バレンタイン中止のお知らせ
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2月19日の報告 2月12日の報告


<報告書は前編:後編から成る>

広場  ドローム社  図書館


【広場での戦い】
●届かれたターゲット
 先刻、陣取り合戦が終了したここ広場では、異様なまでの熱気とカオスは何処へやら。再び、いつも通りの静けさに包まれていた。しかし、周囲を見渡してみても、広場を囲う能力者達の表情には険しい何かが見て取れる。
「私、この騒動が終わったら、コレを彼にプレゼントするんだ‥‥」
 既に陣取り合戦の段階で燃え尽きた能力者も多いが、本当の本番はある意味これからだ。
 お手製のペンダントをギュッと握りしめた皇 千糸(ga0843)は、偶々2月が誕生日という彼氏のことを思い、これから始まるであろう戦いに意気込む。しかし、実は彼女、意外にバレンタイン中止派だったり。
 あくまで彼氏の誕生日が2月なだけで、プレゼントとバレンタインは関係ないと言い張るが、同じ中止派からの視線に熱を感じるのは気のせいか。
 尚、皇の様に今回の聖戦では彼氏、彼女持ちが全員推進派に回ったわけではない。特に中止派に関しては『全世界の子供たちへチョコレート』を誓約に、それを目指して拳を揮うものも多かった。
 それぞれがそれぞれの想いを胸に、やがて幕を開けるであろう第2の激戦。そして――
「来たな‥‥チョコなど奪い尽くしてくれる!!」
 バレンタインと縁のない狂気の嫉妬団。来栖 祐輝(ga8839)が見据える先には、係員によって運ばれるてくる1個の箱――そう、これが皆にとって共通のターゲット、チョコレートだ。
『それでは、これよりチョコ争奪戦を始めます。3、2、1‥‥スタート!』
 かくして、静まり返った広場を音の振動が劈き、再びカオスな合戦が始るのだった。

「見せてやるぜ‥‥聖なる日に落ちる、混沌の宴をなぁ!」
 何やら格好良い台詞とともに、目の前に立ちはだかる敵へ戦意をむき出しにして突っ込む雑賀 幸輔(ga6073)。広場では先の陣取り戦で推進派がリードした為、最初の立ち回り、位置的な関係で不利となった中止派。
 このハンデを克服するためには、彼の様な気迫に満ちた人物の登場が必要不可欠! ‥‥なのだが、
「どうしたどうした、俺が怖いか、はははは!」
 何故か上半身ランニングのみで、下半身に至ってはハートチョコをリボンで固定しているだけという格好の雑賀。彼は嫉妬団としてこの戦いに参加しているのか不明だが、少なくともこの変態レベルが多少なりとも低ければ、もう少しモテただろうに。
 さすがにイベントとは言え、警察沙汰スレスレな格好の雑賀という障害壁に足を止める推進派。この異常なまでのインパクト、正しくその威力は計り知れない。
「くっ、そう簡単には負けませんよ。如何なる敵であろうとも、物量で押し切れば‥‥!」
 しかし、さすがに雑賀の1人だけでは限界がある。どんなに不気味な外見で敵の戦意を削ごうとも、ティリア=シルフィード(gb4903)の一声とともに推進派が突撃を開始。その制圧力は、一人の変態など取るに足らな‥‥
「残念、混沌師弟は2人で1人なのですよ! 恐れ入ったか!」
 もう1人いたぁぁあ! 雑賀の隣に勢い良く割り込んでくるは、彼を相棒とする混沌師弟が片割れ、翠の肥満(ga2348)。しかもこちらは、パンツ一枚に板チョコの鎧を全身に貼りつけるという究極変態仕様。
「チョコが欲しいか? 欲しいか!? そんなに欲しけりゃくれてやるゥゥッ!」
 そう叫びながら、雑賀のペイント弾に続き体のチョコをズバズバと投げる翠。同時に彼の体を隠すチョコも消えていくわけだが、最早今の彼はある意味バグアより恐ろしい。
「バレンタインは中止させないわ‥‥私も、もっと素直になれたら‥‥!」
 が、あまりに理性を失い攻撃に熱中した為に、翠らは横から迫る彼ら以上の気迫に満ちた存在に気づかなかった。
「この戦いが終わったら‥‥いい加減ケジメをつけないとね」
 不屈の闘志を胸に抱くロッテ・ヴァステル(ga0066)だ! 手作りのハリセンを両手に、∞を描くよう左右から高速でソレを叩きつける彼女。
 普段から何となく、しかし確実に意識してしまうあの人のこと‥‥その想いを胸に、晴れないモヤモヤへ別れを告げるべく必殺のハリセンデンプシーロールが炸裂する。
「例えどんな応えが返ってこようとも‥‥もう逃げはしないわ」
 恋とは真に妙なものだ。時に人を憤怒や憎悪に包むかと思えば、ロッテの様に逆に力を与える源にもなりうる。彼女をどんな結末が待つかは別のお話だが、恋する者に祝福があらんことを祈ろう。

「純一さん、こっちよ!」
 一方、こちらでは既に恋が実った2人、鴇神 純一(gb0849)とテミス(ga9179)のカップル。推進派が持つ陣形の有利さにより、見事チョコを先取した彼らは、純一を筆頭にゴール地点を目指していた。
「逃がすかぁぁ!」
 しかし、後方から襲う数多の中止派による波状攻撃。逃げ切れない、そう思われた刹那!
「え‥‥。純一‥‥さん?」
「俺に構わず進め! ここは俺が食い止める!」
「でも‥‥」
「良いから進め!」
 美しきかな。橋の前にやって来た2人をなおも襲う攻撃の前に、テミスへとチョコの箱を手渡し自らは橋の前で仁王立ちする純一。
「今や、かましたれー!」
 1人になった彼を見てチャンスとばかりに要 雪路(ga6984)ら推進派が猛攻を仕掛ける。が、それらを前にしても怯まず純一は立ち続ける。
「純一さん‥‥貴方の分も頑張ってくるからね‥‥」
 ほどなくして、橋下へと落ちていく純一を見たテミスは、目に涙を浮かべつつ彼の分まで頑張ることを決意。だが、如何なる策と如何なる愛の力をもってしても、そう簡単に事が進まないのがこのチョコ争奪戦である。
 テミスが誓いを立て、その足に力を入れた瞬間、間髪いれず新たな刺客は迫りくるのだ。
「くっ、やはりそう簡単には行かせてくれないのね‥‥あの壁、突破できるか」
「バトンタッチです! チョコを渡してください!」
「!?」
 チョコを抱きかかえて走る彼女を出迎えたのは、広場の出入り口付近で待ち構える中止派一同。それを見て進攻先に悩んだ彼女に声をかけたのは、まだ気力ゲージ満タンとばかりに主張するセラ・インフィールド(ga1889)だった。
「分ったわ、頼んだわよ!」
 瞬間、勢いよくパスをして、再び自分もセラの護衛に就こうと方向を転換するテミス。
 これで相手を撹乱しつつ味方のジャマーに続き突破を図れば‥‥そう彼女が考えた矢先――
「ありがとうございます。では、行ってきますね。あ、恨まないでくださいよ?」
「え」
 クスッと笑うセラ。その足は何故か、目的とは別の方角へ‥‥
「まさか!」
「油断大敵。戦場では焦った者から先に消えていくんですよ♪」
 そう、セラの正体。それは推進派のフリをした中止派だったのだ。
 こうして、開始わずか数分の間に叩きあい騙しあい、ありとあらゆる策が弄されるここ広場では、吹き荒れる混沌の渦を一層強めながら、果てない戦いが刻み始められたばかり。

