極東ロシア戦線
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4月17日の報告
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4月3日の報告

<報告書は前編:後編から成る>

広域後方支援  ヤクーツク防衛  歩兵戦闘  ラインホールド攻撃


【歩兵戦闘】

●後に続く兵士の為に
「送るだけじゃない、帰りもしっかり面倒を見てやるんだからね」
 ウダーチナヤパイプへと向かう傭兵達を見送ったFog Timber(ga4060)は、リッジウェイ改を崩壊した敵施設の中へと隠す。
「此方神宮寺、ポジションに着いた。突入部隊の帰還まで待機する」
 同じく神宮寺 真理亜(gb1962)も傭兵達の帰りの足となるべく、作戦終了時間まで機体を生存させることを優先させている。だが、彼等とは違って積極的に攻撃を仕掛ける機体もあった。
「連れて帰るのに邪魔なのですよ」
「なんとしてでもパイプを制圧するのであります」
 常世・阿頼耶(gb2835)と美空(gb1906)は、ウダーチナヤパイプへと少し侵入して退路の確保を行う。そんな彼女らを【テンタコルス海兵隊】や【アルケオプテリクス】の小隊が援護する。
「海兵隊は地上最強! ガンホー、ガンホー、ガンホー!」
「どけよ宇宙人、邪魔するならこの剣で斬り捨ててやる」
 ウダーチナヤパイプ側は両小隊を始めとして十分な戦力が揃っており、前フェイズでの成果と合わせて最早入り口付近はほぼ制圧してしまったとして間違いない。
 だが、一つ懸念があるとすれば、やはり通信網だ。フォネティックコードの使用なども行われていたようだが、殆どの傭兵は未だ『接続や維持だけすれば良い』と思っているため、[L]や【竜脈】などはまたしてもその機能を大きく落としていた。

 一方、ラインホールド側は酷いものだった。
 前フェイズにて、率先して降下して橋頭堡確保に当たる者が居なかったため格納庫にヘリが近づけず、傭兵達の内部突入が遅れるという事態があったにも関わらず、今フェイズでは更にそれを行う人員が不足していたのだ。
『ダメだ、これ以上は持たない! 離脱する!』
 ヘリを操縦するUPCの兵士が周囲へ後退することを告げる。
「コレが合衆国魂だあああぁぁぁ!!!」
 そんな、突入自体が失敗となりそうなラインホールドの指揮系統制圧作戦は、ジョニー・マッスルマン(ga4697)によってようやくの足掛かりを得る。彼は気休めにラージフレアを撒き、確実にフレア弾を投下することだけを考えてS−01改をラインホールド右脚部へと向かわせる。
「ホント、退屈しないわ‥‥!」
 その決死の行動は身を結び、彼に続いて雪村・さつき(ga5400)が周囲の僚機とともに降下して橋頭堡の確保にあたる。だが、速度を落としていたジョニーのS−01改は敵機の攻撃を回避することが出来ず、地へと落ちていった。
 これと前後して、ラインホールドに対してKVにて攻撃を行っていた部隊が左脚部に集中攻撃を開始したため敵の目と戦力が割かれ、ラインホールドへの突入はなんとか進んでいく。だが、既に後退を開始したヘリも存在し、十分な戦力と突入させることは適わなかった。


●英雄は三度突き進む
「とりゃーっ!暴れん坊しょーぐんのお通りだーいっ」
「手当たり次第にぶっ壊す!」
 不二宮 トヲル(ga8050)やスフレ・アズュール(gb4259)による破壊工作が進む。目標は指揮系統の制圧であったが、司令部は傭兵達の自主的な破壊工作を止めることはしなかった。実際に内部に突入した傭兵達ならば、ラインホールド防衛機構の突破の為、何かしらの糸口に気づくかもしれなかったからだ。
「ん〜。さっぱり判りません」
 ファサード(gb3864)が諦めたように言葉を放つ。彼の他にも重要そうなものを‥‥と探した傭兵も何名かいたが、傭兵達の破壊工作は実を結ばない。判断基準も無しに何が重要かは判らない。手当たり次第破壊したところで、幾重にも冗長化させているその全ての系を絶てる事などまずないのだ。
 これが例えば、右脚部付け根の間接付近に絞って工作を行っていれば、外部のKV部隊が破壊を狙った左脚部と合わせ、ラインホールド下半身の機能を停止させる事も出来たかもしれない。
「この先の事も考えたら情報は大事よね」
 そんな中、メティス・ステンノー(ga8243)は情報の引き出しを行えるような端末はないかと、必死に探索を行っていた。
(「これもダメ‥‥!」)
 だが、それはラインホールドが物理的だけでなく、情報処理の分野でも高い防衛能力を持っている事を判明させるに留まった。

「バハムート、力を貸して。この道は私が切り拓くっ!」
「ミカエル、竜王の隣に並び立て!」
 橘川 海(gb4179)とGIN(gb1904)、2種のAU−KVが道を切り拓く。彼等の小隊【ラウンドナイツ】は、『他の傭兵達のために戦う』という明確な指針を持って戦いに臨んでいた。いや、真に特筆すべきはそれではない。数度の斬り合い、撃ち合いの後、後退しようとする敵兵の背後へ海とGINは竜の翼でもって回り込む。
「漏らさない! ここで倒れるんだ!」
 柚井 ソラ(ga0187)が、その退路を失った敵へと洋弓「アルファル」より矢を放つ。前回の侵入時に、強化人間やヨリシロとなった兵がすぐに後退していっていたのだが、それを防ぐ手立てを彼等は考え、実行に移していた。
「道を開けろ、バグア! 私らの後に英雄が通る!」
 ツィレル・トネリカリフ(ga0217)が吼える。彼等は小隊【青剣】の鳴神 伊織(ga0421)とも相互に連携し、他の小隊よりも遥かに着実に敵の戦力を消耗させ、ラインホールドの指揮を執っているジョージ・バークレーまでの道を切り拓いていった。

 傭兵達は2,3のルートに分かれてラインホールド内部を突き進んでいく。G4弾頭の使用予定時刻を考えると、なるだけ早くブリッジまで辿り着いておきたいところだ。
『ようやく来やがったか、能力者ども』
 そうした傭兵達の前に立ちふさがったのは、ゾディアック・魚座、アスレード。
「オーケー、相手にとって不足なし。がっつりバトらせてもらうわよ!」
 小隊【アクアリウム】と、それに同行していた傭兵達ははそれぞれの得物を構え、現れた強敵に挑んでいった。


●敵地の奥底へ
「総員降車! KV班は歩兵を支援! ゲートを叩くぞ!」
 リッジウェイから次々と【特務部隊:零小隊】に所属する傭兵達が降車し、パイプ入り口付近の完全制圧を目指す。小隊の指揮を執る緑川 安則(ga0157)もドローム製SMGを乱射して、キメラの掃討を開始した。
「困難など承知の上だ。その禍根の元、断たせて貰うぞ!」
 カイキアスの盾を構えて白鐘剣一郎(ga0184)が突撃する。
「隊長、援護するッス!」
「作戦の成功率と生還率のアップ。それがサイエンティストの仕事、ってね」
 エスター(ga0149)と春風霧亥(ga3077)がそれに続いて、それぞれアサルトライフルと超機械「白鴉」にて剣一郎や同じく前へ出た仲間を援護する。パイプ奥底への再侵攻の先駆けとなったのは【ペガサス分隊】だった。
「イカレタパーティと洒落こむか!」
 小隊に参加していない傭兵達も負けじとキメラを撃破していく。中でも目立ったのは、工作部隊の侵入補助の為に敢えて派手に動き回っていたスコール・ライオネル(ga0026)だ。
「よし。味方が戻って来るまで持ちこたえる」
 そうして制圧されたパイプ入り口にて、水円・一(gb0495)のように退路確保のために待機する者達がいる。後顧の憂いの無くなった傭兵達は、ゲート破壊のために再度パイプの奥底へと侵攻していった。

