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<報告書は前編:後編から成る>
ロサンゼルス東部会戦 制海権確保 サンディエゴ解放 シェイド討伐戦
【ロサンゼルス東部会戦】
●
ロサンゼルス東部のオンタリオ国際空港。
西へ数キロも行かない内に昇る黒煙が見られ、先刻までの戦闘の激しさを伺わせる。幸いにも空港周辺はその被害を免れていた。
能力者達の戦果の一つだろう。
ユニヴァースナイト弐番艦の帰還、それによってこの戦場の両軍は束の間の休息を得ることとなった訳だが、睨みあいが続いてるには違いない。
一度目の衝突は五分と五分の痛み分けとなった。
ざらりとした風吹き抜ける。一瞬だけ硝煙と油の匂い、それに慌しい喧騒を吹き飛ばすが、爽やかとは言いがたい。
じりじりと形容し難い気配を感じるからかもしれない。
防衛ラインとなるカバゾンからでも見える、その巨体。約20kmほど先、パームスプリングスに程近い所に陣取るのはギガワーム。遂にここまでの侵攻して来たのだ。
――敵、部隊に動きあり!
今作戦より導入された全体情報網INからの知らせに、待機していたKV達が一斉に空へと上がっていく。
此方には弐番艦が帰還したのと同様に、バグア側にも司令官とギガワームが共に到着した。この戦場に配された駒はどちらが有利とは言いがたいだろう。
良くも悪くもここが最後の正念場となる事を誰もが感じる中、二度目の激突が始まろうとしていた。
●
上がった空の一面に広がる敵影。
それを見たケイ・ヴォルグ(gb2154)は皮肉めいた笑みを浮かべる。
「来たか、随分減らした気がしたんだがすっかり元通りだな」
敵の輸送機の多くが合流に成功したらしく、『魚』が運んだのであろう敵機の数と種類は最初にぶつかり合った時のそれに匹敵しているように見えたのだ。
特に注視して落とした筈のキューブワームの群れが見えることが特にそう感じさせるのだ。
「そんな事はないでしょう。確実に、減ってるはずです」
そう応えたのは、やはり単騎での参加のミスラ・アステル(ga2134)だ。彼女はCWを早期に減らすべくここに居た。
言われて良くレーダーを見れば、会戦前に見た数よりは減っているし、ホワイトノイズの量も少ない。
完全にスタート地点に戻された訳ではない。
「ならば、これで最後にする」
「掩護しますっ!」
先行して来た小型HWの攻撃を機体を捻るようにして回避すると、その後方に控えていたCWへ砲撃を叩き込む。
『CWを多数確認、余裕のある方は優先して叩いてください』
「いわれる、までもない!」
ノイズ混じりのアナウンスに応える様にその後もCWを次々と落としていった。
【IMP】小隊もCWに専念していた隊の一つだ。
目の前の数機を落とした所へ、唐突にスピーカーが悲鳴を上げた。
『絶 賛 逃 亡 中 !!』
その声の発信先を見やれば、危なっかしい動きで敵を引き連れて逃げるユズ(ga6039)の機体があった。
「何やってんだ」
『ありがとぉ。こうやって、逃げ回ってるだけでも掩護になるからありかなと』
なるほど、彼女が乗る機体はジャミングを無効化出来るウーフーだ。そして、狙ったかどうかは兎も角逃げ回ったお陰で撹乱にも繋がり結果として彼等の隊は易々と敵の横っ面から砲火を浴びせることが出来たのだから、確かに掩護にはなっている。
とは言え、無茶には違いない。
「CWも大分減ったみたいだから、後方掩護に廻ってくれ」
了解と元気良く返したユズは、暗号通信士としての仕事に専念する事ににするのだった。
一方その頃、彼等より東の上空で陣を崩さず戦う一団があった。
「まだ、来ないか」
撹乱し陣へ誘い込み、最小限の力でHWを落としていたのは【ラーズグリーズ隊】だ。
彼らは突出する事を避けつつ、力を温存させたまま前線に留まり続けていた。――待ち人をしているのだ。
「人と言うのは当てはまらないな」
隊長のブレイズ・S・イーグル(ga7498)の言葉に、確かにと笑う僚機達がその様子とは裏腹に、正確な連携射撃で敵機に集中砲火を浴びせていく。
エース機が射程圏内に出てくるのを待っているのだ。動いたと言う報告は、未だ来ていない――恐らくはGWと共に居ると言う事だ。
先の戦闘では空戦の戦力が不足していたが、今回は上手くバランスが取れたように見える。
それはいい事ではあるのだが‥‥。
「頭を引きずり出さないと、このままだと」
