Interview with Stimson
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Interview with Stimson

白瀬留美

イラストレーター :ゆらり 

スチムソン博士と能力者の交流に関しての報告なの。
とっても長くなったから、3ページに分けられているの。

このページで取り扱うのは、主にエミタ金属とスチムソン博士のことなの。
●エミタとスチムソン
●エミタの実像
●過去と今のスチムソン
●対話の終わり、そして日常へ

1.能力者について  2.バグアについて

●エミタとスチムソン
「あの、ご自身と、僕らが付けているエミタには、何か違いが有るんでしょうか‥‥? それとも、条件さえあれば‥‥」
「俺達『能力者』にもスチムソン博士のように『エミタ』が会話する何かになる事態は起きうる、もしくは起こすことができるのか」
「或いは我々自身が自我を保つ中でも、エミタがあなたと同様に己の意思を表現するようになり得るのだろうか」
 別の切り口から問いかけた北柴 航三郎(ga4410)とヘイル(gc4085)、白鐘剣一郎(ga0184)。
『組成にも存在にも我スッチーのエミタと汝、北柴 航三郎とヘイル、白鐘剣一郎のエミタに相違は無い。また、今後において、我スッチーを生じたような事故が起きる事は無いであろう。白鐘剣一郎の言う形であっても無いと判断する』

 回答に頷いた三人の横で、不破 炬烏介(gc4206)がたどたどしくキーをたたき出した。
「博士‥‥。俺、は。誰‥‥だ、答え。て、く‥‥れ」
 自身に過去の記憶も記録も無い彼は、今のスチムソン同様に自分が何者かに作られた存在ではないかと疑念を持っていた。それがエミタではないか、とも。
『不破 炬烏介の状況はエミタ装着に起因する変容であるか、それ以外かは不明である。だが、エミタによる精神の置換、乗っ取りなどの可能性は無い』

 複雑な表情で席を立った炬烏介の後に座った鋼 蒼志(ga0165)は、少し考え込む様子を見せた。
「エミタに記録されたデータを元にAIがそれらしく喋っているだけなのか? ‥‥だが考えようによっては。‥‥エミタさえ残ってれば、死人の意思でも会話が可能なのか?」
 それは、人によっては魅力的な可能性ではあっただろう。しかし、返答は否定的なものだった。
『我が会話しているのは鋼 蒼志の言う状況が近似であるが、現在に鋼 蒼志らが着けているエミタは、再構成するに足る情報を着用者から収奪する事は無い』
 最後の断定には、スチムソンが無いと主張している筈の意思が感じられる。悔恨、あるいは決意といったような物が。それは、もしかしたら彼らが身につけたエミタからの物だったかもしれない。

「ならば問う。エミタは物語に出てくるような金属生命体かね? それなら錬力と言う概念が理解できる。金属も疲れるわけだからな」
 緑川安則(ga4773)の質問へは、否と答えが返った。
『エミタは増殖しない。トマス・スチムソンの知識の中にある生命の定義には合致しないと考える』

バグアとエミタの力の由来はかなり近しいものであるようだ。
スッチーの言う「向こう側」である。
しかし、一方で決定的に違う存在でもある。その差は、バグアが曲がりなりにも生物である事に対して、エミタは鉱物であったことに由来するらしい。
「これだけの人類の抵抗力を目の当たりにしながらバグアがエミタの使用を大々的に行わない、その理由‥‥。エミタはヨリシロのそれと似たような何かなのでは無いのか?」
 自身でも考察を続けていた、というアンジェリナ・ルヴァン(ga6940)へ、返答はあっさりと返った。
『おそらくは類似している。原初に彼らは有機物を端末とし、エミタは無機物を端末とした。彼らは生命として変化を遂げ、エミタは鉱物としてただ在るがままであった。それが、現在の違いを生んでいると推測する』
 とはいえ、鉱石であった間の「記憶」は、今のスチムソン博士の中には存在しない為、全ては推測だと言うが。やはり、と同様の推察をしていたレフィクル・ヘヴネス(gc5117)が頷き、キーを叩いた。
「それであっても、私は貴様に感謝しているがな」
 それを皮切りに、感謝の意思表示が続く。
「北京で以来ですの‥‥覚えてますか?」
 シルフィミル・RR(gb9928)の問いに、モニターは一言『諾』と答えた。ほっとしたように、彼女は言葉を続ける。
「エミタの力‥‥正直、怖い時もあります。でも‥‥本当に私はこの力の存在に感謝してます。この力で私がどれだけ‥‥。だから‥‥「ありがとう」をただ伝えたいんですの」
「質問がねぇ訳じゃねぇけど、あんたは、すげぇと思う。やった事は、正しいかは正直言ってわからねぇけどよ。それのおかげで、あたしらは此処にいる」 ここまで打ってから、エイラ・リトヴァク(gb9458)は微笑して残りを素早く入力した。
「有りがとな。それと爺さんの字が戻るの願ってるぜ」

