シェイド討伐戦
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7月13日の報告

<報告書は前編:後編から成る>

ロサンゼルス防衛  海上防衛  アーバイン橋頭堡  サンタカタリナ島制圧


【ロサンゼルス防衛‐アルファ作戦】

●ソルトン湖遭遇戦
 作戦開始が発令され、ユニヴァースナイト弐番艦がロサンゼルス国際空港より出撃した。
 これ以後、ロサンゼルス防衛は正規軍ではなく、傭兵が主体となる。
 高まる彼らの緊張感とは裏腹に、都市一帯は奇妙な平穏に包まれていた。
「‥‥嵐の前の静けさ、か?」
 南雲 莞爾(ga4272)が静かな空を仰いで呟く。
『天衝各機、主賓が来るまでは上空警戒だ。四神は西、爪牙は南、遊撃は本隊と共に東だ。散れ!』
 【天衝】総長の漸 王零(ga2930)の号令一下、四十を越す機体が綺麗な編隊を組んで散開した。
『各機へ。この作戦は連携がカギになります。警戒中も連絡を絶やさぬよう‥‥』
 終夜・無月(ga3084)は、彼の率いる【月狼】の仲間へとそう通信を送る。
 この小隊も規模は大きい。
『ひゅー、頼もしいですなぁ』
『ホントホント、俺らもあやかりたいもんです』
 それらの様子を伺いながら、軽口を叩き合うのは【アークバード】の翠の肥満(ga2348)と雑賀 幸輔(ga6073)。
 そういう彼らとて、規模で見れば十分に大きな小隊である。
『そこまで。アークバード各機、一機たりとてロスに入れるな。状況を開始する』
 アルヴァイム(ga5051)の通信に軽い笑いで返しながら、二人は互いの僚機とロッテを組みなおす。
 もしかしたら、このまま何事も無く終わるのではないか。
 ふと、そんなことを考えてしまう程に、都市の上空は穏やかだった。

『AF01より各機へ。異常はありませんか?』
 神代千早(gb5872)が【スタートライン空戦隊】の面々へ声をかける。
 彼女らをはじめ、いくつかの小隊は市街から離れ、東部山岳地帯方面への偵察を敢行していた。
 と、御崎 綾斗(gb5424)から異変を告げる報告が入った。
『こちらAF12、レーダーに反応あり。これは‥‥HW? 方角は南東、ソルトン湖方面です』
『了解。これより、AF各機はソルトン湖方面へ移動します。INへも流しておいてください』
 綾斗のウーフーによって捉えられた反応は、それ程多くはない。
 数で言えば、十に満たないほどだろう。
(「斥候? それとも、陽動でしょうか?」)
 同様に東部へと偵察に出ていた【スターゲイト隊】のクレア・アディ(gb6122)は、情報網からの報告を受けてふと考える。
 いずれにせよ、このまま見過ごす手もあるまい。
 INを通じて広まった情報から付近の能力者たちが集結し、ソルトン湖に現れたHWは間も無く駆逐された。
 だが、これが先遣隊だとすれば、後続に本隊が控えているはずだ。
 もしもそれに備えが無かった場合、ロサンゼルスは柔らかい脇腹を突かれることになっただろう。
「日が落ちる前に片付いたのはラッキーだ。‥‥バグアも、今日一杯は様子を見るだろう」
 夕日で赤く染まるコックピットの中で、紫藤 文(ga9763)が呟く。
 彼の所属する【八咫烏】をはじめ、いくつかの小隊と無所属の能力者を中心に、急造ながらも東部方面の防衛体制が整えられることとなった。
 防衛戦初日はこれ以外に目立った交戦も無く、不可思議な、捉えようによっては不気味な静寂のままに暮れていく。

●サンベルナディーノ市街戦
 二日目。
 一転して、ロサンゼルスは慌しい時間を迎えていた。
 南方、つまりは中米より飛来したHW部隊がオンタリオ国際空港方面へ進軍を開始したのだ。
 その内訳は、爆撃仕様に偏っている。
『狙いは空港かしら? アウトクロック各機、初陣のお相手にしては上出来のが来たわよん』
 Stoker(gb6211)が、彼女の率いる【アウトクロック小隊】の仲間と共に迎撃を開始する。
 ONTを拠点とする【月狼 戦爪】もまたスクランブルをかけた。
『ベンヌ1よりベンヌ3、アーバインは無事なのか?』
『まだまだ平気だってさ! 余計なことより、目の前の敵をぶっ倒そうぜ!』
『ふ、正論だ。聞いたな? これより俺たちは敵爆撃機の迎撃に当たる。ベンヌ各機、続け!』
 HW部隊の西、つまりはロサンゼルス方面から鹿島 綾(gb4549)たち【空戦機動研究班ベンヌ】をはじめ、続々と援軍が集い始める。
 側面から突入されたHWは、それでも執拗に空港を狙うが、LAXからONT上空に展開した能力者たちを掻い潜るには数がやや足りなかったようだ。
 襲来から凡そ二時間ほどで、その数を大きく減らしたHW部隊は東へと遁走を始める。
 州間高速道路10号線を東進するワームの群れに、オルランド・イブラヒム(ga2438)は一つの懸念を抱いた。
 彼は今作戦より導入された暗号通信士の効率化に従事していたのだが、そのために思い当たることがあったのだ。
『こちらWIZARD01。恐らく敵の狙いは、昨日のソルトン湖に現れたバグアの本隊との合流だ』
『ありそう‥‥。もしかしたら、まだ姿を見せない敵精鋭機が近付いているのかも』
 応じたのは、【若葉分隊【碧】】の夕風悠(ga3948)。
 二日目も太陽が中天を過ぎた中、ロサンゼルスには未だにシェイドはおろかステアーの姿も無い。
『合流した爆撃HWが、こっちが敵エースに忙殺されてる間に再度爆撃‥‥か』
 嫌な手だ、と天(ga9852)が首を振る。
『昨日から、ソルトン湖方面に部隊が詰めててラッキーだな。挟み撃ちができる』
 ヒューイ・焔(ga8434)の言葉に、天は頷いた。
 同様の思いは、多くの能力者にも共有されていた。要するに、残った爆撃HWを片付けるのは楽に終わりそうだ、という予想である。
 だが、それが四名もの被撃墜者を出す激戦にまで発展しようとは、この時点では誰にも思い及ばなかった。



