Interview with Stimson
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能力者について  
バグアについて  
エミタ金属について  
  
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Interview with Stimson

白瀬留美

イラストレーター :ゆらり 

スチムソン博士と能力者の交流に関しての報告なの。
とっても長くなったから、3ページに分けられているの。

このページで取り扱うのは、主にバグアや強化人間のことなの。
休憩中の様子も収めているの。
●バグア:1
●バグア:2
●強化人間について
●休憩時間:1
●休憩時間:2

1.能力者について  3.エミタについて

●バグア:1
グリーンランドに出現した『怪物』。
当初はキメラと思われていたが、内部で行っていた破壊活動の形跡と後のバグアの事例から考えると『バグアの限界突破』であった可能性もある。
様々な形質が顕現する点で能力者の覚醒に似ているという意見もあったが、今回の博士との対話によって否定された。
「んー、どっちだろ。やっぱこっちかな? 俺ら能力者の覚醒変化についてなんすけど」
「そうそう。能力者の覚醒で起こる変化って何なの? オーラ纏ったり性格変わったり翼が生えたりマッチョ化したり体重軽くなったり若返ったりするけど、どういう理屈?」
 次に表示された東野 灯吾(ga4411)の質問に、テトラ・ヴォルケン(ga8309)が無邪気に付け足した。灯吾は少し唇をゆがめてから、キーボードへ手を伸ばす。
「最近たまーに思うのが、『バグアが限界突破とかする時、姿変わるのに似てね?』て事なんすよ」
 僅かに周囲が静まった気がした。が、何も変わらぬ様子でモニターは返答を映し出す。
『変化はエミタではなく装着者の意思の中にある一部分をエミタが具体化した物である。バグアの変容はバグア自身が取り込み己の物とした情報を吐き出している物であり、行為主体が情報を保持しているか否かが異なる』

「傭兵のイーリス・立花です。バグアとはそもそも何でしょう? 精神に寄生する、みたいな感じで聞いていますが‥‥」
 名乗ってから、イーリス・立花(gb6709)はそう問いかけた。
「精神寄生体? ――それとも、貴方、「エミタの意思」と呼ばれる貴方と同じものなのですか?」
 壁際からそう尋ねたファサード(gb3864)の声も、留美が拾っている。スチムソンはその問いに簡潔に答えた。
『否。バグアは精神に寄生する存在ではない。我スッチーともそのありようは異なる』
「なんと呼べばよいかと思っていたが、スッチー、でいいようだな。では、スッチー博士。エミタとバグアの技術は対照的‥‥と言えるのだが何か関係があるのか?」
 そして、あなたにとって人類とバグアとはどういうものか、とネジリ(gc3290)は問う。
『エミタとバグアは同質の原理でこの時空に干渉している。我スッチーにとっては人類は助力する相手であり、バグアはその障害と認識している』

「答えて貰えるか‥‥分からないけど‥‥」
 おずおずと、そう切り出した幡多野 克(ga0444)の問いは、バグア発生の起源と歴史を可能な範囲で教えてください、という物だった。スチムソンは少しの沈黙の後で、それに答える。
『原初のバグア星においてエミタの『向こう側』、あるいはバグアの『本体』というべき何かとバグア星の物質の間に接点が生じた。エミタは鉱石で在るが故に存在目的をもたなかったが、接点をもった一部の有機物は原始生物の形状を取っていた。『彼ら』は、人類の遠い始祖と同様に自身の種の保存のために生存闘争を行っており、現在のエミタと同質の力を行使する彼らは勝利したと、推測される』
 あっさりと語られた情報に絶句した克をよそに、スチムソンは続いて歴史について語りだす。
『彼らはやがて星の頂点を極めた。エミタと同様に自身が不変であるが故に、外界の刺激無くして変容が行えない存在であったバグアは、その事に気づき、新たな出会いを求めて星を出る選択を行った物と想像する』
 それは全て推測で在るが、とスチムソンは淡々と語った。

