アジア決戦
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10月8日の報告


●デリー〜最終防衛ライン
「お互い正念場って奴だな! 白黒つけようぜ、悪党共!!」
【シャスール・ド・リス】所属、 須佐 武流(ga1461)のMSIバルカンが火を噴き、突撃してくるゴーレムの1体を牽制。足止めした敵機をソードウィングで叩き斬った。
「自分は諦めの悪い人間でしてね! 人間を侮るなよ!」
 武流とペアを組みバックアップを務めるクラーク・エアハルト(ga4961)もまた、後方の遮蔽物の陰からSライフルRで狙撃、ダメージでよろめくワームに引導を渡す。
 時刻はとうに深夜を過ぎていたが、市街地のあちこちで炸裂する砲爆撃、燃えさかる街の炎に照らされ、辺りはまるで昼間の様だ。
 シェイドによる攻撃で地上の建造物は見る影もなく破壊されたとはいえ、未だその地下シェルター内にUPC西アジア軍本部の機能を維持する司令部周辺を「最終防衛ライン」と定め、徹底抗戦の決意を固めたUPC軍と、今度こそデリーを落とすべく最後の大攻勢をかけてきたバグア軍との間で凄まじい夜戦が繰り広げられていた。
「ここから先は行かせません!」
【櫻第一小隊】を率いる大曽根櫻(ga0005)はウーフーの強化ジャミング装置で部隊を電子支援しつつ、自らもレーザー砲とツインドリルを使い分け、押し寄せるキメラやワーム群に果敢に立ち向かう。
 同隊のヴァシュカ(ga7064)、矢場菫(ga5562)らも上空のUK、そして本部防衛にあたる各隊を繋ぐ共有情報網「竜脈」からの戦術データに基づき、闇の奥から撃ち込まれてくる敵の砲撃を盾で食い止めつつ、部隊一丸となって応戦した。

 数の上で見れば、能力者傭兵だけでも500名を超す人数が結集し、これに正規軍を加えれば本部防衛部隊の兵力はこの戦域でも最大規模となる。
 しかし正規軍の主力は一般人と通常兵器、頼みの綱である能力者達もこれまでの戦闘で受けた負傷が回復しきっていない者が少なからずいる。加えて戦力の多くを地下の本部内防衛にも回さざるを得ないため、状況は必ずしも人類軍有利とは言い切れない。
 対するバグア軍のワームやキメラもデリー周辺に敷かれた2段構えの防衛ラインを力ずくで突破してきただけに無傷のものは1体たりともいないが、彼らの多くはAI制御の無人機か闘争本能のみで動く生体兵器であるため、人間のような「恐怖」や「痛み」の感覚とは無縁だ。そんな怪物どもが、とにかく数を頼りに市街地西部の陸と空から続々と攻め込んでくるのだ。
 互いに満身創痍の軍勢が廃墟と化した市街地の各所で正面から激突する。
 過去3回の大規模戦闘と比べても「人類、バグア双方に空前の被害を被った」と後に述懐されるデリー攻防戦は、いよいよ最後の局面を迎えようとしていた。

「ここは何としても抜かれる訳にいきません!」
 大和・美月姫(ga8994)ら【IMP】のメンバーは、(殆ど廃墟と化してはいたが)高層ビルの密集する地の利を活かし、敵を市街地の一角へと誘導し罠に嵌める策を取った。
 機体強化で雷電並みの装甲を誇る岩龍改搭乗の緋霧 絢(ga3668)が、自ら囮役となって敵軍を所定の攻撃地点へと誘引、悪夢の再来で一撃を加えた後すかさず離脱。
「指定ラインへの敵機誘導を完了しました。攻撃を開始してください」
 慣性制御やブーストの使いづらいビルの狭間へ誘き出されたゴーレムや陸戦ワーム目がけ、死の十字砲火が殺到する。普段は傭兵アイドルグループとして華やかに笑顔を振りまく少女達も、今は完全に「戦士」の表情だ。
 敵ワームの沈黙を確認した絢は新たな「獲物」を求め、再び岩龍改で戦火に燻る市街地へと索敵に乗り出していった。

「前に出すぎるなよ。今回、我等がすべきことは時間稼ぎなのじゃから、な」
【TEAM:UVA】隊員として部隊の前衛に立ったルフト・サンドマン(ga7712)が、チェーンソーを振り回し群がる大型キメラをなで切りにしつつ、僚機に忠告した。
 他の小隊の例にもれず同隊も負傷者が多く、特に気がかりなのは前回の重体が回復していない使人風棄(ga9514)の容態だった。むろん隊の皆で止めたのだが、彼はそれを振り切りあえて危険な最前線への同行を志願したのだ。
「砲門開放、弾幕で敵を薙ぎ払う!」
 眼前に迫ったゴーレムとキメラ群めがけ、レヴィア ストレイカー(ga5340)がヘビーガトリングのスプレッド射撃で弾幕を張る。キメラ群はそれでなぎ倒されたが、相手がゴーレムとなるとさすがにガトリング砲だけでは倒しきれず、バグア式ディフェンダーを構えた1機が前衛を突破し小隊のど真ん中へと躍り込んできた。
 すかさず飛び出した風棄が初撃はメトロニウムシールドで受け止めるも、傷ついた彼の肉体にとって戦闘行為自体が既に耐え難い苦痛だ。一瞬意識が遠のいた所に、敵の攻撃をまともに浴びてしまう。
 倒れた風棄のハヤブサに敵ワームがとどめの一撃を加えようとした、その瞬間。
 隊長機シエラ・フルフレンド(ga5622)のSライフルがゴーレムを撃ち倒していた。
「風棄さんに護ってもらうばかりじゃ無いですっ! 私だって〜っ!」
 泣きそうな声で叫びながら、大破したハヤブサから必死に仲間を助け出すシエラ。
「(ふふっ。逆に護られて‥‥しまい‥‥ましたね)」
 シエラ、そしてラピス・ヴェーラ(ga8928)の手で応急手当を受け、そのまま後方の救護所に運ばれるのを感じつつ、風棄は深い眠りへと落ちていった。

