アジア決戦
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9月25日の報告

<報告書は前編:後編から成る>

 確かにファームライドは強い。「ゾディアック」の技量も相まって、現在バグア軍が擁する戦闘機でも最強クラスといえるだろう。
 だがそれにはあくまで「超短期決戦ならば」という条件が付く。おそらく長期機動戦となるであろう今回の戦闘には、明らかに不向きだ。
「(だからこそ、ステアーでの出撃を進言したのだがな‥‥)」
「射手座」の紋章を刻んだFRを駆りつつ、シモン(gz0121)は不服そうに眉をひそめた。
 彼の要請はブライトン博士により却下された。東京からシェイドを呼び寄せる以上、もはや勝敗はついたも同然――という理由で。
「(確かに‥‥『彼女』が来るというなら、よもや負ける事はあるまいが‥‥)」
 そう思いかけたとき、無線機の呼び出しコールが鳴りコンソールのモニターにゾディアック「蟹座」、ハワード・ギルマン(gz0118)が映った。
『大丈夫だろうな、シモン? 鹵獲機は取り戻したといえ、奴らはもうFRの弱点に気づいているはずだ。スペインでの二の舞は御免だぞ』
「心配するな。既にカシミールからダム・ダル(gz0119)も合流したし、我々の戦力は圧倒的だ。1時間とかけずに地球人どもを蹴散らし、デリー攻略の友軍と握手するさ」
『そうそう、うまく事が運べばいいんだがな』
「それに今回はビッグフィッシュが空母として使える。補給さえまめにしていれば、練力切れなどという失態も起きまい?」
『なら、その大事な輸送艦が墜とされない様せいぜい用心することだな。あれはギガワームほど頑丈ではないぞ』
 鉄仮面の男は皮肉めいた口調でいうと、そのまま通信を切った。

●インド・パキスタン国境〜タール砂漠付近
 空も砂漠も、黄昏の色に染め上げられた北インドの大地に、西から攻め寄せるバグア・アラブ軍、それに対してデリー周辺を中心に長大な防衛ラインを敷いたUPC軍。
 UPC正規軍と能力者のKV部隊を併せ、その数は2千以上に及ぶ。
 単純に数だけ見れば辛うじてバグア軍に対抗できそうだが、印パ国境に沿う形で広く薄く防衛戦力を配置せねばならぬ人類側は、その一箇所でも敵に破られれば、目と鼻の先にあるデリーまで一直線の進撃を許すことになる。
 それを防ぐためにも、今回の戦闘は伝統的な陣地防御とKVの性能をフルに活かした機動防御を組み合わせた、いわゆるアクティブ・ディフェンスが戦いの帰趨を左右することになるだろう。
「突貫作業で頑張ります!」
 KVツルハシ、スコップとドリルをフル回転させ、辻峰・鏡花(ga1870)は正規軍の工兵達と協力しての塹壕や蛸壺、バリケードの構築に余念がない。
「このような戦い、早く終わって欲しいものです」
 巡回神父でもあるファーザー・ロンベルト(ga9140)はロザリオを胸に抱き沈痛な面持ちで呟いたが、どうやらその祈りは天に届かなかったようだ。
 西のスライマン山脈に陽が落ちようかとしたその時、ひときわ強烈なジャミングにより人類側のレーダー類が異常を来し、間もなく数十機のHW編隊が上空を通過していく。
 その中には明らかにFRと思しき機体も混じっていたが、UPC側はまだ攻撃を開始しない。
 ブラッド準将より「敵航空戦力の第1波はデリー防衛部隊が迎撃する。諸君らは後続のバグア・アラブ軍主力を食い止め、何としても印パ国境の防衛ラインを守り抜くのだ」と厳命が下されていたからだ。
 やがて地響きを上げ、西の彼方から敵地上軍の本隊が姿を現わした。
 HWに四脚を付けたような旧式陸戦ワーム、ゴーレム、大小のキメラ群。少し遅れて大口径プロトン砲を背負ったタートルワーム部隊。さらにその上空を数知れぬHWと飛行キメラが覆っている。
 おそらく物量にモノをいわせた電撃作戦で、一気に防衛ラインを突破するつもりだろう。

●燃えるインドの大地
 迎撃担当の【AliceDoll】【Astraea】【放課後クラブ】【Cadenza】【Elevado】【IMP】【TEAM−UVA】【Titania】【プロジェクトS】【暁の騎士団】【第0127機動隊】【櫻第一小隊】他各隊、及びフリーの傭兵達が直ちに戦闘体勢に入る。兵力ならば、傭兵側もかつてない400機超のKVがはせ参じているのだ。
 陸戦ワームとゴーレムを前衛に立てて押し寄せるバグア軍に対し、UPC軍、及び傭兵達のKVもスナイパーライフル、レーザー砲、ミサイルポッド等の中〜長射程兵器の一斉砲撃を開始する。例によってCWによるジャミングと怪音波が能力者達を悩ませるが、幸か不幸かこれだけ的が多ければ外す方が難しい。
 また今回は岩龍とLM−01に対し、新型電子戦機ウーフーの中和装置が相互に重複するため、限定的とはいえCWのジャミング効果を抑えることもできた。
「こっから先は通さないわよ。‥‥護るために‥‥狙い撃つ!」
 【IMP】の鷹代 由稀(ga1601)が蛸壺に機体を隠してSライフルの照準を合わせ、同隊の雪村 風華(ga4900)は敵の密集地点を狙ってグレネードランチャーを叩き込む。
 安藤 有希(ga4898)は、予め味方陣地前方に埋設した地雷原で足止めした敵を標的にした。
 正規軍M−1戦車群の支援砲撃も相まり、遮る物のない砂漠で猛烈な集中砲火を浴びたバグア軍は、大地から剥ぎ取られるように消し飛んだ。
 それでも後衛に控えるタートルワームからの援護射撃を受け、残存のワームとキメラ軍が味方の屍を越え怒濤のごとく突進してくる。
 プロトン砲の直撃を受けたM1戦車が次々と爆発し、防衛ラインの至る所で塹壕や蛸壺から飛び出したKVとワーム、キメラ群の白兵戦が始まった。

「3‥‥2‥‥1‥‥射程内、今ですっ! いっけぇ〜っ♪」
 元気の良いかけ声と共にシエラ・フルフレンド(ga5622)のワイバーンが塹壕から飛び出し、僚機の使人風棄(ga9514)、ラピス・ヴェーラ(ga8928)らとも連携して戦場を駆け巡った。距離に応じて兵装を使い分け、チャンスと見ればマイクロブースト使用で敵ワームの死角を衝く。
「次から次へと…しつこいんだよ!」
 Sライフルによる狙撃からバルカン砲の掃射へ切替え応戦を続けていたカルマ・シュタット(ga6302)は、さらに接近してきたワームをロンゴミニアトの一撃で打ち砕く。
 またフィアナ・アナスタシア(ga0047)は手頃な高さの建物に機体を固定し、Sライフルとその他の射撃武器でひたすら狙撃を続けた。
「魂(たま)切れるまで私は撃ち続ける!」

