入学式狂想曲
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12月18日の報告 12月11日の報告

<報告書は前編:後編から成る>


【 チューレ基地部隊防衛 】

●来る
「スノーストームは戦線から遠ざけ、防衛戦は維持する。苦しい任務だが‥‥」
 再三にわたり繰り返されてきたオペレーターの声が、途切れ途切れに聞こえてくる。いつも通りの忌々しいジャミングが、徐々に徐々に酷くなっていく。長期戦が予想される中、練力の無駄遣いは好ましくない。電子戦機はアンチジャミングのタイミングを計っていた。傭兵の中には、居眠りをして襲来に備える者もいて、刻一刻と近付いてくる開戦の時までを、能力者達は思い思いに過ごしていた。
 軍は傭兵に定期的に哨戒任務の要請を行っていた。このときその担当となったのは、小隊グリフィンだった。隊長のレイアーティ(ga7618)はじっと前方に目を凝らすも、敵影は見あたらない。
「グリフィン1よりグリフィン各機。そろそろ帰投ポイントです。引き返しましょう」
 大きく円を描くように飛行した結果、フュエルゲージが2/3を切ろうとしていた。小隊機の返答を確認してから、グリフィンは機体を翻して防衛ラインへと機首を向けた。
「じき、陽が落ちますね」
 ルーシー・クリムゾン(gb1439)が橙に染まり始めた西日を眺めて言う。有視界戦を強いられる人類にとって夜の戦闘は分が悪い。
「どのみち吹雪で見えないんなら、関係無い気もしますがね」
「北に‥‥影‥‥」
 レイアーティの声に、全員が北を睨む。黒ごまのような小さな影が無数に空に散っていた。
「このタイミングとは‥‥困りましたね」
「こちらグリフィン。敵影を確認しました」
 御崎緋音(ga8646)の言葉に被せるようにレイアーティが管制官に報告。
「全機、全速力で戻りましょう。補給後すぐに戦闘です」

 夕暮れ間近、嫌なタイミングだった。バグアは防衛ラインに突っ込んでくるルートを、平然と突き進んできていた。報告を聞いて、作戦『門』の中心として作業を進める咎人の活動が活発になる。ひたすら塹壕を掘り続け、前回の轍は踏むまいとあちこちに地殻変化計測器を設置。サンドウォームへの備えも万全といった様子だった。
 不安は、再び軍が前進せざるを得ない事態へ陥ることだが、こればかりは神頼みだった。
「いよいよだな。スノーストーム、メイズリフレクターは味方がどうにかしてくれる。他は一匹とて通すな」
 藤村 瑠亥(ga3862)が刻々と迫り来る群れの方を睨んで呟く。
「敵が寄らば斬る。それだけです」
 片桐 綾乃(gb3443)が神妙に返す。
 作戦開始は間近だ。


●開戦
 矢張り今回も、バグアはKVの射程に入らないところで進軍を止めた。まず誰もが気にしたのは、スノーストームの有無だった。
 吹雪の射程が半径20kmとも50kmとも言われるSSが戦域に現れれば、前回と同じく戦局は一瞬で傾く。そのため今回、能力者達は軍勢を二つに割るという作戦を採った。この場で防衛ラインを展開し、ゴッドホープへの侵攻を意地でも阻止する迎撃隊と、吹雪などの兆候が現れたら即座に飛び込み、追い込み猟の要領で防衛ラインからSSを遠ざけるSS対応隊。戦力比は当然ながら迎撃隊に偏っており、SS対応隊の苦戦は必至だった。しかし、迎撃の人員をこれ以上削減するわけにもいかない。この戦力でさえ、恐らく後方の掩護や整備にあたる能力者にまで被害が及ぶと予想されている。
 誰もが機内からじっとバグアの軍勢を見つめている。忌々しいMRは確認できたが、どこにもSSの影は見えない。となると、今回は手を出すわけにはいかなかった。SS対応隊がSSを遠ざけてくれなければまずい。乱戦の最中、不意にSSが飛び込んできては戦線が崩壊することも有り得る。実際に、前回は崩壊寸前までいった。ああなってはいけない。
 戦闘は既にあちこちで始まっている。主に、飛び出してきたワーム、キメラ、ゴーレムを迎え撃つ形で。
「耐える戦、か」
 こらえ性のないゴーレムに向けてトリガーを引きながら、サルファ(ga9419)が言う。
「苦しいですね。長期戦になりそうだ」
 ヨネモトタケシ(gb0843)は苦笑して、サルファが被弾させたゴーレムを撃ち抜く。
 SSを追い払ってからが勝負。それまでは、全軍防御に徹せよとの指令がUPCから出ていた。FRやステアー襲来の危険も無いわけではなかったが、そうなってしまったらそれはそれ。どのみち、SSに対応しないままFRなんてものが来てしまえば、待っているのは地獄なのだから。
「動きが無い‥‥か」
 HW部隊の突進にシーカーをあわせた伊藤 毅(ga2610)が、その遙か向こうに留まるMRを見つめて零す。前回は現れるや戦線を突っ切ろうとしたMRが、今回は大人しくしている。
「昼寝の時間?」
 リリー・W・オオトリ(gb2834)は冗談めかして言う。
「昼寝って時間でもないな‥‥もう陽が沈む」
「嫌な予感がしますね」
 と、秋月 祐介(ga6378)。西で最後の光を輝かせる太陽は、今まさに沈もうとしていた。UPC軍の車両部隊から上空に向けて、照明弾が打ち上げられ、薄暗い空を照らし出す。あわせて、KVをはじめとする各兵器は赤外線カメラを使用し、夜間戦闘に備える。
 バグアが動きを見せたのは、ちょうど陽が落ちた瞬間だった。
「敵に動き有り」
 祐介が報告すると、情報が全軍に伝播していく。
 照明弾の第二射が打ち上げられた。全軍が息を呑む。雪。はらはらと、雪が舞い落ちてくる。平時ならば、誰かが綺麗と言っただろうか。しかしここは戦場だ。おまけに敵は吹雪を操るふざけた新鋭機。となれば、誰もが感じたのは戦慄か、或いは熱く滾る己の血潮だった。
「出やがった、スノーストーム!」
 誰かが叫ぶと、スノーストーム来襲の報は一瞬で戦場を駆け巡る。雪は濃くなり、風が吹き上がる。吹雪が全ての視界を奪わんとしたとき、バグアが動いた。
「スノーストーム、よくも菫を‥‥!」
 如月・由梨(ga1805)は斬り伏せられた妹の痛々しい姿を思い出し、唇を噛み締める。
「全隊‥‥我々は我々の仕事を。行きましょう」
 傭兵達が十人十色の反応を見せる中、月狼総隊長、終夜・無月(ga3084)が告げた。月狼全隊が敵陣へ切り込んでいく。身の軽い隊は、敵陣を避けるようにして戦線を突き抜けていった。