『敵機、サンベルナディーノに接近。東部より迎撃に出た部隊と交戦に入りました。オンタリオからの追撃部隊も間も無く‥‥待ってください、南から、いえ、北東からも新たに接近する機影あり。どちらも小数ですが、高速でサンベルナディーノに向かっています』
『何?』
 桜神羅 乃衣(ga0328)の報告に、王零は問い返した。
 南は分かる。中米のバグア軍からの援軍だろう。では、北東は?
『ロスの北‥‥ラスベガス! 奴か!』
 煉条トヲイ(ga0236)が思わずといったように声を上げる。
 トリプル・イーグルのアルゲディ。予想はしていたが、まさか本当に現れるとは、といったところだろうか。
 ともあれ、一方がエースならば、もう一方もエースであると考えるべきだ。
 もしもそれがシェイドだったなら、戦線が西から崩壊しかねない。
 【天衝】や【月狼】をはじめとする敵精鋭機対応部隊が西へ向かうことを決めるまでに、それ程時間は掛からなかった。

 サンベルナディーノ上空。
 東西からの挟撃によって、オンタリオから逃走したHW部隊は壊滅するかに見えた。
 それを、南北からの光条が阻止する。
『ええい、もう来たのか! あと少しのところで!』
 悔しげな通信を嘲笑うかのように、市街上空へ計十機のHWが突入してきた。
 その数に、一瞬だけ能力者たちは疑問を抱くが、それはすぐに氷解した。新手のHWには本星型が混じっていたことと、落としきれなかった残存HWの存在があったからだ。
 援軍とエースの指揮によって、逃げ惑っていた敵機が息を吹き返したとしても不思議ではない。
 状況は膠着したかに見えたが、敵援軍の到着にやや遅れて、ロス上空を発った部隊が合流する。
 再び、能力者たちが優位に立った。
『‥‥如何なエースとて、この数を相手に勝ち目はありません』
 無月の声がオープン回線で響く。
 間違いなく、敵はエースだ。その認識はあった。
 だが、その機体はシェイドやステアー、FRですらない。加えて、圧倒的とも言っていい数的有利。
 それらが、微かな隙を能力者たちの心に作った。――ほんの僅か、反応が遅れる。
『くくく‥‥っかは! あっはははははは!』
 唐突に放たれた哄笑と同時に、HWの群れは急降下を開始。サンベルナディーノの市街地、その建築物の只中へと飛び込んでいった。
『しまった‥‥!』
『大した余裕だ! ひはははは! これは逃げの一手しか無いなァ?』
 HWとは、バグアの誇る万能兵器だ。
 その主戦場はゴーレムの存在もあって空と考えられがちだが、本来は陸上戦闘も十分にこなすことができる。
 KVが求められた所以であるが、HWとKVの決定的差異は、変形の必要の有無だろう。
『ええい、我輩としたことが〜!』
 【西研】のドクター・ウェスト(ga0241)は歯噛みをした。
 この地上降下が単なるその場凌ぎではなく、実に嫌らしい性格を持つ戦法であると彼は瞬時に見抜いたのだ。
 簡単に言えば、バグアはサンベルナディーノの街それ自体を盾に取った。
『対地攻撃‥‥駄目! 建造物への被害が大きすぎる。地上と空中、戦力を二分するしかないよ!』
『なら、任せて』
 水理 和奏(ga1500)が悲痛な声に、夕凪 沙良(ga3920)が応えた。
 彼女の率いる【フェニックス】は陸戦装備が主体だ。
 更に、【戦術部隊『渡鴉』】や【天衝】と【月狼】の一部など、陸戦も想定した装備の部隊が順次降下していく。
『へぇ、思ったよりも対応が早いね』
『くく‥‥そうでなくては、困るのですよ』
『ふーん。まぁ、キミの考えはどうだっていいさ』
 異形の人物が、楽しげなアルゲディへ興味無さそうに相槌をうちながら、本星型HWを操っていた。
 ハルペリュン。ロシアでの作戦以来、前面に現れるようになった異星人型バグア。
『あと二時間ぼくらが粘れば、シェイクにも言い訳できるよ』
『努力しましょう‥‥』
 喜悦に塗れた声に呆れたような吐息を漏らしながら、ハルペリュンは通信回線を切る。
 目の前に、近接兵装を構えたKV数機が迫っていた。



 昨日と一変したのは前線だけではない。
 後方もまた、忙しなく動き出していた。
『でかい空港だからって、考えなしにやってるとすぐに滑走路が埋まっちまうぞ!』
 LAXにネイサン・ブレイク(gb1378)の声が響く。
 正午辺りから、弾薬の補給に訪れる機が増加し始めた。
 本格的な戦闘が始まった証拠だ。
 それでなくとも、定期的な燃料補給も入ってきている。こうした補給作業の効率化は必須事項だろう。
 実際に、かなりの能力者がそういった点を補うべく、アイデアを持ち寄ってきていた。
 小隊ごとの武装や弾薬の事前リストアップなどは、その最たる例である。
 今後戦闘が激化すれば、補給だけでなく整備や修理も必要となってくるはずだ。
「つーわけだ。前線がピンピンしてても、俺らがへばってちゃ後が続かないだろ? メリハリつけよーってことさ」
 銀華弓煎(gb5700)が軽く笑いながら、ホワイトボードに簡単なローテーション表を書いていく。
 ロサンゼルス方面の後方支援要員はかなりの数だが、それでもこういった気配りは活きるはずだ。
 そして、それらはサンベルナディーノ市街戦の開始に伴う補給要請の増大にも、無理なく応えられる体制を整えたのである。