 続いて、クリア・サーレク(ga4864)が画面に向かう。
「ボクたちにこうやって戦う力を与えてくれた事、とっても感謝してるんだよ。ボクたち能力者全ての親、『スチムソンお父さん』って、呼んでも良いかな?」
『我スッチーは、スチムソンとの同一視を受けるべきではない』
「あ、うーん。じゃあスッチーお父さん? うーん‥‥」
 スチュワーデスのお父さんのようで微妙、とモニターしていた留美がぼそっと呟いた。

「スチムソン博士に融合するまえは、どんな姿をしていたんですか?」
「スチムソン博士の中の人?は何歳なんですか?」
「いまの状態になっても、以前のスチムソン博士の意思は残っているのでしょうか‥‥?」
 ユーリ・クルック(gb0255)、ネーナ・C(gc1183)、ナイア・クルック(gc0131)の3人が、立て続けに質問を飛ばす。すぐに、それぞれの前に回答が表示された。
『時間軸的に前、どのような形であったかという意味ならば、ここに埋め込まれたエミタが作り出した物である為に以前は存在しない』
『以前にはこのような思考も存在していなかった為、年齢という意味であれば4年と半ば、という事になる』
『我スッチーの認識できない部分に保存はされている筈である』

 一拍をおいて、キョーコ・クルック(ga4770)の指がキーボードの上を踊った。
「もしそうなら、外部から寄生してるものを取り除くって可能かな?」
『否。外部から寄生というのは正しくない。トマス・スチムソンの存在情報はエミタの向こう側に取り込まれている。我スッチーの目的は事故により失われたトマス・スチムソンを再生する事である』
「その『向こう側』とは何か? 我々のエミタにあるAIとの関連性、相違点は何か?」
 鹿嶋 悠(gb1333)の質問へは、端的に言えば判らない、という答えが返ってきた。
『我スッチーは端末の先に生じた存在であり、向こう側の全容は把握できない。把握できたならばトマス・スチムソンの再生が可能であろう。また、鹿嶋 悠らのエミタに存在するAIは、装着者の意思を反映し最適な行動を起こす為に、トマス・スチムソンが作り上げようとしていた『装置』である。エミタの存在はそれに力を貸している』

「エミタは生命体に取り付く事によって、活動可能なのか否か? それに伴い、エミタは宿主の意志を上回り、それを乗っ取る事が可能か否か?」
 もしも、自己を消去させる可能性があるならば、譲る事は出来ないと秋月 祐介(ga6378)は鋭い目でモニターを睨む。
『エミタは有機体生物の記録を持たない。よってその活動を模造する事は不可能であり、かつエミタにとっても不要な行為である。また、後段はトマス・スチムソンが行ったような手順を踏めば起きる可能性があったが、その道は既に我スッチーが塞いである。その他、我スッチーの思考の及ぶ範囲では否と言えよう』

 続いて、田中 幸作(gb9359)が質問の入力を行う。
「スチムソン博士との初接触に、博士は死んだとありますが、ブレスト博士との会話で、『自分』が求めた回答は得られた、とありますね。エミタ側からも、人類と何らかの方法で接触を試みていたのですか?」
『それはトマス・スチムソンの事故を繰り返さぬ方法である。我スッチーがこの状況を把握して後、最初に求めたのはそれであった。我スッチーはこれを繰り返さぬ為に、ジョン・ブレストへそれを伝える必要を感じた』

