シェイド討伐戦
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7月13日の報告
7月27日の報告

<報告書は前編:後編から成る>

ロサンゼルス東部会戦  制海権確保  サンディエゴ解放  シェイド討伐戦


【ロサンゼルス東部会戦】

●航空撃滅戦
 ホワイトウォーター上空。
 パームスプリングスから西進してきたバグアHW部隊と能力者のKV隊は、まずそこで干戈を交えた。
『来たよ来たよ! 小型に中型、子持ち蛙に飛行キメラ! とにかくたくさん!』
 【380戦術戦闘飛行隊】、リリー・W・オオトリ(gb2834)の声が響く。
 やや遅れて、ミサイルの爆裂音が周囲に木霊した。
『敵も本気らしいね。子持ちを通さないで! 空港が潰れたらジリ貧だから!』
『了解!』
 仲間から返る頼もしい返事に、夕風悠(ga3948)は少しだけ口元を緩める。
 士気は問題ない。
 問題があるとすれば、と彼女は少しだけ周囲に目を向ける。
(「空戦対応者の数、かな」)
 この方面に展開した実働部隊の半数以上は、地上戦を想定しているようだ。
 確かに、防衛戦である以上、陣地を守るための陸戦部隊は必要となる。それはいい。だが、果たして制空権を確保できなければ、その陣地にどれ程の価値があるかは疑問だ。
「僕らが‥‥頑張って持たせるしかない‥‥」
 ラシード・アル・ラハル(ga6190)が小さく呟く。彼の率いる【空戦部隊Simoon】は、この空域に展開する空戦小隊としては頭一つ抜けた規模だ。
 自然、彼らの動向はその良し悪しに関わらず、戦闘の趨勢へと影響を与える。
 ――ロジー・ビィ(ga1031)と萩野  樹(gb4907)のコールサインが被っていたことは若干の混乱を隊にもたらし、ほんの数秒だけ彼らの戦線到着を遅らせた。
 その数秒間は空戦部隊の数と相まって戦線に僅かな隙間を作り、HWにとってまたとない機会となる。
『楔みたいに突っ込んでくる! こじ開けられるぞ! 意地でも塞げ!』
 ヤナギ・エリューナク(gb5107)がありったけの弾を殺到するワームに撃ち込んでいく。
 彼と同じ380飛行隊の面々も必死で火線を集中し、同空域の【LYNX】や【八咫烏】も戦線を縮小しつつ左右から押し包むように迫った。
『通さねえって言ってんだろぉ!』
 里見・あやか(ga8835)の駆るロングボウがその身のミサイルを雨霰と撃ち放つ。
 凄まじい爆発で後続は断たれ、僅かに浸透した数機のワームも【美女と野獣【B・B】】の神崎・子虎(ga0513)や、無所属のジャクソン・ウェストフ(ga7009)のような身軽な者によって掃討された。
 しかし、制空権を巡る争いでは、開戦早々に能力者たちは主導権を奪われることとなった。
 嵩にかかって攻め立てるバグアのHWの圧力に、損耗は刻々と拡大する。
 それでも同程度の出血は強いているとはいえ、あいこが続けば先に力尽きるのはこちらの方だ。
 次々と補給・整備のために後退しはじめる機体が増加し、それに伴って戦線はカバゾン手前にまで押し込まれていく。
 交戦開始から、一時間が経とうとしていた。
 
『シェイクのを借りたんだって?』
『ええ』
『ふーん。まぁ、頑張りなよ』 
 二機の本星型HWが戦域に出現。
 その報はINを通じて即座に共有され、精鋭機対応部隊が動き出した。
 通常の小型HWを引き連れた敵エースの存在は、ただでさえ押され気味な空戦部隊には荷が重過ぎる。
 悠は迷わず【断】の発動を告げた。
『【碧】各機、手筈どおり行くよっ!』
『了解。レギオンバスター、発射します』
 言うなり、ソード(ga6675)はシュテルンに搭載したK−02の封を解く。
 それに合わせるように、連動する各機がそれぞれのミサイルを撃ち放った。
 敵エースではなく、その後続を断つことでエースを孤立させる【断】。その狙いは、今回も嵌るかに見えた。
 連続した爆発が巻き起こり、本星型の後方に続いた小型HWが次々と転進する。
 それらは動じた様子もなく編隊を組むと、本星型とは別個に周囲のKVへと攻撃を開始した。
『‥‥予想されてた、ってこと?』
『そう。残念だったね』
『きゃあ!?』
 淡々としたハルペリュンの通信と共に、ブーストで一気に接近した本星型HWが悠の機体にプロトン砲を叩き込む。
 ワイバーンの装甲が熱でひしゃげ、エンジンが断末魔の悲鳴を上げた。
 一度不覚を取った戦法に二度嵌るほど、バグアも間抜けではないのだ。それが同じパイロットなら尚更のこと。
 朦朧とする意識の中で悠はそんなことを考えながら、何とか脱出桿を引く。コックピットブロックが射出されると同時に、彼女は意識を失った。
 その時、無防備なその操縦席を、ハイエナのようにもう一機の本星型が狙ってきた。
『さっせるかー!』
 そこへ飛び込んできたフェニックスが射線を遮り、そのまま本星型へと向かっていく。
『見つけたよ! ゲディちゃん、こんなにも早く会えるなんてね!』
 搭乗者は火絵 楓(gb0095)。
 彼女の言うとおり、二機目の本星型に乗るのはアルゲディだった。
 同時に、楓の率いる【SMG】と【SMG分隊96猫隊】が空域になだれ込んでくる。
 地上では、【オルタネイティヴ】【ガーデン・ガーベラ】といった各部隊も集結し始めていた。
 総数で見れば能力者有利。しかし、やはり空が手薄だ。
『悠々と空飛びやがって。A分隊、出番だ』
 ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)はその状況に軽く舌打ちすると、シュテルンの垂直離着陸能力で空中へと舞い上がる。
 【断】は読まれていたとはいえ、その目的であるエースの孤立化は達成されている。
 空から地上へ追い込みさえすれば、手練ぞろいの陸戦部隊が存分に相手をできるはずだ。
『空はどうなってます?』
『何とか押し戻したようです。エースと一緒に登場したHWが手強く、ぎりぎりで五分のところ、とか』
 鈴葉・シロウ(ga4772)の問いに、リゼット・ランドルフ(ga5171)が答えた。
 ふむ、とシロウは考え込む。
 手強いHWというなら、例のBF直衛機ではないか。それを前線に送り出したということは‥‥。
(「これからが本番、か」)
 知らずに乾ききった唇に、小さな痛みが走った。