「バグアの背後に更に凶悪な何かいたのですか? それを公表する時期が来た、と」
 目を輝かせてキパリッシアス(gc0479)が言うが、返答は否定的だった。
『否。バグアに接触を持っている、いわば『本体』はエミタの『向こう側』の何か同様に、この世界に完全に無関心である』
 エミタを人類が利用しているのと同様に、バグアも自身に備わっていた能力を用いている。しかし、その力の源には意図が存在しないとスチムソンは語った。それでも疑わしげに、バグアの隠れた目的や、彼らの中の隠れたシナリオ、人類との接触における秘密などに陰謀が在るのではないかと夕景 憧(gc0113)や風間 千草(gc0114)、涼影(gc0277)らが食い下がったが、その返答はいずれも否定的なものだった。
『我スッチーの考えるところ、バグアとはそこまで高等な志向を持たない。彼らの本質は原始生物の時から変容しえない故に』

「バグアにも信じてる神様っているんですか?」
 アイシャ・C(gc5019)の邪気の無い問いかけに、スチムソンは少し間を置いて答える。
『おそらく存在しない。我スッチーが存在している間の彼らの会話に、そのような概念を示唆する物は無かった』

「バグアが何故この地球を攻めてくるのか、来る必要があるのか、ならば共存の方法を模索すらせずになぜ人類を潰す必要があるのか?」
 笑いの要素の無い眼でモニターを睨みながら、エクリプス・アルフ(gc2636)が問う。
『バグアが地球を、並びにその他の星へ侵攻したのは、新たな知識を得る為である。彼らは、自身が変化できない存在で在るが故に、外部からの情報摂取を必要とする。現在の人類への対応は、彼らにとっての共存の概念に極めて近い。我スッチーが分析した限り、バグアは彼らの価値観において、極めて丁重に人類を扱っていると推測される』
「ふむ、彼らにとっての、ですか‥‥」
 パトリック・メルヴィル(gc4974)が考え込んだ。共存の可能性を彼も探ろうとしたが、バグアにとっての共存とは、牧場での牛と人類の関係に近いのだろう。

「初めまして、スチムソン博士‥‥いえ、エミタと言うべきかしら? あるいはスッチー?」
 そう挨拶を打ってから、冴城 アスカ(gb4188)も自身の質問を入力した。
「バグアはヨロシロを必要としない方向に進化する可能性はあるか?」
『否。バグアは発生の瞬間より、人類の理解する生物学的な意味での進化を行っておらず、行う事ができない』

「‥‥人間は‥‥男の人と‥‥女の人が‥‥ええっと‥‥あの‥‥そのっ‥‥ごにょごにょ‥‥して‥‥子供が‥‥できますけど‥‥。バグアは‥‥その‥‥どういうふうに‥‥子孫が増えて‥‥いくのでしょうか? ‥‥人間と‥‥同じ‥‥ではないですよね?」
 赤面しつつ、そんな質問を投げかけたユナユナ(ga8508)。スチムソンはその質問に即答した。
『バグアは分裂によって個体数を増やしている。人類と同種の生殖概念は存在しない』

「ふん、何の為に、は判ったが、あいつらはどこから来た? そして奴らの破壊が人類になにをもたらしたって言うんだ?」
 憎憎しげに、仁志(gc5099)が言葉を並べる。
『どこから、という空間的座標は我スッチーは確認する術を持たない。バグアの破壊が人類にもたらした物の分析は当事者である人類が把握している物と考える』

「この争いと憎しみの連鎖は‥‥もう止められないんですか?」
 綾河 零音(gb9784)が悲しげに続けた。
『その問題への回答を、我スッチーは持っていない。トマス・スチムソンの記憶は告げる。『未来は不確定であり、それこそが希望である』と』

●バグア:2
「‥‥さて。これについては把握できるかね?」
 端末の一つへ、地球・太陽系・銀河系などの天体MAP表示し、UNKNOWN(ga4276)が問う。エミタがその認識や情報を得ているか、を確認しようと言う意図だったが。
『トマス・スチムソンの知識によれば地球、太陽系、銀河系と称される物の想定図と考える。我スッチーはその全てを網羅してはいない』
「ふむ、では別の質問をしよう。バグアは『重力子』を操作できるのかな?」
『空間の歪みを認識、操作する事は、バグア自身、そしてエミタ鉱石が所持する作用である。それが『重力子』として人類に認識されているかどうかは不明である』