 吹雪はやまない。しかしバグアが突っ込んできた以上、こちらも動くしかなかった。MRが空中展開すべく前進してくるが、それよりも遙かに速く、敵陣に切り込む二つの編隊の姿があった。
「『道』は作ってやるがな‥‥無駄に死ぬんじゃねーぞ!!」
 ミク・ノイズ(gb1955)の声に後押しされるように、ファフニールαチームは全速力で戦線を突き抜けようとしていた。幻霧、及びロックオンキャンセラーを隠れ蓑に、遮る敵のみに弾丸を集中させ、被弾すらお構いなしという無謀な行動。それは、αの後ろにぴたりとついたβの血路を開くためのものだった。その進路上に煙幕を張っての目くらましも、βのため。
 苛烈な攻撃に晒されたミク機が火を噴いて墜ちると、代わりにケイ・メイト(gb4374)が幻霧発生装置を発動。この時点で、αは既に半壊。だが、敵陣へは確かに届いていた。背後から、爆撃態勢に入ったβが迫る。
「これ以上、好き勝手にはやらせないわ!!」
 優奈(ga8225)が怒号と同時にフレア弾を投下した。
 後方からも、ファフニールが巻き起こした爆炎は確認できた。氷床を溶かし尽くすような灼熱地獄に、ワームやキメラ、ゴーレムが焼かれていく。同時に、ファフニール全機の墜落も確認。小隊をあげての決死の一撃も、バグアの大軍勢を押し止めるには至らない。味方の残骸を乗り越え殺到するゴーレムは、最早幽鬼の類にしか見えず、不気味そのものだった。
 一方、MR調査に乗り出した404隊は、有り得ない事態に戸惑っていた。
 僚機に護衛されながら、雪乃・Erst(ga5136)はMRにフレア弾を投下した。即座に機首を翻すも、機体を掠めるようにして稲光が走った。首を捻る。フレア弾まではじき返すらしい。味方が放った知覚兵器を反射している個体までいる。
「見分けがつかない‥‥」
 次々と上がってくる報告を聞くに、物理反射、全攻撃反射と、少なくとも二種類のMRがいるらしい。この様子だと、物理のみを跳ね返すMRは未完成品と言えるようだ。
「やることは変わりません。コアを破壊後、鏡砕にて一気に殲滅します」
 パチェ・K・シャリア(gb3373)は報告を受けて部隊に通達。既にアングラー、IMPなどの各隊が親ワームへの攻撃を開始している。鏡砕の発動のタイミングを計る段階だった。親を潰し、反射能力を無くしたMRへの一斉爆撃。ダメージの八割を吸収する新種のFFごと、徹底的な火力で焼き尽くす作戦だ。
「親2、撃破確認」
「今度こそ、その鏡‥‥打ち砕いてみせるわ! 対MR連携戦術【鏡砕】始動!!」
 ジャミングが酷くなる中、合図の照明弾を打ち上げる。鏡に接続している小隊も、していない小隊も、親撃破のタイミングを見逃しはしない。親が破壊されるやコアを八面体に変化させたMRに向けて、HWの執拗な妨害を受けつつ、上空から有りっ丈の攻撃が行われる。受けた攻撃の8割を吸収する第二形態だが、その集中攻撃にはさすがに耐えられなかった。僅かずつではあるが、MRはその数を減らしていく。
 MRへの対策の一つが、確立された瞬間だった。