 最前線の防衛を支えるものは、後方の基地より絶え間なく送り届けられる物資――すなわち補給線である。
 今回の補給線維持に当たっては、【ハーベスター】【補給隊】【旅烏】他、有志の傭兵達が直接の物資運搬や負傷者護送、あるいはその護衛にあたっていた。
「こんな形で里帰りするとはね‥‥。でも、やってみる‥‥ッ!」
 インド育ちの遊馬 琉生(ga8257)は、やや複雑な感慨を抱きつつも、上空から地上の輸送部隊を警護する。
 そのとき輸送用トラックの1台が、突如大きく割れた足許の大地に引きずり込まれ、スクラップ同然の姿で吐き出されてきた。
「え‥‥? こ、この揺れ‥‥っ!? い、いやあぁぁぁっ!!!」
 そのすぐ傍らで運搬を行っていた氷雨 テルノ(gb2319)は泡を食ったように翔幻を飛行形態に変形させ、上空待避する。
 EQ出現――その報は敵ジャミング下でも細々ながら維持されていた部隊共有情報網「天糸」により、直ちに全軍に伝えられた。
 明星 那由他(ga4081)、忌瀬 唯(ga7204)、神無月 真夜(ga0672)らは事前に戦場の各所に設置してあった地殻変化計測器から地底ワームの位置、移動方向を割り出し、同じく「天糸」を通じて対EQ部隊の各傭兵へと情報を送る。
「吼えろバイパー!! バグア共を喰らい尽くすッス!!」
 六堂源治(ga8154)、黒川丈一朗(ga0776)、楠・甲(ga8276)らが現場に急行、僚機からの索敵情報を元に待ち伏せ、地上に現れたEQの頭部を集中攻撃した。
 削岩機も兼ねたドリル状の牙を生やしたグロテスクなミミズ型ワームは、咆吼を上げ全長20mを超す巨体を地表に現わしのたうち回る。
 そこへ【AliceDoll】からの連絡を受けた【放課後】のメンバーも到着。
「どんなにいっぱい来たって、ここは絶対通さないよ!」
 愛原 菜緒(ga2853)、空間 明衣(ga0220)らがレーザー剣「雪村」の斬撃でとどめを刺した。  別の戦場では、やはり地上に誘き出したEQを【暁】の面々が狩っていた。
「阿修羅、お前の得意な平地戦だ、暴れるぜ!」
 白鴉(ga1240)は四足歩行KVの跳躍力を活かし、EQの呑込みを避けヒット&アウェイの攻撃。一瞬動きを止めたEQに対し、
「狙い撃つぜ!」
 ヴォルク・ホルス(ga5761)が後衛からSライフルD−02の狙撃をヒットさせた。

 地上の攻防と時を同じくして、上空でも既に交戦は始まっていた。
 メディウス・ボレアリス(ga0564)、スティレット(ga5278)、ヴィオラ(ga6064)らはフリーながらも単機出撃し、タートルのプロトン砲をかわしつつ友軍を悩ますCWを最優先に撃墜していく。
 また霧島 亜夜(ga3511)率いる【スカーレット】4名は前線付近の偵察も兼ね、ロケットランチャーやフレア弾による戦術爆撃を敢行。
 葛城・観琴(ga8227)に至ってはあえて危険を冒しブーストで敵陣深く切り込み、密集したタートル群のど真ん中にフレア弾を投下する事に成功した。
 膨れあがる巨大な炎の半球が、砲撃用ワームの群を木の葉のごとく焼き払う。
「はい、お土産のフレア弾アグレッシブフォース付きです♪」
 だが次の瞬間、何処からともなく撃ち込まれたSライフルの砲弾が彼女の機体を貫通。一撃で墜落へと追いやっていた。

『だいぶ攻めあぐねているようだな』
 光学迷彩で機体を隠したFRで観琴のディアブロを撃墜したシモンに、やや距離を置いて翼を並べるギルマンが通信を送ってきた。
 数百機にも及ぶタートルワームの砲火とゴーレム部隊の突撃にもかかわらず、傭兵達とUPC軍の抵抗により国境の防衛ラインは中々崩せない。
 欧州攻防戦の際は人類側にとって「未知の脅威」であったCWやEQがその弱点を研究され、真っ先に撃破の対象となっている事も侵攻を遅滞させている一因だろう。
「――なに、勝負はこれからだ。切り札には頃合いというものがあるのだよ」
 端正な顔立ちに薄笑いを浮かべ、余裕ある口調でシモンは答えた。
「ちょうど北側に戦線の綻びが出ているだろう? ゴーレムとタートルワームで編成した精鋭部隊を、ここから迂回させ奴らの補給線を叩く。‥‥ダム・ダルを付けてな」
『なるほど。ここで背後を取れば、国境沿いの敵軍も総崩れだな』
「そういうことだ‥‥さて、無駄話の暇はないぞ? 我々も、これから忙しくなりそうだ」
 FRのレーダースクリーンは、東から急速接近して来る、優に100を超す光点を映し出していた。

●死闘・迂回機動戦
 補給所とKV修理、そして負傷者救護を兼ねた後方基地。
 最前線での攻防が激しさを増すにつれ、多くの負傷兵や避難民、損傷したKV等が矢継ぎ早に運び込まれてくる。
「怪我人はあたしの前に出なさい! きっちり面倒みてあげるわ!」
 自称「戦場のナース」桜塚杜 菊花(ga8970)が一般人と能力者の分け隔てなく、手早く確実な応急手当を施していく。
「AU−KVだからこそ、出来る事ってあるだろ?」
 カンパネラ生徒の黒羽・ベルナール(gb2862)は小回りの利くリンドヴルムの利点を活かし、KVでは入り込めないような塹壕や瓦礫の中まで走り回り負傷者の救出に尽力した。
「この戦い、長引かなきゃいいんだけどねぇ‥‥」
 怪我人に対しては明るく振る舞い、彼らの士気を鼓舞する桜井 唯子(ga8759)も、時を追うごとに増えていく負傷兵と損傷KVの群を目の当たりにして、ついグチがこぼれる。
「(‥‥?)」
 ふとそのとき、妙な悪寒を覚え唯子は西の方角を見上げた。
 既に夜の帳に覆われた闇の中――能力者の直感が、虫の知らせのように悪い予感となって彼女の胸をしめつける。
 ――そしてそれは、間もなく現実となった。

