アジア決戦
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9月30日の報告
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<報告書は前編:後編から成る>


【デリー決戦】

●襲来する悪夢
 インド周辺全域を戦火に巻き込んで、始まった戦争。
 現時点に至るまで、UPC軍、一般市民などへの被害は甚大で、数の差からも人類にとっては絶望的な状況‥‥であったはずなのは確かであった。しかし、
『ユカ、ユカ、さっきは大丈夫だった?』
『うん、平気だよ。ちょっと機体に傷は残っちゃったけど‥‥』
 ―――デリー近郊部
 そこには、『上』からの命令で一時的に撤退した双子、ミカ・ユカユーティライネン、2人の姿が。
 前回、インド北部に確認された多数のビッグフィッシュ掃討作戦において、能力者から決定打になり得なかったとはいえ、一撃を貰ってしまったユカ。
 今は既に、その身をバグアに捧げてしまったとはいえ、ヒトとしてまだ失われていない部分があるのか、或いはその感情だけが彼らを繋ぎ止める大切な何かなのか。何れにせよ、大切な片割れに傷をつけられたミカは、
『あいつら、絶対に許さない‥‥全員ぶっ殺してやる』
 激しい憎悪に顔を歪めながら、視線を前へと向けるのであった。彼が見据える先、そこにあったのは―――デリー市街地

「こんなところで、私は何をやっているのか‥‥」
 時同じくして、デリーから少し離れた西の空。先刻の戦闘において破損した箇所の状況を確認しながら、シモンは呟いていた。
 ステアーというカードも切り、ゾディアックを導入しながら、一気に人類側に圧力をかけたはずであろうこの戦い。最初は人類側の戦力を甘く見積もっていたものの、考え方も改め、完全なる殲滅へと思考を移行し、ステアーの操縦桿を握ったはずであった彼。
 勿論、それにより一定の成果を上げることができたとはいえ、結果的に能力者のKVの戦闘力の前に痛み分けという足踏みになり、未だ現在、デリーを完全に陥落できえていないのである。 「‥‥さすがにこれ以上長引かせるわけにはいかないな」
 ステアーは非常に高性能であるが、代償として回復速度は遅い。前回のダメージは未だ修復しきっておらず、これ以上じわじわと、互いが戦力を削りあうような戦いを続けるわけにもいかなかった。  現在、デリー周辺の戦況は、人類側が完全にデリー市街地内に撤退したことにより遠距離射撃の効果が見込めない。かといって、上空からの爆弾投下も中途半端に編隊されたバグア軍の壊滅、及び後方に控えるユニヴァースナイトの存在により実行に移すには難がある。
「と、なれば‥‥」
 シモンが、静かに視線を空へと傾ける。最早これ以上の足踏みは許されない。次の一手、それは‥‥  その時、不意に、無線から聴こえてくる老人の声‥‥
『さすがに‥‥これ以上、私も落胆はしたくないのだよ、分かるな? 次で片を付ける。容赦はいらん、物量の差を利用し、一気にデリー市街地へ流れ込め』
『‥‥御意』
(「確かに、それが最善の策。‥‥これで、決着をつける」)
 シモンは、一呼吸おいたのち、息をのみこむと鋭い目つきで前方を見つめた。作戦の決行は5日後、現時点でインドに集結できる全勢力をもってして、何としてでもここで決着をつける―――

『ねー、ユカ。おっさんから連絡が入ったよ』
『そうだね、ミカ。今度は夜に遊べるみたいだから、お昼寝しとかないと♪』
『『楽しみだね♪』』
 2人の小さな悪魔は、同時に微笑む。その無邪気な瞳に、次はどんな惨劇が映るのだろうか―――

 日も暮れ、不気味に静まり返ったデリー市街地。ここでは多数の部隊がデリー内に存在する本部を中心に、三重の防衛網を敷いていた。
 能力者たちの顔には疲れが見て取れたが、それでも彼らは自分のKVをチェックし、敵の進行に備える。市街戦となるのは必須であり、中には建物の陰に隠れたり、予め狙撃しやすい位置取りをする者などの姿も多々見受けられるようだ。
 また、先の攻防で負傷した【月狼】隊の夜月夢幻(gb2705)は、まだ痛みの残る身体で隊のみんなへと軽食を作り、配っていた。
 各々の想いを胸に、各々の配置につく能力者一同。今は夜の帳が下され、静まり返ったこの空にも、やがて煌く花火が輝くだろう。いつやって来るか分からない恐怖に、ただ彼らは休息する間も惜しんで警戒をしていた―――

『シモンだ。私は雑魚にかまっている暇はない。邪魔な戦力の排他は任せるぞ』 『はーい♪』
 高速で飛来する物体、そのうちの2機が突如として姿を消す。その前方、後方、及び下方の陸には夥しいほどのHWやCW、ワームたち。そして―――