●カバゾン会戦
『緊急着陸するわ! 損傷が酷いの、滑走路空けて! 消火班は至急お願い!』
 オンタリオ国際空港に二機のKVがアプローチを掛ける。
 一機は吸気口付近に被弾したらしくエンジンが咳き込み、姿勢制御がやっとのようだ。
 それを先導するもう一機は【アジュール・ロザ】、ナレイン・フェルド(ga0506)。
 戦闘が始まって以降、後方基地は忙しさを増すばかりだ。
『三番はこれで一杯だ! 補給だけの機体は次から五番に回すぞ! 四番? 離陸用まで塞いでどーすんのさ!』
 管制塔から吉田・猛(ga6252)の声が響く。
 今フェイズからは前回以上に正規軍のカバーがあるとはいえ、こうした役割の有無は大きいだろう。
 この戦域で最大級の規模を誇るONTでさえこんな状況である。
 各地に点在する他の補給拠点の様子は、推して知るべしといったところだろうか。
「補給の間、ご飯でもいかがですか? できたてで温かいですよ」
 補給完了を待つパイロットの間を、御崎緋音(ga8646)をはじめ炊き出しを行っている者たちが行き来している。
 短い時間で取れる食事はたかが知れたものではあるが、それでも温かい食事は確かな活力となる。
 そんな一時の休息はしかし、突如鳴り響いた警報で終わりを告げた。
 同時に、各基地周囲に待機していた地上部隊が武器を構え、前進を開始する。
 バグアの地上部隊が動き始めたのだ。

 山岳と山岳の間に、二マイル程度の平野が広がる狭隘地帯。カバゾンはそこにある。
 奇しくも、目と鼻の先が両軍の制空隊が激しい戦闘を続ける空域であった。
『土煙上げてきなすった! あーあーいるぞいるぞ、亀にゴーレムに例の恐竜、キメラも選り取りみどりだ』
 【ガーデン・フリージア】の天原大地(gb5927)が口笛を吹く。
 この地域のバグア、空が主力とはいえ地上部隊も流石の数だ。
 だが、地上ならば能力者たちも負けてはいない。敵の進軍を正面から受け止めると、その圧力をがっちりと支えきる。
 たちまち、地上は土煙と振動、激突音に爆発音と戦場音楽で埋め尽くされた。
 こうなれば、後は乱打戦だ。どちらかが倒れるか、退くかするまで戦いは続く。
『アイリス1よりアイリス各機、敵に圧力を掛ける。照準自由! ばら撒け!』
 神撫(gb0167)が言うなりスラスターライフルを撃ち放つ。
 【アイリス】からの制圧射撃で、大して装甲の厚くないキメラの群れが弾け飛び、その穴を埋めるように新型のREX−CANNONが進出してきた。
『こちらGF01、目標が出てきたぞ。手筈通り、攻撃開始!』
 赤村 咲(ga1042)と【スタートライン陸戦隊】がそれに合わせて前進する。
 今回は、彼らのように新型の性能を確かめるべく動こうとする者は多かった。
 特に、防御特性と関係するだろう体色の違い、その実態を解明しようとする考えだ。
『GF02、03以下をつれて右の赤色を頼む。ボクは正面の緑だ。GF20、君らでしっかり援護してくれよ』
『任せい! GF03から10、わしに続け!』
 孫六 兼元(gb5331)の返事に無表情に頷くと、咲はシュテルンを一気に加速させる。
 迎撃のプロトン砲を紙一重でかいくぐると、BCアクスと機剣「黄龍」を交差するように振り抜き、駆け抜ける。
 ちらりと振り返れば、BCアクスの傷がやや深いように見えた。
(「緑は知覚に弱い‥‥か?」)
 その仮定が正しいとすれば、赤は逆に知覚に強く、物理に弱いのではないか。
 と、攻撃したRCの色が赤く変わる。
『この変化、錬力を使ってるんじゃないでしょうか?』
 ノーマ・ビブリオ(gb4948)が指摘する。見れば、彼女らが攻撃していたRCも色を変えていた。
 アクセル・コーティングのような、一時的な強化能力なのかもしれない。
 現状で結論を出すのは早計だとしても、これらの推測は遠いものではないだろう。

 このようにRCを相手にする部隊がいる一方で、他の目標に絞っている者たちもいる。
 【雪風】がその代表だ。
 ファルル・キーリア(ga4815)が率いるこの部隊は、バグアの前線指揮官に当たる機体を優先して撃破しようとしていた。
 この戦場で言えば、それに最も近いのはゴーレムだったろう。
 事実として、亀やRCが比較的苦戦する相手に、ゴーレムは優先的に当たるように見えた。であれば、少なくともここでは、ゴーレムが亀やRCよりも上位の存在であることは間違いない。
『参ります‥‥!』
 月神陽子(ga5549)がロンゴミニアトを構え、愛機を突貫させる。
 恐るべき威力を秘めた機槍は過たずゴーレムへと突き刺さり、内部から爆裂させた。
 彼女だけではなく、後詰として控える藤村 瑠亥(ga3862)や飯島 修司(ga7951)、ティーダ(ga7172)らの機体も十分すぎる程の性能を持つ。
 そうした少数精鋭による一撃離脱戦法は、十分に効果的だ。
 ただし、彼女らの思惑が全て的を射ていたわけではない。
 ゴーレムは確かに上位の機体であったが、それらが周囲の部隊を率いていた、ということではなかったのだ。
 この戦場において、バグアの頭脳を司るのはBFに陣取るシェイク・カーンであった。
 故に、【雪風】が戦果を重ねても望むほどの混乱は起きず、逆に脅威とみなされたことによってバグアの集中攻撃を招くに及ぶ。
 結果として、小隊の盾役を引き受けた陽子のバイパーは大破。その他の機体も少なからぬ被害を受けるに至った。
 とはいえ、彼女らの働きは無駄だったかと言えば決してそうではなく、敵の中核戦力であるゴーレムの相当数を撃破したことはバグア地上部隊にとって大いなる痛手であることに間違いはない。

