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<報告書は前編:後編から成る>
広場 ドローム社 図書館
【広場での戦い】
●嵐の前の〜
その場所は、異様なほど静けさに満ちていた。
普段ならば犬の散歩をしている人がいたり、噴水に腰掛けて世情を嘆いている人がいたり、なんとなく広場の外周を爆走している人がいるのだが、今日はそのような人は全くいない。
そう、この静寂は‥嵐の前の静けさなのだ。
音はせずとも殺気の糸はそこら中に張り巡らされており、何かしらのキッカケさえあればすぐにでも糸は切れてしまうだろう。
そして糸が切れた場合、どれだけ凄まじい嵐が吹き荒れるのだろうか?
と、そんな中、一人の青年がなにやら考え込みながら広場に入ってきた。
彼の名は旭(ga6764)。後にこの戦いの始まりを見届けたものとして、後世に名を残す(かもしれない)人物である。
「確かこの広場が近道‥あれ、そういえば広場って‥」
先日見かけたX−Dayのチラシ‥思い出した時にはもう遅かった。
凄まじい勢いで広場に突入してきた数台の軽トラック―否、『装甲屋台』が、広場の出入り口を完全に封鎖したのだ! 旭の目前でそれは一瞬で変形を遂げ、喫茶店と化す。
そして、中から出てきたカプロイア伯爵‥ではなく、コスプレしたソフィア・シュナイダー(ga4313)が一言‥。
「お帰りなさい。カプロイア伯のお屋敷へ☆」
何気ない(いや、何気なくは無いが)言葉、しかしそれが始まりの銅鑼となった!
「2/14誕生日を義理チ○ルで済まされた幼き頃の悲しさ、今ここで晴らさせてもらいます。愛を語る日にチョコなどいらないんだー!」
装甲屋台に潜んでいた鏑木 硯(ga0280)が、屋台の上にあがり、ハリセンを掲げて叫んだ!
『『うおおぉおおおおぉぉおお!』』
それに呼応するかのごとく、一体どこに隠れていたんだろうかと思わせるほどの『中止派』の人間が場所を確保する為に屋台から出てくるわ出てくるわ‥。
かと思えば、いつの間にか今度は中央噴水の上に甘井智代子(ga5533)がハリセンを振り上げて当たり一帯に叫び始める!
「バレンタイン推進派よ立て! 胸にみなぎる愛情をパワーに変えて、立てよバレンタイン推進派! 聖バレンタインは諸君等の力を欲しているの!!」
『『おおおぉおぉぉおお!』』
こちらもこちらで、一体どこに隠れていたのかと思わせるほどの『推進派』の人間が出てくるわ出てくるわ‥。先ほどまでの静寂が夢幻の如く、広場はあっという間に阿鼻叫喚の戦場と化してしまった。
「こんなことをしている間に、世界はどうなっているのだろうね〜」
ドクター・ウェスト(ga0241)は広場の隅のほうで、掲示板に貼り紙をしながら呟いていた。その周囲には他の『中立派』も傍観したり騒いだりして、なんだかんだで楽しんでいる。
「能力者のあなた、特別大事な人の危機と、か弱い地球人の危機、どちらを救いに行きますか?」
貼り紙には、そう書いてあった。
●仁義無き攻防
中止派88人に対し、推進派は203人。
数的には不利な中止派ではあったが、その集団全体を包み込む雰囲気は鬼気迫るものがある。彼らの背後には修羅のオーラさえ醸し出されている様だった。
「我が名はアーシュ!」
陣営を確保しようと動く推進派を前に、中止派の先頭に立ったアーシュ・シュタース(ga8745)が景気よく叫ぶ。
「天を撃つ魔王アー‥」
味方のために推進派の注意を集めようとした彼女だったが、役割を果たしすぎたらしい。前方約百六十度のいたるところからハリセンが殺到し、仕舞いには姫宮春夏(ga5795)が全力投擲してきたハリセンがクリティカルヒットし、その場にバタムと倒れてしまった。
しかし、彼女が注意を集めた効果は大きく、一時的ながらも中止派は大きく推進派と間合いを詰めることに成功する。
敵陣が射的距離の入ったことを見越し、軍団の先頭付近で身を小さくしていたニーズ(gb4386)は、持っている爆竹を敵陣に向かって投げ込んだ。
凄まじくも煩い音が響き渡り、推進派は一時混乱に陥ってしまう。
「よしっ、子供達のためにも‥」
「あたいのこの手が真っ赤に燃えるニャァ!」
爆竹を完全無視し、ニャハハ☆と笑って突っ込んできたのはアヤカ(ga4624)だった。攻撃のためかただ走っていたのかは定かではないが、突撃はニーズの鳩尾に命中し、彼を沈めさせる。
と、何者かがアヤカの頭をがしりと掴んだ。
そしてその人物、月神陽子(ga5549)は彼女の耳元で何事かをささやく。
見る見るうちにアヤカの顔が真っ青に、そして真っ赤に染まっていき、言い終えて手を離すと同時に、後陣へと全力で逃げて返った。
少なくとも‥アイドルでもあるアヤカにとっては、耐え切れないことだったのだろう。
少しばかり突出兵の争いはあったが、ジャマーとポインターの本隊が今にも衝突しようとした‥その時!
「乙女を泣かしてまで貴様らの願いは叶える物なのか!!」
三度目だがいつの間に現れたのか、噴水の上で赤い蝶の仮面に赤いマント姿の火絵 楓(gb0095)が降り立っていた。
しかし、みなの注目を集めたかと思えば、そそくさと退散していく。一体何がしたかったのだろうか。
一瞬時間は止まったものの、両軍の衝突は再開された!
男女入り乱れての凄まじいハリセンやエアガンの応酬が辺りに飛び交う。たまに拳やらキックやら振るう者もいたが、それらはアーク・ウイング(gb4432)等の審判組に取り押さえられるか、その目を盗んで大暴れしているかだ。しかし大抵そう言う人物は集中殴打を喰らうので、決して有利とはいえない状況だ。
そして状況も決して、膠着化しない。
柊棗(ga5000)が何とか頑張って三人を打ち倒したかと思えば、その柊を赤霧・連(ga0668)が水鉄砲で無理やり撤退させる。
この赤霧の怒涛(?)の攻めは皆を驚かせた。
「キミのチョコレートは私が貰いますッ♪」
彼女はなんと、『水鉄砲』で戦っているのだ。どうみても殺傷能力どころか攻撃力すらありえない武器なのに、あっという間に九人もの推進派を撤退させてしまった。どうやって撤退させたのかは、ご割愛。
凄まじい活躍を見せていた彼女だが、唐突にピタリと停止した。そして何を言うかと思えば。
「あれれ、何と戦っているのでしたっけ」
ぽーっとしていると、たまたま放送機材を運んでいたクールマ・A・如月(ga5055)とぶつかってしまい、赤霧は下敷きになってしまう。更に相乗効果で、合計三人の敵を倒すことに成功した。
「えっと‥私の勝ち?」
と、ふと傍らを見てみると、一つのダンボールが置かれていた。もう港から届いたのだろうか?
