Interview with Stimson
" target="mypage">mypage
" target="mypage">" width="130" height="180" border="0" id="side_waku08_r2_c2" name="side_waku08_r2_c2"/>
help
logoff
能力者について  
バグアについて  
エミタ金属について  
  
本部に戻る  
Interview with Stimson

白瀬留美

イラストレーター :ゆらり 

スチムソン博士と能力者の交流に関しての報告なの。
とっても長くなったから、3ページに分けられているの。

このページで取り扱うのは、主にエミタのことと人間との関係についてなの。
●質疑開始、と命名
●エミタの調整と能力者適性について
●彼の知識は更なる力となるか?
●人間と能力者とエミタ

2.バグアについて  3.エミタについて

●質疑開始、と命名
スチムソン博士と能力者の対話は端末を介して行われた。
200人を超える参加者が集り、関心の高さが伺われた。
 事前に聞いた話では厳重な警戒態勢との事だったが、傭兵たちが実際に訪れた場所は、かなり大きめの普通の会議室だった。
「入力用の端末は、別室になるわ。質問内容と回答はここでもモニターされるから、そのつもりで。自分の物と似たような質問が先に出ていないかは、あんた達も確認しておいて。あと、喫煙禁止」
 案内役のマウル・ロベル少佐が告げた最後の言葉に、傭兵たちの一部からため息が漏れる。この場に集まった人数は206名。実際に質問を行うのは170人程だが、その待ち時間の間の禁煙が辛い者も、いないではない。
「データの転送は準備できたの。後ろの人が見にくいかもだけど、諦めてもらうしかないの」
 などと白瀬留美少尉が言う。
「‥‥そう。まあ、無い物はしょうがないわよね」
 予想以上に混雑しそうなので、マウルは急遽待合室にモニターを置く事にしたのだが、その辺りの設置指示は留美が出している。
「興味深いデータが真っ先に閲覧できる、研究者としても医者としても有意義だ」
 そう独り言を漏らすレンツォ・カヴァリエリ(gb7323)のような者が多ければ、かなりごった返す事が予想された。
「宜しければ、内容を読み上げますが‥‥?」
 様子を伺っていたα(ga8545)が、そう申し出る。元オペレーターだったという彼女は、そのような仕事にはうってつけだった。
「質問の傾向が似とう人らをまとめといて、順番の整理しとくとええんやないやろか」
 『最後尾』の看板を担いだ逆代楓(gb5803)は、イベント慣れしているのか、それ以外にもトイレの場所なども待合の面々に掲示している。マウルと留美だけでは、なかなかこうまで手際よくはいかなかっただろう。
「ありがとう、助かるわ」
 感謝の笑顔を見せるマウルに、他に何か必要なものが無いかと問うラクティア(gc0451)。彼女を初め、聴講生部隊『竜友』の面々は、この企画に大勢参加していた。コティニフォリア(gc0452)とミルシニテス(gc0418)は、誰か仲間が粗相をしないかそわそわしている。
「ねーねー何してんのー?」
 単に人が多いからついてきたのか、事態を把握していない常木 明(gc6409)。
「にゃにゃにゃ! にゃにゃにゃん、にゃにゃにゃー!」
 にゃんこ(ga5312)は忙しいマウルらに代わって説明を買って出た、ようだがそれで何かが伝わったかどうかは不明だ。

「っていうか、マウルさんってコスプレ好きだよね〜。今ここで着替えたら盛り上がると思うんだけど〜」
「え? そ、そんな事な‥‥っていうか、そんな盛り上げはいらないから!」
 ニコニコしながら、矢神小雪(gb3650)が掛けて来た声に、首を振るマウル。援軍を求めて周囲を見回した小雪の視界に、夜十字・信人(ga8235)の姿が入った。が、普段なら一緒に悪乗りをしそうな彼がいつに無く真面目な顔をしているのを見て、黙る。
「この場で聞く質問でも、無いとは思いますが‥‥。現状で傭兵からUPCの正規兵となる可能性は、どれ程ありますか?」
 真剣な表情は、信人なりに部隊の仲間の事や戦後、自分や大事な人との生活の事まで考えての事だった。
「‥‥そうね。今は衣食住の保証があっても、これからどうなるか判らないのは‥‥か」
 今ここで、一介の少佐に過ぎないマウルに返事を迫るという物ではない。ただ、軍へ要望を伝えておきたかったとだけ告げて、信人は仕事に戻っていった。その背を、カルミア(gc0278)が視線で追う。
「有力小隊【アクティブ・ガンナー】の小隊長。不審人物ではないですね」
 彼女は、このイベントに紛れた破壊工作などの危険を警戒して、周囲に目を配っていた。地下にいるらしいスチムソンはともかく、マウルと留美に何かが無いように、と。そうしている間に、今日のメインイベントの幕が上がる。
「最初の質問者、入ります。 ごゆっくり」
「おっと、ご苦労さん!」
 アナ・M・ウィルクス(gc0606)の誘導で空いた席へ向かう参加者に、出入り口で警備に立っていたイアン・レイドロス(gc5177)が片手を挙げた。

