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<報告書は前編:後編から成る>
広域後方支援 ヤクーツク防衛 歩兵戦闘 ラインホールド攻撃
【歩兵戦闘】
●突入部隊支援
意外、いや橋頭堡確保の為に危険を顧みずにいち早く大地へと降り立ったゆえ、それは当然だろうか。一機のR−01はすぐさまアグレッシヴ・ファングを起動させて敵兵器の群に向かってグレネードを放つ。
「ふふっ、このまま滅茶苦茶にしてあげ‥‥きゃあ!?」
多重に装備したメトロニウムフレームなど無いかのように、プロトン砲によって耐久力が奪われていく。機を見て上手く降下はできたものの、敵地上部隊の猛攻によってザヴィア・メザーヘイム(gb5955)は早々の撤退を余儀なくされる。しかし、後退していく彼女の瞳には、自分の行動によって敵軍の動きが乱れたことを見逃さず次々と降下・設備の破壊を行い、ヘリ降下の為、ラインホールド突入の為、橋頭堡の確保を進めていくKV達が映っていた。
「よし、頃合だ! 取り付いてみせるっ!」
「無事に送り届けて見せますとも。自分の意地に賭けて」
ウダーチナヤパイプの入り口付近の制圧がある程度進むと、4機のリッジウェイ改が味方機の後方から駆け出していく。それぞれに傭兵達を抱えた機体を操縦しているのは、常世・阿頼耶(gb2835)、クラーク・エアハルト(ga4961)。
「さ、しっかり働いてちゃんと帰ってくるんだよ?」
「気をつけて行ってらっしゃい、必ず帰って来て顔を見せて頂戴ね、約束よ」
そして、Fog Timber(ga4060)、、白皇院・聖(gb2044)の4名だ。
殆どがラインホールド側の突入援護に向かっているため、彼等を小隊として支援してくれているのは【月狼】ぐらいのものなのだが、早期にラインホールド側で橋頭堡確保の為の戦闘が開始されたために、敵の目と戦力はそちらを向いていた。
「生身で相手するには厳しい相手はこっちで! 代わりに中は任せた!」
「リッジウェイの傍で、爆発はさせない!」
それに、単独参加ではあるが、D=モリス(gb4317)やフィル・フォーチュン(ga6082)は、あくまで歩兵部隊の援護であることを念頭に入れて、突撃仕様ガドリング砲とライフル、バルカンにて歩兵部隊にとって脅威となる敵を優先して撃破している。歩兵部隊やそれを運ぶリッジウェイに極力被害が出ないように戦闘したため、彼等の機体はいつも以上に消耗していったが、それによる成果は4機のリッジウェイがパイプ入り口に辿り着いた時の損傷具合を見れば明らかだった。
「偵察に来たときに拝見しましたから、亀さんが隠れてるのはお見通しです!」
それに、偵察任務として一度ウダーチナヤパイプへ潜入したことのある須磨井 礼二(gb2034)のような者もいる。突入部隊の人数を運ぶのに十分な数のリッジウェイ改が用意されていたことも手伝って、ウダーチナヤパイプへの傭兵部隊の突入は順調に進んでいった。
「君たち邪魔だって、もー」
一方、ラインホールドのヘルメットワーム格納庫を目指して飛行していたヘリだが、前述のように早期に橋頭堡確保が開始されたのはいいが、一向に降下を行えるほどの状況にはならなかった。ヘルメットワーム格納庫に降り立った箱守睦(gb4462)は敵戦力の撃破を目指すが、はっきり言って手数が全然足らない。
「煙幕弾を使用する、降下を!」
「先に降りて格納庫内の敵戦力の目を引くか無力化してくれ! そうでなければヘリでは近づくことすらできん!」
『煙幕弾を撃つから降下を行ってくれ』という傭兵の要請は、ヘリに搭乗したUPC軍の兵士に却下された。
【ガーデン・フリージア】、【ガーデン・バーベナ隊】、【ガーデン・デイジー隊】、【ガーデン・アイリス隊】らを中心とした各小隊による統率の取れた編隊に守られ、超低空を飛行するという難度の高い行動であるにも関わらず、ラインホール近くまでは順調に進んでくることはできたが、そこから先が続かなかった。
傭兵達はヘリを護衛することについて良く考え、十分な作戦を立てていたが、橋頭堡の確保を行う部隊の数が足りていなかったのだ。結果、ウダーチナヤパイプ側に比べ、ラインホールド側は割かれた戦力も多かったが、歩兵部隊が突入できた時刻は、予定時刻よりも少々遅れてしまう結果となった。
●2度目の侵入
各部隊にいるエキスパートが、探査の眼を使用してラインホールド内部にトラップが設置されていないかを探っていく。しかし、これといってトラップは発見できない。侵入者を検知するための装置はあるようだが、侵入者を撃退するための力は別にあるようだ。
(「居たわね‥‥」)
角を曲がった先の通路に、おそらく強化人間と思われるバグアの兵士を確認したラミア=I=バークレイ(gb1967)は、閃光手榴弾のピンを抜くとタイミングを計って通路へと投げ込む。数秒後に通路から放たれる強力な閃光、それを合図に傭兵達は突入していく。
「突撃ーっ!」
「お仕事お仕事‥‥」
インサージェントを携えて、【リンガーベル】の紫藤 望(gb2057)が同伴していた【G.B.H】の面々と共に斬り込んでいくのを、ミステイク(gb2775)が小銃「シエルクライン」で援護する。しかし、閃光手榴弾による目晦ましを受けていた敵兵は、彼等の集中攻撃を受けたにも関わらず、数回の斬り合い、撃ち合いをした後に倒れることなく撤退をしていく。
「追撃は‥‥する余裕はねえか」
敵兵を撤退させたにもかかわらず、傭兵達の受けた被害は決して少なくは無い。
流石に敵重要兵器内部といったところだろうか、他の部隊から届く報告にも接触した敵戦力は全て人型。中には人型のキメラも居るようで、それらは比較的弱いようだが、バグアに強化された人間やバグアのヨリシロとなった人間となった存在は別格。数人がかりでようやく勝負になるといったところだ。
「分かれ道だ‥‥アレックス、どうする?」
先ほどの戦闘を行った箇所から少し進むと、通路は二手に分かれていた。小隊長であるアレックス(gb3735)の判断を仰ぐ、トリシア・トールズソン(gb4346)。しばらくの時間が経過した後【G.B.H】の下した決断は、一旦分かれて進む、というものだった。
元々、必要に応じて合流と分離を行う予定だった【リンガーベル】はこれを承諾する。