 傭兵達は時間をかけること無く、ウダーチナヤパイプの最深部へと辿り着く。前フェイズでの戦闘によって途中経路の施設は破壊されているし、多数の傭兵が参加していることもあって、徘徊するキメラは傭兵達の障害にはなり得なかったのだ。
「むぅ! 来ましたね」
 ヨグ=ニグラス(gb1949)がAU−KVを変形させ、バイクから戦闘形態へと移行させる。最深部にて最後の抵抗を試みるバグアとの戦闘の火蓋を切ったのは、【竜装騎兵】の華組だ。この最後の抵抗を排除しなければ、破壊工作に専念することは出来ない。
「切り込みます。みなさんを更に奥までエスコートしてみせます」
「ん、冥華のじゃますると‥‥がとりんぐしーるどで蜂の巣、穴だらけ」
 傭兵達の早い侵攻に対して、バグアがまだ完全に迎撃体制を整えてないことを見て取った水無月 春奈(gb4000)が、天剣「ラジエル」を構えて吶喊。それを、ガトリングシールドで舞 冥華(gb4521)が援護する。
「負けてたまるかーーー!」
 敵戦力の中には強化人間らしき姿もあったが、一時撤退などしている暇は無いと判断した大神 直人(gb1865)も、その攻勢に続いて機械剣αを振るう。
「人員を失うわけにはいかないしな‥‥援護するぜ?」
 彼等の小隊の奮闘に応じたのか、紅月・焔(gb1386)がペアを組んでいた芝樋ノ爪 水夏(gb2060)と共に戦列に参加してきた。
「これがゲートかぁ‥‥うー、一個ずつバラしたい、のにっ!!」
 更にユイリ・プライム(ga2944)、
「男には引けない時もあるんだよ」
 木場・純平(ga3277)が加わり、
「機銃陣地制圧。奪い取った機銃で、敵を脅かしてやれ」
 クライブ=ハーグマン(ga8022)が小隊に所属していない傭兵達に協力を呼び掛けた。
 こうして、ウダーチナヤパイプにおける戦闘では、規模の小さい小隊や小隊に未所属の傭兵達による活躍が目立つことになった。大規模な小隊は殆どが敵の戦闘を避けて破壊工作に専念しているか、一部だけを戦闘要因に割いていたので、敵兵との戦闘という分野では規模に応じた成果は挙げなかったのだ。
「くっ、手強い‥‥」
「皆さん! 連携を密に!」
 また、小隊【月狼】はその多くなった規模のせいか、個人間の連携が他の小隊よりも薄れており、キメラならともかく強化人間のような強力な個体との戦闘では上手く戦果を挙げることができなかった。

「虎の子は解らんからな、穴を荒らさせてもらう!」
「考えても始まらねえ! 斬って斬って斬り捲る!!」
 九条・命(ga0148)が率いる小隊【FANG】の面々は、細かく考えるから迷う、なら手当たり次第に、という精神で片っ端から敵施設の破壊を行っていた。スキルによって突き飛ばしたキメラは、施設との接触時には何故かフォースフィールドを発生させないのが残念だった。これも、バグアの超技術力、といったところだろうか。
「さて‥‥壊しますか」
 みづほ(ga6115)は一度振り下ろした100tハンマーを振り上げると、今度は剥き出しになった何かの配線へと布断逆刃を使って振り下ろす。焦げ臭い匂いがして、装置が死んだことが分かる。
「ここまでの戦い、無駄にはしません!」
 同小隊のクレア・フィルネロス(ga1769)も、紅蓮衝撃を加えたパイルスピアで設備を大きく穿ち、破壊工作を進めていく。
「元特殊部隊のやり方を‥‥教えてやろうじゃないか、異星人諸君!」
 月村・心(ga8293)は、板を剥がしたりメンテナンス用の裏部屋に入るなどして、設備そのものではなくそれを繋ぐ配線関係を破壊していった。設備そのものはまだ生きているが、こうなってしまえば機能は死ぬ。
「ここは‥‥操作室でしょうか?」
 まだ起動していないせいか、ディスプレイと思わしき設備には何も表示がされていないが、アリエーニ(gb4654)が侵入した敵施設は、何かの操作を行うための部屋のように思えた。
「ゲートそのものの操作ではないようですが」
 回収可能なものはないかと、部屋を漁る霧島 深夜(ga4621)。詳しい事は分からないが、位置からしてゲート操作用ではないと思えた。可能性としては、届いた物資をゲート上から倉庫や格納庫に移動させるための設備だろうか。
 この他にも、【ヒルクライム】、【リンガーベル】、【竜装騎兵】の雪組といった面々の傭兵達がそれぞれ破壊工作に当たっており、ウダーチナヤパイプ最深部の敵施設は次々とその機能を失っていった。

(「ん、あれは‥‥?」)
 敵精鋭部隊との戦闘。そして、最深部各施設への破壊工作が進むなかで、黒羽 怜(ga8642)が敵の動きの中に強化人間が後退していく経路を発見した。相も変わらず多少の怪我を負った時点で後退する相手は、何かを隠しているのだろうか。
「よぅ!俺を雇わないか? 報酬は熱いコーヒー1杯でいいぜ」」
 追跡を行おうとした怜を、ヴィリー・トレーダー(gb3854)が呼び止める。
 申し出を受け、ヴィリーと二人で敵兵の追跡を開始した怜だったが、ほどなくして敵兵からの猛烈な反撃に遭う。一旦後退していた強化人間も戦列に加わり、これまでの抵抗よりも一段と激しいものだった。
「くっ、この先に何が!?」
 位置からしてゲート関連の施設があるとは思えない。怜は一旦後退し、他の傭兵と共に再度そこを攻めることにした。