 前線のやや後方、北側の側面を守っていたUPC陸軍の機甲部隊が、爆炎に包まれほぼ一瞬にして壊滅した。
 Sライフル、BCアクス、プロトン砲等で武装したゴーレムとタートルワームの混成部隊。さらにその背後に、赤いヤドカリを思わせる異形の機体が舞い降りた。
 ゾディアック「牡牛座」、ダム・ダルのFRである。
 彼らの目的は北から迂回しての補給戦遮断。場合によってはさらに侵攻し、補給基地そのものの占拠。これは人類軍にとって防衛ラインの崩壊を意味する。
 むろん傭兵達もこうした事態は予測し、機動防御を任務とする専門部隊を編成してはいた。
 が、いかんせん数が少ない。
 KV400機といってもその大半は最前線の防衛や空戦に兵力を割かざるを得ないため、「遊撃軍」として動けるKVはわずか50機足らず。
 だからといった、みすみす奴らの好きにさせるわけには行かない。
 【アイギス】【シャスールド・リス】【フェニックス】【雪風】【咎人】各隊、その他フリーの傭兵達は互いに連絡を取り合つつ現場に急行した。
「敵が多い‥‥まぁこの程度の苦戦は想定済みですがね」
 SライフルD−02の弾着を修正しつつ、周防 誠(ga7131)が苦笑いする。
「みんなの生命線、こんな所で断たせる訳にいかないでしょ!」
 ナレイン・フェルド(ga0506)が怒鳴り、先陣切って襲いかかってくるゴーレム目がけ高分子レーザーを照射。
「ここを抜かれる訳にはいかんのでね‥‥殲滅させてもらうぞ!」
 前衛に立ったクラーク・エアハルト(ga4961)はヘビーガトリングを乱射、距離が詰まった段階で近接兵器による白兵戦に切替えた。
 人類軍の命綱と言ってもいい1本の補給線を巡り、KVとワームの入り乱れる死闘が始まる。
 そんな中、ダム・ダルのFRは何故か光学迷彩をまとう事も戦闘に加わる事もせず、陸戦形態のままゆっくり前進を続けた。
 ――まるで、己が戦うべき「敵」を探し求めるかのように。
「もう勝ったと思ってるの? その勘違い、教育してあげるわ!」
 そんな彼の無線に、【雪風】隊長、ファルル・キーリア(ga4815)の通信が飛び込んだ。
「‥‥」
 ダム・ダルは無言のままFRの進路を変えると、長大なバグア式機槍の穂先を上げて【雪風】の敷く包囲陣へ向かい突進を始めた。
 敵エース機を挑発、自軍深く引き込み防御と支援射撃に徹して疲弊させる――その点に関して、ファルルの作戦は間違いではなかった。
 問題は、その「疲弊させる」ための絶対的戦力が足りなかったのだ。
 むろん近辺にいた他の小隊も援護射撃を行ったが、やはり火力が足りない。
 多少の被弾はものともせず突入したFRの機槍が唸りを上げ、ファルルの隊長機を撃破。ものの2分足らずで【雪風】を――かつてFR鹵獲で名を上げた殊勲の小隊を壊滅させていた。
「あぅぅ、ちょっと怖い‥‥」
 惨劇を目の当たりにした飛田 久美(ga9679)が、つい本音をもらす。
 改めてFRの脅威を見せつけられ、しかも圧倒的に兵力差で劣る機動戦班にワーム部隊が襲いかかり、機体大破、重傷者が相次ぐ。
 だが勢いにのったバグア軍の前に、1機のKVが壁のごとく立ちふさがった。
 赤く塗り上げられたバイパー改「夜叉姫」――月神陽子(ga5549)である。
「来なさい。貴方達がどれだけ強大であろうとも、人類は決して負けはしません」
 機体強化を重ねた彼女のバイパー改の防御は雷電を、攻撃力はディアブロをも凌ぎ、今回の戦場でも既に50機以上のワームを屠っている。
 冗談抜きで、彼女は今回「ワーム百機撃破」を目標としていたのだ。
 機槍ロンゴミニアトが爆炎を上げる度、ゴーレムが、タートルワームが粉砕されていく。
 その様子を眺めていたダム・ダルは、わざわざ彼女がロンゴミニアトをリロードするのを待ち、おもむろにブーストをかけ吶喊していった。
 人類とバグア、双方のエース機が真正面から激突し、互いの機槍が目にも留まらぬ連撃を繰り出す。FFの赤い光と火花が飛び散り、一瞬の静寂の後――。
 バイパー改が大地にくずおれ、FRのボディにもまたロンゴミニアトが深々と突き立っていた。
「‥‥」
 ダム・ダルは己の機体から引き抜いた機槍を陽子機の傍らに置くと、飛行形態に移行するなり、そのまま西へと飛び去っていった。
 シモンの命令も、勝敗すらどうでもいい。彼は己が望んだ最強の戦士と相見え、槍を交わした――その事で充分に満足していた。
 取り残されたワーム部隊に対し、勢いを取り戻した機動戦班が逆襲に転じる。
 補給ライン破壊を狙ったバグア分遣隊が壊滅したのは、それから十分ほど後のことだった。

●天空を朱に染めて
 宵の明星が輝く夜空で、シモン率いるHW部隊とUPC空軍との戦闘が始まっていた。
 人類側は正規軍の在来型機と傭兵側KVの混成部隊だが、その中核をなすのは空戦班では最大戦力となる【天衝】各隊計50機。
 飛行キメラ群の牽制は正規軍に委ね、まずはエース部隊【迦楼羅】【神威】を他の各隊が護衛する「楔」の陣形で、空戦の障害となるCWやその他小型HWの掃討にかかる。
「空に我らが天衝ありき、天貫きて魔を滅ぼす聖闇とならんっ!!」
 葵 宙華(ga4067)の叫びを合図とするかのごとく、闇を切り裂いて幾百条と知れぬプロトン砲とレーザー砲の光条、各種ロケット、バルカン砲の火箭が飛び交う。
 その度に友軍のKVが傷つき、敵軍のCW、HWが墜落していくが、狙うはただ2機のFR。
 「奴ら」がいるのは判っている。時折、闇の虚空からSライフルや強化プロトン砲が撃ち込まれ、そのたびに墜ちていく無念の友軍機。
 それでも邪魔なCWをあらかた片付け、岩龍とウーフーによる電子支援で命中精度が向上した所で、編隊は火力を前面に集中した陣形「砲」に切替え、強力な面攻撃へと移行した。
 ペルツェロート・M(ga0657)、NORUN(ga5405)、クリム(gb0187)らその他の傭兵達も負けてはいない。各々のKV性能に合わせ電子支援や援護射撃を強めていく。
 数の上では圧倒的に勝るバグア軍HW部隊だが、狭い空域に密集しすぎたのが災いして慣性制御による回避が困難となり、時には仲間同士衝突して墜落する混乱まで発生していた。

 そのさなか、練力補給のため後方に待機させた輸送艦ビッグフィッシュとの往復を繰り返し、後衛からの長距離狙撃に専念していたシモンの元に、部下のバグア兵より1本の通信が入った。
「何ぃ‥‥北からの迂回作戦が失敗した、だと!?」
 その後部下から詳細な報告を受けたシモンは、すかさず機首を翻し、ギルマン機に通信を送った。
「私はいったんアフリカへ向かう。後の指揮は貴様に任せた!」
『何だと? 貴様、逃げる気か!?』
「そうではない。この戦いはおそらく長期化する――もう一度博士に会い、ステアー出撃の承諾を得てくるのだ!」
 それだけ答えると、後はギルマンの返答も聞かず、ブーストをかけて西の空遙かへと飛び去っていった。

 唐突な指揮官の交代。戦力の要であるFR1機の後退。
 むろんバグア側の事情など知るべくもないが、敵陣営に生じた何らかの「混乱」は能力者達もおぼろげに感じ取っていた。
 この機を逃さず、エース部隊を前面に押し出した決戦陣形「裁」に移行、天衝各隊は他の傭兵や正規軍機の先がけとなってバグア編隊に斬り込んでいく。
「大空は俺達のテリトリー‥‥抜ける物なら抜いてみろ――出来るものならな‥‥!」
 煉条トヲイ(ga0236)が気炎を上げ、KV各機が放った煙幕装置と照明弾が光学迷彩に隠れたFRの影を夜空に浮かび上がらせる。
 位置を見破られたギルマン機に、バルカン砲からミサイル、レーザー、帯電粒子砲までありとあらゆる攻撃が集中した。
「チッ‥‥シモンの奴め!」
 ギルマンもバグア式K−01ミサイルを発射、人類側にさらなる被害を与えるも、肝心の練力が残り少ない。彼が補給に戻るローテーションを無視して、シモンは勝手に後退してしまったのだ。
 慣性制御で攻撃をかわしても、回避した先に別の砲火が待ちかまえている。
 さらにまずいことに後方へ回り込まれ、配下のHW部隊とも分断されてしまった。
「くそっ――デリー攻略部隊は!? シェイドはいったい何をやっているっ!!」
 既にレッドゾーンを示す練力メーター。警告のアラートが鳴り響くコクピット内で、ギルマンはコンソール盤を殴りつけた。
 所詮この世に「墜ちない戦闘機」など存在しない。いかなる高性能機であろうが、燃料が切れてしまえば――ただの鉄塊だ。
 ギルマンの耳に、無線機を通し聞き覚えのある漸 王零(ga2930)の声が届いた。
「『天穹に天衝あり』この事を汝の記憶に刻んでやろう。忌むべき記憶としてな」
「‥‥‥‥くくっ」
 鉄仮面の男の口から、怒声の代りにくぐもった笑いがもれた。
「いいだろう‥‥所詮は貴様ら地球人から鹵獲した流用機‥‥1機くらいくれてやるわ! ただし欠片だけなっ!!」