確かに被害は少なくなかったが、ラインホールド内部は狭い。小隊員だけでなく他の傭兵も加わっている状況で、サンディ(gb4343)やマリアベル(gb4430)のように先ほどの戦闘で上手く攻撃に加われて無かった者もいる。アレックスは、ここは二手に分かれた方が効率良く戦闘できると判断したのだ。
「おりゃー! ぶっぱで馬鹿で直球勝負チームの御通りだーい!」
「こんのぉ! 早くぶっ壊れろってのー!!」
斑鳩・眩(ga1433)やアリス・L・イーグル(gb0667)を始めとした、【ラーズグリーズ隊】のβ班がラインホールド内部の一室を破壊している。パネルや板をひっぺがし、剥き出た配線を切り裂いていく。
「さぁて、お客さんのご来店だ! お前等、さっさとぶっ壊せよ!」
その部屋の前の通路では、コンユンクシオを構えた小隊長ブレイズ・S・イーグル(ga7498)が率いるα班が敵の迎撃を行っていた。
「やれやれ、お出迎えが多くてありがたいことですね‥‥っと!」
侵入した敵兵器内で迎撃‥‥というのも一見妙な話だが、傭兵達が手持ちの武器で破壊工作を行うためには一定時間一箇所に留まるしかなく、そして留まっていればそこへと敵の部隊がやってくる。
「若い人には負けていられませんからね」
月詠やルベウスを携え、敵前へと躍り出る旭(ga6764)やクレイフェル(ga0435)。他の隊員も負けずと得物を振るうが、敵兵一体一体が思っていたよりも強い。迎撃行動には統率・連携がとれていたが、それでも前面へと出ている傭兵達は確実と体力を奪われていく。
「まだ来るのか。‥‥こりゃァ、簡単には退けねェな」
「私は、さっさと終わらせてボルシチでも食べたいわね」
また新たに現れた敵増援をアサルトライフルの照準先に捉えながら、うんざりして言葉を吐いたヤコブ・パブロフ(gb2918)に返すように、冴城 アスカ(gb4188)が部屋から出てきた。どうやら、内部の破壊工作は一段落したようだ。β班の隊員を戦列に加えた【ラーズグリーズ隊】は敵戦力を退け、次の破壊工作ポイントを探して移動を開始する。
「爆破されて困るのは、冷却設備だけじゃねぇよなぁ〜ッ!」
天道・大河(ga9197)ら【とらとら☆ぷらとーん】も、ラインホールド腕部を目指しながら各所に破壊工作を行っていた。彼等はアルコール度数の高い酒を撒いて火をつけるなどしていたが、残念ながらラインホールド内部はそれぐらいでは燃え広がるようなことはなかった。
他にも個人で動く傭兵達はそれぞれに破壊工作を進めていたが、一向にラインホールドはその動きを鈍らせる気配が無い。末端を多少潰したところで、本体の活動には微塵も影響は無い。そういうことだろう。
「さて、大きな情報でもあるかなー?」
「データは‥‥ダメね。引き出せそうにないわ」
そして、傭兵の中には黒羽 怜(ga8642)やメティス・ステンノー(ga8243)のように、何かの端末らしきものから情報を引き出そうとする者もいたが、戦闘時という事や以前に一度侵入を許している事もあってなのかそれらにはロックがかかっているようで、いくら操作しても何も反応を示さなかった。
●露天掘りの鉱山
ウダーチナヤパイプに建設中の、ゲートと呼ばれる施設へと進軍を続ける傭兵達も、ラインホールド側と同様に探査の眼を使用したエキスパート達が先行して道を切り拓いていく。
「食い込んだはいいが、長引くと不利だな」
物陰に潜んでいたバグア兵の奇襲を読み、傍にいた傭兵達と共同で迎撃に成功した水円・一(gb0495)だったが、受けた手傷に応急処置を施しながら一体の戦闘力がキメラの比ではない事を感じていた。ウダーチナヤパイプ側もラインホールドと同じく、入り口付近にはキメラの群れが多かったものの、一旦内部へと入ってしまえば、殆どが人型をしたバグアの兵隊だった。
「あちゃー。迂回路も敵さんでいっぱいや」
急がば回れ。ウダーチナヤパイプの最深部へと到達するために最適な経路を探していたミゲル・メンドゥーサ(gb2200)だったが、どの通路にもしっかりと配備された敵兵に表情を歪ませ、他の部隊へとそれを報告する。
「資材はあっても資料の類は無いわね‥‥」
同じく本隊が進んでいる経路とは違う経路を進んでいたLilli(gb5853)だったが、周囲を探っても出てくるのは建設用の素材ばかり。ゲートやバグアに関する情報を入手するには、まず最深部まで辿り着く必要があるようだ。
「だが、立ち塞がるなら押し通るまで‥‥!」
「拙者も手伝わせてもらうでござる!」
先ほどの奇襲のお返しとばかりに、煉条トヲイ(ga0236)と雲空獣兵衛(gb4393)が先陣を切って人型キメラを引き連れた強化人間へと攻撃を開始。シュナイザーと雲隠が、その存在に気づいた直後のキメラを命を刈り取っていく。それに【アクアリウム】と【裏飯屋】の傭兵達が続いていった。
主経路で主に戦闘を行っているのは【月狼】の各部隊、そして坑道などの脇道では上記の彼等。どちらでも突入した傭兵達と防衛の任に当たっているバグア兵と放し飼いにされたキメラの戦闘が激化していく傍らで、敵設備の破壊を積極的に行っている部隊があった。
「敵地潜入は忍びの得意分野、誇りに懸け必ずや皆様とゲート破壊の足掛かりを!」
「一緒なら平気‥‥どんな困難も力合わせて! 必殺中佐アッパー!」
直江 夢理(gb3361)や水理 和奏(ga1500)ら、【シャスール・ド・リス】だ。
彼女らは敵兵と戦闘を行うようよりも敵施設や敵の対空兵器の破壊を優先して行っていた。中には小回りの利かない兵器、つまりはKVで破壊するには反撃が怖いが、生身の傭兵であれば比較的容易に破壊できる存在があった。
「皆頑張っているんだ、僕だって!」
小隊に参加せずに動くプリセラ・ヴァステル(gb3835)も弾頭矢にて次々と敵の施設を爆破して、その破壊工作の後押しをしていく。この活躍は単に退路確保や現在歩兵部隊支援の為に戦っているKV達の行動を助けるだけでなく、次フェイズに予定された再度侵攻の難度を効率良く落としていった。
だが、傭兵達のその進撃の陰に、一つ不安要素があった。
「くそ、どうなってんだよ。情報網は!」
バグアより傍受されていることを示唆されたことによって、一部が独自に暗号を使ったり冗長的な言葉を混ぜたりしたため、ただ接続すればそれで問題無いと思っていた傭兵にとって、[L]を始めとした傭兵達が構築した情報網はその機能を大きく落としていた。暗号や冗長句を使用した傭兵達に悪気は無いのだろうが、それらは軍全体でどんな方式を取るのか共通認識がなければどうにもならないのだ。