●二面戦闘、後退と後退
「させないよっ! ブリッツアロー!」
 戌亥 ユキ(ga3014)の放った矢に捉えられたキメラ兵が、崩れ落ちる。
(「たかだか250万のクセに、なかなか良い動きするじゃないッ!」)
 護衛の兵が減ったことを好機に、鯨井昼寝(ga0488)の指示を受け、【アクアリウム】の面々がアスレードへの一斉攻撃を展開した。
(「一瞬すら動きを止められないとは‥‥」)
 相討ち覚悟で、敵の攻撃と交差しての攻め‥‥後の先を取る戦法を取った鏑木 硯(ga0280)だったが、相手の力が強すぎるために吹き飛ばされ、届いた刃は僅かな傷をつけるだけに終わっていた。似たように、一度退くことで敵の注意から外れたベーオウルフ(ga3640)の攻撃も、再度相手に向かってしまってはまたしっかりと対応され、今度は自力では退く事の出来ないほどの怪我を負った。
「コレが、チームワークってものよ?」
 側面に回りこんだシャロン・エイヴァリー(ga1843)が、相手の脚をガラティーンで斬り裂く。上記のように被害も増えていっていたが、彼女らの相手の機動力を殺すという狙いは確実に進んでいるように見えた。
(「くそ、まだだ。活路は開く――開いてみせる‥‥!」)
 しかし、煉条トヲイ(ga0236)の渾身の一撃は回避される。彼は敵の注意を上半身に集めるべく、そこへと連続攻撃を集中させていたが、アスレードは中々足下の隙を見せず、攻撃は片手間にあしらわれてしまう。
「包囲網は? 無理?」
 アグレアーブル(ga0095)が通信装置からの報告に落胆する。今ここに居る者達だけでは勝てないと、他の傭兵に相手を包囲するように依頼したのだが、隔壁に移動を阻害されてとても包囲網は敷けそうになかった。
(「少し後退しておくべきだったかしら‥‥」)
 これが、既に隔壁を破壊済みの地点まで後退していれば、結果も違っただろう。
『ハッ、どうした? この程度なのかよ?』
 勝ち誇るアスレードは、余裕を示すためか少しも後退せずに通信に出る。
(「あれだ‥‥!」)
 その通信装置をエメラルド・イーグル(ga8650)が狙うが、やはり相手には見た目通りに余裕があるらしく、彼女の攻撃は目標を捉えなかった。だが、通信を聞いたアスレードは表情に焦りを浮かばせ、増援としてやってきた強化人間にこの場を任せて後退を開始する。

 後退していくアスレードに、強化人間の脇を強引に抜けた一人の傭兵が決死の覚悟で追いすがる。
「身は仇花‥‥貴様を冥府へ誘えれば、悔いはない」
 だが、その雰囲気が只事ではない事を感じたのか、御神 楓(gb4530)はその発現させた豪力を遥かに上回る力を、何度もその身に叩きこまれた。隆起した筋肉が、通常の状態へと戻っていく。
『焦らせやがって‥‥! この俺に一人で突っかかって来るから、どんな奴かと思えば!』
 動かなくなった傭兵を通路に投げ捨て、アスレードは後退を急ぐ。彼の通信装置からは、戦闘音が聞こえていた。

「チッ、手強いな!」
 ラインホールドのブリッジ手前、ジョージ・バークレーまであと少しの地点まで辿り着いた【ラーズグリーズ隊】は、ブレイズ・S・イーグル(ga7498)の指示の下に敵兵との戦闘を開始。
「親衛隊、ってところか」
 虎牙 こうき(ga8763)は一旦後退し、自らの傷を癒すと、再び機械戟「虎牙」を手に敵兵へと挑みかかっていく。待ち構える敵兵は、強化人間とヨリシロばかりで人型キメラは居ない。
「さて存分に暴れる事にしようかね」
「奴に一撃叩き込まねェと、帰れねェってのに‥‥!」
 ザン・エフティング(ga5141)と鈍名 レイジ(ga8428)が、天照とコンユンクシオを構えてこうきに続く。彼等の小隊はバークレーと周囲の敵兵を切り離すことを考えていたが、相手とて第一に守らねばならないものは理解している。具体的な策も無しにそれが成し遂げられる事はなかった。
「ほら、小隊長。援護してやるから、しっかり突撃してこい」
 その戦場へ、別ルートから侵攻していた【G.B.H】とそれに同行する傭兵達が合流してきた。ブロッサム(gb4710)の援護を受けて、アレックス(gb3735)を始めとした小隊員達がバグアに向かって突撃を開始する。
「一瞬で吹き飛ばしてやるつもりだったのによ」
 更に前フェイズにてブリッジを目指していたOZ(ga4015)ら【H―DM2】も合流。だが、傭兵達は皆バークレーと戦うための戦法は練っていたものの、護衛戦力の排除が遅々として進まないため、ブリッジへの突入すら出来ない状況だ。
「時間だ! これ以上留まったら脱出が間に合わない!」
 数回目の探査の眼の使用、タイムリミットだ。一定時間毎に能力を使用していたジュリアス・F・クリス(gb4646)は、G4弾頭による攻撃が開始される時刻が迫っていることを、周囲の傭兵達へと伝えた。

 こうして、ブリッジ前まで攻め寄せたにも関わらず、結局は戦力が足りずに傭兵達は後退を開始することになる。そもそもラインホールド側に回った傭兵の数が少ない状況で援護も上手く得られず、突入出来た部隊が減ってしまっていては、指揮系統の制圧は到底達成できるものではなかったのだ。


●二兎の一兎
「これは‥‥脱出用の通路か?」
 ゲート関連施設の破壊も随分進んだ頃、怜が発見した敵兵撤退経路上の施設に【ヒヨコ隊】を中心とした傭兵達が再度侵攻し、これを制圧した。中から発見されたのは非常用の脱出経路、どうやら敵兵はここを通って外部へと逃亡を果たしたようだ。
「そういえば、戦闘した強化人間は!?」
「知っている限りでは全て撤退されています、倒した‥‥という報告は受けていません」
 誰とはなしに、傭兵達は強化人間の撃破状況を確認した。答えは先程の通りだ、ゲートの破壊工作は順調に進んでいたが、敵精鋭戦力には上手く脱出されてしまったらしい。倒せたのは、無数に量産されるキメラばかり。
「ゲートだけに眼を囚われていたってことかしら‥‥」
 宮明 梨彩(gb0377)が、悔しげに言葉を放った。

「外で皆頑張ってる‥‥だから、此処だけは絶対に私達で壊すんだよ!」
 ゲートのジェネレーターと思わしき装置まで辿り着いた【S.G】の響 愛華(ga4681)は攻撃を開始するが、これら中枢施設はメンテナンス性重視といっても他とは事情が違うのか、有効打となっているようには思えない。
「そんな、布斬逆刃でもダメだなんて」
「これさえ破壊できれば勝ちじゃと思っとったのじゃが‥‥」
 綾嶺・桜(ga3143)が八つ当たり的に蹴り飛ばしながら、愛華が知覚攻撃を行った箇所の損傷具合を見る。やはり碌にダメージが通っていない。
「我輩の方もだめだった。さすがに中枢設備といったところだな」
 ゲートの完全破壊を目指し、破壊工作を続けていた刃金 仁(ga3052)も、生身でこれ以上の破壊を行うのは無理だという結論を出していた。どうやら、これらを破壊するにはKVでもって攻撃を加える必要がありそうだ。だが、パイプ内に無数に建設された設備は残骸となった今も経路を塞ぎ、陸上からのKV侵入を拒み続けている。

 ウダーチナヤパイプは傭兵達によってほぼ制圧が完了。徘徊するキメラが多少残っているが、これが排除されるのは時間の問題だろう。
「ラインホールドは‥‥?」
 【月狼】の面々が中空を見上げる。そこに健在する敵兵器。かの存在を破壊するか後退させなければ、パイプ上空の制空権は未だバグアにあり、KVによる組織的な攻撃は不可能だった。
 傭兵達は、差し迫った作戦終了時刻を受けて、一旦後退を開始していく。【AidFeather】などによる十分な戦力によってパイプ入り口が制圧されていたことと、クライスト・イラ(ga2933)を始めとする医療班がその制圧したパイプ入り口にて負傷者の治療に当たっていたため、ウダーチナヤパイプ突入側はさしたる被害も無く制圧作戦を成功させたのだった。


