己丑北伐
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11月10日の報告
11月20日の報告

<報告書は前編:後編から成る>

カメル救出作戦  カメル脱出作戦  工作部隊潜入作戦  瀋陽解放作戦


【カメル救出作戦】

●カメル共和国北方沖合〜バンダ海上空
 フィリピンのUPC軍基地で補給と修理を終え、カメル国内の旧グレプカ発射基地周辺に孤立した友軍救出のため再度出撃したUK弐番艦のレーダーが、数知れぬアンノウンの機影を探知した。
 中・小型HWとCW、飛行キメラの大群。さらに後方には、母艦と思しきBFや大型HWの巨大な影も伺える。HWの大半は円盤タイプの従来型であるが、南洋の空を覆い付くさんばかりのその大戦力が、グレプカ破壊で体面を傷つけられたカメル・バグア軍司令官シモン(gz0121)の怒りを象徴しているかのようだ。

「ったく、数ばっか増えやがって!」
【A.Guardian】所属のレガート・ロッソ(gb4332)はぼやきながらもUK2艦内のハンガーへと走った。
「ぜーんぶ、撃ち抜いてやるんだから‥‥ッ!」
 小隊仲間の志烏 都色(gb2027)もその後に続く。彼女達ばかりではない。現在敵地のまっただ中で救出を待つ戦友達を迎えに行くため、470余名に及ぶ傭兵達がUPC軍と共にはせ参じたのだ。
 カメル本土への血路を切り開くべく、空中巨大母艦から相次いで飛び立っていく夥しいKV部隊。
 いまや両軍航空戦力の前衛が接触せんとした、そのとき。
「UK2からなまほーそーっ、るゅににんのー、えーふえーむあーっるゅ♪」
 ディスコのDJを思わせる、甘く艶っぽい声がオープン回線で響き渡った。
 UK2艦内の特設スタジオから友軍の娯楽兼応援の放送を届ける【FM−Rev】のルュニス(ga4722)だ。
 まるで戦場にそぐわない能天気さだが、その声には困難な作戦を前に戦士達の心を覆う悲壮感を吹き飛ばすに充分なパワーが漲っている。
「バグア兵のみんなも頑張ってにゃあ〜ん! 特に強化人間のお兄さん方、いまお手柄を立てれば、もれなくバグアに取って食われてヨリシロにされるキャンペーン実施中〜っ♪」
 前衛のHW部隊のうち、中隊レベルの指揮をとる有人機パイロットは、その殆どがカメル空軍から選抜され改造された地球人である。むろん改造時に親バグアの洗脳を受けているのでそう易々とは寝返らないが、ルュニスの言葉が彼らの深層意識に与えた動揺は少なくなかった。
 同じスタジオ内では、
「情報の収集、急ぎなさい。報道に不慣れは言い訳になりませんよ」
 ディレクター兼原稿書きの藍晶・紫蘭(ga4631)が矢継ぎ早に指示を飛ばし、番組進行をこなしつつ早坂恵(ga4882)に次なる放送原稿を手渡す。
 マイクが恵に回されると、一転してクールで真剣な声が各機の無線に流された。
「なんのための解放作戦か、なんのための新兵器破壊か! 私達のこの青い空を取り戻すためだろう! 生きて帰れ! 生きて生きて帰りを待ってる人のところに帰ろうじゃないか!」
 UK2艦内で。母艦の周囲を護るKVの操縦席で。傭兵や正規軍兵士達の気勢が上がった。

 物量に勝る敵前衛部隊に向い、人類軍は一丸となって正面から突入していく。
 先鋒を務めるのは【Titania】隊長レティ・クリムゾン(ga8679)。
 グレプカ破壊作戦に単身参加した小隊員を戦死させてしまった同隊にとって、これは弔い合戦でもある。
「これ以上仲間から欠員が出るのは沢山だ。誰も死なせない!」
 篠原 悠(ga1826)、カルマ・シュタット(ga6302)ら僚機を率い、UK2の上下左右から迫るHW部隊を撃墜していく。
「必ず迎えに行くと約束した! だから邪魔すんじゃねぇっ!!」
【夜修羅】隊長、山崎 健二(ga8182)は交友ある8246小隊救出のためにも不退転の決意を固めていた。キメラにはソードウィング、HWにはライフル、集積砲と使い分け、母艦の行方を塞ぐ敵航空兵力を排除していく。
 こちらの前衛を突破しUK2を直接狙う敵機に対しては、ロッテ編隊を組んだ龍深城・我斬(ga8283)とレイル・セレイン(ga9348)が立ちふさがった。
「弐番艦はやらせないぜ、高機動セッティング雷電改は伊達じゃない!」
「さて、今回ばかり真面目の真面目にね。皆助けるんだから」
 我斬の雷電改がミサイル全弾発射の後、ブースト&アクチュエータ起動で突入し敵陣を散々に引っかき回す。その間、彼の後ろを守るレイルは弾幕とラージフレア展開で援護しつつ、自らもミサイルを撃ちまくった。
「救助作戦成功の為、我が小隊も全力を尽くすとしようか」
【Gae Buidhe】の榊兵衛(ga0388)もまたクラリッサ・メディスン(ga0853)とロッテを組み、敵の種別や交戦距離により搭載兵装を使い分け、バグア戦力を削りにかかる。
 敵機が密集体制を取ると見るや、すかさずマルチロックオン。K−02ミサイルの洗礼を浴びせた。
「告死天使の名に賭けて、確実な死を差し上げますわ」
 黒煙を噴いて墜落していくエース機と思しき中型HWを見つめ、冷ややかに告げるクラリッサ。
「さ〜てと、小隊のみんなに良い所を見せないとね」
 香倶夜(ga5126)は己に気合いを入れると、ロッテを組む榊 刑部(ga7524)と共に炎ブレスを吐くドラゴン型キメラに立ち向かう。
「ここは踏ん張りどころでしょうね」
 若者達が駆る2機のKVはミサイルに機関砲、ソードウィングなど各種兵器を使い分け、巨大な空の怪物を瞬く間に黒こげの肉塊と変えた。
「ここまでの死地はいつ以来か。腕が鳴るわ」
【テンタコルス海兵隊】隊長、ヒカル・スローター(ga0535)は雲霞のごとき敵航空戦力を前に不敵に笑いつつも、フォーメーションを組むKV小隊の1機をやや心配そうに見やった。
「あいつが無茶をせねばよいが‥‥」
 そのKVの搭乗者、日野 竜彦(gb6596)が今回の救出作戦にかける意気込みは尋常でなかった。彼が「キョウダイ」と呼び慕っていた傭兵仲間が、あのグレプカ破壊作戦で命を落しているのだ。
「彼女」をL・Hへ連れ戻してやらねばならない。たとえ遺体であっても。
「絶対に助けて帰る! 美黒もみんなも自分も! 美黒とみんなと約束したから!」
 シュテルンの12枚の翼が動き、慣性制御かと見まがう空戦機動で小型HWの編隊を蹴散らした。
 そんな彼が自棄になって身を危険に晒さぬよう、竜彦機の直衛にあたる美空・桃2(gb9509)は常に彼と周囲の警戒を怠らなかった。
「竜彦さん、‥‥守る」
 いざとなったら、ぶん殴ってでも後退させる覚悟である。
 古参から新設部隊まで、各小隊が鮮やかな連携で戦果を挙げていく中、個人参加の傭兵達も負けてはいなかった。
「いくよー!」
 アーク・ウイング(gb4432)は自らと同じフリーの傭兵達に声をかけ臨時の小隊を編制、各小隊の間隙をついてUK2に迫るHWやキメラの迎撃、あるいはCWの掃討にあたった。アークの呼びかけに応え、御神・夕姫(gb3754)、皓祇(gb4143)、緋桜 咲希(gb5515)、十七夜月 瑠璃(gb5214)ら多くの傭兵が共闘。
 彼らの働きが各小隊間の死角を補い、結果として各隊は後顧の憂いなく各々の作戦行動に専念できたといえる。