●スノーストーム
 SS対応にあたるのは、月狼、【西研】、Astraea、戦術部隊『渡鴉』、雪風、LYNXの六部隊と、フリーの傭兵八名。軍、傭兵併せて数百機のKVや戦闘機が、SS一機のために包囲網を作り上げていた。人類側の作戦に気付いたSSは、直ぐさま離脱した。離脱と言っても油断はできない。防衛ラインを吹雪の悪夢から救うには、数十キロもアレを追い立てなければならないからだ。しかし慢心か、それこそ油断なのか知らないが、SSは最前線に姿を見せてから吹雪を展開した。おかげで、最悪その範囲内を虱潰しに探さなければならなかった傭兵達は、ある程度のあたりを付けて捜索できる。
「ずいぶん簡単に引っかかってくれたな」
「……油断はできない。この視界じゃ、ミイラ取りがミイラにってね」
 月森 花(ga0053)、宗太郎=シルエイト(ga4261)の二名は、キャノピーの外に広がる悪夢のような光景に辟易した表情だった。本来、この天候で航空機など飛ばしていいはずがない。小隊の中には編隊灯を灯して各機の位置をどうにか目視している隊もあるようだった。灯を付けなくとも敵からは見えているのだから、効果的かもしれない。
 スノーストームを追い込む地点は決められていた。そううまく行く相手でないことは誰もが承知だが、罠でも張って置かなければ、最悪全滅もあり得るような状況だった。SS対応隊を追ったHWも多く、吹雪に奪われた視界の端で何かが光ったかと思えば、次の瞬間には機体をプロトン砲が掠めている。少しでも敵軍の少ないところで、最大の火力を以て吹雪を止める。撃墜は二の次だった。
 追い込み予定地点では、月狼の部隊がフレア弾を雪の中に埋めていた。バグア側の進軍経路からも、前線からも十分に距離のあるこの地点に追い込めれば、当面の目標は達成できる。
 スノーストームに追撃されている、という報告が入ったのは、出現から二時間近くも経過した頃だった。報告してきたのは戦術部隊『渡鴉』だった。追い込み予定地まで数キロ、というところでスノーストームを発見。現在予定地に向けて交戦しつつ移動しているという。
 本来地上戦を想定した武装をしている渡鴉の隊員だが、SSが飛行形態で逃げているとあっては、合わせざるをえなかった。
「……舐めるなよ」
 背後につかれた伊流奈(ga3880)は黒煙を吹きながらも機体を上下左右に振ってスノーストームの攻撃の回避に務めていた。しかしそれも長くは持たない。S−01が反転すべくロールした瞬間、横合いから現れたHWの急襲によって、伊流奈機が派手に爆散する。
 ヒューイ・焔(ga8434)は舌打ちを一つ、吹雪に紛れたスノーストームの背後からミサイルを発射する。ぐにゃりと、折れるような機動でそれを避けたSSは、ぴたりとヒューイ機に照準を合わせていた。光線が二本、吹雪を切り裂いた。
「食らっ――」
「ヒューイ!」
 次々に僚機が黒煙に包まれ落ちていくが、全機の奮戦によって距離だけは稼げた。吹雪で見えないが、眼下では恐らく無数のKVが待機している。SSがそれに気付いていないはずもない。敢えて、食いついてきたのだ、餌に。
「その慢心、叩き折ってくれる」
 御影・朔夜(ga0240)は怒りを押し殺した声で言い、全機を急降下させた。スノーストーム及び護衛のHWがついてくるのが、粘ついた圧力でよくわかる。

 KVのエンジン音が、上空で絡み合う。それが近付いてくる。待機するKVを掠めるように飛んだ朔夜機の反応を確認すると、終夜・無月(ga3084)は月狼全隊に指示を出した。
「炎嵐、発動」
 埋設されたフレア弾が起爆し、吹雪を吹き飛ばす。小隊雪風が撒いた燃料も盛大に燃え上がり、夜の雪原が赤く照らし出される。吹雪に隠れていたSSの姿が露わになる。SSは既に地上形態へと変形し、月狼の一群に飛びかかっていた。
 爆風で吹雪が吹き飛んだのは一瞬。すぐに吹雪は猛威を取り戻すが、位置の特定は済んだ。半包囲する格好だった百機余のKVが全火力を放つ。照明弾が空へ打ち上げられ、KVの放つ大口径火器のマズルフラッシュ、ミサイルの噴射炎、知覚兵器の輝きが、夜闇を明るく切り裂き、藍色の機体へ殺到する。リシェル・バンガード(gb1903)を斬り伏せたSSは急遽跳ね上がると、大きく後退した。その機体を追って、次々と弾丸が追いすがる。
「現実だろうが幻だろうが、弾雨炎嵐で掻き消してやるよ!!」
「吹雪程度で狼が止まるわけがないだろうがよ!」
 玖堂 鷹秀(ga5346)、ユウ・エメルスン(ga7691)をはじめとして、皆が裂帛の気合いを込めてトリガーを引き続ける。それを避けるSSの、人間からすると気持ち悪いことこの上ない機動など、最早気にすることでもない。相手がそういうものなのだと理解してしまえば、どうって事はない。当たらないなら当たるまで撃つだけだ。
 あちこちで炸裂する弾頭が、一瞬ではあるが吹雪に穴を開けていく。その度に僅かに見えるSSの軌跡を追い、徐々に徐々に追い詰めていく。そしてとうとう、やけに甲高い音が連続して戦場に響き、いつぞやと同じように吹雪がぶれた。前回はこれで吹雪は途絶えた。
 全軍が俄に活気付こうとした瞬間、
「待て! ‥‥何か、これは」
 ファルル・キーリア(ga4815)の声が響くも、既に遅かった。吹雪は再び視界を覆い尽くすと、SSを隠した。
 追撃の弾丸を撃ち込んでいた数機が、突如飛来した粒子ミサイルによって爆散する。呆気に取られる暇はない。前回はこれで終わった。だが今回は違う。飛来してくるミサイルの数は数える気にもならない。おまけに、四方八方からはHWのものと思しきプロトン砲が降ってきており、いつの間にか周囲をHWの大群に囲まれていたことは明白。SSは、己を囮にして逆に包囲していたのだ。
 全軍はその場での乱戦を余儀なくされたが、それでもSSを引きつけるという全体目標は達成している。意地でもSSを逃がさない覚悟を決め、能力者達は吹雪の中孤軍戦闘を開始した。
 泥沼の乱戦によって、味方がSSやHWによって被害を被るが、数十分の戦闘で、わかったことがある。SSにダメージを与える度に、吹雪は確実に弱まっている。最初は一寸先も見えぬような密度だった吹雪が、今はすぐ隣にいる僚機くらいなら見えるようになっていた。
「このまま続ければ、いつか消えるはずだ」
 ファルルの号令に従い、集中砲火を浴びせる雪風。雪が幻影か否かをまず見極めるつもりだったが、既に終えていた。雪は本物。先ほど爆弾によって吹き飛び抉れた場所に、雪が降り積もっていたし、燃料を撒いたとき、試しに直に触ったそれは指の上で溶けたし冷たかった。ではどうやって半径数十キロもの吹雪を操っているのかという疑問に行き着くのだが、およそ人類の与り知らぬような力でやっているに違いなかった。
 調査はとりあえずそこまでだ。今は、この窮地を脱することを考えなければならない。
「お客様のお出迎えを開始します」
 SSに狙われたイーリス(ga8252)が、弾幕を張りながら呟く。あっという間に肉薄したSSは、例の死神鎌でイーリス機の中枢部を一撃で破壊し、すぐ次の標的へと移っていく。次に狙われたのは、Astraeaだった。
「隊員は全員生還させる‥‥この命にかえても」
 やられる前に、と不破 梓(ga3236)が飛び出していく。
「上等だ‥‥人の身内に手ぇ出しといて、無事に帰れると思うなよ‥‥」
 田中 直人(gb2062)以下隊員全員がSSに対し退かずに攻撃を始めた。梓はSSが見えた瞬間にヒートディフェンダーで斬り掛かる。SSはあざ笑うかのように回避すると、プロトン砲を放った。辛うじて回避はしたものの、体勢を崩し武器を取りこぼした梓は、バルカンを掃射する。背後から味方の掩護もあった。攻撃のうち数発がSSに直撃し、吹雪がぶれるも、SSは一向に構わない、と言わんばかりに鎌を振るい、梓機に止めを刺した。
「奴を拾う。数秒稼いでくれ」
 黒川丈一朗(ga0776)は淀みない口調で言って、機体を走らせる。LYNXをはじめとする他隊の加勢も加わると、SSは踵を返して再び吹雪の中へ消えていった。