●僕らの願い
 今回のチョコ争奪戦では、基本的に各一派ごと、道を切り開く役とチョコの運搬を主軸に動く役との二班に分かれていた。そこから更に細かい派生はするものの、これをベースに繰り広げられるチョコ争奪戦。
 そこでは、チョコの周囲を中心に超絶なる戦いが繰り広げられたわけだが、中でも印象的な戦いに目を向けるとしよう。
「ふははは、驚いたか! それはチョコではなく、チヨコ。ただのぬいぐるみさ!」
 まずは、珍しいことに同兵舎内で派閥が分かれ、各自で本イベントに参戦していたチームの紹介だ。
 徐徐に広がるカオスとともにドタバタの波へと呑まれていくチョコレート箱。その混乱にまみれ、チーム【放課後】の新条 拓那(ga1294)は『チヨコ』と名札をつけた不気味なぬいぐるみをつめたダミーの箱を秘かにばら撒いていた。
「で、本物はと言うと‥‥こっちだ!」
 そして上手く本物をゲットした新条は、そのまま同チームのメンバーにラグビーを連想させるかの様な華麗なパス!
「やった、チョコを確保したですよ〜」
 そのままチョコをうけ渡されたアイリス(ga3942)は、チーム放課後のメンバーを横にどんどん進軍する。普段から顔を見知っている皆との連携ほど心強く、また強固なものはない。その協力プレイの前に、次々と決定打を仕損じていく中止派一同。
 だが、彼らの栄光に傷を付けた者達‥‥それもまた、彼らと同じ兵舎、放課後クラブのメンバーだった。
「ギャボ、そう簡単には渡しませんよ!」
 そう、進軍するゼラス(ga2924)率いる【放課後】に歯止めをかけたのは、赤霧・連(ga0668)がボスを務めるチーム【委員長】の面々だ。
「恩あって赤霧姐さんに助太刀する。悪いな、道を開けてもらうぞ」
 駆け抜けた巨大ハリセンの一閃、その直線が描いた先端では、赤い髪を靡かせながら空間 明衣(ga0220)が佇む。
「彼の為に‥‥この場は護らせて貰います!」
 しかし、その一閃を捌きしは【放課後】の石動 小夜子(ga0121)。パチンコと弾型チョコで無理やり義理チョコを敵の口にめがけて放つという、何とも巧み(?)な攻撃でその場を凌ぐ。
「皆、こっち!」
 その時、突如として響く愛原 菜緒(ga2853)の声。彼女の声の先には広場の階段が。
「よし、菜緒ちゃん達と合流しよう」
 まずは体勢を整えようと、新条が言い放ち愛原待つ場所へとチョコを運ぶチーム【放課後】。
「俺達も追いましょう!」
 それを見た鉄 迅(ga6843)ら【委員長】のメンバーも後に続く。――と、その瞬間!
「ふっふっふ♪ 残念だけど、ここを通っていいのは推進派だけだよ♪」
「へっ」
 視界の反転する鉄 迅。
【放課後】のメンバーが階段を昇り切った後、追従する彼らめがけて愛原がぶちまけたもの‥‥ソレは
「水とローションを混ぜたお手製なのだ♪」
「マジです‥‥か」
「マジです♪」
 悲しきかな。そのまま漫画の様に転んだ鉄 迅は、見事にそのまま下へと落ちていく。あ、落ちた先で推進派の1人が下敷き&クッションになってくれたみたいです。ラッキー!
「よし、これで後はゴールを‥‥!」
 見事愛原の作戦で時間を稼いだ中止派【放課後】は、いよいよそのまま独走状態で移ろうとする。しかし、ここが彼らの最後となろうとは。
「チョコは没収するぜ! 子供達のために!」
 いつの間にか赤霧とともに回り込んでいた棗・健太郎(ga1086)。そのまま2人がチョコの箱を護るメンバーめがけ突撃したかと思うと、
「これが委員長組の殴りこみじゃー!」
 恐ろしや。雷のごとき勢いで暴れまわる近伊 蒔(ga3161)もドタバタの渦へ参戦。そして、そのままチョコの箱はと言うと
「あ、しまっ」
 ――ポーン。混乱合戦から抜けていくように、空中を飛び
「ふぇ‥‥ぁ、チョコゲットですぅ‥‥」
 そのまま階段の下で事の成り行きを見守っていた幸臼・小鳥(ga0067)の手に渡されるのだった。

「まだ‥‥バレてないようですねぇ‥‥今ですぅ」
 何故か猫耳尻尾肉球グローブ装備をした小鳥は、そのままこっそり推進派ジャマ―の陰に隠れながら足を進める。すると
「意識改革がまだまだ、だな。短距離な動き方が多い」
 どこの批評家でしょうか、と言われんばかりの意味深げな発言とともに、UNKNOWN(ga4276)が彼女の前に現れる。良く見ると、UNKNOWNの横では既に迎撃された推進派のジャマ―が何人も倒れているではないか。
 これはマズイ。自分を護る味方がいない、絶対ピンチの小鳥! そして、この状況を打破すべく彼女が打ち出した妙策とは!?
「あ‥‥にゃ、にゃ〜‥‥」
「‥‥‥‥まだまだ、だな。LHには、君の様な大型の猫は、存在、しないのだよ」
 ごもっともでございますぅぅ! こうして、苦肉の策も虚しくチョコを奪われた小鳥の前には、悲しさを帯びた風と、彼女の姿をガン見する変態さんだけが残るのであった。