 いつ果てるともなく、市街戦は続いていた。
 空陸を自在に行き来し、市街に広がったHWに対して、能力者たちは決定打を欠いた。
 それでも、数の有利を生かして一つずつ確実に撃破していき、敵機は目に見えて減っていた。
『‥‥頃合、かな。若葉分隊【碧】各機へ、次に本星型が降下するときがチャンスです』
 市全域に散らばっていたHWが徐々に駆逐され、その移動範囲が一定の領域に留まり始めたことを見て、悠が仲間に声をかける。
『――よし、今! 【断】発動!』
 彼女、いや彼女たちが狙ったのは、敵エースが孤立するその一瞬だ。
 この瞬間、地上には本星型HW、つまりはハルペリュンしか存在していない。
 そして、【断】の狙いはエース本人ではなく、後続。
『あるだけ持ってけ! 『レギオンバスター』だ!』
 ソード(ga6675)が咆哮し、応じるようにシュテルンからK−02が驟雨の如く撃ち出される。
 同様に、他の機体からもミサイルやロケットが空中のHWに向けて降り注いだ。
『この機を逃してはならん〜! 我輩たちもGSAだ!』
 追随するように、ウェストも【西研】の面々に作戦発動を告げる。
 待ちわびたように、G放電装置の激しい放電が市街上空を覆った。
 爆発と放電で数機のHWが火を吹いて四散し、残った機体も降下のタイミングを失して上昇に転じる。
 趨勢は一気に能力者側へと傾いた。
『やるねぇ。ヨリシロにしたら面白そうだ』
『御免被る!』
 淡々と呟いたハルペリュンに、天狼 スザク(ga9707)が迫った。
 彼の駆るフェニックスの真ツインブレイドが、降下した直後の隙を突いて本星型HWの機体を捉える。
 その切っ先が装甲を抉るかに見えたが、突如として輝きを増したFFがそれを許さない。
『くそっ、まだ足りないか!』
『そろそろ嫌かな?』
 少しだけ苛立たしげな声色で、ハルペリュンは至近のスザク機にフェザー砲を連射した。
 表面装甲が熱で歪み、機体各所が白煙を上げて爆発し、フェニックスは沈黙する。
『スザク!』
『‥‥二時間だ。時間稼ぎはこれで終わり』
『では、後は好きにしましょうか』
 上空の放電と爆発が治まり、その中からアルゲディのHWが姿を現した。
 無傷とは行かないまでも、あれだけの攻撃を受けたにしては損傷は深くないらしい。
『チッ、厄介な‥‥』
『そう、お前は厄介だ』
 吐き捨てるように呟いたオルランドめがけて、アルゲディのHWが一気に加速する。
 マッハ6を越える速度では、多少の距離など無きに等しい。
 彼の行動は必然的に自機の通信量を増大させる。それを管制と見られれば、狙われても不思議はない。
 戦況を見極めるために、少し近付きすぎた。オルランドの脳裏をその悔恨がよぎる。
 HWからせり出した鈍色の刃が、ウーフーの主翼とエンジンに大きな裂け目を入れ、やや遅れて爆発が機体を包んだ。
『奴ら、電子戦機を狙うつもりね』
 瑞浪 時雨(ga5130)の言葉通り、ハルペリュンが彼女らの隊の電子戦機、小隊長の千早に狙いを定めた。
『させないっ!』
 その進路に御崎緋音(ga8646)が割り込み、スラスターライフルで弾幕を張る。
 本星型HWはその弾雨を突っ切ると、返礼とばかりにプロトン砲を放った。
 空間を白く埋め尽くさんばかりの光条に、流石の雷電も悲鳴を上げ、遂にはその特徴である四連バーニアから火を吹いた。
 しかし、彼女の奮闘は無駄ではない。
 その間に【月狼】が展開し、煙幕と幻霧を利用しためくらましを発動したのだ。
 移動する目標に対する作戦としては効果は薄いが、防御対象を保護する目的ならば十二分に効果的である。
 その霧を割って上昇したハルペリュンに、【月狼】【天衝】各隊の攻撃が殺到する。
 辛うじてそれを捌いて抜けたところに待ち受けたのは、【シャスール・ド・リス】。
『皆のチャンス生かして倒すっ! 超わかな粒子砲!』
 和奏のアンジェリカがSESエンハンサーを起動し、高出力のM-12帯電粒子加速砲を叩き込む。
『ここまでやるとは、本当に予想外だ。この機体も燃費が悪いし、キミで打ち止めだ』
『そんな!?』
 帯電粒子の爆発を抜け、表面を煤で汚したHWが現れる。
 驚愕に見開かれた和奏の目に、夕日を反射する鋭い翼が映った。
『アルゲディぃぃ!』
『どうしたトヲイ? 機体が震えているぞ?』
 一方、こちらも転機を迎えていた。
 トヲイの雷電とアルゲディのHW。押されているのは、雷電だ。
『そうだ‥‥お前は獲物を弄る。それが、命取りだ!』
 付かず離れずの位置から雷電を削っていたHWは、いつの間にかトヲイの意図する箇所へと引き寄せられていた。
 そこは、【天衝】による十字砲火ポイント。
『今だ、各機撃て!』
 王零の指示が飛び、火線が夕闇の空に十字を描き出す。
 その交差点で、いくつもの爆発が起こった。そこを強引に抜け出たHWだが、既にボロボロだ。
『くひはははは! 強いな! 楽しくなってきた!』
 それでも狂ったように笑い続けるアルゲディは、そのまま加速して戦域を離脱していった。
「周囲に、敵影無し‥‥」
 ぐったりとシートに身を預けながら、悠がそう呟いた。

●ロサンゼルス防衛戦
 三日目。
 昨日の思いがけぬ激戦で損耗した機体の整備と補給、怪我人の治療も合わせて、空港は朝からフル稼働状態だった。
 そんな状況でも、バグアの襲来は続く。
『畜生、敵さん朝から頑張っちゃってまぁ!』
『愚痴るな。昨日の敵の構成を考えれば、今日がメインディッシュだ。陸戦部隊の支援、怠るな』
『あいさー! さぁて、いっちょやってやるんだよー!』
 比較的消耗の少ない【アークバード】の面々は、スクランブルの直後に空港を飛び立っていく。
 他の空港からも次々とKVが発進していった。向かう先は、初日に遭遇戦が起こったソルトン湖方面。
 そちらに位置する【スタートライン】、【八咫烏】などから、州間高速道路10号線沿いを西進してくる敵影の報告が入ったからだ。
 会敵予想地点は、ホワイトウォーター以西。
 だが、ここならばサンベルナディーノ山脈からなる地形を能力者たちは利用できるため、防衛に関しては極めて有利となる。
 稜線と平原にKVを配備し、更には上空をカバーすれば、例え倍する敵を相手取ろうとも不覚は取らないだろう。
 事実として、ゴーレムや新型の恐竜型ワーム・REX−CANONを中核とするバグア部隊を、ロス東部に展開した能力者たちはよく防いだ。
 比較的脚の速い戦力を中心に揃えられていたらしく、もしもこちらへの備えが薄ければ、側面から市街近辺にまで浸透されていた可能性が高い。
 その意味では、初日の偵察、及び戦闘の意義は深かったといえるだろう。
『それにしても‥‥』
 ふと、月森 花(ga0053)が呟いた。
『どうしました?』
 如月・由梨(ga1805)の問いに、花は少しだけ考えてから答える。
『バグアの攻め方、少し温いかなって』
『‥‥それは、私も感じていました。もう一山、ありそうですね』