特に敵兵器や施設に突入することになった傭兵達にとっては、【歩兵小隊ゾルダート】が設置した無線中継装置の効果を得てなお通信内容をはっきり聞き取れるケースも多くなかったため、最早全く役に立たなかったと言ってもよい程だったのだ。
●不意の遭遇
「親バグアの人間は、乗り込んでいない‥‥?」
榎木津 礼二(gb1953)は、ラインホールド内に親バグアの人間が居れば捕縛するつもりだったのだが、仲間である【竜装騎兵】を援護をしつつアンチマテリアルライフルのスコープ先に映る敵を観察していると、その内に敵の人員は全てバグアの兵となっている存在ばかりであるのに気づいた。
そして、その【竜装騎兵】とそれに同行する傭兵達の進むルート上に数人のバグア兵が現れる。その内の一人は‥‥
『チッ‥‥傍受したって混乱してんのが判るだけじゃねえか』
(「アスレード‥‥!」)
その姿を確認すると同時、ティーゼル(gb2001)は閃光手榴弾を転がし、呼笛を吹く。だが、閃光手榴弾がその効果を発揮するまでにはいくばくかの時間が必要であり、その時間はゾディアックとして身体を強化された相手との戦闘においては、あまりにも長すぎる時間だった。
「この刃の糧となり散れ!」
「ここが先途。私らの後ろの百億の人々の為なら!」
(「この得物では戦闘にはあまり向かんか!?」)
ティーゼルの行動の不発を受け、二条 更紗(gb1862)、キャプテン・エミター(gb5340)、郷田 信一郎(gb5079)らがイアリス、機械剣α、100tハンマーでもって次々と攻撃を仕掛けるが、全て回避されて手痛い反撃を受ける。盾による防御もとてもではないが間に合わない。
(「これほどまでなのか! バグアの強化措置というものは!」)
流石に一撃でダウンさせられるほど化け物じみてはいないが、ただ一撃貰っただけとは思えない程のダメージを受け、3名は一旦相手との距離を取る。
「これで飛ばされな!」
彼等の受けた被害にひるまず、更に攻撃を重ねるために竜の咆哮を使用した五條 朱鳥(gb2964)は、敵の体を捉え、確かに相手の体少し吹き飛ばしたが、全くといっていいほどダメージが通っているようには見られない。
『ゾディアックのリーダーである俺様を、そこらの奴と同じにしてもらっちゃ困るぜ!』
自身の体が意に反して10m前後も動かされるのは少々予想外だったのか、アスレードは声を張り上げて反撃を行ってくる。もし、さっきの好機に誰か攻撃を重ねることを想定していたならば、朱鳥がAU-KVの装甲を砕かれるような事も無かったかもしれない。
「くそ、やられるワケにはいかねぇ!」
(「ここを乗り切る事さえ出来れば!」)
姫咲 翼(gb2014)と嵐 一人(gb1968)が、取り巻きのバグア兵に対して同時に斬りかかり、そこを柿原 錬(gb1931)がトドメを刺す。それまでの戦闘で手傷を負っていた敵兵は、断末魔の鳴き声を上げてその場に崩れ落ちた。
彼等と同様にして、傭兵達は取り巻きのバグア兵はなんとか倒していけたが、敵の指揮官である奴の戦闘能力が別格すぎる。倒すためだけに戦闘方法を考慮することができていれば話も別だろうが、不慮の遭遇戦では傭兵達にとって不利すぎたのだ。
傭兵達の攻撃は一撃、二撃とアスレードを捉え、追い詰めていっているようには見えたが、それ以上に自分達の被害の増え方が異常すぎた。既に【竜装騎兵】の華組は崩壊、同行していた傭兵達も前へと出て戦闘を行っていた者は似たような状況だ。殿として撤退時に動く部隊である雪組まで同様の事態に陥っては、たとえここでアスレードを倒せたとしてもラインホールドからの脱出が適わない。
(「撤退するほかないか」)
元々、強化人間と相対した場合には早期の撤退を考えていたベーオウルフ(ga3640)は、【竜装騎兵】の撤退を支援しながらラインホールドからの脱出を目指す。白野威 奏良(gb0480)投げた閃光手榴弾が爆発するのに合わせ、傭兵達は手際よく後退を開始していった。
『バークレー、侵入者なら尻尾巻いて逃げやがったぜ』
内心『ようやく撤退しやがったか』と安堵しながら、ジョージ・バークレーからの通信にアスレードはそう返す。彼の周囲には、引き連れてきた人型キメラが少し前から全て骸となって転がっていたのだ。
●最深部、到達
「ここが最深部か‥‥?」
ウダーチナヤパイプに侵攻していた傭兵達は、ついにその最深部に辿りついた。
「‥‥これ、なんでしょう‥‥?」
【月狼】のルアム フロンティア(ga4347)が周囲を見渡すが、未完成の敵施設は円状に設備を建設しているといったことぐらいしか分からず、またその設備自体も動力はどう伝えるつもりなのか、どのパーツが何の役割を担っているのか、全く分からなかった。
「バグアと地球の科学力の差を見せつけられた気分ね」
同じく周囲を見渡しながら、どこへ爆薬を設置したものかと考えていたシャレム・グラン(ga6298)だったが、優先して破壊すべき目標に見当がつけられないというのは、何とも歯痒かった。だが、そろそろ作戦予定時刻を過ぎる。パイプ入り口で退路を確保している部隊も一旦後退して整備を受けなければ、かなりの改造を施している機体であっても持ちそうにない。
「其の秘密‥‥暴かせて頂きます。そして必ずこの施設は完成させません‥‥」
【月狼】小隊長、月影・白夜(gb1971)は、次フェイズこそは必ずこの建設中の敵施設が日の目を見ることを許さずに破壊してしまう事を誓い、各部隊へ今フェイズは現時刻をもって撤退を開始するように通達した。
「焦らずに! そうすればキメラなどに遅れは取らないでしょう」
後退を開始した傭兵達を、退路確保を優先としてキメラの排除を行っていたアイロン・ブラッドリィ(ga1067)が先導する。彼女の小隊【AidFeather】は突入部隊支援の為、一旦排除したキメラが外から内部へと入りこまないよう、パイプ入り口付近で戦闘を続けている。
「おいおい、仕掛けるそばから引っかかるなよ!」
後退と同時に各種トラップを仕掛けていたクライブ=ハーグマン(ga8022)だったが、敵も必死なのかキメラを次々と繰り出してくるため、お世辞にも知能が高いとはいえないキメラ達が仕掛けたそばからその体で罠を解除していく。
「後退が始まった‥‥?」
パイプ入り口から少し侵入した地点にて、負傷者の対応に当たっていたクライスト・イラ(ga2933)の所にも、傭兵達が一旦後退を開始したという情報が伝わってきた。だが、応急処置は済んだものの自力では動けない傭兵も中にはいる。