笑うのを止め真剣な声音で指摘する。
そう、このままだと雑魚を相手にして疲弊した状態でエース機と闘わねばばらなくなる。雑魚とはいえ、量が量だ。
UK弐番艦によるSoLCの援護射撃はあるものの、連射が利かない上に、敵味方が混戦している状態では使いにくい。
「血路を開くしかないのか?」
「もう少し堪えましょう、どうせすぐに出てくるわ」
それが吉と出るか凶と出るか、それはまだ解らなかった。
●
空での爆音が響く頃。
「んじゃま、いつも通り雑魚を狩りつつ情報収集だな」
バイク形態のAU−KVに跨がり、【マーズドライヴ】のシルバーラッシュ(gb1998)は仲間に視線を送ると、ヘルメットの奥でニヤリを笑った。
小規模な戦闘ではドラグーンの高機動性を最大に発揮する機会は多いとは言えない。そういう意味では、己の能力を最大に活かす絶好の機会とも言える訳で、不謹慎にも不敵な笑みも漏れるのかもしれない。
「前回の哨戒で覚えた抜け道、ルートを最大限活用しない手はないよね」
「それじゃあ、引き続き、この南北に伸びる15号線沿いを‥‥」
「え? 10号ではないですか?」
作戦の最終確認をしている時だった。
鯨井レム(gb2666)と神楽 霊(gb6427)の言葉をたまたま聴いた皓祇(gb4143)が、己のAU−KVを手で押しながらやってくる。
「何、10号? 間違えて記憶していたのか」
指摘されて地図を確認する。確かに、先ほどの敵の侵攻ルートはカバゾンを横切る10号線だった。違っていたからと言って、16号へ向かう事は無いだろうが、認識のズレが誤差を生む事は否定出来ない。
「助かりました、貴方もAU−KVですか?」
頷く皓祇に、彼女達は改めて協力を要請するのだった。
「そろそろ、陸戦部隊が来る頃ですね。準備は良いですか?」
パームスプリングスから、サンベルナディーノと続く道、国道10号線。
その丁度中間地点にカバゾンという地域がある。丁度国道を沿う様に北と南に山岳が連なるその場所は、山が侵攻の幅を狭める為天然の要塞と言えた。
そこに身を潜める部隊の一つに【ガンアンツ】の姿があった。
各々の機体には、泥や木々を巻き付けられ遠距離から判らない様に偽装が施されている。
(ガンアンツからの出撃は、今回で最後か‥‥)
隊長の比留間・トナリノ(ga1355)の鼓舞をコックピットで聞きながら、草壁 賢之(ga7033)は最後の動作確認を行っていた。
迷いは、無い。だが、寂しさが無いといえばきっと嘘だ。
「出番のようですよ。さて、『食い荒らしに』行きますか。」
「何事をも撃ち抜くッ!!!」
「‥れ、REX正面より来ました! 色に注意して攻撃をしてください!!」
弾を叩き込み、喉を食い千切れ!
不用意に射程圏内を横切ろうとした恐竜を目一杯引付けてから、山並と一体化していた仲間達のKVが一斉に起動する。
多くの物を学んだ、多くの物を身に刻んだ。
だから、誇りを胸に叫ぶ。
「蟻をなめるな。俺の教訓、お前等にもわけてやるッ!!」
気迫と集中の伴ったその射撃は、今までで一番の冴を見せて確実な戦果を重ねていった。
その一方で、真正面から受け止める部隊も活躍を見せていた。
その中心となっているのは【K.o.t.R.T.】と【SMG】及び、【SMG分隊96猫隊】の3小隊だった。
【K.o.t.R.T.】は、CWとREXに焦点を絞り立ち回わり、【SMG】がゴーレムを引き受ける形となり戦力が集中するのを避ける事が出来たのも大きいかもしれない。
組織立った動きは、誰かが特出するような動きは無かったが、それだけに危なげなく隊を動かしていく。
「この先には行かせない!」
瀬戸陸徒(gb4279)がやや緊張した面持ちで言い切る。少し肩に力が入り過ぎてるようにも見えたのか、結城加依理(ga9556)がそっと妹に合図を送った。
そんなフォローと、常に周りの状況に注視する役割をキッカ・小林・クルス(gb0155)と渚桧那(gb3920)が十分に警戒をした事もあり、今の所切り抜けられていた。
が、桧那の得た情報で空気が一変する。
「強化型ゴーレムがそこまで来ています‥‥恐らく」
――乗り手は空戦で確認できていない、リリア親衛隊「トリプル・イーグル」の一人、アルゲディに違いない。
「敵がエースでも!! 恐くなんて!!」
『へぇ、本当に? くく、くははははは!』
「!?ッッ」
冨美(gb5428)の言葉への返事が唐突に帰って来た――通信ジャック!
