入学式狂想曲
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12月18日の報告 12月11日の報告


【 上陸阻止 】

●朝靄の決戦
 グリーンランドをほぼ南北に別ける今回の戦いにおいて、人類はほぼ防戦に廻っていた。無論、UPCにとっては戦力的な不安や、要人の安全確保という観点もあったろうが、俯瞰的に言うならば、敵の隙を窺っているという状態だった。
 だが、ここタシーラク北部に位置するこの戦場では、人類は攻勢に出ることになる。
 先の攻防戦では陣地の一角を崩され、敵の前進を許してしまったゆえに。やられた分はきっちりやり返す、それが傭兵たちの抱く至極当然な志だった。

 雲の隙間から朝日が差し込み、空を切って、砲弾の嵐が降り注ぐ。
 比留間・トナリノ(ga1355)の指揮の下、ガンアンツが一斉に砲撃を開始する。それをきっかけとし、周囲に陣をなすKVが、作戦へと向けて一斉に動き始めた。
「敵バグア視認――ENGAGE! 通信回路オープン完了、隊長、指揮を!』
『皆さん、前進開始っ、いっきますよ〜っ♪』
 TEAM:UVA、水無瀬 凛(ga7300)の報告にシエラ・フルフレンド(ga5622)が号令を下す。
『UVAに遅れるな。奴等の『ツケ』はキッチリ取り立てる!』
 遅れまじと聖・真琴(ga1622)が声を張り上げた。TEAM:UVAとGargoyleの小隊が肩を並べ、塹壕への接近を開始する。
 特務部隊零小隊も隊を二つに別け、ランディ・ランドルフ(gb2675)が支援攻撃を行う中、重装甲で固めた前衛が確実に敵前線を奥へ奥へと押し込んでいく。
 そんな傭兵達の先頭へ、朝比奈・るみ(gb2764)の翔幻が躍り出た。
 幻霧を展開し、先頭集団を支援しつつ前進する彼女の機に、バグアからの迎撃弾が殺到する。それを霧に隠れてやり過ごし、やがて、突然に動きを止めた翔幻が集中砲火を受けて呆気なく炎を吹き上げる。だが、膝を折った翔幻のコックピットに朝比奈の姿は無い。
 彼女はAU−KVを身に纏い、単身敵陣を目指していた。
「よくも入学式の思い出をぶち壊してくれたわね‥‥」
 弾幕を掻い潜って進む。
 自機の爆炎を背後に背負いながら、塹壕内部へと。流れ弾は朝比奈を目標にされてはいない。敵の眼はKVに向けられており、奇策による陣地への侵入は容易い事であった。
『ガンアンツ各機前進! 対空砲を潰しますよ。うっうー!』
『よしっ、いわゆる、ひとつの『教育してやる』って事だな!』
 フェブ・ル・アール(ga0655)が比留間の二の句を告ぎ、ガンアンツの先頭に立つ。
 草壁 賢之(ga7033)のウーフーがアンチジャミングを展開し、友軍機をその効果範囲内へと収める一方で、ユウキ・スカーレット(gb2803)ら小隊員達はバグアの対空兵器を狙い、半ば奇襲的な攻撃を加えた。
 強攻部隊の作戦を成功させ、安全をより確実なものとするためには真っ先に潰しておくべき箇所。
 護衛こそいるものの、降下を行う際に発生する強攻部隊の隙は、どうしても対空攻撃の的となってしまう。
 だから――と。突入前同様、阻害になりそうな相手を目標とし、レーザーの光条を突き立てる。直撃を受け、ショートしたワームから小規模な爆発が発生し、動きの鈍くなった相手をSライフルが穿った。
 深追いはせず、地面を蹴って距離をとり、重籐 柊(ga3428)の視界の先で目標が完全に爆散する。
 敵影消失の旨を短く報告し、間髪入れずに目の先、突撃部隊へと随行した。
 敵集中箇所、戦力の厚い場所は凡そ把握されている。
「ご丁寧にこっちの穴場まで使ってくれちゃって‥‥」
 Cadenzaのシイナ・ライティエッタ(ga6544)は一人ごち、対戦車砲を叩き込んでいく、
 着弾箇所に砂煙が舞い上がり、ぶれる敵影。管制からの索敵情報を耳にしながら、シイナは油断なく次弾を装填し、起き上がる者がいない事を確認すると更に奥へと目標を定める。
 対空砲に対する攻撃が情報網『翔』を介して伝えられると、九十九 嵐導(ga0051)ら、待機していた傭兵が動いた。彼等は蛇行や緊急回避を繰り返し、一部を脱落させつつも敵陣に接近すると、敵目掛けて煙幕弾を叩き込み、離脱していく。
 その煙に紛れて朝比奈達先行した部隊が退却する。
 『翔』を介し、上空に待機する面々の準備完了、間もない降下が知らされたからだ。
「一息に行きますよ」
 ブーストを発動し、葛城・観琴(ga8227)は機首を敵陣後方へと向ける。大人しそうな外見とは裏腹に、その機動は乱暴なものだった。大気を突っ切って空より急降下し、未だ続く散発的な対空砲火を潜り抜けると、キャリアーからGプラズマ弾を切り離す。
 迸る電撃。
 その後に続き、二桜塚・如月(ga5663)達が次々とフレア弾を投下していく。爆撃を敢行した傭兵は少数であったが、陸上部隊による下準備が徹底していた為、多くの爆撃弾は狙い通りの場所へと着弾、炸裂した。
「行くわよっ、全ての敵を粉砕してやるっ!」
 平坂 桃香(ga1831)や観琴達はそのまま上空で一回転し、グレネード弾と共に強攻着陸を仕掛けた。爆音が連続し、着陸と着弾の土煙が戦場を覆い、欠片が四散する中、思い思いに敵を討つ傭兵達。
「やあぁぁぁっ!」
 桃香が操縦桿を握り締めた。雷電のエンジンが唸り、思い切り振るわれるハンマーボール。その強烈な一撃が、敵ゴーレムの胴をブリキ缶のように捻り潰す。
 変形時の隙は、爆撃とグレネードの着弾によって防ぎ、強攻着陸は成功した。
 ただ、先の爆撃は味方を巻き込まない為、実行が友軍の突入前となり、自然、強攻着陸も友軍突入前となった。このまま戦えば、敵中に孤立する怖れもあるのだ。
「‥‥友軍による爆撃を確認。隊長様、ご命令を‥‥!」
 神無月 真夜(ga0672)の言葉に、鋼 蒼志(ga0165)が突撃令を発する。
 これまでジリジリと接近していたCadenzaやGargoyleといった各陸上部隊は、爆撃成功の報を聞くや、朝靄立ち込める氷床を一斉に駆け抜けた。