 果たして、その予感は的中する。
 最初に気付いたのは、【IMP】の緋霧 絢(ga3668)だ。
 彼女は敵のジャミングを利用することで、その位置を特定することを試みていた。
 ジャミングが強くなった地域があれば、そこに敵部隊が集中している兆候である、と見るわけである。
『‥‥コロナに敵! 州間高速道路15号線を北上中!』
 オンタリオからリバーサイドにかけてを哨戒中だった【IMP】は、偶然にそのジャミングを発見した。
 絢からの緊急連絡を受け、ONTとロスに展開していた部隊が南方へと急行する。
 また、圧力がそれ程でもない東部からもいくつかの部隊が西へ向かった。
『敵の狙いはオンタリオじゃないのか? コロナから西へ‥‥』
 【Titania】、砕牙 九郎(ga7366) が南下しつつそう疑問を述べる。
『狙いは恐らくアナハイムだ。15号線の敵は、ロスと一緒にアーバインも伺う気だろう』
 答えたのはレティ・クリムゾン(ga8679)。
 彼女の読み通り、敵の狙いはそれであった。付言すれば、この部隊はアーバイン橋頭堡攻撃が主目的である。
 それはさて置くとしても、アナハイムにまで突破されれば大きく不利になることに違いは無い。
『コロナとアナハイム間には、狭隘地があるな。利用しよう』
『後は敵の数次第、か』
 九郎のその心配は、良い意味で裏切られた。
 能力者たちの防衛線到着とほぼ同じくして現れたバグア部隊は、東部と同様、数はそこまで多くは無かったのだ。
 構成が似通っている面も見れば、やはり速度を重視した編成であったらしい。
 東部に気を取られていれば、今頃は大慌てでアナハイムに向かうハメになっていただろう。
 ロス・ONTからの部隊が防衛戦を開始して程無く、東部から抽出された部隊が合流する。
 やや劣勢だった航空戦もこれで盛り返し、アナハイム防衛線は均衡を取り戻した。
『これで全部‥‥なんてことは無いんだよな?』
『ホーク01よりホーク02へ。勿論、んなこたー無い! ‥‥と、僕は思いますヨ?』
 僚機の冗談染みた物言いに、アンドレアス・ラーセン(ga6523)はやれやれとため息をつく。
『こちらホーク06。恐らく、初日同様後続が控えているはずだ。この陸戦部隊を見る限り、後続は』
『ビッグフィッシュ、だねぇー!』
 獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)の言葉に、アルヴァイムは頷く。
『付近のHWは粗方落とした。ここで後顧の憂いを断つ。各機、続け』
 【アークバード】の各機は機首を南東へと向けると、スラスターを吹かしてその場を離脱していく。
 その後を【Titania】をはじめ、いくつかの機影が追随していった。

『見つけた!』
 篠原 悠(ga1826)の通信が飛ぶ。
 州間高速道路15号線と215号線の合流点付近。ビッグフィッシュ、鯨はそこにいた。
 その後方に目を転じれば、遠方でタートルワームや重装甲キメラ、そしてEQがゆっくりと歩を進めているのが見えた。
 速度を考えれば早晩の戦線到達は無いだろうが、遠からずあれらを相手取る時は来るのだろう。
 今は、目の前の鯨を何とかするべきだ。
 能力者たちの登場に合わせるように、次々と護衛のHWが現れる。
『時間が経つと不味い。速攻で決めるってばよ!』
 九郎の声に合わせて、【Titania】が一気に間合いを詰める。
 K−02や螺旋弾頭ミサイルにドゥオーモといった弾頭の嵐が、護衛のHWの層を食い破った。
『よし、ここだ!』
 こじ開けられた鯨への道へ、機を伺っていたトロム・ボニスティア(gb5078)がブーストで突っ込んでいく。
『いけない! 迂闊だ、下がれ!』
 彼のS−01がありったけの弾頭を叩き込む中、レティが慌ててカバーに入ろうとする。
 だが、僅かに遅かった。
 蜜に群がる蜂のようにHWは突出したS−01へ攻撃を加え、あっと言う間にトロムの機体は制御を失った。
『くっ、このHWの動き‥‥鯨に指揮官が乗っているのか?』
 呻くように言ったリン=アスターナ(ga4615)の言葉は、正しかった。
 このビッグフィッシュでは、かつてジョージ・バークレーの副官であったシェイク・カーンが指揮を執っていたのだ。
 しかし、今の能力者たちにそれを知る術は無い。
 再びミサイルでアプローチを仕掛けた【Titania】だが、同じ手が通じる程敵も甘くないらしい。
『ホーク01よりホーク各機、楽しいHWデートのお時間ですっ! 愛しのオリム大将の守りあれ――』
 翠の肥満の号令で、【アークバード】のホーク分隊が【Titania】に続いてHWに攻撃を仕掛ける。
 中でもホーク3、幸輔のシュテルンは敵陣深くへ切り込み、鯨の防空網へ大きくダメージを与えた。が、その代償も大きい。
 お返しとばかりに群がってきたHWの集中砲火で、エンジンに深刻な被害を負ってしまったのだ。
『アークバードの頑張りを無駄にするな! 私たちも行くぞ!』
 レティら【Titania】が三度攻撃を敢行し、彼女を庇った九郎が主翼を破損するなど大きな被害は受けたものの、遂に鯨の体躯を複数のフレア弾が捉えた。
 炸裂する光の奔流に、巨大な魚が身悶えする。
 撃墜には至らずも後退を始めた鯨に、消耗を強いられた能力者たちも深追いを避けてロスへと帰還した。