スチムソン博士と「スチムソン博士の姿をした存在」。
両者は別の存在であり、故に新たな呼び名を必要とした。
「スッチー」の呼称について感情(主に羞恥)を理由とした判断はされていないようであるが、相手からの親愛に対する認識はあった様子も。
『我ら/私/自分の、名前を問うのか』
「とりあえず、話する前にこれだよな」
 うんうん、と頷く砕牙 九郎(ga7366)の姿が見えているのだろうか、スチムソン博士の姿をした存在は、しばし沈黙した。
「『貴方』が私達の言葉で『個にして全、全にして個』でないならば、お名前を頂きたく」
 ハンナ・ルーベンス(ga5138)の細い指がキーボードを叩いていく。しばしおいて、モニターに文字が並んだ。
『我/自分達/私は、そのとおりの存在ではある。なれど、この個はいまここにあり、故に名前は必要か。なるほど、理解できる』

「‥‥やっぱり、寂しかったのかしら」
 その遣り取りを見ていたマウルが呟く。LHに輸送されてからこれまで、スチムソンが質問への返答には諾否に数式や箇条書きなどの散文的なものを返していたのを知るだけに、驚きが声にこもった。
「スッチー博士と呼んでも良いか?」
 最後まで待とうと思っていたみつき(gb7893)だが、この流れなら今聞くしかない。断られてもそうするけどな、と言う彼女に、モニターの文字が淀みなく答える。
『受領。この場の私/我/自分はこれよりスッチーと呼称する』
「え!? ちょ、いいのか?」
 九郎が勢い良く突っ込んだが、それに返事が戻るより先に、ハンナが微笑しつつキーを押した。エミちゃん、と呼ぼうと思っていたフィー(gb6429)が、少しがっかりした顔をする。
「私の名はハンナ、姓はルーベンスと言います」
 それを見て、九郎らも、自身の名を名乗る。その様子を観察しながら、マウルはこの任務でスチムソン博士‥‥いや、「スッチー」が満足するであろう事を、早くも内心で確信していた。

●エミタの調整と能力者適性について
「自分の番か、宜しく頼む」
 挨拶と共にイヴァン・レオーノフ(gc6358)が切り出したのは、エミタのメンテナンスの事だった。
「現在、一回の出撃で一度が目安とされるエミタの調整作業。この間隔をもっと長くする事は可能なのか?」
 調整を受ける為に戻らなくて済むのならば、より長く戦える、とイヴァンは言う。
「むしろエミタってメンテナンスフリーに出来んのかね? 月一の点検とかめんどいんだよね」
 龍深城・我斬(ga8283)の質問も、同様の物だった。画面はすぐに、返答を映し出す。
『間隔を一定にしているのは、エミタの影響を抑える為だ。エミタとイヴァン・レオーノフや龍深城・我斬が同一化するのは望ましくない』
 そうなる前に人間側の身体が不調を発するようになっている、と文章は続いた。それは人間が持つ防衛反応であるというより、エミタに仕込まれた時限装置であると、スチムソンは語った。エミタに近づきすぎれば、単なる死ではない状況が起きうる。

「良い機会だ‥‥私とて、自分のコレに興味はある。身体に埋め込まれたエミタが、能力者の身体に及ぼす利点とデメリットが知りたい」
 拒絶反応、という言葉に耳をそばだてて、ファティマ・クルスーム(gb8622)が問いかける。
『身体に何がメリットであって何がデメリットであるかの定義が不十分である。基本的にエミタは身体能力の向上と共に行動補助を行う。不利益については、放置した際に不調を引き起こす可能性があげられるだろう』

