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<報告書は前編:後編から成る>
瀋陽解放作戦 工作部隊潜入作戦 カメル陽動作戦 グレプカ破壊作戦
【カメル陽動作戦】
KVがいくら進化していても、空の彼方に赤き星が瞬いていても空は等しく青い。その青い空の下、傭兵達はカメル王国に陣取るバグア軍を迎え撃とうと、準備に追われていた。
「こう言うのは、こっそりやらなければね。どさくさ紛れの火事場泥棒。大事だろ」
「しーっ。聞こえますよ」
カメル王国にほど近いパンダ海沿岸部、そこに数台のKVが闇にまぎれていた。率いているのは、機体に山ほど機材を詰め込んだ真幌・アカツキ(gb8850)。同じく機材を山ほど積んだ鹿観・雅嵩(gb6767)と共に、KVが発着できるような場所を探していた。
既に、似たような機体を見つけては声をかけている。それにより、後方支援の出来そうな簡易基地が出来上がりつつあった。夜営地と言い換えてもいいだろう。流石に具体的な作戦を練れるほどではないが、怪我人の手当てをし、機体の応急処置をするだけならば充分な場所だ。
UPCから連絡が入る、UK2番艦が出発したとの事だ。護衛機を引き連れてのご大層な出陣は、陽動の名を冠すに充分なもの。到着するのは間もなくの事だろう。そうすれば、ここは上空ごと戦場になる。
後方支援班に流れる緊迫した空気は、上空を進むUK弐番艦とその周囲にも広がっていた。後方支援班からの報告を受け取り、UKにはただならぬ雰囲気に包まれている。
「ミネスはどうしよう。‥‥SES手伝いますか?」
あちこちで、乗組員達が忙しく動き回っている中、聖闇十字−動「先見」のミネスト・ローン(gb9400)は、その動きに目を奪われてしまっている。それでも、情報の処理を頼まれれば、指示通りに動いてくれる。自分はその為に生まれたのだから。
「コーヒー、いるか?」
「あ、あぶないですぅ〜!?」
同じ部隊のパール(gb5500とフロー(gb5499)も、艦内を駆け回っていた。と、そうやって右往左往していた時、けたたましい警告音が鳴り響く。見れば、艦内に設置されたモニターにバグア軍が飛び立つ様子が生々しく映されていた。
「敵影発見! ターゲット、こちらへ向っています。後10分で会敵! 出撃許可を!」
隊長のリース(gb5494)が即座にそれを、傭兵達が敷いた月詠等の情報網へ流す。第一種戦闘配備が敷かれ、僚機達が次々と飛び立って行く中、現れたのは、覚えのある機体。そう、ゾディアック射手座を冠する男‥‥シモン。
「正面から挑んでくるとは弐度までも芸がないことだ」
わざわざ、外部通信機までつかってか、弐番館の通信網に、あざ笑う声が流れ込んでくる。嘲笑ともいえるその声に、反応したのは御神・夕姫(gb3754)だった。
「UK2番艦はやらせないわ。この後に決死隊救出が待ってるんだから!」
そう言うや否や、死角となるUK下方に回り込む。雲状に引く軌跡がまるでスタートラインかのように、各機がいっせいにバグア軍めがけて攻撃を開始する。空の戦いが火蓋を切って落とされたのだ。
「さて‥‥たぶんユダよりは見つけやすいと思うんですが」
おっとりした口調ながら、須磨井 礼二(gb2034)は、相手の中にいくつもいるはずの本星型ワームを探した。光学迷彩を装備していても、本星型ともなれば、シモン周辺にいるはずだ。そう判断し、漆黒の本星型ワームを狙う。スパークワイヤーを伸ばし、脚爪「シリウス」を引っ掛け、自分の機体ごと相手を捕まえようとするがそこは本星型。ワイヤーを切られてしまう。
返す刃で、礼二の機体を落とそうとロックしたところに、空戦機動研究班ベンヌのナンナ・オンスロート(gb5838)が、ロックオンキャンセラーを起動させた。
「皆! タイミングを合わせて! 効果を最大に!」
彼女のいるベンヌには、他にも数人の仲間がいる。戦況を把握するロレンタ(gb3412)が、本星型の多いエリアを指定すれば、指揮する鹿島 綾(gb4549)から、鋭い指示が飛んできた。
「ベンヌ1より各機。宵越しの弾を持つ事は許可できない。徹底的に叩き込め!」
「了解。汚い花火だが‥その分派手に咲かすがいい!」
出し惜しみなぞするか! と言わんばかりに、ありったけの弾をばら撒く伽藍 義仁(gb8702)。他の面々も同じ様に、それぞれの武装と手段で攻撃に出る。南桐 由(gb8174)は相手によって武装を使い分け、群がるワームは夕凪 春花(ga3152)が、K02ミサイルでなぎ払う。その後、雑魚を追ってワームの群に切り込んで行った。だが、その先に現れたのはサイコロの様な姿を持つ‥‥キューブワーム達。
「そうはさせない。Titania各機、掃討に!」
レティ・クリムゾン(ga8679)が、自身の小隊のみならず、その情報網『L』を通じて、各小隊に呼びかけている。それを機に、キューブワーム達との乱戦が始まる。
「いくよみんな。突入組を援護する為にも、盛大な花火を咲かせてあげようじゃない?」
小隊【HB】を率いる赤崎羽矢子(gb2140)が、隊員達をキューブワームへ向わせる。護衛のワームに、Titaniaの面々が張り付き、弾薬の雨霰が飛び交った。1匹1匹はさして強くない。が、バグアもそれはわかっているようで、護衛のワーム達が群がってくる。そこへ各小隊と、そして小隊に属さぬ者達が、次々と襲い掛かる。