「動けない人は俺が抱えていきます!」
だが、ティム・ウェンライト(gb4274)が名乗りを上げた事をキッカケに、比較的に軽傷で済んでいる傭兵達も次々と手を挙げ、重傷を負って自力では撤退できない仲間を抱え、彼等後方支援の部隊はウダーチナヤパイプを後にしていったのだった。
「くそ、限界だ! やっぱりこちら側の戦力が足りない!」
そう叫んだのは突入援護を行っていた傭兵の誰だろうか。ウダーチナヤパイプ側は冒頭に述べたように十分な数のリッジウェイが確保でき、頭数こそ少なかったが歩兵援護を念頭に入れて行動していた者がいた為、突入段階ではスムーズに作戦を進めることができた。だが、割かれた戦力の不足はフェイズ終盤になって顕著にその問題を露呈させ、バグア軍の追撃を逃れる事が出来ずに、撤退する傭兵達の何人が手酷い傷を負う結果となってしまった。
しかし、結果としてはウダーチナヤパイプへと突入した傭兵達は、今フェイズにて最深部まで到達。劣勢に立たされたバグア軍は、戦力を振り絞って抵抗を行ってくる事が考えられるが、このまま油断なく制圧を進めていけばウダーチナヤパイプ側は作戦目標を達成する事ができるだろう。
●方針変更
一方、ラインホールドに突入した傭兵達は、その強固な防衛機構と内部の戦力に撤退を余儀なくされていた。
「ダメですね‥‥隔壁が多すぎます。7500万C‥‥あ、いや、指揮系統を押さえた方が良さそうです」
GIN(gb1904)と橘川 海(gb4179)、2名のドラグーンを先頭に、比較的順調にラインホールドの主砲を目指していた【ラウンドナイツ】だったが、多数の隔壁によってこれ以上の進軍を諦めるしかなかった。彼等小隊と行動を共にしている鳴神 伊織(ga0421)を始め、皆疲労の色が濃い。
それに、人型キメラはともかく強化人間やヨリシロといった敵兵は多少の手傷を負った時点ですぐに後退をしている。まだ、戦闘能力は十分に持ったまま、ということだ。このままギリギリまで戦い続けては、撤退時にそれらの追撃を受けた場合が非常に危険だ。
「これを装填する機会はありませんでしたか‥‥」
「残念ね。中からボロボロにしてあげたかったのに」
綾野 断真(ga6621)やFortune(gb1380)は温存していた貫通弾や弾頭矢が無駄になったと嘆いたが、おそらくラインホールドにはもう一度、次は指令系統の制圧を目指して乗り込むことになるため、まだ使用する機会はある。
ラインホールドに傭兵達が突入して一定時間が過ぎた時、司令部は方針変更を通達した。
「やっぱり、落とすなら頭からってことかな?」
「じゃあ俺らの成果ってさー、ある意味最強じゃん?」
前述のラインホールドの非常に優秀なダメージコントロール能力、内部突入部隊に対しては多重に用意された隔壁と何重にも冗長化されている通信系統によって、傭兵達の各種行動目標達成は大きく阻害されていた。各所にあった部屋や施設などは制圧、破壊を行うことができたが、ラインホールドは一向にその動きを衰えさせる気配が無い。
これを受けて、司令部はラインホールドへは破壊工作を中断し、その指揮系統を掌握することで無力化を行う方針へと転換することを決定した。空閑 ハバキ(ga5172)やOZ(ga4015)が所属する小隊、【H―DM2】が取っていたブリッジを目指す行為やその過程によって得ることが出来た情報は、次回の作戦行動に少なからず寄与することになるだろう。
<担当 : MOB >
【ラインホールド攻撃】
「ProgramGr2.1起動‥‥」
秋月 祐介(ga6378)とリリー・W・オオトリ(gb2834)がユニヴァースナイトの管制室で各種モニターと睨めっこを続けていた。モニターに表示される、敵味方双方の戦力情報。共に、増強されている。こちらには一番艦が合流したとは言え、油断は許されぬ。
「こちら睡蓮(gb3082)。接続状況良好ですの‥‥」
380戦術戦闘飛行隊は、二人を管制室に置いて情報を解析させる一方、ユニヴァースナイトへの接近を試みる敵を始末して廻っていた。
「敵の攻撃は散発的なようですね」
フィルト=リンク(gb5706)のような、単独参加ながら協力する傭兵もいれば、また、能動的に動く小隊にしても、一方的に追い返すばかりが芸ではない。
「散開だ、誘い込んで各個撃破する」
『了解!』
暁・N・リトヴァク(ga6931)の指示に返事を返す、天衝遊撃隊の面々。彼らはあえて少数の敵前進を許す事で、それらをユニヴァースナイトの砲撃と連携しつつ駆逐していく。敵キメラ等は主に木々の合間から上昇して来るが、警戒態勢を敷いた傭兵達の前に、もぐら叩きの要領で各個撃破されていった。
ユニヴァースナイトが少しずつ前進する一方で、艦艇の護衛もそこそこに、数多くの傭兵達が様々な方面より『ゲート』目指して浸透しつつあった。
その中には空戦部隊もあったが、その一角を、突如としてレーザーの束が襲い、やや遅れて複雑な機動を描くホーミングミサイルが迫る。
「きゃあ!?」
「むう、狙いは妾か‥‥!」
リディア・クライブス(gb1550)のウーフーが機を捻ると同時、九頭龍・聖華(gb4305)は、可愛らしい顔で古風に呻き、イビルアイズにロックオンキャンセラーを起動させて射程外への離脱を試みる。
ホーミングレーザーが掠め、バランスを崩すウーフー。
その背を超えて飛んだミサイルが、イビルアイズの脇で炸裂した。
「‥‥これ以上の空路接近は危険だ」
「聞こえるか。こちら時任。『L』へ、この先へアグリッパが展開している」
『こちらサイレントヴェール。了解したわ』
時任 絃也(ga0983)の通信に応じ、返信を出す名居振吏 天乃(gb4291)。
情報網『L』を通じて配信される情報は、ユグドラシル等の各隊を経て、前線へと走り、やがてその『結界』とでも呼ぶべき要警戒範囲が割り出されて行く。中でも小隊『咎人』は、そのアグリッパ探索を主目的として、東南東の方角から前進を続けていた。
「正確には確認できませんが、この方向に違いありません。アグリッパです」
蓮角(ga9810)の報告が飛んだ。最前列、ティーダ(ga7172)の掲げるアイギスに護られて、彼のウーフーがレドームを折りたたむ。アグリッパの方角へと機首を向ける、傭兵達のKV。
ケルベロスの群れが木々を薙ぎ倒して傭兵達の先頭部隊へ一斉に襲い掛かるや、咎人の中からS−01が飛び出した。
「隊長、前に出ます!」
