己丑北伐
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<報告書は前編:後編から成る>

オーストラリア迎撃  瀋陽解放作戦・地上  地下潜入作戦  参番艦救援作戦


【オーストラリア迎撃】
「撃退とはよく言ったものだ」
 ユニヴァースナイト弐番艦整備室、出発を待つカタパルトからも空の異変は確認できた。早朝独特の朝焼けの中を南、オーストラリアの方角から黒い群れが移動している。無論天気ではない。今回後方支援としてオペレーターを務めるレティ・クリムゾン(ga8679)からは本日の天候は晴れ、夜まで崩れる恐れは無いと全艦放送が入っている。
「さて‥‥邪魔な連中を追い返すとするか」
 天衝本隊総長を務める漸 王零(ga2930)が見るのは南方より迫る黒い影、雨雲にようにさえ見えるバグアの大群である。
「KV各小隊へ、敵機来ます。全機発艦準備をお願いします。まだ本星型のヘルメットワームの姿は確認できません。ここが踏ん張り時です! みなさん、頑張ってください!」
 冴木美雲(gb5758)が出撃命令を全体に伝える。敵は本腰を入れていないのか、あるいは陽動なのか主力とおもわれる本星型のヘルメットワームを出してきていない。そのため精鋭機対応の部隊を残し、戦闘部隊、続いてジャミング妨害部隊が二番艦を後にする。
「バイオステアーに雷電クラッシュを叩き込みたかったな〜‥‥」
 中にはドクター・ウェスト(ga0241)のように不満を漏らす者の姿もある。だが同時にそれはまだ防衛部隊に余裕があるということの象徴でもあった。

 数分後、黒雲もといバグアの大群が弐番艦からでもバグアだと確認できる位置まで肉薄していた。先発する部隊は既に弐番艦を離れ、戦闘空域へと向かっている。
他にも艦内には周藤 惠(gb2118)が怪我人の介護に当たるために今の内に医療品の残量確認を、龍鱗(gb5585)は迅速な補給に向けて備品の位置を点検をしていた。そして弐番艦の外にも後方支援部隊が控えている。
「さあ、やってやるぜ」
 Loland=Urga(ga4688)は愛機であるRB−196ビーストソウルを戦闘空域海上に浮かべ、客観的に全体図を眺めていた。戦争は物量、それはこれまでの歴史が物語っている。こちらも四百を越えるKVを並べた訳だが、層は薄いとしか言えなかった。実際弐番艦の周囲にはH−114岩龍やH−223A斉天大聖が大半を占めている。情報収集という観点から言えば悪い選択肢ではないのだが、前線を突破される事があれば脆い。実際弐番艦の後方にある参番艦でも救援作戦が展開されている。弐番艦が墜ちる様な事があれば、参番艦も巻き込まれる形で墜落は免れないだろう。そのためにも一人でも多くの戦士を救出し、戦力を維持させる必要がある。やがて通信が五月蝿いほどに響き渡る。戦闘の開始だった。


「前衛イビルアイズ隊突撃! 奴らを叩き潰すのよ!」
 高木・ヴィオラ(ga0755)の指揮の元、オラトリア隊の前衛と務めるイビルアイズ隊が黒雲、もといバグアの群れ目掛けて攻勢を仕掛ける。メインとなるのはホーミングミサイル、距離を取りつつも弾幕を張り、相手の足を止めるのが目的である。それに対しバグアが採った手段は数での勝負、キューブワームを全面に押し出しつつの攻勢、そして隙あらば突撃という手法だった。
 キューブワームが全面に出た事を受け、UPC側も次の陣形を展開。距離を取りつつもキューブワームを先に叩くように優先順位を変更させる。
「これも仕事だからな。きちんとやるべき勤めは果たそうか」
「皆を生き残らせる為にも、あたしも頑張らないといけないね」
 キューブワーム討伐の先陣を切ったのはGae Buidhe所属の日向翔悟(ga0024)、佐伯 怜(gb3917)のE班。彼ら、彼女らの強みは兵装と弾数の多さだった。今回の相手はバグアの本拠地とも言えるオーストラリアからの襲撃部隊、特に質より量で勝負をかけてくるキューブワームの場合、その傾向が顕著になる。E班の作戦はまさにそれを読みきったものだった。二人の攻撃を主体にしたガトリング砲、ロケット弾ランチャーが次々とキューブワームを撃墜していく。加えて妨害を中心とするキューブワームが反撃してくる事は無い。だがオーストラリア迎撃軍も甘くは無い、二人が全ての弾数を使い果たそうとしている状況でもまだモニタースクリーンを多い隠さんばかりのキューブワームが存在する。そして他の部隊でも同様の状況に陥っていた。