「あーあ、また派手にやられてきたねぇ」
 LAXに帰還した機体を見て、【EGG】のルノ・ルイス・ラウール(ga7078)は頭をかいた。
「愚痴るな愚痴るな。ここがあんたの戦場、だろ?」
 隣で笑う遊佐アキラ(ga7091)に、ルノは肩を竦めてみせる。
 損傷の軽い機体から効率よく、とは言え、数が多くなれば文句の一つも言いたくなる。
 言葉にして少しは気が楽になるなら、その方がいいだろう。
「ほれ、また頑張ってきな!」
 補給を終えた機体の装甲をばしんと叩き、アキラは操縦席のパイロットに親指を立ててみせる。
 その機が発進するのと入れ替わるように、また新たな機体が滑走路に進入してきた。
 どうやら、今回は燃料と弾薬の補給だけで済むようだ。
 二人は無言で拳をぶつけ合うと、おもむろにリストに従って補給を開始する。

 ロサンゼルス防衛戦は始まったばかりだ。
 今回のバグアは様子見といった気配が抜けなかったが、シェイドやステアーも今後は投入されてくるだろう。
 予断を許す状況ではないが、ロス上空は未だに平穏を保っている。  

<担当 : 瀬良はひふ>

<監修 : 音 無 奏 >
<文責 : クラウドゲームス株式会社>


【海上防衛‐ブラボー作戦】

 潜水艦の最大の利点は「見つからない」事である。
 地球上の7割の面積を占める広大な海は、その全てを監視下に置くにはあまりにも広く、ステルスなどの技術を駆使せずとも容易に身を隠す事ができた。
 一方でそれを探し出す側は、音を頼りに、途方も無い広さを隅々までカバーし、目を光らせる事になる。

 森里・氷雨(ga8490)は、海軍の対潜哨戒機を先導し、自機をロングビーチから西のラインに飛ばしていた。
 少し距離を置いて、竜王 まり絵(ga5231)の機体も、同じように対潜哨戒機を伴って飛行している。
 哨戒機は一定の間隔で、小さなフラッグの付いたブイを投下しており、ざぶん、ざぶんと規則的に水面を揺らす。
 彼らが投下したソノブイは、即応部隊の防衛ラインとなり、索敵情報を空中のKV、あるいは哨戒機、それから駆逐艦の曳航ソナーなどから拾い上げ、海域に侵入する敵の発見に使用される。
 ブイと同時に機雷も投下され、2人の飛行するこの線は、一つ目の防衛ラインとなる。

 1日目。戦況は大きな動きは無く推移した。時折、小規模な敵機の侵入が確認され、友軍機がスクランブルするが、その程度であり、大規模な戦闘は発生しない。
『敵部隊の撤退を確認。ごくろーさん』
 ミゲル・メンドゥーサ(gb2200)の声がインカム越しに聞こえる。迎撃支援のため接近していたイージス艦群が、転進するのが眼下に見えた。
 ラシード・アル・ラハル(ga6190)は、バイザーを上げて小さく溜息を吐く。
『まだ、気は抜けませんね』
 フライトエレメントを組む宗太郎=シルエイト(ga4261)の声。スクランブルの相手は3機のヘルメットワームであり、これでも今日相手にした敵機の中では、規模の大きいほうである。
「このまま‥‥終わってくれるのがいいんだけど‥‥」
 宗太郎に答えるラシードの言葉は、独り言に近いようにも聞こえる。
 転進し戻ってゆくイージス艦を目で追う。まだ海は静かで、波は穏やかだった。

●侵入
 夜が明けて。
 哨戒とスクランブルは、途切れる事無く終夜行われていた。
 ただ、敵機の侵入は相変わらず散発的で、大規模な攻勢を予期させるような動きは何も無かった。
 ソナーを曳いた駆逐艦が波を掻き分けて進むのを横目に、空母から打ち出されるカタパルトの衝撃に耐えていた夕凪 春花(ga3152)は、機首をやや北西に取り、スロットルを開ける。
 随伴する海軍機に足並みを合わせ、丁度前日にソノブイを敷設した海域を飛行中に、それは現れた。
 最初に見つけたのは、設置されたソノブイの1つだった。ソナーの情報は即座に友軍機に伝達され、付近の空域を飛行中だったシャレム・グラン(ga6298)がその情報を受け取る。
「ビッグフィッシュの編隊を確認。真下ですわよ!」
「迎撃に向かいます。増援を」
 夕凪の機体が機首を廻らせ、ビッグフィッシュに向かう。
 即応部隊の反応は素早かった。百地・悠季(ga8270)と、彼女の部隊が即座に付近の部隊にスクランブル指示を与える。
『総数は5、うち1機が浮上中よ』
「了解!」
 百地の管制により、付近で遊撃として行動していた空閑 ハバキ(ga5172)が向かう。シャレム機のジャミング中和範囲内に入ってすぐ、ビッグフィッシュの直上を飛ぶ夕凪機を見つけた。
 スロットルを開き、夕凪機に近づく。彼女の機に随伴していた海軍機は、頼りなさげに高度を取り、くるくると回避機動を取っている。
『浮上してきます!』
 夕凪の声と同時に、海面を割って姿を現すビッグフィッシュが空閑の視界に入った。
 次々と吐き出されるヘルメットワームは、離陸直後に夕凪に纏わり付く。
 空閑の援護を受け、夕凪は善戦したが、やがて被弾箇所から黒煙を上げ、ベイルアウトを余儀なくされる。