「無理はするな!」
「私、斬るしか能が無いもので!」
片桐 綾乃(gb3443)の機だ。彼女は腰を屈ませてヒートディフェンダーを振るい、ケルベロスの首元を出力の限り掻っ切った。飛び散る鮮血。返り血に赤く染まるS−01。
白黒二頭の狼が駆けるエンブレムの一群が、タイガの中に散開する。
サヴィーネ=シュルツ(ga7445)のイビルアイズが、シベリアの凍土を踏みしめた。
「後より出でて先に断つ‥‥!」
掲げたスラスターライフルが連続して弾丸を吐き出す。
しかしばら撒かれた弾丸は、敵キメラ群の先頭を飛び越える。彼等が次々放った攻撃は、敵部隊を前後に分断する為のものだった。激しい銃撃に怯むキメラ。ひなた(gb3197)機がうち一匹に狙いを定めてパイルバンカーを打ち込むと、動きの鈍ったその一匹目掛け、後続機が本命打を叩き込む。
猛攻にうろたえるキメラ。
駄目押しに炸裂するグレネードが、敵中に孔を穿った。
「っしゃ〜! 死にたくなけりゃ退がれ〜!」
コックピットでガッツポーズを決めるロジャー・藤原(ga8212)。その一撃が最後の一押しとなって、わっとKVが雪崩れ込む。
「ラインホールドに届かなくとも、アグリッパの一基は確実に落とす‥‥ッ!」
LYNX所属機、オリヴァー・ジョナス(ga5109)のアヌビスがD−02スナイパーライフルで敵機を狙った。幾ばくかのゴーレムがアグリッパへの攻撃を阻もうと立ちはだかるが、ある機は前衛部隊の斬撃に切り伏せられ、また或いは彼の放ったような支援攻撃に撃ち砕かれていく。
「アグリッパ確認‥‥周辺にゴーレム多数ですっ」
グレン・アシュテイア(gb4293)がウーフーのコックピットで吼えた。
「構わなくて良い。アグリッパを破壊すれば勝ちだ」
暁の騎士団小隊長、ヴォルク・ホルス(ga5761)がにやりと笑みを浮かべた。三方に展開した小隊機が、ゴーレムからのダメージまでも無視し、アグリッパへの一撃を加える。
攻撃に、アグリッパが浮き足立った。
周囲を固めるゴーレムはまだ数多い、が、これ以上ぐずぐずしていると機を逸すると見たのだろう。本格的に移動する為、アグリッパが変形を開始する。
「突入するから支援して下さらない?」
乱戦の最中、槇島 レイナ(ga5162)のスカイスクレイパーが、何機かのフリーの傭兵と共に低空を飛ぶ、霧島 亜夜(ga3511)のKVへと通信を送った。
「報酬は一日メイドなんてどう!?」
「解っ‥‥えっ!?」
思わず声をあげる霧島。
そんな夫のウーフーを追い越して、キョーコ・クルック(ga4770)のアンジェリカが加速する。
「メイドは間に合ってるのよ!」
ブーストによる加速と同時に、低空からフレア弾が投下される。
アグリッパ周辺を舐め回す炎。フレア弾ではろくなダメージを与えられはしないものの、それはそれ。派手な炎は、護衛のゴーレムを惑わすだけなら十分だ。
「今だっ!」
ラウラ・ブレイク(gb1395)のアンジェリカが炎の中へ分け入る。
アンジェリカの掴んだビームコーティングアクスが、炎に照らされる。彼女の接近を察知したゴーレムが、アグリッパへの接近を阻止せんと、大型の実剣を振るい、刃を打ち据える。
その一瞬に、交錯する。
彼女は二撃めを切り結ぼうともせず、惜しげもなく得物を手放すや、アンジェリカのスタビライザが、機体に無茶な機動を描かせる。
「残念、そっちはフェイク――」
そのままゴーレムの脇をすり抜ける。
「――アンテナさえ壊せば、もう役立たずでしょう?」
死角を縫うアンジェリカ。エンハンサによって限界まで出力を上げた練剣「雪村」が、そのエネルギーの奔流が、アグリッパのアンテナを一撃の下に撫で斬った。
●バグアの事情
「バルビエル、ロスト!」
「チッ、やってくれる!」
オペレーターの報告に苛立ち、舌打ちを漏らすバークレー。
「アスレードを呼び出せ」
「ハ、直ちに」
オペレーターが応じるや、バークレーの立つ指揮官席近くのモニターに、アスレードの顔が映し出された。
『よう、何だ?』
「呑気なものだ。何故敵機の迎撃に上がらない」
じろりとバークレーが睨み据える。
アスレードは喉を鳴らし、楽しげな表情で、指を通した指出しグローブを見せ付ける。
『俺はコッチの方が好みでな。好きにさせて貰うぜ』
「好きにしろ! ジェミニはどうした」
『俺が知るかよ』
両肩を竦め、笑みを浮かべる。
『片割れはコックピットの中でへたばってたぜ。貧血か何かじゃねえの』
「‥‥何ィ?」
『チョコでも食わせときゃ何とかなんだろ』
「ふざけるんじゃあない! ゾディアック共の管理は、元々貴様の管轄だろうが! えぇっ!?」
『あんな自己中集団のお守りをやれってのか? 冗談はやめてくれ』
「貴様あっ! ふざけるなと言っているのが――」
更に怒鳴り散らす素振りを見せたバークレーを前にして、しかしアスレードは、突然大声を張り上げる。
『おぉっと敵襲ーッ!』
ぶつりと、映像が途切れた。
「つ、通信、途絶しまし‥‥」
突如、バークレーが机を殴りつけた。
平静な秘書に、ざわめくブリッジクルー。金属製の机が、陥没しかねぬ程にへこんでいる。そっと離した拳をゴキゴキと鳴らしながら、バークレーはじろりとモニターを睨む。
「‥‥副砲に対空弾を装填しろ!」
「え。あ、ハッ!」
怒号のようなその指令に、任務へ取り掛かるクルー。
「敵先頭集団には、本星型をぶつけるぞ! 副砲によって乱れた敵陣へ突入させるのだ!」
次第に激しくなる迎撃の最中を、傭兵達のKVが飛んでいた。
しかし、本来ルート上に位置していたアグリッパは既に無く、配置換えによって侵攻ルートの一部を結界の範囲内へと納めていたアグリッパ・バルビエルもまた、傭兵達自身の手によって撃破された。眼の役割を果たすべきアグリッパが欠ける事による結界の有無だけでも、迎撃の激しさには大きな差が生ずる。
遠方より迫る副砲の攻撃に、傭兵達は一斉に散った。
逃げ出す彼らを追いかける散弾が、辺り一面を覆いつくす。一度広がった散弾の余韻が晴れ渡る中、フィリス・シンクレア(ga8716)がコックピットで面を上げた。
「前方10時方向、来ます。新型!」
先の一戦で少なからず辛酸を舐めさせられた新型HWの影。それを認めるや、月狼第一中隊が動いた。
新型ヘルメットワームの数は五機。
それぞれの後方に、三機ずつの通常型ヘルメットワームが付随している。
通常のヘルメットワームに比べ、『尾』とでも表すべき箇所が後方に長く広がり、節足動物の脚部にも見える部分はより鋭利で、全体的に、やや生物的な印象を受けた。