 時間を追うごとに、防衛戦を突破するバグア軍の数は増してきた。
 能力者達も必死に応戦するが、この戦線にたどり着くまで多くの犠牲を払いながらもなお数の力で猛攻を加えるワームやキメラ群に押され徐々に戦線は後退、特に正規軍兵士の被害が増大してきた。
 超低空飛行で侵入した小型HWからプロトン砲を浴び、M−1戦車が乗員もろとも溶解する。ある兵士は大型キメラに鷲づかみにされ、悲鳴を上げて生きながら食い殺された。
 そんな中、大部隊と肩を並べフリーで参加した傭兵達も少なくない。
「これが‥‥私に出来る精一杯の‥‥!」
 雪乃・Erst(ga5136)は予め瓦礫や機体の残骸を集めて作成しておいた即席バリケードの後方に機体を隠し、一瞬足を止めた敵キメラ群にヘビーガトリングを浴びせかける。
 空から強行着陸してくるワームやキメラを狙い砲撃を続けていた風怪(ga4718)だったが、やはり重体のままでの戦闘続行は難しく、善戦虚しく行動不能に陥った所を救護担当の傭兵に後送されていった。
 メグリム・ギルス(gb2180)は翔幻の特殊性能「幻霧」により友軍兵士達を敵の砲火より守り、葛城・観琴(ga8227)は敵の密集地点を狙ってアグレッシブフォース併用でH-112グレネードランチャー、C-0200ミサイルポッドなどの高火力兵器で果敢に攻撃を仕掛けていく。
 そんな彼らに敵の位置や各地での戦況データを与えたのはクレイフェル(ga0435)、鈴葉・シロウ(ga4772)らである。
「少しでも‥‥役にたてれば本望や!」
「傷を得た身でも、できることがあるなら、やってみせましょうっ」
 やはり重体の身を押してUKへ乗り組んだ彼らは、情報管制担当として「竜脈」の情報網を通じ第2防衛ラインを突破した敵の数や位置、外部からの補給情報、負傷者・避難民の誘導まで、地上や空で戦う友軍にとって必要なあらゆるデータを提供し続けた。

 炎の坩堝と化した最前線の防衛戦を支え続けたのは、【エリュシオン】【ガーデン補給隊】【スター☆ライズ】【ハーベスター】【フルーツバスケットα】その他有志の傭兵による補給・整備、救難活動である。
 たとえばロールアウトされて間もない兵員輸送KVリッジウェイを物資や負傷者の輸送に活かしたのが【AidFeather】。
「ちょいと揺れるけど、我慢しなよっ!」
 サイエンティストのFog Timber(ga4060)はリッジウェイにありったけの治療キットと食料を積み、自身も回復役として搭乗。有事の際には乗員は降ろし、自機を盾としつつ民間人や怪我人を守る。そんな彼を同隊のアイロン・ブラッドリィ(ga1067)、釧(gb2256)らがKVで空から護衛した。
 最前線から続々運ばれてくる破損KVの修復を請け負ったのが【EGG】の面々。
「自分たちは自分たちの戦いがあるさ」
 遊佐アキラ(ga7091)は運び込まれたKVのうち、比較的損傷の軽いものを優先的に修理。
 機体の方が飛べるようになれば、あとは撃墜されて落ち込むパイロットにルノ・ルイス・ラウール(ga7078)が、
「さ、元気出して行ってきな!」
 一発活を入れ、再び戦場へと送り出していく。
 夜間戦闘ということもあり、闇の中で迷子になった避難民を発見したビーストマンのにゃんこ(ga5312)が、
「暗い道も任せて大丈夫だよ。猫は夜目が強いんだよ」
 と道案内する微笑ましい光景も見受けられた。
 しかし戦闘が激化するに従い、市内の救護所に送られてくる負傷者の数も溢れかえらんばかりに増え、錬成治療や救急セットで治療に当たる秋川洋子(ga5559)は、
「(ああ、もう、猫の手も借りたい!)」
 と悲鳴を上げたいところをグッと堪え、、救護所移動に伴う避難民移動の際などは彼らを安心させるべく、自らの言動には細心の注意を払った。

 またこれまでの戦闘で重体となりつつも、これら後方支援任務への参加により前線の友軍を助けた傭兵も多い。
 そんな中、6名中実に5名が重体という状況にもかかわらず最前線での陣地構築・負傷兵救出に尽力したのが【天衝・救護班】である。
 デリー西部戦線においてシモンのステアーと交戦、大きなダメージを被った彼らであるが、不屈の精神により臨時の救護班を設立。最終防衛ラインの支援へとはせ参じたのだ。
「くっそー‥‥全身ミシミシ言ってらーッ! けど、これしきの事で寝てられっか!」
 ノビル・ラグ(ga3704)が痛む体に活を入れつつ、EQ侵入に備えて地殻変化計測器を設置。
「最後の最後だからな‥‥俺は、俺に出来る事だけをやるまでだ」
 同じく怪我の痛みに耐えつつ、南雲 莞爾(ga4272)があり合わせの資材で後退した防御陣地の再構築を急ぐ。
「‥‥ったく、トンでも無ぇ病人共だぜ! ――ケド、その覚悟は受け取った!!」
 おそらくは止めても聞かないであろう仲間達の頑固さに苦笑しつつ、小田切レオン(ga4730)は陣形の最前列に立って敵の襲撃を警戒した。
「危険を感じたら、即後退だぞ。大空で戦う皆の為にも‥‥今、出来る限りの事をな」
 隊長としてメンバーに注意を促してから、煉条トヲイ(ga0236)はふと頭上を見上げる。
 地上から立ち上る硝煙のため、夜空には星ひとつ見えない。
 にもかかわらず、主に西の方角で閃くプロトン砲やレーザー砲の光、あるいは爆発の炎のため、まるで黄昏時のごとく赤々と燃える北インドの空。
 たったいま撃墜され、炎の尾を引いて墜ちていくのは、敵か味方か――。
「(空で戦ってる連中は‥‥無事だといいが)」
 そしてその間にも、デリー上空では市街地突入を目指すバグア軍、それを阻もうとするUPC軍双方の航空兵力が、夜空を焦がすほどの死闘を続けていた。

●天空からの刺客
 最終防衛ライン上空において防空任務にあたっていたのは、【ラーズグリーズ隊】その他フリーの傭兵や正規軍機を主力とする空戦仕様KVの部隊であった。
 こちらもデリー外縁の防衛ラインを絶え間なく突破してくるHWや飛行キメラを相手に奮戦を続けていたが、UKから「竜脈」を通し「ステアー、及びFR4機の撃退に成功せり」という連絡が入り、誰もがデリー防衛に一縷の光明を見出した――その矢先。
 部隊を空陸に分けて敵機の迎撃や補給・整備、負傷者救護など各種任務にあたっていた【第0127機動隊】隊員のうち、飛行形態で上空哨戒を行っていた火絵 楓(gb0095)の目に、ふと右前方にたなびく火災の煙が不自然に渦を巻く光景が映った。
「(なに? 今のは――)」
 念のため自部隊と周辺の友軍機に警戒を呼びかけようとした瞬間、虚空から放たれた一条の光線が彼女のディアブロの片翼を吹き飛ばしていた。

『ヒャアッハハハハァ!! 久しぶりだなぁ、傭兵どもっ!!』

 戦場にいたKV全機の無線越しに、まだ若い、少年とも思えるけたたましい哄笑が響き渡った。
 直後、黒いヴェールを脱ぎ捨てるように出現する2機のFR。
 その機種に掲げたエンブレムは――「魚座」と「乙女座」。