 尚、チョコレートの箱だけに目が行きがちだが、勿論それを取り囲む各人の間で戦闘が行われるだけに、そのドタバタは広場全体へと伝染する。今度は、チョコの箱とは少し離れた所での各戦闘シーンをピックアップするとしよう。
「‥‥やらないか?」
「え?」
 こちらはチョコレートの箱から少し離れた戦場。広場のベンチに座っていたカーラ・ルデリア(ga7022)は、何故か男装っぽい格好で、目の前を通りかかった推進派の青年に向かい、神妙な雰囲気を持つ言葉を投げかけていた。
「‥‥やらないか?」
「い、いえ、結構です」
「ウホっ。良いのかい、ホイホイついてきちまって?」
「え、いや、だからやりませんってば」
 その行動にどんな意味があるのかは謎だが、ジッパーを開けながら挑発するように視線を送るカーラ。途中から、半分強制的に迫ってくる気がするのは気のせいか。
「ちょ、いや、止めて。何す‥‥ァッ、ァッ、アッーー!(エコーエコーエコー)」
 こうして、深い闇が待ち受けるトイレへと連れ込まれた青年だが、最後まで抵抗することで何とかカーラから免れることとなる。結局、奮闘も虚しく獲物を取り逃がした彼女は、
「ちっ‥‥。次」
 ボソッとつぶやき、再び定位置のベンチへと腰をかけ、足を組みながら敵を待ち受けるのだった。その顔が異様に清々しい点については、あえて突っ込むまい。

「‥‥ん。VDには。チョコより。カレー」
 一方、こちらはサルファ(ga9419)と行動を共にする最上 憐 (gb0002)が、立ちはだかる敵の口めがけ、ハート型にくり抜いたカレールー入りのカレーチョコをねじ込んでいた。
「ひゃ、ひゃめ、辛ぃ〜」
 口を真っ赤に染め上げながら涙ぐむ対戦相手。その横では、サルファも奮闘中。
「くっ、アッチ側が騒がしいな。おい、加勢に向かうぞ‥‥って、なっ‥‥」
「あら、貴方の隣にいる方が常に味方とは限りませんよ?」
 更に、最上達の後方では、前回の戦闘で負けず嫌いに火の付いた如月・由梨(ga1805)が、推進派を装い暗躍中。
 今回のイベントでは、そのドタバタカオスのせいか、この『騙しあい』が案外思わぬ効果を生みだしていたり。人とは混乱の中にその身を投げ出し、敵を目の前にすると、こうもが視野が狭まるものなのだろう。結局、中々中止派と悟られなかった如月は、そのまま推進派の内部へと疑心暗鬼の雨を降らすのだった。
 
 このように、個々の活躍が著しい中止派だが、やはりその勢いも物量差の前には儚くも散っていく。
「俺のハリセンをくらえー!」
 広場の地形を最大限に利用した戦略で推進派のクレイフェル(ga0435)が展開したかと思えば、
「愛とせいぎのヴォーパルバニーガールがお仕置きやでー!」
 こちらも木やオブジェ等の障害物を利用し、飛んだり跳ねたりと、縦の動きで相手を翻弄する相沢 仁奈(ga0099)。ちなみに、飛び回って頑張ると言うことで、バニーガール姿となり更に気合を入魂していた彼女は、その勢いで揺れ動く胸や尻、網タイツに包まれた太股でも相手を翻弄していたり。
「さて、随分と大変なことになって参りましたね。騒動でチョコが壊れなければ良いので御座いますが」
 そんな光景を見て、ジェイ・ガーランド(ga9899)は思わずため息をこぼす。
「‥‥絶対に、渡すんだから‥‥邪魔はさせない!」
 一方、彼の横では恋人の紅 アリカ(ga8708)がエアーソフト剣を握る手に力を入れる。そうだ、ここで負けてしまえば、彼女達のように大切な恋人がいる者達にとっては、大事な大事なイベントがひとつ消失してしまうのだ。それだけは何としても防がなくては。

「盛り上がって参りましたぁ! 現在は推進派が一歩リードという形ですが、このまま推進派が押し切るか、はたまた中止派が逆転するかァっ!?」
 キムム君(gb0512)の実況にも熱が入る中、いよいよ後半戦へと移行し出すチョコ争奪戦。当初、これほどの盛り上がりを見せるとになるとは誰が予想しただろうか。熱く熱く燃えたぎる想いは誰の為か。
 こうして、なおも終わらない、しかし確実に戦線離脱する者も見受けられてきた戦いは、1つの結果だけが待ち受ける道へと進み行くのだった。

●駆・け・抜・け・ろ
「くっくっくっ、踊れ踊れ! 良い酒の肴だ!」
 聖戦も佳境に移る中、簡易的に設けられた見物用のテント内で、酒を飲みながら乱痴気騒ぎで見物するメディウス・ボレアリス(ga0564)。もう既に酔いが回り始めているようだが‥‥すると
「こぉら、しっかりせんか!」
「うわ、な、何するんだ!」
 突如として、開いた酒瓶を押していた推進派に投げてぶつけるではないか。と、その瞬間
「チャンス」
「しまっ!?」
 メディウスの不意打ちに意識の逸れた推進派を、中止派が押さえつける。
「ありがとうございます!」
「なぁに、勝負が簡単につくと面白くないからな。頑張れよ」
 グッと拳を立て笑顔を向ける中止派に、酒びんを片手にクイッと微笑み返すメディウス。本来観戦者の介入は禁止だが、この現状だ。堅いことは言わず楽しんだもの勝ちなのだ。

「皆、落ち着け! バレンタインを防いでも‥‥防いでもカップルは減らへんで!!!」
 とは言え、メディウスの様に余興程度でしかこのイベントを見ていない者もいれば、こちらでは妙にリアルな叫びで主張する夜十字・信人(ga8235)の姿が。
 その叫びからして、本来はバレンタイン‥‥と言うより、カップルに対して何か思うところでもあるのだろうか。彼は目の前に現れる中止派を縛ろうと、怪しい縄づかいで立ち振る舞う。
「女がチョコを上げるのは、ホワイトデーの10倍返しを期待しての事なのよ?」
 そんな彼の戦う最前線を遠目に見る場所では、ファルル・キーリア(ga4815)が『言葉攻め』と言う非常に独創的な攻撃を繰り広げていた。
「くっ、そんなことは――」
「ホワイトデーが終われば捨てられるとも知らずに‥‥哀れね」
「!?」
 やれやれという表情と身振りで、目の前の推進派を蔑む様に挑発するファルル。
「男がチョコもらって本当に喜ぶとでも思ってるの? 我慢して食べてるのも気づかないのかしら?」
 何ということだろう。確信をつくわけではないが、それぞれの疑念を鷲掴みするかのような言葉たち‥‥
 恐ろしい攻めに転じたことにより、確かに推進派の士気をファルルが下げたかと思えば
「あぁ〜、女性の皆さん、すいませんスイマs‥‥野郎は去れぇ!」
 こちらでは女性だけ攻めるという積極攻勢の待威 勇輝(gb4230)が奮闘中。このように、それぞれの戦い方にも工夫や趣向が見受けられる争奪戦の模様は、正しく人間味を帯びに帯びた光景だ。
 さて、こうして戦局が傾き、局面の進行状況も露わになってきた為、再び視点をチョコレート箱に移すとしよう。今まで数々の能力者が手に渡り、戦闘に巻き込まれたこともあり、丈夫な素材を使っているとはいえ若干ボロボロになってきたターゲット。
 このブツが最終的に運ばれる先。それはショップか港か、どちらになるのやら――