「敵第一波、来ました!!」

 静寂を突き破り、地を響かせながら伝わる震動が、能力者たちの鼓膜を震わせた。

●陸からの進撃
「全機、絶対防衛ラインを護るニャよ〜」
 【フルーツバスケットα】隊のアヤカ(ga4624)は、迫って来る敵分隊らにKA-01試作型エネルギー集積砲をぶち込む。
「アヤカちゃん、後ろはあたしにお任せ〜だよ」
 その後方から、同隊の豊田そあら(ga4645)が援護すると、
「ここを超えたければ我等すべてを落としてからにしな」
 威勢のいい声で神撫(gb0167)が叫び、【ガーデン陸上防衛1、2】隊が飛び出した。ガーデン隊長のメアリー・エッセンバル(ga0194)は、通信網を最大限に活用し、遮断物という地の利を活用しながら隊の指揮をとりつつ、自らのナックル・フットコートを揮う。
 激しい攻防が繰り広げられる中、陸戦においては、地を這い滑るように到来してくるワームが最大の敵戦力であった。前方に次々と現れるワーム、すると、ふと下から伝わる微かな振動が‥‥
「あれは‥‥ゼラスさん、危ないっ!」
 【放課後クラブ隊】の指揮をとるゼラス(ga2924)は、今回、市街戦という地理的状況を活用するため、敵主力部隊を牽制後、十字路に敵を誘い込み一気に急襲を仕掛けるという作戦を実行していた。
 隊員が弾幕を張り、見事にその作戦の有効性を示していた矢先、ふと彼のKVの下が盛り上がる。咄嗟に、彼のウーフーを庇うよう前進したファティマ・クリストフ(ga1276)が、地下から奇襲をかけたEQの直撃をもらってしまう。
「ファティマさん!?」
 ファティマの機体が飲み込まれる寸前、隊の右翼に展開していたアイリスがガトリングの弾圧で抑え込むと、
「くっ、離しやがれ!」
 ゼラスがEQの牙にKVウォーサイズの、非常に強力かつ、無慈悲な一撃をたたき込む。考える暇はなかった、脳を仲介する必要もない、気づけばゼラスを護ると同時に、自らに手痛い代償を負わせてしまったファティマ。しかし、それでも彼女は、
「ふふ、怪我がなくて良かったです」
 静かに微笑むと、その言葉が隊の士気を更に奮い立たせた。
「そうです、私達には守りたいものがあるんです。だから負けるわけには行きませんよネ」
 放課後クラブ隊、普段は学級委員長の彼女、赤霧・連(ga0668)は、いつもの笑顔からは想像もつかないほど真剣な表情で、次々とやってくる敵を見据える。
 と、同時に出力全開。ミカガミの強烈なレーザー砲が放たれ、その直線状に存在する敵ワームを根こそぎえぐり取り、
「ここの通行料は高くつくぜッ!」
 ここにも1人、普段とは違う真剣な表情で隊のサポートに回る鉄 迅(ga6843)が、残党の排他へと続いた。
「ほむ、ある程度は散開して的を絞らせないようにしましょう!」
「了解! あたし達が最初の壁、絶対に崩されやしないんだからっ!」
 赤霧の言葉に、連携を重視しながら、敵を確実に葬るフィオ・フィリアネス(ga0124)。一方、
「敵も退けないだけあって容赦無いわね、大人気ない‥‥って私たちもか」
 苦笑しつつも、遮断物に身を隠しながら、レイラ・ブラウニング(ga0033)は、遠距離武器で狙撃を試みる。
「いざとなったら機体を捨ててでも!」
 彼女の隣では、同じ【8246小隊】の水上・未早(ga0049)がガトリングの弾をばら撒きつつも、副隊長として、隊長のリディス(ga0022)をサポートすると、
「皆気張れよ、ここが橋頭堡だ‥‥易々とは抜けんと、進化した奴等に教えてやれ!」
 隊長が一声、それと同時に彼女の非常に強力なディスタンが地を一蹴し、ハイ・ディフェンダーの一閃がワームを上段から真っ二つに引き裂いた。
「アハハハ八っ♪ さすが隊長ですね♪ あら、後方から敵接近ですよ!」
 【8246小隊】全員の無線に連絡が入る。小隊の『目』として、上空からから常に敵動向を観察していた伊万里 冬無(ga8209)が、建物に隠れ後方から押し寄せるワームを示すと、
「そう簡単に俺達を抜けないぜ!」
 バッと振り向いたブレイズ・カーディナル(ga1851)が3種類のディフェンダーを搭載したKVを前進させ―――数体のワームが不気味な体液を吹き出しながら、散ってみせた。
「無茶も無理も、全部押し通させてもらうよッ!」
 無茶と言われても、挑戦してみなくちゃ分からない。無理と言われても、最初から諦めるだけなんてまっぴらだ。【瞬雷】の八重樫 かなめ(ga3045)は、小隊の名通り、出力前回のフルスロットルで前線に切り込んでいくと、常に空戦の動向も窺いながら、前方の敵を潰しにかかる。
「みんなもえちゃえー!」
 こちらでは、無邪気に可愛げな声を発しながらも、敵を蹴散らしていくリーファ(ga8282)。しかし、ディフェンダーで応戦中不意に背後をつかれた彼女、だったのだが、
「リーファさんのお尻は私が守るわぁ」
KVのお尻はゴツイが、バーバラ・シャン(ga8206)がすかさずサポートに回り援護する。彼女たちの所属する小隊【T−ストーン】は、2人1組、いや、2機1組を基本に一定の距離を保ったまま敵の駆逐へと当たっていた。

「ココから先にゃ1歩も通さねぇです。通りたけりゃ、その命が通行料」
 一方、依然として、接近してくる敵の一掃を続ける【ガーデン陸上防衛】隊であったが、徐々にその物量に押され戦線が後退し始めていた。それでも、必死にヒートディフェンダーで敵を切り続けるシーヴ・フェルセン(ga5638)は、武器から発せられる熱で周囲の空気を淀ませながら、数多の死骸を前方に積み上げている。
「防衛戦は相手との我慢比べ‥‥ここが正念場です、頑張りましょう!」
「そうでありやがるです」
 九条院つばめ(ga6530)も、総隊長メアリーの支持をあおりながら、黒い塊の敵軍を前にしても怯むことなく言い放つ。が、さすがの彼らも‥‥
「ちっ、ぞろぞろぞろぞろと‥‥邪魔なんだよてめぇら」
 思わず、こう口から発してしまう榊原・信也(ga8389)。

(「そろそろ、どこかに綻びが出始めるころだ。そうなれば、一気に『穴』をつく」)
 度重なる連戦の疲労にも負けず、なおも戦線を維持しつつ押し返そうとする傭兵たち。しかし、蟻の如く、隙間を縫うように徐々に浸食していく、圧倒的勢力のバグア陸軍部隊による数の暴力の前には、さすがにラインは後退せざるを得ない。
 そんな攻防の様子を、後方から眺めるシモンは今にも中心の本部へと進撃しようと意気込むものの、ジッとその『時』を待っていた。
 絶対的な勢力差があろうとも、能力者を相手に油断するわけにはいかない。それが、今まで数多くの能力者と戦い、その力を目の当たりにしてきた彼の考えであったから‥‥そう、ステアーを携えた、絶対的力の持ち主ですら、迂闊な進撃は踏みとどまるほど今の彼らは強かったのだ。
(「陸戦は数の差で徐々に突破できるだろう。それ相応の犠牲を払うが、許容範囲だな。さて、空の方は‥‥」
 シモンが見据えた先、そこでは暗闇に火花の鮮やかな華を咲かせ、能力者たちによる対CW、HW、鯨等との死闘が繰り広げられていた―――