「一難去ってまた一難ですか」
 月狼 第弐師団 黄昏所属の新居・やすかず(ga1891)はスナイパーライフルRのトリガーを引きつつ、顔をこわばらせていた。小隊員であるテルウィ・アルヴァード(ga9122)、紅桜舞(gb8836)と合わせれば、相当数のキューブワームを撃墜している。だがまだ視界からはキューブワームの数が減っている様子は無い、むしろ増えているようにさえ見えていた。自分が悪い夢を見ているのかとさえ考えた新居ではあったが、テルウィ、紅桜両小隊員の武器である150mm対戦車砲、GPSh−30mm重機関砲の発射音は確認できる。そしてキューブワームの撃墜もセンサーを通してではなく肉眼で確認できた。だが確実に減っていく弾数と増えているようにさえ見えるキューブワームの数に心が折られかけていた。
「さて、やられた分はきっちり返すぜ!」
「一機でもやっかいなキューブワームを殲滅するです」
 それでもテルウィと紅桜は意気高々と自らを鼓舞し、隊長に遅れをとるまいと砲のトリガーを引いていく。弾数が減っている事は二人とも承知していた。それでも自分達の役目を演じるために、少しでも勝利に貢献するためにと攻撃を続けていく。そして三人のの傍では無所属ながらも久州霧 浅葱(gb9457)がE班を始めとする周囲の味方機を意識しながらキューブワームの撃退を手伝っている。
「少しでも数を減らしますの」
 大型ミサイルポッドとH−112長距離バルカンを交互に持ち替えつつ、キューブワームを狙っていく。バグアはしばらく様子見をしているのか、後方からヘルメットワームがプロトン砲を撃ってくるだけで今の所突出してくる姿は無い。数を減らすためにも久州霧は盛大に大型ミサイルポットを撃ち放っていた。そして彼女の言葉通り、キューブワームは一機また一機と確実に墜ちている。だが彼女の眼の前にいるキューブワームの数は減っている様子は無かった。何よりまだユニヴァースナイトから届けられているはずのラジオ情報、そして周囲からの敵位置の情報にも相当のノイズが混ざっている。味方機のジャミング中和も甲斐もあるのか聞き取れないという程のものではなかったが、バグアからジャミングあるいは傍受されているのはほぼ間違いなかった。
「ジャミングはラジオの大敵なんだっつーの」
 ラジオ放送を行っている小隊FM−Rev所属の大河・剣(ga5065)は一向に良くならない放送状態に苛立ちを隠しきれないでいた。自分もスナイパーレーザーとホーミングミサイルを装備し、キューブワームに照準を合わせている。だが後方から一機、また一機と撃退していくと全体の状況が少しずつ変化して行っている事が見えてきた。弾数を切らしたKVが少しずつ後退を開始していくのに対し、バグアが前進。そしてヘルメットワームの数が徐々に増えてきている事である。大河はユニヴァースナイトに連絡、待機していた精鋭機対応部隊の発進を進言したのだった。


 数分後、弾薬補充そして傷ついたKVの応急処置の数を受け、入れ替わりとして精鋭機対応部隊が前線へと姿を現す。その間にも撃墜されたと思われるキューブワームの破片がまだ空中で霧散している。いくつかヘルメットワームが突出を開始しているが、それでも肝心の本星型ヘルメットワームの姿はまだ見えてこなかった。
「げっ‥‥なんですか、あの敵の数‥‥」
 思わずそんな気の引ける言葉を吐いたのは如月・菫(gb1886)、Titania所属の能力者である。CD−016シュテルンのコックピットからモニター、そして周囲を飛び交う情報網からキューブワームに関しての情報を拾い上げると、このような状況が戦闘開始直後、即ち朝から続いているらしい。現在時刻はもうすぐ昼を回ろうとしている。敵の数を考えるだけで冷や汗さえ浮かんでくる。
「鬼が出るか蛇が出るか‥‥でもな、そんなモンで行く道退いてられるかっ!」
 如月の心を読んだかのようにTitania小隊隊長である鷹代 朋(ga1602)が一喝する。そして愛機であるGF−106改ディスタンで先陣を取り、主兵装であるG−M1マシンガンを掲げてキューブワームを撃墜していく。そして小隊員達もそれに続いた。Titania小隊はビッグフィッシュの撃墜が主の目的である。だがそれに反しビッグフィッシュ以上にキューブワームの数の方が未だに多い。斉天大聖に乗る熊王丸リュノ(ga9019)がすぐさま周囲に特殊電子波長装置βを使用、周囲の状況を探りにかかる。
「がうっ、鯨の臭いを辿るのらー!」
 皆の期待に応えようと熊王丸は無我夢中にコンソールを叩いていく。だが出てくる文字はエラーばかりだった。逸る気持ちを抑えつつ深呼吸で気持ちを落ち着けて、もう一度一から操作を繰り返す熊王丸。祈るような気持ちで最後のパネルを叩くと、今度はエラーとまではいかなくが、視界の届く範囲での情報しか届いてこない。どうやらジャミングが強い、そうとしか結論付けるしかなかった。そしてそれは他の部隊でも見られる現象だった。

「オーストラリアの実力を見せて貰えるんでしょうか♪」
 出発前には余裕とも取れる笑顔を見せていた月狼 第零師団 青龍所属シェリル・シンクレア(ga0749)も現場を目の当たりにして絶句した。出発前の弐番艦でバグアに押されつつあると情報を聞いてはいたが、実際に現場を見ると圧倒される。南の空に映っていたのは黒い雲に見えていたが、こうして近くで見てみるとゴミの山のように見える。実際バグアを地球のゴミと称すれば、それほど間違ってはいないものであった。
 一つ呼吸を置いて、シェリルも小隊の行動指針でもある朱雀との連携、そして本星型ヘルメットワームの策敵のために愛機ES−008ウーフーを起動。だが表示される文字は大量のERRORの文字であった。自機の不良の可能性も考えてシェリルは連携相手でありウーフー使いでもある月狼 第零師団 朱雀所属ルアム フロンティア(ga4347)にも周囲の策敵協力を要請。だがルアムもシェリルと同様にエラーの山を築く結果となっていた。なかなか本命の現れない状況に、偵察部隊の援護も兼ねて煌月・光燐(gb3936)、月影・白夜(gb1971)両隊長が討伐の指揮を下す。
「‥‥主に託されたこの役目‥‥必ず全うする‥‥」
「此処は通さないよ、僕達の後ろには希望が居る‥‥」
 F−201Aフェニックス、シュテルンというそれぞれの乗機のエンジンに火をいれ主兵装であるレーザーガトリング砲、試作型「スラスターライフル」の銃口をバグアの大群へと向ける。それに倣う様に小隊員達も武器を構えると、バグアの方も散発的に戸出させていたヘルメットワームをキューブワームに混ぜて前線へと展開していく。それは様子見を終えた本格的な戦闘の開始だった。