●航空戦
 傭兵達が防衛陣地の一端に取り付きつつあった頃、バグアは徐々に初期の混乱から立ち直り始めていた。
 水棲キメラは薄暗がりの中を進み、上空ではヘルメットワームに守られたビッグフィッシュがバグア陣地に向けて前進する。これらを素通りさせれば、敵陣地の戦力は大幅に強化されてしまう。
 上空を旋回していた傭兵達は、直ちにビッグフィッシュの迎撃へと向かった。
 眼下の寒空には植生するマインドイリュージョナー。
 上空を飛ぶ航空部隊は可能な限りそちらへの接近を避ける事で、幻覚作用の回避に努める。理由も無しに、わざわざ幻覚に溺れに行く必要等ありはしない。どこかの小隊がマインドイリュージョナーを避けて飛ぶようになると、自然と、皆それに習った。
 ただ一機、鴉神  紅羽(gb4338)だけは、マインドイリュージョナーから離れようとしなかった。
 ぐらりと揺れる頭を押さえ、彼はカメラを構える。
 SESと接続されていない機械であれば、もしかしたら影響を受けないのではないか――そう考えての撮影だ。そして後日、彼の撮影した写真には、鮮明に――手動撮影故のブレを除けば――マインドイリュージョナーが収められている事が判明する。


『ECCM展開。よぉし、やってやろうぜっ!』
 上空。遥か海を眼下に、迎撃ポイントに陣を敷き、皇 樹(ga4599)がコックピットで親指を立てる。
 最も素早く動いたのは、叢雲(ga2494)率いる八咫烏小隊だった。彼等はビッグフィッシュよりも、まずは周囲に群れるヘルメットワームへと襲い掛かる。彼等に続き、周辺戦場でも最大規模を誇る天衝や、フリーの傭兵達が次々と空戦に突入した。
 長期戦を覚悟し、補給をマメにすること前提で動く八咫烏は出し惜しみなしの全力攻撃で戦場を駆ける。
 率先して交戦に向かい、管制も兼ねる紫藤 文(ga9763)から周辺の情報が送られて来れば、敵を牽制したまま、戦力の薄い箇所へと部隊が移動する。
 岩龍の安全のみを考慮し、交戦で崩れがちな陣形には拘らない。維持しようとすると必然的に余分な動きが発生し、機動性が鈍る。彼らはそれを選択しなかった。
 CWに向けて、蓮杖 美影(ga6495)機がロケットランチャーを照準し、トリガーを引いた直後に追撃でガドリングの掃射を繋ぐ。大量の弾幕をばら撒く機首を振りぬき、やはり大量に浮揚するキューブワームを打ち落としていった。
 打ち漏らした敵は、リヴァル・クロウ(gb2337)がトドメをさして仕留め、不知火真琴(ga7201)が数を減らそうと敵陣を崩していく。
「初陣だ。ゆくぞ、我が翼イビルアイズ‥‥!」
 一瞬だけ眼を閉じ、己に誓うフィソス・テギア(gb4251)。
 初陣ながら果敢に一騎打ちを仕掛けるフィソスだが、流石に経験不足が目立つのか、苦しい戦いを強いられる。そこへ二機目のヘルメットワームが接近し、あわや背後を取られるかと思った瞬間、空を走ったレーザーがヘルメットワームを貫いた。
「一機ごと動いては危険です、可能ならば、協力して対応を‥‥」
 大丈夫かと問うように、フィソスに機を並べるルクレツィア(ga9000)。
「‥‥すまない、助かった」
 高圧的な態度を崩さぬも、フィソスは礼を述べる。
 彼等傭兵は即席の隊を組み、あるいは一時的に互いを援護しあいつつ、虱潰しの如く、一機一機のヘルメットワームを確実に叩き潰していく。やがて、現状の防空戦力では不利と見たのか、ビッグフィッシュの射出口が大きく開かれ、そこから新たなヘルメットワーム、そしてキューブワームが吐き出された。
 ふわふわと宙に浮くキューブワームを新たな標的と捉える八咫烏。
「甘い‥‥ッ」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)のディアブロが、跳ねる様にUターンする。
 機を暴れさせながらも無理矢理機首を支えて、彼女はロケットランチャーを連続して放った。薄っすらと煙を引いて飛ぶ無誘導弾がビッグフィッシュの腹の中へと飛び込み、炎を吹き上げる。
 出撃直前にあったヘルメットワームがはじき出され、くるくると墜落していく。
 新たな護衛機を出撃させる事に失敗したビッグフィッシュは、いわば裸城のようなもので、複数のKVから攻撃を受け、呆気なく火を吹き上げた。と同時に、その他のビッグフィッシュも一隻、同様に爆炎を吹き上げ、高度を下げ始めた。
 天衝本隊を中心とした集中砲火により、護衛機もろとも大打撃を受けたのだ。
「いい加減に落ちぬか!」
 龍零鳳(ga2816)が機を回り込ませ、ホーミングミサイルを切り離す。
 加速したミサイルがAMMの壁を突破してエンジン部分へと吸い込まれ、消える。再度の爆炎。推進システムに異常をきたしたビッグフィッシュは、海面へと落着するよりも早く、大爆発を起こして真っ二つに割れた。


「――来た」
 百地・悠季(ga8270)が呟く。
 主戦場を離れて飛んでいた彼女が気付いたのは、異常な速度で此方へ迫る光点だった。この速度、そして何よりレーダーに映る以上、ファームライドではない。もちろん、ファームライドが最初からステルスを解除している可能性もあるのだが。
『異常な光点が一つ‥‥おそらくステアーだわ』
「うぅん、ステアーが出ましたか〜」
 おっとりとした声で溜息を吐く、榊分隊所属、乾 幸香(ga8460)。
 だが彼女は、のんびりと間延びした声を響かせながらも、これから訪れるであろう激戦を思い、改めて気を引き締めた。
『ファームライドの姿はないのか?』
 漸 王零(ga2930)の問い掛けに応え、リャーン・アンドレセン(ga5248)が悠季の言葉に耳を傾ける。
『‥‥やはり、ステアーらしいですね』
 一瞬、逡巡する王零。可能であればファームライドから優先したいところであったのだが、ファームライドらしき影が無い以上、敵はステアーだ――彼が指示を出すや否や、総勢40名をも越える『天衝』各機が、一斉に動き始めた。
 圧倒的な加速性能を誇るステアー迎撃の為に編隊を組む彼等を、休む間も無く粒子砲が襲う。桜神羅 乃衣(ga0328)は自機を揺らすその攻撃に、奥歯をかみ締めた。
「さて‥‥この機体でどこまでやれるか‥‥いや‥‥やらなければ。皆の為にも」
 天衝遊撃隊長、暁・N・リトヴァク(ga6931)が攻撃の指示を出す。
 一直線に突き進むステアー目掛けて、天衝各方面から一斉射が加えられた。滑空砲や対戦車砲は掠りもしなかったが、その攻撃により、今まで一直線に伸びていたステアーの速度が「殺され」る。
 反撃とばかりに吐き出されるミサイルが、避けるKVに追い縋り、喰らい付く。
「くっ、これ以上は!」
 ロックオンキャンセラーを展開しつつ、ステアーへ追撃を仕掛ける五十嵐 薙(ga0322)。
 天衝四神隊も一分隊として、布陣を広く浅く取り、周囲から同時に攻撃を加える。
 彼等の目的は、あくまでステアーの撃破でない。
 あくまで、友軍が陣地を確保するまでの時を稼ぎ、なお且つ、自分達自身の被害を極力抑える事だ。その目的を実現する為、彼等は各小隊、班で一丸となって断続的な牽制を仕掛け続けた。
 断続的に攻撃を仕掛け続ける時間稼ぎは有用な戦法であったが、絶え間ない攻撃を仕掛けるが故に、消耗も激しい。友軍が陣地を奪還するのが先か、それとも弾薬が底を突くのが先か。