●作戦の為の逃避行
 時系列は前後するが、先述のようにラインホールド側でも傭兵達は撤退を開始していた。
「誰一人として取りこぼしません。まだ残っている人はいませんか!」
 比較的入り口周辺で戦闘を行っていた傭兵に呼びかけ、退路の確保に当たっている綾野 断真(ga6621)。彼の脇を抜けて後退していく傭兵達からは、まだ数人残っているとの声が聞こえる。
「もう少し粘る必要があるか‥‥!」
 G4弾頭による攻撃開始の時刻まで、もうあまり余裕が無い。だが、まだ中に残っている者がいるならば先に撤退するわけにもいかない。月浜・如水(gb4789)は、もう既に限界近くまで疲労していた体を突き動かし、刀を振るって人型キメラを斬り伏せた。
「そろそろ穏やかな時間が恋しいですね」
 断真の呼びかけに応じて退路確保を行っている部隊の中心となっているのは、降下ポイントから更に格納庫の奥で戦闘と破壊工作を行っていた【I.C.E】だった。トリストラム(gb0815)は味方の撤退開始を受けてそちらより隊を戻し、追撃してくるバグア兵との戦闘を指揮する。
「アハッ…――足腰立たなくしてやんよ?」
 弾頭矢を撃ち尽くし、装備をイアリスへと変えたアルミナ(gb5399)が、敵へと斬りかかる。

「あれは‥‥!? 味方がやったのか!?」
 ラインホールドより脱出を開始した傭兵達は、敵の左脚部が酷く損傷していることに気づいた。見れば、それをフォローするためにヘルメットワームがそちらに集中している。これならば、援護部隊の少ないラインホールド突入側も、なんとか後退することが出来る。
 こうして、敗走というわけではなく、時間切れによる撤退となったラインホールド突入側では、怪我の程度の差こそあるものの、アスレードへと特攻した一名を除いて無事に帰還を果たした。指揮系統の制圧は達成できなかったが、彼等の突入によってラインホールドの迎撃行動は低下していたはずだ。

<担当 : MOB >


【ラインホールド攻撃】

●ブリーフィング
 野戦テントへと集まる傭兵達。
 傭兵の一部は、今回の本格的な攻撃に先んじて、G4弾頭やユニヴァースナイトの運用についての提案を引っさげて訪れている。テントは多数の傭兵、及び将官達にごったがえり、彼らは言葉を交わしつつ地図を見つめていた。
「弐番艦に直接弾頭を載せたらどう?」
「む。脱出する余裕が無いな‥‥危険過ぎる」
 レディオガール(ga5200)の提案に表情を曇らせる将校。
「なら、ユニヴァースナイトを囮に使っちゃえば良いのよ。あんなドン亀でまともに近づくにはそれしかないわ」
 彼女の二の句を継いで、ファルル・キーリア(ga4815)が言い放った。随分と高価な囮ではあるが、本命がG4弾頭であると考えれば、一理あるのも確かだ。
「主砲冷却までの時間は?」
「最短30秒、おおよそ1分と少しの間です」
「主砲がネックだな‥‥」
 G4弾頭投入前にどの程度冷却装置にダメージを与えられるかにもよるが、このままでは、ガリーニンでの接近中に再度主砲発射のタイミングを与えてしまう。
 誰かが溜息を吐いた。
 しかし、その溜息を押しのけるようにして、明星 那由他(ga4081)がか細い声をあげる。
「少し‥‥良いですか?」
 皆の視線が集まる。腕や頭に包帯を巻いた少年は、遠慮がちに切り出した。


●アグリッパ追撃
 低空を飛び、一度北へと回り込んだ数機のKVが、ゆっくりと着陸した。
「情報網より連絡っと。敵さん、比較的広く分散してるらしいな」
 グリフィン、比企岩十郎(ga4886)の言葉に、レイアーティ(ga7618)がモニターパネルをトンと叩く。
「中央部近辺に潜んでる筈です。姿勢を低くして向かいます‥‥そろそろ落ちてもらいましょう」
「解りました。では虎太郎は右翼を」
 武林虎太郎(ga4791)から、応答があった。
 他にも数名、フリーの傭兵が続く。神城 姫奈(gb4662)が声を掛けて廻った者達だ。彼らはある程度散開して距離を取り、敵との戦闘を回避しつつ前進していった。
「がーくん、今よ!」
「一撃、滅っ殺!!」
 龍深城・我斬(ga8283)の雷電が、ワイヤーに絡まったゴーレム目掛け、『黒竜』を抱えて突っ込んだ。貫かれたゴーレムが小さく痙攣し、ぐらりと傾く。レイル・セレイン(ga9348)のロジーナが、その腕にスパークワイヤーを巻き戻す。
 彼等夜修羅小隊を始め、一部の傭兵はアグリッパに対する第三次攻撃を展開していた。
 攻撃部隊は主に陸上を進み、行く手を阻むゴーレムやキメラを次々と粉砕して行く。連戦というのに、その勢いに衰えは見られない。
「アースクエイク発見。Elevado周辺部隊は警戒願いますなの」
 真壁キララ(ga8853)の報告に緊張が走る。
 ラインホールドやアグリッパへと至る陸路の途上、Elevadoが設置していた地殻変化計測器に反応があったのだ。そしてその直後、大地がめくれ上がった。
「危ないっ!」
 一斑が、アースクエイクの攻撃を避けて散開する。生じた隙を埋めるように、三班、東雲・東吾(ga8443)がスラスターライフルを放ってJ・B・ハート・Jr.(ga8849)の攻撃を支援する。小隊員から次々と繰り出される攻撃に、アースクエイクが細かく切り刻まれる。
 アースクエイクは主力として数が揃えられていないらしく、散発的な地中からの一撃さえ凌げば、連携を取る傭兵達の手に余るような敵ではなかった。
「残り五角‥‥」
 藤村 瑠亥(ga3862)が呟く。
 彼は視線を左右に走らせ、次いで機を加速させた。
「最低一角で良い。崩すぞ!」
『了解』
 アグリッパは、背後を頂点に五角形で配置されている筈だと彼は考えた。ここまで数の減った以上、その配置が正しければ、一基でも破壊すれば、その防空網は大きく綻ぶ。
 その意図を悟り、次々と立ちはだかるゴーレム。
「一気に畳み掛ける‥‥!」
「先に行け! こいつは俺が!」
 蓮角(ga9810)の機が、高分子レーザー砲を構える。
 正面装甲を撃ち抜かれたゴーレム同士の合間を、ティーダ(ga7172)のアンジェリカが掲げる砲から、帯電粒子が一直線に貫く。焼かれた大地をそのまま突っ切っるアンジェリカ。やや後方に位置していたアグリッパを、練力の剣が真っ二つに切り裂いた。
「五時方向、アグリッパ一機撃破!」
 グレン・アシュテイア(gb4293)の報告が飛ぶ。
 アグリッパを廻る攻防も、既に三度目。彼等傭兵も、アグリッパの弱点を見抜き、攻略に必要な合鍵を作成してしまっている。もはや、油断さえなければ敵ではない。
「負けてられないね?」
 暁の騎士団同僚の報告に、にへらと様相を崩すアーサー・L・ミスリル(gb4072)。
 敵中目掛け、一足飛びにシュテルンが踊り込む。
 まさしく踊るかの様にステップを踏み、次々とゴーレムやキメラを切り裂くミスリル。その踏み込みは浅く、致命傷は少ないものの、なればこそ、敵は彼のKVを追い回す。
 敵陣が乱れた。
 同小隊の前衛がその間隙目掛けて機を突っ込ませるや、慌てて護衛に戻ろうとするキメラの群れ。アグリッパは浮上を始める。
「残ったアグリッパは殲滅させてもらう!」
 御神・夕姫(gb3754)が、その頭を叩き伏せた。
 キャリアーから放たれたミサイルが辺りに爆炎を撒き散らし、レーザーガトリングがアグリッパ頭頂部を掠めていった。続けてタイガの針葉樹を掻き分け、グリフィン隊各機が奇襲を掛ける。
 浮き足立つアグリッパ。
 グリク・フィルドライン(ga6256)のロックオンキャンセラーがバグアの混乱を助長する。
「どけどけぇ! 今回の俺は一味違うぞ!」
 乱戦の渦中、再び突貫したミスリル機がゴーレムを踏み越え、マニピュレーターにする大般若長兼を高々と振り上げた。