 戦域の様相は、ビッグフィッシュの出現によって一変した。
 即応チームに加えて、哨戒チームからも戦力を引き抜き、侵入するビッグフィッシュの対応に当たる。さらに、今まで通り哨戒活動は続けなくてはならない。何せ、人間の眼では、海中は見通せないのだ。
 篠森 露斗(ga5125)は、データリンクを行う僚機に随伴しつつ、海面に近い高度を飛んでいる。
 浮上したビッグフィッシュから出撃した航空戦力は、幾つかの部隊によってよく抑えられていた。
 対空迎撃を行うイージス艦の横を擦り抜ける。すぐ上を、魔宗・琢磨(ga8475)の機体が、ヘルメットワームを追いかけて飛ぶ。
 イージス艦が対空ミサイルを放つのを見てから、篠森はミサイルの軌道とは逆に機首を向ける。
 ミサイルはヘルメットワームを掠め、その足を止めた。
「いただき!」
 すかさず、魔宗が足の止まったワーム目掛けてライフルを放つ。ワームは直撃を受け、その機体ががくりと揺れた。
 被弾箇所から煙を上げ始めたワームは、思い出したように回避機動を始めるが、その行き先は日向江 真輝(gb6538)に狙われていた。
「これで、1機」
 再び直撃を受けたワームは火球に変わり、破片が海へ降り注いだ。
 撃墜を確認した日向江が、機首を再びビッグフィッシュの方向へ向けた所で、今度は彼が直撃弾を受ける。
「くっ!」
 激しい衝撃の後、機体はストールし、真下を向いて錐揉みを始める。
 スロットルを開き、スティックを一杯まで引く。
 海面すれすれまで落ちた所で、機首が引き起こされ、水平に戻る。
『大丈夫か?』
 日向江を撃ったキメラは、藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)によって撃墜されていた。立ち直った日向江と対照的に、海面に落ちるキメラの姿が見える。
「済まない。助かった」
 助かったが‥‥、と日向江はコントロールパネルに目を走らせる。
 ダメージは思ったより大きく、このまま空港まで戻れれば幸せだ、と思った。

●ステアー
 トマークトゥス(gb3699)のIRSTに、それは引っ掛かった。
 須磨井 礼二(gb2034)が反応のあった空域に向かい、やや速度を落としてゆっくりと飛ぶ。
 IRSTの情報と、自機のレーダー情報を照合し、海面に目を凝らす。
 暫くして、水面が返す太陽光の反射の中に、波のそれとは違う反射を見つけると、須磨井はスロットルを開き、急速に距離を縮める。
 想定していた通りに、カメラを作動させ、ペイント弾の装填されたトリガーに指を掛けた。
 海面ぎりぎりを飛ぶそれは、レーダー派の照射を交わすようにして、速度を上げる。
 相対距離が充分に近づくまで引き付けてから、須磨井はトリガーを引いた。ペイント弾がその機体を染める。
「敵、新鋭機を発見。画像と上陸予測地点を送ります!」
 須磨井は素早く友軍に情報を送る。ところが敵も素早く反応していた。
「もう見つかったか。厄介な事だ」
 シモンは呟いて、機首を須磨井に向けた。見つからなければ素通りするくらいの積もりでいたが、こうなっては話は別である。
 丁度データ送信を始めた直後に、須磨井の機体はシモンに捕らえられた。文字通り捕らえられて、たった1機であるのに、飽和攻撃でも受けたかのような火力で、須磨井は戦闘能力も飛行能力も奪われた。
 落ちるコックピットで、黄色と黒の縞に塗装されたレバーを掴みながら考えた。
 データ転送中でなければ、もう少しやれたかも知れない。スモークを焚く間も無かった。
 でも、それよりは、戦闘能力が奪われたのが、データを送った後で良かった。

 霞澄 セラフィエル(ga0495)が、シモンの背後を取ろうと大きく旋回する。
 彼女の動きに合わせて、ハルカ(ga0640)も、少し小さい輪を作るように飛ぶ。
 シモンは機体を急激に逆に捻り、彼女らの動きから避けるように飛んだ。
「ちょこまかと!」
 霞澄も機体の向きを変え、シモンの進むであろう方向にレーザーで牽制をする。
「ミサイルを喰らえ!」
 今度は、シモンが避けるであろう方向に、ハルカがミサイルを放つ。
 海面すれすれを飛んでいたシモンは、ハルカの放つミサイルとは逆方向に機体を捻ってみせ、そのまま付近を航行していた駆逐艦に向かった。
「ちょこまかと厄介なのはそっちだろう?」
 ステアーから光の束が2つ、駆逐艦に伸びた。1つは駆逐艦が曳いていたソナーを消して見せ、もう1つは艦尾にあるヘリパッドに直撃した。
「こちらの攻撃を無視してますね」
 霞澄が呟く。
 シモンの正面から足止めに向かった数機は撃墜された。それから、今のように友軍の索敵機なども落とされている。
 ところが、彼女らのように、シモンを追いかける機体はまるで相手にされていない。
「舐めてもらっちゃ困るのよ!」
 執拗にシモンの裏を取ろうとするが、その度に交わされる。
 また1機、すれ違いざまに対潜哨戒機が撃墜された。
「‥‥索敵能力を奪おうとしている?」
 エレメントの後方で随伴していたアリオノーラ・天野(ga5128)が呟く。
 彼女の指摘に、何か気づいたらしく、部隊は動きを変える。
 シモンは別の駆逐艦に向け、真っ直ぐ飛んでいる。ハルカは僚機と左へ大きく回りこみ、霞澄は真っ直ぐ飛び、挟み込むように動き始めた。
「ここで生死を掛ける程の義理は無いが」
 4機の動きを見つつ、シモンはまず駆逐艦に向けて一斉射を放つ。直撃弾は右舷に穴を穿ち、艦は右に大きく傾いた。
 左から回り込んだハルカらとは逆の方向に向けて、シモンは機体を起こす。そのまま180度向きを変えると、丁度真っ直ぐより右寄りに展開する霞澄らの2機と正面から相対する。
 進路を塞ぐため、御門 翠(ga4406)が放ったミサイルと交差する軌道を取って霞澄が接近すると、シモンはまた彼女を無視するように、逆方向へと機体を向けた。
 丁度シモンの正面には、ミサイルを放って離脱する御門が見える。躊躇わず、シモンはトリガーを引く。
 無防備に裏を晒した御門機は、エンジンノズルに直撃を喰らい、コントロールを失い着水した。