「とりあえず燃料と弾薬だけでいい! 次々出しちまえ!」
 同時刻、ユニヴァースナイト弐番艦整備室では鹿観・雅嵩(gb6767)が一人吼えていた。続々と帰還してくるKVを追い返すためである。別に鹿観の機嫌が悪いわけではない、彼自身仲間達がそれなりの戦果を上げている事はラジオで確認している。だがそれでもバグアに数で押されつつあるという状況、そして大半の機体はほぼ無傷での帰還、つまり弾切れによる帰還と言う事が彼を苛立たせていた。精鋭部隊がある程度盛り返してくれると信じてはいたが、量の勝負にはやはり量で対応するしかない事は彼も自覚していたからである。
 バックアップを主とするリース(gb5494)率いる聖闇十字【先見】も補給の手伝いを行っていた。小隊員総出による流れ作業で弾薬の再装填を進めつつ、同時にパイロットにも簡単な治療を施し休息を与えていく。だが中には装填も終わらずに休憩を切り上げ、再出発使用とするものさえいる。そんな能力者達を気を治めるのも聖闇十字【先見】の仕事となっていた。
「いけませんわ。それ以上は無理です! お戻りなさい!」
 止めに入るものの、リースとしてはパイロット達の気持ちも分からないではない。絶対的な手の数が圧倒的に足りない、そう言わざるを得なかった。医療班も補給を手伝いさせる状態である。余裕があるならば弐番艦の外に控えている護衛部隊にも協力を要請したいところであったが、残念な事に比較的近くで砲撃音が聞こえてきている。常に聞こえてくるというわけではなかったが、どうやらいくつかの部隊がUPC軍を抜いて傍まで来ている事は間違いなかった。

「敵機接近、方位215、近隣各機は迎撃願います」
 380戦術戦闘飛行隊所属ジェームス・ハーグマン(gb2077)が周囲の機体に呼びかける。彼が発見したのはヘルメットワーム三機だった。数こそは多いが既に挙動がおかしく、射程圏内に収まりつつある護衛部隊に対して威嚇射撃さえも行ってこない。だがそれがこちらの油断を誘う手である事も考えての小隊を超えての陣形だった。後方に控えるのは月狼 第陸師団 神眼の斉天大聖部隊、そしてその前にはシラヌイ、ハヤブサ、ナイチンゲール、バイパーと多種多様な機体が並ぶ。
「各機、警戒態勢に!」
 哨戒役として弐番艦の周囲を見回っていた月狼 第陸師団 賢知所属テス(gb5614)が警戒を促す。FM−Rev所属の影守・千与(ga4725)や天龍寺 修羅(ga1226)らも防衛陣形の中に参加していった。
「南の脅威、オーストラリア、と‥‥」
「さて、邪魔させる訳には行かないのでここで通行止めだ」
 着々と陣が整うのを看過できなかったのか、三機のヘルメットワームは攻撃へと転じてきた。狙うのは弐番艦の発艦ハッチへの突撃である。後先を考えていないのだろう、全速力で弐番艦へと向かっていく三機のヘルメットワーム。だが機動が単調になれば対処するのも比較的楽という事も真実、数が少なければまだ十分に対処可能な数であった。加えて補給を済ませた戦闘班も試運転を兼ねて一時的に加勢してくれている。押されているとはいえ善戦を繰り広げている前線部隊のためにも負けられない勝負となっていた。しかし時間が経つにつれ突出してくるヘルメットワームの数が増えてくる。徐々に押され始めた迎撃部隊、だがそんな彼ら彼女らに前線で撃墜者回収と情報収集を努めるα(ga8545)から吉報が届く。本星型ヘルメットワームの撃墜に成功したというものだった。

 本星型撃墜一号はジョー・マロウ(ga8570)の小隊【西研】のメンバーだった。G放電装置により周囲のキューブワームを巻き込みつつ、同小隊の巽源十朗(gb1508)がロックオンキャンセラーを起動、同時にスナイパーライフルD−02で援護する。その中をブーストを起動させたジョーマロウの活路を開くブレスノウを乗せたホーミングミサイルG−01で機関部を攻撃、無事命中させることに成功させたのだった。だがジョーの決死の覚悟で放った渾身の一撃にも拘らず、それは本星型ヘルメットワームを単体で撃墜するまでには届かない。至近距離からの反撃によりジョーのS−01改は大破を余儀なくされる。その光景を傍で目撃する事となった巽、そして同小隊ランドルフ・カーター(ga3888)が3.2cm高分子レーザー砲で中破状態に陥っていた本星型を攻撃する。それが止めとなっていた。
「ここで突破されれば画竜点睛を欠く!」
 ランドルフの言葉は同時にジョーの思いでもあった。ジョーはその後、海へと落下。周辺の航路確保を行っていたUNKNOWN(ga4276)により確認されて保護されることとなる。そして本星型撃墜の情報もユニヴァースナイトに届けられ、すぐさまDr.Q(ga4475)によりマッピング、海薙 華蓮(ga4079)などの情報収集班により全体に伝えられる事となる。
 早朝から開戦となったオーストラリア迎撃作戦も既に十時間が経過、太陽も傾き始めている。視界を覆うばかりとなっていたキューブワームの数も落ち着き、減少こそはしないものの増加の傾向は収まり始めている。本星型も撃破、疲れの見え始めた迎撃部隊もこれを好機と見て自らを鼓舞するように奮い立たせる。
「ここで引くわけにはいきませんから」
「パーティーはそろそろお開きだが、ダンスの相手くらいはしてやるよ!!」
 ブルーレパード所属の霞澄 セラフィエル(ga0495)はPM−J8アンジェリカに渾身の鞭を振るい、8.8cm高分子レーザーライフルでヘルメットワームに狙いを定める。狼 第零師団 白虎所属の玖堂 鷹秀(ga5346)はEF−006ワイバーンの兵装から試作型リニア砲を選び、気持ちを乗せた一撃を放いいていた。
「借りは返す、三倍返しでな!」
 A−1ロングボウから放たれたスナイパーライフルG−03がヘルメットワームを一機撃墜する。操縦席に座るのは井筒 珠美(ga0090)、正直身体は疲労を訴えており、目の前には視界を覆いそうなほどの大量のバグア軍が迫っている。だが撤退という言葉は考えられなかった。参番艦のためにも少しでも時間を稼ぐ必要がある。
「参番艦は今忙しいんでね‥‥ここはお引き取り願いましょう!」
 周防 誠(ga7131)もスナイパーライフルD−02で応戦。疲労からか集中力が欠けてきているためか多少負傷しているものの、まだ十分に戦えるだけの気力はある。それを示すように視界の隅に隠れていたヘルメットワームを一機撃墜してみせる。
「皆が作ってくれたこのチャンス、フイにしたら男が廃るってな!」
 夜修羅所属の山崎 健二(ga8182)、水葉・優樹(ga8184)の両名もライフルを中心に消耗を抑えつつ戦闘に意欲を燃やす。当初の標的である本星型ヘルメットワームは未だに散発的にしか現れていない、それには引っかかる所があった。だが忘れた頃に奇襲をかけて来るため、警戒が怠れない。期待と不安が入り混じったまま戦闘を続けていた。そんな彼らの期待に応える様に後方部隊から本星型ヘルメットワームの襲来が伝えられる。だがそれは同時に絶望を伝える通達でもあった。本星型がこれまでのように単騎ではなく、数十機単位での襲撃だったからである。
 その報告と共に弐番艦内では会議が開かれることとなった。今後の方針について考えるためである。