「蟹座」のFRが不意に動きを止め、次の瞬間木っ端微塵に爆発――いや自爆した。
 あまりに唐突な幕切れに、周囲を飛び交っていた【天衝】隊員たちでさえ、しばらく実感が湧かなかったほどだ。
「わたくしたち‥‥勝ったの‥‥ですね?」
 ようやく我に返った櫻小路・なでしこ(ga3607)の言葉で、隊員達を始め上空に生き残った人類側パイロット全員から一斉に歓声が沸き上がった。

●夜明け前の闇
 ギルマン機撃墜という大戦果を挙げながらも、地上の戦いは未だ続いていた。
 潰しても潰しても際限なくパキスタン方面から攻め込んでくるバグア・アラブ軍。
 また補給ラインは守り抜いたといえ、再び迂回攻撃が実施される怖れがあるため、人類側はやむなく戦線をデリー市街地から約4kmの所まで後退させざるを得なかった。
 戦闘は深夜になっても続き、暗闇の中を一つの丘、一本の道路を巡って両軍が奪い合う砲火と爆炎が赤々と夜空を照らし上げている。
 ブラッド准将からの指令は依然として「死守せよ」と変わりない。
 せめてもの救いは、FRという切り札を失ったバグア軍の進撃に当初ほどの勢いが感じられず、援軍到着まで何とか持ち堪えられそうだという希望だが。
 インドの覇権を巡る大戦は、まだ始まったばかりだ。
「この光景‥‥まるで黙示録か怒りの日ですね‥‥」
 燃えさかるデリー近郊の光景を見渡しながら、ファティマ・クリストフ(ga1276)は憂いと哀しみに満ちた面持ちで呟くのだった。

<担当 : 対馬正治>



●インド北部、激戦。
 ――夜明け。
 ヒマラヤ山脈の峰が朝日に照らされる頃、インド北部――正確に言えばデリー北部においても、バグアとの戦いが始まろうとしていた。
「パキスタンで始まったらしいねっ?」
 木崎 朱音(gb2302)が、難民のトラックを見送り、隣の白雪(gb2228)へと顔を寄せる。
「えぇ、戦闘が始まる前に避難を急ぎましょう‥‥」
 子供たちに林檎ジュース等を配って歩いていた彼女は、線の細さに似合わぬ力強い頷きを見せた。


 そして、パキスタン方面における戦闘開始から、およそ20分後。
 それは突然だった。
 空気の切る音、遅れて、爆発が塹壕周辺に広がる。
「来たな‥‥蒼穹武士団、堂々出陣っ!」
 爆炎の中、雪ノ下正和(ga0219)が叫ぶ。
 同時に、砲弾が塹壕の眼前に着弾したかと思うと、その中から数え切れないミサイルが姿を現した。
「情報網『蔓薔薇』、通信開始!」
 メアリー・エッセンバル(ga0194)の声と共にKV各機の通信回路が開かれる。
「ガーデン機動打撃部隊が来るまで、私達だけで持たせるわよ!」
 ハニービーの資材を利用して建設した塹壕各所に、KVが身を潜める。
 と同時に各機は一斉に弾幕を展開し、煙幕の中から放たれるミサイルを迎撃した。
「弾幕が切れたら喰われます! とにかく撃ち続けて下さい!」
 セラ・インフィールド(ga1889)の指示に、分隊員達から頼もしい返事が返される。
「俺は俺の役割に徹するだけだ‥‥」
 支援砲撃を開始する、ゲシュペンスト(ga5579)ら分隊各員。
 その弾幕の嵐に見舞われて、小型ミサイルが次々と爆発していく。だが、それでも少なくないミサイルが弾幕を突破し、塹壕周辺を穿つ。
「‥‥あ! 皆さん、地殻計測器に反応が――」
 爆発の最中、北柴 航三郎(ga4410)は機器の反応を見逃さなかった。頭部を破壊されながらも、怯む事なく報告を続ける。
 それは煙幕の中からこちらへ向かってきており、そして、彼が警告し終わるよりも早く――
『とおっつげき〜っ!』
 子供特有の甲高い声が、戦場に響き渡る。
 煙幕の中から現れたのはジェミニ、二機のファームライドだ。二機に刻印された全く同一のエンブレムが、それを物語っていた。ステルスを発動せずに現れたファームライドには、今までとの違いが認められた。見れば、従来機に比べ、明らかに『肉抜き』されている。
 従来の重量級同然なスカートがぐるりと回転する一方、その脚部は貧弱なぐらい細くなっていたりと、総体こそ変わらぬものの、局所局所に何らかの改造が施されていた。
「ミカ、いくよ!」
「頑張ろうね、ユカ!」
 ジェミニ二機は弾幕の隙間をすり抜け、手にした大鎌を振りあげた。
 FRの機動を前に、リュイン・カミーユ(ga3871)が立ちはだかる。
「悪いが、ここから先は通行禁止だ。我等『ガーデン』が通さん!」
 彼女の指示を受けてアネモネ分隊の各機が牽制攻撃を仕掛ける中、地を滑るように迫るファームライドが、その大鎌を振り下ろす。
 ディフェンダーを構え、その攻撃を受け止めようとするリュイン。
 しかし次の瞬間、大鎌はディフェンダーが掲げられるよりも早く、雷電の首を跳ね飛ばしていた。仰け反る雷電。何とか体勢を立て直そうとするも、連続する漸撃が雷電をズタズタに切り裂く。
「奴等を塹壕に入れるな!」
 コックピットハッチを開いたリュインが、通信機に叫んだ後、機を脱出する。
 直後、雷電は小爆発を起こし、その機能を停止させた。
「出たか、ファームライド‥‥!」
 斬園 雪花(gb1942)の翔幻が手を掲げる。同時に、信号弾が空高く打ち上げられた。強敵の出現を告げる信号弾だ。