●夜空を討つ光
「アンタらにゃ興味はねぇ‥‥けど‥‥掛かって来いやザコ共♪ 叩き墜したらぁ!」
 空気が震え、暗闇を突き抜ける幾重もの光。弾幕という、夜空にかかるカーテンがビッグフィッシュなどの進撃に抑制をかける。そんな中、男勝りの口調で即席部隊【DELTA】の指揮をとる聖・真琴(ga1622)が次々とCWを掃討していく。
 すると、ふと多数のHWが直進し、それぞれKVに波状攻撃を仕掛け始める。その後方では不気味に浮遊するビッグフィッシュ。そう、今回の空戦における最重要課題はこのビッグフィッシュ、通称『鯨』の本拠地着陸の絶対阻止であった。
 今戦争で初めて確認された、バグアの新輸送機。多数の兵器を積むこの飛行物体は、人類側にとって絶対に避けては通れぬ難敵であると同時に、バグア側にとっては勝利に直結する可能性をもったキーカード的存在でもある。
 つまり、バグア側としては、何としてもHWらによる集中攻撃で鯨の飛行空路を確保したい状況であったのだ。しかし、
「援護する!」
 仲間の支援を受けながら攻撃の手をやめないランディ・ランドルフ(ga4710)らのように、ユニヴァースナイトによる支援も相乗し、中々目的を果たせぬバグア軍。
 一斉砲撃による牽制で、次々と地にHWやCWが叩きつけられていく様子は、微かに希望を見いだせる光景であった‥‥のだが、陸戦同様、絶対的な物量の差の前にはどうしても連携を崩される小隊が出てきてしまう。
 倒しても倒しても尽きることのない進軍に、顔に焦りを浮かべる能力者たちも出てき始めた、そんな時、
「空は貴方達に渡さない‥‥ッ!」
 能力者の心にかかる暗雲も同時に払うかのように、ケイ・リヒャルト(ga0598)の3.2cm高分子レーザー砲による光の集合体が突き抜ける。
「大物は出来る限り潰しておいてください。2次防衛線には小物だけ通すように!」
「敵が多すぎて単機じゃ的になるな‥‥。UPC軍各機は最寄の友軍と連携をとれ! 無茶はするんじゃねぇぞ?」
 的確な戦術で、破壊する敵の優先順位を告げる叢雲(ga2494)に、自分だけではなく、友軍のことにも気遣いを忘れない紫藤 文(ga9763)。
 最高峰の連携、正にその言葉がぴったりとも言える小隊【八咫烏】は、各機との連携を密に、確実かつ迅速に敵の脅威を屠っていく。彼らのように、怯まず立ち向かうことで仲間に勇気を与える者達の存在は、確かに人類を奮い立たせるトリガーとなっていた。
「‥‥倒す事で、お役に立てるのなら」
 そのまま勢いに乗り、静かに胸を押さえながら、敵密度の薄まった箇所にブーストを仕掛けたなつき(ga5710)が、チャンスとばかりにそのまま高度を上げフレア弾の投下スイッチに手をかける。しかし、
「くっ‥‥」
 ターゲットとして捉えた鯨、だが、その後方に潜む更なる敵機。鯨掃討後、最終的には空爆を試みようとする【カルヴァリオ】隊であったが、どうしても敵の弾幕による圧力がそれを阻む。
「敵艦の皆さん、フレア弾とグレネードとロケット弾のお届けでェェェッす!」
 超出血大サービス、さすがにこれなら鯨だって沈むはず!
 意気揚々と、フルセットでミサイルをぶち込もうと死角に回る翠の肥満(ga2348)であったが、
「これはうっかり‥‥死角すら許してくれませんか」
 高度を上げればその下から、そして下げればその上から、隙を許さぬ敵の波動は止まらずに、全てのKVに平等な弾を届けにやって来るのであった。
「やっぱ、ここは弱そうなのからっと」
 勇敢に敵大型機に立ち向かう能力者たちの傍らで、逆に小型の弱そうな機体を潰しにかかるユズ(ga6039)は、弱気をくじき、強気を避けるをモットーに空を舞っていた。
 しかし、このように、良いバランスで対CW、HW、鯨、キメラ等への配分が分かれたことにより、戦力をある程度均一に割きながら効率よく敵を駆逐する空隊は、当初の予定よりも大幅に敵の進撃を食い止める結果を生むこととなる。そして、遂に、
「私達は鯨の脇腹を食い破り、道を開く二条の牙。ロッソ03、行くわよ!」
「こちらロッソ4。援護はお任せ下さい」
 リン=アスターナ(ga4615)が、鯨へ繋がる道のラインを見つけると、阻もうとするHWを大島 菱義(ga4322)が牽制し、数秒後、確かに敵大型機体の側面を抉りとる一撃が夜空に輝いた―――
 例えどんなに勢力差があろうとも、戦争がそのまま一方通行で終わるだけとは限らない。時に、微かにだが何らかのきっかけで、転轍機に触れる瞬間があるだろう。もし、その一瞬を逃すことなく掴みとれたのなら‥‥
「Quenaより各機へ。俺達は一人じゃない。大切な誰かのため護り抜くぞ!」
「隊長のこの言葉、聞いてるとなんだか安心しちゃいますね」 
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)の隊へ告げる彼なりのメッセージ。その想いは、確かに隊のメンバーに伝わっていた。
 【カルヴァリオ】【さざんか盟社】を含む多数の小隊や、フリーの能力者の連携による絶え間ない鯨への攻撃が作り出した敵の綻び。大型艦体が地へと墜ちていく、それと同時に、更に高まる能力者たちの士気。
 数で押せば如何にやつらであろうとも‥‥そう考えたシモンの考えは、全く正反対の結果となってしまっていた。
 ここにきて決して退くことのない全員の『想い』が重なり、気づけば既に戦況は、UPCにとって悪くないものへと傾いていく――― 

「ビッグフィッシュもこれ以上、墜とされるわけにはいかんな‥‥これほどまでか、これほどまでに奴らは力を‥‥」
 最初の火花が散ってから、まだ時間はあまり経っていないとはいえ、何重かにしかれた包囲網の第一陣でここまでの苦戦を強いることになるとは。静かに、その様子に目を向けるシモン、そして、
『そろそろ僕らも退屈だから、遊びに行って来るね♪』
 無線機から伝わる幼い声。
『待て、私も行こう。‥‥そうだな、まずはあの邪魔な防衛ラインを削ぎたいところだが‥‥』
 しばしの沈黙後、シモンは静かに口を開け、
『頭を潰せば全て終わる。私は、一気に本部までお邪魔するとしよう』
『はーい♪ じゃあ僕たちは狩りを楽しもーっと』
『ねー♪』
 3機の悪魔が、一直線に戦場へと突き抜けた―――