 数に勝るバグア軍を団結した人類軍が徐々に押し込んでいく中、ついに敵の前衛を突破し後方のBFに直接攻撃を仕掛ける小隊があった。
 赤崎羽矢子(gb2140)率いる小隊【HB】である。
「初撃に全力。後は崩れた所になだれ込むよ!」
 K−02ミサイルで直衛の小型HWを蹴散らすと、天龍寺・修羅(ga8894)、雨衣・エダムザ・池丸(gb2095)らと共に護衛機を駆逐していく。
 その間、リア・フローレンス(gb4312)のイビルアイズから重力波ジャミング支援、敵艦情報を得たクロスフィールド(ga7029)、蓮角(ga9810)らのKVが一気に距離を詰め、巨大な的に向けてミサイル、ロケット弾を叩き込む。
 BFを指揮するのは主にカメル海軍出身の強化人間達であったが、同じ軍艦といっても人類側のそれとバグアの空中輸送艦では勝手が違う。至近距離から迫ってくるKV部隊の対艦攻撃に彼らはパニック状態に陥った。
 密集隊形をとっていた各々のBFが勝手に回避機動を始めたため、互いに衝突する艦、護衛の大型HWの放ったプロトン砲に誤爆を受ける艦など同士討ちが相次ぐ。
 そこへ射程距離内に接近したUK2からの砲撃が加わり、ここに至ってついにバグア前衛部隊は防衛ラインの維持を断念、カメル方面へ向け雪崩を打って潰走した。

●カメル本土決戦
 バグア前衛部隊を撃退した後も、UK2の艦内では戦闘の続きのような喧噪が続いていた。
「smsはこれより負傷者の捜索救難を開始! あと一寸頑張れ」
 藤田あやこ(ga0204)の指揮の下、熊谷真帆(ga3826)、三島玲奈(ga3848)ら【sms】隊員達は正規軍より貸与されたサイレントキラーに搭乗、空域に残存した飛行キメラを掃討しつつ、海上で助けを待つ被撃墜者を救出していく。
「一人でも多く‥‥一人でも早く、助けなきゃ‥‥!」
「よし、こんだけの設備がありゃあ何でもできるさ!」
 艦内医務室に次々と運び込まれてくる負傷者に、周藤 惠(gb2118)、亜(gb7701)ら【さぷりぺっ】医療班が錬成治療、艦内の医療設備、救急セットなどを駆使して応急手当にあたる。緊急を要する重傷者から優先に治療するトリアージも、彼女らの重要な役割だ。
 損傷したKVの修理にあたるのは同隊の補修員。
「はは、なかなか忙しい職場じゃないか‥‥ほら次! すぐ動けるようにしてやる!
「外も頑張ってるんですから、こっちも力は抜けないですよ!」
 榊原 レイス(gb7894)、榊原 ノギス(gb7736)の姉妹が威勢良く声を掛け合いながら応急修理に当る。
「損傷機。沢山ありそうだよな」
 【EGG】遊佐アキラ(ga7091)も作業に手を貸した。
 単に修理するだけではない。機体の損傷度合いを判断し、「これ以上の出撃は危険」と判断すれば逸る傭兵を説得して再出撃を思い留まらせるのも彼らの任務。
 今回の大規模作戦において被撃墜による重体者や機体損失が劇的に減ったのも、彼らと正規軍整備兵の功績といってよいだろう。

 負傷者の収容を終えたUK2は再び南下を開始。
 カメル北の海岸線を越え、同国西部の休火山口へ進路を取った時――。
 前方の密林を掻き分け、従来型HWに比べより生物的、かつ獰猛なフォルムを持つ異形の機体が次々と浮上した。
「本星型です! 気をつけて!」
【天衝】海堂静音(gb1478)が僚機に警告を発した。
 それら本星型HWの編隊に守られ、悠然と出現した赤褐色のステアー。
 数こそ先刻の前衛部隊より少ないものの、能力者殲滅の志に燃える司令官シモンは自らが指揮するバグア・カメル軍最強の精鋭部隊を以てUK2を待ち受けていたのだ。
 本星型HW部隊はステアーを中心に左右両翼に分れ、それぞれの編隊には1機ずつ、NDF専用の青いHWが先頭に浮かんでいる。
『1分だけ時間をくれてやる』
 UK2艦内、そして周辺空域のKV全機の無線にシモンの声が響き渡った。
『おとなしく北に引き返せ。私に恥をかかせた代償は、火山口に立て籠もった連中の投降だけで許してやろう』
 こんな質問に答えるのに、1分も必要とはしなかった。
「侵略者の演説‥‥笑止! 犠牲を増やす要因はお前達だ!」
 全人類の決意を代表する如く、【月狼】月森 花(ga0053)が叫ぶ。
「お前達を全て排除するまで諦めるもんか――ここはボク達の地球(ほし)だ!!」
 それを合図のように、【月狼】【天衝】を主軸とする精鋭機対応部隊がKVを前進させた。
「好きには‥‥させない!」
「包囲しますよっ!」
 6つの小隊で構成される【月狼】が対ステアーZC戦のため練り上げた秘策を実行すべく、幡多野 克(ga0444)、神無月 るな(ga9580)ら第零師団の各機がステアー包囲網を敷く。
 総数50機にも及ぶKVがステアーを囲むため回り込み、あるいは護衛の本星型HWを牽制した。
「悪い人にはお仕置きが必要ですぅ、逃がしませんよぉ、観念して下さぁい」
 夜明・暁(ga9047)の声と共に、月狼各機は各々の配置に付き、ターゲットを包囲してヒット&アウェイの波状攻撃「閃」を実行に移す。
 ミサイル、ロケット、機関砲、レーザー、帯電粒子砲――物理、非物理を問わずありとあらゆる対空兵器の火箭がステアーただ1機に集中した。
 ステアーの機体が、あのボウっとした青白い光に包まれる。
【シャスール・ド・リス】の上杉 怜央(gb5468)はすかさず骸龍の高性能カメラで記録を始めたが、次の瞬間にステアーは信じ難い空戦機動を発揮して月狼各機からの攻撃を回避し、凄まじい反撃を開始した。
 だが月狼各隊も一歩も退かない。
「まだまだコレからじゃぞ、妾達の凄さを見られるのはな。退屈はさせぬよ」
 朧・陽明(gb7292)がフェニックスの機体を翻し、月狼各隊はさらなる集中砲撃「煌」へとフォーメーションを移行する。
「‥‥閃光は‥‥煌きに変わり‥‥煌は如何なる敵をも捉え‥‥滅す‥‥」
 煌月・光燐(gb3936)の言葉通り、月狼総力の集中砲火は僅かずつではあるが、確実にステアーZCの外装甲を削り始めていた。