●海中
 モスグリーンの海は広く、その全てを掌握するのに、人間という生き物は致命的に向いていない。
 一度発見したビッグフィッシュの群れを見逃す事は、致命的な傷を作る事に他ならず、空海の索敵能力は、一度視界に入れた魚群を見逃さない事に費やされた。
 幸いにして敵の数はそれ程多くなく、この戦域だけで、陸海空合わせて300近いKVの数、それも傭兵のものだけで、それだけの数があるし、正規軍の艦船や航空機についても、必要十分な数が配備されているので、まるっきり終わりの見えない消耗戦になる事は無かった。
 それに最初に気づいたのは、エメラルド・イーグル(ga8650)だった。幾つかのソノブイが、反応を失っている。
「敵機の侵入があるかも知れません」
 彼女の情報に反応し、味方部隊が動く。
 先行したのは遠石 一千風(ga3970)と鏑木 硯(ga0280)の機体だった。慎重にソナーに耳を澄ませつつ、モスグリーンの海を行く。
 何機かのワーム、或いはキメラの姿がある。が、これではない。
 捜し求める「本命」を、最初に見つけたのは、空から同海域に向かった戌亥 ユキ(ga3014)だった。
 随伴する海軍機がブイを投下する。投下したブイからの反応に、慎重に聞き耳を立てる。
「いた! 座標を送ります!」
 発見された本星型ヘルメットワームは、即座に深度を上げるべく潜行してゆく。
「見失います!」
「大丈夫! こっちでも捉えた!」
 ゴールドラッシュ(ga3170)が速力を上げて、それを追いかける。すぐ横を、鏑木が追う。
「突出してくる気?」
 水中用に改修された本星型ヘルメットワームを駆るドリスは、海底の隆起した影に入ると、機体の動きを止め、ゴールドラッシュを待った。
「こちらも見失いました」
 エメラルドが叫ぶ。ソナーは隆起に反射し、その向こうのドリス機を捉えられない。
「あの山の奥まで行くわ!」
 山とは隆起を指すのだろう。ゴールドラッシュは、自機を向ける。
「そのまま‥‥いらっしゃい」
 ゴールドラッシュ機が隆起を回り込み、裏に出ようとした時だった。突如、アラートが鳴る。
「9時の方向です!」
 またエメラルドが叫ぶのと同時に、ゴールドラッシュは機体を左に振り向かせた。
 ドリス機から直撃を食らう。衝撃に軽く眩暈を起こしつつも、彼女は自機を前進させる。
「しつこいわね」
 浮上を始めるドリス機が、もう一度ゴールドラッシュに斉射を与えるのと、彼女の振り下ろす剣の切っ先が、ドリス機を貫くのはほぼ同時だった。
 ドリス機はそのまま浮上を続ける。ゴールドラッシュ機は動きを止めた。
「動き出しました!」
 エメラルドの機体から、索敵情報が送られる。遠石の機体から放たれたガウスガンが、ドリス機の下面を掠める。
 ゴールドラッシュのすぐ横に位置していた鏑木機も浮上を始め、ドリス機を追った。
「まだよ。付いて来なさい!」
 ドリスは浮上を続けたまま、鏑木を引き付けるようにゆっくり動く。真下の鏑木機をレティクルに収め、タイミングを計る。
 直上から無数の着水音が聞こえたのはその時だった。
 それらは海面を叩いた後、ゆっくりと沈下してくる。
「上から?!」
 ドリスは予定を早め、真下の鏑木機へ向けてミサイルを放つ。同時に、鏑木もミサイルの斉射を加えていた。
 上と下から、それぞれ浮上する方向と沈下する方向へ、キャビテーションノイズを残して進む。
 丁度中間点で、数発づつのミサイルは擦れ違う。鏑木機は北へ、ドリス機は南に転進し、回避行動を取る。
 擦れ違ったすこし先で、鏑木機の放ったミサイルの時限信管が反応し、盛大にノイズを撒き散らした。
 ドリスの体が衝撃で揺れる。
 鏑木はミサイルの半分を回避し、残り半分が直撃する。金属同士がぶつかる嫌な音と共に、彼女の体は揺さぶられた。

●幕間
 どこかを損傷して戻ってくる機体が急激に増えたのは、射手座のせいか、それともあのバグアの女のせいだろうか。
 柊 香登(ga6982)は、次々に戻ってくるKV、或いは軍の機体の状況を一々チェックし、指示を送っていた。
「これは補給だけ。奥のハンガーは空けて」
 言い置いて、次の機体に近寄る。と、キャノピーが開いて、鯨井昼寝(ga0488)が顔を出した。
「だいぶやられたわ。‥‥すぐ直る? なるべく早く戻りたいの」
 損傷を気にも留めていなさそうな笑顔を見せるが、恐らく修復は無理な事を気づいているのだろう、目が微かに曇っている。
「そうね‥‥」
 ちょっと考えて、柊は鯨井の機体を上から下まで無遠慮に眺める。正直に言って、自走でここまで戻れたのが奇跡に近い。
「やってみよう。少し時間貰えるか?」
「よろしくね」
 コックピットから飛び降りた鯨井が左手を上げる。少し不思議な顔をして、柊も同じように左手を上げた。
 ぱちん、と2本の手が合わされ、鯨井は編んだ髪をひょこひょこ揺らしながら、奥へと消える。
「これは無理じゃないか‥‥?」
 一部始終を見ていた大田川・龍一(ga0260)が、横から口を挟む。
「言っただろ、やるだけやってみるんだ」
 無理かも知れない。けれど、直るかも知れない。ならば、戻れる機体は1機でも多いほうがいい。

 ステアーは実にあっさり引いた。それ程この戦域に執着が無いのか、それとも身を危険に晒してまで奮戦するほどの義理を感じていないのか。
 ただ、あの1機のせいで情報網は再編を迫られた。
 撃墜機の情報を収集していた井上冬樹(gb5526)は、幾つも色の変わった輝点をレーダー上に見て、慌しく僚機へ指示を送っていた。
「救難信号を確認。方位2−1−6、座標情報を送ります」
『座標確認、該当位置へ向かうわ』
 彼女の無線に、誰か反応する。戦域全体で見れば、押されているという事は無いし、終始優勢に戦闘を行っている。
 けれど、あのヘルメットワームが現れてから、いいように荒らされている。全体の戦況を変える程でないのが救いなのだが。