 何時間そうしていただろうか。東の空が白み始めている。
 中には燃料切れで動けなくなるKVも出る中、全軍は動きを止めた。吹雪と呼んでいたものは最早雪がぱらついている、という状態だった。度重なる攻撃を、SS自体はものともしていない様子だったが、吹雪を発生させる謎の機構は限界だったらしい。ほとんど丸見えの状態で戦っていたSSは、最後の力を振り絞るようにして猛吹雪を展開すると、直後影も形も消え去った。
「これはこれは、酷いザマだねぇ〜」
 ドクター・ウェスト(ga0241)の声にも、今は同意するしかない。彼の小隊はおなじみとなったGSAを仕掛け効果を上げたが、彼以外全機撃墜。ウェスト自身も怪我を負っている。他の小隊も、似たようなものだった。
 重苦しい空気のまま、各隊は負傷者を収容し、敵支配地域から脱出を計った。


●前線、崩壊
 開戦から二日が経った。夜明けを前に、防衛戦線は壊滅寸前だった。吹雪はなくなった。MRは減らした。CWも次々に撃破している。厄介なジャミングはMR・CWの撃破と味方のアンチジャミングによって半減している。しかし今、右翼陣地が集中的な砲火を受け、多大な被害が出ている。この壊滅は、単純な戦力差が原因だった。丸一日姿を見せていなかったSSが、吹雪無しで襲来したことも大きな要因だった。
「キリがねえな、ったく」
「それでも食い止めるよ」
 シルフィドール・ジルバ(gb2663)、フェオ・テルミット(gb3255)がぼやく。
 この二名をはじめとして、ほとんどの能力者は寝ずの作戦だった。休息といえば燃料補給のために下がった先で出される暖かいスープとパン。人によってはコーヒーだったり、タバコの一服だったり、そんな数分の時間だけだった。
 門と残存戦力の一斉攻撃によって、じりじりと後退しつつもどうにか防衛できているが、飛び回り災厄を振りまくSSを押さえ込むだけの力は、最早残っていなかった。その暴れようたるや、まるで鬱憤晴らしのようだ。
 熟練の能力者の練力にはまだ余裕があるが、最近LHにやってきた能力者は、とうに限界がきている。多くは補給陣地で休息を取り次に備えているが、彼らの復帰まで前線が保つという保証はない。
「あと少し。ほんの、少しだ。気張ってくださいよ」
 前線で被弾した撤退機の直掩についていたアークバードのホーク1、翠の肥満(ga2348)は、重体を負った状態で飛ぶ友軍機に声を掛けながら、アンドレアス・ラーセン(ga6523)と共に、周囲をうろちょろと飛び回るHWの掃除にあたる。
 不意に、友軍機が高度を下げていく。ボロボロの戦闘機はコクピットまで損傷しており、ベイルアウトもできやしない、とパイロットがぼやいていた。
「待て! おい! 目ぇ閉じるな!」
「右! ホーク1」
 リン=アスターナ(ga4615)の放ったAAMが翠の肥満に砲を向けていたHWを吹き飛ばす。すぐにアンドレアスが掩護に入り、HWは音もなく落ちていった。
「クソ‥‥‥‥いやあ、助かりましたよ」
 墜落した友軍機を一瞥した後に、いつも通りの表情を見せた翠の肥満の額には、拭っても拭っても浮いてくる汗が光っていた。リンも、アンドレアスも、戦域のほとんどの能力者が耐え難い疲労状態にあった。非能力者ではその性能を発揮させることもできないKVを、スペックギリギリのところで何時間も操縦する。さしもの能力者とて、中には不調を訴え出る者もいた。しかし休めない。全戦力を常に前面に押し出すことでどうにか押し留まっている状況で、休んでいいなどと誰も言えず、休みたいとも言えやしなかった。
 幾重にも張り巡らされた防衛網は次々と敵の突破を許し、現在は補給拠点まで敵の攻撃が届き始める。戦線を下げることでどうにか対応するも、戦力不足はいかんともし難く、このままではいつかGHまで到達されてしまうという懸念が、誰の心にもあった。
「まさに満身創痍。穴は見つけられるものか」
 ICの情報調整に務めるUNKNOWN(ga4276)が一人呟く。また一機、KVが墜ちた。敗色は濃厚だった。どうにか耐え、夜明けを迎えてバグアが退いても、果たしてそれで次の襲撃を抑えられるのか。不安は後を絶たない。しかし、今はとにかく朝を迎えるために気張るしかない。
 不意に戦場を眺めてみる。友軍の砲火は頼もしいほどだ。誰も諦めてはいない。行けるはずだ。思ったとき、太陽が東から姿を見せた。SSが忌々しげに撤退していくのを見て、誰とはなく安堵の吐息を漏らした。