●エミタの実像
「単刀直入に。エミタってなんなのかしら?」
 地球由来の物では無い、かといってバグアが積極的に利用している形跡は無い、とファルル・キーリア(ga4815)が疑問をあげる。
「そうさな‥‥結局、エミタの由来って何なんだ? 俺達能力者には何かスゲエ金属としか伝えられてない、が‥‥。今のアンタの様子を聴く限り、どうもそうじゃないようで。エミタはどこから来たんだ?」
 田中 直人(gb2062)はその素性を端的に質問した。スチムソンからの返答は淀みない。
『エミタはバグアの故郷に存在した鉱石である。彼らは古い時代から、単なる金属としてエミタを利用している』

「エミタって一体なんだ? エネルギーを高めることが出来ることはわかる。しかし、人体に埋め込んで、能力が上がるのは異常だ。AIで制御できるのもよくわからねぇし」
 神撫(gb0167)の疑念に対しては、返答が少し遅れた。
『詳細を神撫に理解できるように説明する術が無い。しかしながら、それらは異常な事ではない』
「地球外の物質や技術が、現在の諸々の軍事技術に使われているのではないかとは思っていたが‥‥」
 ふむ、とそこで言葉を切った崔 南斗(ga4407)に、返答は明確に届く。
『物質としてのエミタ、技術としてはメトロニウムの精製、いずれも地球外の由来であり、その認識は正しい』

「エミタ自体に意思が無いというのなら、何かの意思がエミタや博士を通して人類とコンタクトしているのか?」
 いくつかの質問のうち、1つを打ち込むイスネグ・サエレ(gc4810)。少しの間を置いて、画面に文字が並ぶ。
『エミタは端末である。イスネグ・サエレの認識は一面では正しい。我スッチーは『向こう側』の存在を知覚はするが把握できない。事故によってこの世界から失われたトマス・スチムソンの正確な情報はその存在の中のどこかにある事は把握している』

エミタ金属は本質的には金属に過ぎず、スッチーが例外であることが繰り返し主張された。
そこに意思や志向はほとんど存在しないと。しかし、得られる力の大きさを考えれば、そこに大きな存在の意思を感じずにいられないし、スッチーの話を検証する手段もほとんどないのが実情である。
スッチーに関してのみ言えば、トマス・スチムソン博士をこの世界に再構築することが目的であると語る。
「エミタは、鉱物な訳ですがー、記憶が可能なら、スチムソン博士が移植したエミタと、私達のエミタ、やっぱり違う気がしますー」
 のほほんと言いつつ、未名月 璃々(gb9751)はエミタを記憶媒体として使える可能性を尋ねていた。それについては、あっさりと返答が来る。
『未名月 璃々のエミタは我スッチーのエミタと同質と返答する。異なるのは未名月 璃々と現在の我、スッチーの存在である。後者については、厳密に言えば記録を行う事は可能であるが、未名月 璃々らはそれを引き出す事が出来ない』
 それどころか、スチムソン博士自身もそれができていないのだ。現状でのエミタは、情報のブラックホールのような物だという。その『情報』は、物体の原子配列のような物まで含み、完全な情報さえ回収さえ出来ればトマス・スチムソンを復元できると、現在のスチムソン博士は認識していた。

「貴方は、僕らを戦わせて一体何を望むのですか?」
 その質問を投げたのは、国谷 真彼(ga2331)。バグアと人類に何を望むのか、と待威 勇輝(gb4230)が続ける。返答はあっさりと返された。
『戦う事は、有機体として進化をする物のある意味では自然な姿であると、我スッチーの把握しているトマス・スチムソンの知識は告げる。そして、エミタは意思を持たぬゆえバグアにも人類にも望む事は無い』
 バグアとのこの戦いは、エミタの意思で行われたのではないかと疑っていた彼は、その返答をみて唇をゆがめた。
「戦う術を得たことは感謝しています。だけど最後まで、貴方の思い通りにはなりませんよ?」
『我スッチーは、自身の目標が達成される事を望んではいる。しかし、時は有限であり、個体が維持できぬ状況になれば半ばでの消滅も止むを得ない』
 彼の最後の言葉を質問と解釈する辺りが、スチムソンのコミュニケーション能力の現在のレベルなのだろう。