●流氷の海
 海岸線に並ぶ流氷が、爆発に煽られ、次々と崩れていく。
「流氷が進軍を助けるのならば、破壊してしまえば良いのですわ」
 低空を飛ぶ綾波 結衣(ga4979)のS−01。目立つ流氷を狙って打ち込まれたロケットランチャーがその表層を破壊し、或いは叩き崩していく事で、足場として用いる事のできる流氷は時間と共に数を減らしていった。
「こちら『赤い蝋燭』、スィーリン。前方に機影」
 スィーリン・ハルシャ(ga8187)の言葉が、後ろに控えるギュンター・ホフマン(gb3224)搭乗の岩龍を介し、各部隊へと伝えられる。彼女自身は後方に位置していたが、他の部隊が流氷の位置把握や、機雷の敷設に注力していた事もあり、情報処理に当たっていた彼女が一番最初に気がついたのだった。
 海中で敵機と接触し始めた一方、バグアは飛び石的に流氷の上を伝い、未だ人類から守り通している陣地へと向かっていた。
 ぐらりと揺れる流氷。その真下に揺らぐ、一機のKV。
「何もしらずにのこのこと歩いてるわね‥‥引き摺り降ろしてあげるっ!」
 魚雷を放つテンタクルス。ファルル(ga2647)の奇襲に足場を崩され、ゴーレムと数匹のキメラが、真冬の大西洋へと叩き落された。陸上とは違い、能動的に動くことが出来ないゴーレム。この隙を見逃しはしなかった。
「おいでなすったな!」
 隠れ潜んでいた武藤 煉(gb1042)が、サーベイジクローで流氷を押し出した。著しく機動性の落ちたゴーレムではこれを避けることは叶わず、流氷と流氷に叩き挟まれ、水底へと沈んでゆく。
「上陸部隊の連中と合流されてたまるかよ!」
 武藤の隣でテンタクルスを泳がせる明祇 優希(ga4256)は熱源ミサイルで一匹、また一匹と敵キメラを粉砕し、先行隊らしきキメラからの攻撃を食い止める。幾つかの海域で同時に発生した戦闘は、全体的には人類側有利に戦闘を進めていた。
 敵機襲来の報に緊張する中、古河 甚五郎(ga6412)からの飄々とした通信が届けられる。
『皆さん、お送りした地図は把握してますかね?』
『うむ! 把握しているぞ!』
 這い寄る秩序(ga4737)の豪快な笑い声が、通信機から響き渡る。
 今回は徹底的な持久戦を覚悟して、彼等ゲソレンジャーに限らず、多くの傭兵は他との有機的な協力を志向して準備を整えてきた。
『来たっ!』
 誰かが叫んだ。
 ソナーへの反応。
『皆さん、急ぐのでありますっ!』
 テンタコルス海兵隊の所属、美海(ga7630)がちんまりとした声で皆へ呼びかけ、爆発音の起こった地域へと向かう。その後ろに続く、ErfolgやLH水泳部といった部隊。
 彼等は、周辺の要所要所に機雷を敷設していた。
 もちろん、現行の機雷はSESを発揮する事が出来ず、接触したバグアに満足なダメージを与えうるものではない。しかし、水中である以上、機雷が爆発すれば音紋が周囲へと広がる。
 音の発生により、敵味方共に、一瞬だが周囲の配置がクリアとなるのだ。
「ん? 何だかおっきいな?」
 テンタクルスで海中を進む天草・渉(ga0015)は、ソナーの描写を眺め、思わず首を捻った。流氷を避け、突如として現れたビッグフィッシュ。
 更にはそれを取り巻き、数多の水棲キメラが泳ぐ。
「んなろーっ!」
 自機へ迫る魚雷を回避しつつ、彼はB3重量魚雷を自機から吐き出させた。
 直撃を受けるビッグフィッシュだが、一発や二発の直撃で沈む代物ではない。ならばと何名かの傭兵が流氷を攻撃して粉砕し、ビッグフィッシュの行く手を塞がんと試みる。
 何匹かのキメラは流氷に挟まれ、押し潰されもしたが、肝心のビッグフィッシュの前進は止まらなかった。攻撃を受けつつも無理矢理押し通ろうとするその様子からは、強行突破を狙う意図が露骨に表れている。
『何て頑丈な‥‥』
 思わず言葉を漏らす紅・サルサ(ga6953)。
 テンタクルスを中心とする水中部隊は接近するキメラをガウスガンで撃ち払い、次々と魚雷を放つ。
『シット! だが止めなきゃならねえんだろ!?』
 ビーストソウルを人型に変形させ、接近するキメラを粉砕しながら、マートル・ヴァンテージ(ga3812)はビッグフィッシュを睨み据えた。まさしく鯨と言うべき威容が、水中をゆっくりと突き進んでいた。


●作戦目的
「どれだけの戦力を投入してきたんだ?」
 既に何機目なのか解らぬキューブワームを撃墜し、佐伯 怜(gb3917)は思わず愚痴を零した。彼等榊分隊もまた天衝の支援に廻っており、他に余剰戦力があるとは言えない状態だ。
『クソ、そっちへ行ったぞッ』
 通信を飛ばしながら、ダニエル・A・スミス(ga6406)は歯をかみ締めた。
 ステアーは攻撃の隙を見つければ、ここぞとばかり彼等へ攻撃を加えて来る。彼は、標的にされた味方を支援する為、ブーストとマイクロブーストを同時に発動させ、ステアーの背後を追う。
「読めた‥‥」
 迫るステアーをじっと睨み、御山・アキラ(ga0532)は高分子レーザー砲を煌かせ、回避先を予測して試作G放電を射出する。すれ違いざまの一撃。彼女の読み通り、ステアーは試作G放電の只中へと突っ込んでいく。
 彼女の予測は正確であったが、ただ惜しい事に、G放電程度の攻撃力では、ステアーの足止めにさえなりえなかった。
「――来るか」
 反転するステアー。
 レーザーバルカンの光が、空を焼いた。コックピットの中、ステアーの銃口と眼があった。光が空を走る。これは、死ぬ――そう覚悟した彼女の機が爆発の中へと。
 感覚が、まだあった。ハッとして見上げると、辛うじて間に合ったダニエルや、他の隊員達がステアー目掛けて弾幕を張っていた。助かったのだ、その思いに頬を伝う雫。
 おそらく、ステアーは反射的に避けてしまったのだろう。
 紙一重の差で、レーザーはコックピットを焼かなかったのだ。
 一機、また一機と離脱、或いは撃墜されていく友軍機。既に半数が部隊から脱落している。これを半数もというべきか、それとも半数だけというべきか。だが、最初から彼等の目的としていた事は、敵精鋭を牽制で釘付けにする事だった。
 もう一息だ。
 天衝隊と榊分隊に所属する誰もが、己にそう言い聞かせていた。