●安息の内に
 日中は大人しく、夜になると派手に暴れる。バグアはそういう作戦らしかった。SSの猛攻から明けた昼過ぎ。このチャンス、と言いたいところだが、生憎人類側の消耗も激しい。昼の内に各隊は少しずつ隊員を休憩させたり、KVの修理を頼んだりと、必ずやってくる大規模攻撃に向けた備えを行っていた。無論、攻め手が緩んだからといって安全になったわけではなく、HWやゴーレムの攻撃は今も続いているだろう。
 昨夜の攻防は地獄のようだった。SSは、猛威を振るうだけ振るうと、夜明けと共に退いていった。
 スター☆ライズは補給路の確保及び物資輸送を担う重要なポジションについていた。彼らや同様の任務についている小隊が壊滅すれば、それは敗北に直結する。故に慎重に、しかし素早く、GHと前線との間を往復していた。
「‥‥HW、いませんね」
 澤本 幻夜(gb2137)が、周囲を警戒しつつ疑問符を浮かべる。これまで、毎度の如く妨害してきたHWが今回は見あたらない。
「油断はできないよ。きっとそろそろバグアも諦めるはずだから、そのときまで頑張ろう」
 蒼河 拓人(gb2873)が疲れを押し隠して言う。スター☆ライズも度重なるHWとの戦闘によって、相当消耗していた。不意に、ジャミングによってほとんど繋がらなかった前線からの通信が飛び込んでくる。
「‥‥は撤退した。繰り返す。バグアは撤退した」
 スター☆ライズ隊員はKV同士で顔を見合わせ、もう一度だけ通信機に耳を傾けた。矢張りこう言っている。
「我々の勝利だ」
 と。


 スノーストームは第一フェイズとあわせ三度出撃し、三度とも失敗した。人類側の損失は計り知れない。だが、志ある者がいる限り人類が負けることはない。
 そんなようなことを、軍の誰かが無線機越しに話していた。たった一機に翻弄され、徹底的にボコボコにされても、防衛しきれたのだから勝利は勝利だろう。だが、傭兵達の中には後味の悪いものを感じている者も、少なくなかった。
 多くの小隊が壊滅状態に陥り、多くの人が集中治療室に運び込まれている。無人機をいくら潰したところで、この恨みが消えるはずもない。
 大きな遺恨を残して、二度に渡ったバグア軍チューレ基地勢力との戦闘は、幕引きとなった。

<担当 : 熊五郎>


【 タシーラク防衛 】

●護るべきもの
 アメリカは兵卒が強く、ドイツは士官が強い。各々の軍隊の特色を揶揄した昔の言葉である。
 UPCは云ってみれば多国籍軍であるので、それぞれの長所を取り入れた、最強の軍隊になる筈なのだが、実際はそうも行かないようで。

 対バグア防衛の司令部を設置した、と云うよりは、何時の間にか設置されていた、という表現の方がしっくり来る。
 その「設置された」タシーラクの街は、南からバグア共の大群が遠慮なく押し入り、一方でそれをまさに背水の陣で押し返し、さらには戦火が広がった近隣各地から避難民やら負傷者が押し寄せ、慌しさと混迷の度合いが増している。

 ここにガリーニンを降ろすと言う。制空権も無いのに、だ。
 確かに、シェルターに入りきらない避難民と、居なくなるだけで世界地図の色が変わりそうな要人を搬送するのに、ガリーニンは最適だろう。
 尤も、ファーストクラス並の快適さと、大病院並の医療設備と、絶対に墜落しない安全性があれば、である。すぐ目視できる距離に、お馴染みのワーム共が跋扈している状況で、それらは全て保証されない。

「闘う全ての仲間に問おう! まだ戦えるな? 私達は護るべきものを護り、戦いぬき――」
 誰かが置いていったラジオから、FM−Revの早坂恵(ga4882)の声が流れる。シェルターの奥からは、フルーツバスケットβの慰問ライブの歌声が聴こえる。
 それから、途切れない銃声と、KVの稼動音。気流を切り裂く轟音。怒号に、誰かの泣き声。硝煙の臭いと、消毒用アルコールの臭い。
 そこにガリーニンは降り立った。まだ安全でない空域を、砲火の中をくぐり抜けて。2機の輸送機は、これからゴットホープまで、「護るべきもの」になる。


●空へ
 ガリーニンが到着し、司令部周辺は俄かに慌しさを増す。何せ、避難民、そして負傷者の流入が止まらない。
 ここに来て、リッジウェイの運用方法が確立された感がある。それは負傷者の後送である。正規軍の車両より堅牢性が高く、単体でキメラに抗しえるそれは、まさにうってつけであった。なにしろ、あの宇宙人共は車両に大きく貼られた赤い十字のマークを見ていない。
 パラメディック、ハーベスターの真田 音夢(ga8265)、藤枝 真一(ga0779)、セルゲイ・バトゥーリン(ga4438)など、それからAidFeatherもアイロン・ブラッドリィ(ga1067)を中心に桜木 刹夜(gb2624)、羽衣・パフェリカ・新井(gb1850)らが、小隊単位でリッジウェイを効果的に運用し、各戦線から負傷者、避難民を次々と後送していた。
 避難民はシェルターに。それから、負傷者は【LF隊】の劉・宵月(ga5163)、アッシュ・リーゲン(ga3804)らによってトリアージタグが与えられ、手当てがなされる。軽症者は応急処置を施し、シェルターへ。緊急を要する重傷者は、「護るべき」ガリーニンへ。
 もう一つの「護るべき」シェルターは、さらに困難な状況にあった。内通者が居た状況である。護衛に当たるハニービーの宮明 梨彩(gb0377)はKVから降りる度に不審者のチェックを欠かさなかったし、応急処置を行うイリアス(gb2760)のカバーをしつつ、負傷者に声を掛ける七織 希更(gb2167)も、不審者に目を光らせていた。