『本部上空にFR2機を確認! 対応部隊は大至急要撃や!』

 アスレードの笑い声に被さるようにして、UKから空中管制にあたるクレイフェルの怒鳴り声が「竜脈」を走り抜ける。
 直ちに迎撃に向かった緊急対応部隊のうち、鈍名 レイジ(ga8428)、アリス・L・イーグル(gb0667)が相次いで被弾。眼下の街路へ不時着を余儀なくされる。
「悪いがここを落とさせる訳にはいかないんでな‥‥もう少し粘らせて貰う!」
 ブレイズ・S・イーグル(ga7498)の雷電が食い下がるも、2機のFRから小型HWとはケタ違いの威力を持つプロトン砲の十字砲火を浴びて無念の戦線離脱。

「ふふっ。素敵です、本当に素敵‥‥」
 ゾディアック「乙女座」のイネース・サイフェルは、アスレードとは別の意味での愉悦を覚えてうっすら笑みを浮かべた。
 燃えさかる炎を背景に、廃墟同然と化したデリーの街。そんな廃墟を護ろうと、必死になって刃向かってくる非力な人間達。
 それら阿鼻叫喚の情景が、芸術家である彼女の美意識――もっともそれは、彼女自身にしか理解できない「美」でもあったが――をいたく刺激し、新たな画想を湧き上がらせてくれる。
「惜しいわ‥‥もっと時間さえあれば、私がこの手で完成させてあげるのに。この大地をカンバスに、人間どもの血と嘆きで描いた美しい絵を――」
 高揚に口調が昂ぶる、とはいえ、今回はあくまでバグア軍エースとしての「任務」である。
「アスレード。はしゃぐのはいいですが、忘れないでくさい。私たちの役割は、あくまで突入部隊の先導であることを」
「判ってらい! でもよぉ、少しは楽しませろ。こちとら今の今まで、ず〜っとお預けくってたんだからな!」

 2機のFRは地上の人類軍が打ち上げる対空砲火をものともせず、悠然と陸戦形態に変形・着陸。
 そこに、緊急対応部隊の1つ【白銀の魔弾】が陣形を取って待ち受けていた。
「地球人を、なめるな!」
 隊長のサルファ(ga9419)が叫ぶなり、ロンゴミニアトで傍らのビルを突き崩し、司令部へ続く街路を塞ぐ。
 だがFR2機は崩れ落ちるビルの瓦礫を易々とかわし、逆に倒壊による粉塵に紛れて突進してきた。
「撃て、斬れ、穿て! ココが最終防衛ラインだ!! 全力で守り抜くぞ!」
 サルファの指示の下、縦深防御陣形を敷いた【白銀の魔弾】の一斉攻撃が開始された。
 氷雨 テルノ(gb2319)が幻霧装置により僚機を援護する一方、隊長機と共に前衛に立ったアセット・アナスタシア(gb0694)は機剣「黄龍」で斬りかかり、武藤 煉(gb1042)は兵員輸送KVを押し出し自らバリケードとなった。
「俺とリッジウェイが止める! 此処は一歩も譲らねぇ!」
 相手が並みのゴーレムあたりなら、これで充分食い止められたに違いない。
 だが2機のFRは巨大な半月刀を思わせる近接武器を振り上げるや、立ちふさがった3機をわずかな時間で大破させ、後衛部隊による迎撃は手練れのラガーメンのごとくジグザグ走行で回避しつつ本部方向へと突き進んでいく。
 どうやら奴らの狙いはKVの撃墜より、本部への直接侵攻にあるらしい。
「ここは通さないわよっ!!」
 最後の盾として本部入り口前に仁王立ちとなった雪村・さつき(ga5400)のディアブロに対し、立て続けにプロトン砲の連射が浴びせられた。
「‥‥く‥‥ぅ!」
 朦朧とした意識の中、それでも必死で機体バランスを保とうとするさつきの目に――風防越しに閃く、半月刀の禍々しい輝きが残像として焼き付いた。

 ついに本部入り口の真上まで到達したアスレード機が、頭上に向かって片腕を上げ、何か合図のような動作を取る。
「‥‥?」
 不審に思い上空を見上げた傭兵達は信じがたい光景を目撃した。
 直径100mはあろうかという大型HWが、高々度から急降下で突入してくる。
 難を避けるため、慌ててスラスターを吹かし後退するKV部隊。
 大型HWは高層ビルを積み木のようになぎ倒しながら、本部地下シェルター前に強行着陸した。
 FR2機がプロトン砲で大地に大穴を穿つと、HWの表面がスライドし、内部から飛び出した無数の中小型キメラ、そして20数機の小型ワームがその穴から続々と本部内へと侵入していく。

『さぁ〜て、これで俺達の仕事は終わりだ。これからはお楽しみのショータイムだぜぇ、ヒャッハー!!』

 嬉しげに叫ぶアスレード、そしてイネースの機体が不気味な赤光に包まれる。
 2機のFRは半月刀を高々と掲げ、周りを囲むKV部隊へ斬り込んでいった。

●決戦! 本部内防衛
「バグア軍、本部に侵入」――この非常事態は、地上にいた防衛部隊から「竜脈」を通して地下本部へと伝えられた。
「中小型キメラ多数、及び小型ワームと思しき敵戦力が地下シェルターに侵入しました。本部内防衛の各員は、所定の配置について迎撃態勢を取ってください」
 情報網「竜脈」の提唱者でもある鬼道・麗那(gb1939)が地下指令室から能力者達に警報を発し、同時に自らの小隊【竜装騎兵】にも「竜吼」作戦発令の指示を下す。
 これは麗那自身は指令室から指揮管制を、さらに「華組」「星組」に分けた自部隊をもってそれぞれ上層階・中層階の2段構えで敵部隊を迎撃しようという構想である。
 地下本部は全28階層で構成される特殊地下シェルター。負傷したブラッド準将のいる最下層の司令部に敵が到達する前に、何としても阻止せねばならない。
 同じ指令室には負傷の癒えぬネイサン・ブレイク(gb1378)も常駐し、正規軍側と連絡を取りつつ各所隔壁の開閉を指示した。闇雲に閉鎖するのでなく、可能ならば一部の敵をあえて内部まで侵入させた上で分断・各個撃破するためである。
「狩られる側はお前達だ‥‥!」
 本部内では通路のサイズからKVが使用できず、生身かAU−KVでしか戦えない。地下シェルターの一角で洋弓「アルファル」を握り締め、Fortune(gb1380)は独り静かに呟いた。
「運命よ‥‥私達に勝利を‥‥!」