「現在治療中が十二名、治療待ちが三十余名。治療班のオーバースペック状態だ」
 聖闇十字【癒望】隊長である長夜(ga6994)は医務室の状況をそう評した。序盤は機体整備を手伝っていた長夜だったが、午後に入った段階から怪我人の数が増え始め、現在ではほぼ同数に達している。そしてオペレーターや医療班、整備班との意見も踏まえた上で出された結果は撤退というものだった。
「これで最期にしたいものね」
 そう胸の内に秘めながら参番艦に向かうバグア軍を撃退していたテトラ・シュナウザー(ga0218)であったが、現在は徐々に増加して行ったヘルメットワームの数に対処しきれずに治療待ちとなっている。その間、弐番艦が盾となり参番艦への進行をある程度食い止めてはいるが、窓から見える参番艦は煙が上がっている。そして撤退命令と参番艦の危機は戦闘に出ていた前線部隊へと伝えられる。戦闘はそのまま撤退戦へと移行、本星型ヘルメットワームに対応していた部隊がそのまま殿を受け持つ事になった。

「さて、ここまで来たからは気を抜かずにやりきるか」
 Titania所属のカルマ・シュタット(ga6302)はそう言うと、温存しておいたK−02小型ホーミングミサイルの発射スイッチを押した。本星型が群れを成して来たおかげで高優先度複数ということもある。だがその他に、まだ近くにいる負傷兵や回収班が距離をとる時間を稼ぐ目的もあった。しかし一方バグアもUPCが撤退を開始した事を悟ると、追走戦へと切り替え攻撃を開始。簡単には逃がすまいとミサイルの発射地点と思われる場所を中心に残った武器で逃げるKVを攻め立てていく。無傷で逃げ切られるほど楽観視できる状況ではなかった。
「よっしゃ!K−02ターゲットロック――本星型は全部叩き落すぜッ!!」
 一気に距離を稼ぐためにも天衝本隊所属のノビル・ラグ(ga3704)は温存していたK−02小型ホーミングミサイルを全弾発射。ノビル自身疲れから呂律さえも回っていない状態ではあるが、弾幕にするには十分だった。
「ボロボロになってまで頑張った弐番艦を、こんな所で落とさせないんだから!」
 夜修羅所属のベルティア(ga8183)も敵の猛攻の中、出し惜しみすることなく3.2cm高分子レーザー砲を発射していく。日が傾いている事もあり、狙うだけ敵に居所を示す事になるが、それでも反撃しないわけにはいかなかった。
「諦めない心を常に持ちなさい、さすれば負けはありません」
 月狼 第漆師団 朧衣所属の美綴・志姫(gb7946)が小隊を、そして傍で共に撤退する同士達を鼓舞する。バグアの方も弾切れが発生始めてきたのか、攻撃の手は緩んできていた。
 やがて殿部隊の前にも弐番艦が見え始める。追撃していた部隊も姿がなくなっていることを確認し、最後まで護衛についていた部隊もユニヴァースナイトへと帰艦する。だが操縦者達の内心は複雑なものだった。


<担当 : 八神太陽 >

<監修 : 音 無 奏 >
<文責 : クラウドゲームス株式会社>


【瀋陽解放作戦・地上】

●我らを照らすは

「さぁ頑張って運んでいきましょー! あ、それコッチですー!」
 後方で積極的に補給物資運搬を行うは早乙女 瑞穂(gb8942)だ。先ほどから手を休めずあちらこちらを動き回っている。
 紫鳳院 風霞(gb4262)や紅月 風斗(gb9076)等、小隊に所属していない無所属の傭兵らも、疲れ果てているであろう体に鞭を打って、救助なり補給活動に勤しむ。
 傭兵達は既に瀋陽の内部に入り込んでいた。瀋陽を取り囲むご自慢の城壁も、いまやほとんど崩れかけている。
「あなたも戦士ならコレくらいで弱音を吐かないで!」
 救助、補給活動はどこも難航していたが、ここで弱音を吐くわけにはいけない。必死な治療とともに掛けられたソフィー・B・アテナ(gb8370)の声かけに、治療を施されていた兵士もニヤっと、まるで、まだ戦えるさと微笑むかのように笑顔を見せる。
「ふぃ〜。 この年には、中々こたえるわい‥‥」
「大丈夫です、死なせませんよ!」
 ルイス・ロア(gb3905)と最上 空(gb3976)の必死な声も辺りに響き渡る。彼らが所属する【ハーベスター】はリッジウェイを活かした兵員や物資の運搬、負傷者の搬送、治療を行っていた。リッジウェイでバリケードを構築したり、他小隊への支援行動の助勢を惜しまないその活動は後方で著しい活躍を見せていた。
「4足ってのはこういう使い道も、ある‥‥」
 ミア・エルミナール(ga0741)の阿修羅によって続々と戦闘ダメージで擱座した機体が修理班へと運ばれる。後は頼んだぞー!っとウィンクを一つ、そのまま戦場を駆けて行く。こうして、ベテラン、新人、一同力を合わせて支援活動を行っていった。
 
 多くが傷ついていた。
 だが、ここからが、本番。
 最後であってほしい、いや、最後にさせてみせる、本番前。

 彼らが見上げる先に映るのは前面に立ち並ぶ、黒煙立ち昇らせるビル群。真っ黒に立ち上るその煙は、都市が陥落間近であることを暗に物語っていた。

 ドーン‥ドーン‥‥!