 命の重さ。
 緊急を要する重体の負傷者と、軍やメガコーポレーションの要人と、どちらが重要だろうか。この戦域に集まる数百人の傭兵には、それぞれの考え方があるだろう。
 UPC軍は制空権の無い空から無防備な輸送機を降ろすという無茶な作戦を実行して見せた。一般的な航空戦術からすれば、有り得ない事である。
 そしてUPCは、降ろした輸送機で護送する要人と負傷者、どちらの命にも優先順位を付けなかった。一般的な政府機関の指針からすれば、有り得ない事である。
 例の宇宙人共にとっては、どちらだろうか。要人が一網打尽で消えてくれたほうが、戦略的優位に立てると考えるだろうか。
 マグローン(gb3046)の提案によって、内通者対策が施された。先行する一機目に、要人を乗せると情報が駆け巡る。そしてその一機目には、マシュー・ファーマー(gb4036)が乗り込み、五十人からの重傷者の手当てを行いつつ、滑走路へとタキシングを始める。
 UPCは、どちらの命にも優先順位は付けなかった。ただ、負傷者は要人の囮とされた。


●離陸
 世界各地の主要空港に設置された、大型機が離着陸できる滑走路はおよそ四キロの長さを持っている。翼が揚力を得て巨体を空へ持ち上げるのに、四キロの助走が必要、という事である。
 ガリーニンもこの例に漏れず、四基のエンジンで四キロ近い助走を経て、浮き上がる。
 この無防備な四キロを、姑息にも知恵を持った宇宙人共は見逃さなかった。
 丁度、ガリーニンが滑走路へのタキシングを始めた頃、戦域の情報管制を行っていた三間坂 響介(ga4627)、佐倉夜宵(ga6646)の元に届く索敵情報がその数を急激に増やし、彼らは友軍機を次々と手配した。レーダーに映る敵影は北から。このチャンスを狙っていたかのように、ガリーニンの離陸を阻止するかのように、それは津波のように押し寄せた。

 シューティングゲームか、あるいは昔見たSF映画か。薄暗い空に、何本もの火線が光る。
 若葉【蕾】のアキト=柿崎(ga7330)は、自小隊に集まる情報を、三間坂らと共に友軍に配信していく。敵の群れは、ガリーニンに体当たりでも仕掛けるかの如く、高度を下げつつ、司令部周辺目指して来る。

 HWの群れの間を縫うように、篠森 あすか(ga0126)が飛ぶ。空域後方に位置していた筈の若葉【壱】小隊は、あっという間に雪崩れ込んで来たワームの群れによって、どこが後方か判らなくなるほど押し込まれた。
「2時方向、三機!」
 篠森のカバーを行う夕風悠(ga3948)の声。彼女の機体から放たれたライフルが、HWの動きを止める。
「これ以上は‥‥行かせない!」
 ライフルの射線を追うように、篠森は機体を入れ、HWの脇腹をソードウィングで掠める。爆散するHWをふわりとかわし、ウィングマンの夕風機が続く。
「次、11時、来るよ!」
 一度夕風機から離れるように左旋回し、篠森はトリガーを引いた。ハードポイントからミサイルが、数条の白煙を残して飛んでゆく。
 弾幕を潜り抜けた数機のHWに、後方へと回り込む動きを許した。咄嗟にラダーを蹴り、機体の向きを変える。
 ヴィー(ga7961)のS−01と、背中合わせにすれ違った。HWは目標を変え、ヴィーに対して砲火を集中させる。彼女は、ベイルアウトする選択を迫られた。

 初手は完全に出遅れた。押し込まれたと言っていい。これが、内通者対策として流された情報によるものだとしたら、目論見は当たったのであろう。しかし、戦う彼らにとって、どちらも「護るべきもの」である事には変わりない。
「もう抜けてきた? 早い」
 空戦部隊Simoonの隊内管制を行っていたアンジェリカ 楊(ga7681)は、迫る敵機を前にやや驚きの声を上げた。
 防衛ライン後方で前衛の取りこぼした、突出した敵機を捕捉・殲滅するはずが、明らかにラインを下げさせられている。
「Simoon03、援護します」
 フリューゲル(ga6829)の機体から、前を行く僚機の支援のため、ロケット弾が放たれる。
「オラトリオ隊の穴を塞ぎます」
 アンジェリカから、隊内の各機へ戦域情報が送られる。
「済まない、すぐ戻る」
 すれ違う天上院・ロンド(ga0185)からの通信。彼らの部隊はつい今まで、突出してきた敵機を散々に追い掛け回してきた。補給が必要な彼らオラトリオ隊と、空戦部隊Simoonが器用に入れ替わる。

 何故対空防衛がここまで押し込まれたか。防衛ラインの最前列は、プロジェクトSG小隊などの幾つかの小規模部隊、それから何機かの小隊に属さない機体によってのみ支えられていた。物量の差は如何ともし難く、徐々に押し込まれ、やがて幾重にも敷いていた筈の防衛ラインは、ただの一本の線になる。
 HWの真っ只中で、ロックオンキャンセラーを使い友軍機の支援をしていたミスラ・アステル(ga2134)機がレーダーから消える。
 最前線を飛び回っていたリュス・リクス・リニク(ga6209)がアステル機の撃墜を見て、カバーに向かう。自機のダメージは限界だった。それでも、引く事は考えていない。
 ガトリングで弾幕を張り、敵機の群れに飛び込む。
「リニク戻って!」
 同じフライトエレメントのリーゼロッテ・御剣(ga5669)が叫ぶ。リニク機の前方、彼が弾幕を張ったあたりに、ミサイルで支援を加える。リーゼロッテの機体も限界に来ている。しかし。
「リニク機、リーゼロッテ機、後退して」
 サーシャ・ヴァレンシア(ga6139)が二機にアラートを送る。リーゼロッテ機を庇った絶斗(ga9337)は、その機影が既にレーダー上に無い。この上、二機を失えば、小隊の前衛機は無くなり、隊としての機能を失う。
 声は、届いただろうか。リニク機とリーゼロッテ機は、敵機を示す光点を幾つか消した後、自らの光点もレーダー上から消した。