「能力者は、人間なのか? 世の中、能力者は人間ではない化け物と言う様な人もいる」
 そう問うクラーク・エアハルト(ga4961)の横では、緑川 安則(ga0157)が遺伝子レベルでの変容の有無を尋ねていた。瑞姫・イェーガー(ga9347)や諌山美雲(gb5758)の聞きたいことは、もっと直裁だ。
「能力者の子供達については、何かしら影響有るんですか?」
「エミタ能力は、一世代限定で遺伝するものではないというのが最も有力な説ですが、実際にはどうなのですか?」
 クラークから始まった問いは、2人の入力で途切れる。スチムソンからの回答が表示されるまでに、若干の間が生じた。
『確認したい。エミタを装着している事がその物の本来の形質を変容させていると認識しているならば、それは誤りである。エミタを装着して後の変化は、装着した者が想起できる範囲でのみ変化している。これはその者の表層意識による物とは限らない』

 辰巳 空(ga4698)は、ビーストマンをその他の能力者と区別して聞きなおしたが、相手からの返答は全て同じ、というものであった。
『エミタが効果を及ぼしているのは現在の在り様のみである。身体に変容を引き起こしている場合もその限りではない』
「ビーストマンは人に動物の遺伝子を組みこんでるけど‥‥」
 わんこ(ga5343)が首を傾げるが、それはそもそも誤解であるとスチムソンは言う。スチムソンによれば、外観の変化も身体の強化も、あくまでもエミタの発現の一形態に過ぎないらしい。

能力者の適正とは、身体的、遺伝的な要因によらないという驚愕の事実が発覚。
スッチーの言による『精神の形』という者が具体的に何であるかは不明である。強化人間の事例から洗脳程度で変化はしない?
ビーストマンが当初の想定よりも制御できていない(転職が不能等)ことも、覚醒による変化が「精神の形」に依存することに関係しているようだ。
「適性のある人間は、普通の人間とはどれ位違ってくるのか?」
 身体的、遺伝的な条件が関わってくると考えたLEGNA(gc1842)の予想も外れていた。
『物質的な変化は無い。エミタの力を引き出す事が出来る、精神の形をしている者である。適切な返答とは限らないが』
 隣の席から、デッサ・ヴィクシム(gc6359)がキーを叩く音が響く。
「人工的に適性を作り出すのは可能かな?」
『不明である。人間の精神の構造については、我スッチーも無知ゆえに』
 可愛い子供の為に答えなよ、などと情に訴えつつねばったデッサの元には、質問の仕方を変えても、判らないという回答が増えたのみだった。
 後に座った桐生 御門(gb9491)は、お目にかかれて光栄です、と丁寧に挨拶をしてから質問を入力する。
「能力者はエミタとの適合に適性のある少数の人間の事だが、この幅を広げる事はこれからも不可能なのでしょうか?」
 エミタの側を、適正の低い人間に合わせて変化させるという、いわばデッサとは逆の考えだ。
『エミタは本質的に変化しない。それは不可能である』
「では、あの子達もエミタをつけて能力者になって、一緒に戦うということは出来ないのでしょうか」
 犬やネコをこの場に連れ込む事は出来なかった憐(gb0172)だが、示している『あの子』が何なのかは少しのやり取りで伝える事が出来た。回答はやはり、否定的なものだった。
『それらの個体は、精神的に適合しない。エミタを設置しても何事も起きないか、あるいは生体に害が起きるであろう』

「今は『エミタ』を人に1つだけ移植出来るが、複数移植出来るのか?」
 もしもできるなら、どういう変化があるだろうか、と殺(gc0726)が問いかけたが、はかばかしい返答は得られなかったようだ。
『複数の移植、ないしは設置は可能であるが、恩恵は無いであろう』
「そうか。話が出来ただけでもいい経験が出来たと思う、有難う」
 頷いて礼を言う殺の隣のコンソールでは、黒閃(gc1184)が、エミタの力を一箇所に集める事は出来るのかと聞いていた。
「全身のエミタの力を腕一本に集中させる等、だな」
『誤解を正すならば、エミタの力は全身には存在しない。意志を練る事は可能であり、応じた力を発揮するだろう』
 いわゆるスキルの事を、スチムソンは言っているようだった。