 未だに瀋陽内部のあちこちでは爆撃音が絶え間なく続いていた。
「後一押しや、お気張りやす!」
 【スタートライン支援隊】に所属する逆代楓(gb5803)は他隊員とともに後方へ後退した小隊間を回ってあらかじめ用意された武装リストを元に迅速な補給、修理を隊一丸となって遂行する。
 夜も更け始めた頃からUPC軍は戦域に広がる傭兵達に、一度補給地までの後退を指示、一同は視界が開ける夜明けまでの時間を、各々準備とつかの間の休息に利用していたのだ。
「‥‥! 緊急通信!」
 その時間に終止符を打ったのは本部からの緊急通信コード:アラート。北方向の侵攻に従事する為準備を進めていた【ユグドラシル】。隊員の百地・悠季(ga8270)が拾ったそのアラートは、文字通り、いい知らせではなかった。
  
 『中国西部からバグア軍ビッグフィッシュの軍勢が瀋陽に進軍中。 繰り返す中国西部から―』

 ここまできて、援軍‥‥!
 この場面で敵に持ち応えられては補給の薄いUPC軍が相対的に不利になることは明白だった。故に、本部から発せられる命令を聞くまでも無く、傭兵達はただちに各陣地に伝達、戦闘準備を即座に開始する。

 時刻は夜明け。
 少し遅れて発せられた命令で、戦場に傭兵達の雄たけびがあがった。

『総員、これが最後だ―』

「皆さん‥ご無事に‥‥」
 ゼフィリス(gb3876)のように心に祈りをささげる者。
「祖国奪回や‥‥!」
 鳳(gb3210)のように自らの故郷を取り戻さんと戦う者。

 多くの者の想い、それらが続けて発せられた言葉により解き放たれる。

『現時刻を以って状況を開始する! 我等が人類の地、瀋陽を開放せよ! 突撃ィ!!』

 最終幕の幕が今切って落とされた―――。



●膠着解放

 できる限りの、この戦局で今可能な地獄絵図を想像してほしい。
 瀋陽市街地は、まさにそれであった。
 多くのバグア軍、そして多くの地球軍が入り混じり、ぶつかり合う。大規模戦役では大して珍しくも無い状況。だが、市街戦で言うならば、間違いなくそこは今までにないほどの壮絶な戦闘が繰り広げれらていた。
 バグア軍は新鋭機含め、今までにないほどの有人機を中心戦力とし、そこには圧倒的な数のタロスと本星型HWで溢れていた。それだけではなく、大小のHWに加え、主要な道路には大型砲台を持つワームや武装砲台を設置、細い道には歩兵含め、多くのキメラが布陣していた。レックスキャノンももちろん、持てる兵力の余力のほとんどを市街地に展開。意図は明らかだった。
 援軍到達までの時間稼ぎ。彼らもまた、UPC軍の動きを把握していたのだ、時間が経てば経つほど、そして援軍本軍が到達すれば、この劣勢を覆すことが十二分に可能な状況なのだ。そして、それをさせまいと、UPC軍と傭兵達はあらん限りの全力をそこに注いでいた。
「勝つ為には手段を選ばない。 その単純さは羨ましくもありますが、哀れですね」
 ジェミリアス・B(ga5262)は憂いを込めた表情で目の前のHWと交戦しながら呟いた。
「気になる事は沢山ありますが、目の前のタロスを倒す事に集中しましょう」
 その言葉に自らの言葉を重ね、東雲・東吾(ga8443)は握りしめる操縦管に一層力を込め愛機のディアブロでまた一つワームを落としていく。ターゲットをタロス初め新鋭機に絞り善戦を見せるは【Elevado】。三班に分かれた7人の傭兵は、HWを捌きながらも、タロスをへと肉薄していた。
「しぶとい砲台は、こうだー!」
 ロケランを盛大にぶっ放し、次々と武装砲台を沈黙させていくはリオ・ヴィーグリーズ(gb5938)。
「各機へ、11時の方向にハッチがありますです!」
 エド・ヴィーグリーズ(gb5939)の通信でキメラがハッチごと粉々になる。市外の至る所にこのような隠しハッチが散りばめられ、そこから奇襲を行う形で能力者たちに襲っていた。それを鎮圧目的に入れてる小隊はそう少なくはなく、【特務小隊:零別働班】、【独立部隊「ハイエナ」】等を始め多くの傭兵達の援護により、奇襲という意味では、バグアのそれは失敗したと言えよう。