一際異彩を放った異性人型バグア「ハルペリュン」。
宇宙には様々な異星人がいることが判明したが、バグアに襲われた彼らの安否は不明である。
少なくともバグアと同じ方法で恒星間航行が可能な存在はいないといい、エミタにもその記憶、知識はないようだ。
我々はバグアのヨリシロでない彼らといつか出会う日がくるのだろうか?
 何やら話が難しくなりそうになったところで、まだ銀河系を映していた画面を、ミヅキ・ミナセ(ga8502)が覗き込んだ。
「あ、ゲソ型宇宙人って存在するの? 宇宙人がだめなら宇宙ゲソでも良いけど居る?」
『不明である』
 にべもない返答に、残念半分、いつか出会うという決意半分で、そうかー、と答えてミヅキが去り。
「バグアに相当する他の異星人は存在するのか?」
 という獅子河馬(gb5095)への返答は、微妙な物だった。
『バグアと同じ方法で宇宙を渡る術を持つ生物はおそらくはこの時空に存在しない』

「バグアの設備にある、各種の制御装置や端末などを、我々人類が多少なりとも制御する方法は無いか?」
 もう少し、身近な話をということか、ドニー・レイド(gb4089)は質問の方向を変える。
「一年ほど前、慣性制御装置を奪う作戦があった。その時にバグアの兵器を操縦しようと試みた者もいたが、一人として成功せなんだ。人類がバグアのワームを動かすことはそもそも可能なのかの?」
 ブラドダーム博士(gc0563)も、イッヒッヒ、などと笑いながらそう付け足した。
『不可能である。人類の言葉で説明困難なある身体能力が、操作に必要とされている。その発現のひとつはフォースフィールドと呼ばれる物であり、因果は逆で在るが、フォースフィールドを発生させる生物であれば動かす事が可能であると近似する事が出来る。無論、バグアが自分達以外に操作させる為に作成した機械であれば、そういった問題は発生しないだろう』

 残念半分、予想済み半分、といった様子で席を立った二人のあとに、
「これまで、シェイド、ステアーと驚異的な技術の固まりを投入してきたが、まだ、隠し玉みたいな高性能機とか持っていたりするのだろうか? それがわかると戦略的に結構有利なのだが」
 リチャード・ガーランド(ga1631)がそう問う。
『我スッチーの知る範囲では、彼らがユダと称している存在がある』

「あの赤い月が、単純に彼らの本拠‥‥、でいいのか、そしてあれを撃破すればこの戦いは終わるのかな?」
 守るだけではなく、攻める事も考えたい、という新条 拓那(ga1294)の希望に、回答はやや間を置いて示された。
『最大の拠点という意味では本拠である。もしもそれを人類が破壊する事があれば、彼らは滅亡という言葉を認識するだろう。それが戦いの終焉を意味するかは我スッチーには不明である』

「本星、他星、地球含めて、バグアの中で今現在一番強い個体は誰でしょう? その強さはどのくらい? またバグアで一番のトップ、偉い人は誰でしょう? 教えていただけますでしょうか?」
 矢継ぎ早に打ち込んだ月詠・月夜(gb8625)への返答は、早い。
『不明である。我スッチーが感知できるバグアの会話は、概ね衛星軌道よりも内側に限られる。その範囲で言えばディエア・ブライトンが最も強大であり、地位も高いと推測できる』
「それでは、バグア側の人口、ヨリシロとして憑依できる個体数もわかりませんか」
 スチムソンの回答を見て、ニュクス(gb6067)が苦笑する。それほど便利な物ではないらしい。
「あんたの知っている中で最も強いバグアはそのブライトンか。‥‥せっかくだ、聞かせてもらうぞ、爺さん。他に、どれ位強い敵は残っている? 俺はいつまで殺し合いが出来るんだ?」
 ナスル・アフマド(gc5101)に対しても、スチムソンの回答は淀みなかった。
『能力として強大なバグアという意味では不明である。また、最後の質問に対してはナスル・アフマドの意志と相手の存在が条件として可変である』
 淀みなかったが、質問と回答の順序や、そもそもの意図までは察せ無かったようだ。