丁度いいので拾ったクールマだったが、それが盛大に小麦粉を巻き上げ、爆発した。
元々サーシャ・ヴァレンシア(ga6139)のダミートラップだったのだが、古河 甚五郎(ga6412)が勝手に改造、強化を行い、攻撃兵器として活用したのだ。
そのトラップで広範囲の視界がふさがれ、敵か味方すら判らない状況に陥ってしまう。このままでは互いに手出しが出来ない。
だが、沖 貞肋(gb0648)はそんな事関係無しにピコピコハンマーを振るいつつ突撃し、何が起こったかわからないままの五人もの敵をピコ倒した。
「わしは甘いものが苦手なんじゃー!」
叫んだのが悪かった。
香林もも(ga0404)が彼の位置を特定し、思いっきり張り倒した。が、その彼女もまたすぐにやられてしまう。視界が悪い中次の獲物を探して走っていたのだが、唐突に誰かの足に引っかかり、転倒してしまったのだ‥このような乱戦において転倒することは、戦闘不能につながることは言うまでも無い。
「はぁ、馬鹿ばっか‥」
足を引っ掛けて転倒させるという単純かつ効果的な戦法で戦っている(?)オリバー・フリッツ(gb2010)はため息を付いた。そろそろ視界は晴れてきたものの、一々足元まで確認する者は少ない。先の水鉄砲もそうだが、この想像以上の効果を発揮する戦法で、合計五人も戦闘不能にしてしまった。
恐るべし、足引っ掛け。
奇抜な戦法は他にも存在する、例えばサルファ(ga9419)がいい例だ。
彼は変装道具とほぼ完璧な女装で推進派の人間へと成りすまし、でも情報を流すことで確実に敵の戦力を削ぐことに成功していた。
しかし、運の悪いことに着替え中に柚皓 寛琉(ga8921)に見つかってしまい‥頭頂から全力でハリセンで張り倒されてしまった。
やがて、小麦粉による視界不良は回復し、再び超絶乱闘が再開された。
「バレンタインなんて必要ない! 個人で愛を語ればいいと思います!」
黒岬 章は『人誅ハエタタキ』を用いて次々と推進派を叩き潰して行った。その活躍たるや賞賛ものであり、『人を誅する』と言う名に相応しい戦いぶりを見せている。中止派の方が人数が少ないのだが、彼を見ているとそれを全く思わせない。
更にそれに続くように蛇穴・シュウ(ga8426)、ジェミリアス・B(ga5262)も凄まじい活躍を見せている。
そして総計七人もの敵を退かせたのは、井筒 珠美(ga0090)だった。なんというか、変わった戦法が有効なのだろうか? 彼女はひたすら松ぼっくりやら木の実やらを投擲し、相手のやる気を削いでいるのだ。言うなれば嫌がらせである。
「男所帯で女一人だと義理チョコ代も馬鹿にならないんでな!」
しかしながら、その嫌がらせは地味に効果を発しており、それがこの戦果へとつながっているのだろう。
なんだか中止派ばかりが目立っているような気もするが、推進派にも豪傑と呼べる人物は存在する。
皆城 乙姫(gb0047)と戌亥 ユキ(ga3014)がその筆頭だ。
皆城は本来最愛の眼帯美女と行動を共にしたかったのだが、生憎その恋人はこの作戦に参加していなかった。しかし、その分を取り返すかのように、独自の見切り戦法は敵の屍(ではないが)を野に増やしていった。
「んふふ〜 すずの為にがんばるよ!」
ここにはいない、LHのどこかで彼女を祈っているであろう恋人に向かって、皆城はハリセンを天に掲げた。
ユキの戦法は、非常に独創的である。と言うより戦法なのだろうか、これは。
数多の子犬を引き連れ、その子犬たちを敵に向かわせる。そして何らかのアクションを起こす前に、子犬たちが一斉にじゃれ付くのだ。
実際の戦場ならばともかく、このレクリエーション的な戦闘で可愛い子犬を傷つけるのは憚れる。仕方なく、その目標となった人は引き下がっていくのであった。
しかし、その攻撃(?)が通用しない人物がいた!