 戦場各地に据え付けられた地殻変化計測器が、そのセンサーに反応を捉える。
『‥‥計測器に反応アリ。南東。距離、約五百。皆様、ご注意ください』
 シュワルツ・ゼーベア(ga8397)の通信に、【Elevado】の面々の顔つきが変わる。
 彼らの今回の主目標、EQ。それが現れたからだ。
 陸戦を主体とした部隊が多いこともあり、彼ら以外でも十分な数の計測器が同地域には据え付けられている。
 当然連絡体制も万全に近く、地下からの奇襲を封じられたEQは以前ほどの脅威ではなくなった。
 真壁キララ(ga8853)やJ・B・ハート・Jr.(ga8849)などは、EQが補給部隊を急襲することを危惧していたようであるが、それは杞憂に終わっている。
 何故なら、先述した通りゴーレムが次々と破壊されていたため、EQは前線部隊の撃破を優先したからである。
 その選択の正誤は、ナイフに剣、槍、槌はおろかドリルまでを食らい、文字通り原型を無くした姿が示していた。
 これは何も特別な例ではなく、元々地上戦力が多かったこともあり、多少の被害は受けつつもEQは各所で撃破されていた。
 陸戦の趨勢は、徐々に能力者たちに傾き始めたといっていい。
 しかしながら上空は未だ拮抗状態にあり、報告によればバグアの後続としてBFの編隊が迫りつつあるという。
 予断を許さない状況はまだまだ続くだろう。これを打破するためには、契機が必要だった。

『いい加減に‥‥落ちろッ!』
 煙幕のスクリーンを突き抜け、サルファ(ga9419)が騎兵よろしく槍を構えて突貫する。
 だが、それは急上昇に転じた本星型HWを捉えることは無かった。
『くそ、やはり地上からの攻撃だけでは‥‥』
 堺・清四郎(gb3564)が歯噛みをする。彼ら【白銀の魔弾】が相対するのはアルゲディ。
 空陸を自在に、という情報は知っていても聞くと見るでは感覚がまるで違った。
『今度こそ! あたしのフルコースを食らえっ!』
 その上昇を読んだかのように、SMGを引き連れて楓が突入してくる。タイミングはドンピシャだ。
 濃密な援護射撃を受け、楓のフェニックスはオーバーブーストと空中変形スタビライザーを起動、すれ違いざまにその腕の高電磁マニピュレーターを思い切り叩きつけた。
 甲高いスパーク音が弾け、白い閃光が走る。
『‥‥どうだ!』
『合格だ。褒美をやろう』
 飛行形態に戻り、振り返った楓の目に蜘蛛の糸のような白い軌跡を吐き出すHWの姿が映った。糸の先には、無数の弾頭。
 直後、連続した爆発が辺りを圧した。
『K−02にはK−02ってね!』
 その爆炎を抜け、ヴァレスのシュテルンが迫った。背部の装甲板が開き、お返しとばかりに驟雨のごとく小型ミサイルが撃ち出される。
 それを無視するよう突進してくるHWに彼は舌打ちすると、剣翼で迎え撃つべく機体を同軸に合わせる。
 K−02が炸裂し、爆発の中で双方の剣翼が激突した。
『おお、向こうは派手ですね』
『軽口叩いてる場合ですか。来ますよ!』
 律儀にシロウへと突っ込む有栖川 涼(ga6896)。
 言葉通り、ハルペリュンのHWが正面から飛来してきた。
『ガーベラ各機、千手発動しますよ』
 シロウの言葉に、僚機は待っていたとばかりにH12ミサイルポッドを展開する。
 その数、実に八基。
 プロトン砲に耐えに耐え、限界までHWを引きつけたところで、その封印が解かれる。
 一対象に720発という、K−02をも上回る膨大な火力がハルペリュンの機体を激しく揺さぶった。
 それは僅かに機体制御へとハルペリュンを集中させ、ミサイルの後に続くガーベラの突撃への対応を遅らせた。
『‥‥ふむ』
 上昇は間に合わない。
 ならばと異形の男は機体を急加速させ、鈍い輝きを放つ刃をせり出し、強引にガーベラの隊列を引き裂いた。
 強行突破の代償は、虫の脚のようなスタビライザーと尾翼の一部。安い、とはいえないだろう。
『アルゲディ、キミは?』
『特に問題は』
『わかった。カバーしてくれ。思ったより、やる』
 返答の代わりに、青年は機体をハルペリュンの後方につける。
『即席のコンビネーションってか? 柄じゃないだろうが!』
 と、アルゲディを追撃していたヴァレスら、オルタネイティヴの三機が直上から急降下攻撃を仕掛けた。
 迫る弾丸とミサイルを交差するように左右に散って回避したHWに、三人は一瞬目標を見失う。
 そのままループを描いて逆に彼らの背後を取ると、二機のHWはプロトン砲を連射した。
 危うく直撃を回避するも、掠めた光の束はその熱量でシュテルンの装甲を歪める。
 味方の窮地に、地上から砲火が吹き上がった。同時に、SMGを中心に航空部隊が側面から攻撃を仕掛ける。
 その間に三人は体勢を立て直すも、事態は望ましくない方向へと舵を切り出していた。
 INによって伝達された情報――BF群、前線に到着せり。