 上層階では、早くも侵入したキメラ群、及び小型ワームとの激しい戦闘が始まっていた。
 2度に渡るシェイドの攻撃にも耐え抜いたUPC西アジア本部――難攻不落の地下要塞を攻略するためバグア側が送り込んだ「秘密兵器」は、身の丈3mにも満たぬ小型ワームだった。
 立方形のボディにダチョウの様な2足歩行の戦闘マシーンは、機体が小さい分通常のHWやゴーレムに比べれば非力だが、それでも生身の能力者にとっては充分な脅威だ。
「新型ワーム‥‥屋内戦闘用か?」
 サイエンティストとして本部防衛に戦う友軍兵を援護していた寿 源次(ga3427)は、小型ワームの1機になぜか森林迷彩でカラーリングされた機体を目撃し、不審に思った。
 最初から屋内戦闘を目的に開発されたのなら森林迷彩などナンセンスだが、明らかに「有人機」と思しきその機体が他のワーム達を指揮しているようだ。
 嫌な予感を覚え、「竜脈」を通し情報を流す。
「迷彩ワーム‥‥まさか、ギルマン!?」
 情報を聞いた【突撃機動小隊・魔弾】の御山・映(ga0052)は愕然とした。
 軍の公式発表では「FRと共に爆死した」と伝えられているハワード・ギルマンだが、遺体等が確認できないことから映は「まだ生きてるかも‥‥」と疑いを抱き、念のため奴の手配書データを本部内に配布し警戒を呼びかけていたほどだった。

 不吉な予感は的中し、亡霊のごとく復活したゾディアック「蟹座」の男は小型ワーム「オストリッチ」の操縦席で高笑いを上げていた。
「ワハハハ! FRが墜とされたくらい何だ? 機体など単なる道具、最後に勝負を決めるのは搭乗者の腕と戦略だ!」
 まず囮としてキメラ群を先行させ、物陰から撃ってきた能力者やUPC軍兵士を逆にフェザー砲でなぎ倒していく。
 行く手を阻む隔壁は小型ミサイルで無造作に破壊した。
 彼は人間を撃つ際、殺さずにわざと重傷レベルに留めるようフェザー砲の出力を絞り、配下のワームにもそう命じてあった。
 別に敵に情けをかけたわけではない。米軍特殊部隊員だった「生前」の知識から、戦死者よりも負傷者の方が救護・後送に手間がかかる分、人類軍にとってより「負担」となることを知り抜いていたからである。
 奇襲の混乱に乗じて一気に上層部を突破。中層部付近まで達した所で、ようやく態勢を整えた【竜装騎兵】【突撃機動小隊・魔弾】【ヒヨコ隊】を主力とする傭兵部隊が防衛線を築き侵入阻止の戦闘を開始した。
「星組! イッツショータイム!」
「ここを突破させはしないのでありますよ〜!」
 【竜装騎兵】でも中層階防衛を担当する「星組」のヨグ=ニグラス(gb1949)、美空(gb1906)らが立ちふさがった。
 能力者でもドラグーンのみが装着可能なAU−KV――いわゆるパワードスーツに身を包んだ「星組」隊員達は、スキル併用で盾や近接兵器を用いて小型ワームに白兵戦を挑みかかる。立場上彼らは「カンパネラ学生」なのだが、実戦の場においては既に立派な能力者戦士の一員だ。
「う‥‥隊長代理‥‥頑張るのですぅ! そこ、弾幕ぅ‥‥!」
 先の戦いで負傷したロッテ・ヴァステル(ga0066)に代り【突撃機動小隊・魔弾】の陣頭指揮をとる幸臼・小鳥(ga0067)は、自らもスキル併用のM−121ガトリングで小型ワームを狙う。
 彼らの善戦でキメラ多数、「オストリッチ」1機を撃破するも、
「――小賢しいわっ!!」
 次の瞬間にはギルマン側から一斉に放たれたフェザー砲とバグア式ガトリング砲の弾幕を浴び、ダメージを受けて次々と倒れていった。
 小型といえどワームはワーム。その防御力、戦闘力は大型キメラさえ上回るのだ。
『全員後退。その通路を破棄して封鎖‥‥もう少し持ちこたえて』
 地下指令室から戦況をモニターしていたロッテより、無線を通して一時撤退の指示が下る。
「くっ‥‥私がこんな体じゃなければ!」
 負傷者を庇いつつ後退していく【魔弾】の仲間やドラグーン達をモニターで見つめながら、ロッテは唇を噛んで思わず壁を殴った。

 勢いに乗って更に下層部を目指すバグア突入部隊だったが、その進撃は最下層の司令部を目前にした地下20階まで来たところでにわかに停止した。
 地下倉庫らしき広いスペースに出た――と思った途端、それまで鳴りを潜めていた傭兵達が物陰から飛び出し、四方から突入部隊目がけて集中攻撃を加えてきたのだ。
「これ以上、先に進ませてたまるかあぁぁぁ!!!」
 ニウァリス・アルメリア(gb2734)が雄叫びと共に剣で斬りかかり、対照的にWz(gb2036)は人形のごとき無表情のまま竜の翼で肉迫する。
「いえ、上は弾幕の密度が濃すぎて刀一本で突っ込むのは自殺行為と言いますか‥‥その分、こちらでしっかり働きますよ」
 しれっとした顔でいいつつ蛍火で斬り込むシヴァー・JS(gb1398)だが、実をいえばこの攻撃は、傭兵側とUPC軍司令部が協議の上で計画した大バクチだった。
「突入部隊指揮官はギルマン」と判明した時点で双方は素早く情報交換し、過去の記録からギルマンの戦術を分析した結果、「囮としてキメラを先行で突入させるだろう」と判断。
 そのため、あえてキメラ群は数で勝る正規軍兵士が決死の覚悟で引き受けることとし、戦闘可能な全能力者を小型ワーム迎撃へと動員したのだ。
 その頃になると、いったん上階の戦闘で負傷した能力者達も救護班の錬成治療により辛うじて戦線復帰、背後からギルマン隊に攻撃を仕掛けてきた。
「うぬ‥‥これしき‥‥っ!」
 フェザー砲とガトリング砲を乱射しながらしゃにむに突き進むギルマンだが、盾となるキメラ群と分断され、また配下のオストリッチも1機、また1機と撃破されていく。
 そのとき、操縦席で彼を呼び出す無線のコールが鳴った。

●デリー攻防戦〜決着
 そのわずか前――。
 地上においては、アスレードとイネースのFR2機が相変わらず人類側KVと死闘を演じていた。
 「隊長機の仇」とばかり追撃してきた【白銀の魔弾】隊員、最上 憐(gb0002)が試作剣「雪村」で斬りかかり、城田二三男(gb0620)はレッグドリルで蹴撃を仕掛ける。
 決死の肉弾攻撃がFRの装甲をわずかに掠めるも、次の瞬間にはカウンターの半月刀を食らい、2機のKVは火花を散らして動きを止めた。
 その頃には予備兵力として動けるKVのほぼ全機が駆けつけ、2機のFRに対し一斉に砲撃を開始していた。
「ちっ、後から後から、鬱陶しい‥‥!」
 FRの操縦席で毒づくアスレード。
 特殊能力で機体性能を一時的に強化しているとはいえ、これだけ濃密な集中砲火を浴びると何発かは確実に命中し、徐々にダメージが蓄積していく。
 また本来は縦横無尽の機動戦が身上であるFRであるが、とりあえず地下本部を制圧しギルマン機を回収するまで、強行着陸した大型HWの側から離れるわけに行かないのも状況を不利にしていた。
 そのさなか、唐突に操縦席にブライトン博士からの通信が入った。
『――遅い。いつまで手間取っている?』
「やかましいジジイ! んなこたぁ、ギルマンの奴に聞けよっ!」
『もうよい。後はラインホールドに任せる。――直ちにギルマン隊を回収、汝はイネースと共に後退せよ』
「ざけんなっ! 俺はまだ戦える!」
『そろそろFRの煉力も残り少ないはずだ。同じ過ちを繰り返すつもりか? ‥‥二度目の目こぼしはないぞ、アスレード』
「ぐっ‥‥!」
 アスレードは歯ぎしりした。業腹ではあるが、博士のいう通り再び鹵獲の憂き目に遭えば、いかに「ゾディアック」リーダーといえども何らかの懲罰は免れまい。