「くっ、これじゃキリが無い!」
 舌打ち、宮武 征央(ga0815)はディフェンダーを振るって敵を切り裂く。
 敵の陣地目掛けて突入した部隊は、最前列に位置する塹壕の一部を確保し、陣地内部に展開するバグア軍と激しい戦いを繰り広げていた。先の爆撃から突入に至るまでの作戦はほぼ的中し、バグア軍を混乱させる事に大いに役立っている。
 しかし、バグアも集められるだけの戦力をかき集めてきていた。制圧に乗り出した部隊は、際限なく現れるかにも見える、徹底的な抵抗に悩まされた。
 同僚のラピスを支援し、じりじりと前進を続けるUVA。レヴィア ストレイカー(ga5340)もまた、弾幕によって敵に反撃の隙を与えぬように心掛けていた。だが、それでも隙は生じる。マガジンを交換しようとした隙を狙い、バグアよりの反撃を浴びせられる。
「させるか!」
 友軍の危機と見て取り、皐月・B・マイア(ga5514)はブースターで塹壕に飛び込む。巨大なチェーンソーを振り下ろせば、連続する刃が敵の装甲を寸断する勢いで削り取っていく。
「何でも見境無く奪って! お前達なんかに、奪わせるものなんか無いんだ!」
 敵陣地に突入したGargoyleやUVAの各部隊は陣地内で左右に分かれ、塹壕に沿うように戦闘を展開する。確かに、敵の抵抗は激しい。だが、塹壕制圧作戦そのものは、人類側がじりじりとバグアを押し込んでおり、優勢を維持していた。
 氷の台地が、突然に揺れる。
「さあ来いアースクエイク。釣り餌は最新鋭機だ!」
 氷床を粉砕し、現れる巨大なミミズ。アースクエイクの出現を、地殻変動計測器によって事前察知していたR・A・ピックマン(ga4926)は、ぽっかりと明いた巨大な口を紙一重で避け、飛び上がった。 
『今じゃ、やれえい!』
 J・B・ハート・Jr.(ga8849)の号令の下、Elevadoに所属するEQ対策班が一斉に引き金をひく。巨体を苦しそうに揺らし、かみ合わない機械音を吐き出しながら倒れるアースクエイク。次をしとめよう、そう言って起きあがるピックマンのKV、そのかける全身を弾丸の嵐が貫いた。
 機能を停止し、大きな音と共に倒れる。
 続けて響く、低空を飛ぶジェット音。耳を引き裂くその音に、シュワルツ・ゼーベア(ga8397)は視線を走らせた。
「‥‥一体どこから?」
 ステルス機能と、この攻撃力。
 おそらく間違いない。ファームライドだろう。
「こちらElevado、ファームライドによる攻撃を確認しました。ファームライドは低空を飛びつつ――くっ!」
 再度の弾丸が、KVの腕をもぎ取り、地を穿つ。
 彼には、主人との約束がある。こんな所でむざむざ死ぬつもりも無い。彼は、新鋭機体対応班の素早い到着を願いつつ、回避機動に移り、続く第二撃を辛うじて避ける。
 コックピットから地上を見下ろす甲斐。
『ちょこまかと!』
 彼の納まっているコックピットで、けたたましいアラーム音が鳴り響く。
「レン! 生身で受けた借り、たっぷり返してやるぜ!」
 ステルス状態だったファームライドの周辺で、G放電が光を放たれ、周囲に溶け込むステルス迷彩が放電攻撃によって揺らぐ。雪を散らし、急上昇して空へと舞い上がるファームライドだが、上昇すると同時にステルスが解除された。
「逃がしたか!」
 霧島 亜夜(ga3511)のウーフーが飛ぶ。
 彼のウーフーに追随する金城 エンタ(ga4154)がファームライドの後を追い、ソードウィングを翻す。仲間の援護を受けつつ、ディアブロのブーストが発動された。
「必中の機会、私の韋駄天で‥‥っ!」
 一閃。装甲に火花が散る。
 手応えは――いや、無い。掠っただけなのか。急激にUターンを掛けたディアブロの左翼を、プロトン砲の粒子がもぎ取って行く。バランスを崩しつつ、彼は地表ギリギリで体制を建て直し、辛うじて激突を避けた。
 その様子を見やり、蓮斗はにやりと笑みを浮かべる。
『へぇ、少しはやるんだ? けどね――』
 笑みを浮かべた彼の、ファームライドの背後から新たに姿を見せる影。五隻のビッグフィッシュが、護衛機に守られながらこちらへ向かいつつあった。


●撤退
 その通達は、余りに唐突だった。
「撤退? そんな、ここまで来て‥‥!」
 クリス・ディータ(ga8189)が悔しそうな表情で操縦桿を握り締める。
 制圧部隊は優勢に戦闘を進めており、もう一息で塹壕を確保できる状態にあったし、水際部隊は辛うじて敵の上陸を阻んでいた。ステアーやファームライドを相手には苦戦を強いられていたものの、相手も人間。疲労や消耗次第では離脱の可能性もある筈だった。
 だからこそ、彼等T−ストーン小隊は、新鋭機と戦う仲間を信じ、敵精鋭の退路を断てるよう配置についていた。
『UPCは、全部隊を退却させて、防衛線を構築しなおすんだって。これ以上は無理だから、包囲される前に陣を放棄して退却しろって‥‥』
 情報網の管理補佐に携わる久遠 里奈(ga0329)は、普段の元気そうな表情も見せず、静かに眼を伏せる。
『タイミングを失した、って事なのかな。悔しいね』
 御凪 由梨香(ga8726)が、ディータの心情を代弁するかのように呟いた。
 殆ど傭兵のみで構成された部隊だけで、彼等はビッグフィッシュ三隻を沈め、敵増援部隊に手痛い打撃を与えた。作戦に参加した傭兵の数から言えば充分過ぎる戦果と言って差し支えない。だが、結果として防衛線を押し返す事は出来なかった。
 太陽は、まだ頂上にも到達してはいなかった。