相手は考えるまでも無い。
取っておきの雪村で、眼前のREXを斬り捨てたアンジェリナ(ga6940)は、即座に後退の合図を出す。
それとほぼ同時にフラウ(gb4316)が全域へのエース機出現を平文伝達。
「落ち着いて後退しろ、そうだ退路を確保しろ」
一瞬浮き足立った隊を沈めるような、声。
隊を預かる長たるものが率先して後退する訳にはいかないと、隊長シャーリィ・アッシュ(gb1884)が隊員を促す。それを見た鹿嶋 悠(gb1333)は、愛機「帝虎」を彼女の前に動かし万が一に備えると、残る予定の小隊に声をかける。この通信が終われば、後退するのは自分達だけの筈だ。
「SMGさん、こちらは後退するよ。武運を祈る」
「了解〜、そっちも気をつけて。オーバー♪」
空気はまるで違うが、戦場で肩を並べた同志。一瞬の気のやり取りを残して、互いの仕事へ戻っていく。
『くく、さぁ、第二ラウンドと行こうじゃないか、楽しませろよ?』
指揮官が居るとキメラやワームも手強さを益す。
その事を身をもって知る事になったのは残る事を選んだ【SMG】のメンバーだ。
司令官として上で責任を取る人材が現れた事で、アルゲディは陸戦の指揮官として集中出来る状況が整い、更に1回2回と、分断されての集中砲火を浴びた事も手伝い手堅く量で攻めて来る作戦で来てるらしい。
厄介な事この上ない。冷静な彼は、不本意ながら優秀である事を認めなければならないらしい。
じり、じりと後退しながら凌ぐもそろそろ補給をしたい所。
『また、何か企んでいるんだろうが。俺まで届くのか?』
このままでも押し切られる‥‥ならばっ、やれる内にやった方が良い。
「お言葉に甘えて、ここは一つやっちゃうよ♪」
肉薄していたゴーレム2体をソードウィングで切り上げ突き放した火絵 楓(gb0095)の合図を出すと15機分の砲門が一斉に開く。
指揮官が居て、手強くなるなら――指揮官を倒せばいい!
レーザーが、ガトリングが、ミサイルが、連装機関も火を噴けばトドメとばかりに対戦車砲が突き刺さる。
連続した派手な爆撃が強化ゴーレムを包み込む。
「これで、どーよ」
『く‥‥くくく、残念』
煙の向こうの影は大きな損傷が見られない。これで倒せない物の、削る位出来ると思ったのに。
見れば足元にREXが数体、それにゴーレムが1体が転がっているのが見えた。アレを壁にしたっていうのか!!
悠然と強化ゴーレムが砲台の照準を楓に合わせる。一瞬、ほんの一瞬反応が遅れる。さらに遅れて、アラート音が聞えてくるが認識には至らない。
「しまっっ‥」
『強いなぁ、お前ら。でも、無駄だったな』
その刹那
「無駄じゃない!!」
楓のコックピットに直撃するはずだった閃光は、右脇下から逆袈裟に機体をひしゃげさせ、気が付けばコックピットは緊急ランプで真っ赤に染まっていた。
そして、今度はアルゲディの反応が遅れる番だった。
弾幕を展開しつつ【SMG】の前面に出てきたのは【ガーデン・ガーベラ隊】、そして【ガーデン・フリージア】隊長の九条院つばめ(ga6530)が通信で引き続き鼓舞する。
「遅くなってごめんなさい。今の内に立て直してください! 皆さんが引付け切り開いてくれた道を活かします」
彼女がそう告げると、あとをガーデンを預かる鈴葉・シロウ(ga4772)に引き継いだ。逆転の一手を発令するのは彼の役目だから。
さぁ、ミサイルのサーカスといきましょう。
残念ながら、相手ははんぺんではないみたいですけどね。
●
時間はやや逆戻る。
最前線で機動力による撹乱を狙い動いていた東雲 隼人(ga7210)からの全域チャンネルの通信が入った。
『新鋭機を発見! 繰り返す、新鋭機を発見――本星型HWが一機ッ くそっ、スラスターをやられた。後退するっ』
「誰か、フォローにいって!」
咄嗟に指示した言葉は、新鋭機の出現に合わせて後退する予定だった機体が拾い、隼人は無事後退する事が出来たようだ。
それをモニターで確認した夕風悠(ga3948)は唇を噛みたい思いで目測で確認出来た、その異様な機体を睨んだ。
どちらかと言えば、感情にむらのあるアルゲディの方が隙を見出しやすい‥‥先の衝突で無傷だったのは彼の機体の筈だったのに。
『やるじゃないか、さっきのはまぐれじゃないって事だね』
どうやら目の前に居る異星の戦機の乗り手は、ハルペリュンのようだ。
「片割れはどうしたの?」
『さぁ? これから死ぬ奴が知る必要はないだろう』
その言葉と共に鋭い砲火が機体スレスレを貫く。焦げ付く匂いを機体の中でも感じそうなほどだ。
今までに2度の成功を収めてきた『断』も、こうそれなりに警戒してくる相手には使いにくい。
「大丈夫か?」
――どうする、いっそ目晦ましに使うか?