●帰還
『このタイミングか! くそっ、空は持つのか!?』
『こちら八咫烏、正直旗色はよろしくない。できれば援護してほしい』
 焦ったような風見トウマ(gb0908)の声に、紫藤 文(ga9763)の返答が入った。
 一旦は五分に持ち込んだ空も、BFの到着によってバグアが盛り返しているらしく、再び押されだしたという。
 見れば、東の空で生じる爆発や閃光は、先程よりも近づいてきたようにも思える。
『Simoonもスタートラインも、そろそろ限界が近い。陸上からの対空支援でも大歓迎だ。っと、すまんな、また忙しくなってきた。オーバー』
 ノイズと共に途切れた通信は、あらかた駆逐し終えたCWが補充されたことを示すのだろう。
 現に、レーダーも東部からホワイトノイズが広がってきていた。
 空戦部隊の面々も、BF対策を考えていなかったわけではない。それを実行に移す余裕が無いのだ。
 付近の陸上部隊は優勢だが、前線へ向かえるかといえばおそらく無理だろう。
 ワームや大型キメラなどの大物はともかくとして、少し前よりマグナム・キャットなどの小型キメラの浸透がいっそう激しくなってきている。
 それらに対応する生身の部隊もいるとはいえ、削れるだけは削らねば戦線は後方から瓦解しかねない。
『要は、あの魚を何とかすればいいのだろう?』
 ヴォルク・ホルス(ga5761)が言うなり、ワイバーンを東へと向けた。
『‥‥まぁ、俺たちだけで変わるとも思わんが、何かの足しにはなる筈だ。ここは任せた』
 議論する間もあればこそ、彼は【暁の騎士団】を率いてBFへ急行していく。
 制空権を失えば、今までの苦労は水泡に帰すのだ。この選択は理に適っている。
 二人の敵エースも、押さえ込むだけなら現状で不可能ではない、という計算もあった。
 このままジリ貧となるよりは、随分と分の良い賭けだろう。
『さーて、じゃあ、任された仕事をしっかりと続けましょうか!』
 螺旋を描くように降下してきた二機のHWを見据え、蒼河 拓人(gb2873)は殊更に声を張り上げた。

 増え続ける損耗は、補給基地をもまた修羅場と変化させていた。
「歩ける奴は歩けよ! 無理ならすぐ言え! 俺が行ってやる!」
「応急処置はこれで良いでしょう。包帯は自分で巻いてください。次の方」
「あーあー喧しい。鎮痛剤がすぐ効いてくる。処置が終わったなら休憩でもしておけ」
 ガルシア・ペレイロ(gb4141)とナロード(gb3874)、刃金 仁(ga3052)をはじめ、処置室では心得のある者がフル回転で手当てを行っている。
 正規軍の軍医を合わせても、数はやや足りない。今のところ、本格的な施術が必要となるような怪我人がいないことは、不幸中の幸いだろう。
 その処置室を一歩出れば、KVのケアをする整備担当たちの戦場だ。
 格納庫はおろか、滑走路にまではみ出して補給と整備を行う様子は、まさに自転車操業の状態だ。
 それでも何とかなっているのは、爆撃仕様の子持ちHWの侵攻を防ぎ続ける空戦部隊の奮闘と、前線を突破して基地周辺に浸透してきた小型キメラを駆逐する歩兵戦闘部隊の活躍ゆえだろう。
 補給活動に集中できる環境でなければ、前線より先に後方が悲鳴をあげていたに違いない。

 シヴァー・JS(gb1398)は小型キメラの姿を発見し、手近な仲間へと連絡する。
『いました。10号線高架下。数は四』
 見た限り、マグナム・キャットのような機械化キメラではなく、通常のキメラであるようだ。
 増援を待つのも良いが、下手にキメラに分散されても面倒だろう。
 であれば、纏めて足止めするしかないか。
「さてさて‥‥後方ならとも思いましたが、やはり楽はできないもの、と」
 呟き、天照を抜き放つ。
 それに気づいたか、キメラの視線がシヴァーを捉え、咆哮と共に飛び掛ってきた。
 その牙をいなし、お返しにと刃を切りつけるのを繰り返すこと数度。
 連絡を受けて駆けつけた他の能力者が合流し、程なくキメラは殲滅された。
『こちらは異常なし。そちらは?』
『こちらもです』
『おう、こっちも‥‥と言いたいが、お客さんだ。南、住宅街付近』
 シルバーラッシュ(gb1998)は、【マーズドライヴ】の仲間の鯨井レム(gb2666)と神楽 霊(gb6427)に答えながら、小銃「S−01」を連射する。
 その後に小さく舌打ちをした辺り、全弾命中とはいかなかったようだ。
『二分、いや一分で向かう。その間に見失ってくれるなよ』
『あいよ。任せな』
 バイク形態のAU−KVの小回りの良さを活かして、三人はONT周囲を15号線を中心に哨戒していた。
 パワードスーツとしてのAU−KVが注目されがちなドラグーンだが、このように軽快さに富むバイク形態を有効活用するのは特筆に価するだろう。
 
 BFの周囲を飛ぶカルマ・シュタット(ga6302)のシュテルンが、その装甲を舐めるようにアテナイの弾丸を浴びせ続けている。
 ダメージはともかく、嫌がらせや牽制としては十分すぎる程鬱陶しい攻撃だろう。
 事実、彼とグレン・アシュテイア(gb4293)の霍乱隊を筆頭に突入した【暁の騎士団】は、敵の注意の多くを引き付けることに成功していた。
 空戦部隊の圧力は大幅に軽減されたが、それは彼らがその圧力を肩代わりしたというだけのことだ。
『目的は果たした、が、一矢は報いんとな‥‥。総員、魚に攻撃を仕掛けるぞ。目標は――中央のあれだ』
 ヴォルクが指示したのは、先程から牽制攻撃を仕掛ける中で、最も抵抗の大きかった艦。
 順当に考えれば、指揮官が乗っているはずのものだ。
『了解。意地を見せましょうか』
 連戦の疲れを感じさせぬまま、カルマは再度機体をBFへとダイブさせる。
 それに遅れまいと他の機体も続いた。
『へへ、会ってみたかったんだ‥‥どんな優秀な司令官殿かな〜ってね!』
 霽月(ga6395)がオープン回線で叫ぶ。半ば挑発、半ば奮起。返答は期待しないものだったが、思わぬ声が返ってくる。
『人間などに比べれば、バグアはそれだけで優秀です』
 シェイク・カーン。予想こそされていたが、これで確定となった。
 彼女の乗るBFは前回にてフレア弾の直撃を受けていたが、今回は敵味方の状況が大きく違う。
 【暁の騎士団】の攻撃も僅かに届かない。
 他の部隊の援護があれば、と臍を噛むも、そちらはそちらで現状維持に手一杯である。
 その時だ。
 一機のR−01がブーストで強引に敵陣を切り抜け、シェイクのBFに迫った。
 密かに騎士団に同行し、機を伺っていた神崎・神無(ga1871)の機体だ。
『大きさが仇になりましたね‥‥ブリッジを潰せばおしまいです!』
『詰めが甘いですね』
 彼女は機体を変形させてロンゴミニアトによる突撃を図ったが、その変形で生じた僅かな隙を逃すほどシェイクはお人好しではない。
 一瞬で集まったHWがR−01を弾き飛ばし、そこへプロトン砲が集中する。
 あっという間に空中で制御不能に陥った機体へ、トドメをささんとHWが殺到しかけ、唐突にBFの周囲を警戒するように旋回し始めた。
 怪しむ間もあればこそ、墜落したR−01の回収に騎士団の面々は向かう。
 BFの編隊はそれらを顧みもせず、後退していった。
『な、何なんだ‥‥?』
 唖然としたようなその疑問に答える声はない。
 その時、二つの知らせが彼らの元に入った。
 一つは、敵エースが戦域を強引に突破して離脱していったこと。
 もう一つは――。