「空飛ぶ火薬庫が‥ミサイルのお届け‥たくさん食べると‥いい」
アルジェ(gb4812)が残りの数を報告しながら、ミサイルをばら撒き、篠原 悠(ga1826)と風(ga4739)が、レティ機をワーム達から守っている。残りのワーム達と他の面々が戦いやすいよう、カルマ・シュタット(ga6302)が情報網へ流す。そんな光景が、小隊を組んだ者達のあちこちで展開されており、戦線はじりじりとUPC側へと傾いて行く。
事件がおきたのは、損害を出しつつも、流れが傭兵達へと傾いていた直後だった。まるで、その流れを断ち切るかのように、G.of.Fを率いる鈴原玲(gb6154)が緊迫した報告を、地震の情報網へと流してきた。
「こちらG.of.F。黒鎖に大魚。繰り返す。黒鎖に大魚」
「大魚の名は射手座。大魚の名は射手座。充分に注意されたし、だ」
情報を共有していた闘獣【闇】の高鷲 智広(gb9464)が、その先をつむぐ。二つの小隊は、共に援護を行うべく、先行して近傍の島嶼軍に着陸、欺瞞情報によって敵を待ち伏せる作戦を行っていた。だが、思わぬ獲物を吊り上げてしまったらしい。
「罠だったか。だが、この程度の罠で噛み砕くのはたやすい」
欺瞞情報を流したはずの情報網に、シモンの哄笑が響く。そう。釣りあげられたのはステアーという大魚だった。
「く、ここまで来て!」
「諦めるな! 空に上がれば、味方も多い!」
待ち構える戦力が大きければ、ステアーを陸戦に持ち込めたかもしれない。だが、待ち伏せを図っていた両隊は、ステアーを短時間の間は引き付けることに成功するも、ステアーの対応を想定していなかった為に無力化されてしまう。叩き落された機体から怪我人が引きずり出され、次々と運ばれていった。その様子に、反撃の狼煙を上げたのは待ってましたと言わんばかりに繰り出す、ステアーへの対応を狙っていた各小隊と傭兵達だった。
「さて、俺達と暫く踊って貰いますよ‥閃光の輪舞を‥‥!」
月狼を指揮する終夜・無月(ga3084)が部隊に命を下す。いくつかの部隊に分けられた月狼隊は陣を組み、シモンのステアーを囲い込む。十二支の名を付けられ、中国星宿のコードを与えられた彼の部隊は、四方八方からステアーへと群がって行く。
「シモンのステアー相手には一度重傷を負わされてますから注意しませんとっ」
ステアーも既に通信を切り、そのKVのの群れを叩き落そうと回りこむ。時に姿を消し、時に見せ、従えた本星型ワームを隠れ蓑に、部隊の者達を次々とその餌食にしていた。そう言って、遠距離からステアーを狙っていた如月・由梨(ga1805)も、そのレーザーの餌食になってしまう。
「ゴーストインフェルノ‥!」
総長をやらせないとばかりに、月森 花(ga0053)が容赦なく砲を叩き込む。しかし、同じ様な数のレーザーが降り注ぎ、花の機体に穴を穿つ。そんな光景があちこちで繰り広げられ、逃げ切れないと判断した無月は配下の傭兵達にこう指示を飛ばした。
「閃を起動させて下さいっ。他の機体は回避をっ」
命に、真田 一(ga0039)率いる月狼 第零師団 玄武が動く。ステアーのレーザーが弐番艦に向わないよう、部隊を動かしている彼。そんな真田らに前衛を任せ、他の月狼隊はもっぱらステアーをひきつける事に集中させているようだ。そのおかげか、ステアーの動きは、次第に弐番艦からそれて行く。その動きは、同じ月狼に所属する神無月 るな(ga9580)や辻村 仁(ga9676)によって伝えられる。と、その情報を受けて、同じ様な人数を誇る天衝隊が動いた。
「全機、鶴の陣を。角は我とトヲイだ。陣形は通達してある通りだ。散れ!」
隊長である漸 王零(ga2930)の命を受けて、同じ隊の面々が翼をひらめかせる。人数が多いためか、やはりいくつかの部隊に分けられた天衝。だが、その核にいるのは、王零の他、煉条トヲイ(ga0236)が中心部へと移動する。そんな彼らを中心に、逆V字陣が展開される。しかし、シモンも顎を開けた猛禽へわざわざ誘い込まれるほど愚かではない。そんな彼に、トヲイは雷電改のパワーを上乗せしたミサイルを、追いかけるようにシモンへと注ぎ込んだ。その全てを避けられるものの、彼はそれでもこう呟く。
「――強い。だが、俺達は負けない‥天衝の翼に賭けて――勝負だ、シモン‥!」
その思いに答えるように、シモンの機体がくるりと反転する。それを見た王零が翼を動かすよう指示。しかし、シモンはそうはさせまいと、配下のワーム達を翼へと向わせる。まるで2匹の大きな猛禽が、縄張りの奪い合いをしているようだった。
「面倒以上に・・・厄介だな・・・」
誘いこまれている用に見えて、必要以上には踏み込まない。無数のレーザーが舞い、ブースターの光が空を焦がす。その動きに西島 百白(ga2123)がタイミングを合わせてトリガーを絞るが、はやりそこは射手座の名を冠する男。中々上手くは当たらず、逆に射抜かれてしまう。
「パワーアップした熾天姫の最大火力です!無事では済みませんよっ!!」
ならば、と。そのレーザーを放った隙を、赤宮 リア(ga9958)は見逃さなかった。自分のレーザーにDR−2とG放電を織り交ぜて、ありったけの武装を叩き込んだ。火力が青い空を赤く照らす。
「UK弐番艦進行準備、整いました!」