「凛、このチョコの箱で、みんなの夢と想いをパスワークなんだからなっ!」
 勇姫 凛(ga5063)が愛用のローラーブレードを活かし巧みにチョコを運ぶと思いきや
「どぉっっっせぇぇええぃいい!!!」
 パスの際、見事にマートル・ヴァンテージ(ga3812)に奪われたり。しかし更に更に
「ドォルウァアア!!!」
「ちょ、まっ!?」
 大量のドラム缶をゴロゴロ転がして迫るパワーマン(ga0391)。
「ギブミーチョコレイトォオオ!!!」
 逞しい精悍な体つきの彼だが、心からの叫びとともにチョコを再びダッシュし返す。そう、つまるところは、イタチゴッコのようなものなのだ。奪い、奪われ、そしてまた奪う。これを繰り返し、最後まで勢力を維持しつつ逃げ切った方の勝ち。いつまでも縦横無尽に駆け廻り、広げられる攻防の数々。その光景に、観客席も呆れたり感嘆したりと表情は皆多様である。
「これ‥‥今日中に片付くと思うか?」
「さあなぁ」
 と、モーリス(gb4942)の呟きに応えるは、主に後始末を担当する予定のマシュー・ファーマー(gb4036)。
「世界は混沌でも、LHは平和と言うことだな‥‥」
 まったくだ。この機会を利用してコーヒーやバナナを叩き売りしていた和泉野・カズキ(ga8382)は、混沌と化す広場に視線を傾けては苦笑する。と、その時
「わーい、俺も俺もー」
「子供!?」
 突然の出来事だった。無邪気そうな笑顔で観客人の子供が区切られたエリア――戦場内へと進入してきたのだ。
「やば、そっちは」
 思わず前のめりになって見守る観客。すると
 ――ズサッ
「あ‥‥」
「ハイハイ、良い子と可愛い子の味方がきましたよ♪」
 何が起きたのかわからないと言った様子の少年を抱きかかえながら、一瞬で朔月(gb1440)が観戦ゾーンへと引き戻していた。
 人類に余裕がある‥‥と言うわけでは決してないのだが、老若男女問わず、一般人の観客に少しばかりの笑顔を与えていたであろうこの戦い。それは、思わず無我夢中で飛び出したこの少年を見てわかる様に、皆の胸を躍らせたのもまた、確かな事実なのであろう。

 場所は再び戻って激戦区。さすがに戦線に存在する残存勢力の数もかなり減り、直に勝負は決するであろう状態になった広場。
「米国製ベルトリンク式SAW型電動トイガンの使い時! 火力支援開始です!」
 え、な、何ですと!? やたら長い武器名だが、高台から火力支援を行う守原有希(ga8582)。強そうな武器名だけに、きっとスゴイのだろう。彼の後ろでは同じチームの夕風悠(ga3948)が高台から情報を的確に味方へと流している。
「勝つ為に‥‥」
 しかし、中止派だって負けてはいない。ここまで立ち続けている者は兵ばかり。ヴィオラ(ga6064)も、今まで戦場を駆け抜けてきた相棒の「トイレ掃除に使うキュホキュポ吸盤」を用いてキュッポン攻撃! 
 世界の子供たちの為と頑張るヴィオラだが、トイレのキュッポンで築かれた絆というのもまた、素晴らしい。
「変装☆大作戦の巻」
 一方、トイレのキュッポン繋がりではないが、戌亥 ユキ(ga3014)は清掃員に変装してチョコダッシュの機会をうかがっていた。なのだが、中々チャンスが巡ってこない。おかしい、完璧な作戦のはずなのに。1人思案する彼女。
 だが、彼女は大事なことに気づいていなかった。今現在、広場に一般人は立ち入り禁止と言うことに‥‥

 開始からどれほどの時間が経ったのだろう。不毛とも言われたこの争奪戦も、やがては終わる瞬間がやってくる。広場、比較的カオス度は低かったかもしれないこの戦場。そこに、まるで何かを告げるかのように風がトグロを巻いた。
 そして、いよいよ『その時』はやってくる‥‥
「ふふふふ、ようやく手に入れた。今こそバレンタインの歴史が変わる時!!」
 数多の傭兵が散っていった中、最後にチョコレートの箱を手にしたのは中止派、鏑木 硯(ga0280)だ。
「死して屍、拾う者無し。この残骸を超えて、俺は今‥‥バレンタインの歴史に終止符を‥‥!」
 駆ける駆ける、その行く手を阻むものは少ない。しかも、後方ではキザイア・メイスン(ga4939)が怒涛の猛サポート。
 振りきれる! そう鏑木は確かに確信した。ああ、遂に終わりを告げるのかバレンタインデー。
 そして、鏑木が広場の出入り口にさしかかった――刹那
「うわっ!?」
 突然目の前ではじけた閃光‥‥チョコの箱は? そう思い自らの手を見てみると
「な‥‥い」
「ラスト、もらったぁ!」
 一瞬の出来事だった。気づけば、爆竹に気を取られた隙にチョコを奪取したリュドレイク(ga8720)。
 誰も、彼の視界を遮るものはいなかった――
『今、ULTショップに広場からチョコが運ばれました〜!!』
「おかえりなさい。やったね、皆♪」
 ロッタ・シルフスの明るい笑顔が出迎える。そう、この長くとも短い、混沌聖戦が終わりを告げた瞬間であった。


 ―――ははは、最後には愛と正義が勝つのだよ!
                                    あら、嫉妬団の負け犬顔が哀れね♪
     畜生! 結局こういうオチかよ!
                             ぐぁぁあああああ!!! 恋なんてぇえええ!

                 愛してる、だからここまで戦えたんだ――


 これは、歴史に刻まれた、壮絶な戦いの実話である

                                 ――――チョコレート争奪戦in広場 <終>



<担当 : 羽月 渚>


【ドローム社の戦い】
 ドローム滑走路前では、前哨戦に於いて推進派が勝利していた。チョコレートを中心に周囲をポインターが固め、前衛にてジャマーが突撃隊形を取る。共に100を越える人数だ。そして、その行く手を遮るべく、中止派の諸隊も配置を始めていた。遮蔽物も無く、互いに正面からぶつかり合う戦場であるのは前哨戦と変わらない。前回同様、熾烈な戦いになるだろう。