 レティ・クリムゾン(ga8679)は、司令部の防衛に当たっていた自小隊であるTitaniaを空に上げた。航空要撃の前衛が不足している、との判断からである。
 篠原 悠(ga1826)に全体の指揮を預け、自身はMRを狙う。この状況で、出来る事はそう多く残されていない。

 事ここに来て、制空権がバグア側に渡るのは時間の問題となった。それでも、ガリーニンは離陸のため、四キロの滑走を始める。護るべきものを乗せ、敵の只中へ。


●シェルター
 航空支援を得られない状況下に置ける拠点防衛戦は、既に幾つものイニシアチブを敵に渡していて、その劣勢を覆すのには相当の困難を要する。
 ガリーニンが四キロの滑走を始める少し前、司令部の直近に現れたサンドウォームは、防衛ラインに混乱をもたらした。
 それに加えて、航空要撃を潜り抜けたワーム群が、空から接近する。

 九頭龍・聖華(gb4305)の足元から現れたサンドウォームは、彼女の機体を飲み込む前に、フェアリー・チェスの皆城 乙姫(gb0047)の手によって一度大きく弾かれた。
 すぐさま九頭龍も機体を立て直し、接近を試みる。周囲の機体も、サンドウォームの出現に、火線を集中させる。
 皆城がグングニルを突き立てる。が、サンドウォームは動きを止めず、そのまま皆城の機体を薙ぎ払った。次いで、接近戦を仕掛けた九頭龍の機体を飲み込む。
「サンドウォームを!」
 シャスール・ド・リスの麓みゆり(ga2049)が、すぐさま状況を把握し、味方機に指示を出す。アンジェリナ(ga6940)が反応し、その刀で切りつける。サンドウォームはまた弾かれ、飲み込んだままの九頭龍の機体を吐き出した。
 ガーデン・ルピナス隊が、メアリー・エッセンバル(ga0194)の指揮の下、サンドウォームを集中砲火する。
「前線の後ろを荒らすなんて不躾な!」
 サンドウォームは、今度は接近したままのアンジェリナ機を咥え、そのまま穴へと引きずり込もうと動く。
 咄嗟に夏 炎西(ga4178)が接近し、アンジェリナ機の咥えられた片脚ごと、サンドウォームを切りつける。不躾な客は、アンジェリナ機を残し、再び穴へと戻った。

 防衛ラインの最前列を受け持つ幾つかの部隊は、熾烈な対地砲火に晒されていた。敵は空からだけでなく、着陸を許した何機かのビッグフィッシュからも、陸伝いでの攻撃を受けていた。あの宇宙人共は、ご丁寧に着陸し部隊を展開させる。
 ガーデン・フリージア隊がまずこの猛攻に晒された。
 友軍機の支援を受けながら、接近するキメラ群と、空から雲霞の如く集るHWを何機か排除した所で、部隊前衛であるテミス(ga9179)機が沈黙した。
 始まりはほんの一部だった綻びは、時間と共に全体に広がる。
 エレメントを入れ替え、再び、何時終わるとも分からない守戦を開始したフリージア隊は、ルピナス隊の支援を受けつつ、更に敵の数を減らしていった。しかし、最前線で接近戦を試みていたリゼット・ランドルフ(ga5171)機が、空爆に晒されその動きを止める。
「これ以上は無理でありやがるです!」
 部隊管制を受け持つシーヴ・フェルセン(ga5638)が叫ぶ。
 例えば、十二人の小隊を戦闘不能にするのに、どれだけのダメージが必要か。それには、全滅も、半減もさせる必要は無い。たった二人、殺さず行動不能にすればよい。すると、二人の行動不能者を見捨てる訳には行かず、担架に四人が当たる事になる。これで、戦闘に参加できるのは六人まで減る。一般的に、戦力が五割減少すると、それは全滅と言われる。
 フリージア隊は、まさにこの状況にあった。九条院つばめ(ga6530)は、忸怩たる思いで、自部隊に後退指示を出した。

 フリージア隊後退の知らせは、陸上防衛の情報管制を行っていたI.C.Eのレイヴァー(gb0805)によって伝達され、若葉【弐】がそのカバーに入った。


●獅子座
 スポーツにおいて、劣勢であるチームの何気ないプレーによって、ゲーム全体の流れが変わる、というのは良くある事で。
 その切欠が、ガリーニンの一機目が離陸した事なのか、それともある一機の敵の登場によるものなのかは分からない。

 一機目がランディングギアの収納を始めた頃、対新鋭機対策として、HWの飛び交う中をCAP任務に就いていたペルツェロート・M(ga0657)との通信が途絶した。
 それが敵新鋭機によるものだと察知したアクアリウム隊がすぐさまペイント弾を空域にばら撒く。と、幾つかのペイント弾が着弾し、色を付けた所で、敵機は自らその光学迷彩を解いた。
「我が望み、この星の覇王となる事なり!」
 と、聞き覚えのある宣言を、外部スピーカーから高らかに叫びつつ。
 姿を現したファームライドは高笑いを響かせつつ、離陸前のガリーニンへと、HWの群れを率いて真っ直ぐ突進してゆく。
 数条の光の束が、ガリーニンに向かう。既に離陸のため滑走を始めているガリーニンは止まれない。咄嗟に蒼井(ga2848)が、自機をガリーニンとの間に入れる。
 彼の機体は、全ての光の束を受け止め、墜ちた。
「獅子座か。今までビビッて出てこれなかったんじゃねぇか?」
 ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)が挑発しつつ自機を近づける。
「雑魚は引っ込んでいろ!」
 そのまま、ヴァレンタイン機へとファームライドは向きを変え、その砲火を集中させる。墜ちるヴァレンタイン機と入れ替えに、鯨井昼寝(ga0488)が機体を正面に入れる。
「私の前に立った以上、一瞬でも余所見なんてさせやしないわよ!」
 そのまま、ソードウィングで突撃するのを、ファームライドは機体を捻り交わす。
「引っ込んでいろと言っている!」
 鯨井の機体は後続のHWをその翼で切り裂いた。再び正面に捉えるため、すぐさま旋回する。
 その隙を突いて、またガリーニンに対して攻撃を掛ける。今度は、滑走するガリーニンと併走していた8246小隊の水上・未早(ga0049)が間に機体を入れる。
「やらせない‥‥たとえ何が相手だろうと‥‥!」
「ええい! 雑魚共が! 寄って集って!」
 苛立ちに任せて、低空を飛ぶまま、正面に立った佐間・優(ga2974)の機体に攻撃を加える。
 初弾はかわしたと、佐間は思った。だが、次の瞬間、彼女の機体のHUDは被ロックオンを警告していた。