●殺翼の到来
 空と陸、まずデリー市街地周辺に張り巡らされた防衛網のうち、最初の壁として敷かれたライン。多数のKVが集結し、強大な戦力を盾にバグア軍との必死の攻防が繰り広げられていた。
 すると空で戦っていたKVの1機が、側面が液化し、沸騰するかのように膨れ上がる。周囲の能力者がその異変に気づいた瞬間、その機体は爆破、脱出カプセルが宙にはじき出されていた。
「な、何が起きた!?」
 困惑する傭兵たち。だが、思考する間さえ許されない一撃が、気づけばその身を機体ごと焦がす。 『あはははは。まるで焼け焦げた不細工なパイだね♪』
『見て見て、こんなに玩具がいっぱい。ねぇ、どいつらで遊ぼうか?』
 無邪気に、高らかに響く声。聞き覚えがある、そうだ、こいつらは‥‥
「ゾディアック!!!」
 突如として、星屑の輝く夜空の一か所に、多数の弾丸、及びレーザーによる嵐が巻き起こる。
 その弾幕が弾き飛ばされたかと思うと、凛とした赤い輝きを見せる2機の機体‥‥
『今日は楽しい夜になりそうだね、ミカ』
『そうだね、ユカ。さすがにこれだけ多いと、迷っちゃうなぁ♪』
 迷うなぁ、とは彼らが誰をターゲットにするか?、という意味なのだろうか。いや、きっと、ただ言ってみただけ‥‥彼らにとっては、殺しはお遊びでしかない。
 光学迷彩を解除した彼らは、練力の消費を極力抑えて、この『狩り』をとことん楽しむつもりなのだろう。
 ついに戦場に姿を現したゾディアック。今、双子座のエンブレムを携えた悪魔が、地獄を届けにやってきた!

 FR視認後、J・御堂(a8185)や、レールズ(ga5293)が隊単位での集中砲火をあびせるが、まるで手品でも見せられたかのように、ひらりと攻撃をかわされて反撃の一閃が抉り込む。
『さあ、かかってこいよ‥‥俺のとっておきを見せてやる!』 
 正直に向かって行くだけでは奴らは捉えきれない。それならば、と【アングラー】隊のエミール・ゲイジ(ga0181)が飛び出す。一見無謀にも見える突撃だが、その上空に密かに回る同隊のシャロン・エイヴァリー(ga1843)。
『あはは、お兄さんじゃ僕たちの相手にはならないよ』
『ねー♪』
 2機のFRが、最早3次元の空間を我がものとしたかのような動きで、エミールを挟み込む。 「そう、ついて来れちまうだろ? けど、とっておきはここからだぜ!」
「!?」
「‥‥行くわよ!」
 不意に上空から急降下してくる機体、更に気づけば周辺を、戌亥 ユキ(ga3014)らが取り囲んでいる。 「チャンスは一瞬! 絶対、無駄にしないんだからっ!」
 【アングラー】隊の策にハマったミカ・ユカを一斉に、高分子砲等の射撃が襲う―――が、
「なっ!?」
 射撃のあと、ソードウィングで追撃をかけようと構えていた【アングラー】の南部 祐希(ga4390)が、脳を揺さぶられる衝撃と同時に、そのまま地へと叩きつけられる。
「くっ、上か!?」
 ふっと上空を見る、そこに捉えたのは1機‥‥のみ。
「し、下にも!?」
『今度は僕たちが焼いてあげるよ』
『上と下からの両面焼きだね♪』
 戦と線を結ぶように、上下から発射された超高速のミサイルが、最早火力というよりは、その恐ろしい速度による力でKVを削ぎ落とすかのように、数機のKVの半身を蝕む。
「こんな‥‥ところで!」
 しかし、ミサイルの爆発に巻き込まれた要 雪路(ga6984)が、警告の発せられるコクピット内で、レーザー砲の放射装置に手を伸ばすと、
 ―――ガッ
 接触したかどうかも疑わしいほどではあったが、確かにFRの側面に焦げ付いた跡。

『お前‥‥殺す』
 上方に展開していたミカの機体に傷をつけられた怒りか、ユカは下から要に向けて照準を合わせ、トドメを刺しにかかる! はずだったのだが―――

『ユカ、危ない!』
『え―――?』

 最高峰の機体操作技術を持った彼ら。しかし、唯一、そう、ただ唯一の弱点を挙げるとしたら、それは片割れに対する、異常なまでの愛とも思える感情であったのかもしれない。

『カハッ』
 コクピットの側面に叩きつけられ、衝撃で一瞬意識を持っていかれるユカ。その横では‥‥
「この瞬間をずっと待っていました‥‥我が命に代えても、このまま貫きます!」
「ユカァァァアア!!!」
 悲痛な叫びともとれる声を上げながら、上方からから高速で下へ突き抜けるミカ。その先には、ユカの機体の斜め下から、確かに彼の機体に食い込んでいる一筋の機槍「ロンゴミニアト」‥‥
 エース機の連携によるFRへの攻撃に、あえて機体の性能にリミットをかけ、その力をカモフラージュしたまま参戦していた月神陽子(ga5549)は、双子のミサイルによる攻撃を誰よりも速くかわすと、そのまま下に回り込み、怒りで周りの見えなくなったユカをターゲットに全力をぶつけていたのだ。
 そう、ただこの瞬間だけを見据えて‥‥
「うぁぁあああ!!」
 機体が悲鳴を上げている、早く脱出しなくては。だが、ロンゴミニアトによる破損で、脱出装置が起動しない。
『嫌だ、助けて、ミカ、ミカぁ!』
 赤いランプが点滅し、こののままでは確実に機体が爆破する。しかも、月神は、なおも離れようとする様子はない。
 幼いユカにも容易に悟れる。この女は、機体の爆破に巻き込まれようとも自分を逃がさない。‥‥いっしょに死ぬ覚悟ができている!?
 嫌だ、怖い、初めて体験するやもしれぬ恐怖から、その身を救ったのは―――
「‥‥ッ!」
 強制的にFRと分断される自らのバイパー。絶対的な守備力を誇る彼女のバイパーであったが、それでも強大な力の前に弾き飛ばされた機体は、瓦礫の山へとめり込む。
 しかし、彼女の目の前では貫かれた跡から電撃が走るユカのFRと、他部隊による攻撃を避けることすらせず突っ込んできたミカの焦げ付いた機体。
 戦うことの続行は難しいと判断されるユカの横では、バイパーに体当たりを仕掛けた代償と、他機からの攻撃によるダメージが蓄積されたミカ‥‥そう、最早彼らに十分な余力は残されていなかった。
「今です、一斉集中攻撃!」
 この機を逃すまいと、エル1(ga1874)らによる追撃が行われようとしたが、
『まだだぁぁ!』
 子どもといえど、ゾディアックの称号を得る彼らは、文字通り最後の力を振り絞りミサイルを全弾討ちつくすとともに、そのまま光学迷彩、及びブーストで立ち去ろうとする。
 2機から発射される強大な弾圧と、巻き起こる硝煙の前に、接近すらままならぬ能力者たちは、
「くそっ! やつらは、どこ‥‥だ」
 惜しくも寸前のところで、取り逃がす結果となってしまった―――