「単刀直入にお聞きします。バグアとの戦いの後も、私達は‥‥エミタと仲良くする事が出来ますか?」
 不安の残る椎野 ひかり(gb2026)に、返答は少しの間を置いて表示された。
『将来の事は不確定であるが、我スッチーが存在を失えば、このような形での交渉の機会は喪失するであろう』

●過去と今のスチムソン
「でも‥‥スチムソン博士じゃないなら、一体何故手を貸してくれたのですか?」
 考え込みながら、煌月・光燐(gb3936)は問う。彼の聞いたところでは、「スチムソン」は敵の一部と接触し、得た情報を軍の上層部へ送っていた筈だ、と。
『我スッチーはバグアと名乗る存在との接触は行っていない。彼らの通信を聞き、知った事を送った事はある。ただし、相手はジョン・ブレストである。我スッチーの記憶が正しければ、彼は軍の人間ではない。そして、何故手を貸したかと問われれば』
 ここで、回答は途切れた。光燐が待った時間はせいぜいが1分程であろうが、随分長く感じる。そして、
『それはおそらく、我に内在するトマス・スチムソンの記憶によるものである』

エミタ・スチムソン博士はバグアにその存在を奪われたという。
能力者のエミタにメンテナンスの手間がかかるのは、同様の状態が発生してしまう事故を防ぐ為である。
メンテナンスが出来ずに死亡するリスクを、存在を奪われるリスクが上回っているとスッチーは主張した。
少なくともスッチーの判断基準では、それは単なる死よりも悪しきものであるようだ。
「今のあなたに家族や友人等の概念、感情はあり、理解できるものなのですか? たとえばエミタさん‥‥」
「今の彼女は、生死何れなのでしょう? 貴方の中にある博士の記憶のエミタ・スチムソンへの思いを、伺いたく思います」
 ヨダカ(gc2990)の質問を引き取るように、終夜・無月(ga3084)が言葉を続けた。もし現在の「スッチー」に彼女の事が判らないなら読んで貰おう、とリズィー・ヴェクサー(gc6599)が持参の資料を示すが、その必要は無かったようだ。
『概念は把握するが、理解は出来ない。エミタ・スチムソンは死ではなく、更に悪い。その構成そのものがこの時空より消えている。娘への思考はトマス・スチムソンの精神の多くを占めていたと理解している』
「博士は自分が人間である事を否定したけど、どう違うの?」
 かくり、と首をかしげた過月 夕菜(gc1671)に、スチムソンの返答は簡潔だった。
『それを探している。それを理解できた時、我スッチーはトマス・スチムソンを再構成する事が出来るか、あるいはそれができない事を理解するであろう』

「アンタは失踪してから、このエミタと能力者について何を知った?」
 答えてもらおう、とドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)が、キーを叩いた。
『我スッチーのエミタや能力者への知識は、ジョン・ブレストの元を去った日から概ね変化してはいない』
「じゃあどうして、私共の前から姿を消したのですか? 今まで、何をしていたのか、そしてこれからは」
 草薙・樹(gb7312)が、立て続けに言葉を打ち込んでいく。
『我スッチーは家族や友人の概念が理解できればトマス・スチムソンを再構成できると考え、人間の観察を続けていた。これからも草薙・樹らを観察しようと思う』

「その間、誰か一緒に暮らすような人はいたのですか? どんな事を感じていたのですか?」
 ノルディア・ヒンメル(gb4110)の語調は、少し細い。
『人は稀に訪れたが、会話を行う事はできなかった。多少、物足りないと感じていた際には遠出をする事があった』
 寂しくは無かったのか、と問われれば、スチムソンはそれを否定はしなかった。
『我スッチーはこうして会話を行う事に不慣れであり、人と共に在る事は刺激と共に苦痛をも産む。この会話の後、我スッチーは長く休息を必要とするだろう』
 少しの間があり、続いて別の質問者が席に着く。予定されていた時間は、既に超過していた。

「エミタが戦いの道具になっていることを、どう思いますか」
 ブリュンヒルデ(gb9418)の質問は直截で、返答にはまた少しの間が空く。
『自身の感想という意であれば、戦いに使われている事実を知るのみである。トマス・スチムソンであればもう少し複雑な回答が為しえたやもしれない』