 前回と同じ雰囲気なのは、戦場だけではなかった。周囲では出来上がった呑み助達が引き続き座り込んでいる。有志が作った観客席にはUPC将校の姿まであった。ケイ・メイト(gb4374)がじーっと観察をするが、ウォルター卿は優雅にティータイムを楽しんでいるだけだ。多分、暇だったのだろう。
「お茶にお菓子に冷凍みかんいかーッスかー」
 平野 等(gb4090)のよく通る声に、エルネア・クトゥフィド(ga8463)が薫(ga8461)の肩を突付いた。
「売店まで行かなくても良さそうだね」
 やや見物客は減っているが、それでも一番良い場所は競争率が高い。下手に席を立てば取られてしまうかもしれなかった。
『推進派の前衛が動き出しましたっ。いよいよだね。それでは、芽衣ちゃんのバレンタインライブ一曲目、行くぞー☆』
 実況役のはずが、マイクを持つと歌ってしまうのは兎佐川・芽衣(ga4640)のサガか。その明るい歌声を背景に、全身チョコ塗れの紅月・焔(gb1386)が客席から戦場の只中へと駆け込んだ。
「さあ! 推進派・中止派の諸君! この俺を奪いあ‥‥!!」
 推進派前衛・西風の助っ人団の荷車と、獅子隊のバイクは速度を緩める事無く突き進む。断末魔の悲鳴は聞こえる事すらなかった。

●滅び行く者の挽歌
 その総勢30人を越える隊列の前に、人として大事な一線を越えてしまったらしい中止派・ファミリィが正面から立ちふさがる。
「このまえは敵ジャマーの邪魔にあいましたが、今度こそ。一斉集中攻‥‥」
 助っ人団の指揮を執るエル1(ga1874)の声は、またも中途で途切れる事となった。
「暴れ納めだ! 生き飽きた者だけ私に続け!」
「最後に一花咲かせてやろう。逝くぞ同志達よ‥‥!」
 小麦粉主体の煙幕弾を投げ込んだ秋月 祐介(ga6378)に、田中 直人(gb2062)が続く。
「‥‥待ってろ、祐介☆」
 チョコを手にして頬を染めて駆け出す空閑 ハバキ(ga5172)は、何故か女装だった。頬を染めているのは、重体だからで他意はない。多分。‥‥あ、辿り着けずに倒れた。
「しょうがないですねぇ‥‥」
 コンビ女装で祐介を騙し討ちにしようと思っていた叢雲(ga2494)は、ちょっぴり残念そうにファミリィの晴れ舞台に背を向ける。だが、如何に勇士が蛮勇を振るおうと、数の差は絶大。僅か4名のファミリィは、多くの敵を道連れに次々と散っていった。
「怯えろォ! 竦めェ! 力を発揮する前に散ってゆけィ!」
 4人の勇者の中で、前列を突破できたのはブレイズ・S・イーグル(ga7498)のみである。突き抜けた先には零隊による第2陣が敷かれていた。
「お兄様から渡されたこれ‥‥、とりあえず投げてみましょう♪」
 ジェニー・ライザス(gb4272)が投擲したレモン汁爆弾が、手負いの獣の視界を奪う。
「哀れな君達にお仕置きだよ〜」
 荒巻 美琴(ga4863)が合図を送り、エアガンの一斉射撃が撃ち込まれた。
「情けないだけの連中かと思ったが‥‥。見事な散り様だった」
 それだけは評価してもいい、と神宮寺 真理亜(gb1962)は敗者に黙祷する。

 チョコを実際に確保していたのは、椎野 のぞみ(ga8736)を始めとする推進派の輸送隊だった。前衛が敵を食い止める間に、一歩でも前へと願う彼女達だが、その進路にも中止派の面々は現れる。
「倒せる相手から倒せるように動いてください。数を減らせば勝機は見えます」
 やや外れで全体の調整を意図していた鐘依 透(ga6282)は、別戦線の開戦タイミングを正確に捉えていた。
「よぉし。しっと団の真髄を見せてあげるにゃ〜☆ 白き虎には二本の牙があるのだっ♪」
 濃さではファミリィと双璧を為す中止派の雄、しっと団の白虎(ga9191)もまた、機を同じくして強攻を仕掛ける。
「負けるつもりはありませんのでね。白虎さん、勝たせていただきます」
 共に居た女性達を下げて、宿敵の前に1人立ちはだかるクラーク・エアハルト(ga4961)。
「しっと団に栄光あれええええ!!」
 奮戦していた蓮角(ga9810)、玉砕。一方、神崎・子虎(ga0513)達は偽のしっと団によって別方面におびき出されていた。
「愛と正義の魔法少女 まじかる☆桃‥‥あれ?」
 名乗りの途中で、天道 桃華(gb0097)が首を傾げる。馬の着ぐるみを脱ぎ捨てて水着に、という大技の最中だった子虎もその姿勢のまま固まっていた。鼻血を吹いて沈む中止派。半脱ぎのショタっ子で鼻血とかどんだけマニアックなのか。
「かかり‥‥ましたね」
 案山子などでの偽装作戦を行っていたのは、スモール・ロシウェル(ga9208)である。
「滑走路の鬼神、此処に在り! 別れたいカップルは来るがいい!」
 その間隙を突いて、前半戦の立役者の1人、神撫(gb0167)が側面突撃を試みた。
「愛と正義の変態紳士、だんぼ‥・・にょぐぁ!?」
 が、彼に続いてだんぼーるから飛び出した天道・大河(ga9197)は、女性へのセクハラ行為をかます前にお星様となる。
「‥‥中止させる気も起きないから、こちらに与するわ」
 つまらなそうに言う小鳥遊神楽(ga3319)を始め、榊分隊が側面を強固に固めていたのだ。
「せっかくのバレンタイン、潰してたまるかよ!
 やる気満々の威龍(ga3859)は例外で、神楽や日向翔悟(ga0024)のように白けたメンバーも多いが、それでも隊長を中心に纏まった戦力は、奇襲攻撃を未然に封じ込めていく。しかし、誰が予測できただろうか。前回の殊勲者の神撫すら陽動だったということを。
「だ、だからなんで僕が‥・・」
 ぼやく国谷 真彼(ga2331)の耳元に、大泰司 慈海(ga0173)が何ごとかを呟く。ぶちりと何かの壊れるような音がして、真彼の目が死んだ。迎撃部隊を視界に入れた青年の眼鏡がギラリと輝く。
「‥・・オトコ・ダッタ・ナンテ!」
 女装青年に心を弄ばれた過去の古傷が、真彼を復讐の戦士に変えた。壊れたレコードのように恨み言を呟きながら、突撃する真彼。
「じゃ、逝ってくるよ」
 その後ろに慈海がぴたりとつける。真彼が目を引き、慈海が敵を沈めるコンビプレイがしっと団の本命だった。中止派・隠衆もそれに乗じようとする。