●三度目の正直
 ブラッド准将の指示と共に、ユニバースナイトが前進を始めた。
 幾ら各地からの増援が加わったとはいえ、アグリッパ無き今、長距離戦における防空能力は著しく低下している。問題は、ヘルメットワームやキューブワームといった航空戦力に、タートルワーム等の対空戦力だ。
「来ましたわね‥‥」
「忙しくなるな」
 パチェ・K・シャリア(gb3373)の呟きに、エルファブラ・A・A(gb3451)が応える。
 いわゆる『L』の大本は380戦術戦闘飛行隊が預かっている。とはいえ、今回は、更にこれら情報の分類も行っている。同小隊だけでここまで大規模な情報のやり取りを制御するのは不可能であり、二人の属するサイレントヴェールやユグドラシルといった各隊も、少なくない人数を裂いている。
 混乱は厳に避ける考えだった。
「ふぅ‥‥大した情報量ね。混乱する道理だわ‥‥」
 敵味方双方の機が接触するに従い、情報量は加速度的に増加する。
 この人数でも余裕をもって処理するという訳にはいかないが、それでも、何とか廻せている。何より、上意下達の組織を持たぬ傭兵にとっては軍とは違う情報源がどうしても必要だった。
 地上から、プロトン砲の奔流が走った。その直後、T−ストーン小隊が動く。
 情報網から得た情報を元にしての動き。
 情報源は「L」、プル型。つまり要求時のみ取得する方式だ。
「T−ストーン隊、密集陣形!」
 クリス・ディータ(ga8189)の号令が飛ぶ。多数のディアブロを前面におし立てて、タートルワームへと向かった。タイガの中、潜むようにして配置されたタートルワーム、あるいは各種対空砲を、一箇所ずつ虱潰しに叩く。
 対空砲火に『穴』が空き始めた。
「第弐中隊はユニヴァースナイトと前進を」
 総隊長代行を務める月森 花(ga0053)の指示が、月読を通じて飛ばされる。
 代行の指示を受け、中隊長、更に各小隊長へと指示が下る。十六夜・朔夜(gb4474)はパネルや通信から得られる情報を元に、散開しての掃討を指示する。
「キューブワームから仕留めますえ」
「了解」
 各機からの応答。アルタナ(gb2447)をはじめ、小隊各機が浮遊するキューブワームを次々と破壊する。鳥一匹通さぬ迎撃体制は、他とは違って上意下達の命令系統が機能しているからこそ整えられる。指示に誤りさえ無ければ、その利益は大きい。
 やや遅れてヘルメットワームが現れるが、その頃には事前にばら撒かれたキューブワームの殆どが、既に殲滅されていた。
「行きますにゃよー」
 今頃ノコノコと現れた不幸なワーム群に対し、美女と野獣【B・B】が接近し、迎撃の一斉射を掻い潜って有りっ丈のミサイルをばら撒く。カプロイアミサイルのオーケストラ。撃墜こそされずとも、直撃を食らったヘルメットワームが次々と編隊を崩す。
 そうして乱れた敵部隊を、イビルアイズを中心とするオラトリオや、ユニバースナイト直衛に当たるLYNXの展開する弾幕が包み込み、各個撃破していった。
 この調子が続けば楽勝だろう――
『敵新型! 例のカブトガニ!』
 一瞬でもそう思いかけた傭兵達の意識を、ヤヨイ・T・カーディル(ga8532)の渇が引き締めた。ぐいと引き戻される意識。ヘルメットワームの編隊の只中に、突如としてプロトンが輝いた。
 ヤヨイの言葉に反応した彼らのKVが、これを辛うじて回避する。
 僅かに乱れた編隊を突き崩そうと、間断無く次々とプロトン砲が撃ち込まれる。その光条を追うかのように、一直線に加速するヘルメットワーム。
 おそらくは。
 前回的の新型ヘルメットワームは、撃墜はされずとも、大軍を押し留めるには数が足りなかった。今回現れたのは5機。ユニヴァースナイトを一直線に狙ううつもりなのだろう。
「そうは行かないよ‥‥月狼の牙で噛み付いてやる」
 先程と同じように、月森が月狼各隊に指示を出す。
「人類を諦めない‥‥っと」
 先程まで補給を受けていた、ナナヤ・オスター(ga8771)のワイバーンが、新型の前を横切る。その行動に、新型が急制動を掛けた。
『何だ!?』
『チッ、おちょくって――うおっ!』
 広範囲に広がる放電。
 G放電タイプの弾頭が次々と新型を襲い、その表層を焦がす。
 次の瞬間、輝くように展開されるフォースフィールドが、そのダメージを抑え込む。このままでは同じ轍を踏む事になる。だが、彼等月狼の攻撃に、新型は動きを封じられている。
 セレスタ・レネンティア(gb1731)のようにマシンガン等を用い、弾幕を利用しての格闘戦に持ち込む者も居て、流石に無視できなかったのだろう。改めて反撃へ転じようとするが、その途端、辺り一体を幻霧が包み込んだ。
『‥‥どういう事だ?』
 幻霧が展開されれば、確かに回避性能はあがる。但し、敵味方双方がだ。そして何より、先程まであれだけうるさかった攻撃がぱったりと止んだ。
 余りに不自然なその行動を、新型のパイロットは流石にいぶかしんだ。
 その直後だ。
 煙を散らして、一筋の光条が新型を襲った。
 ユニヴァースナイトから次々に放たれる、副砲、対空砲の弾丸、光条。
「いい加減、倒させてもらいます」
 チェスター・ハインツ(gb1950)の翔幻が、すっと幻霧の中から離脱する。
 幻霧の中に、友軍機はとっくにいなかった。数秒の差で目的に気付けなかった敵機を、戦艦の強力な火砲が絶え間なく攻撃する。主砲の一撃さえその他の火砲と同様に耐え切ってみせる新型を、次々と衝撃が襲う
 なおも霧を脱っせんとあがく新型。
 辛うじて幻霧を突っ切った彼らを待っていたのは、KVによる熱烈な歓迎だった。新居・やすかず(ga1891)のS−01Hから放たれた短距離高速AAMが機に突き刺さり、『尾』のような部分を吹き飛ばす。
 その一撃を合図に、次々と喰らい付くミサイル、レーザー、その他エトセトラ。
 相手に休む暇を与えずにmまるで群狼が獲物を追い詰めるように襲い掛かって肉を削ぎ、皮を裂いていく。友軍機と共に新型の尻へ喰らい付くメイフィア(gb1934)機。
「これで――」
『馬鹿な‥‥まさか‥‥!?』
 ある一点で、限界に達した。
「――落とさせていただきます!」
 ロケット弾が爆ぜる。がくりと機が揺れたかと思うと、傭兵達からの攻撃を次々と機に受けて、やがて、火を吹き上げてタイガの只中へと落ちた。
 派手さは無い。
 数を活かして長時間に渡って集中砲火を掛けるという行いは、一部傭兵にとってはたまらく苦痛な『作業』にも感じられた程であったが、そんな愚痴は、勝利してこそこぼせるものだった。
「作戦は先に説明した通りだ〜 あとは各機、頼んだよ〜」
「私とディスタンが成すべき事は一つ。道を作れ、です」
 ドクター・ウェスト(ga0241)の言葉に反応して、音影 一葉(ga9077)がにこりと笑顔を返す。だが、今、彼女の見せた笑顔は優しさではない。それは力強さの表れだ。問題はただひとつ。その攻撃が通用するか、否か。
 列を作った西研の編隊が、乱戦の只中にいる新型へと向かう。
 【GSA】
 G放電装置による一斉攻撃が、かなりの広範囲を電撃の中へと包み込み、新型を焼く。何より運動性の面においても従来機を上回っている相手だ。一方で、彼らの放ったG放電の電撃は、素早い動きを確実に捉えてみせる。
 乱戦の最中で、誰のが効いて誰のが効かなかったまでは判別がつかなかった。
 だが、ダメージを積み重ねる事に成功したのは事実だ。
 反転し、舞い戻る編隊が、絶え間なく次々と、新たな攻撃を浴びせ掛ける。先程の煙幕に惑わされ、新型の編隊は既に崩されている。一機ずつ包囲するのも容易で、そのまま、続けて戦術部隊『渡鴉』が、新型に喰らいついた。
「一撃二撃じゃ終わらせねえぞ‥‥!」
 ヒューイ・焔(ga8434)が、キャノピー越しに新型を睨む。
 彼ら渡鴉の五月雨――時間差を利用しての、正確な攻撃が敵を捉えて離さない。彼らは隙を伺いつつ、敵に反撃の隙を与えぬまま、時間差攻撃を続けていく。
「各機、無理はするな。自身の最善を尽く――?」
 言いかけて、御影・朔夜(ga0240)の手が止まる。
 時間差、牽制のつもりだった攻撃を受けるうち、新型がくるくると墜落を始めたのだ。大火力を利用した集中砲火を掛けるよりも早く、正確な攻撃を加えているうちに墜ちた。
 理由は解らないが、結果には必ず因果がある。
(何だ。理由は‥‥?)
 素直に喜ばぬままに、彼は墜落する新型をじっと見つめた。