戦場を俯瞰気味に見ていた常夜ケイ(ga4803)が、弐番艦からの通信を乱入させる。だが、ステアーを無視し、その歩みをカメルへと向けたUKに、ステアーはくるりと踵を返した。見ればそこには、ステアーを支援するように、ビッグフィッシュがお出迎えだ。
「こちらシエロリベルタ。突撃するんで援護よろしくな」
率いる紫藤 文(ga9763)から、弐番艦に艦砲射撃の要請が入る。見れば彼らもまた陣形を組み、ビッグフィッシュを囲い込む。それに応じるワーム達、こうしてお互いの母艦が砲撃可能な距離に近づき、空は艦隊の海と化す。シエロリベルタの各隊員達が無数に舞い、それにあわせるように、金色要塞の勝俣 咲江(gb9008)もまた、通信機へ叫んでいた。
「今のうちに、ビッグフィッシュを落とすんだよ! 何やってんだい。ケツの穴しめてかかりな!」
補給などさせてたまるか、と。豪快に発破をかける咲江。しかし、相手もやはりそんな動きには気付いていたらしく、中々当たらせてはくれない。だが逆に相手の攻撃もまた、こちらへの致命的なダメージは与えられていない。
「こうなったら、飛燕を発動させるわよ!」
その状況に、情報網を駆使していたsmsの藤田あやこ(ga0204)が、UKの手薄な部分へ、自身の指揮する部隊を回りこませる。
「HW捕捉、ナンバリングします。各機迎撃体勢を!」
マーガレット・ラランド(ga6439)が同じ空域にいたワーム達の情報を流し込む。その動きを鈍らせるキャル・キャニオン(ga4952)。先手を取れるよう尽力してくれたその動きに答えて、熊谷真帆(ga3826)と三島玲奈(ga3848)が、確実に仕留めて行った。
「此方ユニバースナイト二番艦、被害状況を知らせてくれ!」
激戦で、情報網を整理するほうは大変だ。キャッチした被害状況及び救難情報等、各部隊への伝達を行う来栖 祐輝(ga8839)の手が忙しく動き回る。反比例しておなかが鳴り響く中、後方支援組もまた、UKとその下に広がる簡易基地で、忙殺されていた。
「腹が減ってはなんとやらと言いますよね」
月詠・月夜(gb8625)が、そんな忙殺をされている傭兵や乗組員達に、お手製サンドイッチを配り歩いている。その後ろから、8246小隊の岸・雪色(ga0318)が、とてとてと飲み物を持って付いて回っている。普段ゼカリアに乗っている雪色、運ぶトレイに挟んでいるのは、この辺りの地図だ。
「できることをひとつひとつ。地道に頑張りましょう」
UKの中とは言え、衝撃も強く、やる事は山ほどある。機体の整備に奔走する沢渡 深鈴(gb8044)がそう言った。怪我人も多く、葉月 郁奈(ga9065)のような歩兵戦闘組は、海に放り出された面々を助ける為、救助ヘリをひっきりなしに飛ばしている。
「テンタクルスで出撃できれば楽に倒せたんでしょうけど‥今は追い返すだけで手一杯です‥」
要救助者を狙う小型海洋キメラに、ヘリから銃撃をくわる都奈。撃退は出来るが、またすぐにやってきてしまうだろう。油断は禁物だった。
が、そんなきびきびと動く後方支援班のおかげで、被弾をしてもすぐさま出撃できる。
「音速の数倍で衝突するミサイルを、その装甲で防げるか?」
御山・詠二(ga8221)が、ビッグフィッシュの上空を取り、ブースターのスイッチを入れた。が、そこに立ちはだかったのは、混戦模様を呈している戦場に現れた、2筋の青い光。
「あれが‥‥NDFかっ」
だが詠二は、そのまま機体を急降下させる。真上から降下のスピードを乗せた弾頭ミサイルがその機体に襲い掛かった。が、青い機体はその積荷がないかのように、ミサイルを避けて回る。
「あれは‥‥。そうか、さて、いくとするかね」
その様子に、ザン・エフティング(ga5141)はそのブーストを一気に吹かして肉薄する。青い本星型ワームはシモンの配下だったはず。彼を怒らせるのなら、その二匹を血祭りに上げるのが一番だと思って。
「子供でも、容赦しないっ」
スラスターとソードウィングが青い本星型を襲う。だが、相手もそう簡単には落とされない。シモンが寄ってくるかと思われたが、そこはバグア。混戦模様となった戦場では、そこまで手を出さないと言ったところだろうか。
いや、そうではなかった。ステアーの相手をしていたのは、シャスール・ド・リス。女性も多いその小隊が、シモン機の弱点を探ろうと立ちふさがっている。そのせいで近づけないのだろう。
「裕子様の如く道は切り開きます‥‥皆様、自らの力を存分に発揮して下さい!」
ツインブースト発動し、K−02ミサイルが一斉射撃に射撃され、8式ミサイルやガドリングが、弾幕を作り上げる。その間に、味方がシモン機へ肉薄出来るように。
「ここで沈んでもらうぞ、シモン。ユリの猟兵を舐めるなよ」
クラーク・エアハルト(ga4961)のM−12帯電粒子加速砲が起動する。そしてそれと同時に、水理 和奏(ga1500)も増幅粒子砲を起動させた。
「エースの人達も負けた‥けど今は僕や、小隊や、天衝や、皆の力を信じる‥!」
2人の引き金が絞られる。舐めるなと言わんばかりに、シモンのステアーが姿を消したように見えた。だがそこに、ペイント弾の跡を示す、蛍光色の残像が残される。夢理が混ぜたものだった。
「いっけぇ! 必殺わかなエンハンサー!!」
ぼしゅうっと軌跡がその蛍光色を追いかけた。それはシモンの機にある『弱点』をなぎ払う。切断なんて上等なものは望んでいない。致命傷じゃなくたって良い。ただ、効果的な一撃を与えられれば。