「‥‥!!」
 都市の南東寄りの位置では、苛烈な戦闘が繰り広げられていた。飛び散る火花、そして今まさに一機のタロスと本星型HWが落とされようとしていた。それを遂行していたのは【アクティブ・ガンナー】の面々。各機体の長所を活かした波状隊列により、効率的な被害の分散、そして同じく敵への被害の蓄積に成功していたのだ。
「目標補足、全機、射線あわせ、‥‥一斉射撃、ファイエルッ」
「狙い撃つ!」
 隊長の夜十字・信人(ga8235)の号令に合わせ、アレイ・シュナイダー(gb0936)の咆哮とともに数多の銃弾、一撃がタロスと本星型HWに降り注いだ。
「すぐに損傷が直っちゃうなら、直る前に完全に壊しちゃえばいいんだよ」
 忌咲(ga3867)の言葉のように、息つく暇もなく浴びせられた攻撃に退却することも適わず、異星の使徒は爆散する。負けじと【白銀の魔弾】、【ガーデン・ガーベラ隊】もそれぞれ奮戦。あげた成果は上場だった。
 この戦域は一際新鋭機の数が多い。それもその筈、ここはドリスの撃墜現場。
 再利用が得意なバグアを警戒してか、後処理の為に、数名の傭兵はそれを見逃さなかった。
「ふん、ドリス‥‥くだらん最期だったな‥」
 クリス・フレイシア(gb2547)は探し当てた『ドリスであったソレ』をコクピット越しに一瞥し、静かにバルカンのトリガーを引く。そしてそれは跡形もなく、霧散する。これでもう二度と人類の前に姿を現すこともないだろう。目的を失った敵機は、士気が上がった傭兵達の前にたじろぐしかなかった。

 だが、それでも中々侵攻は進まずにいるのが現状だった。タロスや本星型HWの防戦によるところも大きな理由の一つだが、それ以上に、残存していた数多のアグリッパにより、空からの援護がほとんど成し得ていないのが要因としてあげられる。そして本隊は到着せずとも、徐々に加わる敵の援軍もそれに追い討ちをかけていた。空から侵攻を試みる者も少なくは無かったが、アグリッパの名は伊達ではなく、ことごとくがその恩恵により脅威と化した防空攻撃によって撃墜されていった。
 UPC軍は焦りつつも、来る好機を信じて、じっと耐え続けていた。


●解放前線、轟く

 場面変わって『北稜公園』。この地点からはマグナムキャットを初め、数多くのキメラが絶え間なくその姿を現していた。恐らくそこはキメラ生産、そして排出の拠点のひとつに思われていた。そしてそれを良しとしない傭兵達によって掃討作戦が決行されたのだった。
「チッ、KVでの戦闘行為は禁止かよっ」
 UPCからの命令に軽く悪態をつきながら目の前のキメラを屠るスフレ・アズュール(gb4259)。文化財保護の観点からの命令なのは理解できるが、思い切り矛盾しているから、悪態の一つもつきたくもなる。だが大手を振って『殲滅!』と命令できないのも理解できる。この作戦はあくまでも都市開放。その都市の文化財を木っ端微塵にしてしまっては後に影響する。暗黙の了解でそれを理解しているからこそ、悪態をつきながらも全力でその命令に応えるのが傭兵達なのだ。戦術的に重要な場所でもないので放棄も考えられたが、キメラの大量発生は民間人の避難だけでなくKV戦にもイレギュラーを発生させる原因になる、放っておくわけにはいかないのだ。
 他の戦域よりかなりの多さで小隊無所属の新人傭兵達が目立ち、不安も囁かれたが、それも杞憂に終わった。
「お前らがいちゃアイツらの邪魔になるんでな!」
 メイスを振りぬき、マグナムキャットにトドメを刺す館山 西士朗(gb8573)。だがその一撃の隙を狙うキメラの姿が。
「邪魔はさせねぇぜ!!」
 そうはさせじと、渾身の一撃をキメラに見舞い西士朗の危機を救ったのは同じく無所属のノエル・アンダーソン(gb5887)だった。
「一匹残らず、殲滅する‥‥みんな、行くよ‥‥!」
 【機動小隊『修羅の風』】のリオン=ヴァルツァー(ga8388)も一陣の風となってその波にのる。
 即席ではあるものの、小隊に所属しているものだけでなく、無所属の傭兵達も互いに横の連携をとり、その数はかなり壮観だった。一人ひとりが互いに互いをサポートし、被害を抑えながらも、一人では倒せない敵なら二人で。二人で無理なら三人で。そうして生まれた連動感により、『北稜公園』の戦況は徐々に好調を見せる。
「拠点発見!!」
 【Ham−ster】に所属するキャンベル・公星(ga8943)によるその通信で更に事態は一気に進展する。あらかじめ目星をつけていた場所、公園の中心部に位置する『昭陵』が、同じくして拠点の中心部だったのだ。
 その通信を受けた【漆黒原理】がすぐさま行動を開始する。あらかじめ北方の敵基地と公園の間で公園寄りに陣取り北上するマグナムキャットらを撃破していた彼らは攻撃対象をピンポイントで『昭陵』に絞る。KVによる攻撃だが、ピンポイントに絞ることにより発生した被害は微々たるものだった。そして、バグアの『北稜公園』拠点に与えたダメージは甚大。その一撃のもと、小規模な爆発と共に、能力者たちの歓声が巻き起こる。
 制圧、完了だ。



「‥‥くっ!」
 【ガーデン・ルピナス隊】の赤村 咲(ga1042)は持てる力全てを正面の敵へと注いでいた。
「負けられないのは、私達だって同じよ‥‥!」
 傷つく体に鞭打って全弾を放つ【Legions】のL14・レライエ(ga9113)、善戦空しくも機体は火を噴いて後方へ堕ちていく。
「救助班、ポイントへ!」
 通信を受け、ヒカル・マーブル(ga4625)はじめ、何人かの救助に勤しんでいたものが墜落ポイントへ向かう。
 対空戦域に赴いていた傭兵達は苦戦を強いられていた。ビッグフィッシュや残存の掃討に力を注ぐが、未だ健在するアグリッパや本星HWによって防がれ続けていた。各機残弾を全て撃ち尽くさん勢いで放った砲撃により、確実にバグア軍に被害を与えるものの、制空権の完全な奪取までには至らずにいた。
「緊急通信! 雷公石、稼動の兆候ありっ! 雷公石、稼動の兆候ありっ!」
 進軍しながら至る所のケーブルを切断してまわっていた【アルケオプテリクス】による緊急入電は、戦場に戦慄を生んだ。
 あれを発射されるわけには、断じていかない。
 断じて、発射させてはいけないのだ。
 傭兵達の思うところは一緒らしい。

 今が、突撃の時。今しか、ないっ!

