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シェイド討伐戦

●第3フェイズOP
漆黒の悪魔の過信
 エミタ・スチムソンに人類への予告襲撃を仕掛けるよう進言したのは、
 彼女の背後に立っている小野塚・愛子であろう。
 悪魔の後ろでほくそ笑む少女の心中を伺うことは難しい。

第3フェイズOP
●大将の憂鬱
 上々すぎる。それが、北米軍首脳の正直な感想だった。北米で膠着状況を作る事でシェイドをロスへ引き込み、それを討つ乾坤一擲の作戦は、相応の代償を覚悟してのもの。
「それが、ロスの東部では痛みわけ。アイオワ級戦艦を使った姑息な策もほぼ傷の無い解決を見せ、おまけにサンディエゴまで確保するとは。‥‥さすがだな」
 そう言って溜息をつくヴェレッタ・オリム(gz0162)大将は、上機嫌には見えなかった。長い時間、フロリダで動きを見せていなかったギガワームの西進の知らせが伝えられたのである。忌々しいあの円盤は、どうやらロスアンゼルス東部を目指している様子だった。
 強引に推し進めてきた作戦は、まだ当初の目的は達していない。傷と言うにもおこがましい浅手を受けた漆黒の悪魔は、ロサンゼルスの西へ消えたという。南の本拠地への帰還ではない辺りに、彼女のロサンゼルスへの執着が垣間見えた。
 ――エミタは、まだやる気なのだ。
 ならば、自分も。そう考えた矢先に、手もとの端末が控えめに呼び出し音を発した。

「私だ。何の用件だ?」
『戦線が延びすぎる。いかに彼らが優秀であろうと、両手に掴める物には限りがあります』
 挨拶もさておき、開口一番にそう言ってきた男の顔を思い浮かべて、オリムは苦笑した。ハインリッヒ・ブラット(gz0100)少将は、彼女に対して遠慮が無い。欧州の人間だからだろうか。
「判っている。サンディエゴは放棄する前提で、行動計画を練り直す」
 軽く頷き、オリムは地図を睨んだ。彼女が今いる五大湖周辺ではなく、ロサンゼルスを中心に半径200kmほどの戦域図だ。サンカタリナ湾には参番艦轟竜号が座し、ロスにはブラットの弐番艦を示すマーカーが明滅している。

『弐番艦を、シェイドに当てるか、それともギガワームに向かわせるべきか。司令部の判断は如何ですか?』
「やはり、その件か‥‥」
 耳が早い。気づくべき点も、ブラットは自らと遜色の無い視野を持っていた。少将に就いた時の年齢と実績は彼の方が上だったはずだ。彼が星を得るのに足りなかったのは、おそらくコネクションだけだ。そして、そのコネクションが今回もオリムにある確信を与えていた。
『もしも腹案が無いのでしたら、傭兵に提案を募ってはどうでしょうか』
 端末の向こうで、淡々とブラットが告げる。
「‥‥ここまで、思考が似通うと少し不快だな」
『は?』
 何でもない、と答えてから、オリムはその提案に許可を出した。結局の所、シェイドをここまで追い込んだのは傭兵の力なのだ。なれば、最後の一刺しまで彼らの流儀でやらせればいい。
『良いのですか?』
 反対を覚悟していたのだろう。ブラット少将の声は、怪訝そうだった。
「責任は私が取る。連中の尻拭いを、喜んでしようと思う日が来るとは思わなかったな」
 苦笑してから、真顔に戻ってオリムは静かに付け足した。
「エミタは、疎まれている。おそらく、だが」
 それは、ドロームの筋からの情報である。エミタと随伴しているステアーは、彼女の盾とはならないだろう‥‥、と。人間と同じく、バグアも一枚岩ではない。それは、ロシアでのバークレーの死に様を見れば明らかだったが。

●エミタ・スチムソン
 その時、指揮室の大型モニターに雑音が入った。幾度か、見慣れた光景。
「バグアの電波ジャックか。‥‥繋げ」
 同様の指示を、端末の向こうの男も部下に下しているようだ。接続を切り、机上に置く。顔を上げた時には、モニターの映像は安定していた。
「エミタ・スチムソン‥‥」
 誰かが呟く。整ったその顔立ちは、歳月を経ても変わる事が無い。UPC軍の制服を一分の隙もなく着こなしているのには、失笑を禁じえない気分だった。

『人類に告げる。貴方達は、よくやりました』
 口を開いたエミタ・スチムソン(gz0163)に、感情の動きは見えない。オリムはじっとその口元を睨んでいる。

『まさか、このシェイドに傷をつけるとは。まぐれと言うつもりはありません。私は貴方達を見くびっていたと率直に認めます』
 UPCの担当部署が、映像記録を繋ぎ合わせてようやく確認した戦果を、彼女は自らの口で裏付けた。一昨年の名古屋以来、バグアの絶対的な力の象徴だったシェイドに、実質的なダメージを与えたのはこれが初めての事だ。ざわつく指揮室のスタッフを、オリムは片手を上げて黙らせる。エミタの声は、まだ続いていた。

『‥‥ですが、これで調子に乗られる訳にはいかない。貴方達が進歩を止め、今日と言う記念碑に胡坐を掻いて寄りかかるようになっては、困るのです』
「その通りだ。ここで胡坐を掻くつもりなど、あるものか」
 オリムの視線は、刺すほどに鋭さを増していた。そんな事は知らぬげに、エミタは言葉を続けていく。
『私は明日、正午にロスアンゼルス上空へ向かいましょう。今日と同じく、供は1機です。その私が、今度は完膚なきまでに貴方達に絶望を味わわせてあげましょう』
 その言葉の意味を、聞き手が理解するのに必要な寸秒だけ、エミタは口をつぐむ。表情のなかった彼女が、ほんの少しの微笑を浮かべていた。
『‥‥私のシェイドは、まだ絶望の象徴であるべき存在です。突き落とされた絶望から再び這い上がる事で、人類はより価値ある存在となる。その為に、絶望を見せましょう。何度も、何度も、何度も』
 彼女の背後に立っていた少女が薄笑いを浮かべるのが、モニター越しに見える。確か、愛子という名だった。
『私は、再び会えるその日を楽しみにしています。これまで以上に』
 再び無表情に戻ったエミタが演説を締めくくる。オリムは、しばし瞑目していた。それから、おもむろに端末へ手を伸ばす。
「‥‥マウル少佐、至急傭兵へ作戦の通達を。次で、終わらせろ」
『は、はい!』
 突然の通話に、上ずった声で答える士官の顔を思い浮かべて、オリムは微笑した。もしも彼女が今、中佐に上がったとしたら、自分の昇進記録を抜くのではなかろうか。しかし、これはそれだけの価値の有る作戦だった。
執筆 : 紀藤