「見えたっ。あれだっ!」
轟音が響き、吹き飛ばされるカバー。露出したケーブルの束。それを、上杉 怜央(gb5468)の骸龍が、しっかりとそのカメラに収めていた。
「ふん。中々やるな。だが、二度目は通じないぞ」
情報網の中に、悔しげなシモンの声が混じる。気付けば、グレプカへの奇襲が成功した報告が、傭兵達の間にも届いていた。歓声が上がる中、アウトクロック小隊からの報告が入ったのは、その直後だ。
「シモン機、本星型、共に戦闘空域より離脱。が、オーストラリア方面から、多数敵機こちらに向ってきています!」
ヴェルズ・IX(gb6214)の悲鳴じみた声。傭兵達の中にも動揺が走る。どうやら戦いは、第二フェイズにもつれ込むようだった。
<担当 : 姫野里美 >
<監修 : 音無奏 >
<文責・判定 : クラウドゲームス株式会社>
【グレプカ破壊作戦】
密林の中、まどろむキメラの耳が動いた。緑の天蓋の隙間に、高みを流れる赤い流星が見える。敵地への片道切符を手に、人類最速の翼に身を委ねた戦士達の姿。獣は、吼える。
『ウォォォ――ン‥‥』
人外の怪物どもは、一様に天を見上げた。彼らの敵の、魂の輝きが彩る空を。
●強襲の代償
『人間どもが、ここに? そんな』
『うろたえるな。シモン様はこの事を予測して僕たちをここに残したんだ』
NDFと呼ばれる精鋭、マルコとトマス。2人の会話を聞き流していたハリ・アジフが鼻を鳴らす。
「地球人ども、無茶しおる。これも新たな心理データになるな」
奇襲を受けたグレプカの防衛体制は、傭兵達の目論見どおり万全には程遠い。が、それはあくまで可動戦力のみ。ギガワーム2機分以上の大型プロトン砲座を擁する対空網は、不用意に火口へ近づいた物を瞬く間に残骸へと変えていく。
「腹ぁ括った俺たちは鋭いぜ? 止められるモンなら止めてみろ!」
対空砲火を突っ切って山麓へ降下する放課後クラブ隊は、新条 拓那(ga1294)が先陣を切っていた。
「無茶だって、頑張って押し通せば何とかなるですよ」
アイリス(ga3942)が、気丈に笑う。背後で、ほぅぷ(gb8877)が被弾、失速した。
「いけません‥‥!」
石動 小夜子(ga0121)も恋人に続いて煙幕を撃ち込むが、全てを覆うには余りに小さい。撃ち下ろしてくるTWやREXにとってはいい的だ。森の中からは、HWが飛び上がり始めていた。
「ううっ、ごめんなさい。脱出するですっ」
御坂 美緒(ga0466)が悲鳴を上げる。
「死にに来たんじゃねぇ! ‥‥ちっと早いが後退戦に入る!」
美緒の脱出ポッドを拾い上げ、ゼラス(ga2924)は頭上を見た。彼らの強襲は防空網の破壊こそ達する事が出来なかったが、無駄ではない。
「死んで成せる事などありません! 後は、私たちに」
遅れて現れた、8246小隊の水上・未早(ga0049)のコールが耳に懐かしかった。
『第二波‥‥だと? こんな特攻作戦に、何機が参加してるんだ。奴らは馬鹿かっ!?』
唖然としたトマスが吐き捨てる。
「皆と一緒に帰る! その為にも、生きテここから!」
空間 明衣(ga0220)の脱出を援護し、クラリア・レスタント(gb4258)が言う。
「いいか、全員で生きて戻るぞ‥‥!」
「敵の砲門は火口を中心に二重同心円です。まずは‥‥」
桜崎・正人(ga0100)が把握した敵の火力密度を、M2(ga8024)が分析。多数の煙幕弾が麓を黒く染めた。
『くそ、見えないじゃないか!』
『うろたえるなといっただろう、トマス』
青い機体が空を割る。それに続く濃茶の本星型ワーム。森林地帯に配されたHWではなく、グレプカに配置された防空部隊の真の主力は彼らだ。
『ジェイソンは僕と上へ、カイとジルは地上を手伝ってやれ』
「本星型、4機です。1機が青‥‥!」
ニナ・フォイエル(gb4277)の通信が、迎え撃つべく待機していた傭兵達の耳へ届く。
●青い強敵
「名古屋でシェイドと戦った事に比べれば、どうということは‥‥」
『シモン様のZCは、シェイドすら凌駕する。わからないかな。お前たちの負けだよ!』
オルランド・イブラヒム(ga2438)を、マルコの砲火が貫く。
「エースの本星型HWか、足止めだけならいけるだろ?」
キョーコ・クルック(ga4770)の声に、A‐LAWS各機から返る言葉に惑いは無かった。
「何だ、本当に子供なのか」
『子供と侮った、それが貴様の油‥‥』
ドッグ・ラブラード(gb2486)の呟きに、ジェイソンと呼ばれた少年が笑う。
「バァカ。なりに騙されるほどボケちゃいねぇよ!」
――一転。強化フィールドを張り損ねた敵へ、47mm砲弾が刺さった。怒りに任せた反撃でドッグを落し、損傷を確認した少年の表情が固まる。
『強化フィールド発生器がっ!?』
「難しく考えるな――時間を稼げばいいだけ、だ。行こうか」
UNKNOWN(ga4276)の黒い機影がその前を塞いだ。
「抜かれた! ごめん!」
僅かな時間でキョーコの仲間を地に落とし、マルコは距離を取り直した。状況は、芳しくない。
『く、ジェイソンの役立たずめ。来い、ジル!』
前に回ったラウラ・ブレイク(gb1395)をプロトン砲で退け、声を上げた。
『それがこの連中、手ごわくて‥‥』
うろたえた少女の声。
「ちょっと自分達の嫌がらせに付き合ってもらいましょう」
周防 誠(ga7131)の鋭鋒を、ジルは滑るように回避する。しかし。