 視界の隅で信号弾が光り輝く。
「始まったらしいな‥‥」
 地上の戦いを見下ろし、九条・命(ga0148)が呟いた。
「それに、こっちへも来たか!」
 FANGの面々が編隊を整える。
 見れば、航空レーダーに多数の反応がある。飛行キメラやHWを中心としたバグアの航空部隊だった。それを認めてアングラーやSimonといった空戦部隊も各隊で編隊を整え、バグア空軍に対する迎撃体勢へと移行する。
「さーて、お仕事お仕事〜っと」
 伽羅 黎紀(ga8601)が呟き、通信回線を開いた。
 対象は周囲に展開する個人参加の傭兵達。即席で部隊を組み、多少なりと戦力を集中しようという提案だ。彼女の提案に応じて、数名の傭兵が周囲へKVを付ける。
「あの、私の機は‥‥岩龍ですから、その、アンチジャミングがありますから‥‥」
 おどおどと呟くルクレツィア(ga9000)の言葉は、尻切れトンボに終わったが、傭兵達は、それだけの言葉を聞けば十分だ。冬月 雪那(ga8623)ら、集まった傭兵達はやや後方にルクレツィアを位置させる事で、効率的にアンチジャミングの効果範囲へと収まった。
「この蜜豆に入ってる寒天みたいなの、嫌い‥‥」
 ぼそりと呟き、雪那はCW群を睨む。
 各傭兵や隊員達が体制を整えたのを確認し、叢雲(ga2494)は八咫烏の各員へ向けて通信回線を開いた。
「八咫烏マルヒトより各機。キューブワームを捕捉。食い尽くしてやりなさい!」
 号令の元、八咫烏の群れが飛んだ。
 彼等は特定の陣形に拘らず、打たれ弱いCWこそがその獲物と捉えた。電子戦機がアンチジャミングを発揮する範囲から外れぬように注意しながら、近隣の味方と協力し、次から次へと襲い掛かっていく。
 もちろん、激しい航空戦が繰り広げられると同時に、地上の塹壕にはゴーレムやタートルワームが殺到していた。
 ファームライドの突入で俄かに乱れた指揮系統。
 特に、百戦錬磨の傭兵達と比べ、UPC各国軍が明らかに浮き足立っていた。バグアの陸軍は、その隙を狙って攻撃を仕掛けてきた。
「ここを抜かれるわけにはいかないわ、気張るわよっ!」
 遠藤鈴樹(ga4987)の姉御声が響く。
 彼等の築いた塹壕には、バリケードが併設されている。資材や材料は現地調達品で、KVスコップを生かして急造したものだ。強度に不安はあるものの、あると無いでは安心感が段違いだ。
「もっと‥‥もっと仲良くなる為にも、凛、絶対無事に帰るんだからなっ!」
 塹壕に向かって迫るバグア。
 バリケードの隙間から銃口をのぞかせ、イエローマフラー所属の勇姫 凛(ga5063)は、スナイパーライフルの引き金をひいた。銃口が輝くと同時に、先頭を切っていたゴーレムの脚部が打ち砕かれ、横転する。
 足を止めた敵機目掛け、塹壕各所より砲火が集中した。
 乱戦となり、塹壕を迂回しようとする敵もいれば、機動戦力が生きてくる。
「エンジェル1より各機へ‥‥必ず勝利し、生きて帰るわよ!」
「アサルト3! 阿修羅! オラと共に戦場を駆け抜けろ!」
 空漸司・由佳里(ga9240)や晴彦(ga0711)ら、エンジェルフェザーとブラックアサルトの両隊が連携して敵を攻撃する。他にも、アヤカ(ga4624)が率いるフルーツバスケット隊等も、これら迂回を試みる敵戦力へ一斉に襲い掛かった。ただ、無理な攻撃を仕掛けずに隊員の安全を第一に考えた事もあり、敵の戦力はじわり、じわりと前進を続けてもいる。
 一方、塹壕におけるバグアの攻勢も途絶えない。
「さぁて、敵さんがおいでなすったぜ。各機、遠慮せずに撃ちまくれ!」
 ブレイズ・S・イーグル(ga7498)が叫ぶ。
 ラーズグリース隊、ベータ班が全火力を敵の先頭集団へと叩き込む。
 それでも尚突破してきた敵に対しては、アルファ班が展開、砲撃部隊へ近づけまいと弾幕を展開してこれを抑えた。
「ったく次から次へと‥‥何が来ようが通すワケにはいかねェんだよ‥‥!」
「迫り来るー♪ 敵をー♪ 打つべし討つべしー♪」
 鈍名 レイジ(ga8428)がガトリングで弾幕を張ったかと思えば、その最中を駆け抜け、タリア・エフティング(gb0834)がディフェンダーで敵を切り裂いた。
「敵が多すぎです! 狙わなくても当たりますよ、うっうー!」
 スナイパーライフルを構え、敵の中心を撃つガンアンツ隊長、比留間・トナリノ(ga1355)。
「迎撃、待ち伏せ、狙い撃ち‥‥ずっきゅーんとね♪」
「あいさー、集中砲火いくわよー」
 トナリノの狙撃を合図に、まひる(ga9244)や皇 千糸(ga0843)ら、ガンアンツの面々、それに協力するプエルタ(gb2234)ら、フリーの傭兵達もここぞとばかり、敵の先頭集団目掛けて集中砲火を浴びせた。出鼻を挫かれ、一時進撃が鈍るキメラの群れ。
 しかし、それでも尚、ゴーレムが死体を盾にこれを突破してくる。
「防ぐだけ防いで、逃げるときは逃げるぞー!」
 フェブ・ル・アール(ga0655)が隊員に声を掛けた。
 ガンアンツの各員にはバリケードや塹壕の強度をある程度把握させておいた、危険となれば迅速に離脱する腹積もりだ。
 初っ端からファームライドが投入された事もあり、彼等は、無理な防戦を展開するのではなく、多くの傭兵達は遅滞防御を選択した。


●乱戦
「データリンク完了、いつでも指示出せるわ! 皆、行って来なさい!」
 Simoonのアンジェリカ 楊(ga7681)が、通信機に吼える。
 ガーデンを中心とした情報網【CL】とも情報を共有し、彼女は手早く、味方に爆撃地点を指示する。
「この大軍に敵エースか‥‥だが、絶望なんてしないっ。戦いはこれからだ!」
 緋沼 京夜(ga6138)のディアブロが加速する。藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)が彼の道を露払いすると、その間隙を縫って現れたディアブロが地表に向かって一直線に走り、ぶつかりそうな勢いで再上昇する。
 直後、フレア弾が膨大な熱量で周囲を照らしつくした。
 密集していたキメラが焼け焦げ、辺りにのた打ち回る。
 続けて、トドメとばかりにフォル=アヴィン(ga6258)の雷電がフレア弾を投下する。次々と対地爆撃を加える事で、多少なりと敵軍の進軍は怯む。もちろん、爆撃させまいとするHWの執拗な攻撃に、中々爆撃の隙を見つける事は出来なかったものの、恐るべき赤い悪魔は地上に在ったし、空対地爆撃を想定していなかったのだろう。
 爆撃を行った機体の数に比べれば、戦果は十分だ。
「‥‥敵軍の一部が補給所に向かっています!」
 そんな中、突然警告を発したのは日向 琴音(ga5428)だった。
 見れば、一部のHWが人類側の航空部隊を突破し、前線近くに設置された補給所に続く補給部隊を狙い、急降下を仕掛けていた。
 周囲に護衛は無い。
 敵から狙われぬ筈とあって、HWは不規則機動も取らず、一直線に物資の列を狙っていた。
『欲の皮の突っ張った馬鹿がつれたようだな!』
 天道・大河(ga9197)の声が、どこからとも無く響く。
 と同時に、ガトリング弾がありったけの弾丸をもってHWを出迎えた。
 HWが弾丸の奔流を受けて、そのまま地面へと激突する。弾丸はコンテナの中からだった。中から、スモール・ロシウェル(ga9208)のKVが姿を現す。とらとら☆ぷらとーん小隊だった。