 ユニヴァースナイト弐番艦の帰還、であった。


<担当 : 瀬良はひふ>

<監修 : 音 無 奏 >
<文責 : クラウドゲームス株式会社>


【制海権確保】

●制海権
 人質を取る姑息な戦法によって、サンタカタリナ湾の戦艦に裂かれた戦力の隙間を埋めるように、海上は哨戒の密度を高める。
 ソノブイの哨戒ラインは修復され、艦隊が波紋を残しながら海域を行く。
 上空は対潜哨戒機が飛び交い、海中に目を光らせていた。
 人類の戦術から見れば実に面白いことに、あの宇宙人共は、航空戦力も海上戦力も、全て一緒くたにして、あの鯨で運んでくる。そして鯨は、馬鹿の一つ覚えのように、海中深く静かに近づくのだ。
 厄介な事に、海中は人類にとっても未知の領域であり、地球上の7割の面積を占める広大な「隠れ家」であり、だから持てる技術を駆使して、そこで起きている動きを知ろうとする。

 ファルル(ga2647)は、サンタカタリナ湾に侵攻した戦艦は陽動であると判断し、独自に幾つかの予想ルートを策定し、網を張っていた。
 そして鯨共は、彼女の網に掛かる。
 海底の隆起とも友軍の艦船とも違う反射を音波が示し、その反射はあっという間に数を増やした。
 続々と増える敵機の情報と、現在位置とを報告し、ファルルは機体を転針させる。後は距離を保って敵影を捉えつつ、攻撃は友軍に任せる。
 彼女の読みは、まさに的中した。

 次々と手元に届く索敵情報を、ハンナ・ルーベンス(ga5138)は矢継ぎ早に味方機へ伝える。
「2時方向、1機、浮上してきます」
 高度を下げた友軍機が、フォーメーションを維持したまま侵入する。鯨が海面を割って姿を現すのより早く、爆雷を投下してゆく。
 幾つかの水柱が高く上がった後、浮上しかけた鯨は再び深度を取る。
「もう1機来ます」
 ハンナの声がインカムに乗る。今度は別のフライトエレメントが、爆雷の投下コースに入る。
 リン=アスターナ(ga4615)は、自機を雷撃機に随伴させる機動を取った。そのまま護衛機として、投下コースを先導する。
 雷撃機の到達より少し早く、鯨が海面に姿を現した。投下の中止が指示され、エレメントはブレイクする。それに合わせるように、鯨は航空戦力を吐き出す。
 恐らく、ロサンゼルスの近海全域で見れば、戦力は充足しているのだろう。
 ただ、例の戦艦に戦力が割かれている現状では、ここの航空戦力は圧倒的に足りない。

 物量の差は如何ともし難い。
 過去、寡兵が劣勢を覆した例は稀であり、どの国のどの軍隊も、数的優位を築けと異口同音に唱える。
 哨戒ラインを突破した敵の一部は、艦隊にいいように打撃を加え、サンクレメンテ島に肉薄した。
 口を開いてワームを吐き出すビッグフィッシュを、ハンニバル・ラプター(gb0655)のスコープが捉えた。もう上陸部隊は半分近く海岸線に上陸している。
 ハンニバルは躊躇わず、開口部に照準しトリガーを引いた。ルノア・アラバスター(gb5133)の機体もそれに続く。
 続けざまに放たれたライフル弾は、ビッグフィッシュの内部に幾つか小爆発を起こし、やがてそれが全体に広がる。
 取りこぼしたワームは、夏 炎西(ga4178)の機体が狙っていた。僚機から放たれた数条のレーザーの光を見た後、彼もそれに続く。
 亀は存外にあっさりと沈黙した。が、その後ろからすぐ、後続機が姿を現す。
 長くかかりそうだ、と夏は思う。新手に狙いを定めつつ、彼は消耗戦を覚悟した。

●空母
 片方のランディングギヤが降りないまま、ヒカル・スローター(ga0535)は着艦アプローチに入った。
 手酷くやられた。自力で飛行しているのは奇跡に違いない。吹き飛ばされたキャノピーが当たったのか、肋骨のあたりが酷く痛み、気を抜くと意識が遠のく。
 着陸用のレーダー誘導装置と、アレスティングフックが生きているのは幸いだった。
 速度を落とし、機首を少しだけ持ち上げる。
 ワイヤーで強引に停止させられる着艦は、ただでさえ嫌な衝撃を生むというのに、ギヤが降りなければ胴体着陸になり、その衝撃から来るであろう痛みは、想像したくもない。
 それでも、鯨1機と、それから何機かのワームのスコアと引き換えなら、悪くはない。
 ヒカルはアレスティングフックを下ろし、すぐに訪れるであろう衝撃に備えた。

 着艦アプローチに入るヒカルの機体を、テン・ミルミル(ga8889)はアレスティングワイヤーの近くで見つめていた。
 ギヤの降りない機体はこれで三機目。救護チームも待機している。機体を移動させるレッカーも居る。
 遠目で見ても、再出撃には時間が掛かるであろう事が伺えた。
 戦闘が激しくなると共に、手も足りなくなっている。それから換えのパーツも、係留しておくハンガーも足りない。
 ヒカル機が、大きな衝撃と共に、胴体を擦り付けるように降り立つ。滑走路と機体とがスパークし、がくりと前のめりに速度を殺され、止まった。
 恐らく、再出撃は無理だろう、とぼんやり考えながら、テンはヒカル機のコックピットに駆け寄る。