「何だ!? 雑魚座野郎じゃないのか?」
機体のエンブレム等を探して、百瀬 香澄(ga4089)は眉を持ち上げる。だが、相手がアスレードでなくとも作戦に変わり無い。並ぶ天衝の小隊も月狼と同時に動きをみせた。
「神威班、散開!」
漸 王零(ga2930)の号令に、編隊が揺れる。
数十機連なる天衝のKV部隊が、一斉に火を吐いた。辺り一面を覆う弾幕が、壁となって敵へ迫る。次々と火を吹き上げ、爆発するヘルメットワームやキメラ。
「一機、いや二機仕留めた!」
狭間 久志(ga9021)がハヤブサの翼を翻す。
「ならコイツが三機めにな‥‥くっ!?」
続けてヘルメットワームを仕留めた春風翼(gb3009)の翔幻が、プロトン砲に翼を焦がされる。直後、プロトン砲の主が高分子レーザーの針に貫かれる。
「意外と手強いわ。連携に穴を開けないで!」
聖昭子(ga9290)の機だった。
思わぬ反撃を受け、爪牙隊目掛けて殺到する敵群。その先頭には、新型の姿。その攻撃を押さえ込まんとして、八神零(ga7992)のディアブロが割り込んだ。
アグレッシブフォースが発動され、機体出力が上昇する。
「随分と硬いようだが‥‥!」
これならどうだとまでは、彼は言わなかった。
だが、戦場を一直線に駆け抜けるディアブロの翼が鋭利な刃を敵に向け、新型を切り刻んだと思えば、誰もが眼を見張る。刃が接触して、金属音を散らせる。アグレッシブフォースまでも併用した強力な一撃ではあったが、やはり、大きなダメージが通らない。
無論、二の轍を踏む必要は無い。
天衝の攻撃が、やはり本命の新型を撃破出来なかった事を知ると、月狼は朧月に持つ込む事なく散開する。
シフォン・ノワール(gb1531)のアヌビスが、機を躍らせながら鬼火をばら撒いた。同様に、煙幕を持つ機は煙幕を、翔幻であれば幻霧を周囲へ展開し、新型を包み込む。
「胡散臭ぇ無敵だなっ」
着地したユウ・エメルスン(ga7691)のアヌビスが、ヒートディフェンダーを手に飛び上がる。
低空で煙に巻かれていたヘルメットワーム目掛け、ナタを振るった。鈍い音だけが辺りに響く。先程、天衝の八神が仕掛けたソードウィングと、そのダメージはさほど変わらないように思えた。
「何か‥‥何か特徴がある筈だけど‥‥!」
激しい戦闘の中、神浦 麗歌(gb0922)はその何かが解らずに歯噛みするしかなかった。
「落とせなくったって! 本命の攻撃部隊にゃいかせねーよっ!」
鴉神 紅羽(gb4338)のR−01がガトリングから弾丸をばら撒き、生じた隙に、すかさず『パンテオン』のミサイル群が雪崩れ込む。ヴァン・ソード(gb2542)のロングボウだ。
入れ替わり立ち代りの攻撃に、耐え切る新型。
だが、しかし――
『こんな大部隊を相手にし続けろってのか!?』
有効打を見つけられぬ傭兵達に対して、新型の操縦者は焦りを見せていた。ダメージは大した事無い。が、彼らはアスレードのようなトップクラスのエースではなく、そう気楽に構えている訳にも行かなかった。
『このままじゃ孤立する‥‥』
『ヤルサス! ゾディアックを寄越せば良いものを!』
『だが、ギルマンの旦那は死んだって話だ』
彼等バグア兵は、他愛無い会話ではあったものの、迂闊にも通常回線を用いて通信をやり取りしていた。それらには、かなりの割合で聞いた事も無いような言語が混じってはいたが、しかし、乱戦の最中であっても、微かにこれを拾うのに成功した者もいる。
「ギルマンは死んだ?」
フィオナ・フレーバー(gb0176)の一言に、聖・真琴(ga1622)が顔を上げる。ギルマン対策が空振りとなった。G4弾輸送における殊勲が声高に喧伝されるのはこれより少し後のことである。
素早く気持ちを切り替えて、彼らは突出するT−ストーンに追随する。
フィオナ・シュトリエ(gb0790)の雷電がガトリング砲から弾丸を撃ちこむと、御凪 由梨香(ga8726)はディアブロを飛び掛らせ、ディフェンダーの一撃でもってゴーレムを叩き伏せる。
「なら。今いるので主力は全部って事だね!」
「よぉし、ガンガン行くよ!」
ディアブロを前面に押し出して、火力で敵を押し込んで行く。彼等地上を進む傭兵達は、少しずつ、しかし確実にラインホールドとの距離を詰めて行った。
●急降下爆撃
「敵主砲、展開されません」
アーシュ・オブライエン(gb5460)の報告に、ミハイル中佐は押し黙った。
口元に手をやり、地図を睨み付ける。あの主砲は絶大な破壊力を見せ付けてくれており、被害が出ないのはありがたいが、しかし。あの冷却装置を破壊する為に多数の傭兵が展開している。
このままでは、彼らは攻撃を仕掛ける事ができないままだ。
何らかの手段で主砲発射を誘発できれば、被害を最小限に抑えられたろうが、今から緻密な作戦を立てればかえって混乱が生じる。
弐番艦の艦橋で、ブラッド准将が立ち上がった。
「‥‥よし。ユニヴァースナイト両艦を囮として主砲を展開させる」
「閣下、危険です!」
「止むを得ん。敵の様子を良く監視し、危険と見たら一気に離脱するのだ」
戦場の一角を飛ぶロングボウ。
「こちら伝書鳩。ユニヴァースナイトが囮となって主砲発射を誘う。各機、攻撃準備を」
ハルベルト(gb3816)の声が、無線に乗る。
情報網や近隣の傭兵からと様々な手段でその情報を得て、傭兵達がじっと息を殺し、或いは進路を妨害する敵機を撃破して、ラインホールドの動きを注視する。
「二時方向に敵集団捕捉っ、付近の友軍は対応をお願いします!」
要請を発して、叢雲(ga2494)もまた、近隣の同僚と共に機を突っ込ませる。同様に敵中に分け入った蓮杖 美影(ga6495)のバイパーが、キメラにミサイルを叩き込んだ。
「ここは任せて先に行け」と言いたいが、上手く言葉が出てこない。
結局、黙って敵機を撃破しているうちに、彼等八咫烏の穿った隙を抜け、次々とKVが突破して行く。
「‥‥ほう! デカブツが前に出るか」
ラインホールドのブリッジでもまた、人類側の動きに応じて、バークレーが主砲発射の指示を飛ばした。ラインホールドが身体の向きを変え、ユニヴァースナイト進入方向へと主砲を向ける。おそらくは、射程内へ侵入すると同時にエネルギーをチャージする為だった。
神崎・子虎(ga0513)のロングボウが、ラインホールド周辺の敵集団目掛けてミサイルを放つ。爆発に巻き込まれ、粉砕されるワーム。反撃が、護衛の脇をすり抜けてロングボウを撃つ。