そういう意味あいで聞いたのは高遠・聖(ga6319)。それに、悠は首を振って答える。
「もう少し、もう少し我慢比べだ」
話す間も、敵の弾幕が機体を掠める。若葉の名前の通り、最新鋭を相手にするには荷が勝ち過ぎている自覚がある。そもそも、極力接触自体は避けるつもりだったのだから。
だけど、接触した以上簡単に逃げられる物でもないだろう。
何か、僅かな機が来るのを待ったその時。
――その時、ノイズ交じりの声が飛び込んできた。
「AHEAD、AHEAD、GOAHEAD!!! 【自由な風達】風見圭一、ギガワームに一番槍貰ったよ」
「二番槍じゃ」
GWを護るように陣取っていた本星型HWを廻りこんで、三機のKVがGWへと攻撃を仕掛けたのだ。
深く切り込んでの余りに無謀な攻撃。だが、一小隊じゃなければ無視出来るものではなくなる。能力者達が知るそれよりも、重厚な武装をしているらしくあっという間に【自由な風達】の三機は全て砲台の餌食となった。
だが、彼等の無謀は幸運にも防戦一方だった能力者達の流れを変える楔になったのは間違いない。
「道案内助かった、これで俺達はほぼ全力で仕掛けられる」
脱出したシート圭一は、擦れ違う小隊の機体に【八咫烏】のエンブレムを見た。
「各機、兵装使用自由! ECMに合わせ‥」
隊長機の叢雲(ga2494)が荷電粒子砲のトリガーをあわせる。
「ECM起動‥‥」
「八咫烏05重力波ECMを展開、カウントに注意してください。」
それと同時に皇 樹(ga4599)と、澄香・ハッキネン(gb1399)のアナウンスが追いかけるように其のタイミングを知らせる。
3‥2‥1‥
「――っっ撃ぇっ!」
更に、【夜修羅】が砲身を狙う援護射撃を浴びせかければ、単騎での参加者が単騎の利点を活かしてヒット&アウェイで畳み掛ける。
HWを吐き出すハッチ部などを中心に何重もの弾幕が叩き込まれた、が―‥‥
『無駄です。狙いやすい事は此方とて承知の事、それなりの対策は立てています』
多くのミサイルは並ぶ大小の対空兵器によって迎撃されるものが多かった。
当らなかった訳ではない。
ただ着弾に成功したポイントの多くは全長10kmと言う巨体の内のそれほど重要ではないポイントのように思えた。
ここまで大きく、かつ重装備となると空飛ぶ軍事要塞のようにも思えてくる。
「まだまだ、波状で叩くっ!!」
やや遅れて【暁の騎士団】と【スターゲイト隊】の2隊が張り付くようにGWへの攻撃を始める。
気を許せば、砲台によって蜂の巣にされかねない行為だが、GWへの突破口を探すべく効果の上がる場所を探るのが、当初よりの目的だ。
どれが功を奏したのかは解らない。
ただ、ほぼ同時刻、程近い場所で戦う二人の指揮官の動きが鈍くなったのは事実だった。
「落とす必要も、落とされる必要もない。GWとの戦闘を長引かせれば、勝ち」
そう言った、セラン・カシス(gb4370)の言葉は正鵠を獲ていたと、いうことだ。
●逆転の狼煙
『君たちには帰る場所があるのだろう!
暖かい家庭が、心強い仲間が、愛する者が帰りを待っているのだろう!
今こそ戦いに勝利という文字を刻むんだ!帰りを待つ者のために!』
戦場で、機体整備に追われる拠点で、前線に近い場所で、そして弐番艦でも、早坂恵(ga4882)の声が聞く者の心を叱咤する。
「地道を守るしか無い、か。楽がしたいよ」
護衛担当のADの言葉に、暗号通信士が苦笑を浮かべたが答えた言葉は同情ではなく仕事の指示だった。
「回線確保、放送作業に移行します」
「了解〜」
【FM−Rev】の闘い方はいつもの通りだ。
優勢でも、絶望的でも、変わらない。変わらない日常を、帰るべき場所を指し示し忘れさせない事。それは、長く続く争いに麻痺しない為の戦いでもあるのかもしれない。
変わらないのは、後方支援も同じ。
ただ、今回取り分け活躍したのは機体整備に従事したメンバーだ。
【スタートライン陸戦隊】の作成した損傷度合いや補給状況のリストは、【FunnyDuc】の篠原 凛(ga2560)による情報網を利用して予め補給内容を用意して待ち構える方法と相まって、効率化に大きく貢献していた。
情報網の統一によって、彼等も前線の状況を容易に知る事が出来るようになった。
だからこそ、一番ハッキリと見ることが出来たのかもしれない――この盤面がひっくり返る様を。
――閃光がはじけた。
『今です、作戦名【断】三度振り下ろせ!!』
『――【千手】、発動!』
来るのは解っていた。判っていても、GWへの攻撃で指揮が慌しくなっていた所を狙われた。
上空のハルペリュンは、僅かな焦りを覚えていた。
『‥‥本当に、やりますねぇ』
直撃を免れたハルペリュンが建て直しを計るが、
「2太刀目、分断します!」
『ただでは、やられませんよ!』
ハルペリュンの抵抗に味方機が幾つか黒煙を上げて後退する。
その下がった機体の穴を埋めるように【ラーズグリーズ隊】が攻撃を仕掛ける。FFの効果が解除される事を狙い攻撃をしかけるが、結局それを確認する事は叶わなかった。
