入学式狂想曲
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12月11日の報告

<報告書は前編:後編から成る>


【前線対応】
●開戦
 講堂にてティグレスが開会の挨拶をするより少し前、だだっ広い氷床を眼下に哨戒任務に当たっていた航空機との交信が不意に途絶えた。可能性はいくつかある。何故かブースト全開で交信圏外へと飛び去ったか、敵のジャミングか、撃墜されたか。どの可能性にもちらついてくるのは、バグア。どのみち、何か良いことがあって交信途絶、というのはあまり無いことだった。
 軍、及び傭兵の行動は迅速だった。哨戒機通信途絶の報は、シナプスを駆け巡る電気信号のようにUPC軍の間を走った。洋上の空母からは艦載機が飛び立ち、陸上待機していたKVが防御陣地構築のために動き回る。この極寒の地で、通信途絶からまだ五分と経たないというのに。つまるところ、この入学式には皆が違和感を覚えていたのだ。バグアの襲来は、確かに唐突だった。確証もなかった。しかし、誰もが心の中で備えていた。その備えが、あらゆる要員が迅速に動けた理由だった。
 また、迅速に動かなければならない理由が天候にある。この時期、日中であっても薄暗い、極夜と呼ばれる現象がみられる東グリーンランドの天候は、幸いにも晴れ。バグアの大規模部隊に襲われたとき、必ずと言っていいほど重度のレーダー障害に見舞われる人類にとって、見通しの良いこの状況で戦えることは、僥倖と言えた。万一、ブリザードでも巻き起ころうものなら、地獄絵図は想像に容易い。
 敵は人類が目下検証中の技術でこちらを探知攻撃してくる。対してレーダーという目に砂を掛けられた人類は、霞んだ己の目で捉えて叩き伏せるしかない。ならば、この戦闘も繰るべきは防衛ラインを展開した上での至近戦。重要なのは、失った目を補う耳だった。
 タシーラク北で待ち構える傭兵集団月狼が核となり形成する情報網は、今や戦場になくてはならないものとしてこのときも形成されていた。この情報網によって、能力者は戦線という巨大な体の一部となり、自由に、かつ全体の思惑通りに機体を動かすことができる。ともすれば大混乱を招きかねない月読のような情報網が発案後これまで成功してきたのは、網の一端を担う各小隊の長および隊員、そして個人が情報の精査判別において的確な判断を下しているために他ならない。そして何より、データリンク作業に従事する電子戦機の力があればこそだった。
 そうこうしている内に、奴らは矢張りやってきた。超低空から遙か空まで、雷雲のようなバグアの軍をその視界に収め、防御陣地前方にせり出したKV部隊とM1戦車を主力とした陸軍の一個旅団が、俄に殺気立つ。その上空を僚機と共に飛ぶウーフーの姿があった。敵情報の把握のためにやや前方に出ていたファルロス(ga3559)は、敵の動きが妙なことに気付いた。
「侵攻速度が、遅い‥‥?」
「どうした? そろそろ戻らないとまずい。敵も進んでるんだ」
 護衛を兼ねるヒューイ・焔(ga8434)が、目前まで迫ろうとしているバグアを見て苦笑しながら尋ねる。
「これまでの奴らのデータからしたら、本当ならもうここで引き返さなければならない‥‥でも、なぜ‥‥?」
 それはほんの小さな疑問だった。少し引っかかるという程度の。ただなんとなく、意味もなく遅いだけか? もしかしたら寒いから動きが鈍いのかもしれない。しかしこれに意味があるとしたらどうなるだろう。ファルロスは首を傾げ、そして何気なく眼下へ視線を落とした。一面の雪原に、遮蔽物は――。
 ウーフーは弾かれるように旋回すると、僚機を引き連れ防衛ラインまで下がり始める。