 時を同じくして、ドクター・ウェスト(ga0241)率いる【西研】6機は左翼からステアー援護に向かおうとする青い本星型HWに向いブーストオンで突撃していた。
「一点集中攻撃、行くぞ〜GSA!」
 号令の下、ランドルフ・カーター(ga3888)、ハワード・ラヴクラフト(ga4512)ら小隊各機が一斉にG放電装置を発射。
 HWの機体を強化FFの赤光が包む。が、対シェイド用に編み出された集中放電攻撃の威力の全てを防ぎ切れず、機体表面がいくらか黒く焼けこげた。
 直ちに回避行動に移るも、NDFのHWから放たれた反撃のプロトン砲により数機が被害を受ける。

 青いHWのコクピット内。操縦席にすっぽり収まるように座った幼女――マティアが、ガムをクチャクチャ噛みながら計器盤を見つめていた。
 モニター画面の中で、西研のKV部隊が再びGSAを放とうと編隊を組み直している。
「あいつら、邪魔‥‥どかして」

 マティアの命を受け、下級バグア兵の操縦する本星型HW数機が再度のGSAを妨害すべく突入した。普段なら内心で「サル」と蔑む強化人間に命令されるのを快く思わない彼らバグア兵だが、今回ばかりは違った。
 現在、オーストラリアでは新たなNDFの「素体」が改造手術を受けている。そして今回の戦闘で功績を挙げた者には、死をも怖れぬという新型強化人間の肉体がヨリシロとして優先的に支給されるというのだから。
「決死隊を迎え入れる箱舟のお通りよ、さっさと道を開けなさい!」
 人類側も西研を支援すべく、リン=アスターナ(ga4615)率いる【アークバード】が助っ人に入った。分隊長・翠の肥満(ga2348)の指揮下、ホーク01分隊が機体スキル併用で本星型HWを攻撃。
「さあお客様、ご遠慮なさらず全弾持ってけぇぇぇ!」
 ホーク02分隊、アンドレアス・ラーセン(ga6523)も敵機めがけてK−02ミサイルを派手にぶちまける。
 敵味方が入り乱れるドッグファイトとなったが、結果として傭兵達はマティアによる左翼からの援護を足止めすることに成功した。

「朧の衣に惑いて眠れ、永遠に‥‥」
 神凪・辰夜(gb3258)を始めとする【月狼 第漆師団 朧衣】各機は各々機体スキルの幻霧や煙幕装置を駆使して味方の攻撃部隊を援護、ステアーを翻弄する。
「敵位置確認‥‥退避完了‥‥進路クリア完全確認‥‥」
「煌」の集中砲火と「朧」の眩惑に機動を封じられたステアーの姿を見つめ、月狼総隊長、終夜・無月(ga3084)は静かに呟いた。
「奴等に自由なる女神の祝福を‥‥」

 後方のUK2艦内で情報網「月詠」から無月の指令を受け取ったセレスタ・レネンティア(gb1731)は、直ちにUPC軍の砲術士官に支援砲撃を要請した。
 作戦の最終段階――「自由の女神砲」によるステアー狙撃。この瞬間のために、彼女は前線で戦えないことに負い目を感じながらも艦内で待機していたのだ。
 しかし――。
「無理だ‥‥目標が小さすぎる。それに‥‥」
 砲術士官からの意外な返答。そして彼が指さすモニター画像を見て、セレスタは思わす小さく叫んでいた。
「射線上にあの休火山がある。いまステアーを撃てば、火山口にも被害が及んで決死隊まで‥‥」
「な、何てことなの――」
 おそらくシモンは最初から計算していたのだ。UK2の主砲が自機を撃てない様、常に火山口とUK2の射線上にステアーを留めることを。
 ステアーZCの撃墜と、決死隊351名の命――とても秤にかけられるものではない。
「申し訳ありません‥‥総隊長‥‥」
 唇を噛みしめ、涙を浮かべながら作戦中止を無月に報告するセレスタ。
 だがこの報告が、後の戦局に意外な影響をもたらすことを、彼女はまだ知らない。

 空戦スタビライザーを駆使した挌闘攻撃で本星型HWの1機を仕留めた【Zephyr】の鷹見 仁(ga0232)は、ふとすぐ眼下の密林が不自然に揺らぐ光景を目撃した。
「簡易光学迷彩!?」
 すかさず飛行形態に戻り移動する透明な影に攻撃すると、間もなく漆黒の機体を紅薔薇のエンブレムで飾った本星型HWが出現した。
「結麻・メイ(gz0120)か‥‥!」
 シモン機の援護に向かうつもりか、ステアー目指し一直線に加速するメイのHWを、仁は引き続き牽制する。だが通常のHWであれば瞬きするまもなく殲滅するであろう彼の攻撃は、予想を超える軌道と速度を持ったメイのHWに致命傷を与えることができない。
(「馬鹿な! いくら強化人間でもあの機動は無茶だ!」)
 妙な胸騒ぎを覚えた仁は、相手が敵であることも忘れて叫んでいた。
「もうやめろ!このままじゃ本当に死ぬぞ!」

【月狼 第零師団 青龍】隊長として「煌」に参加していたリヒト・グラオベン(ga2826)も、メイ機の不審な挙動に気づいた1人だった。
 月狼の包囲網を突破しステアーの元に向かおうとする黒いHWを阻むべく、機首を翻して砲火で牽制する。
「身を滅ぼしてまで尽くす‥‥それが、貴女が言ったシモンの御心なのですか!?」
『‥‥じゃない‥‥あたし自身の‥‥意志‥‥よ』
 超人的な機体制御とは裏腹に、弱々しく掠れた応答。苦しげに咳き込む音と共にすぐ通信は切られ、メイは青龍隊すら突破し更に加速する。
 が、彼女の突進もそこまでだった。
「シモンが危うくなれば、己が身も省みず助けに来る――君ならそうすると判っていたよ」
 御影・朔夜(ga0240)率いる【戦術部隊『渡鴉』】。彼らは「漆黒の本星型HW」出現を想定し、予め対策を練っていたのだ。
「だからこそ、この機がある‥‥!」
 ファルロス(ga3559)、天(ga9852)、鷹代 由稀(ga1601)らが一斉にHWを囲み集中砲火を浴びせる。メイの反撃も凄まじく『渡鴉』数機に損傷を与えるも、やがて強化FFの赤光も消え失せ、黒い本星型HWは炎と黒煙を曳いて眼下の密林へと墜落していった。