「黄金の嫉妬の塊でできた能力者が、恋愛補正の能力者に遅れをとるはずがない!」
そう叫んで『ぐらっとん』印のハリセンを素振りする。すると気迫におののいた子犬達はクゥーンと鳴き、いずこへと去っていった。
激しい戦闘だったが、当初と比べれば地に立っている人数が明らかに少ない。そして、やはり数的な問題があったのか‥いつの間にか、中止派は数えるほどとなってしまっていた。
そして最後の一人、藤田あやこ(ga0204)は自らが取り囲まれていることを悟ると、ハリセンを地においた。しかしそのまま一人の男に近づき。
「そんなにバレンタインが好きならチョコより私を貰って!」
際どいラインのミニスカを翻らせ、彼女は軽やかに去っていった。残されたその男は、ぽかんとした表情で藤田を見つめているだけだった。
●第二の血戦
少し場所は離れ、こちらは先ほどと逆の状況‥中止派のポインターと、推進派のジャマーが争っていた。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊りゃなソンソン、とな」
立ちふさがるものはハエタタキの錆にしてやる!(錆になるかどうかはさておき)、そのような心構えであるThe SUMMER(ga8318)はポインターながら前線へと突撃し、縦横無尽にハエタタキを振るっていた。
どんどん敵を薙ぎ倒していく彼の目の前に、一人の戦士が現れる。
ラミア=I=バークレイ(gb1967)だ。彼女は何故か普段よりもとても強大な力を持っているように見え、まるで先人の英雄史‥三国志のオーラを纏っているかのようだった。
が。
「あたしを倒せる奴はいるか! あたしを倒せるやぢゅっ(舌噛んだ)」
剣(ハエタタキとハリセン)を交える前に、彼女は口から血を流して沈んでいった。
すれ違いで倒れていくラミアに視線を奪われ‥彼は隙を作ってしまった。
「友人が推進派なんで、手伝いで、ね」
その声の方を向いた時には既に遅かったが‥その姿にも目を奪われたと言っても過言ではない。
水流 薫(ga8626)が潜水用エアタンクを背負い、それをガスガンに直結しているのだ。その姿は消防士かゴース○バス○ーにも見える‥そしてその銃口からは、期待を裏切らない凄まじい威力の弾が打ち出され、Theは地に伏した。
と、その少し離れた所で、カメラとマイクを持った、明らかに非戦闘員な女性が二人、現場を撮っていた。
シア・エルミナール(ga2453)とミア・エルミナール(ga0741)である。
「ミア‥あまり近づきすぎると危ないわよ‥」
シアは、ミアがローラーブレードを装着しているのを見て注意する。しかしミアは
元気一杯で。
「へーきへーき、大丈夫だってば‥あー、こちら現場中継でーす」
そう言い残し、行ってしまった。
場面を戻し、再び戦場。
巨大なピコハンを振り回し、敵どころか味方にもちょっと離れられているアルト・ハーニー(ga8228)が今の戦場の主軸となっている。
それは別に問題ないのだが‥今の流行なのだろうか? 埴輪の着ぐるみを着て身体を隠し埴輪仮面(?)と名乗っていた。
と、そのなんとか仮面に一人の少女が現れた。無論敵なのでピコハンを振り上げるハーニーだったが、星井 由愛(gb1898)は抵抗するわけでもなく、その場にペタンと座り込んだ。そして急に涙目になり‥。
「助けて、皆に用意してた私のチョコまで賛成派の人が取って‥いえ、この人が取っていくの!」
言いがかりだ。しかし、このハンマーを振り上げてる男と泣いている女、端から見ればどちらが悪者だろうか。
一時的に戦意が高揚した中止派の一団が、ピコハンを掻い潜り見事ハーニーを取り押さえることに成功した。
策士、である。おそろしや。
策士は推進、中止だけにいるとは限らない。
中立派の中にも、恐ろしい策士は存在した。
「人の心に魔が指せば、そこに魔風がふいている‥」
魔風(gb5102)は風の如く唐突に現れ、懐からチョコレートダミーを取り出した。これを両陣営で使うことで、互いに猜疑心を招くことが出来るだろう。
何故そんな事を?
それが、魔風だから。
だが、魔風は壁に阻まれる。
「なんびとたりとも勝負の邪魔はさせん! 散れ!!」
声は頭上からだ。
数瞬後スパーンという景気のいい音が生じ、魔風は状況が飲み込めぬまま気を失った。
「志のないものは全て敵だ! チョコは私が貰う!!」
なんだか不純な動機も混じっている気がするが、ルード・ラ・タルト(ga0386)の活躍により、余計な混乱は起こらずに済んだのであった。めでたしめでたし。
さて、また戦場に場面を戻そう。
「馬鹿なっ! 何故こんな事をするんだ!!」
襲ってきたBB弾をハリセンで叩き落しつつ、ゼロ・フジワラ(ga4665)は叫んだ。
「お前達は何も分かっちゃいない! なんで今度こそ貰えると信じられないんだっ! 俺は信じるぜ。今年こそもら」
ゴツンという痛そうな音と共にゼロは目を回してぶっ倒れる。彼だけではない、周囲の数人もまた、目を回して倒れていた。その後ろでは、キザイア・メイスン(ga4939)がわたわたと慌てながら、どうしようかとあたりを見渡す。
メイスンはこの混戦故につまずいてしまい、手に持っていた大量のトランシーバーを不可抗力で投げてしまったのだ。それがたまたま、ゼロたちに命中したのである。
結果的に中止派に貢献した彼女だったが、同時に驚異的な敵も作ってしまったようだ。
メイスンの更に背後で、鐘依 委員(ga7864)が頭のたんこぶを抑えながら、ゆっくりと立ち上がった。
怒っている。明らかに怒っている。
それは次の瞬間に一閃されたハリセンのキレを見ただけでも明らかで、メイスンはゴロゴロゴロと転がって行き、数人を薙ぎ倒して止まった。
ところで、今回の戦場には変わった動機で各勢力に加担する者も少なくないようだ。イグニス(ga6063)もその一人である。しかし彼の場合、変な動機というより、ちょっと間違った知識と食欲に突き動かされているだけのように思えるが‥。
「バレンタイン?なんだそりゃ? 美味いのか?‥‥そうか美味いのか。 なら俺が頂く。文句のあるやつはかかってこい!!」
以上が、彼の戦う理由である。
しかし食欲を甘く見てはいけない。事実、彼は瞬く間に六人もの精鋭を屠っているのだ。食べ物の恨みは恐ろしいとはよく言うが、単純な動機であるだけでも多大な効果が発揮されるのが実証された結果であった。
それにしても、このような豪傑を食い止めるのは女性の涙というのはもはや定石なのだろうか?
先ほどのハーニーと少し似たり寄ったりだが、イグニスを食い止めたのはやはり、女の涙だった。
「ぃゃょ」
涙目で訴えるその声に、イグニスは思わず攻撃の手を止めてしまう。
朝比奈・るみ(gb2764)はそっとその手に自分の手を重ね、優しく言った。
「あ‥あの‥最初はお友達から‥なのですっ」
フラグ成立‥か?