「バグアから見て、人類の戦略・戦術のレベルはどの程度と判断されているのでしょう。技術・戦力からいくとかなり劣る人類ですが‥‥」
 流月 翔子(gb8970)が尋ねた内容については、スチムソンはまた少し時間を置いてから回答した。
『ヨリシロとして選ばれた人材に軍人、並びにそれに類する者が多く含まれている事実から考えるに、人類はその分野において非常に優秀であると判断していると推察される』


「彼を知り、己を知れば‥‥とは言うが、俺達は何も知っちゃいねぇ‥‥。バグアは、グローリーグリムとソフィアの例の様に、宿主を変える様な真似をするみてぇだが、あれは生者を乗っ取ってるのか、或いは亡者を操っているのか?」
 バグアについて、直接対峙する相手についてを知りたい、と荊信(gc3542)は言う。モニターには、すぐに回答が表示された。
『そのどちらでもない。バグアはヨリシロと称する存在の構成情報を全て収奪し、自身の一部として再構成している。対象が生存しているかといわれれば否であるが、亡者を操るという表現は正しくは無い』

「俺はバグアが生きたまま寄生した人間は元に戻る方法があるのか、その可能性はあるかが知りたいところだな」
 ならば、とカルマ・シュタット(ga6302)も質問を重ねる。
『存在しないと思われる』

「そうか。‥‥さらに聞かせてもらえればどうして死んだ人間に寄生できるのかも知りたいところだ』

『バグアは基本的にヨリシロの情報を全て収奪する。それは、その人間の発生からの成長過程などの情報も全て含まれる。もしもバグアがその情報を随意に引き出せるのであれば、死亡前の過去の姿を再現する事も可能であろうと推測する』

 どうやって、という事や、何を基準に、などの事はスチムソンにも判ってはいない様だ。
「では、具体的に、ヨリシロとされた人間を生存したまま救出するのは可能ですか。だいたい死亡例しか知りませんが‥‥」
 後に躊躇わないためにも聞いておきたい、というクルト・ファルスト(gb9377)への返答も、やや時間を必要とした。
『不可能であると予測する。もしもその方法と可能性が存在するならば、我スッチーは自身の目的の参考とするためにそれを知りたい』
 ヨリシロという存在、そしてバグア自体についての回答の多くが推測である所からすれば、スチムソンの知識はそこに及んではいないという点は、明らかなようだった。

●強化人間について
強化人間の基礎知識があれば、強化人間の救済が可能になるという。
今現在、それを入手できる可能性が高いのは、チューレにあるらしい強化人間に関する施設である。
救済の引き換えに少量のエミタ金属が使用不能になるという。強化人間を捕虜できることはレアケースであり、エミタの枯渇というような大勢への影響はないと考えられる。
なにより、最初から捕虜にしようなどという甘い戦い方を彼らは許容しないであろう。
「バグアの強化人間に、エミタを埋め込んだ際、命を永らえさせる事は出来るか?」
 月城 紗夜(gb6417)が切り出した問いに、一部の者達の意識が集中した。今回の質疑で、多くの能力者が問おうとしていた内容である。
「強化手術を受けた人間や‥‥凶悪なウィルスにおかされた人間であっても、エミタの力で助けることは可能かな?」
 同様の内容を、柳凪 蓮夢(gb8883)が呟き、
「エミタには練成治療やキュアなど回復力、抵抗力を高める力がある様ですし‥‥」
 結城悠璃(gb6689)が祈るように言葉を返した。返答まではこれまでになく長い時間が掛かった、ように感じた。
『助けるの言葉の定義、並びに対象が広範故に返答が困難である。改変される以前よりエミタを着用していない場合、基本的には不可能な事例と推測する』

「人類側に帰って来てくれた強化人間達を救う手立ては無いのか」
 吐き出すように水無月・氷刃(gb8992)が言い、
「せめて、調整、延命とかはできませんか? 見捨てたくないっていう人に出会ったとき、諦めたくないんです」
 フィン・ファルスト(gc2637)もすがるような気持ちで言葉を打ち込んでいく。
「彼らの中には改心して人類側に付きたいと思う人もいるはずです。だが、現状延命の手段が無いため、それを躊躇する強化人間も多いはず。誰しも進んで殺したいわけではないのです」
 言葉を連ねていく周防 誠(ga7131)も、それを為したい理由を切々と並べていた。風向きが少し変わったのは、次の瞬間。
「では、バグアの強化人間となった者を元に戻す術はあるのだろうか?」
 天空橋 雅(gc0864)の入力に対する返答は、以下の通りであった。
『諾。程度によるが改変を加えられた存在を復元する事は、それが定着する前であれば原理的には可能である』
 ざわ、とどよめく中でも文字は続く。
『ただし、その為のエミタの調整には逆行すべき過程についての基礎知識が必要であり、トマス・スチムソンの知識にそれは存在しない』