 ――が、その前にカルマ・ベリル(gb3691)が、ゆらりと現れた。
「お姉さん、俺‥・・貴方の事が‥・・」
 正面から見つめられたミルファリア・クラウソナス(gb4229)が思わず足を止め、隠衆の仲間達も固唾を呑んで見守る中。カルマが更に間合いを詰めた。
「‥‥!?」
「だって‥‥今度の機会にって言ったじゃないですか」
 さすがカルマ。中止派に出来ない事を平然とやってのける。
「もう結果なんどうでもいい!」
 中止派・ディンゴ・ディー(gb4350)の悲痛な叫びがこだまする横で、呆気に取られたまま隠衆の皆様は乱戦に消えていった。

「ほわっ。ソラ君、大変だよ。あそこ‥‥」
 背中から掛かる推進派・クラウディア・マリウス(ga6559)の声に、背伸びした柚井 ソラ(ga0187)の目が丸くなる。
「国谷さん‥・・?」
 無垢な少年の戸惑った声が、敵味方の壁を越えて荒ぶる悪魔の心を揺さぶった。
「‥・・あれ? こ、ここは」
「どうしたのさ、真彼くん」
 唐突に我に返った最終兵器の背中に慈海が追突する。その周囲を、十重二十重に取り囲む推進派。しっと団の攻勢もついに止まった。
「不毛ね‥‥」
 エリアノーラ・カーゾン(ga9802)は、ため息をつく。
「早くこの茶番を終わらせて、二人きりでバレンタインを楽しみたいものです」
 恋人との時を思い、気合を入れ直す御崎緋音(ga8646)。だが、お楽しみはまだ先だ。

●惑乱の神は何処に笑うか
「これが最後の戦いだ。進軍、再開!」
 推進派前衛・鷹見 仁(ga0232)が大きく手を振る。散兵に対して堅陣で挑むのは多数を要する側の常道だ。4名に10名を討たれたとて、未だ助っ人団と零隊の総数は30名を越える。が、その隊列が突如として崩れた。
「足元注意、だね」
 ビー玉をこっそり転がしていた中止派・ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が無表情に言う。
「ふんっ! 黙って通すはずもなし!」
 混乱に乗じて切り込んだヴィラード(ga9762)が得物を振り回す。
「此処は僕に任せてチョコをっ!」
 突貫する原田 憲太(gb3450)の狙いは、敵の混乱と足止めのみ。
「分の悪い賭けの方が面白いからねぇ‥‥おらおら、そこどきなっ!」
 犬塚 綾音(ga0176)もその後に続く。混乱の最中、道が僅かに開けた。
「数で負けてたってね、できることはいくらでもあるもんさ♪」
 隙を伺っていた中止派・フェオ・テルミット(gb3255)がスルリと後ろへ回る。だが、数に勝る推進派は後尾に赤備の一隊を温存していた。
「わわっ!?」
「今日という日は誰もが幸せになれる日‥‥それを批判することは許しはしない!」
 ジーノ・ゴードン(gb4058)がフェオを捕捉する。

 そんな中、中止派・宮明 梨彩(gb0377)は、カップルの男を痴漢呼ばわりし溝を深める策で1組の犠牲者を出していた。次の獲物を求めて顔を上げた彼女の視界に、天宮(gb4665)の2人乗りバイクが入る。
「あれ? 男同士‥‥?」
「そこのけそこのけバイクが通るゥ!」
 ぽかんとした所に、後席のストローヘッド(gb4968)がチョコ弾を撃ち込んだ。策士、策に溺れた最期であった。一方、見事に功を奏した策もある。
「計画通り‥‥」
 推進派へ寝返った瑞浪 時雨(ga5130)は、機会を待つ中止派を多数屠っていた。裏切り者へ、中止派・風怪(ga4718)の怒りの一撃が繰り出される。
「日本人ならチョコよりオハギだろうが!」
「え、それは私に言われても‥‥」
 ごもっともだが、オハギの素晴らしさを滔々と語リ続ける風怪には聞こえていない様だ。

 戦場は、混迷を深めている。目立つ黒旗が狙われたのか、中止派・黒クッキー団は早々に隊長を失っていた。
「何故、私まで戦場に‥‥私、まだ仕事中だったんですよ!?」
「‥・・って、姉さん! なんで僕の後ろにいたのに真っ先に!?」
 団員のシーナ(ga8468)やフィーロ(ga7235)の悲鳴が響く。

「皆さん元気ですね・・これが若さという物でしょうか」
 苦笑する鳴神 伊織(ga0421)の前に、ヨネモトタケシ(gb0843)がゆらりと現れた。伊織の目が、鋭く変じる。
「此処からは‥・・私闘とさせて頂く!」
 手出し無用、と周囲に宣言したタケシは普段の二刀ではなく、両手持ちハリセン。対する伊織は得物こそ竹刀だが、慣れた構えだ。戦う前に、勝負は見えているかに思えたが。
「まさか、竹刀が折れるとは思いませんでしたよぉ‥・・」
 勝ったタケシが苦笑するような、微妙な結末。決着は持ち越しのようである。

「丁度良い、憂さ晴らしに付き合って頂きましょうか」
「まぁ、世界の子供の為にってのも悪くないよね」
 飯島 修司(ga7951)と遊馬 琉生(ga8257)は、側面でのゲリラ戦術に徹していた。偽のチョコ箱を抱えて逃げる中止派・飛鳥 夕夜(ga4794)を追ってきた推進派の後ろに忍び寄り、鉄槌を下す。数で劣る上、主戦力も緒戦で失った中止派は奇に活路を見出すしかないのだ。それは、狩る側とて理解している。
「参加した以上はとことんまでやらなきゃ、面白くないわよね?」
 いつの間にか忍び寄っていた推進派・リン=アスターナ(ga4615)がクスリと笑った。

●戦場に咲く紅い恋の花・黒い嫉妬の花
「ドロームを好きにはさせないのだ!」
 平板な戦場の数少ない要所、ドローム社屋の確保に動いた中止派は、次々とハルカ(ga0640)に討ち取られていた。同社社長もかくやと言わんばかりの乳‥‥もとい獅子奮迅の働きを見せるハルカに、観客席からも声援が飛ぶ。
「はッ、建物はこうやって使うんだよッ!」
 ハルカの攻撃を辛うじてすり抜けた面々も、上階に陣取っていた燎(gb5150)に倒された。
「俺もミユ社長にいいとこ見せるぜ! 麗奈! THBで行くぞ!」
「THB? ‥‥ツインハリセンバスターかいな。んもう、しゃ〜ないな〜」
 沢辺 朋宏(ga4488)の掛け声に合わせて、沢辺 麗奈(ga4489)が同時移動攻撃を繰り出す。息のあった必殺技は、双子ならではの大技だ。が、龍深城・我斬(ga8283)は恐れず一気に突貫する。
「諦めるな。滾る憎悪をその身に纏え!」
「‥‥うおっ!?」
 2人同時のハリセンを回避し、逆に朋宏を沈める動きは素人とは思えない。あるいは、これが神の加護なのか。黒い闘気を纏って立つその姿に、新たな魔神の降臨を敵味方が確信した。