相手が、逃げる事を第一に選んだからだ。
『ヨリシロ候補が多いのは結構だけどね、余り調子に乗られるのも不快だね』
『戻りなさい、ハルペリュン――アルデディが落ちました。回収して後退です』
『――承知しましたよ。こっちもちょっと危ないしね』
幾筋ものミサイルの弾道を描いた煙が伸びる。何百ではない、その数――凡そ千を越えていた。
地上での集中砲火の為、土煙と熱と炎によって視界が極端に悪化する。
それでも、能力者たちの手番は終わった訳ではなかった。
「派手な弾幕シューティングだねぇ、避けられるか?」
「この機を、待っていた‥‥!!」
正に矢の雨ならぬ、火の豪雨と言っても過言ではないかもしれない。
「今こそ動くべき時ね。雪風全機、状況開始!!」
ファルル・キーリア(ga4815)の号令の元【雪風】が更に、回避しようと逃げるその横っ面からの遠距離攻撃が次々と行く手に着弾する。
『くっ‥』
「データを洗った甲斐がありましたかしら?」
カタリーナ・フィリオ(gb6086)の言葉の通り、直前にエース機の回避の癖を解析した事が一定の効果を上げているに違いない。さらに、少し『待って』からの行動は時間差を作る事になり、アルゲディへの圧力をかける事に成功していた。
作戦【利休】も見事に決まったと言えるだろう。
その結果、彼の動きは酷く読みやすくなっていた。
『くっそ、シェイクの掩護とかないのかよ‥』
「次はありません、ここで墜ちて貰います‥‥!」
「行きます!」
爆炎を切り裂き、いくつもの機影が強化ゴーレムを擦れ違い様に斬りつける。
触れた瞬間に火花が散り、屈強なゴーレムに抉るような爪痕を、無数に刻み付けた。
続く猛攻に頑丈さを誇る強化ゴーレムも黒煙と炸裂音が上がり、満足に間接を動かす事も難しい有様だ。
「逃がしません!」
逃げの一手を選んだ相手を捕まえるには、分が悪かった。
敵の母艦は強大で見たところ、殆ど有効打が入って居ない状態にみえたから。それに、地上のワームやキメラ達も放って置けば押し切られかねない。
長々とエース機だけを相手にはしていられない――。
しかし、エース機に与えた被害は甚大。
ギガワームもこれ以上の無理はしてくるまい。
ギガワームこそ落とせなかったが、この会戦は人類側の勝利となるのは間違いないだろう。
<担当 : コトノハ凛 >
<監修 : 音 無 奏 >
<文責 : クラウドゲームス株式会社>
【制海権維持】
ロサンゼルス沖の海域は、数度の大規模な攻勢に晒されたが、ユニヴァースナイト参番艦の到着によって消耗した戦力は回復しつつあった。
サンタカタリナ湾に展開した轟竜號は、後退した空母に代わり広域哨戒の拠点となり、その大きな体躯を機能させている。
ウルスラ・ゴルドバーグ(gb3759)は、対潜哨戒機と共にブイの敷設に飛んでいた。
何度かのバグア艦隊の攻撃によって、ソノブイによる警戒ラインには幾つもの穴が開き、敵の攻撃が緩む度に、海軍の古風なレシプロ機を伴って、その穴の修復が行われる。
ぽつぽつと散発的であった敵の侵入は、時間の経過と共に、徐々にその数を増やしてゆく。
暫くソナーに耳を澄ませた後、綾野 断真(ga6621)はゆっくりと機体を前進させた。
少し進んでは止まり、止まっては聞き耳を立て、それを繰り返して敵の動きを漏らさぬように進む。
何度目かに止まった時に、彼のソナーは、今までの散発的な侵入とは違う、大規模な敵の動きを察知した。
幾つものキャビテーションノイズが、綾野の耳に届く。
彼は素早く、付近の友軍に第一報を送り、再び敵の「音」を追い駆けるため、自機を海底で潜ませた。
オーガン・ヴァーチュス(ga7495)は予想される敵の侵入ルート上で、自機を海底の隆起の陰に入れて、チャンスを窺っている。
敵艦隊はオーガンの狙い通り、予想ルート上を深く潜行してきた。
「よっしゃ、叩き潰してやる!」
何機かのビッグフィッシュを遣り過ごした後、オーガンは奇襲を狙い、丁度敵艦隊の真ん中目掛けて、機体を浮上させる。
彼の機体から放たれたミサイルが、無数の水泡を残して、一機の鯨目掛けて進む。
ややあって、ミサイルが着弾し炸裂した音を、美海(ga7630)のソナーは捉えた。
「今であります! クジラを丸裸にしてやるのであります」
彼女の部隊が展開する海域に真っ直ぐ進んでいた艦隊の一部は、オーガンの奇襲を受け慌てて向きを変える。
そこへ、美海は自機の速力を上げ、正面から突入を始めた。
ビッグフィッシュの護衛機が、彼女らを捉え、迎撃のため散開する。
宇宙人共のワームより、美海が一瞬早く反応し、魚雷を放つ。彼女の僚機も呼応して放った魚雷は、散開した敵の真ん中をめがけて進み、それから大きく爆散した。
海中で戦端が開かれ、空も動き始める。
哨戒ラインを突破し、沿岸へと上陸を試みる敵機もぽつぽつと現れはじめる。クリス・フレイシア(gb2547)はラインを抜けたビッグフィッシュを追いかけ、僚機に爆撃指示を与えていた。