「【lilaWolfe】、みんな、いくよっ!」
「【SteelyWind】総員、突撃っ‥‥!」
「【スタートライン陸戦隊】! いきますよっ!」
 城壁内部の高速道路で北上の機を見ていた3隊の隊長、レーゲン・シュナイダー(ga4458)劉斗・ウィンチェスター(gb2556)、ルーイ(gb4716)の三人の号令により、かなりの人数の傭兵達が東側から一気に北上を開始する。
 目標は、アグリッパ一点のみっ!
 アグリッパの撃墜なくして、制空権の確保は有り得ない。
 そして制空権の確保なくして、空港基地への進軍は有り得ない。
 即ち、そこに、勝利は、ないのだ。
 ならば、やることは唯一つ。
「空港制圧に邪魔な、目の上のタンコブはぶっ潰してやるぜ‥‥っ!」
「邪魔はさせません‥‥!!」
 決死の咆哮を上げる小田切レオン(ga4730)を死なせはしまいと、邪魔はさせまいと、恋人の聖 海音(ga4759)もできる限りのサポートをしながらアグリッパへと肉薄する。
 自分の隊だけではなく、前方にいる全ての味方へ、射撃で支援しロックオンキャンセラーを稼動させ、アグリッパを落とさせはしまいと迫りくるHWの群れに挑む八幡 九重(gb1574)。
 同じく機体能力を最大限に活かしつつ援護に徹するフリッツ・ティンバー(gb4169)。
「地下も頑張ってるんだ、停止時に地上が終わってなかったら洒落になんねぇんだよ‥‥っ!!」
 機体の左腕を吹っ飛ばされながらも、海神 慶(gb9080)は渾身の力を振り絞る。そして彼が作り上げた隙を無駄にするほど、【スタートライン陸戦隊】は温くない。
 一点。
 たった一点に生じた空間の隙。
 その刹那の瞬間、マイクロブーストで一気に突っ切る数多のKV。
 タロスもいた。
 本星型HWもいた。
 ゴーレムも、CWも、レックスキャノンもHWも。
 かなりの数の能力者が撃墜された。
 が、この瞬間の為に戦って、命を懸けた彼らをそのどれもが止めることはできなかった。
 
 北上で巻き起こる数々の閃光が、不落のアグリッパが堕ちたことを、戦場の傭兵達へ告げた。

 まるで、女神のような閃光。
 ―――最後の反撃の合図だった。




「‥‥やれやれ、面倒は嫌いなんだがねぇ」
 遠いとは言えない距離から聞こえる一際大きな爆音の連続。そして立ち上る黒煙。緩やかにその部屋で過ごしていたハルペリュンの元に伝えられた報告は、アグリッパ陥落の知らせだった。
「‥‥」
 無言で、頭に光るレンズのような物体を一撫でし、ゆっくりと立ち上がる。アグリッパの陥落、それは詰まる所、UPC軍の空港基地への進軍を許すということだ。そこまでされて、黙っていられるほど、彼は殊勝でもない。
「一つの余興と考えれば、面白いじゃないか‥‥なぁ?」
 それは誰に向けられた言葉なのか。勿論、部屋の中には彼以外の姿はない。恐らくハルペリュン本人も無意識の内にでた言葉だったのだろう。自分から自分へ向けられた言葉。
 そこから先はほとんど言葉も発さず、部下に二、三命令を告げ、彼は格納庫へとその歩を進めた。


「鯨肉は好きだけど、流石に食えたもんじゃないか、残念‥‥さぁ皆、始めるよ!」
「狙うはビッグフィッシュ一点のみですわ! 皆さん、派手に殲滅開始ですわよ!」
 『魚撃』と称して、【えんじぇる・ふぇざ〜】と【ギンヌンガガプ】の両隊長、まひる(ga9244)とソフィリア・エクセル(gb4220)は隊員を叱咤激励しながら今が好機と、突撃を敢行する。
「【オルタネイティヴ】も共に行く、全機、目の前のビッグフィッシュを飛ばせるな!」
 ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)率いる14名の傭兵もそのすぐ後に続く。狙うは空港基地に鎮座するビッグフィッシュ達。これに飛ばれては空港基地陥落は更に難航する。雷公石は既に稼動しはじめている、発射前の今、一刻も早くそれを破壊しなければならない状況の中では、一つでも多くの敗因要素を潰して置きたいのだ。
「ご退場願おうか」
 陸からのレックスキャノンや武装砲台の砲撃は脅威だが、アグリッパが堕ちた今、腕のある傭兵達の決死な覚悟があれば、対応しきれないものではなかった。弾幕を掻い潜り、皇 流叶(gb6275)は逆にK−02によるミサイルの弾幕を張り、更にそのままライフルを放ちながら急接近、ありったけの力をこめてBFの体にソードウィングを叩きつける。
「この隙‥‥捉えたぁ!! ここで堕ちてもらうッ!!」
 三部隊の猛攻の間に発生した僅かな隙を、狭間 久志(ga9021)は逃さない。弾幕を、受けながらも突き進み、ハヤブサをその巨大な体の上に強行着陸、目指すは艦橋部分。しかし当然かのように、あらかじめ配備されていた一機のカスタムゴーレムがそれをさせじと、最悪の破壊力を手に携え狭間機にそれを振り下ろした。防衛があることはわかっていた。だが、やらねばならない時がある。無謀と言われようとも、誰かがやらねばならぬ時がある。この状態でも、パイロットの瞳に曇りはない。その揺るがない想いが通じたのか、その一撃は振り下ろされることなく、わき目を通り過ぎる。
「させませんよぉ!!!」
 ゴーレムに一点集中していた五十嵐 八九十のアヌビスの決死の体当たりがそれを成し得たのだ。
 双機刀に阻まれたゴーレムはただそれを見つめるしかなかった。
 狭間機の雪村の閃光が、一機のBFの撃墜を皆に知らせた。
 横を見れば仲間達も傷つきながらも、目標を達成していた。