 サンクレメンテ島にある小さな滑走路は、空港と云うよりは飛行場と云う風情で、数百のKV、航空機を捌くには、滑走路もハンガーも、管制塔のキャパシティも足りなかった。
 まるでハイウェイの出入り口のように、小さな滑走路上で隙間を縫うように離着陸が絶え間なく続き、これ以上航空機を受け入れる余裕は無い。
 楊江(gb6949)は着陸機の間を慌しく動き、補給リストと整備箇所リストを作成して回っている。
 損傷の酷い機体は後に回され、軽微な機体が先に補給と整備を受け、空へ戻る。
 滑走路と同じように、ハンガーも、これ以上機体を受け入れる余裕は無い。燃料弾薬の類がまだ残っているのが救いだった。

●艦内にて
 狡猾なアキラという男のいやらしさは、息を飲む人質救出劇の舞台を、この骨董品に設定した事であろう。
 有視界で40cmの主砲を撃ち合う時代は半世紀前に終わり、航空機の運用能力も無く、対空能力も低く、さらに有効な対潜装備も持たないこの大きな船は、人類が運用していた頃から既に、持て余す遺産だった。時折、大きな戦争が勃発した際にその巨砲の威力を対地攻撃に利用された程度である。それも届くのはせいぜい沿岸部の数十kmにすぎない。
 そう、沿岸にあるロサンゼルスを吹き飛ばす能力だけなら十分に持っているのだ。
 サンタカタリナ湾に侵入したその船の周囲は、外海と比べると随分静かで、纏わり付くKVを振り払うため、時折対空砲火がまるでレーザーのような曳光弾の軌跡を残すだけで、この船が人類同士の戦争で現役だった頃の、激しい砲火は面影も無い。
 KVもKVで、まだ人質が艦内のどこに居るのか分からない状況では、無闇に打撃も与えられず、ただ砲火を引き付けるために飛んでいる。
 こんな骨董品でも、その偉容は示威には充分すぎる程であり、艦そのものに戦闘能力は期待せず、人質を収容し、巨砲による対地攻撃をちらつかせることで、外海からの戦力をこちらに分散させる、という意味では、アキラの策は功を奏した。現に、数百人単位の救出チームが組織され、この戦艦を包囲していた。

 浮上した潜水艇から架けられたアンカーから、ベル(ga0924)は甲板を覗き込む。丁度登った正面にある、副砲塔の影に気配を感じ、すぐ横のアンカーを登る味方を右手で制した。
 その右手で、ホルスターから拳銃を引き抜くと、もう一度甲板に目と右手を差し出す。ゆっくり歩くそれは、人の形をしているだけで、人ではないのを確認すると、素早く甲板の上に飛び出す。
 そのままバースト射を与えると、人形は避けようともせず、掌をベルに向ける。
 掌の銃口から弾丸が放たれるのとほぼ同時に、後続の木場・純平(ga3277)が飛び込み、その腕ごと蹴り上げた。弾丸は狙いが逸れ、倒れこんだ人形に、木場は止めを加える。
「大丈夫か?」
「助かりました‥‥」
 銃声を切欠に、甲板のあちこちが騒がしくなる。
 ベルは木場に礼を言うと、そのまま艦内へ続くドアへと走った。彼の背中をサポートするように、木場もそれに続く。
 探すべきは、人質とアキラ・H・デスペア。ベルはあの狡猾な男と、決着を付けねばならない。

 艦内の通路は狭く、さらにその外観通り広く、例の人形キメラはあちこちを徘徊していて、捜索は単純ではなかった。
 曲がり角を遮蔽物にして身を隠す真白(gb1648)の目の前の壁に、通路の奥から絶え間なく続く銃撃の跳弾が、金属音を残して飛んでいる。
 マガジンを交換し、通路の奥の様子を窺う。銃撃は不規則に続き、時折不規則に止む。
 呼吸を整え、次に銃撃が止む瞬間を待つと、それは案外早く訪れた。
「頭を抑えます!」
 彼女は半身を乗り出すと、トリガーをフルオートで引いた。弾を当てるのではなく、動きを抑えるのが目的。
 東條 夏彦(ga8396)は、真白の動きを見てから、隣で身を潜める白野威 奏良(gb0480)の顔を見る。
「さん、で飛び出す」
 白野威は東條の顔を真っ直ぐ見返す。
「三からで?」
「三まで!」
「承知しやした」
 素早く意思疎通を済ませると、白野威はカウントを始める。真白はまだ、通路の奥に向けて弾幕を張っている。
「いち、にの、さんっ!」
 カウントに合わせて、真白の銃撃も止む。キメラがそれに気づき、身を乗り出した時、目の前に白野威を見た。
 不意を衝かれた一匹は、白野威の一撃であっさりと通路に崩れ落ち、その動きを止めた。もう一匹は、咄嗟に手の甲から刀剣を生やし、東條の最初の一撃を受け止める。
 東條は刃を交えたまま、通路を走った勢いそのままにキメラを押し込む。同時に白野威が、今度はその足を払った。
 バランスを失って倒れこむキメラを、東條が袈裟懸けに切る。無力化したのを確認してから振り返ると、真白が通路途中にあったドアを開けていた。
 室内は無人だったようで、彼女は眉を曇らせて首を振る。
 また空振りに終わった。もう何度目だろうか。彼らは「当たり」を引くまで、広い艦内でこれを繰り返すのだ。

 動力部の破壊を目指して艦尾を目指したエル・デイビッド(gb4145)は、図らずも「当たり」を引いた。
 船底に降り、動力室を求め艦尾へ走り、確認のために開いた何個目かのドアの奥に、人質は監禁されていた。幸いな事に、疲労の色は見えるものの、被害は無い。
 イレーヌ・キュヴィエ(gb2882)が人数を確認する間に、エルは付近を捜索する部隊に支援を求めに向かい、ノーン・エリオン(gb6445)を連れて戻る。
「何人居る?」
「半分ってとこね。22人」
 ノーンに、イレーヌが手短に答える。
「‥‥では、後は頼む」
 エルは人質をノーンらに引渡し、イレーヌと共に部屋を出た。出た所で左右を振り返り、艦尾の方向に走る。
 これから甲板へと向かう彼らのために、出来る限り敵を引き付け、さらに動力部に打撃を与えなくてはならない。
 艦尾へ走る2人を見送った後、ノーンは人質のほうに振り返る。
「皆さん、これから甲板へ誘導します。我々の指示に従ってください。すぐに脱出できます」
 人質を落ち着かせるため声を上げつつ、ノーンは頭の中に、突入前に穴が開くほど見た艦内の見取り図を思い浮かべ、ヘリが到着する甲板までの最短ルートを検索していた。