 井上の無線に反応し、当該空域に向かった桐生院・桜花(gb0837)は、捜し求めていた救難信号を波間に見つける。
「確認した。位置情報を送るわ」
 座標を後続のヘリに送り、自機の高度を少し下げて、発信地点を中心に円を描くように飛ぶ。
 上空をくるくる旋回し始めた桐生院の機体を、秋津玲司(gb5395)は、ただ浮いているだけの「愛機だったもの」の上で見上げていた。
 日差しが海面に反射して、ぎらぎらと眩しいのが苛立たしい。
 ヘリのローター音が聞こえ、振り返った。首を巡らせると、落ちた時に打った背中が酷く痛む。
「くそっ」
 思わず悪態が口を吐く。
 苛立ち紛れに、機体だったものの欠片を殴りつけると、実に頼りない音がする。
 ローター音は大きく近づいて来た。
『付近に敵影無し。要救助者の座標は変わらず』
 先行した桐生院から報告が入る。ヘリは海上ぎりぎりを飛んでいた。
「では、そろそろ行きます」
 ヘリのハッチを蹴り、奉丈・遮那(ga0352)が飛び出す。彼の腰に固定されたロープが、するすると伸びてゆく。
 痛みを堪えて、音のする方へ振り向いた秋津が奉丈の姿を確認した頃、ヘリは速度を落とし、ホバリングを始める。
 文字通り、海の藻屑になった愛機をもう一度見て、助かっただけマシか、と秋津は考える事にした。

●上陸
 ドリスのヘルメットワームは、一頻り暴れて水中部隊に被害を与えた後、陽が落ちる前に戦域を離脱した。
 その頃には、姿を見せたビッグフィッシュは悉く駆逐され、再び散発的にスクランブルを繰り返す夜になる。
 そしてまた夜が明けた。

 明け方から、再び沖合いに集結したビッグフィッシュの群れは、深く静かに潜行した。
 陽が昇った頃から、ビッグフィッシュの群れとは別の方向から、また別の一群が、静かに潜行もせず、派手に機雷とソノブイを処理しながら侵入を図る。
 こちらは当然囮である。本命となる部隊がロサンゼルス近郊の海岸に到達するまでの陽動。
 ところが、この本命も、設置されたソノブイを超えて、陸にようやく接近した所で発見された。
 前日にシモンが索敵能力を中心に無力化し、ドリスも海中戦力を中心に打撃を与えたのだが、それでも完全に耳を奪う事は出来なかった。
 奪わせなかった、と云うべきだろうか。
 正規軍が失った戦力を再編し立て直す隙間を、集まった傭兵達はよく埋め、また傭兵ら自身の被害も少なく留め、綻びをよく繕った。
 結果として、敵部隊が沿岸に近づく前の発見に繋がる。
 しかしバグアの本命部隊は、その物量を生かし、一部が警戒網を潜り抜け、沿岸に達した。

 ザン・エフティング(ga5141)は、網を潜り抜けたビッグフィッシュを追っていた。
 殆どの友軍は、網に捉えた敵を包み込むのに手一杯で、残りは沿岸に立って警戒を続けていて、両者の中間に位置するここでビッグフィッシュを追っているのは、彼を含む数機しか無い。
 前を行く馬鹿でかい鯨は、抱えた子供を小出しにして、それが断続的にザンの機体に纏わり付いている。
 出来れば足止めをしたい所ではあるが、如何せん無勢であった。
 また1機、纏わり付くワームを海底に沈め、振り返る。
 ワームに引っ張られ、鯨からは随分離された。おまけに、ダメージアラートが幾つも鳴っている。
 鯨の後部ハッチを粉砕できただけ良しとして、ザンは引き返す事を決めた。

 海岸線に座礁せんばかりの勢いで接近したビッグフィッシュは、無造作に口を広げ、抱え込んだワームやらキメラを、砂浜に向かって吐き出し始めた。
 次々と上陸するそれらは、海岸線に沿って待機していた地上部隊と交戦を始める。
 水際で阻止を続ける友軍の間隙を縫って、抜けてくる敵を小笠原 恋(gb4844)は処理していた。
 目の前に迫るキメラは巨大な首長竜のようで、ヒレのような前脚で器用に薙ぎ払ってくる。
 そのヒレを爪で受け止めると、腕を回してそのまま抱え込む。
「無理はなさらないでください!」
 ティル・エーメスト(gb0476)が叫び、ヒレの付け根に牽制射撃を加える。
 恐竜は頭をティルの方へ向けると、小笠原の機体を振り払い、逆のヒレを彼の機体の真上から振り下ろした。
 咄嗟に、彼のウィングに就いていたアンジュ・アルベール(ga8834)が、ヒレを叩き落す。
 竜はこの一撃でバランスを失い、前のめりに倒れこむ。
 小笠原は、キメラの倒れる先に位置していたが、それを避けようとせず、落ちてくる首を受け止めると、自分の機体と引き換えに、竜に止めを刺した。

「右翼に支援を! ラインをゆっくり下げて」
 井出 一真(ga6977)が味方機に指示を飛ばす。彼が指揮する小隊は、敵を突出させるように、少しづつそのラインを下げてゆく。
「援護射撃いきます!」
 レーザーの光が、望月 美汐(gb6693)の機体から放たれる。前衛機を超え、突出しかける敵に叩き込まれた。
 アースクエイクと呼ばれるそれは、望月の射撃によって一度怯むが、今度は首を揺さぶり、望月の姿を見つけると、さらに前進する。
 今度はフォルテ・レーン(gb7364)の機体から、ガトリングが放たれる。トレーサーの光が絶え間なく、アースクエイクの体に吸い込まれた。
 図体ばかりでかいミミズが、フォルテの射撃を嫌って足を止める隙を見計らって、守原有希(ga8582)が自機を高く上げられた頭の下に滑り込ませる。
「これで、最後です!」
 近づき無防備になった首にディフェンダーが突き立てられ、力を失った頭がどさりと崩れた。

 アキラの駆るマンタワームは、戦場からやや離れた海域で、今朝から戦況の一部始終を見ていた。
 ところが午後になり夕刻に近づくにつれ、この有様である。
 殆どが人間共の網にかかり沖合いで足止めを喰らい、沿岸まで辿り着けた部隊は一部で、そのどちらもが間もなく殲滅されようとしている。
 もう、この戦域での戦闘は終わり。
 彼はそう結論付けて、ワームを反転させた。
 最後まで見届けても、何も収穫は無い。

<担当 : あいざわ司 >


<監修 : 音 無 奏 >
<文責 : クラウドゲームス株式会社>

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