 もしかして、と思っていた者はいた。ファルロスの報告を聞いて、それが確信に変わる。敵はこれまでの突撃戦法ではなく、遠距離から人類側戦力を削りに掛かってくる、と。分厚い防衛ラインを構築し待ち構える人類の戦術は、FRなどの敵エースが後続を引き連れながら吶喊というこれまでのバグア流に対応させたものだった。新鋭機が現れたという未確認情報も背景にある。
 だが、この一面の平原で、射程に勝るバグアがじわじわと嬲るような戦術で掛かってきた場合、その被害の程は計り知れない。
 バグアの侵攻は、まるでどす黒い津波だ。本来真っ白な世界を、飲み込むようにして黒く染め上げていく。その津波が、不意に止まった。ぴたりと、空を飛ぶワームお得意の空中静止。相対距離は約1キロメートル。時間が止まったのかと錯覚を覚える光景は、嫌な予感が当たった証明だった。初手を取られるのは致し方ない。バグアの兵器はこちらより射程が長いのだから。だからこそ堅固に守って飛び込んできた敵を打ち砕くのが最適だったのだ。このように、止まられてはいけなかった。
「避けろ!」
 戦域に展開する各隊の指揮者皆が叫んだようだった。それで、人類とバグアの時間が動き出す。ジャミングが一際酷くなり、レーダーがホワイトアウトした瞬間、黒い集団が一斉に光った。対空対地プロトン砲の一斉射撃。こちらの兵装の何一つが届かない位置から、空中に止まり射撃する。雷電をはじめとする防御力に自信のある機体が前に出て、光線の雨を防ぐ。あるいは避ける。その一方、M1戦車はなすすべ無く大穴を開けられていた。
 卑怯だなどという声はない。奴らはそういうものだ。こちらが少し届いたと思えば、すぐにその上を行って絶望を煽る。が、能力者の大半が感じたのは、絶望というより怒りだった。或いは呆れも混じっているだろうか。
 どんな作戦で来ようとも、バグアは全て叩き潰す覚悟で、ほとんどの者が配置についている。生身の能力者がキメラを倒すように、KVに乗った能力者がゴーレムやHWを倒すように、戦術には戦術で対抗して目に物を見せてやればいい。それに、この状況を崩して乱戦になれば、少なくとも対等になる。
 だが、現状でそれは難しい。先ほどのウーフーのパイロットが危険を感じた通り、一切の遮蔽物のない雪原は、バグアの射撃演習場と化し、的であるKVや戦車をはじめとする各種軍用車両を破壊していく。撃って届かないのなら、と飛び出した一機は、集中弾を受けて四散した。
 巻き返すにはどうしたら良いのか。司令部は考える。現状は、お互いに軍を止め、撃ち合う格好だ。射程で劣る人類に勝ち目はない。
 勝ちたければ、こちらが攻めること。それはひたすらシンプルが故に、ひたすら過酷な命令でもあった。初手で乱戦に持ち込めなければ、敗北は決すると見ていい。だが、それしかない。
 司令部から発せられた指令は全軍を駆け巡る。

●突破
 陸空それぞれに分かれたKVは、煙幕弾を使用し一斉に飛び出した。力業で戦線を押し上げ、その射程内に敵軍を捉える目的だ。
 軍がばらまいた煙幕に紛れて先陣を切ったのは、月狼第三中隊だった。三つの小隊からなる第三中隊は、敵対空放火により散り散りになった隊をすぐさま立て直し、中央から直進。敵のまっただ中へと突き進んでいった。KVにとって、たった500メートルを詰めるという行動は一瞬のことだ。しかし、機体を掠める砲火の中、隊員達にはこの煙幕が地獄まで続いているように思えたかもしれない。
 煙幕を抜けた瞬間、第三中隊はつい一瞬前まであれほど遠く長く、決して手の届かないところにいたバグアの群れを、そのコクピットに響き渡るオーラルトーンと一緒に見つめていた。同時に、白い大地へ墜ちていく友軍機を確認。先行していた軍の機体と気づき、内心で詫びと謝辞を述べ、深井 零(ga4529)は息を吸う。
「届いた。制空権を我らの手に。全機攻撃開始‥‥!」