「撤退だと!?」
 オストリッチの操縦席で、ギルマンはアスレードからの通信に怒鳴り返していた。
「貴様っ、正気か!? いま地下20階だ。あと一息で敵の本部を落とせるんだぞ!?」
『うるせーっ!! 俺の知ったことか! いいか、5分で戻ってこい! でなきゃ、俺とイネースはこのままズラかるからなッ!!』
 そのまま通信を切られた。
 我に返ったギルマンが状況を確かめると、24機で突入した小型ワーム部隊も既に12機が撃破され、自機の損傷率も50%近くに達している。アスレードからの撤退指示を待つまでもなく、これ以上の侵攻は彼にとっても命取りであろう。
「くそっ‥‥ここまで来ながら!!」
 ギルマンは狭苦しいコクピットを忌々しげに叩き、生き残りの僚機に地下シェルターからの脱出を命じた。


「そうか‥‥ギルマンもFRも撤退したか‥‥」
 地下最下層の本部司令室。負傷した体を長椅子に横たえ、ブラッド準将は重々しく頷いた。
 能力者達も、あえて撤退するギルマンを追撃はしなかった。
 初年兵のドラグーンを中心に負傷者が多すぎること、そして広大な地下シェルターの至る所に、バグア軍が置き土産とばかりに残した中小型キメラが徘徊しているからだ。
 負傷者の治療、残存キメラ掃討――夜が明けるまでの間、傭兵も正規軍も休む暇さえないだろう。
 一般人兵士の損害もかなりの数に上る。せめてもの慰めは、いち早く最下層に避難させていた民間人から犠牲を出さずに済んだことか。
「地上の防衛部隊から報告!『L・Hからの増援部隊到着を確認。その数はKV1000機を超え――』‥‥閣下、我々の勝利です!」
 正規軍の女性オペレータが、瞳を潤ませながらも弾んだ声で告げた。
「もう1日早ければ‥‥いや、来てくれただけでも有り難いというべきか。ともあれ、我々は何とか持ち堪えた‥‥払った代償も、また大きいものであったが‥‥」
 モニターが映し出す光景――廃墟と化したデリー市街を見つめ、「原子時計」と呼ばれた準将の顔に喜びの色はない。
 そのとき、地下フロア全体が地震に見舞われたかの様に揺れた。


「な、なによ‥‥?」
 地上の救護所で負傷者に鎮痛剤を打っていた【櫻第二小隊】のリタゼリーナ・ブルー(ga0003)は、驚いて空を見上げた。
 バグア軍が西方に撤退したと安堵した矢先、今度は北東、ヒマラヤ山脈の方角が騒がしくなる。
 そう、まだ全てが終わったわけではない。
 中国方面から南下を続けていたラインホールドが、ついにデリー市街を射程圏に捉えようとしていたのたのだった。

<担当:対馬正治>


●遠雷、迸る。
 KVの編隊へ向けて放たれた攻撃。これを回避して、若葉隊『蕾』等はUターンし、同『壱』等、何十機かのKVが後に続く。
 今の攻撃、放たれたのはおよそ50km‥‥幸い長距離からの砲撃は回避までに余裕がある。都市を消し飛ばした主砲も使われていない。もう少し距離をつめるだけならさほど損傷は出ないと思われた。
「蕾各機へ。作戦成功も大事ですが、全員生還できるよう頑張りましょう!」
 アキト=柿崎(ga7330)が『蕾』の小隊各員へと通信を送る。
 今攻撃を受けたのはラインホールドからおよそ50kmの地点であったが、射程はもう少し長い。射程内への進入を忌避し、彼等は更に距離をとって待機、情報網『蕾』を展開した。更にはその周囲に若葉『壱』と旅烏、それにSMG、シンクレア(ga8260)と月代・千沙夜(ga8259)といったフリーの傭兵が展開し、これを護衛する。他にもRelodedといった部隊等は、補給活動がその中心、更に後方で展開。もちろん、彼等への攻撃は散発的だった。彼等はLHの射程外へと退避していたし、ヘルメットワーム等の迎撃機もまだ展開していなかったからだ。
 一方、ラインホールドへ接近するKV各機は徐々に激しさを増す攻撃をかわしつつ、迎撃に現れるHW等との戦いを開始した。
「まだまだいけますわね」
 千光寺 巴(ga1247)がR−01を駆り、3.2cm高分子レーザー砲でキューブワームを切り裂く。近くには電子戦機や、アルバトロス隊の姿も見える。
「ここからが正念場だ」
 巴の言葉に、轍(ga9665)が答えた。
 答えたそばから、彼の真横を敵の砲撃が掠めていく。HWもそうだが、数百門と連なるラインホールドの対空砲火もまた、彼等航空機の脅威であった。
「く、なんてデカブツ!? 事前情報より無茶苦茶大きいじゃいか!」
 毒づき、敵の攻撃を回避するミスラ・アステル(ga2134)。ラインホールドのその巨体は300mと聞いていたが、それを大きく上回っている。彼等傭兵達に対し、一斉に襲い掛かる対空砲。HWや飛行キメラの群れも、突入した傭兵達を包囲するように攻撃を浴びせかけてくる。
「こちらペガサス分隊。ラインホールドの様子は?」
『歩行により移動中です』
 『蕾』からの連絡を受け取り、ペガサス分隊の各員が機首を下げる。
 彼等の遥か眼下にはラインホールドがあり、周囲では傭兵達が迎撃HW等と多々かっている。彼等ペガサス分隊や、その他鷲羽教授(ga7839)やR.R.(ga5135)といった傭兵達は一斉に降下を開始した。彼等はブーストを発動し、更なる加速を掛け、ラインホールドの「頭部」と思しき位置に向けて殺到する。
 その動きに気付き、迎撃に向かう小型HWの編隊。
「雑魚はこちらで引き受ける、行きたまえ」
 急降下する部隊の中からリヴァル・クロウ(gb2337)が離れ、HWの部隊へと攻撃を仕掛ける。だが多勢に無勢、ある程度引き付けると、被弾の後に離脱した。
「ブースト+重力加速による急降下爆撃‥‥これなら効くかな?」
 舌を噛みそうになって、二桜塚・如月(ga5663)は歯を食いしばった。
 彼等急降下爆撃隊に対し、壁のような弾幕が迫る。
「これ以上、貴方を暴れさせる訳には行きません!」
 しかし、ラージフレアを展開したみづほ(ga6115)機は、そこで敵の対空砲を受け、機が爆発する。急降下中の彼等に回避の余裕は無く、その機動を読まれた数機が被弾し、ラージフレアや煙幕による援護もあるものの、その何割かはそうして墜落していった。
「理論上はここが一番薄いが‥‥しかし!」
 予想よりも激しい弾幕に、ヘクサ・マキナ(ga6084)の機が揺れている。
 それでも尚突破に成功した各機が、一斉にフレア弾を切り離した。
「くらえぇぇぇっ!」
 既にクロスポイントは抜けている。
 彼等はフレア弾に続けてロケットランチャー等の攻撃をありったけ見舞い、その脇を通り抜けていった。
 フレア弾は敵の弾幕に阻まれつつも、うち何発かが『頭部』目掛け、寸の差で着弾していく。頭部に直撃したのは少数に過ぎないが、多くは頭部近くの装甲板に突き刺さり、周囲を膨大な熱量に包んだ。