 プリセラ・ヴァステル(gb3835)の放つ弾頭矢が、通路の先で派手な爆発を起こす。甲板へと向かう人質の一団は、彼女の矢によるものか、それとも外部からの攻撃によるものか、船体ごと大きく揺さぶられ、壁に手を付いた。
「大丈夫、ゆっくり、落ち着いて!」
 人質の一団を先導していたオブライエン(ga9542)が、よく通る声で指示を送ると、人質の18人を護るように、再び慎重に歩き出す。
 彼らは、艦の一番前にある主砲塔の一室で発見された。
 オブライエンの小隊とプリセラが、艦内をぐるっと回り込んで主砲に辿り着いた時、彼らは弾薬庫に押し込められていた。
 負傷者に素早く手当てを施し、プリセラが先導し、オブライエンと前後を固め、そこを出る。
 既に、離脱のために手配されたエピメーテウスは艦に近づき、護衛機による攻撃が開始されていたため、真っ先に狙われる主砲塔からは、なるべく早く離れる必要があった。
 甲板までの最短距離を取り、プリセラが露払いに走る。通路の最後の角を曲がった時、彼女はキメラと鉢合わせた。
 キメラの方が一瞬早く反応し、掌から数発の銃弾が放たれる。そのうち初弾が彼女の太腿に刺さり、よろめいた所に、次の二発が立て続けに胸元を叩く。
「くっ」
 小さく呻いて、被弾していない方の足を軸にして、倒れこむのは踏みとどまった。救出した人質は、何としても安全に脱出させなくてはならない。
 銃撃を止めて、キメラが刀剣を翻して向かって来るのを見ながら、プリセラは次の矢を番えた。
「どいて!」
 弦がしなり、弾頭矢がキメラへと真っ直ぐ飛ぶ。
 船体が、もう一度大きく揺れた。

●脱出
 人質は護衛を受け、甲板に続々と集まり、慌しさが増す。
 リリエーヌ・風華・冬堂(ga1862)は、甲板の安全確保のため、あちこち走り回っていた。
 エピメーテウスのランディングゾーン確保のため艦の後方に向かい、そこの制圧に加わった後、さらにその場を維持するため、付近の敵の掃討を始める。
 同じくランディングゾーン確保を続ける九音(gb3565)が、対空砲火を無力化するため、銃座に近づいたのはその時だった。
 CIWSと呼ばれるそれは、目標を自動で追尾し、20mm弾を発射する。システムは停止している筈であり、稼動そのものはバグアの技術によって代替されているのだろうが、基本的な構造は変わっていないようで、無人である。
 無人のまま、上空を飛び交う機体を追尾してくるくると動くそれに近づく九音は、砲塔の陰に潜む人形キメラに気づかなかった。
 九音に向けられた銃口に気付いた風華が駆け寄る。
「後ろ!」
 叫び声に九音が振り向いた時、キメラの手から放たれた銃弾は彼女を捉えていた。
 咄嗟に飛び退くが、銃弾は九音の肩を穿つ。が、九音に当たったのは最初の数発だけで、残りは彼女と入れ替わりに射線に飛び込んだ風華が受け止めていた。
 風華は衝撃に怯む様子も見せず、真っ直ぐにキメラの頭部を狙い、両手から斉射を加える。
 ぷつりと、糸が切れたように動かなくなるキメラを見て、風華は銃を下ろす。
「大丈夫?」
「大丈夫だから、そのまま続けて」
 背後からの九音の声に答える。九音はメンテナンス用のハッチを幾つか開くと、被弾した肩を庇い、逆の手で銃を握る手首を押さえるようにして、ハッチ内部に撃ち込む。
 九音の手によって、対空砲が沈黙したのを見届けると、風華はまた背を向けた。
 大丈夫とは答えたが、とてもそんな状態ではない。悟られないように背を向けたまま、風華はランディングゾーンへゆっくり歩き出す。

 元々対空能力がそれほど高くないこの艦は、既に対空砲の半数が沈黙し、時折飛んでくる主砲、あるいは副砲の大口径の砲弾は、空を飛び交うKVに当たる筈も無く、その主砲ですら、艦内に突入したチームの手により、半数近くが機能しなくなっている。
 愛原 菜緒(ga2853)は、後続のヘリの進路を確保するため、まだ稼動している対空砲に的を絞り、攻撃を繰り返していた。
 トレーサーの光から逃げるように機首を落とし、海面すれすれまで降下する。
 対空砲火は途切れず、愛原の機体を追っていて、彼女は機首を引き起こすと、そのままロールさせて戦艦を正面に捉えた。
「いっけー!」
 スロットルを開け、急速に戦艦に近づく。四半世紀前の対空砲は、KVの速度を追えずに、筒状の筐体をくるくるさせる。
 船体の懐まで飛び込んだ所で、上を行く空間 明衣(ga0220)の機体と、僅かな高度差で交錯した。
 甲板上の構造物を擦過する瞬間、シーカーが捉えていた対空砲に向かってトリガーを引く。そのまま戦艦を飛び越し、振り返ると、対空砲が小さな爆煙を上げている。
 交錯した空間の機体は、愛原の機体と同じように、艦橋部を擦過する瞬間にトリガーを引いた。
 狙い通り、レーダーは打撃を受け、三角錐を逆さにしたようなアンテナがひしゃげ、艦橋の上でくるくると回る半円の板は、原型を留めないほど粉々になる。
 空間は機首を引き起こし、急上昇をする。僅かに残った対空砲が彼女の機体に反応し、トレーサーの光が連なりそれを追う。
 左にくるんと機体を捻った後、水平に機首を戻す。そのまま砲火から逃れるため、降下する機動を取る積もりでいたが、アラートが鳴り止んだ。
 機体のロールに合わせて、首を巡らせて戦艦を確認すると、最後の対空砲がその機能を止めていた。