「じゃあ、彼らの作られ方と維持方法については‥‥」
 それを問おうとしていた鐘依 透(ga6282)だったが、スチムソンはそれを知ってはいなかった。同様に、「ハーモニウム」についてを問うた月影・白夜(gb1971)への返答も、知らないというものだ。
「強化人間と能力者の能力の源は同じなのですか? それとも、別のモノなんでしょうか‥‥」
 柿原 錬(gb1931)の問いには、否定が返ってくる。
『現象として類似の事例があったとしても、本質的には異なる物である。強化人間は行為の主体が自身であり、それ故にいずれ崩壊が起きる。能力者の力はエミタが発現させる物であり、能力者は指示を出すのみである所が異なっている』
「でも、元には戻す方法は在るんですね? 基礎知識、という物が見つかれば‥‥」
 赤崎羽矢子(gb2140)が噛みしめるように、単語を打っていく。
『諾。ただしそれまでの力の行使が多ければ、改変はその存在に定着し、復元が困難になる。限度を越えれば不可能となる』

「ふむ。チューレに強化人間の体調維持設備や製造設備が在ると、ボリビアで確認された筈ですが」
 そこを得れば、スチムソンが言う「基礎知識」は手に入るだろうか、とアルヴァイム(ga5051)は考える。その分析、解析の協力依頼に対しては、スチムソンは承諾の意を返してきた。しかし。
『伝えておくべきであると判断した。天空橋 雅らの望む行為の為には少量のエミタ鉱石を、一時的に使用不能とする事が必要である。その期間は人類の寿命を遥かに越えるものと想像される』

「じゃあ、この戦争の間にはつかえなくなるって事ね‥‥」
 確認していたマウルがそう言って下唇を噛んだ。留美は記録をとりながら、淡々と囁く。
「能力者が一人つかえなくなるのと、敵を一人助けるの。どちらが優先されるかを判断するだけの簡単なお仕事、なの」
 正確には新たな能力者を一人生み出せなくなる。作動中のエミタを捧げるという意味ではない為、イコールで結んで相殺できるものとはいえず、むしろ一般人としての彼女の心情的なものだろう。
 しん、とした中にその声が消え、空調の音が耳障りに感じられ始めた頃に、仮染 勇輝(gb1239)が席に座った。
「彼らの洗脳を解く方法は、あるのだろうか?」
「バグアが人間に施している洗脳。これは人類の技術で解除可能なものなのですか?」
 沖田 護(gc0208)が更に質問を重ね、洗脳についても気にかけていた羽矢子が、ハッと画面へ目を向ける。しかし、それへの答えは曖昧だった。
『バグアによる洗脳という物の実体を把握できない。確認できる限り多様な物が在るようだが、トマス・スチムソンの分野では無いようだ。人類技術で可能かどうかも、我スッチーには判断できない』


●休憩時間:1
 長く順番待ちをしていると、疲れも溜まるものだ。
「ご質問ばかりでは疲れますわ‥‥お茶をいかがかしら‥‥」
 Innocence(ga8305)の提案で用意されたのは紅茶や珈琲、緑茶にほうじ茶、はたまたハーブティまで。
「流れ作業になりますが‥‥、レーション付随のインスタントを出すよりは良いでしょう」
 などと言いつつ、リズ・レーゲンヴォルフ(gb9576)も淹れるのを手伝っていく。配膳は美環 玲(gb5471)らが買って出ていた。
「疲れている時には、甘いものを摂った方が良いと聞きますわ」
 お茶菓子も一緒に、居並ぶ傭兵やマウル達にまで手渡していく。
「はい、お茶でもどうそっておっとと‥‥」
 躓いて転びかけたアルストロメリア(gc0112)を、誰かが失敗しないか気にかけていたレウコケファラ(gc0513)が危うい所で止めた。同小隊のほぅぷ(gb8877)が、危なかった、といわんばかりに額の汗をぬぐう。疲れが溜まっているのかもしれないと、マウルが腕時計をチラッと見てから考え込んだ。ここまでに過ぎた時間は3時間、意外と長い。
「そうね、ちょっと休憩しましょうか。スチムソン博士も、それで構いませんか?」
『スッチーと呼ばれることを希望する。マウル・ロベルらが休息を取る必要がある事は理解した』