●人が在るべき場所
「どうした!?」
 センサー類の乱れに、バークレーが怒鳴る。
 慌てて、敵の攻撃によるものだと部下が報告するも、それまでだった。炎を抜けた頭部に致命的な損傷は無く、彼等のメインセンサー類も直ちに回復した。外部から見れば、何ひとつ気にする事無く歩いていただけだった。
 歯噛みする御山・詠二(ga8221)。
「くぅ、駄目か!?」
「くそっ、プロレスラーより頑丈じゃねえか!」
 エクセレント秋那(ga0027)がその様子を後ろ目に見ながら舌打ち、機首を持ち上げる。
 彼等は高高度から一直線に急降下したのだ、数百メートルの間に、身体が保つ範囲内で機首を上げねばならなかった。
 その隙を狙う追撃に、更に数機が被弾し、撃墜していく。
「周辺の機体は注意しろ! 『Demolition Plan』発動!」
 アッシュ・リーゲン(ga3804)の言葉に、陸上部隊が慌しく動く。
 まるで動く要塞のようだ――誰もがそう思い始めたその時、ふいに、地面が閃光を放った。
 ラインホールドの左足付近で一斉に爆発が巻き起こり、その絶え間ない爆発によって、ラインホールドの足場は急速に崩れていく。
 爆発がひと段落した時、ラインホールドのその巨体は傾き、左足は巨大な落とし穴の中へと踏み込んでいた。
「よしっ!」
 思わずガッツポーズを決める、リヴィエラ・トゥルビナ(ga4038)。
 他にも、この『DP作戦』に参加した傭兵達から歓声があがった。
「やりましたわね♪」
 ソル・ルイス・ラウール(ga6996)も、サイエンティストとしてこの作戦に協力していた。フレア弾に遠隔起爆装置を取り付ける作業は難航したが、多くの傭兵が全力を注いだ事で、普段ではとても無理な事も何とか間に合ったのだ。
「皆様、生きて帰りましょう! 死ぬ事は絶対に許しません!」
 ティル・エーメスト(gb0476)率いる青い薔薇隊も先の先までフレア弾を埋設する為の掘削作業にてんてこまいだった。ぐらりと動きを止めた、ラインホールド。彼等や、若葉『弐』といった各隊は、その隙を狙って一斉に攻撃を開始した。
「さて、最後も派手に行って見よう〜♪」
 『B・B』の小隊が見た目にも派手な攻撃を振りまき、周囲のHWを引き付ける。
 その派手な攻撃に引き付けられ、敵の目が集中する。三機の小隊機が次々と被弾する中、その間隙を突いてファフニールやプロジェクトSG小隊が上空より接近する。
「全員‥‥無事に帰還せよ!」
 サーシャ・ヴァレンシア(ga6139)が指示を出し、SG隊は敵の攻撃を避けつつ、LHへと銃口を向ける。
 リュス・リクス・リニク(ga6209)のR−01から放たれた攻撃がLHに着弾し、煙を噴き上げる。
 彼等が次々と放った攻撃は、ラインホールドを直接攻撃する為のものではなかった。それらは、煙幕やラージフレア等の撹乱攻撃だ。
 彼等の撹乱に、しばし弾幕が途切れる。
 狙いは、太腿の周辺。敵の小型HWはそこから出撃してきた。突入するならばそこだ。
「全ては勝利の為に! 突入する!」
 特務部隊:零が動いた。緑川 安則(ga0157)らは各機の位置に注意しつつ、ラインホールドへ向かって加速する。隊員の中から先頭へと出た機体が、煙幕弾を放った。続けて、彼等はその煙幕の中へと突入していく。
 そしてその煙幕が途切れる前に更なる煙幕弾。
 煙幕による道を作り、部隊を隠しながらの突入作戦だ。
 だが、その作戦が仇となった。
「うん?」
 撹乱の為にと派手に動く傭兵達が居る一方、彼等が作った煙幕の道こそが最も目立ってしまっている。当然、大まかには部隊がどこを飛んでいるのか隠す事が出来ないばかりか、余計な注意を掻きたてた。
「煙幕の先頭にありったけのミサイルを撃ち込め!」
 バークレーが指示すると、ラインホールドの各所、特に脚部に近い部位が次々と開き、数百発にもなろうかというミサイルの奔流が吐き出される。
 姫川ミュウ(ga4713)らフリーの傭兵や、神宮寺 真理亜(gb1962)といった同隊所属の傭兵達がミサイルを迎撃しようと弾幕を張り、ラージフレアをばら撒く。幾らかはそれで迎撃できたものの、仮にもここは戦場。ミサイルの迎撃だけにも注力できず、大部隊だった零小隊は、紙へ落とした水滴のように、前進するに従って次々と数を減らされてしまう。
 全滅こそせずとも、とても突破どころの話ではなくなってしまったのだが、同時に、同隊の行動が期せずに囮ともなっていた。
「敵の弾幕に薄い場所があるよ!」
 遠方からの偵察、観察に徹していたココ・バレット(ga4752)が、通信機に声を掛ける。
「今なら隙があります」
 突入班とは別方向を警戒する、鳳・歌織(ga1897)のS−01。
「皆集合して! 今しかないわ!」
 シエル・ヴィッテ(gb2160)の通信が、周囲に発せられる。
 個々人で動いていては無理だと考えた傭兵達が、敵の攻撃をかいくぐって集結する。佐伽羅 黎紀(ga8601)が先頭を飛びつつ、ルクレツィア(ga9000)の手助けの元で、おっとりと傭兵達の配置を割り振っていく。
 敵に接近しながらの、難しい部隊編成。
 だが、少なくない傭兵が、当初から集結を予測していた。だからこそ、突然の出来事にも対応できた。
「いけるか!?」
 通信を妨害してくるCWを、岡村啓太(ga6215)が落とす。
 その言葉に答えるように、耀(gb2990)が敵機を睨んだ。
「‥‥とおせんぼ、されてる‥‥」
 岩龍は脆い。
 彼の機体に限らず、岩龍で正面から殴りあうには少し覚悟が必要だ。だが、味方を援護する為には、ある程度の危険は止むを得なかった。
 だがそこへ、多数のKVが現れ、行く手を塞いでいたHW等を次々と落として行く。
「攻撃は最大の防御だ、これ以上はいかせん!」
 五十峯 紅蓮(gb1649)が吼えた。現れたのはヘイムダルや、咎人と青い薔薇の各隊だった。互いに協力して、何としても層を突破せんと強攻を仕掛ける。
「ヤマバですね。踏ん張りどころです」
 情報網から取得した情報を隊長に伝え、賀茂 直霊(gb0271)は一人ごちた。弾幕に羽を裂かれるが、辛うじてまだ飛んでいる。だが、傭兵達はダメージを受けつつも、じわりじわりと敵の数を撃ち減らしていった。
「美味しいところは差し上げますわ、頑張ってきなさいな」
「幻霧が切れれば砲弾の嵐だ‥‥」
 キラ・ジェネシコフ(ga8267)がディアブロの攻撃力をもって、敵中に穴をあける。
 続けて、ミク・ノイズ(gb1955)が幻霧を発動し、突入部隊に追随する。
 練力は残り少ない。だがそれでも、彼等は辛うじて敵の迎撃部隊を突破した。
「ここまでだ! 死ぬんじゃねーぞ!」
 練力の限界だ。ノイズや、その他練力、損傷度合い等から限界を感じ、何機かのKVが離脱していく。それらにも気をとられ、照準が散らばる対空砲火網。
「何をしている!? 馬鹿が! 逃げる敵なんざ放っておけ!」
 バークレーの怒号が艦橋に響き渡るも、遅い。
 彼の判断、指示そのものは素早かったのだが、各砲座の一瞬の隙がそのまま命取りになった。
「死して屍拾うものなし! これで駄目なら化けてでるぞ!?」
 ふいに現れたKVが一直線にLHへと向かい、そのまま機そのものを一個の爆弾として見立て、大爆発を起こす。千草・姫子(ga3955)のウーフーだった。重体を押して出撃した彼女は、爆発の中、冷静な自分が、これで良かったんだと、自分自身に語りかける。
 だが――彼女は化けて出るしか無さそうだった。
 その特攻はダメージを与えるまではいかず、数基の対空砲と、そして――それらの注意力を道連れにしただけだった。
「っくしょう‥‥道を、道をあけろぉっ!」
 S−01のスロットルを全開にして、ルクシーレ(ga2830)はKVを敵中に踊り込ませる。
 CWやHWを次々と攻撃しながら今しがた爆発の起こった地点へと機を向かわせるが、目立った損傷も無く、その遺体すら見つからない。彼は、高速でその場を切り抜けていくしかなかった。
「くっ‥‥早く‥‥進みましょう」
 あまりに呆気ない過酷な現実に、睡蓮(gb3082)は歯を食いしばった。
 地表すれすれを飛んで、睡蓮のKVは急上昇を掛けた。煙幕やラージフレア、幻霧を次々と展開し、対空砲火の再標準を妨害する。特攻と撹乱のタイミングが偶然に合致し、先ほどまで離脱する敵を狙いかけていた各砲は一瞬の事に標的を失い、その砲口が酔っ払う。
 それでも、先頭を飛んだ睡蓮の機はただでは済まなかった。
 次々と攻撃を受け、上昇しながらくるくると回転する。
 敵の攻撃が怯んだと見て、ミスラ・アステル(ga2134)や、若葉『弐』のリュドレイク(ga8720)達が砲台潰しに掛かる。地上をW字陣形で進む若葉『弐』の部隊は、何とかして砲火の数を減らそうと奮戦した。
 ふいに、対空砲が途切れる。
「行くよ、水鏡。水面に悲しみの涙は要らない‥‥!」
 対空砲火が乱れている中、鐘依 透(ga6282)のミカガミが変形して強行着陸し、雪村を輝かせ、全練力を投じて叩きつけた。
 だが、まだ小さい。
 練力にも限りはある。雪村で数回もきりつければ、瞬く間に出力が低下し、攻撃に煽られて弾き飛ばされる。
「空は‥‥絶対に渡さない!」
 だが、そこへリーゼロッテ・御剣(ga5669)が突入した。
 彼女の機体は傭兵達の撹乱で生じた弾幕の隙間を縫い、最大戦速でラインホールドの脇をすり抜けた。その機にはソードウィングが煌き、今しがた破損した装甲を大きく切り裂く。だが、隊から離脱しての強攻には、大きな隙が生じていた。
 対空砲にエンジンを撃ち抜かれ、機は火を吹き上げる。
 バグアは容赦を知らない。やれると見れば、その他の砲座から、ミサイルやレーザーが一斉に放たれ、破損機を襲う。
「リーゼロッテ!」
 次の瞬間、ディスタンが間に割り込んだ。
 ユリコ・カトウ(ga8432)のディスタンだった。アクセルコーティングを纏っていたとは言え、敵の攻撃にはレーザー等の非物理攻撃も含まれている。ディスタンとはいえ、その機は見る間に引き裂かれていく‥‥それでも、これが限界とリーゼロッテを置いて離脱すれば良かった。
「ユリコ‥‥!?」
 リーゼロッテの声を聞いたその刹那、爆炎を吹き上げ、ディアブロは爆ぜた。
「‥‥私の役目は未来への盾‥‥それで‥‥」
 彼女は逃げなかった。
 探していた確かな居場所が、そこにあったから。