「2時方向、深度120。食えないバーベキューの始まりだ」
海面すれすれに高度を落とし、小鳥遊・夢生(gb3083)が自機を爆雷の投下コースに入れる。
「水中花火ってのもオツなモンだっ!」
トリガーに指を掛け、やや速度を落とす。
「今!」
クリスの指示に合わせて、小鳥遊はトリガーを引いた。自由落下する爆雷が海面に幾つもの飛沫を上げる。ややあって、それらは一際大きな水柱に変わった。
『もう一機、そちらへ誘導します!』
柚井 ソラ(ga0187)の声。
クリスに声を掛けたソラは、前に小鳥遊の落とした爆雷が炸裂する音を、後ろに接近する新手のビッグフィッシュの航行音を聞いていた。
クリスからの復唱はすぐ返ってきて、彼の指示によってもう一度、爆撃コースに入るために高度を取り始めている。
上空でのお膳立ては任せて、ソラはそのまま、自分を追い掛ける敵機を少しでも海面に近づけるべく、浮上をする。
耳に届くノイズに、新しい音が混ざる。恐らく魚雷かミサイルか、小さくて速い物の音。
本来なら潜って交わそうとする所だが、そうもいかない。上空ではビッグフィッシュを爆撃するため、味方が待ち構えている。
ソラは後ろからの音だけを頼りに、機体を浮上させ続けた。
●補給
サンタカタリナ空港のエプロンをくるっと見回して、カーラ・ルデリア(ga7022)は一つ溜息を吐いた。
スポットは全て補給中の機体で埋まり、ハンガーに入れず待機する機体が溢れ、タキシングウェイも空いていない。
こんな状況でも、パズルのように滑走路を使い離着陸は繰り返され、小さな空港のキャパシティは超えている。
「まずは機体のお片づけからやねぇ、こりゃ‥‥」
呟いてから、もう一度エプロンを見回す。
この小さな空港の小さな滑走路で、これだけの航空機を捌く手腕は評価に値するが、降ろすだけ降ろしてから、補給も整備もままならないでは話にならない。
カーラは機体の状況に合わせて、ここで最低限の補給を施し、キャパシティを超えるものは全て轟竜號とロサンゼルス国際空港に廻すべく、動き始める。
翡焔・東雲(gb2615)と共に、ハンガーからエプロンへと忙しなく動き、指示を与えてゆく。
カーラの部隊はサンクレメンテ空港でも、同じように空港の機能を回復させるべく、玖堂 暁恒(ga6985)を中心に行動していた。
サンタカタリナ湾には、後退した空母と入れ替わりに、大き過ぎる程の轟竜號が展開していて、この補給能力を活用しない手は無い。
ロサンゼルス沖の小さな二つの空港がその機能を取り戻す頃、三つの空港と轟竜號を管理下に置く広域管制が忙しくなる。
それぞれの施設のキャパシティと、機体の状況に合わせて、地上へと戻る機体を振り分け、空へ上がった機体に指示を出す。
ソル・ルイス・ラウール(ga6996)は、パイロットから機体の状況を聞き、それを広域管制を含む周囲へ伝達していた。
『お疲れ様、状況を知らせてください』
ソルの声をインカムに聞きながら、アレイ・シュナイダー(gb0936)は自機のダメージを表示したディスプレイに目を走らせる。
「どうやら‥‥補給だけで済みそうだ」
幸い深刻なダメージはどこにも無い。但しあれだけ抱えて離陸した爆雷はもう残弾がゼロで、継戦能力は無い。
『了解しました、補給だけね? 広域管制の指示に従ってください』
復唱し、アレイは通信チャンネルを広域管制に切り替える。少しばかりノイズが乗っているが、声はクリアに聞き取れた。
『こちら広域管制、そのまま進路を維持しサンタカタリナ空港へ向かってください』
ステラ・レインウォータ(ga6643)の声は、アレイ機をサンタカタリナへと誘導する。
どうやら、簡単な補給のみで済む機体を優先的に、規模の小さなサンタカタリナとサンクレメンテへ廻しているようであった。
キャパシティを超え飽和していた空港は息を吹き返し、効率的に機能し始めている。
思ったより早く戻って来れそうだ、とアレイは思う。
『ウェイポイント6を通過後、サンタカタリナ空港管制にコンタクトしてください‥‥』
インカム越しにステラの声を聞きながら、アレイは着陸コースに入るため、高度を少しだけ下げた。
●ドリス
前回の「負け」の原因は単機で突出し過ぎた事にある、とドリスは結論付けた。
同じ轍を踏むほど、彼女は間抜けではない。けれど、また小馬鹿にされて黙って見ていられる程、お人好しでもない。
幾ら宇宙人の妙な技術と言えども、それは彼らの技術力や工業力に準じたものであるので、擱坐するほど損傷した機体があっという間に元に戻る訳も無く、ドリスの機体は手負いのまま、ビッグフィッシュの艦隊に護衛として随伴していた。
先の戦闘で沈んだ船の陰に、紫藤 武(ga9977)は自機を沈めて息を殺していた。
海中を行き交う幾つものノイズの中から、ドリスの「音」を聞き分けるべく、耳をそばだてている。
その紫藤の上をに、ドリスの随伴する艦隊は差し掛かった。
「まってました!」
小さく呟く。幾つもの航行音の中に、ドリス機の音はあった。充分に引き付けるため、まだ紫藤は動かない。