 ―――同時刻
『雑魚に用はない。どいてもらおう』
 デリー本部への進撃を試みるシモンは、立ちはだかる軍隊をもろともせず、そのまま高速で進撃していた。
 絶対的な力の前には、一般の兵たちなど、像に立ち向かう蟻のようなもの。
 ステアーの突進力に、誰しもが見届けるのみとなってしまいそうになった、その時、

「再誕せし月狼の牙‥‥その身に受けなさい‥‥」
「貴様は!」
 その瞳にリーダーたる器を宿し、月の加護を受けし最大の規模を誇る精鋭部隊を引き従えて、彼の前に立ちはだかる狼―――終夜・無月(ga3084)。
「退くわけにはいかない、俺達には守るモノがある‥‥」
「‥‥残念だな、私も退くわけにはいかんのだよ」
「‥‥ええ‥‥そのようですね」
 一瞬制止する時間、傾くステアーの機体から発射されるエネルギーの塊。そして‥‥
「これは!?」
 終夜の機体は腹部から煙を出しながらも、人型の形態となり、その腕には確かに抜刀された練剣「雪村」。
「貴様、死ぬ気か?」
「‥‥言ったでしょう? ‥‥俺たちには守るモノがある、と‥‥」
 雪村の破壊力は、既存のKV兵器においても確かに突出したものがある。しかし、如何に熟練の操作技術を持ってしたとしても、攻撃をかわしながらの空中変形による攻撃など、無謀な上に常に空中分解の危険が伴うものだ。
 勿論、彼とてそれは例外ではない。ステアーの翼に損傷を与えると同時に、そのまま飛行能力を失っていく終夜のミカガミ。しかし、それでも彼の目は、真っ直ぐにステアーを見据えていた。
「悪いが、ここを守り抜いたあと、隊長たちと格別な缶珈琲を味わいたいものでな」
 終夜のあとを追従していたユウ・エメルスン(ga7691)や、鬼界 燿燎(ga4899)ら【月狼】の対新鋭機部隊が、隊長の一撃により損傷を負ったステアーに襲いかかる。
 今回、第1次防衛網への参戦を決定した、大規模部隊【月狼】は、更にそこから枝分かれした小隊へと派生し、各々が陸戦、空戦、そして新鋭機戦へと役割を振り分けられていた。そして、それらの部隊を総括した終夜は、見事に敵エース機に一矢報いる結果を残すこととなる。
「ちっ、前回の傷がここにきて‥‥」
 5日前の大規模な戦闘で傷を負ったステアー。そのため、なるべく余計な戦闘は避け、敵本部へと一気に突入を計画していたシモンであったが、絶対死守の命を受けた傭兵たちの前に思わぬダメージを蓄積されてしまい、現状進軍の続行をどうするか判断に悩まされていた。
(「‥‥ふっ。ここまでくると、最早敵ながら敬意すら感じるな。しかし、まだ退きはしない。何としてでも1機でも多く撃墜を―――」)
 周囲の状況を見渡しつつ、向かってくる敵をねじ伏せるシモン。すると、そんな彼に『ある1機』が立ち向かってきた。
 それは、本来後方で支援に従事するはずの全KV中、最も前線に向かないとされるはずのKV、岩龍‥‥しかも、その岩龍は、
「ふふふ、クライマックスはこれからよ!」
 先ほどの終夜同様、なんと空中で変形しつつ、雪村をたたき込もうとするではないか。
「何だ、貴様は。つまらんな」
 あえなく、ステアーの機動力の前に一撃を掠めることすら許されず、沈んでいく1機の岩龍。それを見ていたシモンは、
(「‥‥私は何を焦っていたのか。岩龍ですら、こうも前線に叩き出されているのが現状ではないか。無理して本部に突撃することもない、か」)
 そう静かにつぶやくと、
『せいぜい足掻いて見せることだな。もうすぐお前たちは、絶望を目の前にひれ伏すのだから‥‥』
 そう言い放つと、傷を負ったステアーはその場から姿を消し去った―――

「勝った!?」
 敵エース機を撤退させたとの報を受け、すぐさま放送施設を借りていたクールマ・A・如月(ga5055)が全傭兵たちにその『希望』を告げる。
 このまま敵を押し返す、いける、俺達は勝てる! まだまだ絶対的な数の差は埋まっていないとはいえ、そう誰もが士気を奮い立たせ、意気込んでKVの操縦桿を握ったとき―――

 ―――彼らの視界に、空を覆いつくすほどの機影が現れた。
『ふははは、哀れな人類諸君。本番は、まだまだこれからだ。せいぜい楽しませてくれたまえ』

 第一陣防衛網―――相応に敵部隊を沈めるものの、組織的に統率された物量の差の前に、現時点をもってして、瓦解―――

 こうして、次の希望が第2次防衛網へと託されたひと時であったが、1人、大破したKVの中で、怪しげに笑う女性がいた。

「私だ。人類側の戦力は、最早底を尽きかけている。このまま、数で押せば我々の勝利だ」
 無線でブライトンらへ現状を報告するシモン。先刻の岩龍の突進を見て、人類側の置かれた状況に確信をもった彼であったが、彼は知る由もなかった。
 あれは、あの岩龍の無謀な突進は、実は羽曳野ハツ子(ga4729)による、人類側に時機にやって来る『援軍』のカモフラージュであったことを――――


<担当 : 羽月 渚>




●響く戦火のオト
 遠くで、地を揺るがす音が聞えてくる。
 第一陣での戦闘が始まったのだ。
 響く喧騒を聞きながら【自由なる疾風】の小隊の面々は、ともすれば駆け付け掩護しに行きたい気持ちを抑え第二陣上空を見つめていた。彼らの直ぐ後ろには昨日、援軍として到着した空中空母ユニヴァースナイトが控え、最終防衛ラインが引かれていた。
 
 少しづつ、戦いの喧騒が近づいてくる――
 この激しい戦いも、もう直ぐ決着がつく。退けるにしても、‥‥やぶれるにしても。だからこそ、彼らの隊長は言う。
「墜ちず無事に帰還する事。 全員でフォローする事」
 俺達は、まだ負けていない!最後に勝っていればいいだけだ!
 沢辺 朋宏(ga4488)の言葉に隊員たちも、強く頷いた。――その時、友軍からの通信が入る。
『第二陣、警戒をお願します。第一陣の突破を許しました。繰り返します、第二陣‥‥』
 彼らは即座に、戦火の広がる夜の空へと上がった。