「とりあえず1機‥‥しばらく、私達と踊っていただきましょう!」
少女の動きを予測した、金城 エンタ(ga4154)が不敵に笑った。
『カイは!』
不規則に逃げる天道・大河(ga9197)を追っている。
「追っかけてこねーと、後悔す‥‥うわっ」
前脚を撃ち抜かれ、つんのめるように転がった阿修羅へ、茶色の異形が襲い掛かる。瞬間。
「さぁてさて。後悔はどっちにしろしてもらうがね!」
示し合わせ、待ち構えていたフェオ・テルミット(gb3255)が小隊に一斉射撃を指示した。
●グレプカの空に
HWは、いまだ降下部隊を苦しめていた。
「此方フェンリル01。何時でも行けます」
敵の群れを見据えて、篠崎 公司(ga2413)が言う。
「‥‥瀋陽で戦う仲間に悪さする前に、スクラップにしてやる。その為にも」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)の言葉が低く響いた。
「狙うは唯一点。例え寡兵だろうと貫き通してみせる!」
白鐘剣一郎(ga0184)の合図で、強烈無比な横撃がHWの群れを震撼させた。
「LOCK ON! 狙い撃つッス!」
エスター(ga0149)の陽気な声。爆散する敵機の影から、反撃が来る。
「悪いがの、我の魂を刈り取るには‥‥まだ足りん!」
「ブースターオン! やってやるぜー」
藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)が銃痕を刻み、阿野次 のもじ(ga5480)が擦れ違いざまの剣翼の一撃で止めを刺した。が、煙幕越しの対空砲も降下する各機を激しく迎撃している。
「‥‥この更に上へ。いつか、そう遠くない未来に」
名残惜しげに空を見てから、突撃機動小隊【魔弾】の楓華(ga4514)は降下を開始した。迎撃網に掛かる者、そしてそれを潜り抜ける者の間にさほどの差があったわけではない。強襲降下と言うのは、そういうものだ。
「死ぬ為に此処に来たのではないんです!」
降下に成功した加賀 弓(ga8749)が、その盾を脱出する仲間の為に掲げる。
「さあさあ、時間もないことだし押し通りましょう♪」
羅・蓮華(ga4706)が睨んだ先に、わらわらと小型キメラが現れた。
「せめてグレプカに一太刀浴びせるまでは、此処で墜ちる訳にいくかよ!」
「合流早々いきなり厳しいね‥‥けど、負けてはやらないよ」
ベールクト(ga0040)の隙を補うように、ジーラ(ga0077)が撃つ。
「カミカゼとやらは嫌いです。必ず皆で帰ってみせます!」
敵の反撃が来る前に、ベル(ga0924)がスモークを張りなおした。
「総員強襲降下! 友軍のための橋頭堡を確保せよ!」
緑川 安則(ga0157)の号令で、零小隊が斜面のやや南へと向かう。正規軍的な正攻法だが、堅実な成果と引き換えに受ける被害は少なくない。
「邪魔だ、どけ!」
降下に成功した河崎・統治(ga0257)が小型キメラの群れを掃射し、道を切り開いた。
「この奇襲によるアドバンテージ‥‥絶対に無駄にしないッスよ!!」
Astraeaの六堂源治(ga8154)が敬礼する。上空、黒川丈一朗(ga0776)機が火を噴いた。
「命懸けで戦争して、命カラガラ帰ろうや」
カバーに回った前園・タクヤ(gb5676)が、そんな冗談を口にする。
「こんな所で仲間を落とさせるわけには行かないんでな‥‥」
鹿嶋 悠(gb1333)がほっと息をついた。その奥で。
「ここまで、ですか。脱出します!」
3機目のHWを撃墜した春風霧亥(ga3077)が脱落する。
「――ああ、この感覚です。ふふふ、僕も大概に度し難いですね‥‥!」
斑鳩・八雲(ga8672)が楽しげに笑った。
「‥‥お供すると、決めたのです」
静かに微笑むティスホーン(ga8673)の声。被弾した彼女の機体が斜めに落ちる。
――乱戦だった。一方。
『くっ、ここまでとは‥‥』
人類側のエースのエンタと誠に対しては、ジルも持ち応えられず。『赤熱鉄』は、総力戦の末に相打ちに持ち込む事に成功している。残るはマルコだけだった。
「こちらから仕掛ける、支援を頼む」
リヴァル・クロウ(gb2337)が放ったミサイルを回避する。その瞬間。
「右です!」
ニュクス(gb6067)の声に従って、先回りした鳴神 伊織(ga0421)。
「‥‥私は出来る事を為すのみです」
一瞬の隙に、全力を。伊織とリヴァルが、前後から敵を撃った。
「わたくし、目と記憶力はいいほうですのよ?」
A-LAWSを気にも留めなかった少年は、その代価を払わされている。回り込んだラウラに、マルコが怒気を吐く。
『雑魚が!』
先刻、攻撃をわざと受けて見せたラウラが、今度はその攻撃を交わし。
「この一撃で、決めてみせる!」
空中変形を行った不死鳥の、その腕に鈍く輝く剣。少年の目が、見開かれる。
●敵前展開
『マルコ!?』
四散する仲間の機体を遠望して、トマスは思わず爪を噛んだ。
「戻らなかったら、虎太郎に怒られちゃうからね。‥‥絶対、帰る」
HWもほぼ全滅。激しい空中戦を生き残った宮武 征央(ga0815)が囁いた。制空権を得たのを皮切りに、陸戦機主体の支援部隊も次々と降下を開始する。
「ハニービー全機へ、どんな状況でも私達がやる事は変わらないわ」
カーラ・ルデリア(ga7022)の号令が響いた。
「待って、拠点を作るんなら、あっちの溶岩洞窟は使えないかな?」