●凶鳥の墜ちる刻
「小賢しいわね‥‥虫ケラどもの分際で」
 右翼の本星型HW部隊を指揮していたもう1人のNDF、ルカも【天衝四神隊】龍零鳳(ga2816)、櫻小路・なでしこ(ga3607)、天狼 スザク(ga9707)らに行く手を阻まれ、ステアーとの合流を果たせず苛立っていた。
 いっそ強化FFによるチャージアタックで強行突破しようかとスイッチを入れた、その瞬間。
「貴様を落として置かんと救出も間々ならんからな‥‥落ちろ」
 横合いからの激しい衝撃。ザン・エフティング(ga5141)が、アヌビスによりブーストしての体当たりを敢行したのだ。
 通常ならば両機とも大爆発である。だが幸か不幸か強化FFが衝突のエネルギーを吸収したため、ザンは意識不明のまま大破した機体からイジェクトされ、ルカのHWも僅かにバランスを崩すのみに留まった。
「これ以上、死なせない――!」
【空戦部隊Simoon】クレイフェル(ga0435)がワイバーンの高速を活かして割って入り、すかさずザンの脱出カプセルを回収。
「不死鳥ベンヌ――鮮やかに舞い上がる者の名を冠する、その意味を知れ!」
【空戦機動研究班ベンヌ】鹿島 綾(gb4549)は高々度からパワーダイブし、雷電改のアクチュエータ併用で8式螺旋弾とヘビーガトリングを嵐の如くルカ機に浴びせた。

「射線上に火山があって女神砲が撃てない? ならば‥‥奴もその線上から動けないということか!」
 月狼と共にステアー攻撃を指揮していた【天衝】総隊長、漸 王零(ga2930)は大声で叫んだ。
「総員、火山とUK2を結ぶ射線上に奴を釘付けにせよ!」
 配下の4小隊に檄を飛ばし、自らも雷電改のバーニアを全開にする。
「天の刃‥‥その刻みに‥‥散るがいい!!」
 各担当1人ずつの4機編成を基本に、編成は固定せず核中心に流動的に対応し、目標を包囲する様に展開する戦術「鴉」により、全体で連動し多角同時攻撃を行う。
 思った通り、ステアーは小刻みな動きで回避・応戦を続けるも、かつてのアジア決戦当時のように力づくでの脱出を行わない。
 否、できないのだ。自らを護るために目論んだ「決死隊を人質にした」ポイントから大きく外れれば、再び月狼の「煌」に捕われ、今度こそ女神砲の餌食になることが判っているから。

「ステアーの機首に発光を確認――奴がDレーザーを発射します!」
 戦闘中、常に高性能カメラでステアーの動向を監視していた怜央が、情報網を通し各機に警告した。
 目標はUK2。この距離で巨大母艦の回避は不可能に近いが――。
「全機、『鷹』発動!」
 王零の号令と共に、Dレーザー発射のため速度を落したステアー目がけ、天衝各隊はブーストアタックによる全身全霊の攻撃を仕掛けた。
 数十機のKVから飽和攻撃を受け、大きくぐらついたステアーのDレーザーは、UK2を逸れて虚空へ消えた。
「シモンッ‥‥! 貴方にはここで墜ちて戴きます‥‥!!」
 正面から如何にも特攻する様な勢いで迫った赤宮 リア(ga9958)のアンジェリカを、咄嗟の空中変形で迎え撃つシモン。だがリアは直前で空戦スタビライザーを発動、敵機の頭上へ天を衝くかの如く飛翔する。
 思わずその機影を煽いだステアーの腹部に装甲はなく、弱点と思われる十数本のケーブルが青白い光を放っていた。
 そこをめがけ――。
「往くぞ‥‥! SESフルドライブ、ソードウィング、アクティブ!!」
【スカイブルーエッジ】井出一真が。
「二度通じないなんて脅しに負けないもん‥‥僕達も二度もUK落とさせないっ!」
 水理 和奏(ga1500)が。
 次々とこの瞬間のため温存していた戦技を極めていく。
 慌てて飛行形態に戻ろうとするステアーだが、生体エネルギー伝導ケーブルの大半を切断されたため、その挙動は大きく鈍った。
「‥‥この瞬間を待っていた。天を衝く刃に嘶き墜ちろ――燃えろ、フェニックス!」
 空中変形した煉条トヲイ(ga0236)の機体が、オーバーブースト起動、機槍とハンズ・オブ・グローリーで射程を伸ばした雪村で、渾身の連撃を叩き込んだ。
 永遠かと思える、しかし実際には1秒にも満たない時間が過ぎたあと、何事もなかったかのように飛行形態に復帰したステアーの。

 その機体の各所で閃光が煌めき、次いで炎と黒煙を吐き出した。

 コクピット内のシモンは既に意識を失ったのか、計器盤に伏したままピクリとも動かない。そのまま進路を北に取り――。
 人類を脅かした赤褐色の凶鳥は、長く黒煙を引いて海上まで飛行し、そこで力尽きたように墜落した。

●命の方舟
 ステアー墜落後、NDFに率いられたカメル・バグア軍は潮を退くように撤退していく。頼みの綱の豪州軍もついに現れなかった。

「はいはーい、続々と皆さん帰還してますにゃよー」
 倶利伽羅・狩倶(ga4724)の作成した生還者リストをルュニスが読み上げる中。
「よく頑張ったな! さあ、もうひと踏ん張りしてL・Hの土を踏もうや」
「もう少しの辛抱よ。絶対に‥‥絶対に助け出してみせる!!」
【本管付属炊き出し小隊】桂木穣治(gb5595)、冴木美雲(gb5758)、その他多くの傭兵達が火山口から降りてくる仲間達を救助し、さらに密林の中も捜索する。
 そして今、死地から脱した決死隊と任務を全うした救出部隊の目に、山裾に着地したUK2がノアの方舟のごとく頼もしく映るのだった。