●空の敵
 最初に第二陣の防衛圏内に侵入してきたのはヘルメットワーム。これに、対空戦に備え空域確保を任されていた傭兵たちが即座に対応する。香坂・光(ga8414)の乗るディアブロもそのうちの一機だった。
「お兄さん手伝うよっ♪」
 彼女の言葉に、周囲の小隊を組んで居ないフリーの者同士即席の連携を組んで、HWを打ち落とす。
 落下していくHWの爆音が聞える前に、通信機器がザザリと不快な音を立てた。
 見れば案の定、キューブワームを伴った一団が、こちらに向かってきている所だ。CWのジャミングの効果は、周知の通り、放って置いては百害あって一利ない。
 空域確保に動いてるものは勿論のこと、空域担当以外のものも、射撃で、あるいは直接攻撃で落としていく。
 それが本格的な戦闘が、第二陣において始まりとなった。

 散発的な戦闘があちらこちらで起こっている。各自、事前の打ち合わせどおり陣形を整えて、安定した弾幕で侵入してきたワームに対処していた。
 【八十六】小隊もその中の一小隊。8人の陣形を作り、連携・掩護を綿密に取りながらの厚い弾幕は空域を突破せんとするワームを確実に地に落としていく。
「撃ち落とせるだけ撃ち落とす!」
「ま‥‥役に立てれば‥‥」
 と、いうルー・シレティカ(ga8513)の言葉に、エルネア・クトゥフィド(ga8463)は少し眠そうに返す。そんな彼女たちへの、バックアップをするのはジャック・フォルズマン(ga7692)の情報統括だ。目となり耳となり敵の位置を、状況を、逐一拾っていく。
「CWは優先して倒してください」
「勿論っ、箱は変わらず全部落すよ!」
 薫(ga8461)は答えながら、スナイパーライフルでCWを撃ち落した。

 八十六小隊よりやや北の位置に【アイギス】【グリフィン】の2小隊もやはり、CWを率先して落とし奮戦していた。
 彼らは、電子戦機護衛を最優先に買って出ていた。お陰でCWのジャミングを無効化する事に専念出来る機体が生まれている。
「01より各機へ、何としても彼等を守り抜くぞ…アイギスの名にかけて!」
 だが、隊長の赤村 咲(ga1042)の彼等には、それ以上のものが含まれているのかもしれない。後ろには、護るべきものが多くあるのだから。
 自分たちは護れなかったのだ、この街を。だが、だからこそ‥‥
「03了解、絶対に抜かせない!!」
 ナレイン・フェルド(ga0506)が可愛く応える。同様に、櫻井 壬春(ga0816)からも応える通信が入る。
「06了解ー。油断無く着実に、だよ。こっちも手伝ってくーださいっ」
 が、CWだけではなくHWも彼に向かってきた為、掩護を要請する悲鳴が混じった。
 すかさず、ナギ(gb0978)がフォローに入り、その間に陣形を整える。
「運命の輪は回ります‥‥いつでもバグア優勢だなどと思い上がられませぬよう」
 空知 ヒバリ(ga9723)は薄く笑う、女教皇の雰囲気を纏わせて。撃ち抜かれたHWがゆっくりと墜落していった。

「隊長代行の責務、きっちり果たしますね。各機、私に続いてください!」
 そんな声と共に、戦域を飛ぶのはベルティア(ga8183)とその小隊【夜修羅】である。普段は、覚醒時は子供っぽさの出る彼女だが、今回ばかりは特に気をつけているようだ。
「隊長不在、こういうときこそ隊の真価が試されるってもんだよな」
 他の隊員達も彼女を支えていた。
 迎え撃つ戦いなだけに、そうそう抜かせはしない。安定した弾幕によって全ての敵機を落とした、誰かがそう思った時。
 数え切れない程の機影が迫る事に気がつく。
 ほぼ同時に、通信が第二波の警戒と第一陣が敵の猛攻の前に突破された事を知らせた。

●混沌の中で
 第一陣を飲み込んだ、圧倒的な物量に第二陣も一気に乱戦模様となった。最終ラインはその名の通り最後のラインなので、UPC軍も主力を置いている。傭兵達も多くがそこへの参戦を申し出ていた。
 それ故、圧倒的な量の敵軍も攻めあぐね、結果として第二陣へ引き返して来た事になり、挟撃じみた大混戦となったのだ。
 空戦の主導権をとったバグア軍は、次々と地上へとその戦場を広げていった。
 デリーの市街地は倒壊したビルや瓦礫で遮蔽物が多い、その中での乱戦は敵にとっても、そしてUPCにとってもやり難い物となるに違いない。
 そこに、傭兵達が一計を案じていた。
 物陰の多い戦い、不意を付かれない為に怪しい影には容赦なく攻撃を仕掛けるだろうバグアの思考を読み、そこら中に廃KVを加工した『案山子』を作ってあちこちに配置していたのだ。
 近くでまじまじと見ればばれてしまう様な代物でも、この大混戦の弾幕と硝煙荒れる戦場では十分一瞬の気を引く道具となる。

 地上防衛を任されていた部隊には、高い連携能力を発揮する小隊がいくつかあった。その一つが【ガンアンツ】小隊である。
 情報網から、敵の動きを拾い遮蔽物に身を隠す、擬似的に包囲して確実に落とす。その動きが見事に統制されていた。
 隊長の比留間・トナリノ(ga1355)だけでなく、副官的な立場だと理解し円滑な統制を補佐をしたフェブ・ル・アール(ga0655)の行動も大きいのかもしれない。主ルートではないものの、脇にそれた敵を確実に落としていった。
 敵補給線の見極めも可能なら行いたいですね。そう、言って情報収集及び解析に余念が無いのは廻谷 菱(ga4871)だった。ビックフィッシュでも見つかれば、迷わないのだが‥‥。それとも輸送自体は第一陣の手前で降ろして、後退してしまっているのだろうか。
「隠れるのは結構得意です」
 と笑ったのはヘリオドール(gb0265)
「蟻が待ち伏せて張る蟻地獄、抜けられるなら抜けてみろ‥‥ッ!だな」
 草壁 賢之(ga7033)も笑う。前者の笑いは、もしかしたら緊張を紛らわす為かもしれないし、後者はそれをほぐす為かもしれない。
「天糸受信。“ガンアンツ電話番”より皆さん、迎撃準備お願いします」
 しかし、キザイア・メイスン(ga4939)の言葉によりまた彼らは地に潜む兵隊蟻となって攻撃を始めるのだった。

 その頃、別の場所では三位一体攻撃で戦果を伸ばす小隊があった。
「行くぞ! ヤツにゲッソストリーンアタックをかける!」
 ホバーで移動しつつ接近、先頭の一機目が攻撃を防ぎ、二機目がガトリングで敵のバランスを崩す、そして三機目が対戦車砲で打ち抜く。そして、決まったらすぐさま、
「よっしゃ! おいテメーら、ずらかれぇっ」
 脱兎の如く距離を取り、遮蔽物に隠れる。彼等は【ゲソレンジャー】の這い寄る秩序(ga4737)、Dr.ヘナチョコビッチ(ga4119)、そしてレーン・M・アルトナー(ga4384)の3名。
 しかし、無理が祟ったのか、運が悪かったのか。這い寄る秩序の機体が接続部から火花を散らしはじめ、それを機にして修理の為に後方に下がるのだった。