何はともあれ、イグニスはちょっと釈然としない表情ながらも、朝比奈に引っ張られて前線から離脱していった。
そしてここにも、上記と同じような戦法でどんどん敵を減らしている人物がいた。愛原 菜緒(ga2853)である。
彼女は一人の中止派男に近づき、頬を赤く染めた。
「実はずっと前からあなたのことが‥。えっと‥あとで広場の裏で待ってますから!」
そういい残し、愛原は速やかに一時その場を離れる。唐突に告白されたその男は振り上げた武器も下ろせず、ただぽかんとした表情だ。少なくとも、戦意は無くなっている。
愛原はこの戦法で三人もの人間を落とした‥ではなく、撤退させることに成功した。事後処理は大変そうだが‥。
そんな彼女も、敗れてしまう相手が現れてしまった。
次なる対象を里見・あやか(ga8835)と定め、愛原は常の如く接近し、頬を赤く染める。
「実はずっと‥」
「バレンタインデーなんか嫌いだぁぁぁ!」
「は‥はい?」
里見はそう絶叫したかと思うと、愛原を弾き飛ばし、どこかへ走り去ってしまった。一応、愛原は戦闘不能である。
この戦場もそろそろ人数が減ってきた。中止派ポインターの数は減っていき、領土を守る為には明らかに足りなくなってしまっている。
それでも、中止派の彼らは戦い続けた。
「はーっはっはっは! 正しき世界を、我らの手で!!」
藤枝 真一(ga0779)がパチンと指を鳴らしたかと思うと、周囲を取り囲んでいた推進派の足元がぽっかりと穴を開けた。トラップである。
しかし、それで戦闘不能になった人物はひとりだけだ。他の面子は平気な顔で這い上がってきて、逆襲とばかりに藤枝に襲い掛かっていた。
やはり、数の力には勝てないのだろうか。そんな時に画期的な行動を起こしたのは、 黒川丈一朗(ga0776)である。
黒川が手に持っているものを見て、推進派の皆は目を見張った。まさかこんなものまで用意するとは‥。
それは、消火栓に接続された、消防用ホースである。ちなみに何かのこだわりか、黒川自身消防士の格好をしていた。
なんというか‥似合っている。
余談はさておき、そこから放たれる放水の威力は周知の通り、凄まじいものだ。生き残っている(というより戦える)推進派は、彼の元へ走った。
だがそれより早く、黒川が栓を捻る。
洪水レベルの水圧が推進派を襲い、全てを押し流す。数の力を嘲笑うかのように、水は推進派を押し流していった。
そして立っているのは黒川一人‥彼は渋く格好良くホースを肩に欠け、呟いた。
「別にこだわってる訳じゃ無いが、子供達にうまい物を食わしてやりたくてな」
奇抜な案ではあったが、勝利には至らなかったようだ。
水で流されながらも戻ってきた推進派が数人立っており、全員が黒川を睨みつけていた。彼は諦めたようにホースを地に落とし、撤退した。
結局、こちらの戦いでも推進派が圧倒的な勝利を収め、終わった。
●その他の人たちのその他な物語
「みんな凄いですねぇ‥」
喫茶『カプロイア伯のお屋敷』でコンポタを啜りながら、不知火真琴(ga7201)は呟いた。
「皆さん‥なんだかとっても元気、ですね‥」
その隣で水を啜っているのは藤宮紅緒(ga5157)である。彼女は先ほどまで給水所を作ろうとがんばっていたのだが、乱闘のせいでことごとく破壊され、とぼとぼと戻ってきたのである。
「うーん、でも楽しかったじゃない?」
時音 独楽(gb3397)はちょっと人事のように、中継の終えたテレビの電源を消した。ついさっきまでエルミナール姉妹が中継していた戦場が写っていたのである。おかげで、見物組も色々と楽しめることが出来たのだった。
と、噂をすれば、という格言とは少し違うものの、今回の撮影を取り仕切っていた 藍晶・紫蘭(ga4631)が同業者であろう映像プロデューサーと共になにやら意見交換を行っていた。
「放送屋はスポンサーが大事なのは判っているわね。騒動によってバレンタインが大きく広告され、チョコレートの売り上げ上昇と―」
なにやら難しそうな会話である。
まだ、これから第二フェイズがあるのだ。今は暫しの休息だが、彼女達は裏方でまた忙しくなることだろう。
そう、まだ戦いは終わっていないのだ。今回はただの陣取り合戦に過ぎない。しかし、本命であるチョコレートが届かないうちにこれだけの騒ぎが起きているのだ、実際に届いてしまったらもっと凄まじい戦闘になってしまうだろう。
「‥なんていうか、もう‥不毛です‥」
彼氏を思い浮かべながら紅茶を飲んでいたなつき(ga5710)は、思わずため息を付いた。
そう、彼女の言うことは間違っていない。
幾ら大義名分(?)があろうと、軍の許可があろうと、人間同士でこのような諍いをしている場合ではないのだ。
それに気付きながらも、人々は戦い続けるのだろうか。いや、気付いているからこそ戦い続けているのかもしれない。
改めて、この戦いが終わった後の自ら達の結束力を試す為に。
「戦争は利益也。うんうん‥」
傭兵時代に培った人脈を使い中止派推進派問わず武器(ペイント弾入りのエアガンなど)の横流しを行って、張り切って私腹を肥やしていたクリス・フレイシア(gb2547)のような人物は除き‥だが。
<担当 : 中路 歩>
【ドローム社の戦い】
チョコを巡る死闘が繰り広げられたこの日のLH。ドローム社の滑走路もまた、戦場であった。
「こんな時にバグアが動いたらどうする気なのだ」
「なーにやってるんだか‥‥」
ブロッサム(gb4710)の嘆息も、緊急待機する伊藤 毅(ga2610)の苦笑も、集結した男女には届かない。むしろ、彼らのように冷静な面々は少数派だった。
「‥‥お酒、如何ですか」
「お、じゃあチョコでも食うか?」
朝から確保した場所で、夜羽 ハク(ga8230)とジャクソン・ウェストフ(ga7009))はすっかり花見気分である。
「此処には番茶と煎餅しかないが、それでもいいか?」
刃金 仁(ga3052に至っては、火鉢まで持ち出していた。彼ら程の物好きは少ないが、百地・悠季(ga8270)、アンジェラ・ディック(gb3967)らが用意した観戦席は既に大入り満員だ。
「へい、そこの旦那、一口乗らねぇかい?」