<執筆 : 対馬正治 >
<監修 : 音無奏 >
<判定・文責 : クラウドゲームス株式会社>


【カメル脱出作戦】

●嵐の前
 目前の危機を回避した達成感と、仲間を失った悲嘆。その双方が過ぎ去った後、傭兵達は現実と戦っていた。ジャングル西方、元は破壊作戦中の一時拠点だった溶岩洞窟は、短時間で補強されている。
「はっはっは、こりゃ、働き蟻になった気分だ」
 支柱を入れていたセルゲイ・バトゥーリン(ga4438)が豪快に笑った。
「後方支援は、ラストホープに帰還するまで終らない!」
 外に中にと立ち働いていたハルイチバン(gb3025)が言う。
「これなんか、バリケードに使えそうです」
 ワームの装甲部を、虚影(gb9542)が積み上げた。その奥は怪我を負った兵や弾薬を欲しがる機体が待機できる区画。散発的なキメラの襲撃を防ぐ為にKVと生身の混成部隊が張り付いていた。
「苦労して連れ戻った機体が、また動けるようになるっていうのはいいものだねぇ」
 これで幾度目か。サルベージの護衛を務めていた佐竹 優理(ga4607)が、感慨深げに呟く。綾波 結衣(ga4979)ら補修班が手をかけようも無いほどに損傷していたのは、結局10機に満たぬ少数だ。
「思ったよりも廃物が少なかったな」
 実際に回収に当たった藤枝 真一(ga0779)は、KVの頑丈さに呆れていた。通常の作戦であれば出撃を止められるような状態であっても、応急処置をしただけで何とかなる。羽が折れた機体は地上へ、脚が動かぬ機体は空へ。
「積み替えるよりもタンクごと回しましょう。その方が早い」
 ネイサン・ブレイク(gb1378)の提案で、燃料の配分は滞りなく進む。
「燃料はまだしも、弾薬は‥‥余裕がありません」
 困り顔のマルセル・ライスター(gb4909)の頭に、前園・タクヤ(gb5676)が手を置いた。
「こんな事もあろうかと、ってな。好きな弾持ってきな」
 小隊の為に持ち込んだ弾薬の残りは、あっという間に消えていく。
「ある物で、何とかするしかないか」
 地堂球基(ga1094)が頭をかいた。火山の陣地へ物資を運び上げるという彼を、ロイ・キューブリック(ga4439)が呼び止める。
「単独行動は危険です。私も行きましょう」
「うむ、そうだな」
 ちょうど手の空いていた御巫 雫(ga8942)も頷いた。

 その火山では。
「どこが重要か、さっぱりだな‥‥」
 残念そうに明星 那由他(ga4081)が言った。彼と共にグレプカを調査していたObserver(gb5401)も、肩を竦める。
「駄目ですね、これは」
 しかし、彼らによる再爆破でグレプカは完膚なきまでに破壊された。これが悪魔の火を吐く事は二度と無いだろう。

●襲来
 山頂付近には、放課後クラブを初めとする部隊が守備体制を築いている。山麓での遅滞戦闘を計画する者、ジャングルで奇襲を企図する者。傭兵達の防備が調った頃、東の空から敵は来た。
「大型艦は8隻。前衛のHW、来ます!」
 煙幕を投射しつつ、佐々 歩(gb6537)は全力で退避する。

『フン、逃したか。まぁいい』
 バグアの指揮官は、自信に満ちていた。
『全艦密集隊形を取れ。これより降下シークエンスに入る。対空砲、煩いハエを近づけるな』
 通常より巨大なBFの周囲に、他の艦が集まる。ハリ・アジフがカメル・バグア軍司令代行の地位を利用して召集したカメル内の予備戦力だった。
『‥‥奴らを甘く見るな、ペル』
『しかし窮しても鼠は鼠です。獅子には勝てませんよ』
 怨嗟に満ちたアジフの低声に、彼は倣岸に頷く。バークレー同様、人間時代に軍の俊英として知られたペルも、今ではバグアの傀儡だ。そして、KV戦術に対応できていないのも、先達と同じだった。

「敵前降下か。甘く見られたものだ」
 白鐘剣一郎(ga0184)が苦笑する。
「護衛機は可能な限り引き受ける。そちらは任せよう」
 数倍の敵へ、リヴァル・クロウ(gb2337)は臆せずに対した。
「家に帰るまでが遠足とも言いますし‥‥早く事を済ませてしまいしょうか」
 鳴神 伊織(ga0421)も、機影を並べる。
「よろしい。存分に埒をあけてご覧にいれる」
 蛇穴・シュウ(ga8426)が衆を制して突っ込んだ。
「袋の鼠にこれだけもってくるなんて、敵さんも酔狂だね」
 追随した二桜塚・如月(ga5663)が苦笑し。
「袋のネズミを舐めんじゃねぇぞエイリアン!」
 V・V(ga4450)が高らかに叫んだ。
『この数の差でか? 勇敢だが、愚かだな‥‥』
 その声が聞こえたかのように、ペルが笑う。
「‥‥これ以上被害は出させませんよ!」
 周防 誠(ga7131)は鋭い切り返しで敵を翻弄した。火線が集中する直前で再びターン。
「無茶ができるのはバックアップを信じてるからよ」
 ラウラ・ブレイク(gb1395)が弾幕の隙を狙い、突っ込む。均質だった対空砲火にむらが出来始めた。
『ええい、直衛機を出せ』
 言いかけた所で、前衛艦がぐらりと傾く。
『四番艦、被弾。機関部です!』
『何だと』
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)の雷電が、剣翼で亀裂を入れていた。
「フェンリル01より零各機へ。データを送ります」
 篠崎 公司(ga2413)以下、零の各機が傾いた敵艦へ追い討ちをかける。
「こっちも、合わせて行こう」
「クスブってんじゃねぇ! ブチかますぞ!!」
 空閑 ハバキ(ga5172)の合図に、OZ(ga4015)が威勢良く答えた。彼らNoiseはグレプカ攻略では生身だった為、無傷の機体を多く擁している。
「障害を排除します‥‥攻めましょう‥‥」
 左翼の敵艦を朧 幸乃(ga3078)が指示した。葬儀屋(gb1766)が突起物を狙い撃った途端、対空砲火が目に見えて甘くなる。
『甘く見るからだ、馬鹿め。艦を下げんか!』
 アジフが吼える。遅ればせながら敵艦がCWを放出しはじめた。
「行くよアジュール、ボクたちはこんなところで堕とされはしない!」
 鷲羽・栗花落(gb4249)は、輝く立方体が起動するよりも早く叩き落していく。
「ここを持ち堪えれば、必ず‥‥彼らは来てくれるって、信じてるからね」
 チラリと西を望んでから、宮武 征央(ga0815)も追随した。直後、旗艦から踊り出たHW隊が怪光線を投射する。先頭は、悪趣味な紫の本星型だ。
「ここでやられたら、元も子もないぜ」
 水円・一(gb0495)が、敵の追撃を妨げる。
「まだいたかっ!」
 聖・真琴(ga1622)が敵の進路を横切るように降下した。
「これ以上奪わせない。タイミング合わせて。行くよ!」
 その隙をこじ開けるべく、聖・綾乃(ga7770)が、周囲へと声を掛ける。BFを早期に沈める重要さは、誰もが知っていた。
「ははっ!こりゃホームシックになりそうだぜ」
 激しい弾幕に顔を顰めつつ、風怪(ga4718)がG放電を放った。
「こうなりゃ、一か八か突貫だっ!これ以上好きにさせん!」
 吼えた天道・大河(ga9197)が、後一歩の所で砲火に捉えられる。
「これを逃すわけにはいかない! 必ず落とす!」
 砲火を裂き、夏 炎西(ga4178)の隊が肉薄した。ついに、2隻目が黒煙を吹き始める。