徐々に接近するドリス機をシーカーが追い駆ける。艦隊の先頭が、紫藤の真上に差し掛かった。
「そのまま、こっちへ‥‥」
まだ、紫藤は動かない。手の届く距離まで、ドリスの「音」は大きくなり、紫藤に近づく。
「今!」
ドリスが真上に差し掛かろうとした所で、紫藤は機体の向きを変える。
「‥‥真下!?」
紫藤の動きをドリスが捉える。彼女の周囲も慌しく動き始めた。いち早く狙われている事を察知して回避行動を取るが、不意を衝かれ後手に回った。
ガウスガンが発射されたのを、ドリスは機体を右に転針させ回避する。しかし機先を制され、間に合わないと彼女が思った時、直下で別のワームが射線に入り、直撃を受けたワームが沈んでゆく。
ドリスは、自機が直撃を避けたのも束の間に、沈むワームが吐き出すキャビテーションノイズの向こうから数発のミサイルが接近するのを確認する。
今度は逆方向に転針し、同時に潜行させる。
ミサイルはドリス機の回避より早く、彼女の機体にダメージを与え、コックピットのドリスを着弾の衝撃で揺さぶる。
確実に手応えを感じた紫藤は、ドリス機との間合いを縮めるべく機体を浮上させた。
紫藤の待ち伏せにより浮き足立つドリス機とその艦隊は、シャレム・グラン(ga6298)の目によって捉えられていた。
『レッドアイより各機へ。教官にシャンパンの準備を!』
シャレムの声を聞きながら、サイアス(gb7892)が機体を爆雷の投下コースに入れる。
撹乱の目的を果たした紫藤は入れ替わりに海域を離脱していた。突如現れた紫藤に横合いを衝かれたドリスと、彼女が随伴する艦隊は、逃げる紫藤を追い駆けるような余裕も無く、態勢を立て直すので精一杯であった。
水無月 紫苑(gb3978)は、サイアスの機体の後ろを追いかけながら、同じように高度を落とす。
まだ、こちらの動きは気取られていない。
操縦桿を握りなおし、トリガーに掛けた指先に少しだけ、力を入れた。
艦隊が立て直しに躍起になる中で、ドリスはその音に気づいた。
幾つもの、ワームやらビッグフィッシュの航行する音に掻き消され、ドリスが気づいた時にはまたしても後手に回っていた。
投下された爆雷は、サイアスや水無月の機体だけでなく、シャレムの報を受けた多数のKV、軍の哨戒機も交じり、ドリスには潜る以外の選択肢は用意されていない。
爆雷を回避するために潜行しながら、ドリスは全く良い所が無かった、と思う。
手負いの機体とは云え、不本意である。
余りにも広すぎる海は、バグアにとっても未知の世界であるのかも知れない。
海戦に関しては、人類に一日の長があるのか。とりとめも無く考えながら、ドリスは機体を潜行させてゆく。
頭上で爆雷が炸裂する音が激しいノイズとなって、ドリスの耳に届く。
幸か不幸か、ドリスの機体は爆雷の攻撃からは逃れられそうだった。今度直撃を食らおうものなら、擱坐では済まされない。
●シモン
エミタ・スチムソンの直属部隊の侵入に先立って、シモンはステアーを操り、この海域に三度姿を現した。
過去二回は激しい消耗を避け、積極的に立ち回る程の義理を感じていないシモンは実にあっさりと引き下がったが、今回もそれと変わらない。
後続のエミタ旗下の部隊が侵入する隙さえ作る事が出来れば良く、この戦場に拘って身を危険に晒すほどの価値を見出してはいなかった。
丁度ドリスが海域から離脱を始めた頃、入れ替わるようにシモンのステアーが現れた。
定石通り、海面すれすれを飛行し侵入するステアーは、本来ならジャミングと、シークラッターによって、発見される確率は著しく下がるのだが、人類にとっては幸いな事に、シモンにとっては間の悪い事に、冬月 雪那(ga8623)がキューブワームばかりを狙っていた事により、効果的なジャミングが得られず、彼女に発見される事になる。
ステアーを発見した冬月は、「お豆腐と寒天狩り」を中断し、友軍に迎撃を任せて離脱を始めた。
シモンは離脱する冬月を追い掛けるでもなく、そのまま進む。一機を追い回すよりも、複数機に追い掛けられる方が、シモンの狙いに適う。
ステアーの正面に入るように、ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522)は機体を旋回させた。
僚機を伴った動きに反応する素振りも見せず、シモンは真っ直ぐ飛び続ける。
ハインのフライトエレメント三機がステアーと高度を合わせたのと同時に、シモンはトリガーを引いた。
光の束が数条、飛んでいくのに反応し、ハインは編隊をブレイクさせる。
上昇し回避するハインの前に、光の束は飛んで来なかった。その代わり、旋回して回避した僚機に砲撃は集まり、直撃を受けた機体は主翼から海中に没した。
ラダーを踏み込んでステアーを上昇させたシモンは、ハインと交錯するコースを取る。
ハインが機首を起こし、ステアーの裏を取るべく旋回するが、ステアーはと言えば、再び海面に向けて高度を下げていた。