<担当 : 御神楽>




【 地下一掃 】

 ――研究所に踏み込んだ能力者達が見たもの。
 それはそこら中に散乱し、踏み躙られて泥だらけの書類と壁を穿つ無数の銃痕であった。

「‥‥どうにも、ひどいの一言ですね‥‥早くもとを絶ってしまわないと‥‥」
 事前情報と違う目の前の事実に、溜息を吐く楓華(ga4514)。
 研究所にたいした被害はないという情報もあったが、あれだけの大規模な戦闘を行なったのだ。中がどうなっているかくらいは、いくら覆い隠そうともわかってしまうものである。
「腐っていないのがせめてもの救いでしょうね。嗅覚まで刺激されたらと思うと‥‥ぞっとします」
 グリーンランドの冷気で凍りついたキメラの死骸を避けながら、前進するクリフォード・柊(gb4238)。このあたりの制圧は終わっており、能力者以外動くものは察知できないが、ところどころ穴のあいた隔壁の向こう側からは、かすかにキメラの鳴き声が聞こえた。

『聞こえますか? こちら歩兵小隊ゾルダートのエミリア・オルテンシア(gb4263)です。この音声はモニタールームから発しています』
『こちらエリザ(gb3560)。【Tel】より各小隊へ、制御室では約半数のモニターが使用可能。これよりを情報管制を開始致しますわ。現在当管制ルームから確認できる敵ポイントを伝達いたします‥‥』

 管制ルームに到達した能力者によって、研究所フロアに残存するキメラの所在地が伝えられる。
 前回突入時は研究所機密保持の題目を唱えられ、施設内の地図すら受け取れなかった能力者たちであったが、さすがに非難の矛先に耐え切れなくなったのか、研究員たちは渋々、上層階層だけであったが、見取り図を提供してきた。
「だってさ。役にたてたみたいでよかったじゃん」
「‥‥ヘッ! 俺たちが命張るってのに協力しない奴が悪いんだっての」
 その見取り図を獲得した張本人OZ(ga4015)は、空閑 ハバキ(ga5172)からのねぎらいの言葉を受けると、ナイフの刃をペロリと舐める。
 彼がどのようにして協力を引き出したのかについてはご想像にお任せするが、図面の存在によって情報伝達の速度は飛躍的に上昇した。
 研究所階層の解放に向かう能力者達は管制室からの指示に従って持ち場へと移動を開始する。

「レナスだ! 目標隔壁前に到着したぞっ! これから突入を開始する!」
「了解。そこから先の通信は困難になるわ。くれぐれも気をつけてね」
 ブラスト・レナス(gb2116)からの報告を受けて満足そうに頷く鬼道 麗那(gb1939)。【竜脈】と名づけた情報網を形成した彼女たちは、前線の各所に管制室から送られてくるデータを伝達していた。
 まったく同じ場所、そして同じ条件であったが、情報の集積具合で傭兵たちの動きは大きく変化する。
 直接戦闘をするばかりがなにもたたかいではない。
「ダンジョン探索は終わりってことね。‥‥ようやく文明的な戦いができそうじゃないの」
 彼女が独白を終えた時、一斉に隔壁を割る爆発音が木霊し、研究所を大きく揺るがした。


●爆発音のむこう
「全員突入! 失敗は繰り返せない! 昭子の分まで頑張るぞ、皆!」
『了解!』
 鈴原浩(ga9169)の号令の下、旗下のメンバーが巣へと変貌を遂げた部屋へと突貫する。
「突入完了。敵影はっ!」
 いの一番に突貫したリヒト(gb3222)が報告を伝え終わる前に、彼の肩を小型プロトン砲の炎が焼き切る。突然の激痛に顔を顰める彼へ、さらに畳み掛けるように砲撃が部屋を覆い尽くす。
「やれやれ、めんどくせえなあ‥‥あんたら、無茶しすぎだぜ」
 AU−KVの腕でプロトン砲を受け止める七海真(gb2668)。ついでスパークマシンで敵を牽制すると、隔壁の向こうで控えているメンバーに突入するように促す。
「クマッハッハッハッ〜〜〜! 汚物は消毒だァァァァァァぁぁぁああああ〜〜〜アベシッ!」
 その呼びかけに応じ、小銃をバラバラと撃ち放つモヒカン(gb2831)。キメラの脳天を彼の小銃が打ち抜くが、彼もまた小型プロトン砲に腹を打ち抜かれ、謎の擬音を放ちながらその場に倒れる。

「‥‥無茶するなって言われたのに。一人よりは二人、二人よりは三人だ。数で押した方が結局は早い」
「カンパネラ臨時学生騎士団、行くよ!!」
 だが、彼が作り出した隙に、部屋には十分な数の傭兵が突入を完了する。
 ミスティ・K・ブランド(gb2310)、緋沼 藍騎(gb2831)らの号令により、単独行動のドラグーン達はそれぞれ前傾姿勢をとり、遮蔽物の後ろに隠れる敵との距離を一気に詰めるべく、AU−KVの車輪を空回転させる。
「怖気付くなよ、かなた。突撃して、突き破る。ただそれだけだ」
「‥‥大丈夫、いける。‥‥いこう、『K』!」
 雑然とした部屋にエンジン音の多重奏が響く中、水乃緒・綾那(gb4134)の呼びかけに応える春河・かなた(gb4041)。彼女が『K』と呼んだ、自らが駆る漆黒のAU−KVの胸を小さく叩いた時、狭い部屋に並んだAU−KVが轟音をたてて、砲火の中を突き進んでいく!!
『アアアアアアアア!!』
 直後、部屋の中には叫び声と銃声、そして肉の裂ける音が、それぞれの存在を主張するかのように、大きく鳴り響いた。