 十三人の指は、一寸の躊躇いもなくトリガーを引いた。ある者はミサイルを、ある者はガトリング砲を、プロトン砲の掃射の中をかいくぐるようにして、ぶちまけていく。左翼では404隊が、右翼では榊分隊がそれぞれ同様に空の敵に一杯食わせていた。
 上空での交戦開始にやや遅れて、地上部隊も距離を詰める。空の味方が決死の覚悟で交戦している今、地上への攻撃はやや緩んでいた。煙幕で攪乱し、ブーストを使用して一気に詰め寄っていく。数百ものKVと戦闘車両が一斉に動く様は、バグアの黒い津波に負けるとも劣らない迫力があった。合金が軋み、エンジンが唸りを上げ、本来静まりかえっているはずの雪原に、鋼鉄のボディがあげる鬨の声が無数にあがる。
 空は今のところ拮抗していた。HWの対策はほぼ万全であり、その数にさえ注意していれば、多少の消耗はあれども大打撃を受けることはない。CWは厄介だが、着実に数を減らしていけばいずれ無力化する。問題は陸だ。まだ姿を見せていない神出鬼没のアースクエイクや、容赦ない攻撃を見せるタートルワームなどの陸上ワームの対応は、どれも難しい。また、いくら味方が空で奮戦していても、陸上のKVが巨大な的であることに変わりはなく、一刻も早く距離を詰めたいというのが全員の認識で、ほぼ間違いないだろう。
 あちこちから聞こえてくるのは、ブースト使用時の吸気、噴射音と、友軍がプロトン砲に倒れて発する爆発音。いつ自分が砲撃されるかわからない緊張感をものともせず、次々と陸戦機がその射程内に敵を捉えていった。休む間もなく武器を構え、余裕綽々で上空に砲撃するタートルワームに集中弾を浴びせかける。
 たまらず、バグア軍が動いた。
 空中で静止していた各種ワームは忙しなく動き始め、陸上ワームも動き回るKVの対応に追われ始める。
 このままならば比較的楽に押し返せるかもしれない。そんなことは、誰一人として考えない。チューレ基地の戦力は未知数となっている。なら、この程度で終わるはずがない。
 とはいえ、戦線は膠着した。じりじりと削られていく最悪の事態は、被害を出しつつの決死の突撃によって防いだのだ。

●後方支援
 前線が乱戦の様相を呈し始めるのと時を同じくして、防衛ライン後方が慌ただしく動き始める。僅かではあるが防衛ラインが急遽押し上げられたことで、陣地再構築が急務となった、いわゆる後方支援部隊の人手は、足りないくらいだった。
「その弾薬は西研。それもだ。燃料もがんがん持ってきてくれ。月狼のどの小隊かわからない? 八だ。大丈夫か? しっかりしろ」
 補給拠点を引き受けるハニービーの玖堂 暁恒(ga6985)は、次々と押し寄せる情報から、救助要請及び補給要請をくみ取り、周囲に指示を飛ばしていた。
「班長、救助要請です。左翼後方のM1戦車が中破し、乗員が取り残されていると」
 ステラ・レインウォータ(ga6643)からの報を受け僅かの間逡巡した暁恒は、周囲を見回した。誰も彼も忙しく動き回っており、とても今救助に割けそうな人員はいない。かといって指揮を執る自分が動くわけにはいかない。
「誰か――」
「該当車両と思しき戦車のハッチをこじ開けた。操縦士が死亡、全員連れ帰る。ついでに、機体を見てくれねえか。何発か貰ったらしくてな」
 割り込んできたのは、クライブ=ハーグマン(ga8022)だった。
「助かる」
 今頃彼の機体へ、救護、修理双方の部隊から早く来いと知らせが入っているはずだ。ほっと一息つく暇もなく、ハニービーは再び補給作業に戻った。
 まだ戦闘は始まったばかり。忙しくなるのはこれからだった。

●メイズリフレクター
 戦いは、ボクシングに喩えるならノーガードでの打ち合い。一撃入れたかと思えば、逆に一撃飛んでくる。獅子奮迅の攻めを見せる人類は、僅かに押し勝っている。ともあれ概ね拮抗している戦場。一瞬も気の抜けない戦いは、既に一時間以上も続いている。