●ラインホールドを巡り
 敵航空戦力を押しのけつつ、新型ヘルメットワームによる強襲さえも、傭兵との連携によって撃破し。
 ユニヴァースナイトが、ラインホールドとの激しい砲撃戦を展開したその直後。低空を飛ぶガリーニンが、ゲート周辺の戦場へ姿を現した。
「今度はビシッときめるよっ!」
 Gargoyle、天城(ga8808)のワイバーンが先陣を切る。
 ルート上のアグリッパは、既に陸上部隊が叩き潰している。余計なルート変更をせぬならば、アグリッパの結界へと脚を踏み入れる事は無い。そして、このG4弾頭使用に先んじて、ラインホールド周辺では数多くのKVが激烈な攻防戦を繰り広げていた。
「ラインホールド、爪部損傷率27%突破――」
 自前の通信網『蔓』を用い、大部隊であるガーデンの指揮を執るメアリー・エッセンバル(ga0194)。
「良い感じね、ガンガン行きましょ!」
「隊長の言葉を聴いたか? 良いか、ヤツが人型である以上、弱くなる部分は決まってる。攻撃を一箇所に集中するんだ」
 同アイリス分隊、来栖 晶(ga6109)が覇気の無い声で応じるが、その眼は、真剣にラインホールドを見つめ、損傷箇所目掛けての連携攻撃を指示して行く。入れ替わり立ち代りの攻撃が、装甲を焼き、或いは弾き、少しずつ、ゆっくりと削り取ってゆく。
「えぇい、邪魔っけな! 砲撃手は敵戦艦に集中しろ。足元の敵は下部の対空砲を向け‥‥踏み潰してやれ!」
 ゆっくりと、しかしその巨体に似合わぬ速度で持ち上がる脚部。
「脚が持ち上がった!」
「全機、回避行動!」
 情報を処理する鴇神 純一(gb0849)からの報告に、鹿嶋 悠(gb1333)は素早く指示を下した。号令に、素早く散開するデイジー分隊。踏み付け等の原始的な攻撃も、ある程度予測していた。攻撃を著しく妨害はされても、実際に踏み付けられるほど間抜けではない。
 ならばと対空砲とキメラ、ワーム群による合わせ技が脚部を狙う部隊へと向かうが、付近に展開する部隊は、何もラインホールドだけを直接に狙う部隊ばかりではなかった。
「来るぞ、注意しろ!」
「近寄らせないったら近寄らせないの!」
 部隊全体で右翼へ向けて移動し、ラルフ・レインウォータ(ga8610)や智久 百合歌(ga4980)のKVは、敵機を撃墜しながら、同僚たちへ声を掛ける。ワームから発射され、乱れ飛ぶミサイルがバルカン砲に撃ち落とされ、あるいは木々を焼き、流れ弾が地上に展開するキメラを穿つ。
 友軍機に背後を任せ、攻勢は徐々に強まり、勢いを得る。
 炎だ。
 聳え立つ塔を火災が舐め上げるかのように、あらん限りのロケット弾による爆炎、徹甲弾接触が起こす火花、走るレーザーが、時には取り付いての直接打撃が、小さな一撃一撃を確実に積み重ねていく。
 だが、対するラインホールドの反撃もまた、熾烈を極めた。
 もてる限りの全ての火砲が周囲の能力者達を狙い、弾幕の網を、壁を形成して畳み掛ける。
 地面をめくり上げる弾丸の嵐。攻撃を装甲で防ぎつつ、翔幻が後退する。
「倒れろ‥‥! 倒れろ倒れろ倒れろ! きゃああああ!」
 脚部ローラーをやられ、斑鳩・南雲(gb2816)機がバランスを崩し、凍土に転げまわる。コックピットで頭部をモニターにぶつければ、ヘルメットが割れ、弾けた破片が額を切る。
 地を走る弾痕が翔幻へと迫った。
「機を! 早く起こして下さい!」
 間に割り込み、ディフェンダーを掲げるは如月 煉(ga2574)のS−01。
 その刀身を殴りつける弾丸が、辺りへ飛び散る。いかに頑丈と言えど、その耐久性にも限界がある。度重なる攻撃に、ひび割れるディフェンダー。
「させるか‥‥!」
 シフォン・ノワール(gb1531)のアヌビスが、鬼火をばら撒く。
 輝く鬼火に惑わされ、標準が乱された隙に体制を建て直し、離脱を図る両機。
「連携を欠かしてはなりません。隊の内外もありません、孤立すれば的になりますっ」
 中隊長、夜狩・夕姫(gb4380)が檄を飛ばす。
 彼女の所属は月狼だが、ここまで来れば隊の内外は無い。ただ違うのは指揮系統だけ。アジアでの雪辱を、あの悪夢を二度とは繰り返さぬ為、彼らはただひたすらに、一秒でも長く弾丸を叩き込んで行く。
「タイミング合わせるわよ! ‥‥3,2,1,ファイア!」
「ここが瀬戸際か‥‥!」
 赤崎羽矢子(gb2140)の、鉄壁の如きシュテルンの脇を抜け、天龍寺・修羅(ga8894)のディアブロから、次々とロケットランチャーが吐き出される。
 一基一基、確実に。
 一度狙えば逃す事は無く、彼ら小隊【HB】は着実に戦果を挙げていく。
 かと思えば、ラインホールドがユニヴァースナイト目掛け主砲を放った直後を好機と見て、平坂 桃香(ga1831)らの奇襲が放熱板を狙う。ミサイルの乱舞に、冷却液を撒き散らせて放熱板が弾け飛ぶ。
 上空から強襲を掛ける鳳・朱雀(ga9178)機等は、空中で変形の上ディハイングブレードを前面に突き出し、殆ど特攻のような勢いで突っ込む。内部への突入にこそ失敗したものの、切り裂かれた放熱板が轟々と炎を吹き上げ、暴れる。
 完全停止にまでは及ばずとも、主砲発射の間隔は、確実に広がって行く。