 ‥‥その時。
「やぁ、がーくん」
 その前に、風間・夕姫(ga8525)が無造作に立った。
「‥‥今の俺は嫉妬の炎に身を焦がしたしっとがーくんだ。悪いが、手加減は‥‥」
 言いかけた我斬の前に、気合の入りまくった手作りチョコがずいっと差し出される。
「悪いが本気だ、受け取ってくれないか」
 ぷしゅう。我斬の黒いオーラがみるみるしぼんだ。
「皆、真剣だな」
 夕姫がここに辿り着くまでの道を切り開いた番 朝(ga7743)は、そんな様子を少し嬉しそうに見ていた。
「とりあえず帰るぞ、がーくん」
「あ、うん」
 まだ魂の抜けた様子の我斬の手を引き、戦地を後にする夕姫。アパートが同じなだけなんだからね。勘違いしないでよね。
「漢なら、殺ってやれだ。‥‥頼む、殺らせろよ!」
 半泣きでKVを持ち出そうとしたブルース・ガロン(ga4749)を、慌てて制止する周囲。だが、気持ちは判る。月夜の無い晩に是非実行すればいい。
「みんなチョコあげるから、争うのやめようよ」
 推進派・高原真菜(gb2894)の言葉に、心折れた戦士達の目が向く。
「ちょ、並んで‥‥、やめなさいって言ってるでしょーっ!」
 結局、実力行使が必要になるようだった。

 そんな熾烈な戦いを他所に、中立地帯は和やかに盛り上がっていた。よほど盛況だったのだろうか、前回より引き続いて開店している喫茶には、いつの間にか手伝いが増えている。
「いらっしゃーい」
 笑顔の矢神小雪(gb3650)が水とメニューを置いた。
「バレンタインデイって大事?」
 ジェーン・シレティカ(ga8510)の素朴な疑問に、ルー・シレティカ(ga8513)は少し考える。
「大事な人には大事かなぁ‥‥無くても大丈夫」
 ふぅん、と頷く妹の前に、チョコを置く姉。恋愛に限らず、大事な人へ思いを伝えるにはいい日なのかもしれない。
「‥‥温かいココア、要ります?」
 端では、燃え尽きた様子の両派の戦士達を、鶴来 和海(gb1760)がもてなしている。少し休めばまた戦えるかも、とも思う彼女。一度折れた心が立ち直るには時が必要なのである。まだ、それが判るには少女は若すぎた。

●歌は世界を変えられるか
『みんな独りぼっちじゃない〜♪』
 混迷を極める戦場に、突如として鬼道・麗那(gb1939)の歌声が響く。音響は黒輝・大牙(gb2367)のセッティングだ。彼女の歌声が中止派の士気を上げると信じて、その一角には多くの面々が集まっていた。
「緊張します‥‥」
 ベロニカ・ジーン(gb4328)が呟く。残り少ない中止派が集結すると言う事は、敵の目標も絞られると言う事だ。ダンスの如く動き回り敵を倒しながらも、麗那の歌声は止まらない。彼女が超人的に強かったわけではないし、嫉妬の神の降臨による物でもない。彼女を守り、倒れていった多くの仲間達のお陰だ。
「楽しそうやな。あたしも混ぜて貰おうか」
 音楽に惹かれて飛び入りしてきた戎橋 茜(ga5476)が声を合わせた。左翼でジーラ(ga0077)も、後輩の歌声にしばし耳を傾ける。
「べ、別に頑張ったねとか思ってないんだからね!」
 ‥‥どうも、敵の騙し討ちに使ったツンデレ口調が残っていたらしい。
「歌ですか‥‥。いいですね」
 中継席と交渉し、枠を一時あけて貰った黒頭巾(ga7171)がそう呟いた。思わず攻撃の手を止めて聞き入ってしまう推進派・相麻 了(ga0224)。その声は、遠く前線にまで届いている。

「これが‥‥、歌か‥‥」
 最前線で、ランツェンレイター伯爵(ga0666)が掠れ声で呟いた。音楽の力は、力尽きかけていた体に再び息吹を吹き込んでいく。ロックンロール!
「紳士淑女の諸君、一曲聴いて往くと良い。俺達の歌を聴け、って奴だ‥‥!」
 ベースギターを抱えたまま、ドニー・レイド(gb4089)が推進派の隊列に乗り込んだ。ふと、戦場を煌々とした灯が照らし出す。
「私の目は誤魔化せないわよ!」
 AT(gb4899)が胸を張る横で、周防 誠(ga7131)が頷いた。
「‥‥見つけましたね」
 チョコを輸送する推進派・バレンタインを楽しみ隊の所在を突き止めた2人が上げた、反撃の狼煙だった。

「さあ、ここからひっくり返すわよ♪」
「ええ、お覚悟を。ここから一気に巻き返します!」
 言い交わして笑うイリス(gb1877)と櫻小路・あやめ(ga8899)に、河嶋 皆樹(gb4417)が頷いた。
「劣勢からの逆転‥‥。人類とバグアの戦いに似てますしね」
 勝てる。そう信じたい。中止派の突撃が楽しみ隊の列へ突き刺さる。
「いざ‥‥参る‥・・」
 一番乗りを果たした占部 鶯歌(gb2532)が静かにそう宣した。
「みんな、ファイトです!」
 仲間を鼓舞する楽しみ隊の天原聖香(gb1905)だが、敵の勢いが彼女の奮闘を上回る。パイ・タウ(ga8583)達が何とか時間を稼いでくれる間に、チョコを持っていた宇佐木明日香(ga8213)が安全そうな退路から後退しようとした。
「チョコを差し出せば見逃してあげなくもありませんよ?」
 それは月神 ハルカ(gb4865)の罠だ。踵を返しかけた明日香を、夜坂柳(gb5130)が足払いして転ばせる。抱えていたチョコ箱が地を滑った。
「お前たちの持っているもの‥‥俺が貰ってやろう‥‥!」
 危険な笑みを浮かべて、須佐 武流(ga1461)がその手を伸ばしかけ、慌てて引っ込める。
「ウォッカファイヤー!! なんつってな!」
 強烈な火吹き芸を見せたV・V(ga4450)がニヤッと笑い、チョコ箱をナレイン・フェルド(ga0506)へとパスした。
「まったく往生際が悪い‥‥。そのチョコ、頂きますよ♪」
 仲間と共に待ち受けていた神無月 るな(ga9580)だが、袋叩きからナレインはするっと抜け出す。
「ナレイン七変化!ご覧あれ♪」
 チャイナドレスからUPCオペ服に早着替えしていた。ほとんど忍術の領域である。
「その箱ごとあなたが欲しいのですが‥‥よろしいでしょうか?」
 が、マグローン(gb3046)の真摯な一言に、彼はつい足を止めてしまった。
「無駄な抵抗とはよく言ったものだ! それでも抵抗してみるか!」
 追いついてきた中止派・ブラフォード(gb4215)が後ろからナレインに抱きつく。
「‥‥あれ?」
 うん、不埒な事を考えるのはいいけど、ナレインってば男性なんだ。唖然とする顔面に、パイが派手にヒットした。
「私を見つけられるかな‥‥ふふっ☆」
 攻撃、即移動を続ける推進派・椎名 水樹(gb4941)。
「この地はまさに煉獄。愛を巡る世紀末か‥‥!」
 転変する戦況に、鹿島 綾(gb4549)が呟く。しかし、胸の谷間にチョコ装備とかして男心を弄ぶ彼女こそ煉獄の住人に違いない。
 一方、中立地帯。前と同じ場所に店開きしていた救護施設では、既にリタイヤしていたのぞみも、気がつけばリズムに合わせて口ずさんでいる。朋宏と座り込んでいた麗奈も目を上げた。
「‥‥懐かしいですね」
「動かないで下さい。傷が開きますよ?」
 やはりリタイヤしていた美環 響(gb2863)が笑い、彼を守って戦っていた真白(gb1648)が心配げに口を尖らせた。
「はいはい、ちょっとどいてね〜」
 包帯と絆創膏を抱えたM2(ga8024)が早足で駆ける。
「運動会‥‥じゃないの?」
 次から次へとやってくる敗残兵を診ながら首を傾げる佐倉健朗(gb3686)。
「怪我をしてまで争うようなことか? どうなっても、結果は変わらないと思うがね」
 健朗の言葉に軽く肩を竦めてから、フローネ・バルクホルン(gb4744)は手当てを続けた。