 その横では、小隊【ハニービー】が堅実な戦で着実に成果を出していた。
 こちらもやはり遮蔽物を利用するのは同じなのだが、道路上に陣を取り、敵の動きをある程度束縛した上で、リロードを計算した絶え間ない弾幕をはり、場合によっては幻霧を発生させる事で敵の侵攻を食い止めていた。
「これ以上進んでもらう訳には行きません。この場で沈みなさい!」
 宮明 梨彩(gb0377)の言葉どおり、数多くの敵機がその場で沈んでいた。しかし――‥‥
 多すぎる敵に、幻霧を発動させていた高坂 旭(gb1941)に交代の声をかけたのは、高原真菜(gb2894)
「旭さん、交代します!」
「ありがとう、うう、沢山来る‥‥もう‥‥そろそろ諦めて帰ってくださいっ」
 泣き言交じりの声を打ち消すように、陣の直ぐ側に敵の砲撃が着弾する。
 多すぎる敵の量に錬力の消費が激しい。隊員にも、反撃により軽度とはいえ被害が出ている。
 カーラ・ルデリア(ga7022)はある決断を下す。
「砲撃で破壊して障害物にして、敵の侵攻を遅滞を狙ってバリケードにするで。その間に私らは、一旦後退ばっちり補給してから戻ってこよ」
 空中を飛ぶ敵は無理だが、キメラや陸戦兵器なら多少は時間を稼げるはず。
 その判断に、隊員達は速やかに従った。

 【イエローマフラー】小隊は、比較的見通しのいい場所に陣を構えて防衛していた。
 利点は、長距離から敵を捕捉し撃てる事。遮蔽物に身を隠し、ライフルをメインにした攻撃を行っている。
 その中で勇姫 凛(ga5063)は、ライフルを2丁用意し一回に一発しか撃てないという即射性の低さを補う工夫をしていた。更に、流 星之丞(ga1928)、福居 昭貴(gb0461)、潮彩 ろまん(ga3425)、遠藤鈴樹(ga4987)と彼等はライフルを長距離から確実に当てていく。
「俺、無事勝ったら新メニューを考案するんだ‥‥」
 昭貴がそんな事をぼやくと、香原 唯(ga0401)が
「迫り来る敵がお肉や野菜だと思い込めば、包丁の要領で私にも接近戦ができます!」
 と明るくこたえた。
「戦い終わったら、カレーパーティして、山奥で修行するんだもん…負けない!」
 ろまんもそれに奮起する。彼らはカレーに深い深い思い入れがあるのだ。だからこそ、デリーを壊滅に追い込んだ彼等を許すわけにはいかない。

 ――情報連結網『天糸』、それはこの戦場を支える命綱のうちの一本。
 扱える情報の全てといえる量が、天衝遊撃隊の天神隊の前に次々と送られてくる。振るいにかけ、必要な情報を、必要な場所へ送る情報連結網【天糸】 戦場に於ける情報は、まさに命綱にもなる重要なものだ。それは、小隊の枠を超え全ての傭兵をも支えるネットワーク。
 本来は天衝小隊のネットワークだったのだが、それ全域に対応させたのだ。

 その『天糸』を操る任務についていた機体は戦場の奥、UKの近くにあって機体の能力をほぼ全てそれに注いでいた。桜神羅 乃衣(ga0328)とそれを補佐するシン・ブラウ・シュッツ(gb2155)、識條 夢瑠(ga0330)、久遠 里奈(ga0329)3名がその乗り手だ。
 情報収集に協力する人数が多く、回収量が多岐に渡る為、UKの処理能力を借りて膨大な量の情報を処理していた。
 それを更に、マグローン(gb3046)が受け取り、他の戦場の戦域情報管制網Giftradioとの情報連結及び分析、そして統制のジャンクションを担うという大掛かりな作戦。勿論、他の戦場から受け取る情報もある。
「過労死しなけりゃ良いのですが‥‥」
 思わず零れた隊長の言葉に、隊員が同じく苦笑する。特に幼馴染の二人が終わったら、美味しいお菓子を食べようと励ますのだった。
 しかし、その苦労の甲斐あってか第二陣全域に情報がくまなく行き届き、と同時にもう一つの作戦の統制も確かなものとするのだった――。

 小隊に所属して居ないものとて、その戦果は馬鹿に出来ない。
 単騎で動けるからこそ、柔軟にかつ細やかに戦場のフォローが出来る場合も在るのだ。
 綾野 断真(ga6621)もその一機だった。天糸からの情報を元に、ビル、瓦礫を利用して死角の位置からのライフルでの射撃、そして移動、潜伏。更には友軍の掩護と幅広く活躍していた。
 より混戦となっている前線部分においては、ブラスト・レナス(gb2116)が混戦を予測しての行動が功を奏していた。彼女が予期したとおり、既に戦場は前も後ろもないような状態が広がっていのだ。
「援護するよ!」
 と、苦戦を強いられている部隊にガトリングでの掩護を行うのだった。
 敵機を示すレーダーは真っ赤のままだ。戦場全体が恐らくこんな状態なのだろう。
 その頃、同じく単騎で動き、小まめな補給をしながら短期戦を繰り返していた紫藤 武(ga9977)が、やはり補給をしていて気がつく。
 敵の動きが‥‥変わった?
 嫌な予感がして、付近の友軍機に連絡を取ると――現れたらしい。FR、敵のエース機が。

●第二陣手前、上空にて
 カルマ・シュタット(ga6302)がその機体と遭遇したのは彼にとっては幸運だったのかもしれない。
 だが、一般的な観方からすれば小隊を離れたった一機で、その機体と相対したのは不運に違いないのだろう。

「‥‥‥」
 戦場を彼は見つめていた。
 彼は戦う為の戦士だ。それも、より強い戦士と戦いたいと考える生まれながらの戦士。
「ギルマンを倒した精鋭‥‥なら、本当の戦士か?」
 言葉の真意は彼にしか解らない。