 紫の影は真琴を追うように旋回した。待ち構える、傭兵達の只中へ。
「戦場の華だ、気張って征くぞ!!」
 その一瞬、イレーネ・V・ノイエ(ga4317)が号令を掛ける。本星型が、真紅の力場に包まれた。
「さて、正念場ってやつか」
 エイラ・リトヴァク(gb9458)が弾幕を張る。鋭くスライドした先を、天城(ga8808)のライフル弾が貫いた。
「これが私の全力‥‥!」
 一撃を加えた瑞浪 時雨(ga5130)は、引き換えに尾翼を持っていかれる。被弾しつつも、敵は真琴に喰らいついていた。割って入った皐月・B・マイア(ga5514)がプロトン砲を受ける。
「よくも!」
「真琴! 熱くならない、死にたいの!」
 ターンしかけた真琴に、マリア・リウトプランド(ga4091)が叫ぶ。しかし、敵の有人機も突出し、チャンスではあった。
「助太刀する! 一気に攻めるぞ!」
 突っかけたヴィリー・トレーダー(gb3854)を紫HWが回避した瞬間。
「今!」
 ラシード・アル・ラハル(ga6190)の声と共に、直上からSimoonの3機が襲い掛かる。敵の応射は鷹谷 隼人(gb6184)の翼を吹き飛ばしたが、藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)の粒子砲が敵機をぶち抜いた。指揮機を失った敵が後退する。艦隊が後退した跡の地表で、炎と煙を上げるBFから。
「――食べ残すのは、行儀が悪いからね」
 現われたTWを撃ち抜いて、UNKNOWN(ga4276)が囁く。
「損傷機の退避は、南西からどうぞ」
「‥‥こんな所で落ちるわけにはいかないですよ」
 米田一機(gb2352)は美弥(ga7120)の管制に従った。場所を選べば、回収班の負担がそれだけ軽くなる。

●泥沼
 緒戦は傭兵が一矢を報いた。後退したバグアは、今度は陸上を主として攻勢を再開する。
『この私自ら、奴らを蹂躙してくれる‥‥ッ』
 その中には指揮官仕様のタロスと、EQの姿まであった。
『‥‥ペルよ。足元を掬われるのは一度で充分だぞ』
 アジフに頷いて、ペルは進撃を開始する。
「ひぃんっ‥‥敵、きます‥‥!」
 火口から俯瞰していた星井 由愛(gb1898)が、悲鳴を上げた。
「UK2の降下には、この地点を確保する必要があります」
 フィオナ・フレーバー(gb0176)が提案した守備地点は、東麓だ。
「状況はきついが、いつもどおりにこなせばいい」
 Astraeaの不破 梓(ga3236)が言った。
「ここが正念場だ! ここまできて死ぬんじゃねぇぞ!」
 やや後方、山腹の砲台跡に陣取ったゼラス(ga2924)が放課後クラブ各員へ檄を飛ばす。
「はい。無事に帰るまでが、作戦なのですよ」
「果たさなきゃいけない約束があるんだ‥‥。俺は。俺達は生きて帰る!」
 アイリス(ga3942)と鹿嶋 悠(gb1333)が、各々の隊長へと頷いた。その瞬間、森が溢れる。
「何て数だよ、ったく。お迎えはまだ来ないよなぁ?」
 思わず、新条 拓那(ga1294)は苦笑した。
「諦めナい! 皆と、一緒に、生きて帰ルんだ!」
「はい。私はその為に来たのです!」
 クラリア・レスタント(gb4258)と石動 小夜子(ga0121)が声を合わせる。その援護の元。
「ここを通りたくば我が剣の錆となる事を覚悟せよ!」
 キメラへと斬り込んだアンジェリナ(ga6940)の脇を、フォビア(ga6553)が固めた。ティーダ(ga7172)の光弾が、2人を狙うREXの脚を折る。
「っしゃあ行くぜェ!!唸れッ、デアボ‥‥」
「敵の増援が来るよ。一旦下がって、態勢を整えよう‥‥」
 前へ出かけたエリノア・ライスター(gb8926)へ、琥金(gb4314)が囁いた。
「今は生き残る事だけ考えな。‥‥深追いはしなくていい」
 伊佐美 希明(ga0214)が頷く。守備地形に篭っていたとはいえ、数次の攻撃を凌いだLYNX各機の損傷も大きい。

「仲間を信じて耐えろ! 弾幕を切らせるな!」
 オルランド・イブラヒム(ga2438)が叫ぶ。補給に後退したAsraeaの後は、白銀の魔弾が埋めていた。
「誰一人欠けてはなりません。『全員』で帰りますよ!」
 突貫前に、ヨネモトタケシ(gb0843)が左右へ告げる。
「ああ、生き残るぞ!挺身など糞くらえだ!!」
 堺・清四郎(gb3564)の剛毅な声と。
「‥‥ん。ここから。先は。一方通行」
 最上 憐 (gb0002)の鈴の如き声を耳に、タケシは敵陣へと切り込んだ。しかし、ゴーレムが加わった敵の陣容は堅い。
「もう少しだ!もう少し、耐えろ!!」
 隊長のサルファ(ga9419)が苦しい声を上げる。
「余力はあります!僕が敵をひきつけます!」
 ファイナ(gb1342)が、新手の只中に駆け込み、引き回してから戻ってきた。白兵主体の彼らは、ゴーレムを良くひきつけていたが、その間に。
「考えすぎか‥‥。いや」
 その音を捉えたユーリー・スヴェルフ(gb2551)が目を見開く。
「まずいな。歩兵は退避しろ。EQだ!」
 レベッカ・マーエン(gb4204)の警告の直後、地を割って巨大な顎が現われた。
『フン、蹂躙してやるぞ、鼠め!』
 綻びた防衛線へ、紫のタロスとゴーレムの一隊が切り込んでくる。だが。
「‥‥振動感知」
 楓華(ga4514)がユーリー達のデータと照合し、敵の位置を把握する。再び大地が盛り上がった時、そこは包囲下だった。
「ここは絶対に帰る為の生命線だ。負傷者、物資一片たりとも狙わせはしない」
 ロッテ・ヴァステル(ga0066)の号令一下、魔弾が一斉攻撃を開始する。
「ああ。護り切ってみせる!」
 月影・透夜(ga1806)が隊長に続いて斬り込んだ。
「その為に、薙ぎ払ってあげるわ♪」
「ええ。絶対に、皆で生きて帰りましょう!」
 羅・蓮華(ga4706)と加賀 弓(ga8749)の銃弾が支援する。たまらず、地へ潜ろうとした所を。
「ここから先は、一歩も通さないのですぅ!」
 幸臼・小鳥(ga0067)のアグニが撃ちぬいた。
「さて、こちらもがんばりますよ〜」
 同じくEQを察知した青い薔薇のアンジュ・アルベール(ga8834))が隊員へ告げる。
「貴方の堅牢さはこういう戦でこそ真価を発揮する――行きましょう、『黒鋼』」
「わしもまだまだ若いもんには負けんぞい」
 遠倉 雨音(gb0338)とオブライエン(ga9542)が前へ出た所で。
「待って。もう1匹います!」
 ティル・エーメスト(gb0476)が声を上げた。同時に、前後に巨大なミミズが姿を現す。罠を仕掛けたのは、敵。