 コンソールに表示されたメッセージに、微妙な顔をするマウル。今後、何かの折に表に出る際にも、例えば記者会見でもこれでおし通すつもりなのだろうか。
「こんな事になった責任はきっと、誰かが取らされると思うの」
 表情も変えずに、少佐の胃に留美が止めを刺した。そんな二人の下へも、お茶が届けられる。
「ありがと。貰っとくわ」
「べ、別に要らないなら良いのよ、ただ余らせると勿体無いのよ」
 頬を染めつつ手渡された夜神・零夢(gc3286)のお茶を、マウルが一口すすって、
「あ、おいしい」
 呟いた声に、零夢の頬がいま少し鮮やかさを増した。
「よーし、聞くなら今しかない!」
 周囲が和やかになる中、椎野 のぞみ(ga8736)はキーボードに向かう。
「こんにちはスチ‥‥スッチー博士! 博士は好きな食べ物はなんですか?」
 αが読み上げた質問に、室内がややどよめいた。同様の質問をしようとしていたが、何を理由に聞こうかと悩んでいた夏 炎西(ga4178)が、ポンと手を打つ。
「元博士のエミタの意思さんは中華好きなの〜? だから中国に居たの〜?」
 辛い四川は苦手だけど、と言うフォア・グラ(gc0718)の声を、留美が拾って入力していく。
『好み‥‥。我の中で優先順位は無い。トマス・スチムソンは‥‥ポップコーンという食物が好きだったようだ』

スチムソン博士の好物はポップコーンであった。
バナナがおやつに入るかは定義による。
「バナナはおやつに入りますか?」
 はいはい、と元気良く尋ねたミリー(gb4427)だったが、返答は『質問の意味不明。オヤツの定義によるものであると考える』だった。ですよねー、と笑う彼女に続いて、ラサ・ジェネシス(gc2273)が立ち上がる。
「我輩にバグアに対抗できる力を与えてくれた事に感謝ダヨ。このおかげでバグアに復讐できル」
 ここからが本題、とばかりに咳払いを一つはさんで。
「‥‥唐突ダケドプリンはお好きですカ。食べると幸せになる食べ物でスよ」
『トマス・スチムソンの知識の中で確認した。我スッチーは摂取経験が無い』

 博士へのプリンの差し入れを要求する、と言うラサに、はいはい、と生返事しつつマウルが何やら指示を出していた。おそらく、今夜辺りにプリンが出るのだろう。
「スチムソン博士は、いまの状態になっても以前と同じようにご飯を食べるのですか‥‥?」
 物凄く根本的な疑問を、エレナ・クルック(ga4247)は少し照れながら言う。以前と何か変わったかどうか、という質問意図らしい。
『摂取の必要は無い。だが、トマス・スチムソンがかつてどうあったかを経験する必要があると我スッチーは考える』
「お酒はいける口かい? 機会があればいっぱい飲みながら話をしてみたいんだけどね〜」
『中国にいた際に試した事は在る。酩酊状態になる事はないと判断した』
 強いって事か、とエドワード・P・C(gb8831)が嬉しそうに頷く。