ステアーを回り込むように動いた平坂 桃香(ga1831)が放ったミサイルを、機体を捻り交わした後、またシモンは海面を飛んだ。
「やる気無いならさっさと帰ってくれ」
平坂の言葉がシモンに届いたかどうかは解らない。その代わりにハインが反応する。
「頭を抑える」
「了解」
短く遣り取りした後、平坂はステアーに向かってスロットルを開けた。ハインが、ステアーの進路を抑えるため、やや前方を狙いミサイルを放つ。
ミサイルを嫌ってシモンは機体を左に傾け、接近戦を仕掛けた平坂が近づく。
ソードウィングでの攻撃を試みる平坂を、シモンはぎりぎりで機体をロールさせて、その一撃を交わした。
第二波を狙い、そのまま小さく旋回する平坂が、機体の向きを180度変えた時、ステアーも旋回を終えていて、接近戦を諦めた平坂がトリガーを引くより早く、彼女は射出座席と共に空中へ放り出された。
平坂機が撃墜されるのを見ていた遠石 一千風(ga3970)は、距離を保ちながらステアーに攻撃を続けた。
ステアーの足止めが目的だが、シモンが参番艦にさほど注力しているようには見えない。
こうしてステアー対応のための機体が纏わりついているが、それらの撃墜を狙っているようにも見えず、相変わらず逃げ腰である事が見て取れた。
シモンにしてみれば、別に逃げ腰な訳ではない。
エミタ旗下の機体が侵入する隙を作る、という「作戦」さえ遂行すれば、出撃した最低限の義理は立てているし、それ以上の事に力を割く必要は感じていなかった。
墜とされさえしなければそれで構わないので、遠石の攻撃に対しても回避を第一にステアーを操っている。
のらりくらりとKVをあしらいつつ、シモンは離脱するタイミングを図り始めた。
遠石の攻撃を、機体を小さく左右に振りながら回避する。
シモンの操縦パターンを、次は左と読んだ遠石が、回避するであろう先にレーザーを放つと、シモンは全く逆側に大きく旋回した。
遠石は後ろを追うようにスロットルを開ける。彼女より先に、シャロン・エイヴァリー(ga1843)が機体を回り込ませ、ステアーの横に出る。
シャロン機のシーカーは、ステアーの飛ぶ少し先を追っていて、彼女はステアーの鼻先の海面めがけて、ロケット弾を撃ち込んだ。
水飛沫が上がるのを、シモンはふわりと機を上昇させて回避すると、そのまま高度を取る。
ちらりと後方を確認する。追い縋るKVは、距離を保ち、接近する気配は無い。
丁度エミタ直属部隊も侵入を始めた頃合で、シモンにはこれ以上ここに止まる理由が無かった。
スロットルを開ける。推力を増したステアーは、追跡するKVとの距離を広げてゆく。
●直属部隊
エミタ・スチムソンの直属部隊とされる数機のヘルメットワームは、ステアーが戦域を飛び回り、哨戒中のKVを引き付ける間に、サンタカタリナ湾沿岸に向かって侵入を始めた。
彼らに誤算があったとすれば、哨戒中の部隊に、ビッグフィッシュの艦隊でもドリスの本星型ヘルメットワームでも、シモンでもなく、全く別の敵部隊の侵入を視野に入れて、警戒していた部隊があった事である。
シモンが陽動を行ったにも係わらず、その陽動で釣り出せない部隊が居る事は、彼らにとって致命的な誤算であった。
白鐘剣一郎(ga0184)は低空を侵入する三機のヘルメットワームを確認し、すぐさま僚機と阻止に向かう。
三機は横一列に編隊を組んでいるのを、横合いから白鐘が捉える。
「ここが勝負所だ。シェイドへの支援戦力、叩いて砕く!」
エミタ旗下の部隊より早く白鐘がミサイルを放つ。僚機を操るエクセレント秋那(ga0027)がエレメントをブレイクし、高度を取る。
三機のヘルメットワームは、うち一機が初弾の直撃を受け、早速黒煙を上げる。ふらふらと高度が下がる一機を残して、二機は散開した。
エクセレント秋那の機体が真っ先に黒煙を上げる機体に接近し、すれ違いざまに追撃を与える。ワームは一度、一際大きな爆発を起こした後、そのまま海へ落ちる。
機体の向きを変えるエクセレント秋那とタイミングを合わせるようにして、白鐘は自機を散開した片方に振り向けた。
『おっと、これ以上の入場には手数料が必要ですよ』
斑鳩・八雲(ga8672)の声がインカムに届く。レーダーを見遣ると、白鐘を含む三機が、ワームの片方を三方から取り囲むように動いている。残った一機は、高度を取るべく上昇を続けたまま。
白鐘がトリガーを引くのと同時に、僚機からもミサイルが放たれる。弾幕が、ヘルメットワームの行き場を奪う。
そのままスロットルを開けた斑鳩のソードウィングが、ヘルメットワームに小爆発を引き起こさせた。
止めはそのまま斑鳩に任せ、白鐘は上昇を続ける残り一機を追う。
付近を哨戒中であった機体も集まり始め、物量差が明白になり始める。エミタ旗下の部隊は突破を望むべくも無く、こうなっては時間の問題であった。
<担当 : あいざわ司 >
<監修 : 音 無 奏 >
<文責 : クラウドゲームス株式会社>
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