 ――そして読んでいたのは人類だった。
「大切な皆の生命、こんなところで絶対に散らせはしない!」
 飛び出してきたサンディ(gb4343)が、後ろのEQへと練剣を突き立てる。
「我々の力で皆を必ず救ってみせる!」
 気合と共に、メビウス イグゼクス(gb3858)が斬線を刻んだ。吼えた敵の大口へ、アレックス(gb3735)が灼熱の槍を撃ち込む。前のEQも、青い薔薇の前に倒れていた。

●転機
『構わん、再突撃だ。もう一撃で前線は抜け‥‥!?』
 ペルのタロスが、がくんと揺れた。
「少数と‥‥なめてくれるなよ!」
 ヴォルク・ホルス(ga5761)が喰らいついている。
「仲間の為にも、道を開くぞ。そこのけそこのけ!」
 脇のゴーレムは、アーサー・L・ミスリル(gb4072)が忙殺していた。
「動きが止まった!」
「よぉし、今!」
 エイミ・シーン(gb9420)と社 朱里(ga6481)が左右から斬りつける。
『なぁめるなぁ!』
 腕を失いながらも、敵は強引に囲みを振り払った。しかし。
「面白い事やってるじゃないか。混ぜてもらえるか?」
 黒桐白夜(gb1936)の声に、タロスが振り返る。
「アタック開始。‥‥ここが先途です、全力をぶつけましょう」
 叢雲(ga2494)に続き、不知火真琴(ga7201)が切り込んだ。ケイ・リヒャルト(ga0598)が引き金を引き続ける。
「‥‥ハ!」
 ヴォルクが笑った。八咫烏は、暁を示す鳥だという。なれば、この共闘は必然か。
『ば、馬鹿な。新型のタロスなのだぞ!?』
 再生機能が追いつかぬ。機体性能で劣っている筈は無い。
『5つの星間文明の終焉を見届けた私が、未開惑星の猿に! 劣るというのかァ!?』
 爆発寸前、論理的帰結へ辿り着いたペルが悲痛な声をあげた。
『‥‥劣るのだ、馬鹿め』
 シグナル消失を確認して、アジフが吐き捨てるように言う。

『砲兵を使え。前線はキメラでいい。アウトレンジから仕留めろ』
 老人の指示で、砲撃型ワームが移動を開始した。それに最初に組織だった横撃を加えたのは赤熱鉄の5機だったが、受けた被害も大きい。
「もう少し‥‥」
 真瀬 太白(gb7845)が、動かぬ機中で歯噛みする。
「くそっ。生きて帰ろうや!」
 フェオ・テルミット(gb3255)は離脱を指示した。しかし、その交戦は無駄ではない。
「砲火を確認! 位置は‥‥」
 月森・ミューカ(ga4776)が情報を飛ばし。
「了解。遊撃隊を誘導する」
 上空の桜崎・正人(ga0100)が、敵の位置を知らせた。
「長射程の移動プロトン砲‥‥やはり!」
 水上・未早(ga0049)が、砲火を睨む。8246小隊は突出を避け、戦力を温存していた。逸る恋人の隣を、ベル(ga0924)が固める。
「全員しっかり気張れよ、帰ったら美味いものを奢ってやる!」
 リディス(ga0022)が片腕を振り上げる。この戦場で最大の集団が地響きを立てて動き出した。
「まだ!!私達には帰れるところがあるんだ」
 阿野次 のもじ(ga5480)が出てきたキメラを蹴り飛ばし。
「その砲台、邪魔ね。排除させてもらうわ!」
 亀へと、佐間・優(ga2974)が突っかかる。1機を潰した所で、REXが撃ち返してきた。
「片道キップで終わるのは御免だ。俺達全員で帰るぞ!」
 ベールクト(ga0040)が剣を突き立て、排除する。
「貫く!」
 短く叫んだヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)の背に、クリア・サーレク(ga4864)が付く。
「さあ、みんなで瀋陽に押しかけるよー。だから、こんな所で死んでいられないんだよ」
「ああ。この窮地を乗り越えた時の俺達は、今よりさらに一回り強くなってるはずだ!」
 クリアの声に、ブレイズ・カーディナル(ga1851)が頷いた。振り回したハンマーが敵を叩く。弾薬が少ない事に留意した彼らは白兵戦を志し、勢いを最大限に活かしていた。
「ここからが正念場‥‥絶対に帰ってみせる」
 カバーに入ったジーラ(ga0077)が、チラリとブレイズの背中を見る。
「こんなところで撃墜されるつもりはありません! 皆、抉ってやりますわ!」
 機杭を振り回しながら、大鳥居・麗華(gb0839)が気勢をあげた。



 方々で弾薬が尽き、機体を捨てて白兵に転じる物も出始める。
「邪魔な移動砲台は撃破です」
 ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522)が撃ち込んだのも、最後の弾だ。
「貫け!ドラゴンベッドスマッシャァァー!」
 火茄神・渉(ga8569)が吼えた。泥沼の防衛線は、それでも崩壊する事無く持ちこたえている。その耳に、明るい声が振ってきた。
「希望のUK弐番艦、その姿有りねぇ」
 視界の利く高空から、メデュリエイル(gb1506)はもう一度繰り返す。一瞬置いて、歓声が上がった。この瞬間、彼らの戦いにゴールが見えたのだ。

 とはいえ、彼我の距離は数十キロ。遥か彼方を往く弐番艦と阻止部隊の交戦は続いている。被弾し、東へ飛んできた黒い敵機が、力尽きて落ちた。
「我、事において後悔せず、なのです♪」
 御坂 美緒(ga0466)は、森林へ向かう。各隊は今まで以上に生を意識しはじめた。自分だけではなく、仲間の命も。
「すべての決死隊へ、全員でLHに帰るんだ。このことに例外は‥‥ない!」
 キョーコ・クルック(ga4770)が檄を飛ばす。彼女の隊は離脱する味方の誘導に徹していた。
「72区に喪失機。敵は‥‥」
「キメラそこそこ、ゴーレム2っ!」
 星野 空(ga3071)の声に、Dr.Q(ga4475)が答える。
「聞いての通りだ、頼むぞ」
 柊 香登(ga6982)が実働隊に情報を飛ばした。救助管制とも言うべき連携は、現場と組み合わさって幾つもの命を救っている。
「コンバットレスキューやるならホント、リッジウェイ欲しいぜ」
 突出した霧島 亜夜(ga3511)の回収に出たセンスイ・カーン(ga6317)がぼやく後ろで、真田 音夢(ga8265)が手早く引っ張り出した。
「もう少しだけ‥‥頑張って‥‥」
「大丈夫、私は医者だ。君を助ける為にここに居る」
 薄目を開けた亜夜に、レンツォ・カヴァリエリ(gb7323)が微笑んだ。
「少しでも可能性があるのなら全力を尽くす。それが医者の仕事じゃ」
 自機のコンテナを簡易手術室として提供したルイス・ロア(gb3905)が、厳しい顔で言う。この場を動かずに機を守るのは困難極まりない。そして、困難な回収といえば。
「あなた方を残して行くのは、わたくしの矜持が許しませんの」
 ジャングルに分け入ったニュクス(gb6067)は、ロジーナの残骸を拾い上げていた。砕け散った風宮機の捜索は困難を極めたが、交戦のさなかにも戦友を忘れなかった者は多い。そして。
「‥‥彼女を発見しました!」
 フィルト=リンク(gb5706)の声が、待ちわびた者の耳へ届く。美黒・改も、森林の中に眠っていた。押し寄せる敵の中に。
「全員、連れて帰るんだっ!! 邪魔すんなっ!!」」
 砕牙 九郎(ga7366)が火山の裾へ降りる。時を稼ごうと、GIN(gb1904)が前へ出た。
「見殺しには出来ない‥‥!」
 浅川 聖次(gb4658)が被弾しつつも、ゴーレムへ切り返す。九郎機が再び空へと舞い上がった。