●彼の知識は更なる力となるか?
「最近上級クラスが解禁されましたが、更なる高みは存在するのでしょうか?」
 キャメロ(gc3337)の問いに、同様の質問を考えていた九十九 嵐導(ga0051)が頷く。
「上級職は人類が、博士の不在の間にその知識無しに確立した力。これに博士の力をあわせるならば‥‥」
「能力者の持つ特殊能力の一作戦での装備数の増強、実現に近いと聞いたが?」
 夜狩・夕姫(gb4380)と白皇院・聖(gb2044)も、期待に満ちた視線をそれぞれのモニターへ向けた。
『現状では考えられない。我スッチーはキャメロらを同化する事を望まない。夜狩・夕姫の返答は誤解である。上級職は、夜狩・夕姫らが安定を手にし、強くなったが故にエミタがより力を貸すことを選んだものだ。白皇院・聖の返答については我スッチーの知識には存在しない』
 人類側の研究の、どれが進展しどれが行き詰って廃案になったかなどはこの老人の姿をした存在には届いていないのだろう。

「上級クラス以上の力を得るには、人はどれほど肉体を弄る事が必要なのでしょう。それに人は耐えられますか」
 ぎらついた目で、ラナ・ヴェクサー(gc1748)が投げかけた問いに、返った答えは否定的だった。
『肉体的資質は重要ではない。また、精神的資質もこれ以上の深化は望むべくはない。少なくとも、ラナ・ヴェクサーの存命中に人類がそのような段階に進む事は考えにくい』
「‥‥俺は、闘う力が欲しい。教えてくれ、どうすりゃ強くなれる!?」
『戦う力については、我スッチーの知る分野ではない』
 熱の篭った赤槻 空也(gc2336)の言葉にも、スチムソンは淡々と言葉を返す。
「じゃあさ、スキルの消費練力、もうちょっと少なく出来ないかな?」
 転職に伴って色々大変だ、とM2(ga8024)が尋ねたが、それも難しいという返事だった。
『それは人類側の意識の問題である。多様な専門分野の力を得ても、人類の意識の帯域では、エミタへ適切な指示を切り替える事が難しい故の事と理解している』
 エミタは過去より変化はしておらず、エミタをいかに使いこなせるかを人類が学習してきたのが、この数年の変化なのだろう。
「エミタだけではない。SESも同様でしょうか? 博士はまだ人類には時期尚早と判断して封印してませんか」
「あるいは、エミタやSES以外にバグアに有効な物が、ありはしませんか?」
 ユーフォルビア(gb9529)とイベリス(gc0279)の質問への答えも否。これまでの回答からしても、スチムソンは意図的に物事を隠すという事はしないようだった。だが、質疑に意味が無かったわけではない。
スチムソン博士の知識によりG4弾頭の改良は可能であると言う。
有識者会議では聞かれることのなかったと言う。即物的な質問よりも理論に関する質問が優先されたことが簡単な事実を見落とす落とし穴となったのだろう。

「博士の知識で、G4弾頭の改良は進まないだろうか?」
 河崎・統治(ga0257)の問いかけに、10秒ほどの間があってからスチムソンは返答した。
『諾。河崎・統治の意図する小型化はトマス・スチムソンの知識の及ぶ範囲で行う事が可能である。この対談の後にジョン・ブレストへ資料を送付しておく事とする』
 あっさりとした回答に、マウルは慌てて立ち上がった。
「‥‥有識者の会議では誰も聞いてなかったの!? ちょっと、ブレスト副理事に連絡を‥‥!」
「有識者なんてそんなもんなの」
 壁際の据付電話へ向かったマウルを見送りつつ、留美は記録を続けている。一方、G4の質疑結果を受けてか、話の流れは兵器についての物へシフトしたようだ。

「ボク達ドラグーンが使用しているAUKVを進化させる為には何が必要でしょうかー?」
 例えば、宇宙での活動を想定したり、と功刀 元(gc2818)が問えば、鏡音・月海(gb3956)は水陸両用のAU−KVの開発の可否についてを尋ねる。
『その装置については我スッチーは把握していない。トマス・スチムソンの系譜の物では無いと推測する』
 ドラグーンとAU−KVについての主管は、やはり『天才』の一人であるジュリア・ラナンが手がけている。スチムソン博士にとっては自身の分野の延長ではあるが未知だったのだろう。ならば、と別の切り口から質問が続く。