●休憩時間:2
 待合室は、集まった人数に対しては少し手狭だった。
「さて、少し空気を入れ替えましょうか」
 マウルに了解を取ってから、やや熱気の篭りだした部屋の空調を最大にする美村沙紀(gc0276)。一方、休憩中の忌憚無い雑談はまだ続いていた。
「前から気になっていたんですけど‥‥博士の髭って本物ですか!?」
「博士〜お髭そってみてわ〜。そっちのほうがかっこいいですよ」
 ほとんど同時に、霽月(ga6395)とフルゲンス(gc0417)が口を開き、ん? というように視線を交わす。お髭がおしゃれかどうかはさておき、スチムソンからの回答は『トマス・スチムソンの形状を可能な限り模倣する』という物だった。
「とすると、あのフサフサしている髪も模倣でゲスか。その秘訣、知りたいでゲス!」
 人類誰しも抱える不安を胸に、夏子(gc3500)が声を上げる。が、『言葉で説明が出来ない』という端的な回答に涙する事となった。そういえば、と朧・陽明(gb7292)が首をかしげ。
「御主自身の力はどうなのじゃ? 妾達よりも強いのかの?」
 休憩の間とあって、あれやこれやと聞きたい放題である。それを片っ端から入力していく留美に、区別とか制限という思考は無い様だった。
『我スッチーは戦いの知識を所持しない。トマス・スチムソンも所持していない。それ故に戦闘という分野で朧・陽明よりも強いかと問われれば弱いと判断する』

 戦闘についての過去の事例、エミタやルウェリンといったSES以前のエースについての戦い方を質問した夜月・時雨(gb9515)も、その知識を所持しない、という返答を返された。生前の娘との団欒に、戦技についての会話は含まれていなかったらしい。
「いいでしょう。貴方が人類の敵か見定めさせて頂きます」
 キリッとした表情で、佐渡川 歩(gb4026)が立ち上がり、びしりとスチムソン、はこの場にいないのでキーを叩いている留美に指を突きつける。
「おっぱいとおしりどちら派ですか?」
 カタカタと打ち込んでいた留美の手がぴたりと止まった。
「‥‥セクハラと判断するの」
「え、あ。いやそういうつもりでは」
『我スッチーにとっては質問の意味が不明瞭。しかしトマス・スチムソンの記憶によれば』
セクハラな質問によって会場は一時混乱する結果となった。
画像は某所でFカップ認定された胸。
スッチーは酩酊状態になることもなく、食料の摂取も必要としないという。
肉体もまたスチムソン博士そのものでないということだろう。
「答えなくていいですから、博士も!」
 マウルが慌てて回線を引っこ抜き‥‥、結果として、10分程度のはずだった休憩は、30分ほどに延びることとなった。

 休憩時間が伸びた分、それまで伝令のように走り回っていた火霧里 星威(gc3597)も、空いていた椅子に座って足をブラブラさせている。
「はい、お疲れ様です」
 水羊羹を配っていた紅桜舞(gb8836)が、疲れた少年にも甘味を補給していった。
「ありがと! ‥‥おっきなバケモノ、ハヤくいなくなるといいねっ!」
 ニコッと笑う星威に頷いて、舞はお茶係りの手伝いへ戻る。
「お二人とも‥‥もしスチムソン博士が‥‥バグアに取られてたら‥‥うちらどうなったんでしょうかね‥‥」
 少し落ち着いたと見て、椎野 こだま(gb4181)がそっと呟く。留美はちらっと目を上げたが、
「不確定要素が多いので判らないの。ただ、今より悪くなってたとは思うの」
「確かに、白瀬の言うとおりね。本当に、良くやってくれたと思うわ。あんた達は」
 マウルがそう引き取った。
「一人の人間として、貴女達はスチムソン博士にどんな事を聞きたいのか?」
 手伝いの手を止めて、J・スカーレット(gb4372)がそう尋ねる。軍人としてであれば、勝つ方法を尋ねるのだろうが。
「考えた事、なかったわね」
 うーん、と考え込んだマウルを横目で見て、能力者ではない自分は尋ねる資格が無い、と留美は淡々と言う。
「‥‥でも、もしも尋ねられるなら、無機物なのはどういう気分なのか聞いてみたいとは思うの」
「エミタって喋るんだねー。私のエミタも、ちゃんと意志とか持ってて、喋ってくれるのかなっ?」
 機材設営の時間から留美の手伝いに回っていた橘川 海(gb4179)が、そう言えばというように首を傾げた。
「そうね、そろそろ休憩も十分でしょうし。再開しましょう」
 立ち上がって、マウルがそう声をかける。奇しくも、再開後最初の質問は海の疑問に答えるような物だった。


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能力者について  エミタ金属について

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