「‥‥何か、見えて来たな」
 ワームを一機処理し、敵陣に目を向けた榊兵衛(ga0388)が漏らす。彼が目撃したのは、空に浮かんだ煌めく何か。その群れだった。
「キューブワーム?」
 と返すのは編隊を組むクラリッサ・メディスン(ga0853)。
「いや、まさか、メイズリフレクター‥‥? 噂には聞いていたが。気をつけろ、事実なら攻撃を跳ね返す」
「跳ね返す‥‥? それはまた」
 現れたものは一見キューブワームのようだった。キューブワームよりも一つ一つが小さく、その内部に六面体のコアのようなものを持つそれは、一度だけ北海道上空で発見されたことがある。そしてその際に見せた特殊能力から、メイズリフレクター、と名付けられた。
 MRは、人、バグアが入り乱れる戦場を、物見遊山の観光客のような呑気さで突破しようとしていた。美しい六面体が群れをなして掠めていく様子は、異様な不気味さをもって人類に圧力をかけようとしていた。
 得体の知れない相手に、戦線を突破されるわけにはいかない。
 MRがいよいよ前線を突破しようとしたとき、UPC軍は余力のある者にメイズリフレクターへの牽制攻撃を命じた。MRが攻撃を受けるとそれを反射し、更に自身は分裂するという恐るべき特性はもちろん知っている。だが、一点に火力を集中させても無限に増えられるのか。知覚攻撃と呼ばれる攻撃手段ではどうなのか。何にせよ、攻撃もせずに突破されるなどという事態だけは意地でも阻止しなければならなかった。
 バルカンをはじめとした、比較的小威力の兵器が次々と発砲され、弾丸がのんびり飛行するMRに注がれた。
 攻撃を受けたMRが、戦域のあちこちで静止する。その瞬間、物見遊山の観光客は悪意あるテロリストと化した。己が放った弾丸によって被弾する者が相次ぐのをあざ笑うかのように、MRは爆発的にその数を増やした。前後左右斜め、ありとあらゆる方向に、増殖していったのだ。
 増殖の速度は速く、五分もあれば他のMRと同じ姿になる。
 戦域上空で群れ同士が繋がり合い、迷宮が出来上がっていく。空飛ぶ巨大な障害物。慣性制御で急発進急停止もお手の物、というバグア側兵器には問題なし。が、最高速から次の瞬間に静止するなんて芸当のできないKVにとって突如生まれた障害物は死活問題だった。必然的に速度を落とし、MRに激突しないよう慎重にならざるを得ず、また下手な発砲はMRの更なる増殖を意味する。
 空は、バグアに奪われた。
「なんて、思うわけはありませんわね」
 サイレントヴェール隊長、パチェ・K・シャリア(gb3373)が不敵に笑う。
「既にここまでやられてしまった、というなら、好きなだけ調査させてもらいます。全機、とにかく敵の特性を探りましょう」
 それまで空で敵に当たっていた能力者は、そのほとんどがMRへの対応を迫られた。が、既に最悪に近い状況になっていることが、逆に彼らに余裕を与えた。無論戦況はバグア側に傾いているが、MRを攻略すれば押し返せる。そう踏んで、能力者達は雪よりも白い軌跡を描いて空を駆ける。
 404隊は、調査部隊と護衛部隊とに別れてMRの対応に当たっていた。
「ウザったいねぇ‥‥纏めて燃やしちまうか?」
 V・V(ga4450)はMRの群体の一つへ的を絞ると、上空から機首を下げ、降下しつつグレネードを発射。MRへの弾着より早く機首を上げると、機体をロールさせ効果確認へ移る。MRに着弾したグレネードが爆炎を吹き上げるのとほとんど同時に、MR内部で青い火花が散り、そのまま下方に向けて、小さな稲光のように走った。
 あらゆる調査によって、いくつもの可能性が現れては消えていく。