 隣のブースには、ひときわ長身の男が座った。キーに不慣れなのか、入力速度もたどたどしい。
「私ハ‥‥コノ力、に、感謝シテ、イマス。何かヲ、為す、力ヲ、手に、デキマシタ‥‥貴方ニ、感謝ヲ。‥‥ソシテ、質問、デス‥‥。‥‥貴方、ニ、トッテ、能力者、ハ‥‥ドウイウ、位置づけ、デス、カ‥‥?」
 ムーグ・リード(gc0402)の疑問は、他にも同様に思う物がいた。
「我々傭兵は「今のスチムソン博士」から見て、何に見え、感じるのか」
 どんな些細な事でもいい、と付け加えて、時神 勇輝(gb1345)は返答を待つ。
「実際にこうしてたくさんの能力者と会話してみて、能力者に対して「興味」以外の何かを感じたりはしたのかな‥‥なんて」
「もちろん、このイベントでまた変わるかもですが、とりあえず今までの様子から判断した評価を」
 期待を込めた那月 ケイ(gc4469)の言葉に、鷹代 アヤ(gb3437)も頷く。
『能力者は我スッチーの目的にとって必要な観察対象である。それ以外の人間よりも、エミタとのやり取りを介するだけ把握しやすい。また、観察に際して「興味」以外に我スッチーが感じる物は、トマス・スチムソンという個体を今のような状態とした事への「悔恨」と斯く在るが自然な状態で活動する者への「羨望」であろうと判断する』
 ふむふむ、と頷きつつ席は再び交換される。

「君、いや君達は人類とバグアどちらが生き残るべきだと思うかね? そしてどちらに生き残って欲しいかね?」
 わざわざ言い直した天野 天魔(gc4365)の意図は、相手に伝わったようだ。
『どちらが生き残るべきか判断する術も立場も我スッチーには無い。同様に『向こう側』の存在もこの世界の行為主体ではなく、判断も行う必要が無い。我スッチーの希望であれば天野 天魔ら人類の生残を希望する。トマス・スチムソンを再構成して後、彼が在るべき世界が存在しない事は‥‥』
 少しの間があいてから、モニターは文字を表示する。
『現在の思考形態が悲しい、という状況であろうと判断する』

「エミタさん、貴方と博士の出会いはどのような感じだったのですかぁ?」
 少し柔らかく、夜明・暁(ga9047)が問いかけた。
『トマス・スチムソンはバグアの戦闘円盤の分析中に金属としてのエミタに気づいた。一定の刺激を与えた場合に入力よりも大な出力を返す事から、トマス・スチムソンはエミタの『向こう側』に力のみならず思考も存在すると仮説し、そのコンタクトを行おうとした』
 出会い、というよりは経緯のような返答が返ってくる。

 ついで、ブラッド+(gb8993)がキーボードに向かった。
「エミタは人類が作り上げたものか。それとも別の何かからもたらされたものか。作ったのは博士であっても、その作る知識は別の何かからもたらされたものか?」
『それは余りに隔絶しているが故に理解及ばず、『向こう側』は誤ってトマス・スチムソンの存在情報を回収してしまった。誤りに気づいた『向こう側』が送り返した不完全な一部が我スッチーであり、我が最初に行った事は、再び過ちが起きぬよう、その『エミタ』を作る事であった』
 もしもそれをしなければ、スチムソンの共同研究者であるブレスト博士もいずれスチムソンと同じ思考に行き着き、第二、第三の実験が行われるであろうと予測したゆえだという。

「‥‥貴公は『能力者』に何を求めているのですか?」
 神棟星嵐(gc1022)は問う。今の話が本当ならば、エミタやAIを考え付いたのはスチムソンだが、完成させたのはエミタの‥‥『向こう側』から送り込まれた存在の意思であろう、と。
「俺達が能力者として『覚醒』して戦えている事。これはお前たち、エミタの意志でもある、のか?」
 あまり結果については考えないまま、黒川丈一朗(ga0776)も問いを続けた。
『エミタは神棟星嵐や黒川へ力を貸すことを選択している。それが意志という言葉で表記される物ならば、諾である』