「何だって!? くそっ、1秒たりとて無駄にできないのに!」
 無線から届く情報に、ガイスト(ga7104)は苛立たしげな声を上げた。
「みんな、聞いてくれ、補給拠点をもっと下げるぞ!」
 その言葉に、彼等に協力する補給部隊やフリーの傭兵達が首を傾げる。
 早々に補給拠点を引き払う事になったのは、やはり、作戦ミスが原因と言わざるをえなかった。
 ガーデン迎撃部隊の展開する後方に隣接して補給拠点であったが、陸上に現れたファームライドは戦線をズタズタに引き裂いた。各迎撃部隊は地帯防御やその他の戦法‥‥いずれにせよ退却を強いられており、前線はじわじわと後退している。このまま戦闘が推移すれば、補給拠点が敵の攻撃に晒される事となってしまう。
 本来であれば戦闘激化前に物資を集積して前線を維持するつもりだったのだが、前線付近に補給拠点を設けたことが、逆に仇となってしまったのだ。
「ならば、彼等を守ろう。某の力の限り‥‥」
 クウヤ・クレイメンス(gb1726)は、怪我人達を収容した救急テントをちらりと見やる。
 エンゼルランプの隊員達はKVをゆっくりと動かし、まずは負傷者を最優先として撤退を開始した。虎牙 こうき(ga8763)等は、KVの武器を周囲に向け、警戒を崩さぬまま撤退していく。
 が、しかし、敵の攻勢も激しい。
 前線の防衛部隊を突破し、補給拠点の周辺へ現れる敵も多数。
「蜜蜂が抵抗できずに潰されると思ったら大間違いだよん♪」
 武器を手にKVを起動するカーラ・ルデリア(ga7022)。前線の様子にも気を配っていたからこそ、その反応は素早い。
「とっとと死んで?」
 冷徹に告げ、襲い掛かる敵をKVウォーサイズで粉砕した。
 胴を寸断され、真赤な血を吹き上げながら、巨大なキメラが地に叩きつけられる。
「全機、急げ! 防衛は他の部隊に任せろ!」
 補給計画は、ハニービーの中でも、東條 夏彦(ga8396)に任せられていた。彼は周辺の味方に応援を要請すると、自身は周囲の物資をかき集められるだけかき集め、後方への退却を試みる。
「もう、大分近いな‥‥」
 KVでバリケードを築きながら、ユーリー・スヴェルフ(gb2551)は前線を睨んだ。
「うじゃうじゃうじゃうじゃ、キリがないったら!」
 そのバリケードの中に、羽曳野ハツ子(ga4729)のKVが滑り込んでくる。
 救助や避難活動には、かなりの数、個人参加の傭兵が集まっている。名実共に、補給作戦の主力は彼等フリーランスだ。
「どこか被害は?」
「東側のバリケードに損害。輸送部隊はまだ無事よ」
 ハツ子の言葉に、ユーリーはKVで東へ向かう。同時に、ハツ子は西側へと向かった。
 ユーリーは破損したバリケードを修復する為、ハツ子は輸送路の点検、警戒の為。二人とも、それぞれの仕事を完遂する為だ。


●ファームライド。進むか、否か。
『アハ、てんでよわっちょろいんだからぁ!』
 多数の陸上部隊と共に、圧倒的な強さで塹壕を制圧していくファームライド。
 爆撃や、遠距離砲撃の支援もあったものの、それらで押しとどめられるのはキメラやゴーレムが限界だった。ファームライドほどの機動性を持つ敵を相手にすると、命中させる事すら難しい。
 軽量化で打たれ弱くなっていたとしても、当たらなければ、無意味だ。
「こちらルピナス4! やりました、タートルワームを‥‥ッ!?」
 羅生 満純(gb1678)のS−01が衝撃に揺れる。
『油断し過ぎだよ‥‥くすくす‥‥』
 塹壕の中へと進入したジェミニの攻撃は、手当たり次第だった。
 強敵や不慣れな者を選別する事もなく、目に付いた傭兵へ次々と襲い掛かる。そんなのが二機も居るのだから始末が悪い。
「厳しい‥‥ですね‥‥」
 イエローマフラー隊の廻谷 菱(ga4871)がクールな表情を崩した。
 各地の塹壕陣地はまだ保持されている。事前に想定したとおりの強度、防御性能を発揮しているから、その点に不安は無い。ただ、最初からFRを投入する攻撃に、陣地の放置は已む無しといったところだ。
 事実、それを想定して補給所は後退を始め、ハニービーをはじめとする部隊は補給所の資材を利用し、そこを第二陣にせんと奮戦している。
「どれだけ不利でも関係ない、皆の明日の為に、この戦線を守り抜くんだ!」
 諫早 清見(ga4915)のワイバーンが塹壕に侵入したゴーレム目掛け、駆ける。
 気付き、振り向いたゴーレムの胴体をすれ違いざまに一閃、ソードウィングで斬り抜けた。一拍遅れて爆発するゴーレム。しかしその爆発さえも、塹壕の損傷原因となってしまう。
 第一防衛陣地の放棄は、最早時間の問題だった。
「‥‥奴らも本腰を入れてきた、という事か‥‥負けられん戦だな」
 ファフニールの狭霧 蓮(ga0213)が、誰に告げるとでもなく呟く。
 だがその時、隊員の一人に、ケルベロス型のキメラが襲い掛かった。転倒するKV。ターンして再び襲い掛かろうとしたその瞬間、ケルベロスの頭部が粉砕された。
 それは、梶原 静香(ga8925)の放った弾丸だった。
「兄さん達の為にも‥‥私は負けられません」
 機動戦力が迂回攻撃を狙う敵を粉砕し、迎撃部隊の援護に現れたのだ。
「私達は部隊の楔、一気に敵陣を貫きます!」
 フリージア分隊の小隊長、リゼット・ランドルフ(ga5171)の声が通信回路を通じ、一斉に届けられる。小隊長に続けてフリージア各員が敵中に横合いから突入し、敵を撹乱する。更にはそこへ、ガーベラやカトレアの各分隊が続き、乱れた敵を次々と撃破していく。
「よし、今だ! 全機、第二防衛線まで後退する!」
 飯島 修司(ga7951)の指示に従い、第二若葉隊が後退を試みる。
 そんな中、地殻変動計測器を展開していたミア・エルミナール(ga0741)が、突然声を荒げた。
「――地下から接近する機影があるわ! ミミズよ!」
「構うな、どうせ放棄するんだ!」
 ミア以上の大声で、修司は激を飛ばす。
 一瞬躊躇した隊員達も、その言葉に地を蹴り、一斉に退却を開始。先に一歩引き下がったリュドレイク(ga8720)が弾幕を張って追いすがる敵を牽制する。しかし、そんな中、井出 一真(ga6977)が一人塹壕に残り、攻撃の手を緩めない。
「殿を務めます! 構わず行って下さい! 早く!」
 眼前の敵目掛け、注意をひきつけるように攻撃を仕掛ける一真。
 だが、彼の攻撃が途切れた瞬間、地中から現れたアースクエイクがその脚部をもぎ取って行った。煽られ、空中で回転して地面に叩きつけられる一真。
 伸びきった胴を折り曲げ、一真のKVへと襲い掛からんとしたアースクエイクに多数のロケットランチャーが着弾し、周囲を爆炎で包む。
「ったく、無茶をしやがる‥‥ッ!」
 飛び出したのは水円・一(gb0495)のディスタンだ。
『すみません、助かりました』
「単独だから出来る事もあるってな!」
 通信機から聞こえる一真の声に、ぶっきらぼうに応じる。
 しかし、アースクエイクはじめ、バグアもただやられて黙ってはいられない。塹壕を突破できると見込んで勢いにも乗っている。始末できる傭兵は一人たりとて逃がさぬといった気迫で、各部隊の殿や、動けない傭兵へと殺到する。
「アースクエイクか?」
 『元』補給拠点で待機していた黒桐白夜(gb1936)が、信号弾を打ち上げる。
 既に物資の殆どは後方へ下げ、輸送任務に当たっていた傭兵達の一部は、迎撃隊が到着するまで第二防衛線を保持していた。そんな彼が覗きこむスコープの先では、激戦が続いている。
 先ほどのロケット弾に怒り狂うかの如く、アースクエイクが牙を剥く。
「ちぃ‥‥粋な計らないね」
 近付くキメラをバルカンで牽制しつつ、テトラ・シュナウザー(ga0218)は通信回線を全開にした。周辺のフリーの傭兵へ、即席の部隊編成を呼びかける通信だ。
「了解‥‥防衛任務は、きっちり完遂する‥‥」
 敵に囲まれたバリケードを放棄し、高村・綺羅(ga2052)が飛び出した。
 アースクエイクの腹をチタンファングで切り裂き、そのまま走り抜ける。素早い動きに翻弄され、ゆらりとした動きで追いすがるアースクエイク、その瞬間、開かれた大口の中に弾丸が飛び込む。体液を撒き散らしながら、アースクエイクが地に倒れた。
「スナイパーをなめないで!」
 撃ったのは的場・彩音(ga1084)だった。
 その隙に、彼等は煙幕に紛れて撤退していった。慌てて追撃するバグアを、若葉隊の張った弾幕が追い返す。こうして、一部を除き、多くの部隊は第二防衛線へと退却して行った。