●突入、その後
「ここから先へは絶対に行かせませんよ!」
 ヴィー(ga7961)に、後衛の瑞浪 時雨(ga5130)が加わって、敵HWに対して十字砲火を仕掛けた。呆気なく爆発するHW。だが、それもその筈、『蕾』へその矛先を向けた敵は少数だった。
 その様子を、艦橋の立体映像で眺めるバークレー。
「攻撃をやめさせないか! 散発的に仕掛けるぐらいなら、長距離砲だけで十分だ!」
 やはりその理由としては、ラインホールドからも5km以上離れた位置にある彼等よりも、間近の敵に対応せねばならなかったからだろう。
 結果的に、彼等の戦力は殆ど遊兵と化していた。
 散発的攻撃をものともしなかった為、被弾以外の損害はほぼゼロ。だが彼等は、射程外での戦闘や支援、或いは情報網の護衛を前提とした部隊だ。40機にも届く数のKVが予備戦力化していた事は、確実に戦力のロスだった。
 一方、突入に成功した部隊は、情報網周辺とは違い、激しい抵抗を前に苦戦していた。
「ボットを起動し、奴等を排除しろ。ゴーレムも使え!」
 艦橋も慌しさを増していたが、突入口付近はそれ以上に慌しかった。
「藤村さん、後は任せるたよ!」
 飛田 久美(ga9679)のR−01が敵の攻撃を受け、地上へと離脱していく。そして、突入した藤村 瑠亥(ga3862)を出迎えたのは、軽量な小型ワームだった。
「チッ‥‥!」
 襲い来る弾丸に機を貫かれ、KVの歩は遅々として進まない。
 何せ、突入したは良いが、ラインホールド内部はギガワームの内部と比べても余りに狭かった。事前情報の300mを遥かに越える大きさではあったが、それでも狭すぎる。事前情報より小さければ文句の言い様もあるのだが、逆に大きくてこれでは、UPCに向かって毒を吐く訳にもいかない。
 少しずつ損傷は蓄積し、ついに瑠亥のKVは膝を付いた。
 後続のKVが彼の前に立ちはだかって守りつつ、現れた小型ワームへ攻撃を加えるが、内部に侵入した敵を排除するためか、小型で素早いそれに対し、傭兵達の攻撃は中々命中しない。
「どうせ壊すんだ、構うもんかっ!」
 荒巻 美琴(ga4863)が叫んだ。彼等零小隊は突入までに6割以上が撃墜されている。何とか突破した彼女も、突入して楽になる事は無かった。
 確かに内部から破壊する為、こちらの攻撃は避けられても構わなかったのだが、狭すぎるが故に、彼等傭兵は自由に動けない。先程大破したKVの残骸も、そこにあるだけで彼等突入班の行く手を阻む。
「く、これ以上進めないのか!?」
 伊達青雷(ga5019)が唇を噛む。
 突入班が前進できず、機内の損害が軽微である事が、艦橋へと伝えられる。
 艦橋の参謀や指揮官達はその言葉に内心ほくそ笑みつつ、バークレーへと視線を向けた。
「ク、クック、ハハハハハ‥‥」
 暴力的な笑い声が響くと、周囲の部下たちも同じように笑い始める。
「――黙れッ!」
 突然の一喝。バークレーの表情に既に笑い顔はなく、部下たちがびくりと身体を震わせた。
「ラインホールドはそう簡単に沈まん。突入されたとてどうという事は無い! 奴等猿どもが考えそうな作戦である! だがしかし、気に入らんッ!」
 己の平手に、拳を打ちつける。
「猿どもに突入を許すなど、断じてあってはならん事だ! ラインホールドは浮上させる‥‥内外の敵は残らず排除しろッ!」