 早坂恵(ga4882)は、その反射の性質と増殖の速度を知るために、ガドリング砲を撃ち込んだ。斜め45度の角度からだと、青い火花も同様に斜め45度向こう側に飛んでいく。また、つい五分前に増殖を開始したMRが、既に他のMRと同様の姿になっていることを確認。情報網に伝えた。

 戦線後方、補給拠点に、一機のKVが降り立った。タラップから飛び降りたパイロープ(ga9034)は、最古&斧小隊にカレーを渡されてぽかんとしていたが、自機の損傷を見て首を傾げる。MRが反射した火花によって被弾した岩龍は、尾翼装甲を少しはじき飛ばされるだけで済んでいた。
「さて、お医者様の出番だな。うん、これならすぐに出られる。カレーを食べて少し待っててくれ」
 整備に飛んできた者の声もスルーして、パイロープは考える。反射の元になった攻撃は、確かバルカンだったように思う。小威力とはいえ、完全に被弾していたから、尾翼が吹き飛んでいるくらいは覚悟していたのに。
「ねえ、バルカンがここに直撃したら、どうなるかしら」
「距離にもよるが、直撃なら貫通する、かな」
 尾翼に何かを打ち込んでいた遊佐アキラ(ga7091)は、手を止めずに答えた。
 パイロープの受けた衝撃は、直撃クラスだった。となると、反射攻撃は十割の威力を返すものではない?

 幾度もの試行錯誤の結果迷宮をより分厚くされながらも、知覚兵器が反射されない、との情報を共有した能力者達は、その攻撃を知覚攻撃に絞って更に調査を続ける。知覚兵器をもたない者は、調査機の掩護に回った。そこに、反射ダメージは十割ではなく、おおよそ二割であるという情報が加わる。
「じゃあ、八割はどこにいった?」
 どこかの誰かが呟いたそれは、当然の疑問だった。ダメージになっていると踏んで、レーザーを連射する者が続出するが、実際は違った。そのレーザーの連射の結果、MR周辺が赤く輝きだした。FFのように見えるが、とにかく色が濃く、どこかゴム質のような印象を受ける。ゴムっぽい、というところで、皆が気付いた。
「八割は吸収されている」
 パチェが苦々しく呟く。
 IMPは、必ず核となっている親ワームがいるはずだと踏んで、露払い以外に一切の攻撃をせずに索敵に当たっていた。
「十二面体のコア、間違いない、あれだ。皆、見つけた!」
 地上からスナイパーライフルD−02を構え、上空を睨んでいた鷹代 由稀(ga1601)は、MRの群れの中に十二面体のコアを持つものがいるのを確認し、小隊に知らせる。全体が赤く濃いFFで包まれたMRは、生半可な攻撃ではコアへのダメージを与えられないだろう。
「敵親ワームに攻撃を仕掛けます」
 緋霧 絢(ga3668)のカウントダウンで、小隊全機が十二面体目掛けて攻撃。FFにダメージをほとんど吸収されるも、二度、三度と繰り返すと、親ワームは粉々に砕け散った。周囲のMRが輝きを失う。MR撃破の情報は月読を伝わって全軍へと送信され、FM−REVをはじめとする迷宮対応部隊が次々とMRを撃破していった。
 だが、確かに親ワームを砕いたはずなのに、親以外のMRが消えない。親のように砕けない。ただ輝きを失っただけで、依然としてその場で壁の役割に徹している。
 戦域のレーダー全てがトんだのは、そのときだった。
「な‥‥無‥‥!」
 誰かが叫んだが、ノイズ混じりのその声は判別も聞き取りもできないほどに酷かった。CWの数は大分減っている。電子戦機のアンチジャミングも最大出力で動作している。だが効果がない。原因はMRだった。親を破壊され、停止したかのように思われたMRのコアが、全て六面体から八面体へと変貌していた。それら全てがCWと同じようにジャミングを行っているのだった。