トトカルチョの胴元、風羽・シン(ga8190)に呼び込まれ、物見高い傭兵が更に観戦に回っていた。
「チョコレートなんて子どもたちが食べるお菓子の代表じゃないですか。大人がそんなお菓子を独占して良いのか!?」
全ては幼き子供たちの為に、と気勢をあげる山崎・恵太郎(gb1902)。翠の肥満(ga2348)が身につけたスピーカーからは、大音量で子供達の声が流されていて、少し恐い。この地に集結した中止派のうち3割ほどは、子供たちへの善意から不利な戦場へ身を投じていた。
「世界の子供たちにチョコを、あわよくば自分にもチョコをっ」
そんな要(ga8365)の決意表明に苦笑する猫井・涼(ga8954)のような、巻き込まれた立場の者も少数。そして、劣勢である派閥に力を貸すべく参じたディエゴ・ベルティーニ(gb4816)のような能力者も、更に少数。
――残りは、もはや語るまでも無い。
対する賛成派といえば、カップルやその応援団が主体‥‥、というわけでもなかった。
「勝ち組を見極める。そういう趣向の遊びだろう?今回は」
クールに言い放つ柊神・祢玖呂(ga8237)のような者もいる。一番多いのは、純粋にイベントを楽しもうという派閥かもしれない。
「エブリディバレンタイン! 全てのチョコレートを我等の手に!!」
鯨井昼寝(ga0488)の声に、幾人もの拳が天を突く。中止派への徹底抗戦を標榜する彼女の元には、様々な枠組みを超えた多様な人材が集っていた。
「チョコの為、甘党として、退くわけにはいきません!」
「自分でチョコ買って食って何が悪い! 甘いものは万国共通だぁぁぁ!」
食い気が先に立つリゼット・ランドルフ(ga5171)やファブニール(gb4785)に、自作のチョコレートケーキを振舞う北柴 航三郎(ga4410)。何かが違う気もするが、それはそれでアリなのだろう。
食い違う双方の主張。言葉にし尽くせぬ格差。もはや戦う事でしか分かり合えない。とばっちりを受けたドローム社の従業員は悲しく天を仰ぐ事しか出来ないのであった。
●推進派攻撃VS中止派防御
子供達の歓声を流し続ける翠の肥満の背を蹴り、高く天へ舞い上がった雑賀 幸輔(ga6073)が、渾身の力で旗を地に突き立てる。
『世界の混沌ここにあり!』
そう誇らしげに記された旗を背に、中止派は迫る敵軍へと敢然と立ち向かった。2倍を上回る大軍を前に、怯む者はいない。怯む者はいないが、心の弱い者はいたようだ。
「クッキー、如何ですか? このクッキーはチョコ入ってないよ? これでいい?」
「うぉ、マジで俺に!?」
手作りクッキーを振舞う代わりに寝返らせようという推進派・椎野 こだま(gb4181)と姉達の作戦は順調に成果を挙げかけていた。が、バレンタイン阻止のために全力を注ぐ真珠(gb1870)の逆鱗に触れたらしい。
「チョコを贈るなんて面倒なんですよぅ!」
3姉妹を排除した少女は、悲しくなるような本音をぶちまけつつ更に戦場を駆けた。
「恋人同士はチョコじゃなくても別に良いし。チョコは子供たちにあげようよ」
拠点守備についていた中止派のユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が即席のブラックジャックを振り回す。靴下に砂をつめただけのそれは、既に推進派を2名打ち倒していた。
「子供には平和な世界をプレゼントしてやれば事足りるだろが‥‥」
崩折れつつ、フィル・ローランド(ga8855)が吐くのは正論だ。だが、世の中正しければ納得する連中ばかりではない。数に乗じてなおも攻めかかる推進派の前に、行き場の無い男達が立ちはだかった。
「対カップルの鬼札、我等ナンバーズがお相手しよう」
秋月 祐介(ga6378)が眼鏡をギラリと輝かせる。不幸にして、その輝きは狙撃班の格好の的だ。
「一応これも年長者の義務でしょうか‥‥」
ため息混じりに、篠崎 公司(ga2413)が義理チョコ弾を撃ち込む。
「俺は『ブレイズ・ザ・ブレード』、我が宿敵よ‥‥、どこだ!?」
ライバルのトリストラム(gb0815)の姿を求めるブレイズ・S・イーグル(ga7498)だが、待てど暮らせどその姿は現れない。
「どこだ、少年!! しっと団はどこにいますか?」
同じく、狙う敵と行き違ってしまったらしいヤヨイ・T・カーディル(ga8532)。しばしの沈黙。そして、しょうがないから牙を向け合う2人、の中央に転がる照明弾。
「烏合の衆‥‥」
天宮(gb4665)の呆れたような声は、銃撃の後に振ってきた。
「俺の名はマスク・ド・テキサス‥‥」
「ビヨンド・ザ・リュウセイ、参上!」
「我、アサシン・ザ・ナオヒト‥‥。貴様等を断罪するため、地獄から参った‥‥」
討ち取られた同志の無念を怒りに変え、まだ残っていたナンバーズが戦闘を開始する。彼らのように、中止派の多くは数の差を気力で補っていた。が、張り詰めた気迫は些細な事で崩れる事もある。
「駄目です! 皆さん、貰える可能性を完全に捨てる気ですか!」
ファーリア・黒金(gb4059)の呼びかけに、中止派の防御網が一瞬乱れた。そこに、怪しげな2人の少女が敢然と立つ。
「おーっほっほっほ! 奇創蓮華の力を見せ付けてあげますわ! おやりなさいっ」
大鳥居・麗華(gb0839)の鞭が唸りを上げ、打たれた伊万里 冬無(ga8209)が身悶えした。つまりは、そういうユニットであるらしい。
「はぁぁぁんっ♪ 麗華さんの愛の力が沁み渡りますです、アハハハハハ♪」
バトルモップを構えて勇壮に立ち上がろうとする冬無だったが、その前にデキ上がってしまった腰がうまく立たない。
「この役立たず! どういうことですの!」
罵倒されても、イイ感じのようだった。何しに来たんだ、一体。‥‥と思ったら、鞭のとばっちりで中止派が1人倒されていた。近くで覗くからそうなる。
戦場にあるのは彼女達のように自己完結できてしまう関係ばかりではない。
「もっと‥‥、もっと私を嬲ってくれ!」
「ちょ、ボクはそういう‥‥!?」