「大気中でも水中でも動作可能なSES、つまり「水陸両用型SES」は作れないのか?」
 分けるのは非効率的だ、と凶羽・月姫(ga4717)が質問を行った。その文面を見てから、エルファブラ・A・A(gb3451)が続けて入力する。
「大気‥‥と、いうか水素の希薄な状態でも現在の通常時並にSESを稼働させる事、もしくは普段から現行よりSESのパワーを向上させる事、つまりSESの性能向上は将来的に可能だろうか?」
『水素供給と排気を安定的に行う装置があれば可能である。SES自体は、真空中であろうとも供給があれば稼動する。出力については、SESの物は難しい。動力伝達で最適化を進める事が必要と考える』

「ずばりぢゃが! ‥‥KVの技術とバグアの技術はまるで別物かね? それともどこか交わる部分があるのぢゃろうか?」
 急に色々進むので、理解するのが大変だ、と飄々と言うDr.Q(ga4475)。
『我スッチーの把握する限りでは別の系統である』
「拙者が不思議と思うのに。なぜKVの行動値の上限の制限値がKVの行動量なのでござろうか? 拙者、この身体で機体を動かしてるつもりだが、重体になってもKVに乗ればそれほど困らんのが不思議でござる」
 首を傾げる雲空獣兵衛(gb4393)だが、スチムソンに言わせれば不思議ではない、らしい。
『動作の制限となるのはKVという機械の限界である。また、KVへの情報伝達・受理の多くは雲空獣兵衛の意志を受けたエミタが代行している』

「じゃあじゃあ、SESの遠隔起動・操作ってできそう? えへへ、KVの追加兵装みたいな感じで武装支援ユニットとか作れないかなって思って」
 続いて、ハシェル・セラフィス(gb9486)が可愛らしく問いかける。
『SESを遠隔で起動する事は可能である。兵器としての調節を伴わない発電施設などに存在する。武装として、フォースフィールドへの対抗能力についてはエミタの直接操作が現状では不可欠である』

「人間が「エミタ」と呼ぶ金属を埋め込む以外に人間にエネルギー発生装置を埋め込む方法はないか?」
 メモを卓上において、館山 西土朗(gb8573)が打ち込んだが、返答には数秒の間を必要とした。
『質問の意図が不明瞭である。エミタは厳密にはエネルギー触媒であり、発生装置ではない。また、医療目的などで何らかの装置を体内に埋め込むという外科手術は、現在の人類の技術レベルで可能と認識している。人類が、エミタ以外に同様の装置をいつか開発したならば、その件は可能になると考えられる』
「生身の能力者が空を飛ぶ事はいつか実現できそう? 個人的な興味もあるけど、可能なら色々と便利そうだし」
 実現したらいいなぁ、と普段より少しだけ柔らかい雰囲気で、ルナフィリア・天剣(ga8313)が問う。再び、返答までのタイムラグが数秒あった。
『飛行能力を得る程までにエミタに近づく事は推奨できない。故にそれは可能とはならないだろう』

●人間と能力者とエミタ
「では‥‥。現在、外科手術等でエミタを除去した能力者が若干ながら存在します。その場合、彼らの身体を普通の人間へ戻せるのでしょうか?」
 頬をかすかに染めつつ、アーシュ・オブライエン(gb5460)が尋ねた。それへの返答については、スチムソンはやや考えたようだが。
『普通の人間の定義が不明瞭。我らとの同一化は起きないであろう』
「能力者から人間に戻ることは可能ですか。またはその技術の有無は」
 はっきり知りたい、と言うシャロン・エイヴァリー(ga1843)の元には、はっきりした返答が戻った。
『諾。エミタを除去すれば、基本的には元の状態に戻る』
「これの安全な摘出方法ってあるのでしょうか? 戦いが終わった後には持て余してしまいますし」
 具体例に踏み込んだステラ・C(gc5020)にも、同様だ。
『取り外す行為は人類の外科手術の技術で可能と判断する。ただし手順を踏まずに切り離す場合の安全は保証できない』

「もし、バグアを撤退させた後、能力者は人類社会においてのような位置づけになると思いますか。能力者と非能力者の軋轢は出たりするのでしょうか」
 小首を傾げつつも真剣な表情で入力するリティシア(gb8630)だったが、
『不明である。我、スッチーの人類社会の知識は極めて乏しい』
 画面に表示された単語は、余り役に立つものではなかった。
「ま、何にしろ引退した能力者がどうなるか、はアンタに聞くまでも無い。俺たち次第って事か」
 腕組みしつつ、天原大地(gb5927)が呟く。