ニモ・ニーノ(gb4833)が彼女達を呼び止める。
「強度は、大丈夫だと思います」
カーラの視線に、ステラ・レインウォータ(ga6643)が頷いた。
「わかった。じゃあ、遠慮なく使わせて貰うね。活動開始!」
蜜蜂たちが、巣作りに動き出す。
「撤退分の燃料を積んできた。帰りの分は気にせず派手にやってこい!」
藤枝 真一(ga0779)が威勢良く告げた。ハーベスター隊は、物資を預けてから山麓へ展開する。一方、後続の着陸をより円滑に進めるべく、離発着地の整備を始める動きもあった。
「さってさって、こちらは工事中でーす」
愛機にシャベルを振るわせながら、くれあ(ga9206)が笑う。医療行為の合間を縫って、御巫 雫(ga8942)らも協力していた。簡易な作業が、後続への一助となる。
「これを破壊できねば、また多くの命が奪われるのですね‥‥」
後着したアイロン・ブラッドリィ(ga1067)が、山を見上げてそう呟いた。
●トラップ
『‥‥シモンは間に合わんか』
指揮所のアジフが溜息をついた。ゲリラの襲撃や少数奇襲程度を想定した防衛網では、時間稼ぎにもならない。
「全機兵装使用自由! タイミングは私に合わせて‥‥GO AHEAD!」
八咫烏が、叢雲(ga2494)の指揮の元に前進を開始する。
「前方にバグア兵器を確認、排除します」
「邪魔よッ!」
澄香・ハッキネン(gb1399)の狙撃で頭部を失った敵は、ケイ・リヒャルト(ga0598)の追撃に沈んだ。そのままプロトン砲台へ、切り込む。瞬間、砲台が紅蓮の火球に包まれた。退避が間に合わなかった機体が炎に焼かれる。
「何だと‥‥!?」
同様の罠にかかったブラックアサルトは、火茄神・渉(ga8569)を除く全機が行動不能に追い込まれていた。
「皆、死んでないだろうな‥‥」
剣野勇斗(ga8350)に、隊員の元気な声が返る。
「やってくれる‥‥!」
暁の騎士団、ヴォルク・ホルス(ga5761)が舌打ちした。一瞬迷ってから後退を指示する。
「了解。あそこまでなら持ちます」
退路を塞ぐキメラの群れへ、アーサー・L・ミスリル(gb4072)が楔を打ち込む。
「どきなさい。どけといっているんです」
やはり破損の痕跡が痛々しいグリク・フィルドライン(ga6256)が続いた。
「援護します!」
藤堂 紅葉(ga8964)や佐々 歩(gb6537)が煙幕を張る。
「砲台に切り込めば自爆するし、近づかなきゃいい的だ。厄介な物作りやがって‥‥!」
「でも、あそこはいい進攻ルートになるな」
歩兵隊の水円・一(gb0495)が、吹き飛んだ砲台の跡を見て、そう呟いた。
「よし、後ろはわし等に任せい」
青い薔薇のオブライエン(ga9542)が豪快に笑う。彼らこそ、生身で侵攻した仲間達の動けぬ愛機の護衛役だ。
「皆さんのお帰りを、皆さんの愛機と共にお待ちしております。 ――御武運を」
遠倉 雨音(gb0338)の声に送られ、危険な潜入部隊が開口部へと足を踏み入れる。
●火山の懐にて
「にゃ〜はっはっは、全部ぶっ壊すのにゃー」
「合言葉は『ふりーだむ』!」
白虎(ga9191)と白野威 奏良(gb0480)が、壁面を粉砕していく。が。
「あ、まずいね。これは、この通路自体が罠かも‥‥」
大泰司 慈海(ga0173)が呟いた瞬間、穴からキメラが飛び出してきた。挟撃を受ける形になった所に、派手な白光が刺さる。
「一気にいきますよ? 大丈夫、誰にもケガなんてさせない」
国谷 真彼(ga2331)が切り開いた退路の先で、寿 源次(ga3427)が手招きしている。
「大丈夫、自分は運だけはいいんだ」
彼の言うとおり、それ以上の追撃は無かった。
「罠があるかもしれません。気をつけて」
葬儀屋(gb1766)が言う。
「安全第一だ、敵を見つけたらブッ殺せ。罠は避けろ」
聞いたOZ(ga4015)の指示は極めてざっくばらんだった。
「‥‥妙だな」
伊佐美 希明(ga0214)は、違和感を感じていた。迎撃に出てくるのはキメラばかり。そして、罠の数々は通路や施設の損壊を気にも留めていない。
「確かに、気配が無さ過ぎます」
行動を共にしていた夜坂桜(ga7674)も、首を傾げる。
「情報も‥‥無い」
琥金(gb4314)がポツリと呟いた。突入部隊は徐々に広がる違和感を押し殺しながら、それでも先へと進んでいく。少なくとも、グレプカへは近づいているのだ。そして、屋内型の小型キメラの迎撃も激しさを増している。
●護る者と往く者
森林から現れるキメラは、時と共にその数を増している。
「俺達が崩れれば後が無い。簡単にやらせると思うなよ」
設営した拠点では、玖堂 暁恒(ga6985)が奮迅の働きを見せていた。運び込まれるのは怪我人や損傷機。これ以上、敵に晒す事のできないものばかりだ。
「大破した機体でも、まだ使える部分は残っていますわ」
動ける怪我人へは、綾波 結衣(ga4979)が手伝えと言わんばかりに手を伸べた。
「こういう時こそ小さな綻びが危ないんだ。時間は無いけど丁寧にやろう」
搬入の隙を狙うキメラを倒し、佐竹 優理(ga4607)が言う。主の無い機体を守る為の戦いも、同様に激しさを増していた。
「隊長達が帰るまで‥‥耐えるッ!」
柴崎 琢己(ga0215)が喰らいついたキメラを引き剥がし、潰す。多少の損傷ならば、手当をすれば再び動くのだ。