倒したはずの推進派・藤堂 紅葉(ga8964)に縋りつかれた燐 ブラックフェンリル(gb1956)は女の子だったのだが、結局相討ちになったようだ。少女が危険な目覚めを迎えていない事を祈らざるを得ない。
「推進派に対し、中止派の戦力は半数。これは一方的ではないか?」
『しかし、寡兵が衆を討つ事も稀にはあります。油断は禁物ですね』
観客席で、マイク片手に実況を始めるツィレル・トネリカリフ(ga0217)。隣の葛城・観琴(ga8227)が差し出した仮面をつけたり外したりで、解説と実況の一人二役であるらしい。そのマイクを中止派のウルスラ・ゴルドバーグ(gb3759)がさっと奪い取った。
「わぉ!アレックス、このくず鉄、チョコより素敵よ☆」
「Hi!アーシュラ。チョコよりスイーツなプレゼントはくず鉄さ♪」
アレクサンドル・オルタ(gb3844)が合いの手を入れる。チョコの価値を下落させる放送を続ける2人だったが、推進派のラブとピースの使徒ジョニー・マッスルマン(ga4697)の手によって程なくして放送席の安全は取り戻された。何となく、似た物同士の戦いだった気もする。似非外人的意味で。
「油断も隙も無いとはこの事だな」
『全くです。皆さんも流れ弾には注意してください』
再び、誰が聞いているのかも判らない実況が再開された。
宮明 梨彩(gb0377)の掲げた『チョコ予定到着地点』看板に、一部の推進派が騙される中、ルーイ(gb4716)の投げた照明弾が、推進派の足を一時的に止める事に成功する。
「理由? 決まってるでしょ‥‥。『面白そう』だから!!」
「バレンタインに興味はないですが、こういうお祭りは楽しんだ者勝ちです」
一瞬の緩みを突き、斑鳩・眩(ga1433)とセラ・インフィールド(ga1889)らが逆突撃をかけた。赤村 咲(ga1042)と夕凪 沙良(ga3920)の張り巡らせたトラップをかいくぐり、勢いづいて進む中止派に、鬼道・麗那(gb1939)の親衛隊が鎧袖一触の勢いで打ち破られる。
「今の俺は愛の前に立ち塞がる壁‥‥」
陰のある笑みを浮かべて本営へ切り込むソード(ga6675)。
「ひ、非常識です! この戦力差で‥‥」
後方指揮のつもりが、ふと気づくと周囲が最前線である。自らも武器を手に迎撃する麗那だが、勢いづいた敵は止まらない。
「弾幕一斉射撃! 義理チョコ弾、進呈である!」
緑川 安則(ga0157)率いる零隊の斉射が、ようやく中止派の逆撃を止めることに成功した。しかし、戦果に沸くのも束の間。
「1個、2個、3個…あら、楽しくなってきましたわ」
零隊の後方で回り込んだミルファリア・クラウソナス(gb4229)と牡丹(gb4805)が息のあったコンビネーションで、義理チョコ弾の備蓄を片っ端から割っていく。
さらに零隊を吸盤付きの矢が襲う。
「バレンタイン推進派の皆さん〜。お休みの時間です〜」
「どこから撃って来ている!?」
高所に陣取った鷲羽教授(ga7839)の狙撃は、零隊の反撃によって沈黙するまでの間に実に4名の隊員を撃ち倒していた。だが、彼女ですらMVPには程遠い。この日、ドローム滑走路には鬼神が降臨していた。
「‥‥えーと、何がどうなって‥‥?」
「‥‥いつの間にやら、中止派に数えられてしまったようです」
幼馴染のティスホーン(ga8673)と顔を見合わせる斑鳩・八雲(ga8672)。ドローム社に所用で訪れたはずが、いつの間にやらハリセン片手に防戦する羽目になったらしい。しかし、やる気はともかく、強い。
「この俺に勝てる者はあるかぁっ!!」
マントを翻し、これから暴れようとしたゼラス(ga2924)もまた、その無双の餌食となっていた。やられた事よりも、『ここにいるぞ』と叫んで貰えなかった事が無念だったろう。
「中立派だったのに、何故僕はここにいる‥‥」
しどけなく倒れた推進派ノーラ・シャンソン(ga7276)とクラリス・ミルズ(ga7278)を前に、中止派の国谷 真彼(ga2331)もまた不本意そうにしていた。確か、水着姿のノーラに声を掛けられ、怪しいとも思わずにホイホイついていった所までは、覚えている。だが、メイド女装のクラリスを見て以後の記憶がない。
「いや、お互い苦労しますね」
爽やかに笑う八雲を討ち取るまでに、推進派は実に両手の指に余る犠牲を余儀なくされた。しかし、この八雲とてこの日のMVPではない。
「敵ジャマーの邪魔を開始します。一斉‥‥っ!?」
指示の途中で、エル1(ga1874)の言葉が途切れる。開戦時は零と並ぶ規模の集団だった西風の助っ人団は、僅かの間にその半ばを討たれていた。
「恋する男女がいるのなら応援してやる。それがイイ男ってもんだろ?」
鷹見 仁(ga0232)が気を吐き、団の士気を何とか繋ぎとめる。その時には、既に下手人の周防 誠(ga7131)は次の目標へと動き出していた。
「強そうな相手に正面から挑むのは‥‥、無謀だからね」
主義主張は無く、ただ助っ人を買って出たという誠は、恐るべき事に単身で30人を超える敵を刈り取っていた。後に言う。あの戦場には神はいない。ただ、『チョコレートの死神』がいただけだ‥‥、と。
「獅子隊、出撃っ! あの悪魔を倒すわ!」
絶望的な戦いへ乗り出したセキア=ミドラジェ(gb3549)達も、誠の巨大ハエタタキを逃れる事は出来なかった。しかし、仲間達の屍を乗り越え‥‥たら危ないので迂回して突っ込んできた箱守睦(gb4462)が、誠の僅かな隙を衝く。
「年に一度のタダチョコを逃してなるものかッ!!」
貰う当てがあるのか無いのか、その瞬間、睦の欲望が死神の加護を凌駕した。
「参ったね‥‥」
苦笑しながら、遂に膝をつく誠。この時点で生き残りの人数はほぼ同数になっていた。勢いは、中止派にある。
「こちらの陣営に寝返った方の中で、最も勝利に貢献した方とは‥‥付き合ってもよろしいかも知れませんわ♪」
推進派・ジェニー・ライザス(gb4272)の甘い誘いに脱落するようなすくたれ者は、戦場には残っていなかった。
「そんな事言ったって、貰えないから。貰えないからー!」