「二度目の正直っ」
 ニッと口端を持ち上げる平坂。
 対照的に、ブリッジのオペレーターは半ば呆然として被害を報告する。
「放熱板損傷ォ!」
「おのれい! 有りっ丈のワームを吐き出せ、小うるさい戦闘機を追い払え!」
 腕を振るうバークレー。
「レーダーに反応、敵航空輸送艦、二隻!」
「ガリーニンとか言うヤツ、何だ? 盾にでもするのか? いや違う‥‥G4弾頭か!」
 眉を持ち上げ、血管を浮き上がらせ、歯を軋ませるバークレー。
(戦艦に意識を向けさせておいて、輸送艦でG4をぶつけようと言うのだな‥‥小賢しい!)
 避ければ『ゲート』が吹っ飛ぶ。多少の被害を覚悟で、撃ち落とさねばならない。
「主砲冷却までは!?」
「あと1分半でぇす!」
「えぇい、一隻が限界か! クソッ、本命はどっちだ‥‥!」
 指揮卓から身を乗り出し、ぎろりとモニターを睨むバークレー。
 暫し逡巡する間にも、自動操縦のワームは編隊を組み、ガリーニンを目指して駆け回る。
「今私達にできる事は‥‥仲間を信じて、少しでも時間を稼ぐだけ、か!」
 普段の穏やかさをかなぐり捨てて、五十嵐 薙(ga0322)はイビルアイズを走らせる。ロックオンキャンセラーが、敵の放ったミサイルを、僅かに惑わした。
「皆さん、突出を避け、僚機から離れないで下さい!」
「ここが正念場ってな‥‥気合入れていこうや!」
 鮫島 流(gb1867)が声を張り上げ、笑顔を見せる。
 どうやら、例の新型は見当たらない。ラインホールドに取り付く敵機への迎撃にまでリソースを裂いている現在、この程度の数しか揃わぬヘルメットワームが、彼らの敵になる訳が無かった。
 一分と経たず、数十秒で次々と煙を噴き上げるヘルメットワーム群。
「我等も負けてられんな。天衝の名が泣くぞ!」
 二機のガリーニン。その片方を守る漸 王零(ga2930)の指揮下にある一隊が、同様にヘルメットワームを駆逐する。
「仲間が、命懸けで護ったG4弾頭だ。今度は私達が護り抜いてみせるさ‥‥!」
 強引な突破を図る敵機に対し、そうはさせじと、リャーン・アンドレセン(ga5248)の岩龍が、試作G放電を切り離す。岩龍と言って舐めて掛かってはいけない。見た目以上に手痛い一撃が敵の脚を止め、鈍ったと見るやすかさず、前衛配置の西島 百白(ga2123)がこれを撃破する。
 この調子が続けば、とてもではないが、あと数分で機動戦力がガリーニンを落とせるとは思えない。
「ぬう‥‥主砲を連続射撃する! 冷却完了し次第、敵輸送艦へ叩き込むぞ!」
「し、しかし閣下! それでは放熱板が開きっぱなしに!」
 砲撃管制官が恐怖に引きつった顔を向ける。
「ほざけッ! 今撃たずに何時撃つのだ!? 温存して撃たぬようでは、破壊されたのと何も違わん!」
 そう、結局の所、放熱板を狙われるからと言って主砲を封印したのでは、破壊されたも一緒だ。何時撃ってくるかとの脅しにはなるかもしれないが、それが、今何になる。
「ラインホールドを狙うには火力が‥‥主砲に動きあり! 注意して!」 
 ミサイルを尽く撃ち尽くし、撤退に転じる寸前だった忌咲(ga3867)。
 彼女の視界が、主砲から眼前のモニターへと移る。その通信を受け取った者達が、ある者は情報網へ連絡を要れ、或いは知人へと通信を送り、危険空域を一斉に離れる。
 ラインホールドの主砲が、再び帯電した。
 主砲発射準備の様子は、遠目にも明らかなれば、各種戦況モニター等からもその情報が流れてくる。
 野戦テントの中に残る、負傷した傭兵達。その只中で一人、明星はモニターを見つめていた。包帯からはじっとりと血が滲み、頬を伝っている。怪我の痛みに、微かに息は荒い。
 無論バークレーに、彼の存在を関知する術は無い。
「どっちだ。本命は‥‥」
 刻一刻と迫るタイムリミット。あと数十秒で、阻止限界線を越える。主砲が振るチャージで放たれる。
「えぇい、ままよ! 三時方向のを撃――」
「第三輸送艦! 五時方向ーッ!」
「何ィ!?」
 山脈を抜け、風圧に木々を揺らし、一直線にガリーニンが突き進む。その翼には、短距離離陸用の加速ブースター、そして、成層圏への要撃に用いられた、離脱式ブースター。
 驚くべき速度で、ガリーニンが距離を詰めていく。
 主砲発射まで十秒。
 主砲は既に臨界に達し、今や遅しと砲門が開かれるのを待ちわびている。まだ、エネルギーは砲門の中に留まっているのだ。
「方向転換! 本命はそいつだッ!」
 ラインホールドはその出力の全てを賭して、急激な方向転換を試みる。巨大な怪物が振り向き、集中攻撃を受けていた脚部から火花が散る。
「――ここまでよ! 全機離脱ッ、動けぬ機には手を!」
 メアリーの怒号にも似た号令が走る。
 漸等天衝は未だ黙したままに敵機を叩き、新たなガリーニンを護衛していたGargoyle各機は、フルブーストで急速離脱を掛ける。
 モニターを眺めていた明星が、全てを見届けぬまま、遂に倒れた。
 突入するガリーニンのエンジンが、過熱に耐え切れず、爆炎を吹き上げる。
 が、もはや、そのガリーニンがどうなっていようと関係無い。
「撃てェ!」