●最後の反撃
 だが、ラインホールドへの突入以外を狙う部隊もあった。
「決めるわよ。アクアリウム全機突撃――タイダルウェイブッ!」
「うむ、我々も向かうぞ!」
 鯨井昼寝(ga0488)やルード・ラ・タルト(ga0386)が、それぞれ行動を開始した。
 低空から侵入し、或いは陸上をローラーダッシュで疾走して、脚部破壊を狙う20機前後のKVが一斉に奔った。
 地上を狙う砲弾が土を巻き上げるが、遅い。
 彼等は突入班が攻撃を開始し、その内部へと突入するのを今か今かと待ち構えていた。KVが内部へ突入したとなれば、敵の目は、当然その突入班に向けられる。悪く言えば、彼等は味方を囮にしたのだ。
「やってやろうじゃないかい! 道は作ってやるよ!」
 マートル・ヴァンテージ(ga3812)が、テンタクルスのホバーを生かして敵機へ攻撃を加える。
「これ以上、やらせはしねえぜ」
 その後ろに続けて機を突貫させ、ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)自機を盾そのものとして道をこじ開けていった。各KVが、一斉に牙を剥く。雪村や練剣といった非物理攻撃や、各種ミサイルが次々と脚部間接へと襲い掛かる。
 盛大な爆発と、スパークが辺りを覆う。
「ちっ、これでもまだ駄目か‥‥!」
 それでも尚顕在の脚部を睨み、遠石 一千風(ga3970)が毒づいた。
「まだまだ!」
 若葉の守原有希(ga8582)ら、他隊の一部も、その攻撃を見かけて、追加で攻撃を仕掛けていく。先ほどまで対空攻撃を展開するゴーレムを狙っていた制圧射撃が、脚部周辺へと着弾していった。
 そんな中、ラインホールドの脚部が不意に浮き上がった。
「何だこいつ‥‥飛ぶのか!?」
 ルードの放ったナックルがラインホールドの脚部を殴ったが、直後、膨大なブースターの熱に機を吹き飛ばされる。その推進剤に煽られ、脚部の『爪』とでも呼ぶべき部位が宙を飛び、地表に突き刺さった。
「‥‥これまでだろう、もう無理だな」
 全体の情報を調整していたUNKNOWN(ga4276)が、ぽつりと呟く。
 突入班も、脚部に攻撃を加えていた班も、限界は悟っている。脚部攻撃は持続可能であったが、陸上で戦う者が多く、敵が空を飛ぶとなると攻撃が難しい。
「主砲発射準備! 遠方に展開する奴等を薙ぎ払え!」
 バークレーの指示と共に、両肩の主砲がゆっくりと展開する。
 その動きに周囲の傭兵が気付き、エネルギーの収束が開始された直後、その通信は届けられた。
「閣下、撤退命令が発せられました」
「‥‥何ィ?」
 通信端末を受け取り、その内容を確認するバークレー。
「本隊が撤退? おのれ! 勝ちをむざむざ棄てたか!?」
 怒鳴りつけながらも彼は撤退を指示する。一度は主砲を展開しつつあったラインホールドは、しかし傍目には奇妙にも、浮上と同時に後退を開始した。
 この機こそが、傭兵達にとっても撤退のチャンスだった。
 ラインホールドの動きを見てとるや、忌咲(ga3867)が今まで温存してきたありったけのミサイルを辺りへ撒き散らす。
「ここまでか‥‥!」
 撤退支援を兼ねて、鏑木 硯(ga0280)や獅穏 カイト(gb3366)が続けての攻撃や煙幕を展開し、それに紛れて各機は離脱していく。中には被撃墜者を抱えての移動になるKVも多く、HWがそれら動きの鈍いKVへと銃口を向けた。
「やらせないっ!」
 横合いから現れた十六夜 紅葉(ga2963)のS−01が、ライフルを放った。
 空を切る弾丸がHWを貫く。更に、それでもまだ追おうとしたHWの眼前に、獅穏 カイト(gb3366)の撃ち込んだ煙幕が広がった。
 やがて、ラインホールドの後退と共に前進した若葉『壱』等の各隊と合流し、攻撃部隊は引き上げていった。
 ラインホールドは、その後退方向から東方面への離脱が確認されると共に、迎撃に当たっていた各員へも、デリー防衛成功の報が入る。
 幾つかの面においては後手に回り、劣勢に立たされはしたものの、最優先目標であるラインホールドの進軍阻止、そしてその撃退は達成された。具体的な損害は爪一本を奪うのが限界ではあったものの、事実上内部への突入には成功しており、戦力と作戦さえ再検討すれば、撃墜も可能である事は確実だ。
 ラインホールドは強敵かもしれないが、少なくとも、浮沈艦ではないのだ。


<担当:御神楽>






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