「人は、バグアに追いつき追い越すまで、技術的な意味で進歩できると思いますか? そして‥‥人類は勝てますか、バグアに」
「実際問題人類がバグアに勝利できるできる可能性はどれくらいあるのか?」
「諦めるつもりはあらしませんけど、少し聞いてみたいと思いましてな」
 ずばり、と尋ねたNike(gb9556)と天宮(gb4665)、十六夜・朔夜(gb4474)への、スチムソンの返答は淀みない。
『技術で追いつく事については困難であろう。後者については何を勝利の基準とするかが不明瞭である。だが、彼らと伍する為の力は与えよう』

「‥‥能力者は進化途上の生物兵器だろうか」
 いずれ宇宙へ出、将来にわたっても戦い続ける未来を想像した佐賀繁紀(gc0126)の問いだ。その答えは、否。
『スチムソンの知識にある進化という単語は能力者を定義しない』
「能力者は進化を先取りした物、ではなかったのか‥‥」
 自分の知りたかった一つの回答を得たジュナス・フォリッド(gc5583)は、考え込みつつもう一つの疑問を打ち込む。
「エミタとは生物、もしくはなんらかの意思を持った存在であり、能力者はエミタと共存しているということなのか?」
 また少しの時間があってから、スクリーンに回答が出た。
『エミタは生物ではなく、また人類が想像するような意味では意思も持たない。共存という言葉の意味は満たしている』
「もう少し詳しく聞きたい。『私はエミタだ』という貴方のいう『エミタ』とは鉱物のエミタの事なのか、人体埋め込み型SESの通称の事なのか、それとも人体用SESに付随するAIの事なのか」
 考えつつ、議論を先に進めようと月薙・赫音(ga1628)が問う。スチムソンからの答えは、鉱物のエミタである、というものだった。
「博士、それはつまり、エミタという鉱石には人格と呼ぶべき意識体が存在しているという事ではないのですか?」
 氷室 昴(gb6282)の疑念に対する回答にはまた、少しのタイムラグが生じた。
『エミタには意思はない。が、我スッチーは意思、あるいは意識と呼ぶべきものを保持している可能性がある』

人語を解すると言われながら、自ら語ることのなかったエミタ。
KVやジーザリオの操作を的確にサポートするほどに、能力者の意思を受け取ることができる一方で、自ら語ることのなかったのは「意思」を持たない存在であったが為なのだろう。
 ざわざわと、待合室の方でも空気がどよめく。おそらくは初耳であろうが、マウルも留美も質疑を打ち切ろうとはしなかった。
「あなたがエミタの意思というなら俺たちのエミタにも意思があるんじゃないか? それともあなたが全エミタの同一意思なのか?」
「確かに気になりますわね。知らない間に、思考がエミタに乗っ取られるのは不愉快ですから」
「エミタに意思があろうとなかろうと、それが将来において宿主の意思を侵食する可能性は在り得るか、否か。シンプルな質問だ」
 月影・透夜(ga1806)の言葉へ、メシア・ローザリア(gb6467)とグロウランス(gb6145)が疑念を示しつつも同様の質問を重ねる。一方で、それとは逆の立場、エミタとの意思疎通の可能性を探る声、むしろ望む声すらあった。
「『自分はエミタだ』と言う貴方とこうして対話が可能という事は、私たちのエミタのAIとも何らかのインターフェースを使えば意思疎通は可能なのですか?
 ネヴァン(ga7635)の質問は、その可否を問うもの。それを見た連華(gc4738)が、元気良く自分の質問を入力し始めた。
「私でも、エミタとの対話をもっとしっかり出来るようになれる? もっといっぱいお話しできるならしてみたい♪ 私の事、知らないままで終わるのは嫌だもの。博士もその気持ちわかるよね?」
「確かに。いつか自分のエミタとお話できたりしたら、楽しそうだ! もっと力も引き出せそうだし‥‥何より友達になれちゃったり?!」
 わくわくした様子で、Letia Bar(ga6313)もそれに便乗する。しかし、双方への質問は簡潔であった。

『繰り返すが、エミタに意思は存在しない。我スッチーが意思、あるいは意識を保持しているのは事故によるものである』
「‥‥貴方はココにいますか?」
 おずおずと九条・葎(gb9396)が問いかけた。目の前で回答している存在が、個としてなのか、それとも巨大な何かの一角なのか、区別がつかなくなりそうだ、と。
『我スッチーはこの時空に固定した存在である』
 返事は、きっぱりとした物だった。


次へ

バグアについて  エミタ金属について

BACK TOP