●燃え尽きた攻勢
「や――ら――れ――た――ぜ――」
 推進派・NAMELESS(ga3204)が上げた大声すら、ロックは取り込んで音楽に変えていく。
「大楯構えろ! ここを守り抜けば我らの勝利だ!」
 零隊放水班、緑川 安則(ga0157)が一斉放水を指示した。正面から食らった中止派の数名が脱落するも、勢いはまだ止まらない。暴徒鎮圧用の放水機ならば押し切れたかもしれないが、さすがに遊びで持ち出せるものでもなかったようだ。
「はいは〜い、暴徒はダメですよ〜。下がってくださ〜い」
 同期の歌声を背に、両手に盾を構えた中止派・天戸 るみ(gb2004)が放水部隊を側面から押さえ込む。
「よぉし、俺の歌も聞けぇい!!」
 ずぶぬれのまま豪快に笑って、郷田 信一郎(gb5079)が声を張り上げた。決して上手ではないが、気持ち良さそうに。
「チョコ‥‥食べちゃったらダメかな‥‥? ちょっとだけなら大丈夫かな?」
 味方から託されたチョコ箱を抱えて走る、超推進派の琉花(gb4269)。
「他で負けても‥‥気合だけは絶対に負けないってね!」
 その背を狙う敵を、ゴールドラッシュ(ga3170)が倒していく。
「そんなにチョコが羨ましいんなら顔面で受け取りな♪」
 チョコパイコーティングハンマーを振り回す五條 朱鳥(gb2964)。歌声に負けぬよう、大声を上げながら、目指すは超推進派本隊が守る大神輿だ。
「そおれ、チョコ様のお通りだー! そいや! そいや!」
 鯨井起太(ga0984)の掛け声に、周囲の推進派が声を合わせた。が、中止派・鷲羽教授(ga7839)の援護射撃がその隊列に穴を開ける。
「まだだ! まだ終われんよ!!」
 かき消されそうな歌声を耳に、ソード(ga6675)が神輿へ飛び上がった。チョコに、再度中止派の手が届きかける。だが、奇跡はいつしか終わりを告げるものだ。

「見極め、落ち着いて冷静に行動です」
 既に戦力の半ばを失いつつも、いまだ前衛を護持していた助っ人団、エル11(ga6486)が突撃指示を出した。整然と突き進む推進派の陣形に、有志の壁もとうとう切り崩される。
「ボク、この戦いが終わったら‥‥」
 そう言い残して、推進派の姫野蜜柑(gb3909)が突撃を敢行した。その隙間に駆け込んだ忍ロボ・KOEI(ga8310)のピコハンが一閃し、とうとう歌声は途切れる。
「こちらからの裏切りは出なかったか」
 柊神・祢玖呂(ga8237)がホッと息をついた。それを境に、残存勢力が駆逐され、戦闘は終結に向かっていく。

「勝利を掴もうじゃないか、他の誰でもない、このボク達の手で」
 鯨井レム(gb2666)の言葉と共に、チョコ神輿がショップの門をくぐった。それが、ドローム滑走路での戦闘が推進派の勝利で終わった瞬間である。

●斯くて幕は降り、新たな未来が広がる
「人類にはまだ余裕がある、極端な行動を取らずに済む余裕が! ならば互いを認めて、過去の悲劇を繰り返さない。ここに居る皆は、それが出来るはずだ!」
 ツィレル・トネリカリフ(ga0217)が人々の未来の為に演説をぶつ。しかし、疲れ果てた戦士達の心には水理 和奏(ga1500)の言葉の方が、深く染みとおったかもしれない。
「僕も遠くの大好きな‥‥みゆりさんや中佐にチョコ届けたい。でもね! 流通する分から子供達にも届けたい。だから‥‥」
 戦いが終わった今こそ、自分達の手で贈りたい人達へ届けに行こう、と。その言葉を耳に、立ち上がる事が出来たものたちは幸いだ。
「ん〜〜♪まぁ何はともあれ、良かったわ♪ さぁ寝てるのたたき起こしなさい!」
 羅・蓮華(ga4706)が手を数度、大きく打ち鳴らす。
「迷惑をかけたな」
「いや、まぁ。面白い物を見れたし‥‥」
 黒崎・刃(ga8253)の言葉に、ドロームの整備員は苦笑を返した。
「ま、乗りかかった船という奴ですかねぇ」
 緒戦で大暴れしていた斑鳩・八雲(ga8672)も今日はほどほどに、戦闘中に顔をあわせた妹と一緒に後片付けに精を出していた。
「こんなになるまで馬鹿やるんですから‥‥仕方の無い人ですね」
 滑走路に、ひき蛙の如くへばりついたままのザン・エフティング(ga5141)にタリア・エフティング(gb0834)が手を伸ばす。
「チョコケーキ作ってみたので一緒に家で食べましょう。‥‥家族が一緒に食べるのは当然でしょう? バレンタインは偶々です」

 今日は聖バレンタインデー。恋人に、友達に、そして家族に。感謝の気持ちをチョコに託して贈る、素敵な日だ。お祭りが終わり、日は沈む。せめて人々にとって、残るこの日が幸せに過ぎますように。

<担当 : 紀藤トキ>

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