●むこうの、モノ
 戦いが始まって一時間。
 情報を手にした能力者の攻撃は、次々にキメラが在する部屋の扉をこじ開け、瞬く間に虫型キメラの死体が積みあがる。
「目が見えなくて良かったかもしれないですねぇ‥‥これは」
 駆逐の済んでいる部屋を、乾 才牙(gb1878)らが、部屋の中の惨状に眉を顰めながらも、倒し漏れの無いように一つずつチェックする。
「通気ダクトに机の下、排水溝‥‥やるなら徹底駆除だ。一匹たりとも逃すなよ。出てこられたら厄介だ」
 言いながら、自らもガタガタと通気ダクトの蓋を空ける水円・一(gb0495)。もともとが機密性の高い施設であるためか、通気ダクトの中には幾重にも金属製の柵が備え付けてあった。
「‥‥なんで、こんな厳重な施設の深部にまでキメラが入り込んだのかな?」
 ダクト内部を横から見ていたひなた(gb3197)の質問に、不可解さからか、顔を近づけられた恥ずかしさからか、大げさなゼスチャーで「わからない」と返答する水円。
 彼ら能力者にとってみれば、グリーンランドにこんな研究所があると聞いたのも初耳である以上、内部にバグアが侵入している理由など知る由もない。
「妙といえば本当に妙だね。この部屋、この機密性‥‥そしてこのキメラ。まるで隔壁を破り、研究所内部を乗っ取るために‥‥」
「編集者の言葉じゃないが、行き過ぎた詮索はしないことだ。バグアだけでも厄介だってのに、身内を疑ってちゃ話にならない」
 水円は一通りゼスチャーをやり終えると、尚も疑問を呈するひなたを制し、部屋の隅に在していた大ぶりなロッカーを、中身を運ぶために乱暴にこじあける。
「ひ‥‥ひいぃぃぃっ!!」
 ――瞬間、泣き声と悲鳴を上げて、白衣を着た二人の研究員が転がりながら飛び出す。
「‥‥の、能力者か‥‥た、助かった‥‥」
「ここの研究員か?」
 なきつくように水円の足元にすがりつく二人に、彼は一瞬絶句したが、気を取り直すと地面に頭をこすりつける二人に手を差し伸べようとする。
「無闇に手を出さぬ方が安全だと思うがの」
 だが、その差し伸べられた手は綾嶺・桜によって払いのけられる。
 第1フェイズ中ならともかく、これだけの長時間キメラに占拠され、あまつさえ破壊された部屋において、ロッカーの中での生存者。不自然な存在を彼女たちは内通者と疑い、真偽を確認するために、ガラスの破片で研究員の一人の腕を唐突に切りつける。
「ひぃっ!!」
 突然の出来事に、甲高い悲鳴をあげる研究員。
 腕からは鮮血が滴り落ちることはなく、鋭利なガラスはその強靭な皮膚に弾かれた。
「何者じゃ!」
 研究員の口元がニヤリと歪むのを確認するまでもなく腕に力を入れ、薙刀をなぎ払う桜。研究員二人をそのまま両断せんばかりの勢いをもって放たれたその一撃は疾風を巻き起こし、部屋の書類がバサバサと天井に向けて舞い踊る。
「ッ、逃がさないんだよ!」
 頬に触れた風で、桜の一撃が回避されたことを知った響 愛華(ga4681)は、銃口を上に向け、トリガーを引く。
 フルオートショットガンから放たれた七発の弾丸は空に舞った紙を貫通し、研究員の細い腕に跳ね返って兆弾となる。そして研究員の腕は徐々に緑色へと変色し‥‥愛華との数メートルの距離を刹那の時間で詰める!
「な‥‥」
「危ないっ愛華!」
 予想だにしなかった事態に僅かに挙動が遅れた愛華をイスク・メーベルナッハ(ga4826)が庇おうとするが、彼女の足が動く前に伸びた腕は愛華を弾き飛ばす。
 悲鳴をあげる間すらなく弾かれた彼女の身体は隔壁をひとつ破り、壁にめりこむことで止まった。

『オワリダ‥‥終わりの時がキタンダ‥‥』
「‥‥どういうことだ、これは? こちら遊撃班! 応答してくれ管制室、謎の人型キメラが出現した!!」
 四肢を床につき、四足歩行のムカデのように徐々にその姿を変える研究員。騒ぎをききつけて部屋に飛び込んできた愛輝(ga3159)は、管制室に向けて声を発しつつ、同じく騒ぎを聞いて部屋にやってきた黒羽怜(ga8642)へ、
イスクを制するように指示する。
「いいか、増援が来るまで無茶はやめるんだ。こいつは‥‥」
「ええ、確かに終わりね‥‥愛華を傷つけた報い、味わってもらうわ」
 筋肉を隆起させ、四肢に獣毛をたなびかせたイスク、そして部屋に在する数名の能力者は、研究者の姿をした生物と対峙し、静かに動き出す時の流れを感じていた。

 その時の流れが全戦域へと伝わるのに、さほど時間はかからなかった。



●暗い穴の底
 ――時間は少し巻き戻る。

「巣穴への通路を確保したぞ! 落盤が発生する可能性は引き続きある。注意して進め!」  落盤の先に未だに大量のキメラの存在を察知した九条 命(ga0148)は、キメラに空けられるくらいならと、自らの拳で巣への横穴をこじ開けると、メンバーへ注意を促す。
 キメラ一体一体は脆弱だが、最悪敵の巣の中に単身で閉じ込められるようなことがあっては、死に直結しかねない。
「用心は肝要だけど、若いのに心配のし過ぎてると、眉間に皺が寄るよ命。‥‥さて、いっちょ慎重かつ大胆に攻め入ろうとしようか。‥‥ここは虫の居場所じゃないってことを思い知らせてやろうじゃないか!」
 たいして年も変わらないと思うが、笑いながら九条の忠告に頷く赤崎羽矢子(gb2140)は、武器を構えると、早速通路から部屋に溢れ出してきた虫型キメラ達をガトリングでなぎ払い、突破口を作る。
「それではいきましょうか皆さん。内部は蟲キメラの巣窟です。発見したら必ず‥‥えぐりこむ様に突き刺しっ! こね回すっ!」
 そして突破口めがけて、仲間と共に突入していく二条 更紗(gb1862)。緊張のあまりかどうかはわからないが、キャラクターと違うことを喋っていたような気もするが、今はさして重要な問題ではない。

「これは出席した全カンパネラ生徒の分! これは重役さん達を護った人達分! そしてこれは‥‥!」
「隊長、口上は後だ。‥‥凡そ敵の移動方向は理解できた。給料分の仕事はしようじゃないか」
 能力者が4人横に並んで通れるほど広い穴の中で、キメラの発生方向‥‥発生源を追っていたミステイク(gb2775)は、口上を述べながら彼を守る為にオーダーメイドライフルをふるっていた紫藤 望(gb2057)に礼を言うと、ひとつの分かれ道を指差す。
「キメラの親玉か‥‥鬼が出るか蛇が出るか、ひとつ見てやろうじゃねぇかあ!」
 御門 砕斗(gb1876)はその指し示された道を塞ぐキメラを刀で切り伏せると、後に続く能力者へ号令をかけた。