「必殺! 阿修羅夢・クラッシュ!」
 エイドリアン(ga7785)の阿修羅が地を蹴り、ディハインブレードが空を切り裂く。
「うにょらぁー!」
 対するファームライドが大鎌を振るう。互いの刃が触れ合った瞬間、ディハインブレードが弾かれた。そのまま反応する余裕も与えられず、阿修羅の前足がもぎ取られる。
『僕達に勝とうなんざ一万光年早いんだよっ♪』
 次なる獲物目掛けて地を蹴るファームライド。
 その赤い機体に陰が差した。
「ボクも戦えるところを見せないと――」
 飛び掛ったのは、神鳥 歩夢(ga8600)のディアブロだった。
 雪村の輝く刀身を振り上げ、それと同時にアグレッシブフォースを発動する。ディアブロのもてる力の全てを発揮し、彼は雪村を走らせた。空気を焼く刃がファームライドに迫った瞬間、ファームライドの全身に配置されたブースターが一斉に火を吹いた。
 並の人間であればそれだけで圧死するような加速で、機を捻った。
 雪村が地を割き、岩々を蒸発させる。
 ファームライドの装甲で、飛び散った岩石が砕け散った。
「けど――まだッ!」
 体勢の崩れたファームライド目掛け、返す刃を逆袈裟に振り上げんとする歩夢。直撃コース。腕の一本や二本は確実に奪い去る、流れるような剣筋。
『ユカに手を出すなぁ!』
 横合いから躍り出たファームライドが大鎌を回転させ、オープンチャンネルで絶叫する。
 絶叫と共に真っ二つになったのは、ファームライドではなく、ディアブロの腕部だった。腕と共に雪村が空を舞い、エネルギーを霧散させて地に叩きつけられる。
「くっ‥‥!」
 言葉から察するに、今のはミカか。
 ミカの機体が、ゆっくりとユカに並ぶ。
『今のは危なかったよね。アレを喰らえば――』
『――僕達だってタダじゃ済まなかった‥‥』
 一歩、二歩と退がるディアブロを前に、二機は揃って大鎌を振り上げた。朝靄と戦塵の立ちこめる中、ファームライドのモノアイが敵意を剥き出しにし、不気味な輝きを放つ。同様に、そのコックピットの中、二人の目が紅色を増し、眼前のディアブロを睨む。
『『僕達に手を出す奴は‥‥』』
 ぼそぼそと呟くジェミニ。
 しかし、二人の声は、盛大な警告音に掻き消された。通信先にまで聞こえるほどの、大きな警告音だ。ハッとして画面へ目を落とす二人。そこには黒地に赤い色で、明確に『EMPTY』と表示されていた。
『ミカ‥‥』
『‥‥うん』
 言葉少なげに頷き、二人はじりじりと引き退がり、やがて一目散に退却して行った。
 強敵とは言え、ファームライドとて、無限に戦い続けられる訳ではない。所詮、短期決戦型と言う事か。ファームライドの撤退と共に、バグア地上軍の進撃速度は鈍り、やがて、第二防衛線を前に膠着状態となった。


●ハネクジラ
 陸軍の防衛線が一時的に安定したとは言え、傭兵達に休息が訪れる事は無かった。
「チッ‥‥来たか」
 舌打ち、ジングルス・メル(gb1062)が吐き棄てる様に言った。
 彼等八咫烏がCWを掃討し、ある程度通信がクリアになった時、インド北部に展開する傭兵達の元へ重大な通信が届けられたのだ。ビッグフィッシュの船団、来たる――空飛ぶクジラの群れはモンゴル首都ウランバートルを発ち、一路南下。
 インド首都デリーを攻略する為、その腹に大戦力を抱えて訪れた。
『傭兵諸君、敵艦への攻撃は諸君に任せる! 我々が露払いに向かう、何としてもビッグフィッシュを撃沈してくれ!』
 現地UPCの空軍指揮官が、モニターに顔を見せる。
 彼の言葉に続き、UPCがありったけの航空戦力をかき集め、空へと上げる。傭兵達が擁する航空戦力も、ビッグフィッシュを迎撃する為、可能な限りの戦力が集められ、正規軍と合流した。
 一直線に敵船団へと向かえば、やがて、空を埋め尽くす敵軍が見えた。
『GooDLuck!』
 誰からともなく発せられた通信が、航空隊を駆け抜ける。
「みんなの未来。私の未来。この手で掴み取ってみせます‥‥!」
 心の中で敬礼を返し、霞澄 セラフィエル(ga0495)は暫し目を伏せる。
 彼等傭兵達の航空戦力が、真正面から敵中へと飛び込んだ。もちろん、セラフィエルらのブルーレパードもそうだ。
「よっしゃー、前線突破はさせへんでー!」
「カレーはともかく、紅茶が無くなるのは辛いから‥‥頑張りましょう」
 ブルーレパードが狙うはビッグフィッシュの周囲に展開する護衛のワーム。
 味方のアンチジャミングの効果範囲内に機を留め、練力や弾薬を節約しながらの戦い。護衛の数は多く、膨大だ。短期戦を挑んでは、この護衛を長時間惹きつけている事は出来ない。
「俺がやれる事を、やれるだけやる。それだけ」
 嘉雅土(gb2174)ら、単独参加の傭兵達も遅れじと敵中へ突入していく。
「先頭のビッグフィッシュ、こちらへ向かってきます!」
 信号弾を打ち上げると同時に、ヤヨイ・T・カーディル(ga8532)が通信機に向かって伝える。
 ヘルメットワームとの戦いを演じるも、その陣営は厚い。
 レーザーを辺りへ放ちながら数発の攻撃を回避する彼女だが、二重三重にも張り巡らされた攻撃を前に遂に被弾し、戦線を離脱する。
「‥‥ちぃ!」
 敵の攻撃が機体を掠め、嘉雅土は翔幻の幻霧を周囲へ展開した。
 その霧の中を突き抜けてイリス(gb1877)が現れ、バルカンの弾丸を周囲へばら撒きながら一直線に付きぬける。敵が彼女の機を追撃し、猛烈な攻撃を加えた。限界と見て、そのままブーストで離脱するイリス。
「道は作ったわよ! あと、よろしく♪」
「――任せろ!」
 弾幕を潜り抜けながら突出するナイチンゲール。エミール・ゲイジ(ga0181)だ。
「怖いけど、やってみせるよっ!」
 戌亥 ユキ(ga3014)が眼前で敵を引き付けるような機動を展開し、弾幕の中を逃げ回る。
「援護班から攻撃班へ、コバンザメが釣り針にかかったよ♪ あはは、けど――」
 しかし――それが限界だった。
 エンジンを撃ち抜かれ、ユキの機体が火を吹いて回転する。
「戌亥!?」
 一瞬気をとられるも、動きを止める訳には行かない。エミールは小隊員を残したままビッグフィッシュの後方へと回り込み、艦橋へ突撃を仕掛ける。追いすがるHW。その瞬間、彼は突如反転して敵を引き付けると同時に、辺り一面に煙幕弾を打ち込んだ。
 艦橋周辺が煙に包み込まれる中、ザン・エフティング(ga5141)ら、隊員各機がその後ろに続き、艦橋へと殺到する。
 迎撃の弾幕やAMMが当てずっぽうに打ち上げられる中、その直撃弾を胴体にくらいながら、南部 祐希(ga4390)のディアブロが突貫。
「‥‥さて、鯨漁と参りますか」
 激戦の周囲とは裏腹に、煙の中を眉ひとつ動かさずに飛ぶ。
 僅かに煙の隙間から艦橋を認めた瞬間、祐希はあらん限りのロケットランチャーを放ち、翼の刃を翻して、艦橋に向かって一直線に駆け下りた。