 ――追撃は、無い。

●希望
『シモンが、落ちただと‥‥。ええい、艦を前へ出せ! ぶつけてでもアレを沈めろ!』
『無理です。敵艦の主砲は本艦では‥‥』
 アジフと副官の口論の最中に、自由の女神砲が閃光を放った。それはただの一撃で戦場の空気を変える。
『て、転進します!』
『‥‥おのれ、おのれおのれおのれェ!』
 猛り狂うアジフも、再度の前進は主張しない。指揮を失った無人兵器は、無策な突撃を開始した。それは、物資に限りある傭兵達にとっては必ずしも歓迎すべき事ではない。
「来やがったか!」
 後方、Loland=Urga(ga4688)がライフルを構える。
「‥‥ダメです‥‥これ以上は」
 井上冬樹(gb5526)の声。防衛線を抜けたゴーレムが、高原真菜(gb2894)のリッジを打ち据えた。
「くっ」
 コンテナを庇った真菜が呻く。駆け寄ったドッグ・ラブラード(gb2486)が敵へ機針を叩き付けた。
「どきな! お前らに渡せるものなんか何一つないよ!」
 エマ・シンプソン(gb9465)がキメラへ小銃を向ける。護衛に当たっていたG.B.Hの面々もだ。
「邪魔、ですわね‥‥!」
 ミルファリア・クラウソナス(gb4229)が切り込む。
「くっ」
 その側面を襲った牙を、水無月 蒼依(gb4278)が受け止めた。
「今度は死者など出しません‥‥絶対に」
 飛び道具で牽制していたメイフィア(gb1934)のいた一角が、爆煙に飲まれる。
「‥‥右!」
 ジュリアス・F・クリス(gb4646)が、最初にその巨影に気づいた。
「もう1機? 託された‥‥のに。盾にもなれない、のか」
 霧島 和哉(gb1893)が、唇を噛んだ。ゴーレムが坑道内を見回す。その側頭部に、白い光線が刺さった。うるさい蝿を追うように、巨人が弾丸をばら撒く。
「しぶとく、生き残ろうじゃないか。それが能力者だろう?」
 崩れた壁面の向こう、寿 源次(ga3427)が額の血を拭いもせず笑った。ゴーレムが腕を振り上げる。
「‥‥お待たせしました。皆さんは早く下がってください!」
 くれあ(ga9206)が作業用に使っていたドリルを横からぶちかました。
「ここを潰されると面倒なのでなッ!」
 エクレア・アーレハイン(gb7352)が確保した通路を、徒歩の者が下がる。彼女達だけでゴーレムを倒す事は困難だが。
「ここは引き受けます。‥‥後退を急いでくださいっ!」
 稼いだその一瞬に、金城 エンタ(ga4154)の韋駄天が滑り込む。
「助けが来るまで、頑張らないとね」
 負傷兵を集め、ダグ・ノルシュトレーム(gb9397)が拡張練成治癒を施した。

●凱歌
 弐番艦が傷だらけの勇姿を火山に見せたのは、それからしばしの後だった。降下に入る間も、無人機とキメラの攻撃は続いている。平地での激戦の結果、多くは手痛い損傷を受けていた。
「皆さっさと逃げるにゃー。ここは僕が引きうけるっ!」
 共闘を呼びかけていた白虎(ga9191)が叫ぶ。火口を最後まで保持していた面々も、アイロン・ブラッドリィ(ga1067)が確保していた退路を速やかに下り始めた。

 弐番艦へはまず、チャンドラプトゥラ(gb7122)らが優先順位を高くつけた重傷者が移送される。
「もう大丈夫。安心して休んで下さいね」
 厳しい表情を続けていたシエラ(ga3258)が、微笑んだ。
「自力で動けない陸戦機が先だ。一機でも多く、急いでな」
 黒川丈一朗(ga0776)も、口元を綻ばせる。
『生きて帰ってきた皆さん、帰りを待っていた皆さん‥‥。今日という日は最高の日になるでしょう。それでは読み上げます!』
 乗艦してくる面々の名を、艦内放送で読み上げるフィアナ・アナスタシア(ga0047)。その横で、大河・剣(ga5065)は出撃リストとの突合わせを始めている。彼らFM−Revが事前に用意していたリストはUPCへも回され、代替機の先行手配の一助となっていた。
「絶対命は散らせたりしねぇ‥‥。それが俺の往く道だ!!」
 芹沢ヒロミ(gb2089)の声と共に、2台のAU−KVが山麓を駆ける。ドラグーンとサイエンティストの組み合わせは、一刻を争う場では極めて有用だ。一方、自力での移動が困難な者のもとへは、ヘリが飛ぶ。
「無事でなかったら、怒りますから‥‥っ!」
 呼び出しの中に友人の名を見て、柚井 ソラ(ga0187)はそう呟いた。
「行こう、ソラ君」
 クラウディア・マリウス(ga6559)がヘリと仲間達の列へ、少年を誘う。
「ミイラ取りがミイラになるといった事態は避けておきたいですね‥‥」
 葉月 郁奈(ga9065)の言葉に、同じヘリに乗り合わせた奉丈・遮那(ga0352)が頷いた。
「東3kmから救難信号です。随分離れてますね?」
 2機目の機内で、柊 理(ga8731)が首を傾げる。
「全員を、連れて帰らなきゃ‥‥みんな、もうひとふんばり、頑張ろう‥‥!」
「もちろんっ」
 リオン=ヴァルツァー(ga8388)の声に、美崎 瑠璃(gb0339)が晴れやかに笑った。


 弐番艦の艦上で、水雲 紫(gb0709)は見た物が信じられず、瞬きした。美緒が心配そうに声をかけている少女の姿は幻ではない。
「知り合いかい?」
 付き添っていた国谷 真彼(ga2331)の言葉にも、すぐには答えられず。紫は瀕死のメイを見る。
「‥‥友達、です」
 ――その擦れ声は、彼女に届いただろうか。戦いは、こうして終わった。


<執筆 : 紀藤トキ >
<監修 : 音無奏 >
<文責 : クラウドゲームス株式会社>

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