生身の侵入だけでは、グレプカ自体の破壊はやはり覚束ない。
「生還して、報酬を頂くまでが依頼です。生きて帰りますよ、皆さん‥‥!」
フィルト=リンク(gb5706)が呟く。
「死ぬ気じゃなく、勝つ気で行くぞ」
「‥‥ん」
城田二三男(gb0620)に、最上 憐 (gb0002)が頷いた。
「死ぬつもりはありませんが‥‥見捨てるつもりもありません」
浅川 聖次(gb4658)の支援を受けて、7機の侍ならぬKVが斜面を駆け上がる。
●散る命
高空に待機していた風宮・閃夏(ga4632)が、そのタイミングでグレプカへ目を据えた。
「さぁて、冥土の土産にグレプカ本体貰っていこうかね!」
ブースターに再び火を入れる。急角度で突っ込む流星の槍。その穂先は、空から火口を目指して果たせなかった仲間達よりも鋭く、しかし直線軌道故に読みやすい。敢え無く砲火に貫かれ、一瞬で絶命した閃夏の機体が、空中分解する。
『何なんだよ、あいつら‥‥。何なんだよ』
トマスの目が泳いだ。理解できない存在への怖れ。死を恐れず、死を玩具の様に扱うが故に、自分達は強い。そう信じていたのに。
『何でだ‥‥。お前ら、死ぬのが怖いんじゃないのかよ』
空から火口を伺う傭兵達は、攻撃だけを狙っていたわけではない。グレプカを制御する施設の所在に留意している者も多かった。遠望すれば、火口に幾つかの建造物や装置が見えている。
――ならば、近くからならば何が見えるか。
「う、なんであるか?」
美黒・改(gb6829)が、不意に隻眼を細めた。
「‥‥違う、あれは‥‥」
彼女がそれに気付けたのは、仲間よりも火口に近く、低く、そして遅く飛んでいたが故。
『迂闊なんだよぉ!』
トマスがコンソールに両腕を叩きつける。美黒の骸龍を対空砲が捉えた。榴弾の欠片が薄い装甲を貫き、コクピットブロックに刺さる。
「ぐぶっ」
判った。致命傷だ。下腹の奥から込上げる熱を感じながら、美黒は往生際悪く操縦桿を倒す。死は、コワクナイ。しかし、戻らなければ。知らせなければ。
「大丈夫か、今‥‥」
砕牙 九郎(ga7366)の声が聞こえる。仲間の声が、落ちかけていた意識を辛うじて繋ぎとめた。
「火口の施設はフェイクなのだ。制御装置は、ここに無い」
鮮やかな真紅と共に、その言葉を吐く。これで、いい。姉妹の中で自分が最初に逝く事に、違和感は無かった。当然だとも思う。
(そうか、もう。からかう事も出来ないのである、な‥‥)
暗くなる視界の中、ふっと誰かの顔が思い浮かんだ。
●転進
歩兵部隊の3割を占めるG.B.HとLTM。彼らがその知らせを聞いたのは、4箇所目の部屋を制圧したときだった。
「罠!?」
思わず力が抜けかけたサンディ(gb4343)の肩に、大きな手が置かれる。
「グレプカを破壊し、無事生還するまでが俺たちの仕事だ」
木場・純平(ga3277)が、ニッと笑っていた。
「さあ小隊長殿。続けて行こうじゃないか」
サヴィーネ=シュルツ(ga7445)も手を伸べる。奥では、メビウス イグゼクス(gb3858)が静かに笑っていた。
「こうなると、生きて帰る。それが一番の課題ですね」
G.B.Hの水無月 蒼依(gb4278)が言う。が、アレックス(gb3735)は首を振った。
「作戦を成功させて、全員で生還する。必ずだ!」
サンディも力強く頷く。まだ彼らは往ける。
「アンテナを設置するなら高所、とは限らん相手だったな。常識に振り回されすぎたか」
腕組みした杠葉 凛生(gb6638)が苦い顔をした。
「‥‥でも、衛星とココ、上手くリンクしないと機能しないのは間違いないよね?」
空閑 ハバキ(ga5172)が言う。
「ここらの地図だ。役に立ててくれ」
メイフィア(gb1934)に先導され、地表へ行きかけたノーン・エリオン(gb6445)が手帳を差し出す。
「ああ。ロリコン野朗の玩具ごとき、いつまでも調子に乗らせちゃいられないぜ」
希明が親指を立てた。制御システムは必ずある。そして、それを破壊するのは彼女達で無ければできない事なのだ。
●火口にて
頃を同じくして、KV隊も火口縁へ辿りついていた。
「‥‥確かに、偽装だな」
見下ろせば、それらの構造物が空撮を誤魔化す為の偽者なのは明らかだ。それが一刻早く判明した成果は大きい。代償は、大きかったけれど。
『この‥‥!』
その一つから、青い本星型が飛び上がった。
「最後まで隠れていれば良かったものを。そこが子供の浅知恵だな」
イレーネ・V・ノイエ(ga4317)が、嘲笑う。嘲笑する事で、敵の意識をひきつける為に。
「攻撃隊にゃ1匹も近付けさせンなっ! ‥‥それと二階級特進とか認めねぇかンな♪」
隊長の聖・真琴(ga1622)が腕を振り、一斉射撃が敵を叩いた。
『雑魚は引っ込んでろよ!』
桜井 唯子(ga8759)を撃墜し、トマスはミサイルを放つ。
「くっ」
天城(ga8808)がカバーするように煙幕を放つが、追いつける物ではない。
「皆、生きて帰ろう!」
祈るように、フィオナ・フレーバー(gb0176)が呟く中、戦闘不能に追い込まれていく仲間達。鷲羽・栗花落(gb4249)の眉根が寄った。
「きっついなぁ‥‥だけど、負けてなんかやらないからね!」
自分を奮い立たせるように、言う。
「あんたを行かせるわけにはいかんのや!」
行く手を遮った桐生 水面(gb0679)が吹き飛ばされ。
「まだだっ!」