「整備完了だ、廻せ〜!」
 大泰司 慈海(ga0173)が、腕を振り回す。
「すいません、負傷者はどちらへ‥‥」
「怪我人は向こうだ! ちくしょ−、こんな時に風邪ひくなんてな〜」
 東雲・智弥(gb2833)の言葉に鼻声で応じる。彼は飛び立つKVを確かめると、マスクを口に次のKVへと走って行った。
 負傷者の治療に、高須 アルフレッド(ga7812)が駆け回る。
「重傷者はこっちに! 早く!」
 前線の戦闘が激化すると共に後送されてくる負傷者は倍々ゲームに増え、次々と仮設救護所に担ぎ込まれる。
「子供はこっち! そっちじゃないってはば!」
 かといって負傷者の列があるかと思えば、逃げ遅れた子供たちを抱えて忙しく走り回る桃尻 真華(gb2722)のような傭兵もいたりして、救護所はてんてこまいだった。
「もう、何で子供ばかり逃げ遅れてるのよー!」
 子供たちの合間を走りぬけ、ステラ・レインウォータ(ga6643)は超機械を手に負傷兵へと駆け寄った。
「頑張って下さい、すぐに治療しますので」
「ビッグフィッシュまで来るなんて‥‥ちくしょう、もう駄目だ」
 頭部に包帯を巻いた痛々しい姿で、兵士がぽつりと零す。
 その言葉を耳にして、アリッサ・コール(ga8506)は膝を付き、兵士に語りかけた。
「前線の人たちを信じるのが支援の仕事だと、私は思うんです。信じましょう、私たちが信じてあげなきゃ」
「だが‥‥」
 力なく目を伏せる兵士達。
 その時、ノイズ交じりのラジオから、影守・千与(ga4725)の低く、それでいて女性らしい声が流れてきた。
『ザザッ――インド北部において‥‥グフィッシュと接触。第一次攻撃でビッグフィッシュを撃沈しました。アング‥‥隊に続き――』
 その放送に、負傷兵達は、一斉に沸きあがった。


 炎を吹き上げて墜落していくビッグフィッシュ。
 その光景を目にして、傭兵達の士気は俄然高まる。
「は〜っはっはっは! 私のハヤブサを捉えられるか!?」
 黄昏の軍勢、ルード・ラ・タルト(ga0386)が金色のハヤブサで舞う。ハヤブサの特殊機能を常に発揮し続けるその機動でもってHWを翻弄するが、やがて、コントロールを失って尻へと喰らいつかれた。
「ちょっと! 王様無茶しすぎ!」
 慌てて忌咲(ga3867)が機を寄せ、HWをホーミングミサイルで撃墜する。
「うぅ〜!」
「‥‥数を減らさないと、近づけない」
 開いた戦線に、ジョン・J・ルーキン(ga8106)ら八十六の小隊が割って入り、周辺のワーム、特にキューブワームを優先して攻撃を開始した。次々に攻撃を加えて血路を開いたところへ、グリフィンの編隊が続く。
 見やれば、ビッグフィッシュの胴体が口を開け、中からヘルメットワームが顔を覗かせていた。
「これ以上、進ませない‥‥」
 ディアブロを単機で進ませ、ケイ・リヒャルト(ga0598)は射出口へと攻撃を仕掛けた。
「ワームを出されると困るんですよ‥‥腹に飲み込んだまま落ちてもらいます!」
 編隊を組んでいたグリフィンも負けじと後に続き、レイアーティ(ga7618)以下、一斉に攻撃を開始。その大口に、様々な攻撃殺到した。
 今まさに発進しようとしていたCWが攻撃を受け、爆散する。連続して続く攻撃に火を吹き上げるビッグフィッシュだが、その動きが止まる様子は無い。
「隊長、発進口は弱点と思えません。先程のアングラー隊を考えると‥‥」
 ウーフーのアンチジャミングを展開したまま、ルーシー・クリムゾン(gb1439)が疑問を呈した。
 彼女は彼女なりに、戦場の情勢を把握し、重要な情報を隊長へと伝える。その提案を肯定して、艦橋と思しき部分へ攻撃を集中する戦法に切り替えた。
 すれ違いさま、ありったけの弾薬を叩き込む。
 爆発の規模こそ小さかったものの、ビッグフィッシュはコントロールを失ったようにぐらりと揺れた。
 その一瞬の隙を突き、リヒャルトやユズ(ga6039)といった傭兵達も再度接近し、次々と攻撃を仕掛ける。
「やったか? ――チィ!?」
 後方をちらりと見やった比企岩十郎(ga4886)が、奥歯をかみ締めた。
 傭兵達の集中砲火にビッグフィッシュが爆発する中、グリフィン隊の最後尾に付けていた彼を護衛のHWが襲ったのだ。母船を沈められ、意趣返しとばかりに攻撃を集中され、遠距離攻撃に特化していた彼の機体は呆気なく煙を吐き、不時着する。
 彼等だけではない。
 他でも数多くの傭兵達がビッグフィッシュを目指して攻撃を仕掛けていたが、護衛の壁を突破できず、一機、また一機と撃墜されていく。
『‥‥無念だが、ここまでだろう。撤退だ!』
 やがて、先ほどの空軍指揮官の命令が航空隊へと伝えられる。
 各機が護衛のHWを振り切り、突破して退却していく。後にはまだ、総勢28隻にも及ぶビッグフィッシュが残されていた。


●閃光
「こちらカトレア2、亀さんを一体撃破です!」
 テミス(ga9179)の言葉に隊員達が歓声をあげる。
 彼等ガーデン機動部隊だけでなく、多くの小隊や傭兵達はまだ健在だ。無論、損害も少なくないのだが、まだ、戦える。デリーの司令部が混乱しているという話もあるものの、ブラッド准将からの死守命令は依然有効。彼等には、まだ数日はこの防衛線を保たせる自信があった。
「ここを抜かせるわけにはいきませんね」
 星野 空(ga3071)がスナイパーライフルを構え、タートルワームの額を撃ちぬく。
「‥‥輸送路にも、問題はありませんが‥‥」
 石動・和海(ga8242)が迫る敵を追い返しつつ、辺りを見回す。
 その時ふいに、視界の隅に光を感じた。
 そして、光を感じたのは彼女だけでは無かった。インド北部で戦う傭兵達の多くが、デリーの方角が不自然に明るくなった事に気付いたのである。

<担当 : 御神楽>



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