 MRが復活した。すぐ側にいる者としか無線連絡もできない状況下、ソニックフォンブラスターを積んだ機体がどうにか声を掛け、知覚兵器が無数にMR目掛けて飛んでいく。が、MRは例の濃いFFを展開すると、攻撃を物ともしなかった。鉄壁と化したMRは、集中砲火で破壊するのが精々だった。増殖こそしなくなったものの、こうなる、とわかっていたら決して手は出さなかっただろう。牽制攻撃を仕掛けた時点で、MRはその目的の大半を達成していたのだから。
 人類の混乱を見て取ったかのように、敵が一斉に前に出始める。

●嵐の影
 先の見えない防衛戦が始まった。
 MRを盾にして、地上へ攻撃を仕掛けてくる大小様々なHW。MRと時を同じくして現れるようになったサンドワームは、小型のアースクエイクとでも言うべき姿で、KVを一飲みにしようと足下から現れる。KVならばどうにか回避できるのだが、レーダー及び無線機に重度の障害のある現状では、戦車をはじめとする車両類には無理な話だった。趣味の悪いもぐら叩きのようなサンドワームの攻撃によって、車両部隊のほとんどが潰されていく。
「前にばかり集中するな。足下から食われるぞ」
 KVによって塹壕を掘り、バリケードを展開。身を隠しつつ後方から面制圧を図る、『門』と名付けられた作戦を指揮する藤村 瑠亥(ga3862)の声だった。早々から協力者を募り、素早く作られた塹壕は急造の割りにはよくできており、KVの被弾を抑え、敵に効率よく打撃を与えることに成功していた。しかしサンドワームの急襲は、塹壕内で行動に制限の出るKVにとってはまさに天敵と言える。
「呼吸を‥‥乱される」
 クリストフ・ミュンツァ(ga2636)は、塹壕内からスナイパーライフルにて弱った敵を確実に処理してきたが、その成果が伸びなくなってきている。それまでは前方のみに集中していればよかったものを、サンドワームの急襲によって足下に注意を払う必要が出てきたからだ。
 彼のみではない。門から放たれていた無数の弾丸は、一様にその数を減らしていた。
「跳んで、足下!」
 朝河 ヒカリ(gb2289)は叫んで、咄嗟に飛び上がったクリストフの足下から現れたサンドワームにガドリング砲を叩き込む。既に手負いだったらしいサンドワームは力を失い、塹壕内にだらしなく伸びる。
「助かりました」
「お互い様ね」
 後方の要だった門の働きの鈍りは、前線にも着実に影響を与えていた。最前線で部隊連携を密に取って戦う【西研】、及びAstraeaは、じりじりと後退しつつあった。敵の弾幕は厚く、両隊共に損傷が激しくなってきている。前線で戦う者の中には、あと一発でも食らえばあわや、という機体も増えている。バグアの物量に陰りは見えず、確かに撃破しているのに雲を掴むような空虚さが、戦場を包み始めていた。
 それでも、人類は奮戦していた。まず間違いなく最重要戦域となったタシーラク北防衛ラインは、その命も省みない勇敢な傭兵によって支えられている。この悪状況下で、敵ワームのおよそ三割を撃破。通常ならば人類側の勝利はほぼ目前。だが、変異したMRの効果はあまりに絶大だった。更に、不運は重なる。それがバグアの作った必然なのかどうかは置いておくが、とにかくそのとき起こってはいけないことが起こった。戦場を、突如として猛吹雪が襲ったのだ。たった今まで雲一つ無かった空。それが嘘のような光景だった。
 レーダーは死に、無線機もろくに使えない、頼りになるのは操縦者自身の目。これ以上どうすれば悪くできるのかと笑いたくなるような状況で、自機の腕すら白く霞むような吹雪は、まるで天がバグアに味方したかのようだった。
 まるで目をつぶっての戦闘。当然のように、戦局は一気に傾いた。
 【西研】前陣にて奮戦していた音影 一葉(ga9077)は、自分の横を突き抜けようとする何かを発見。その先には、後陣にて指揮を執るドクター・ウェスト(ga0241)の機体。
「ッ‥‥ドクターに‥‥」