●熱意の先にあるものは必ずしも幸福だけとは限らない
 後方では、傷ついた能力者達を治療するための簡易治療室が設けられていた。
 世話しなく人が行き来し、雑然とした中に緊迫感が漂う――ここも戦場であった。
「怪我の回復をします。無理はしないで下さい」
「大丈夫?‥‥怪我見せて!」
 アルガノ・シェラード(ga3805)と神薙 咲夜(gb0180)が意識を飛ばしかける怪我人に必至で声をかけ続ける一方でレイミア(gb4209)は次の担当するべき患者を運び込む。重傷者を優先して適切に処置していく彼女達の判断は間違っていなかった。
 しかし、圧倒的に運ばれる数の方が処置を上回っていた。 
「神経を繋ぎます、少し我慢して下さい!」
 人手はいくらあっても足りず、月組に同伴していた澤本 咲夜(gb4360)も、治療に手を貸していた。
 と、その時直ぐ側のベッドで怒号があがる。
「あたしはまだ戦える!! やられっぱなしじゃ気が済まないんだよ!!」
 緊急用のパイプベッド上で能力者が暴れ出す。まだ戦えるとは言うが、包帯に滲む血を見る限りとてもそうは思えない。
「駄目だ!! ただでさえ重傷の奴をみすみす戦場に送れるか!!」
 重傷を負って尚前線へ向かうと暴れる大垣 春奈(ga8566)を、ガルシア・ペレイロ(gb4141)がしっかりと押さえ込む。
 激しく抵抗する大垣だが、全身を走る激痛は尋常ではない。最後には根負けし、ベッドに倒れ込んだ。
「畜生‥‥畜生‥‥」
 治療室に、大垣の悔しげな嗚咽がいつまでも響いていた。
 その気持ちは、恐らく怪我を負ったモノの共通した思いなのだろう。
「大丈夫です、やり返す時は必ず来ます。だから、今は傷を治してください」
 咲夜の言葉は彼女に届いたかは解からない。
 だが、少なくとも今はそれしか出来ない事だけは間違いないのだ。


●相手に犠牲を強いるのであれば、自らもそれを差し出せ
「炎の中華しっ闘士☆嫉妬ショタ参上!! 虫はぷちっと潰すに限るのだ〜♪」
 スブロフの火炎瓶を投げつけ、敵が怯んだ所に突撃し、100tハンマーで叩き潰していく白虎(ga9191)。
 ブンブンと振り回していくその姿は威勢がいいが、蟲の数も半端な数ではない。
 小隊単位で突出しすぎた彼らは、逆に蟲の大群に囲まれて踏み潰されそうになる。
「破邪斬断!! ‥‥お前たち、少し効率よく敵を倒すことを覚えろ」
 上に覆いかぶさっていたキメラを一閃でなぎ払う月影・透夜(ga1806)。彼は注意されたことに腹を立てているのか、助けてもらったことに感謝しているのか、ジタバタと両手を動かす白虎の頭を撫でると、洞穴とキメラの群の先に見える僅かな光に目を細める。
「おい、あれは出口か?」
「‥‥いや、違うな。照明にしては光が異質だ。それに進んでいった方向に建物はない‥‥」
 透夜は黒頭巾(ga7171)からの問いかけに、自らの頭の中に浮かんだ疑問を紐解くように、ゆっくりとこたえていく。

「透夜、いずれにしろ進んでみればわかることだ。‥‥援護を頼むぞ! 天都神影流 虚空閃!」
 透夜と同じく前線までやってきていた白鐘剣一郎(ga0184)は、思考と視界を遮るキメラをその刃で両断すると、旗下の傭兵を引き連れ、まるで木の葉でも払いのけるかのように、目の前のキメラを次々と斬り伏せていく。

「隊長、あまり無茶な突出は控えてください。この先の光に何があるのか、予想がつきません」
「ああ‥‥援護は任せたぞ。みづほ」
 みづほ(ga6115)は、剣一郎に飛び掛ろうとしていたキメラを銃で撃ち落すと、自らの腕にしがみついてきたキメラを引き剥がしながら注意を促す。
 徐々に大きくなり、鮮明さを増していくその光は――
 数えるのも馬鹿らしい程の虫型キメラと、ブヨブヨと醜く膨らんだ腹から、それを生み出し続ける巨大なキメラとなって、彼らの視界に姿をあらわした。
「これは‥‥っ!」
『オオオォオオオオ!!!』
 KVよりも一回り大きいかと思える巨大な体躯に、剣一郎たちが僅かにたじろいた刹那、巨大キメラはその不気味な体躯を動かし、悲鳴にも似た轟音を口から放つ。
 刹那、暴風が閉鎖された空間に巻き起こり、風に乗ったキメラの群が光のたもとに辿り着いた能力者たちを後方へと弾き飛ばす。

「‥‥っ! 泣きやみな! あたしらを邪魔する虫っころは全部ブッ飛ばしてやるよ!」
 五條 朱鳥(gb2964)は全身をキメラに覆われながらも、その場に両手をついて踏みとどまり、竜の咆哮を連続で轟かせると、眼前の虫型キメラが吹き飛ばした。


「『竜の爪』‥‥今の俺は、加減出来ねぇぞ!」
「相棒を傷付けた事をあの世で後悔しやがれ! この身に代えても焼き尽くすっ!」
 華組の姫咲 翼(gb2014)、アレックス(gb3735)の二人は、咆哮とも言える台詞と共に地を蹴り瞬き一つでミテーラへ一番槍を入れる。
 矢継ぎ早に振るわれた四本の刀が、ランス「エクスプロード」が女王の腹を突き破ると、ミテーラは苦しげな悲鳴を上げた。
「お前等にくれてやる慈悲はねぇ‥‥潰す!」
 そしてブレイズ・S・イーグル(ga7498)を先頭に、【ラーズグリーズ隊】のメンバー達が続けて吶喊した。
 振るわれたミテーラの巨大な鍵爪に傷付けられながらも、果敢に突進していくメンバー達。その甲斐あってか、ミテーラの動きが一瞬鈍る。
「ブレイズ兄! 一気に行くッスよ! 練成超強化!」
 その一瞬を攻め時と読んだ、虎牙 こうき(ga8763)はメンバー達へ次々と練成を施す。そして強化された武器が、ミテーラの体中に叩き付けられると、彼女は最後の抵抗とばかりに鎌のような爪を振り回すも地面ばかりを抉る。
 それすらも終わらせるべく、ブレイズのコンユンクシオに首を跳ね飛ばされミテーラは、ようやくその活動を停止させるのだった。

 ――だが、能力者達にそれを喜んでいる余裕は無かった。
 母を殺された怒りか、充満した血の臭いに酔ったのか、周囲を囲む虫型キメラ達が今までに倍する勢いで襲いかかってきたのだ。
 ミテーラに攻撃を仕掛けていた者達はその勢いに呑まれ、次々に傷ついていく。
 周囲の能力者が助けに入って救出された時には、華組にも、【ラーズグリーズ隊】の中にも、五体満足な者は殆ど存在していないような惨状であった。
 敵の牙は情報管制をしていた月組にも容赦なく襲い掛かっていた。
 それは、重傷を押して参加していた霧島 和哉(gb1893)にも平等に牙を剥く。
「くっ」
 眼前に迫る凶刃に覚悟を決めた時、満足に動かぬ筈の体が真横に動いた――否、突き倒された。
「だい、じょうぶね? でもこれ以上は、不味いわね」
 見れば、管制官の鬼道、そして護衛についていた天戸 るみ(gb2004)が咄嗟に突き倒しその身で彼を守っていた。
 しかし、これにより鬼道は右腕を、るみは左足を抉られる重傷を負い、撤退を余儀なくされる。
 ――同時に遊撃班から伝えられる「謎の人型キメラ出現」の報。
 この現状ではこれ以上の虫型キメラ掃討は難しいと判断した能力者達は、落盤を再度引き起こして入口を封鎖せざるを得なかった。
 通常の依頼などで別途掃討作戦を行う必要があるだろう。その時こそ、この屈辱を晴らす、――誰かもがそう胸に秘めながらその場を後にした。