追いすがった皐月・B・マイア(ga5514)を切り裂いた所で、本星型が不意に輝きを失った。――練力切れ。攻撃が装甲へ孔を穿っていく。
「誰も墜とさせない‥‥墜ちるのは‥‥お前達だ♪」
聖・綾乃(ga7770)の追撃が敵ごと岩肌を崩落させた。
『うわぁああ!?』
土砂の下から聞こえた悲鳴は、ブツリと途切れる。しかし、トマスの死が引き金だったのか、あるいは他の要因か。グレプカが薄い燐光を発し始めていた。
「発射される前に‥‥何とかしなければ!」
エンジェル・フェザーのアリエイル(ga8923)が唇を噛む。
●制御区画
傭兵達は森林周辺まで捜索範囲を広げていた。
「クライアントが亡くなっては‥‥報酬が戴けませんし‥‥ね」
キア・ブロッサム(gb1240)は火山内で知らせを待つ仲間を思う。
「予想が当たってれば‥‥」
バグア製の通信装置の見た目は幾つか判っている。例えば、アグリッパ。その明星 那由他(ga4081)の予想が決め手となった。
「あそこに!」
木々の切れ間に立つ、人類の物ではない何か。
「こちらでも把握しました」
チャンドラプトゥラ(gb7122)が報告を中継する。
「ったく、厄介なモン作りやがって。壊すこっちの身にもなれってんだ」
ダニエル・A・スミス(ga6406)が、それを火山の歩兵部隊へ送った。地下通路の数キロは、能力者の脚を持ってすれば僅かな時間でたどり着く距離だ。
「ッ!」
先頭を駆ける蒼依へ、通路脇から飛び出してきたバグア兵が銃を向ける。それが、ここが本命だと教えていた。
「アレックス、必ず帰ろう。私達の家へ」
自分に言い聞かせるようなトリシア・トールズソン(gb4346)の囁き。
「‥‥。邪魔は‥‥させない、よ‥‥」
霧島 和哉(gb1893)が敵兵を遮り、蹴り開けた扉の向こうへ雪崩れ込む。異質な機材が並ぶ、制御室。――間に合った。
「戦場でもエレガントに‥‥」
ふ、と笑ったミルファリア・クラウソナス(gb4229)は、当たるを幸い破壊行動を開始する。「ここまで来たら、私たちが本命‥‥ですね」
呟く朧 幸乃(ga3078)の脇を、旋風が駆け抜けた。
「初午成就の為、そしてあの子の為に‥‥奴だけはっ!」
機材の破壊も重要だ。しかし、水雲 紫(gb0709)は違う目標を見ていた。駆けながら、閃光弾のピンを抜く。
「ハリ・アジフ!」
『んむ?』
振り返った顔は、資料で見た物と同じだった。周囲を白い光が埋める中、月詠の刃を――。
『むぐぉ!?』
――振るった。と、同時に自らの体が宙を舞い、床へ叩きつけられる。
「‥‥殺ったか‥‥いや」
手ごたえは浅い。下唇を噛む紫の視線の先に、老人の肘から先が転がっていた。
●グレプカ
指揮機を失った敵は、時間をかければ排除は出来る。その思いを見透かすようにグレプカの巨体が不気味に鳴動した。発射の予兆か、あるいは自爆か。
「二度と滅びの光は放たせない為に‥‥!」
「なんとしても破壊を‥‥するのですぅ!」
ロッテ・ヴァステル(ga0066)の決断は早かった。半歩遅れて、幸臼・小鳥(ga0067)が追随する。
「砲身が焼け付くまで撃ち込む。全弾持っていけ!」
仲間を阻害しようとする亀へ、月影・透夜(ga1806)の猛烈。
「命令は唯一つ。全員生きて帰れ、以上だ。さぁ行くぞ!」
リディス(ga0022)の両脇を、クリア・サーレク(ga4864)とヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)が固める。両者共に迷いは無い。
「こんなものを放っておくわけにはいかない‥‥。今、ここで、叩き潰す!」
ブレイズ・カーディナル(ga1851)が吼える。
「‥‥前にこそ我らの活路が開けるっ!」
逆側の砲台を突破してきた不破 梓(ga3236)が、REXを切り伏せた。フォビア(ga6553)が銃口を巨砲へ向ける。アンジェリナ(ga6940)が、火口を駆け下りた。
「射撃班、データリンク。あは、あははははっ! 派手にいきますですよ! アハハハハハッ!!」
派手に高笑いをする伊万里 冬無(ga8209)に片眉を上げてから、大鳥居・麗華(gb0839)も突進に加わる。そして、最後のルートからはもう一つの魔弾が。
「お、大き‥‥っ」
「大丈夫だ。俺たちなら、やれるっ!」
アセット・アナスタシア(gb0694)に、サルファ(ga9419)が言う。その左右に、ファイナ(gb1342)とヨネモトタケシ(gb0843)の機体が並んだ。
「このグレプカで人がいくつ死んだと思ってる‥‥」
「完膚なきまでに‥‥粉砕して差し上げる!」
対照的な2人の目に宿る炎だけが、同じ色で燃える。否、この場に挑んだ全ての。この場に彼らを送り込んだ全ての者の目が、天高くを差した悪魔の砲台を睨んでいた。
――轟音。そして、中央から斜めに傾ぎ、ゆっくりと崩れ落ちる。グレプカは沈んだ。尊い犠牲を払って、脅威は姿を消した。後は。そう、後は。希望の翼は、この死地を脱して再び飛ばねばならぬ。
ラストホープの示すLASTは、この地では無いのだから。後を託して逝った者の為にも、困難極まる退却戦を越え、帰らねばならぬ。彼らの友が待つ地へ。
<担当 : 紀藤トキ >
<監修 : 音無奏 >
<文責・判定 : クラウドゲームス株式会社>
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