かと思えば、損傷機を援護する為にジャマール・エクセル(gb4753)がS−01を前に出し、クリフ・P・B・A(gb4719)は煙幕弾を射出する。
そこへラインホールドの対空砲火まで交じり合って、戦場は乱戦模様だった。
「エネルギー充填開始」
「射線上のワームは直ちに退避し――」
「射軸固定良し!」
ブリッジクルーが慌しく動くに従い、ラインホールドの主砲に大量のエネルギーが充填されて行く。
「全機イヌ! トリトリトリは暫し待て!」
小隊【HB】の指揮を執りつつ、燐 ブラックフェンリル(gb1956)はラインホールドを睨む。多くの小隊は、情報網から、或いは自前の情報機から得た警告に応じて、射線上から素早く離脱する。
直後、シベリアの空を、再びラインホールドが焼いた。
警告を受けて離脱していたKVも、その衝撃波に機を煽られる。射線上の全てのものを塵に変えて進む光が、ユニヴァースナイトの近辺を掠めていく。
「ぬうっ!」
艦を襲う振動にミハイル中佐は、身体を支えようと指揮官席にしがみ付いた。やがて光が過ぎ去り、顔をあげる中佐。
『こちら弐番艦。損傷が酷い、一度後退する!』
オペレーターの緊迫した声が発せられる。
弐番艦は一撃目で少なくないダメージを受けている。今回の攻撃で更なるダメージが蓄積され、速力にも低下が見られた。下手に留まれば、直撃弾を貰いかねぬのだ。
「フン、脚の止まった奴にトドメを刺してやるか」
ラインホールドのブリッジで腕を組むバークレー。
「第二射を準備しろ!」
「ハ、冷却を開始します!」
ラインホールドの主砲から立ち込める湯気、周囲に残る放電の残滓が完全に消え去ると同時に、その冷却装置が開かれていく。
彼らは、その時を待っていた。
『主砲発射確認!』
『全機、行動開始!』
『いくわよ‥‥! 二十秒カウント開始!』
『全機、突撃!』
『これより突入する!』
無数の通信、咆哮、号令、指示が戦場を飛び交う。
「周辺に敵影! その数‥‥た、多数ーッ!」
「何っ!?」
部下の報告に、バークレーが腕を崩す。
大画面に映る立体映像。周囲に光点が一斉に表示されて行く。
ある隊は今までじっと身を伏せ、またある隊は遠方を迂回して攻撃の機会を伺い、かと思えば、今まで敵機迎撃に飛びまわっていたKVもまた、ラインホールド目掛け殺到する。
「天より降りて貴様を討つ‥‥『Fall Lightning』発動っ!」
遥か上空、高高度ではペガサス分隊や月狼の一部、あるいはファフニールが、地上、タイガの合間からは、Cadenzaやアクティブ・ガンナーといった各隊がKVを奔らせる。
彼等の時計が、20秒を刻み始めた。
「対空砲をフル稼働させろ! 細いのを叩き落せ!」
バークレーの怒号が、ブリッジを震わす。
次々と開かれる砲門。イルミネーションのような対空装備が、ありったけの火砲を辺り一面へとばら撒く。
「上空では他部隊が主砲攻撃中‥‥私達も参りましょう!」
神無月 真夜(ga0672)の言葉に頷く雪切・冬也(ga8651)。
「蟻の足掻きだ。足しになるのかどうか、賭けてやるよ!」
砲口から吐き出されるロケットランチャー。同D班、風羽・シン(ga8190)らも続くが、反撃の対空砲火に、KVが地面ごと吹き飛ばされる。
「ここで鋼に恩を返す。各員、隊長命令だ! 我侭につきあえ!」
アクティブ・ガンナーの小隊長、夜十字・信人(ga8235)が吼える。
だが、無茶苦茶な命令に応じるのもまた傭兵。
「冷却装置確認! 射程が足りなきゃ対空砲を潰せ!」
通信マイクに向かって張り上げられる、芹架・セロリ(ga8801)の声。後部座席に座る寄島トヨミ(gb5484)が、紙袋に入ったホッカイロを蹴飛ばしながら、インカムを手にカウントダウンを進める。
彼等の放つ銃弾の一部が、キメラやワームの合間を縫い、主砲基部を狙う。低空では、混乱の隙を突破したKV部隊が、ミサイルやロケットランチャーと言った武器を次々と放ちつつ肉薄する。
「ジョージ・バークレー、デリーの人達の無念、その何分の一でも思い知れっ!」
赤崎羽矢子(gb2140)のKVが、ギガブラスターミサイルを切り離す。
まさしくこのような巨大目標を狙うためのミサイルだが、ただ惜しむべらくは、デカイだけに目立った事か。巨大なミサイルは、ラインホールドの対空弾幕に阻まれて到達できず、盛大な爆炎を広げる。
「一発ぶちまけてやりますかねぇ」
爆炎の最中を突っ切って、今までどこに隠れていたのか、平坂 桃香(ga1831)の雷電が急降下しながらミサイルとフレア弾を叩き込んだ。襲い来る対空砲火に貫かれて炎を広げるフレア弾。続けて飛んだミサイルの一部が対空砲の迎撃を突破し、主砲の放熱部分で炸裂する。
「‥‥もう一押し! 誰か!」
「任せて!」
逆に、ラインホールド下方から上昇するシャロン・エイヴァリー(ga1843)のシュテルン。百発にも上る大量のミサイルが、その『一押し』部分目掛けて加速し、次々と電撃を撒き散らす。
主砲基部の一部分で爆発が巻き起こり、冷却装置が吹き飛んだ。
「やったのか? これなら――」
深井 零(ga4529)が、ハッとして機を翻させるも、その胴に対空砲を受けて回転する。余りにも圧倒的なラインホールドの対空砲火が、味方のキメラまでも切り裂きつつ、彼等を狙っていた。
航空部隊の先頭を飛ぶ何機かが、同様に対空砲に打ちぬかれて火を吹き上げる。
「‥‥まだ無茶をしてはなりません! 第三中隊の降下を待つんです!」
「他中隊と歩調を合わせます、前進!」
鏡音・月海(gb3956)と夜明・暁(ga9047)、それぞれ空陸に分かれる月狼の中隊長が指示を飛ばした。
全画面に次々と表示される敵位置を、目で追うバークレー。
そこへ、更なる報告が追加される。悲鳴のような声をあげ、振り返るオペレーター。
「高高度より接近する機影!」
「何!?」
思わず天を仰ぐバークレー。
だが、レーダーの表示を見た彼はニヤリと頬を歪めると、掌を振るい、直ちに号令を下す。
「地上の敵を薙ぎ払え!」
それまでやたらめったらと周囲を迎撃していた対空砲が、水平に接近する敵機を中心に狙い、副砲の散弾が、地表を広々と薙ぎ払う。散弾の一度や二度で撃破されるKVは少ないが、その派手な攻撃で、傭兵達は流石に面食らった。
「ぬぐっ!?」
鬼界 燿燎(ga4899)が、レイピアを掲げてこれを耐え凌ぐ。
(――何故上空を放ったらかしにしおる!?)