●そして場所は戻り、地下通常研究部分――
『こちら管制室! 研究所内部でトラブル発生。敵は既制圧、資料集積エリアに向けて進行中です! 保全班は作業を覚醒状態で行なってください。繰り返します‥‥』
 別ブロックから爆発音のような音が聞こえてから数十秒後、
 研究所内部には管制室から緊急連絡が繰り返し述べられていた。

「‥‥だってよ、どうする、いいんちょ?」
 各部屋から運びこまれてきた書類を倉庫に詰め込む作業を行なっていた篠崎 宗也(gb3875)は、アナウンスの語調から状況が差し迫っていることを察すると、運び場所を指示していた赤霧・連(ga0668)に質問を投げかける。
「ふふふ、ご心配なく篠崎サン。お見せしましょう‥‥友情のバケツリレーですっ☆」
 なぜか悪役っぽく笑った赤霧の元気な号令の下、【放課後クラブ隊】の面々が台車やバケツリレーを駆使して次々と資料を集め、運んでいく。
「って、これ全部運ぶのかよ‥‥」
「――大変そうですけど頑張りましょうゼラスさん」
「‥‥よっし! お前等、やるぞ!」
 ――そんなゼラス(ga2924)と恋人であるファティマ・クリストフ(ga1276)の、戦場とは思えないほのぼのとした情景を挟みながらも、彼らは着実に作業をこなしていった。

「ラブコメ反対! ‥‥ったく、緊急警報が鳴ってるんですから。研究の成果は真面目に‥‥」
「‥‥管理、お疲れ様だ。そのまま誰がどこに資料を持っていったのか、しっかりと記録してくれ」
 んなほのぼのとした空気に研究の成果に思いいれのある椎名廉(ga7878)は一喝を入れようとするが、鯨井レム(gb2666)のねぎらいの言葉によってそれは中断することとなった。
「それはちゃんとわかってますよ。でもみんな少し‥‥」
 椎名はレムのねぎらいに返答しようと言葉を紡いだが‥‥耳に飛び込んだ、明確な違和感に言葉を止める。
 隔壁が突き破られるその轟音は、既に彼女の耳に入り込むほど、近くから聞こえてきた。


●異質なるモノの結末
「悪いキメラは消毒だーなのでありますよ」
「近付くな! こいつは‥‥どうにもヤバそうだ」
 僅かに人間の顔を残した、体長6メートルを超す化け物の姿を眼前に、ガトリング砲を放つ美空(gb1906)を制しするベーオウルフ(ga3640)。
 ベーオウルフが部屋に突入してからもうかなり時間がたっている。数の上では圧倒的に能力者が上。
 聞こえた銃声や、彼が実際に目にした攻撃だけを見ても、相当数の攻撃が命中したはずだ。
「効いていないのか‥‥こいつは?」
 すべてプラスチック弾のようにはじかれるガトリングの弾を視界に、屠竜刀を握り締めたまま一歩を踏み出さない。
「ガドリングの威力がないから弾かれるだけか? それとも‥‥っ!」
『ヒ‥‥ヒヒャッ‥‥ヒャハハハハッ!! おワりダ!! オワリダ何モカモ!!』
 発狂したような叫び声と共に振り落とされた伸縮する腕をすんでのところで回避する。
 無茶苦茶に暴れるその巨大なモンスター‥‥そう、モンスターと形容することが相応しいその『元』研究員は、能力者と戦闘を繰り広げながら、幾つもの隔壁を破壊し、施設内部を移動していく。

『対象2体はもう資料室と2部屋隣まで接近しています! これ以上近づけないでください!』
「‥‥簡単にいってくれますね。こちらも研究所にたまった汚れは綺麗に大掃除といきたいですが‥‥この汚れは、どうにもしつこそうですよ!」
 管制室から飛んでくる声に反応し、小銃を放つ奉丈・遮那(ga0352)。敵の急所を狙って放ったその一撃は、分厚いフォースフィールドを打ち抜き、脚を貫通する。
『ゴオアアアアアア!!!』
「わかりやすい苦しみ方ですね。それじゃ‥‥こちらも遠慮しないでいきましょうか皆さん!!」
 打ち抜かれた脚を抑え、その場で転げまわる敵を見て、奉丈は部屋に集まった能力者全員へ射撃の号令をかける。
 物理・非物理を問わぬ射撃の嵐が轟音と共に覆い尽くし、段ボールにおさめられた書類が部屋にばらまかれる。
 
 そして銃声がやんだあとには‥‥ジュウジュウと体から音を立てながら、緑色から茶色へと変貌していく、敵の姿があった。

「これは‥‥‥‥」
『オワリダアアアアアアア!!!』
 通常のキメラとは明らかに違う『消滅』に、美空は近付いてその亡骸を確認しようとするが、
 刹那、壁を突き破りもう一体の化け物が彼の眼前へと現われる。その身体は別の能力者班にやられたのか、既に傷だらけとなっていたが、それでも研究員の面影を僅かに残したソレは、ゾンビのように彼の喉笛を食いちぎろうとする! 突然のことに、対応できない美空。
『オワ‥‥』
「単独でよく暴れた‥‥だが、暴れるならもう少し頭は使うもんだぜ」
 研究員の頭が榎木津 礼二(gb1953)のライフルによって打ちぬかれる。研究員の口は能力者へと届くことはなく、その場に倒れ伏した。
「まだ生きているぞ。 拘束して連れて行くなら連れて行くことだ」
 地面に倒れてうずくまる研究員に近寄っていく能力者。何者かはいまだにわからないが、拘束することができれば今後の戦闘において大きく役立つはずだ。

『危ない!』
 不審な動きを察知した能力者から発せられた警告の声は僅かに遅く、研究員は奥歯に仕込まれていたデススイッチを押す。v  ――次の瞬間、体内に仕掛けられた爆弾が爆発し、研究員を拘束していた何人かの能力者達がそれに巻き込まれ、吹き飛ばされていた。

『‥‥ヒャハ‥‥ヒャハハ‥‥ハ‥‥』
 ――断末魔のように、彼は最期まで笑い続けていた。


 新たなる脅威をまざまざと見せ付けられた能力者達は、それらへの対策を練るため、研究所の物品や人型キメラの死体、そして【金色要塞】のアレクサンドル・オルタ(gb3844)とウルスラ・ゴルドバーグ(gb3759)によって集められた虫型キメラ、そしてその親であるミテーラのサンプル等をゴッドホープへと輸送する事を決めたのであった。


<担当 : ドク、みそか>



<監修 : 音無奏>





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