「また一緒に酒を飲みたいですが、ここは戦場です!」
 カルマは探していたのだ、そのアフリカ出身のFR乗りを。
「‥‥なら、戦士としての務めを果たすがいい」
 ダム・ダル、ゾディアック牡牛座の名を冠した彼は、いつかと同じように。だがどこか嬉しそうにそう言い、単騎で仕掛けてきた戦士に相応しい対応をするのだった。
 カルマは、一息で距離を縮めると機槍で切り込み、レッグドリルによる破砕を狙い、至近距離からのショルダーキャノンをぶつける。
「お前は、戦士だな」
 短い言葉の中に、強敵と戦える喜びを滲ませるダムは、カルマの猛攻を凌ぎお返しとばかりに圧倒的な強さを披露する。
 ただ、単騎なのだ。
 ダムの乗るFRは単騎で戦う事を視野に入れたエース用の特機。
 対するカルマの機体は仲間と連携を前提とした機体。
 何合かの打ち合いの後、

 赤き月の魔神を崇める彼は戦場を見据えると、ブーストをふかした。

 じりじりと、補給を余儀なくされる機体、収容を余儀なくされる機体が増えてきている所にその一報が入った。
 第一陣で確認されたのとは別のFRが接近中である、と。
 ツォイコフ中佐率いる空中空母ユニヴァースナイト内外に、緊張が走る。
 もし、この空中空母が落ちるような事があれば、それはそのまま敗北に繋がると言っても過言ではない。なので、多くの傭兵たちが直衛についていた。
 【ブルーレパード】【ヘルム】の2小隊は既に、接近してきた敵機を撃退してきていたが、相手がFRとなると分が悪い。今もワームが多くUKの付近まで接近を許し、戦っているのだ。この上、FRとなると‥‥
 そして、その知らせは当然『天糸』に伝えられ、即座に全域の友軍機がこの情報を共有したことになる。
 と、同時に対FRへ向けて力を温存していた部隊が一斉に牙をむく合図でもあった。

●覚悟をきめるモノ
 対新鋭機連携『血桜』、敵攻撃時は相互援護射撃と防御に徹し、敵が引く時は攻撃を仕掛け疲弊させ、総反撃を行う事を基本とした連携攻撃。その合図が、天糸を通して全域に伝わる。
 即ち、参加全機が一機を追う事になる。
 新鋭機を落とす部隊は多くの者が立候補していた。数を当てれば、FRといえど落とせる。
 実績が彼らを後押ししたのかもしれない。

 だが問題があった、それは空戦部隊、地上部隊の2部隊は確かに戦歴を伸ばしていたが数が対新鋭機部隊よりも少ない数だったのだ。当然、対FRを心得た部隊でも、現れるまで全く戦わなかった訳ではない。
 だが、やはり全力で落としに行く場合に比べて格段に火力が落ちるのは明らかだ。
 結果として、FRが現れた時点で障害となる敵機が空にも、地上にも、多く存在してしまったのだ。
 血桜の火力が邪魔なHWに阻まれて、存分に活かせない。
 もう一つ重大な問題がある、第一陣のシモンのようにその場で戦うつもりがあればそれはとても有効な手段といえただろう。
 ファルル・キーリア(ga4815)は一戦を交えたのち、敗走を装おうとして、それに気がつく。
「しまったっ、あの機体の目的はっっ」

 ――だが、もし第二陣など眼中に無ければ‥‥
 FRは真直ぐに司令部のある巨体、UKの方角へ飛んで行く。

 そして、FRがUKの目前へと迫る。
「後はないんや。絶対止める!!」
 【ブルーレパード】の烏谷・小町(gb0765)がブーストを使い滑り込みざまにマシンガンでFRを牽制する。
 見ればFRのあちこち被弾の痕がある。戦場を突っ切って此処まで来たのだ、『血桜』は全くの無意味ではなかったのだ。
 ハルカ(ga0640)もバルカンで弾幕をと動こうとした時、別の方向からの攻撃を受ける。
 排除しきれなかったHWの邪魔によって一瞬の気がそれた隙を突き、FRはUKの収容口に迫るのだった。

 艦橋ではツォイコフ中佐が、緊急事態に的確に指示を出していた。
「収容を急げっ! ハッチを閉じろ!」
「間に合いません!!」
 UKにおいては、司令部という側面と同時に負傷した機体や能力者を収容するという基地という役目もあった。
 だからこそ、一直線に収容口に飛んでくるダム機の狙いが解った時現場は騒然となった。
 直掩の小隊が駆けつけるも味方が入り乱れていて、派手な動きが出来ない。そして、UKへの侵入を許してしまったのだ。
 直後複数のシャッターが下りてFRの行く手をふさぐが、突破は時間の問題となる。
「如何致しましょう中佐」
 側に控える幕僚の声に、悩む間も惜しいとばかりにツォイコフ中佐が決断を下す。
「被害は止む終えない、内部戦力で対応する。格納庫に戦力を集めるのだ。その後、続くシャッターを開放だ」
 内部戦力――つまりは、負傷して、収容された機体と兵で戦うというのか、あのゾディアックの乗ったFRに。
そう反論しかける幕僚に、ツォイコフ中佐は、他に手は無い。だが、私は無駄死にさせるような策は取らん、と答えた。
 賭けにはなるが、敵は単騎。そして機動力が殆ど活かせない閉鎖空間での戦い。
「あのFR乗りに迂闊さを思い知らせてやるのだ」

 後から追いすがった霞澄 セラフィエル(ga0495)はなぎ払うように退けられた。どうしても、周囲に僚機が居る状況では火力を十分に活かせなかったのだろう。悔しげに動かなくなった機体で救助を待った。
「あなた方とは覚悟が違います‥‥だから私達は負けない!」
 しかし彼女の言葉通り、覚悟が違う事を彼女の戦友が示して見せたのだ。

 最終ブロックを突き破ったダムダルが見たものは、視界を奪うほどの砲撃だった。それらは全て負傷した機体からによるものだった。
 尚も攻撃を仕掛けようとするFRに、はやり負傷したKVが狭い領域で次々に攻撃を仕掛けていく。
「我らは、負傷していても屈っしはしない!」
 重症をおしてKUに搭乗していた漸 王零(ga2930)の合図で更なる攻撃が浴びせられる。
 ここは、絶対に護りきる。
 機体が動くなら、機銃を構えられるなら、立ち上がることが出来るなら―――まだ、戦える。

「‥‥なるほど」
 満足に動けない状況、いくら負傷兵が相手とはいえ、さらに此処に到るまでに負った機体の損傷を考えれば――‥‥。
 瞬きの刹那、単機での突破は不可能と判断したFRは弾き飛ばされるようにUKから飛び出し、撤退していった。
 ほっと、息を吐くのもつかの間、天糸は新たなFRの出現を伝えていた。

 退却を余儀なくされた彼の前には、最終防衛ラインにおいて繰り広げられる戦いが広がっていた。
「ふむ、‥実に斬新な格好だな、牡牛座よ」
「遅れてきて、‥‥何を言う」

<担当 : コトノハ凛>


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