人は常に変化する存在であり、また状況によってペルソナを変える。
エミタや覚醒もまた、その他の多くの環境や状況と等価値なのであろう。
その意味において人はエミタによって変化もするが、直接的な干渉という意味ではエミタは肉体や精神を乗っ取る、操ることに執着はないようだ。
「もしエミタに意思が無いのなら、『覚醒』とは何なのか〜。エミタの意思と能力者の意識の統合によるものでは無いのかね〜」
 口から魂を吐きつつも、ドクター・ウェスト(ga0241)はキーボードを叩く。
「覚醒すると色々変わるだろ? ああいうのの中でだ、性格がガラッと変わっちまう奴がある。そういうのは今のあんた‥‥いや、失礼。博士みたいに『エミタ』に何らかの精神干渉を受けてるってぇのかい?」
 より端的に質問を行った長谷川京一(gb5804)。すぐに返答は表示される。
『エミタに意思は存在しないが、現象面ではドクター・ウェストや長谷川京一らの意識が影響を受けている可能性は否定しない』
 そうであるとしても、覚醒による変化は能力者自身の内在する物であると、スチムソンは繰り返した。そして、今ここにいるスチムソンもまた、トマス・スチムソンの残骸から構成されたものであると。

「‥‥一言で言えるかー」
 一連の流れを目で追いながら、多数の質問を抱えてどれを聞くか悩んでいた瓜生 巴(ga5119)がため息をつく。ただ、聞きたかった事の多くは、他の者の質問に含まれていた。スチムソンがどういう存在であるのか、少ないながらも回答を得たエレナ・イグレシア(gc3252)は、その次を尋ねる。
「何故、私達人間の側でこうして協力して頂けているのか」
『我スッチーが人類に力を貸しているのは、先の目的に対する観察以外、人の言葉で言えば贖罪故である』
 帰った回答は、そのようなものだった。事故で、トマス・スチムソンを消失させた事は彼にとって大きいらしい。それは単なる死ではないのだ、と。
「人類に力を与えて何かをさせようとしてるのかと思えば、贖罪とはな‥‥?」
 信じられない、とばかりに言うロジャー・藤原(ga8212)。裏の理由があるだろうと踏んでいたのだが、どうやらその返事は得られそうに無い。その隣のブースに座ったのは、エル3(ga1876)だった。少し考えてから、キーをたたき出す。
「エル、今は傭兵業を優先中で学校行ってないデスけど戦争が終って平和になったら学校行きたいと思ってるデス。受験に備えて勉強してますけど算数難しいデス。この問題デスけど『55×81÷11』教えて欲しデス」
『405である』
「あ、まだ話は途中デス。博士は戦争が終わって平和になったら何かやりたい事や夢、ありますデスか?」
 更にとなりで、夢守 ルキア(gb9436)も同様の事を尋ねる。
「きみは、エミタ。何がやりたいの? きみの、やりたいコト。‥‥私は、セカイを見たい、どうセカイが変わるのか」
「優先順位は色々あるんだろうが‥‥。ああ、まあ。「いえる範囲」でよいからねぃ!」
 この対話自体が愉快そうな表情でゼンラー(gb8572)がそう付け足した。それには悩む時間を要しなかったのか、回答は素早く戻る。
『我スッチーの目的は、トマス・スチムソンの再構成である。それを完了させた時には‥‥』
「また何処かに行ってしまわないで下さい」
 不安になったのか、銀・鏡夜(gb9573)が言葉を挟んだ。モニターを眺めていた永久月 那流(ga6959)が、不意に席へと歩み寄る。
「一緒に生きてみないか?」
 入力したのは、そのようなものだった。
「人か人でないかは関係ない。君が、いや君達が人として生きてみるのも面白いと思わないか? 一緒に何かをやってみないか?急いては事を仕損じる、寄り道も悪くない」
『我スッチーは、人として生きる事を望まない。それはこの時空に固定される事である。汝永久月 那流らにとって、それがあるべき姿で在るように、我スッチーの本来あるべき姿はここにはない。我スッチーがここに存在するのは、トマス・スチムソンを再構成するという目的の為、そして彼への贖罪の為である』