 最大出力の主砲が、空を輝かせる。

 真正面から光を受け止めたガリーニンが、ぐにゃりと歪み、装甲が沸騰を始める。
「フハハハハ! 所詮は猿知恵だったなああああ!?」
 バークレーの高笑いが響く。
「やった‥‥やったぞ‥‥!」
「ハハハ、やった、我々の勝ちだ!」
 ブリッジクルーも互い顔を見合わせつつ、笑い声をあげる。そんな空気に馴染まず、ただ一人、秘書の女性だけが髪を揺らしてブリッジを後にする。
「奴等の、絶望に引きつった表情を見てやりたいものだな! 所詮猿は猿でしか無かったという訳だ!」
 真正面、至近距離からの主砲を浴びせられたガリーニンは遂にひしゃげ、前進を止める。
 圧力に抗されたかのようにずるりと後退したかと思うと、そのまま巨大な火球となって、ガリーニンは消滅した。G4弾頭は、火気で炸裂するような単純な構造では無い。これで爆発はしないのだ。断じて。
 そして当然、消滅するガリーニンは、本体に詰まれたG4弾頭諸共消え去る――
「こ、高エネルギー反応ッ!?」
「‥‥何だと?」
 そう、消え去る。
 今のガリーニンに積み込まれていたのならば、だ。

 刹那、ラインホールドのモニターで、何かが光り輝いた。


●とある一つの冴えたやり方
 光が晴れ渡った。
 一瞬の静寂を振り払うかのように、巨大な腕が地に突き刺さる。
 あちこちの装甲が脱落し、既に片足片腕が無く、全身に亀裂を走らせた巨人が、ぐらりと揺れた。姿勢を制御しようと、辛うじて残された推進回路が唸り声を上げる。
 凄まじい衝撃に揺さぶられたブリッジでは、クルー達がうめき声を上げつつ、起き上がり始めていた。
「‥‥‥‥」
 振動をものともしなかったバークレーただ一人だけが、呆然と立ち尽くしていた。
 だが、その表情は文字通り呆然と、何が起こったのか半ば理解できず――いや、理解はしていた。理解はしていたのだが、感情が理解を拒否させ、バークレーの意識を彼方へと追いやっていた。
 主砲が消し飛ばしたガリーニンに、G4弾頭なぞ、積載されてはいなかったのだ。
 そのガリーニンは、尤もらしく本命を装った、囮。
 大本命は、囮に見せかけた二隻の、片方だった。
 主砲発射とほぼ同時に、本命に見せかけた囮と同様の手段で、無理矢理加速させていた。弾頭は、ラインホールドの直近で爆発したのだ。
「ふ、深読みし過ぎたと言うのか‥‥?」
 ごくりと息を飲み、冷や汗を拭うバークレー。
「‥‥あ。い、いや、そうだ。エンジンがまだ生きている。主砲さえあれば、奴等を一挙に――」
「閣下ぁ!」
 折れた腕を引きずってレーダー画面へと取り付いていたオペレーターが、枯れ果てた声を捻り、ようやくの思いで悲鳴さながらの声を上げた。
「敵弐番艦、加速! 予測針路上に当艦がぁ!」
「なっ!? げ、迎撃しろ!」
「右腕部脱落! 対空砲座47%消失!」
「主砲冷却まで3分28秒!」
「装甲の冷却にエネルギーを取られています!」
「今は無理です、これじゃ出力が上がりません!」
 辛うじて生き残った砲座が、散発的な砲撃を加えるが、そんな豆鉄砲で弐番艦を止められる訳が無い。
「見せてやろう、人の強さというモノを!」
 ダメ押しとばかり、クラーク・エアハルト(ga4961)率いるシャスール・ド・リスの編隊が弐番隊をエスコートする。他にも、この機を待っていたKVが多数弐番艦の援護に回り、残されたラインホールドの砲座目掛けて攻撃を加えていく。
「伯爵様の遠距離ミサイルで、UKの往く道を」
 直江 夢理(gb3361)のKVから、K−02によるミサイルの嵐が吹き荒れる。
「伊賀越えの如く切り開きますっ!」
 弐番艦も少なくないダメージを負っている。
 だが、そこへダメージを加算する事すら許さぬ程に、彼ら支援機は片っ端から砲座を潰して回る。最早、ラインホールドに組織的な迎撃能力は残されていない。
「弐番艦が接触します、全機、安全距離まで離脱を!」
 上杉 怜央(gb5468)の言葉に一旦距離をとるKV群。
「八番ブロック沈黙!」
「左膝駆動停止!」
「砲座のコントロールが失われています!」
 部下達から次々と投げかけられる絶望的な報告を受け、バークレーはカラカラに乾いた喉で、唾を飲み込む。猿共にしてやられた――そんな唖然とした表情で、弐番艦を出迎えるしか無かった。
 再び、地震のような振動がラインホールドを襲う。
 巨大な衝角とでも呼ぶべきそのドリルが、ラインホールドの胸甲を貫き、深々とエンジン部に到達して傷つける。
 同時に、艦内全体の慣性制御を調整しきれず、床がぐらりと傾いた。既に、先程の集中攻撃によって弱っていた脚部が、G4弾頭の爆発と共に吹き飛ばされている。ラインホールドを最後まで支えていたエンジンが、活動を停止すればどうなるか。そんな事は自明の理だった。
 弐番艦が、ぐらりと傾きつつも後退を始めると共に、ラインホールドは完全に横転した。最後の一撃がエンジンを活動停止に追い込んだ。
 古来から、浮沈艦を称したモノが最後まで浮沈艦であったためしなど、ただのひとつとてありはしない。少なくとも人類の歴史ではそうであったし、今、再び人類は浮沈艦を沈めた。おそらくこれからもそうであろう。
 ラインホールドは今やただの巨大な塊となって、僅かに残された砲座が銃弾を打ち上げるのみ。それらも、残存エネルギーを使い切ると同時に撃ち止めだ。
『――どうやら、貴方様の言う「猿」とやらに完敗したようですね、バークレー様』
 突如モニターより響く、聞きなれた声に顔を上げる。
「シェイク! 貴様どこにッ!?」
 唐突な出来事に余裕を失い、声を荒げるバークレー。
 そのモニターに現れたのは、何時も隣にいたあの秘書官だ。無口で、いけすかぬ女だと思っていた。その女が、静かに告げる。
『一万三千六十五号へ。ブライトン様からの伝言です』


 周囲から駆け寄った仲間に、明星が抱き起こされる。
「大丈夫か!?」
「え、えぇ‥‥ちょっと貧血を‥‥」
「衛生兵! 早く来てくれ、衛生兵!」
 口に手を当て、大声を上げる傭兵。
 彼におぶさりながら、明星は小さく溜息を吐く。
「できるだけの事は、やったよ、僕‥‥」
 静かに伏せる瞳。彼が再び眼を覚ますのは、戦いの終結が訪れてからだった。

<担当 : 御 神 楽 >

<監修 : 音 無 奏 >

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