確かにその時、地上や低空から冷却装置を狙う傭兵達のKVは、その攻撃能力を大きく削がれた。しかし、地上の敵だけを狙っていれば、上部から好き放題に冷却装置をやれる。
「皇殿、妙じゃ!」
「えっ、何アルか!?」
乱戦の最中、聞き返す皇・明々(gb4364)。
だが彼女が異変に気付いた時、全ては遅過ぎた。『遅過ぎた』という事実に、上空の奇襲部隊が、或いはその奇襲を待った各部隊の指揮官達が気付いていた。
急降下を続けるKVがビリビリと振動する。
平時の最大速度を越えるような高速で飛ぶ一群、その中のペガサス小隊を指揮する白鐘は、身体に掛かる重圧混じりに、歯を噛み締めた。
(間に合わん!)
その事に気付いたのは、彼だけではない。
「‥‥全機散開!」
同様に急降下するファフニール小隊β班、狭霧 雷(ga6900)が叫ぶ。危険な作戦でも、部下を死なせる気は無かった。慌てながらも、無理矢理機を起こそうとする部下達。ラインホールド付近で煙幕等での撹乱を展開していたα班も、離脱姿勢を見せる。
同様に、月狼第三中隊にも動きが見えた。
「クッ‥‥第二目標に変更!」
隊長である夜狩・夕姫(gb4380)が、きしむ機体の中で叫ぶ。
「我々も変更だ!」
止むを得ず、判断を倣う白鐘。
ほぼ同じ時刻に前後して、地上付近の部隊もまた、次々と命令変更を迫られていた。が、既に命令変更の間に合わない小隊さえある。特務部隊零小隊は、先のアジアにおける失敗を『敢えて』繰り返す事で小隊を囮としていた。既に、多数の撃墜を出してしまっている。
「早く離脱し――ッ!?」
それでも生き残りを離脱させんとラージフレアをばら撒いた直後、水無月 魔諭邏(ga4928)のアンジェリカがエンジン部を吹っ飛ばされた。
「上空の猿共を叩き潰せぇ!」
最後の数秒を前にして、バークレーの言葉が飛ぶ。
前後して、ゆっくりと閉じられる冷却装置。
「――二十秒だ! フハハハハハハッ!」
「全機、突破しろ!」
まず最初に、螺旋状に降下するペガサス小隊が次々と撃ち落とされた。列を為した攻撃的な編隊が致命的な損害を生む。続く月狼第三中隊も、ペガサス小隊と同時爆撃では無かったが為に、順番に迎撃姿勢をとられてしまう。
おまけに高高度からの加速続きで、十分な回避性能を確保できない。
待ち構える対空砲火網の中へ次々と突っ込み、数十機にも及ぶ急降下爆撃部隊が片っ端から撃墜されて行く。
地上付近で連動していた各部隊は、数秒という極めて短い時間で目標変更を迫られたが為のタイムラグによって火力が集中せぬ上、急激な命令変更が混乱を招き、対応しきれずに孤立した機から各個撃破されて行く。
「なら、せめて一撃‥‥ッ!」
クレア・フィルネロス(ga1769)がラインホールド頭部を睨む。辛うじてクロスポイントを抜けた機が、第二目標の頭部へ爆撃を仕掛けては、そのまま機首を起こしにかかる。
乱れるラインホールドのモニター。
しかしそれも、一瞬の事。数秒と持たない。
「チィ‥‥逃がすな! 猿共を皆殺しにしろ! 追撃部隊を出せ!」
急降下後の急減速を掛けねばならぬ彼等のKVを、改めて対空砲が襲う。
作戦が裏目に出ていた。
誰かが、どこかが唯一絶対の致命的ミスを犯した訳ではない。
誰かただ一人、ただ一隊に責任があったのでもない。失敗の要因を構成する要素は、余りに多岐に渡っていた。彼等が乾坤一擲の大勝負、高高度からの急降下爆撃を成功させる為に立てた作戦が、各小隊が良かれと思って立案した作戦が、尽く裏目に出たのだ。根本的問題から小さな綻びまで、傭兵達自身さえ即座には把握しきれぬまでに。
高高度からの急降下爆撃隊、及び連動して展開していた地上付近の部隊は、総計すれば100機以上。それだけの大戦力が混乱に陥った。
「こっちだ、早く!」
弾幕の只中に、煙幕を辺りにばら撒いて、ミク・ノイズ(gb1955)が左右に視線を走らせる。
無線から引っ切り無しに聞こえる悲鳴やら応援要請やらに、思わず苛立ちを覗かせる。応じたくとも、比較的損害の軽微だったファフニールと言えど、同僚のβ班を離脱させるだけで精一杯なのだ。
爆撃隊の誰が撃墜され、誰が残存しているかも不明。指揮系統はズタズタで、多くの機体は損傷を抱えている。皮肉な事に、指揮系統や情報を別に維持していた部隊や傭兵だけが状況を把握し、一人でも多くの友軍を救おうと躍起になっていた。
「くっ、捌ききれない――!」
何機かのヘルメットワームを柚皓 寛琉(ga8921)が撃ち落とすも、その横を抜けて、敵バグアが友軍を追う。
離脱を試みるKVの背後へと迫るヘルメットワーム。
KVがヘルメットワームに喰らい付かれ、プロトン砲に狙われたまさにその時、しかし、背後のヘルメットワームが炎を吹き上げ、爆発した。
「悪いが退いて貰うぞ‥‥ッ!」
御影・朔夜(ga0240)達、戦術部隊『渡鴉』だった。
一度はラインホールドへ仕掛けていたのだが、戦場全体を見て友軍を支援するべきだと判断するしかなかった。続けて『HB』や蒼穹武士団等が、それぞれ空陸両面から支援に入る。
少なくない損害を出しながらなお、送り狼を仕留めて廻る。
小隊単位で、救援に移れる小隊の存在は、離脱を試みる傭兵達にとってすれば、まさしく騎兵隊のような存在だった。彼等が救援に転じなければ、更に多くの味方が撃破されていたろう。
やがて、敵新型による防衛線を強行突破した天衝隊や、ほぼ無傷の月狼第一中隊がラインホールド付近へ到達するに及んで、傭兵達は辛うじて撤退した。
「冷却装置の損害はいくつだ?」
引き上げていく傭兵達を見ながら、バークレーは部下に報告させる。
「1番砲塔側6基、2番砲塔側4基です。それぞれ冷却時間が80秒、60秒に延長されます」
破壊した冷却装置、凡そ10基。ラインホールド本体は、損傷を抱えつつも未だ健在。傭兵達にとって払った犠牲に比べては、少なすぎる戦果だった。
<担当 : 御 神 楽 >
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