始的。だが、その情報に反した、これ程の戦闘力を一体誰が想像できたであろうか。誰かの振るえる声が無線に響く。バイオステアー。それは、最早絶望を告げる、巨大な墓石の如く佇んでいた。

 ――しかし。
 辛くとも、誰かがその身を投げ出す覚悟で放った攻撃は、必ず次の手へと繋がる布石となりうるのもまた事実。

「彷徨って道連れを求めるな。孤独のまま、地獄に堕ちなさい。其れが、あなたに相応しい最期よ‥‥!!」
 暗雲を貫く一筋の光が、バイオステアーの前方から煌いた――。

 ***

 まず先陣を切って飛び出したのは、突撃機動小隊【魔弾】のロッテ・ヴァステル(ga0066)。そこから、相沢 仁奈(ga0099)ら近接班が続き一気に接近を試みる。
「グギ‥‥ギギギ」
 それに気付いたのか、再び不気味な声とともに地べたを這う根を突き上げようとするバイオステアー。しかし、どうしたことかその根が上がらない。
「ゼカリアの主砲、三途の渡し賃代わりに持って行け、名もないバグア」
 見れば、そこには地面スレスレに照準を合わせた御山・映(ga0052)のゼカリアが、砲口から煙を上げると同時に、地面を根ごと焦げ付かせていた。
「ギ‥ギャヒ」
 それでも止まらないステアーの攻撃。次は、上空、正面、左右と無数に枝分かれした触手がロッテ達に向けて飛びかかる。
「ロッテさん達には‥触れさせないですぅ!」
 が、それを弾き返したのは、幸臼・小鳥(ga0067)や楓華(ga4514)と言った援護班の一斉射撃。大きな発砲音とともに、ロッテ達とは的外れの方向へ軌道が逸れた触手は、空を切って地面や壁に突き刺さる。
「グ‥ガガガ」
 そして。手を封じられたバイオステアーは、最後に口を大きく開き、あの粘液を発射――
「させは‥‥しない!!」
「――!?」
 ガボォ、と言う奇声。その発生元には、ロッテのグングニルが突き刺さっていた。
「ギ‥‥ガァァア!」
 ブーストにブーストを重ねた、自機が打てる渾身にして最大の刺突。その一撃は確かにバイオステアーの口にめり込んだが、反動も大きく追撃を加えることは叶わない。
 しかし、これで止まらないのが魔弾。ロッテの攻撃を加えた箇所に、相沢らの零距離における連撃が確実にヒットしていく。
 その波状攻撃が効いたのか、バイオステアー本体は、初めて見せる動きで苦しそうに全身の根や触手を震わせていた。

 かつてない脅威を持った敵とて、今までに倒してきた敵と違いはない。
 魔弾が作った数秒間の隙は、短くとも、何よりも大きな一瞬。
「往生際が悪いな!」
「本当に、化け物ですね。ですが、ここで滅びなさい‥‥!」
 そこに飛び出したのは、月狼第零師団皇牙の月森 花(ga0053)と如月・由梨(ga1805)の2人。
 知能はないに等しい。だが、その2人の気迫に、何か感じる者はあったのだろう。必死で根や触手を使い防御に回ろうとするバイオステアーだが、時すでに遅し。そこでは、真田 一(ga0039)や麻宮 光(ga9696)と言った月狼の面々が、あらん限りの力で敵の身体を押さえつけていた。
「ギギ‥ギャ」
 吹きだす体液。2人の交差と同時に生み出された衝撃は、周囲の地からステアーの根を地面ごと吹き飛ばし、大気を震わせる。そして、その先に見えた、ステアー内部に淡く輝く物体。
「あれは‥‥まさか」
 核。或いは、ステアー内部の生体機械の一部が突然変異を起こし発生した、疑似脳とでも言うべきか。
 バイオステアー本体が身体の深くに隠していたソレは、絶え間ない月狼の攻撃によって剥き出しにされている。
 そして、如月や月森を始めとした、多くの牙が作りあげた瞬間に。
「月の恩寵を享けし狼の牙と咆哮を其の身に受け‥滅びよ‥亡霊‥狼牙咆哮‥!」
 終夜・無月(ga3084)の、練剣「雪村」が振り下ろされた。

●決して忘れぬ海を背に
 バイオステアー本体の破壊に成功。この報せは、本作戦の成功を告げると同時に、参番艦の沈没という、最悪の結果を免れる最大の要因に成り得る。
「美海の参番艦を汚す輩は、断じて許さないのであります」
 更に、ここで増援として、第三艦橋の跡を通り、周囲の海中を警戒していた美空(gb1906)達も疲弊していた対バイオステアー班と合流し、サポートへ。
 近接する海中でも、柚井 ソラ(ga0187)らPLOUF隊によって、既に防御網は敷かれていた。

 ***

 歩兵隊やKV隊、暗い室内から甲板へ出た者達を、燦爛たる彩光と、未だ止まぬ爆撃が出迎える。
 傭兵の目に映る、斜陽の光。それは美しくもあり、海と空を血で染めるかの如く、不気味にも感じられた。
『これより艦は潜水、離脱に入ります。各人員は、至急船体内へと避難ください』
 だが、傭兵達は知らない。爆撃から逃れる為、急速潜水した際、激しい水しぶきと同時に輝いた虹の欠片を。
 それはきっと、戦いの果てに彼らが見る、美しき世界への―――   
                                 <参番艦救援作戦・了>



<担当 : 羽月 渚 >

<監修 : 音無奏 >
<判定・文責 : クラウドゲームス株式会社>

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