 脱出する人質を乗せた機体が、ティルトローターを上に向け上昇するのに合わせて、高日 菘(ga8906)はスモークを展開させる。
 最後のあがき、とばかりに甲板に現れていたキメラは、視界を失い、離脱するヘリに有効打を与えられないまま、さらに二機、三機と離陸を許す。
 高日は機体を旋回させ、船体と、それから離脱してゆくヘリの間に入る。山崎 健二(ga8182)も、自機の速度をヘリに合わせ、離脱する機体に随伴する。
 もう戦艦に、継戦能力は無い。人質の救出を終えた艦は、後は沈められるだけの、ただの塊となった。

 艦内にアキラは居ない。
 KVに対しては非力な、この大きいだけの戦艦は、彼らに損害を与える事は出来なかったが、それは作戦の主眼ではない。
 サンタカタリナ湾近海から戦力を引き離し、この張りぼてに注力させた時点で、戦況はおおよそアキラの目論見通りに推移している。

●シモンとドリス
 あの狡猾な男の目論見通りに、縦の厚さを失った海上は、海軍戦力を中心に被害を被っていた。巡洋艦、駆逐艦、イージス艦に対潜哨戒機、対潜ヘリ、潜水艦と、およそ考え付く海上戦力に、無事な部隊は残っていない。唯一、空母が健在なのが救いであった。
 シモンの駆るステアーはそこに現れ、索敵ラインの再構築と戦力の再編に動く艦隊に追い討ちを掛けた。
 艦隊は再び打撃を受け、KVが対応に追われる。

 新たな駆逐艦に狙いを定め、海面ぎりぎりを飛ぶステアーと平行するように、霞澄 セラフィエル(ga0495)は自機を飛ばした。HUDを瞬きもせず見つめ、ステアーが攻撃をする瞬間を狙う。
 ステアーが攻撃のため、少し機首を上げる瞬間を彼女は見逃さず、トリガーを引いた。
 ロックオンを示すアラートが消え、ステアーの姿を探す。
 シモンは機体を右に小さくロールさせていた。その機体の動きに違和感を覚える。攻撃の効果があったのか。
 一瞬考えて、その一瞬がシモンに時間を与えた。確かにステアーはダメージを負っていたが、次の瞬間、霞澄は裏を取られる。
 アラートが鳴り、機体に衝撃が走る。抗う間も無く、彼女はベイルアウト以外の選択肢を無くした。
 シモンもまた、追い縋るハルカ(ga0640)の機体を引き付けたまま、ステアーを戦域の外へと向けた。彼のモチベーションは前回姿を見せた時と変わらず、ここで消耗する義理を感じていない。

 ドリスは、シモンとは正反対の「やる気」を見せた。空中と海中を自在に行き来し、深追いとも思える程、KVを追い立てる。
 沈んでゆく船のノイズに隠れ、KVが近づくのを待つ。ミヅキ・ミナセ(ga8502)はキャビテーションを避けるようにして、ドリス機の姿を探し出そうとそこに近づいた。
「威勢がいいのは口だけ?」
 祈良(gb1597)とミヅキは、ドリスを外部回線で散々挑発した。見え透いた挑発に乗るほど間抜けでもないが、優勢ムードに水を差されたようで、寝覚めが悪い。
 ミヅキ機を充分に引き付けた後、深度をミヅキ機よりやや浅く取り、キャビテーションの中から飛び出す。
 真上に現れたドリス機に、ミヅキは機体を潜行させ、距離を取る。後続の祈良が素早く反応し、牽制を加える。
 ドリス機はミヅキとは逆、祈良の方へ向かう。挟撃しようと、ミヅキが回頭を始めた時、直上からドリス機とは別のノイズが聞こえた。ロックオンアラートが、回避しろとがなり始める。

 水中のドリス機を追っていたツァディ・クラモト(ga6649)は、水中で幾つかの爆発が起こったのを聞いた後、ドリス機の進路を塞ぐように、機体を飛ばした。
「そちらへ追い込む」
 短く通信を入れ、爆雷を投下する。彼の動きに呼応して、戌亥 ユキ(ga3014)がドリス機の背後を塞ぎ、爆雷を落とす。
「小賢しい真似を!」
 転針しようとしていたドリスは、舌打ちをしつつ機体を捻る。右舷からも、爆雷の着水音。離脱できる方向は、左舷しか残されていない。
 再び機体を捻る。幾つかの爆雷の落下コース上を機体が通り、衝撃で左右に揺れた。
「もう一度!」
 鯨井昼寝(ga0488)の合図で、再びKVは高度を落とし、爆雷の投下コースに入る。ドリスは離脱のため機体を立て直している。
 空中より水中の方が身動きを取り辛いという単純な話で、ドリスが機体を水平に戻す前に、KVは爆雷の投下地点に差し掛かった。
「今!」
 直上に爆雷の着水音を聞いたドリスは、間に合わないと悟った。
 少し突出し過ぎた感もある。だいぶ打撃も与えたし、撤退するにはそろそろ潮時かも知れない、無事ならば。
 直撃弾の衝撃に耐えながら、ドリスは退路を探るべく、頭を捻った。

●弐番艦
 元来空母は、自身の艦載機に対するサポート分しか積載能力、キャパシティを有していない。
 それが海域全体をサポートすべく物資と艦載機を載せて、戻ってくる機体全てをサポートしていたのだが、空母自身も戦域に巻き込まれるに至り、余力が無くなった。
 もともと索敵ライン、前線より後ろを航行している筈であったので、完全に想定外の事態となる。
 これもアキラという男が、人質を使い各所から戦力を引き抜いたためであった。
 シモンはこの海域に執着を見せず撤退し、ドリスは単独で突出したためあっさり海底で擱坐し、敵精鋭機の脅威は去ったとは言え、それで戦況が変わる訳ではなかった。
 サンクレメンテの小さな飛行場は、戦闘行動中の空母に着艦できなかった機体が殺到した事により、あっさりキャパシティを超えた。
 小さな飛行場の小さな仮設基地が、離着陸機を捌けず、補給も追いつかず、悲鳴を上げた頃、ユニヴァースナイト弐番艦が到着する。
<担当 : あいざわ司 >


<監修 : 音 無 奏 >
<文責 : クラウドゲームス株式会社>

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