「‥‥AF01より各機へ。 これで決着をつけましょう!」
「ほな、いくでぇぇえ!!!」
 【スタートライン空戦隊】はこの瞬間を待っていた。御崎緋音(ga8646)とキヨシ(gb5991)は同部隊の有志を引きつれ、援護して、たった一つの目標に絞って飛び交う弾丸の中を最低限の自衛に絞りつき進んでいた。
 各々の瞳に移るものは、雷公石発射台ただ一つ。
 そして各々の機体に備わるは数多くのミサイルと、フレア弾。
「いい加減黙ってもらうぜ、雷公石!」
 長谷川京一(gb5804)の叫びと各機のフレア弾が投下されたのは同時。志半ばにて撃墜される仲間の想いを受け取り、それは解き放たれる。
 そして。

 雷公石の沈黙と彼の登場はほぼ同時だった。
「‥‥やりすぎだよ、キミ達」
 専用の本星仕様型HWを駆り、ハルペリュンは煙の中から傭兵達の前へ姿を見せた。

「巨人もエースも纏めて穿ち貫く――どうせ敵には違いあるまい!!」
「うん、正論だねぇ」
 【Cadenza】率いる鋼 蒼志(ga0165)の意気込みに気圧されることなく冷静に受け答えを返す。だが、その動きは言葉とは裏腹に、大胆な動きを見せていた。回避できる攻撃を敢えて受けて、FFでやり過ごし、多少のダメージでも無視。そしてその一連の動きのなかで、苛烈な改造を施された雷電は火を噴きながら失速していく。
 ――強い。
 窮鼠猫を噛む、とはまさにこのことなのか、追い詰められた敵ほど、恐ろしいものはないのかもしれない。
 だが、敢えて攻撃を受けてくれるなら、それに甘えさせてもらう!
 機を伺っていた【for Answer】による奇襲攻撃。3人の息を合わせ、特攻員の攻撃を中心に、一気に集中攻撃を加えていく。もちろんその間も、他の小隊の傭兵による攻撃続いている。BFもほぼ陥落し、雷公石も沈黙した。傭兵達の目下の最大の目標は、ハルペリュンにのみ注がれていたのだ。その攻撃の数に比例して、彼の機体の消耗も激しくなる。
 わかっていた。
 こうなることは、バグアの中でも冷静で、穏健派である彼にはわかっていた。
 あぁ、また吹っ飛んだ――。
 徐々に破片を散らしていく自分の機体の中で、この場面で彼が思い出したのはこの体を得たあの日の出来事。いけない、干渉が大きい。だが彼にはその干渉が心地よかった。だから、失いたくはなかった。
「‥‥‥!」
 言葉を発さず、だが、ハルペリュンが放った気迫は今までにないほど感情が露にされていた。怒りなのか、悲しみなのか、それは一体なんなのか。それを真正面から受けたルカ・ブルーリバー(gb4180)は自分が撃墜されたことに気がついたのか。
 ハルペリュンはもはや堕ちるしか末路がない機体から飛び出した。
 ここまでを、どの傭兵が目撃していたと思う。
 まるで映画のコマ送りのように、その次に見た光景は機体に張り付き機関部を貫くハルペリュンの姿。
 神速とは、これのことなのか――。
 恐らくそれはハルペリュンにだけ備わる能力であったと予測されるが、最後の足掻きだということは誰しもが次の瞬間わかった。
 体がついていかないのか、所々肉体が飛び散っている。
 だが、彼の気迫は衰えるところを知らない。
 いける。
 あと一押しで、簡単にいける。
 取り囲んで一斉射撃することもできる。
 距離を置いて、一斉爆撃することも、被害はでるだろうが、捕まえて近接で葬ることもできるはず。
 だが、誰もが、その場から動くことができないでいた。まるで時が止まったかのように。
 一瞬の隙が命取り。
 自ら血を流しながら、火花を散らす機体から次の機体へと矛先を向けようとした次の瞬間、一瞬動きが止まる。ほんの一瞬。
「‥‥狩りでも、したいですねぇ」
 聞き取れた者はいるだろうか。聞き取れたとしても、その言葉の意味を知ることはできなかった。ハルペリュン本人でさえも、なんでそんな言葉が口をついたのか、確かめることも、できなくなるのだった。
「‥‥チャンスは逃がさねぇです」
 その一瞬、生じるか生じないかがきわどいほんの瞬間、刹那。
 この瞬間にのみ、自らの身を省みない覚悟で、待機していたシーヴ・フェルセン(ga5638)のブーストによる急接近。
「‥‥」
 接近に気付き、屠るつもりで、ハルペリュンも一撃をコクピットむけて放つ。だが、それは僅かに、ほんの僅かにずれ、ひしゃげた腕はシーヴの頬を掠めた。
 その瞬間、ハルペリュンがどんな表情だったのか、何を想っていたのか。
 それは窺い知れることなく、雪村の一閃により、その道は閉ざされる。

 辺りでは、まだ戦闘音は続いている。だが、その戦域の指揮官を失ったことが知れ渡ったのが伝わるにつれて、徐々に空港基地から撤退を始めるバグアの数は増えていった。
 味方が頭上で残敵を殲滅している、その下で。
 機体を大きく破損しながら着陸したシーヴは頭上の仲間に無事であることを、手を振って応える。
 そして、自らの頬から流れ出る血を静かに拭い、無表情で頭上を見上げる。

 そこに広がるは、一面の夕焼け空。
 真っ赤に染まった、空。

 時同じくして、目の前の最後のキメラを屠った鴇神 純一(gb0849)も、同じように空を見上げる。

 そこに広がるは、一面の夕焼け空。
 真っ赤に染まった、空。

 同じの筈なのに、まったく違うように見えるであろう空を見つめるその瞳は、とりあえずの終局を見据えていた。


<担当 : 虎弥太 >


<監修 : 音 無 奏 >
<文責 : クラウドゲームス株式会社>

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