これまでの人生から、原田 憲太(gb3450)の得た教訓は切ない。女に手出しはしない硬派な彼は、ジェニーを置いて更に攻め入った。零隊が陣地としていた場所が、残余の推進派の集結地になっている。ここを抜かれれば、推進派攻撃部隊はおしまいだ。
「どうやら我等の出番のようだな‥‥」
「チョコが欲しいのか?ならばコレをくれてやろう」
直衛についていたシリウス・ガーランド(ga5113)と神宮寺 真理亜(gb1962)が迫る中止派の寄せ手を打ち払う。攻守は完全に所を変えていた。第二波を食い止めたところで真理亜が倒れる。
「人の恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴られてリタイアしちゃえ♪」
神崎・子虎(ga0513)with馬マスクが突出してきた中止派を蹴落とした。
「第四波に備えろ! まだ来るぞ!」
「ここで倒れる訳には‥‥。生き延びて、お嬢様にいつかは告白を!」
迫る敗北の恐怖。無我夢中でシュワルツ・ゼーベア(ga8397)が叫ぶ。だが、次の波は来なかった。あれが、中止派の死力を尽くした最後の攻撃だったのだ。
「‥‥楽しい時間だったわね」
中止派を阻止していたナレイン・フェルド(ga0506)がクスッと笑う。激戦が終わりを告げたとき、推進派側の生き残りは彼を含めて10名に満たなかった。
●いんたーみっしょん
人が集う場所では経済活動が付き物だ。それは、こんな戦乱の地でも変わることは無い。
「カフェ『ゴールド』へ、ようこそ♪ ご注文は何になさいますか?」
キョーコ・クルック(ga4770)達が開いた喫茶店は盛況だった。火の粉が降りかかればメイドさんが撃退するらしい。ただし、治療行為はサービス外だとか。
「聖ウァレンティヌス様もさぞお嘆きの事でしょう‥‥」
その治療行為を担当する救護所では、担ぎ込まれてくる怪我人を前にハンナ・ルーベンス(ga5138)が苦笑する。手伝いに来ていたにゃんこ(ga5312)も、猫の手をフル回転させていた。
「ギブミー、チョコ! 水じゃなくチョコを!」
「‥‥きゃ‥‥」
飲み物を配って回るルカ・ブルーリバー(gb4180)に、錯乱した負傷兵が飛びつきかけて、蒼河 拓人(gb2873)に鎮圧されたり。救護所とはいえ戦場だった。
「うあーん、痛いよー!」
運び込まれたニモ・ニーノ(gb4833)は嘘泣きで世論を推進派に向けようとする。
「ほら! 大人しく怪我見せて」
「あ、はい‥‥うぁ!?」
見せた所に無造作に消毒液をぶっ掛ける黒羽・ベルナール(gb2862)。その横で、祈良(gb1597)が気分を落ち着かせるようにバラードを歌っている。
「上空から、試合の監視をしようと思ったんです‥‥」
「にしても、KVを持ち出すのはやり過ぎですよ」
戦いのエスカレートを危惧したシーナ(ga8468)だが、綾野 断真(ga6621)にやんわりと制止されていた。そんな幕間をはさみつつ、競技は進んでいく。
●中止派攻撃VS推進派防御
推進派の防御拠点は、強固だった。2つの派閥、3箇所の戦闘地点の中で最大の人数が集ったのが、ここドローム滑走路、推進派の牙城である。対する中止派もこの地に最大戦力を集結させてはいたが、やはり遥かに及ばない。その数ゆえの過信か、あるいは策略か。対峙する両派の戦いは、まず推進派が先手をとった。
「愛しているよ‥‥エンタ」
長身の御山・アキラ(ga0532)の囁きに、熱っぽい視線を返す金城 エンタ(ga4154)。彼はいわゆる逆チョコ、男性から女性へのチョコプレゼントを企図していた。それも、ただの方法ではない。
「アキラさん、あの、その‥‥こ、これぇ」
素早くチョコの包みを解き、口に含む。
「‥‥たべへくらふぁいっ!」
伸び上がったエンタを、アキラの腕が力強く引き寄せる。衆人環視の中、合わさった唇の間から甘くとろりとしたモノが滴った。
「ここ一帯は我らが支配する! 他人の幸せを祝福できない輩は立ち去るがいい!」
推進派・新条 拓那(ga1294)が駄目押しのように言い放つ。明らかな挑発だが、それを笑って受け流せぬ中止派も多かった。
「ゴーアタック! ゴーアタック!! ゴーアタックオンリー!!!」
血を吐くような叫びと共に、立浪 光佑(gb2422)が先陣を切る。それに続いて、雪ノ下正和(ga0219)を隊長としたトライアングルが推進派の強固な防衛網へ突き刺さった。
「この恥ずかしいゴスロリ衣装に着替えさせちゃうんだから!」
戦場の中心で愛を叫んだエンタに突貫した弓亜 石榴(ga0468)が、彼を庇ったアキラに邪魔される。が、見ようによってはアキラの方が似合ってな‥‥げふげふ。
「チョコで恋を語るとは何様だ〜! この旗を見て、何も思わないのか!?」
自作の黒旗を携え、突撃隊と共に駆ける霽月(ga6395)。黒旗の表面には、独り身や同性からしか貰えぬ者の怨念が血文字で記されていた。
「勝つのは中止派だっ!!」
高らかに響く正和の叫び声。常識的に考えれば、押し包まれて終わりのはずだ。しかし、切り込み隊は周囲全てが敵とあって遠慮が無い。霽月が辺り構わず黒い何かを振り撒き、引いた隙に光佑らが更に押し込んだ。
「気持ちを伝えたい相手がいるんだ‥‥っ!」
誰でもなく、自らの為に。推進派の柿原ミズキ(ga9347)の決意も、戦塵に消える。彼女をはじめとした流星隊と中止派突撃隊の戦いは、激しかった。
「滑走路は、推進派が制圧するっ!」
「あたしのデッキブラシが光って唸って火を噴くぜっ‥‥!」
マフラーを靡かせ、反撃に切り込むフィオ・フィリアネス(ga0124)に、デッキブラシを頭上で大きく振り回しながら美崎 瑠璃(gb0339)が続く。やがて、疲れの見えた光佑らが討ち取られ、敵中に屹立していた霽月の黒旗もいつしか見えなくなった。
推進派が受けた損害は、突入してきた人数よりも多い。恐るべき意志の力だった。しかし、推進派は大軍だ。未だ後尾は戦闘に参加してもいない。
「初めてのバレンタインくらい、二人でゆっくりしたかったんだけどなぁ〜」
「‥‥状況が良くわかりませんが、補給路の確保が任務と言う事ですね‥‥?」
御崎緋音(ga8646)の言葉に気づいたかどうか、レイアーティ(ga7618)は状況を確認していた。人数が多すぎると言う事は、別の問題も生じるらしい。