●対話の終わり、そして日常へ
 こうして、質疑は終わった。退屈だったのかスヤスヤと眠りについていたスノーベリー(gc0581)を突っついて起こしつつ、へいぜる(gb8719)が考え込む。
「博士の知識範囲では答えられない。ってことは、彼自身は知っているっていうことですよね。彼はどれだけのことを知っているのでしょうか」
 スチムソンの返答からすると、知識として持っていても語る術が無い、という事なのかもしれない。AU−KVの事例のように、単に知らないという事もあるようだ。
「あのねあのね、しつもーん! マウルちゃんはどんな男の子が好きなの〜?」
 ミッシング・ゼロ(ga8342)の何気ない一言で、彼女の周囲の空気がにわかに静まった。いや、単に狙ってマウルの近くで仕事をしていたのがそういう連中なだけなのだが。如月(ga4636)、鳳 勇(gc4096)、そして秋月 愁矢(gc1971)の3人が一心に耳をそばだてる。
(あ、いい匂いだな)
 愁矢だけは微妙に邪念が混ざっていた。
「そうね。頼りになる優しくて真面目な人、かな。そもそもそんな時間の余裕がないのよね」
 あっさりと返されるテンプレ回答に、めげる様な弱者はここにはいない。むしろ、そんな話題が出た今が機会、とばかりに、
「少佐〜、いつでもいいんで予定空いてませんかね? 飲みに行きましょうよ〜」
 如月が振り返って笑顔を向けると、その間にずいっと勇が割り込み、咳払いを一つ。
「この前の祝勝会は楽しんで貰えたようでよかった。その、時間があれば今度、食事でもどうだ?」
 正攻法の2人の言葉を耳に、香りに魂を奪われかけていた愁矢がはっと我に返って、
「マウルさん貴方の事がすき‥‥焼きとか好きですか?」
 色々と、ダメだった。

「まあ、皆ですき焼きとかもいいけど。そのうちね。仕事が片付いたら、遊びのお誘いも歓迎するわよ」
 フフ、と笑うマウルに、男3人のテンションが上がる。だが、現実は無常だ。
「これまでにそう答えた相手は147人いるの。でも、仕事を片付けるのが下手すぎて実行できた試しが無いの」
「う、うるさいわね」
 留美の指摘に、マウルが横を向いた。表情を変えぬまま追撃を掛けようとした留美の袖を、横合いからくいくい、と誰かが引く。
「お暇があったら、今度一緒に遊びませんか? 私、甘い物作るの得意なんです」
 お茶やお菓子を配り終えた眠華(gc4740)だ。それに、物陰からちらちら留美を見ていた終夜・朔(ga9003)も、
「朔、お姉ちゃんにずっと会いたかったの♪」
 恥ずかしそうにしながら、とことこと寄ってくる。
「‥‥残念だけど、留美には私用の外出は許可されていないの。残念だけど、しょうがないの」
 一拍の間を置いてから、留美は淡々と言う。二度同じ事を口にした辺りに、マウルは少し微笑した。
「ラストホープ内での買出し位なら、今度お願いするわ。仕事がぜんぶ片付いたら、ね」
「148人目の待機組なの。全然、期待はしないでのんびり待ってる事にするの」
 全然、にいつもより力が篭っていた気がするのは、気のせいではあるまい。と、その前に手書きのノートが差し出された。
「人間の身体に関する要点を纏めておいた」
 レンツォの言葉に首を傾げていた彼女だったが。
「ん、ありがとなの」
 頷いて、受取る。分析・整理というもう一つの仕事は、傭兵たちの質疑が終わってからが本番だ。とはいえ二年前の留美であれば、データは自分で整理するので不要、とつき返していたやもしれない。そのような事後分析の大切さを、ミク・ノイズ(gb1955)も考えていたようだ。
「はっきり言おう。『わからない』事の方が重要なもんさね」
 質問を終えた傭兵達の、回答されなかった疑問をまとめて、理由を推測したり補足しつつ纏めている。
「ふむふむ。なるほどー」
 回答内容や、それまでに要した時間などを記した自身のメモを片手に、Observer(gb5401)もなにやら考え込んでいた。留美も、自身の『電子の要塞』じみた装置群の中から聞こえる鼻歌からすれば、作業をさっさと開始しているようだ。この様子であれば、報告書が提出されるのはそう先のことではないだろう。


能力者について  バグアについて

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