 ガーデン・ガーベラ隊が、佐間機を墜とし人型へと変形し、滑走路に降り立ったファームライドに接近する。
 鈴葉・シロウ(ga4772)が牽制射撃を行う間に、来栖 晶(ga6109)がその脚部を狙い、足止めを試みる。
「病人を見捨てるほど腐っていないからな」
 脚の止まったファームライドに、シャーリィ・アッシュ(gb1884)が斬りかかる。が、初撃はあっさり交わされた。
「さて‥‥獅子王の実力、見せてもらいましょうか!」
 鹿嶋 悠(gb1333)も自機を接近させる。
「後悔するぞ!」
 アッシュ機と鹿嶋機を相手に、数度刀を交わす。そこへ、ブレイズ・カーディナル(ga1851)が盾を構え、押し込むように機体をぶつける。
 押し込まれるのを嫌うかのように、一度大きく跳躍する。そのまま、落下の勢いと共に鹿嶋機の頭上に一撃を加え、さらに薙ぎ払うようにカーディナル機を弾き飛ばすと、ファームライドは再び変形し空へと舞い上がった。

 再び空へ戻ったファームライドは、すぐさま機体を反転させ、HWと共にガリーニンへ発砲する。数機のKVが、また間に入ろうと試みるが、間に合わなかった。
 エンジンの一基に被弾したガリーニンは、滑走を止めた。

 ガリーニンに止めを刺さんとするファームライドの前に、暁の騎士団のヴォルク・ホルス(ga5761)が立ち塞がる。
「会いたかったぜ‥‥覇王‥‥さぁ‥‥覇王対魔王の戦争だ!」
 ヴォルクは機体を器用に操り、数度被弾しつつもライフルとガトリングで機関部と思われる箇所を削ってゆく。
「魔王を名乗るには小賢しい!」
 最後の一撃がヴォルクの機体を貫いた時、ファームライドの背後に霽月(ga6395)とカルマ・シュタット(ga6302)が現れた。獅子座の覇王志望の男は、この二機を完全に見落としていた。
 背後より集中砲火を受け、さしものファームライドも、黒煙を上げる。
「くそ! やってくれた!」
 ファームライドは反転し、速力を上げる。機影は黒煙を残し、極夜の空へ消えた。


●再び、空へ
 ファームライドの撤退後、エンジンが停止し飛べなくなったガリーニンへ、敵の地上部隊が殺到した。
 陸上で防衛に当たるのはガーデン・ガーベラ隊と8246小隊の二隊を中心とした、ガリーニンと併走し護衛していた機体。
 獅子座の撤退により、戦域全体の士気は再び向上していた。
 そして何より、自機の背中のガリーニンは「護るべきもの」である。
 その頑強な抵抗は、例の宇宙人共の想像を超えていたのか、程なく敵部隊は撤退し、ガリーニンへの被害は防がれた。

 バグア軍撤退の理由は、防衛部隊の頑強な抵抗でもなければ、ファームライドの撤退によるものでも無いのかも知れない。
 強固な防御陣地を攻略するに当たって、宇宙人共はまず航空優勢を得る事に成功した。しかしその後の戦術は粗末だった。ただガリーニンを狙い、無造作に地上に部隊を降ろしてゆく。
 橋頭堡の確保もせず、補給線も確立させず、秘密兵器であった筈のメイズリフレクターまで破壊され、そのお粗末な「面被りクロール」は、遂に息継ぎを必要とした。
 ともかくも、タシーラクに設置された司令部を巡る戦いは、一時の収束を見た。但し、チューレ基地と、アイスランド方面とを、依然支配を許している状況で、予断を許さない。

 飛べなくなったガリーニンは、EGGの真珠(gb1870)、ルノ・ルイス・ラウール(ga7078)らも参加し、再整備が行われた。
 最も大きな被害箇所は一基のエンジンだが、その他にもダメージを負っている。ランディングギアから、翼端部のフラップなど、数え上げればきりが無い。
 整備は続行されるが、再び空へと戻す事は困難、と判断が下された。

「帰りもお手数をおかけする。このような時には背の高さも呪わしいものだね」
 ナレイン・フェルド(ga0506)の機体補助シートに載せられ、カプロイア伯爵(gz0101)は軽く言葉を向ける。
 飛べなくなったガリーニンに乗っていた三十人からの要人は、KVに分乗し、ゴットホープへと向かう事になった。
 勿論、すぐさま数両のリッジウェイが用意されたのだが、この奇特な伯爵は、何故か補助シートを選んだ。
 それなりに背のある二人にとっては、KVの操縦席は当然そう広いものとは言えず、一際長身な伯爵はやや身を伏せる事態に陥っている。
 仕方ないとでも言うべきなのか、その割に零されるナレインの笑みはむしろ楽しそうで。加速する旨を短く伝え、機体の加速Gによって、二人はその体をシートに押し付けられた。

<担当 : あいざわ司>

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