「トシ、どうしたのかな‥‥」
「俊哉おにーちゃん、どこー!?」
岩崎朋(gb1861)に手を引かれた茅間魅羽(gb1986)が声を上げる。彼女達以外にも、恋人とはぐれたり好敵手と行き違った者は実に多い。それだけ人がごった返していた。
後方がまだのどかな雰囲気の中、正面では仁義無き抗争がエスカレートの一途を辿っていた。ロケット花火やクモやムカデなどの投擲兵器を容赦なく使用し、敵が怯んだ所に殴りこむ中止派。
「子供たちのためです、推進派には残念ですが‥‥」
「けど、女の子にとって大事なイベントだしね〜」
原始的なロープトラップと脚を駆使してスコアを重ねていた中止派のリディス(ga0022)が、罠を警戒していた桜瀬瑠璃(ga0828)に迎撃される。
「子供たちに配ると言うなら、それはそれで良いかもしれませんね」
と言いつつも、人並みにバレンタインは楽しみたい。芝樋ノ爪 水夏(gb2060)の心境は複雑だった。が、やる気の無い素振りの少女の足元には推進派の死屍が累々である。
「子ども達って僕もチョコもらえるのかな?」
高所から彼女を援護していた結城 翼(gb3955)が、ふと思いついたように首をかしげた。彼らの奮戦をきっかけ、戦況は再び転機を向かえる。
「‥‥来ますか。邪魔はさせません」
推進派・エメラルド・イーグル(ga8650)の呟きと同時に、白虎(ga9191)の声が戦場を割いた。
「突撃だ〜。一兵たりとも生かして帰すな〜ッ☆」
「しっと団の名のもとに、世界にカオスを!!」
団長の叱咤に応じて、蓮角(ga9810)が気勢をあげた。中止派の最大勢力しっと団の進軍開始に、防衛側も態勢を組み直す。首魁の昼寝の指揮の下、超推進派は見事な鶴翼の陣形を展開していた。鶴翼ではなく、バレンタインのVがモチーフだと言う。
「白虎さん‥‥、覚悟は良いですか? 自分は出来てます」
「昨日の友は今日の敵! 私の前に立ちふさがるなら、容赦しません!」
対しっと団を掲げるクラーク・エアハルト(ga4961)が薄く笑い、真白(gb1648)がその横に並んだ。
「暴れまくってやるぜ! かかって来やがれ!」
「甘いっ! その考え、チョコレートよりも甘いわ!」
当たるを幸い推進派をなぎ倒しに掛かった紅蓮・シャウト(ga9983)を、ゴールドラッシュ(ga3170)が迎え撃つ。
「行きますわよ、ヒカル姉様! モエギちゃん!」
メイドコスで揃えたカリン・マーブル(ga7507)達は、巧みな連携で中止派を1人づつ始末していくが、敵の戦意は跡切れを知らない。
「嫉妬は見苦しいわねえ、まったく」
「あんま邪魔するとチョコフォンデュ鍋に入れて煮込むぞコラァ!」
ため息をつく高木・ヴィオラ(ga0755)に、気合満点の五條 朱鳥(gb2964)が加勢した。
「しっと団の皆様へ月夜魅お姉さまへの愛を御覧に入れて‥‥」
何やら妄想中らしく、頬を染めながら敵を倒していく直江 夢理(gb3361)の奮戦が、中止派の正面攻勢をついに止める。
「許せ‥‥元同志よッ! 何だかんだで恋人のチョコは欲しいんだよ‥‥ッ!!」
滅び行く同志達を眺め、草壁 賢之(ga7033)はそう呟いた。だが、彼らはここからがしぶといのである。
「気をつけろ! 中止派が混じっているぞ!」
後背へ回り、敵を混乱させようとする中止派・オリヴァー・ジョナス(ga5109)。
「むむっ! 後方にチョコの行方を脅かす反応ありです!」
動揺が広がる前に瑠兎(gb3851)がオリヴァーを発見、戦いを開始した。激しい交戦が、正面のみならず側面や背後でも勃発する。
「これはあれか‥‥。花見のせきとりとか一緒なのか‥‥? 何をすればいいのかさっぱりわからん」
とりあえず一服しかけた推進派のジロー(ga3426)も容赦なく戦闘に巻き込まれていた。
「実戦じゃないからと言って警戒が疎かでいかんですな」
伏兵していた綿貫 衛司(ga0056)は、不用意に戦列を外れた推進派を始末していく。
「まぁ、お祭りですしね‥‥」
苦笑しつつ、飯島 修司(ga7951)も側面から推進派に攻撃を加えていた。しかし、まだ数が多すぎる。やはり推進派の圧勝と思われたその時。
「カップル撲滅! しっと団の力、今こそ見せてやる!」
「この桃色空気をドスのきいた混沌色にしてやるさかいに‥‥」
神撫(gb0167)の背をカバーし、白野威 奏良(gb0480)が続く。正面に注意を取られていた推進派にとって、この戦意旺盛な新手による側面突撃は完全に予想外だった。算を乱した推進派が冗談のようにバタバタ討ち取られていく。見通しの良い滑走路という地形が物を言ったのか、あるいは神の気まぐれか。滑走路に、更なる魔神が降臨していた。
「これは‥‥、いけるで! もういっちょや!」
天誅ハリセンを振り回す奏良の声。神撫の視線が、ギラリと推進派の中核へ向く。もう誰も、彼らの突撃をさえぎる事は出来ないかと思われた、その時。
「きゃっ‥‥」
神撫に誰かがぶつかり、転んだ。
「あれ? 女の子!?」
女装の美環 響(gb2863)に、男のみを狙っていた神撫の動きが鈍る。瞬間、響の手中に手品のようにぴこハンが現れた。
「あかん、足を止めたら‥‥!」
バディを失った奏良も、やがて推進派の戦列に押し包まれる。それが、中止派の抵抗が潰えた瞬間であった。
「楽しいお祭りでしたわ。ふふっ」
ドローム社食堂のモニターで観戦していた羅・蓮華(ga4706)が、上気した頬を指で撫でる。燃え尽きた面々も、観客も満足のいく戦いだった。厨房では、鈴木 一成(gb3878)と如月(ga4636)が戦い疲れた戦士や観客の為に皿を並べだしている。
『ところで‥‥。ホワイトデーもコレ、やるんでっしゃろ? 勿論!』
画面の中で、ミゲル・メンドゥーサ(gb2200)が傷の手当てをしながら楽しそうに笑っていた。
だが、戦いはまだ第1幕を終えたばかりである。
<担当 : 紀藤トキ>
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