◆CTSノベル 第四話

●任務完了、帰投します

「‥‥‥‥ということで、あのヘルメットワームの目的や活動内容までは分かりませんでしたが、無事全目標を撃破、ご依頼の任務内容を完遂しました」

 帰りは特に急ぐ必要もなく、雄人に安全運転を徹底的に要求して20分かかる道のりをちゃんと20分かけてジープを走らせ、基地へと帰ってきた。基地では私たちよりずっと先にKVで帰投したジェームズには会えず(医務室で負傷した腕の治療をしているとのこと)、雄人と2人で今回の仕事の依頼人である基地指令に、行動の内容と依頼完遂の報告を行う。あとはラスト・ホープに帰ってから斡旋所に終了を告げに行き、仕事の報酬を受け取れば全ては終了する。

 いや、全て、という言い方には語弊がある。実際にはこの依頼の後にも、事件は続いていく。
 今回の依頼における、あのヘルメットワームとキメラの目的は不明のままだが、どんな目的でどういった行動を起こしていたかに関わらず、必ずこの後に続く何かがあるはずなのだ。相手はバグアである。何の意味も無い行動に自身の戦力を投入して浪費することなど考えられない。
 ヘルメットワームの目的が威力偵察だった場合、これに早期に対処し撃破することの出来なかった人間側の情報は多く向こうに渡ってしまったと考えられる。この後に続くのはこの地域への侵攻か、はたまた何か別の作戦か。目的が工作任務だったにしても、新型キメラの性能試験だったとしても、同じこと。成した工作を利用して侵略を進めてくるか、新型キメラにさらに改良が加えられた、強力な敵が襲いかかってくるか。何が起こるか分からないが、その時期も不明だが、必ず、間違い無く何らかの動きをバグアは見せるだろう。そうなれば、また能力者が頼りにされ、この地に呼ばれることになるだろう。そして、それは私たちかもしれない。決して事態は終了などしていない。全てが終了するのは、バグアの侵略に人間が打ち勝ち、世界に平和が訪れたと確信出来るようになるその時だ。

 でも、今はとにかく帰って休もう。ずっと気ばかり張っていては擦り切れてしまう。ラスト・ホープまで帰らなくても、高速移動艇が運行している地球軍拠点や、もしかしたらこの基地ででも、仕事の終了に感謝して少しのおもてなしくらいはしてくれるかもしれない。そういったものは遠慮せずにお受けして、楽しむに限る。

「それでは、私たちはラスト・ホープへ帰投いたします」

 そう言って踵を返そうとする私たちを呼び止める、指令の声。

「ああ、すまないがちょっと待ってもらえないか」

 これはもしかしたら、アレだろうか。おもてなしのお誘いだろうか。うん、予想通り。

「現在この基地では、度重なるバグアの侵略により多くの仕事をしなければならない状況にありながら、人手がまったく足りていない状態にある。よって、可能ならば君たちにもうひとつだけ、仕事を依頼したいのだ。これはULTを通した正式な依頼ではないから、君たちへの強制力などはカケラも無いのだが‥‥」
「は、はぁ‥‥」

 これは予想外。非公式な依頼、と聞くと、怪しげな雰囲気にちょっとウキウキしてしまうのだが。

「実は、今医務室で治療をさせてもらっているジェームズ君が倒したキメラについてなのだがね、その後始末に人手が足りないのだよ。死骸は外に放り捨てたが異臭が酷いし、撒き散らされた血もやはり臭いが大変だ。粘性も高く掃除が一筋縄ではいかない。それらの片付けに手を貸してはくれないか。少ないが礼はする」
「あー‥‥‥‥えっと、どうする、雄人?」
「ジェームズの治療が済むまでは暇なんだ、それくらいは付き合ってやってもいいんじゃないか」
「そうか、ジェームズ置いて帰っちゃあダメなんだった! ってことはもしかして、仕事は2人だけ? ジェームズだけ休み!?」
「そうだろ」
「‥‥‥‥ずるい」

 当たり前だと司令室を出て、さっさとモップや何やを持ってくる雄人。その一本が私にも投げ渡されて。

「‥‥もーうっ、早く帰りたーいっ!!」

 ・ ・ ・

 見慣れた風景。人気はそこそこ。話し声は時々のち皆無。沈黙の時間は常にコンピュータの放つ稼動音ジジジジ。この場に静寂が訪れることはありえない。
 人工島ラスト・ホープ内のUPC本部。
 そこに、私、冴木・玲はいつものように入室し、そして棒立ち。壁に据え付けられたたくさんのモニターの画面を見る。
 モニター画面に表示されているのは地図と思しき画像。そして文字の羅列。斡旋所にある全てのモニター画面が、それぞれ別の情報を流している。これらは全て、私たち『能力者』への依頼。
 幾つかの真っ黒だったモニターのひとつに、新たに光が灯る。新たな仕事の依頼がやってきたようだ。画面を滑っていく文字を、一つひとつ逃さぬように追っていく。

『新種のキメラ8体の侵攻を確認。至急対処を願いたい』

 つまり単純な話、叩き潰せってこと。
 何も難しい話は無い。現場へ行って、大暴れして、超人映画さながらに化け物を叩き潰して来ればいい。問題はキメラの詳細な情報が無いことだが、その辺は現場に行ってから考えても間に合わせられるだろう。今回はチェラルも裕子も一緒に来る予定だ。キメラごときを相手に、そう簡単に遅れはとらない。
 報酬も充分、場所も問題なし。交通手段も提供。あとはカウンターに行って、手続きを済ませるだけ。


「そういえば、今回あたしたちの他にもう2人この依頼を受けるって聞いたけど、誰なの?」
「秘密です」
「なぜ」

 チェラルと裕子と3人で歩きながら、会話をする。これから、この依頼に向かうメンバーの顔合わせに行く。メンバー同士の相性は、依頼の無事完遂にはけっこう重要だ。

 入室。

「‥‥あ」
「お」
「「またお前(たち)かーっ!!」」

 既に室内に来て座って待っていたのは、ジェームズと雄人。もうあの仕事以来疲れて疲れて、二度と会いたくないと思っていたのに。
「あー、あんた知ってるよ! ジェームズ・ブレストだ、空軍エース!」
「おぉ、俺の名前も随分と知れ渡ってるんだな! 嬉しいぜ!」
「KVが無いと粗大ゴミ!」
「違ぇよっ!!」

 あっという間に大騒ぎになる室内。その騒音の9割はジェームズとチェラルだが。私と雄人は揃ってこめかみのあたりを押さえる。きっと雄人は今頭痛に悩まされているのだろう。‥‥私もだ。

「ところで、玲。もう1人この依頼に同行すると聞いているんだが」
「え?」

 雄人にそう尋ねられて、首を傾げる。依頼を受けた人数は5人。ジェームズ、雄人、私にチェラル‥‥

「裕子!?」
「あー、裕子ならさっきどっかに歩いてったよ」
「引き止めなさいよチェラル!!」

 まったく、どうして私の周囲はこうも慌しいのか。楽しいし、嬉しいし、大事にしなきゃと思うけど。でも限度ってものがあると思う。


 ともあれ。こうして私たちの戦いは続いていく。人類が勝利するその時まで。


◆CTSノベル・完