 隊長機を落とされては終わる。一葉はラージフレアを射出、その後すぐさま機体を転進。シーカーが落ち着くのも待たず、目測で何かに向けて有りっ丈の攻撃。既に対象は吹雪の中に消え、一葉の眼前へと迫っていた。
 敵味方識別装置が送受信し合う信号が、一つ途切れる。
「信号消失? 誰かね?」
「‥‥音影機です」
 ウェストは疑問符を浮かべた。視界もない。レーダーも効かない。損傷も確かにあった。だが、そう易々と、何も言えずに墜ちるものか? ワームを相手に。
「何か、いるね」
 言って、あまりにも濃い吹雪を睨んだ。

  ●スノーストーム
 戦線左翼に展開したTitaniaは、順調に撃破数を伸ばしている部隊の一つだった。出過ぎず、下がりすぎず、絶妙な位置での迎撃に徹してきた。他の隊がそうするように、IFF信号によって互いを認識し合い、無視界での戦闘もどうにかこなしている。
 だが被弾数は格段に上がってきていた。特に、隊内の情報処理の面で重要なポジションに着く熊王丸 リュノ(ga9019)の機体はそろそろ退避させるべきところまで来ている。
「がう〜、隊長右危ないのら」
 だが、隊内唯一の電子戦機は、月読の連携が乱れている今欠かせない。レティ・クリムゾン(ga8679)は機体を跳躍させると、グングニルを真下に向けて突き落とした。プロトン砲が足下を掠め、直後にHWがグングニルに吸い込まれるようにして飛び込んでくる。
「もらった」
 砕牙 九郎(ga7366)の雷電がヘビーガトリング砲をHWに叩き込む。グングニルに貫かれ姿勢を崩したHWが、そのまま爆散する。
「違うのら‥‥アンノウン接近。熱源多数」
「な‥‥」
 槍を振り下ろした姿勢のまま、レティは己に迫る脅威に気付いた。見知らぬKV? いやまさか。敵の新型だ。吹雪をものともせず、むしろ自らの一部のようにまとわりつかせて、雪嵐そのものの敵機が迫っている。周囲に見えるのはミサイルか。既に小隊を捉えて放たれている。
 一足早く到達したミサイルは、レティのディアブロを擦過し小隊各機目掛けて飛んだ。新型はその手の死神鎌を構え、ディアブロを見下ろした。自分が隊長機だということも露見している。一体何者が乗っているのか。考えるより先に、機盾を構える。回避では間に合わない。
 既にボロボロのディアブロで止められるか? 止めてやる。
 僅かな逡巡の間に、新型が振りかぶった。
「させません!」
 如月・菫(gb1886)の声がした。敵距離情報に注目していた菫は辛うじて状況を把握し、機体を両者の間に滑り込ませていた。新型は構わず死神鎌を振り抜く。ディアブロと菫の翔幻が宙を舞った。
「如月機信号消失なのら‥‥」
「絶対に、逃がさない!」
 田中アヤ(gb3437)が苦々しく言いながら、再び吹雪に消えた新型目掛けてトリガーを引く。
「‥‥一度、退く。皆、機体が限界だろう」
 どうにか立ち上がったディアブロは黒煙を吹き、死神鎌が直撃した翔幻は原型を留めていなかった。
「あれが、スノーストームか」
 襲ってくるワームをどうにか撃退しながら、Titaniaが撤退を始める。
 左翼を中心に暴れ回る新型の報が全軍に行き届いた頃、最早見る影もない防衛ライン左翼が突破された。だが敵はタシーラクへは向かわず、あくまで殲滅戦の心積もりらしかった。全軍は情報網を再び機能させるため、中央に小さくまとまっていく。一網打尽の可能性よりも、各個撃破されていく可能性のほうが遙かに高い。損傷が激しいと言っても、一塊になった人類の力は侮れるものではない。
「前に出ず、今は堪えなければ」
 黒川丈一朗(ga0776)のR−01が不用意に飛び込んでくるワームを撃ち抜く。作戦名『門』を中心に巨大な対空陣地と化した防衛ラインは、月読の復活により先ほどよりは上手く働いているが、攻勢に出るにはまだ足りない。この吹雪をどうにかする、つまり、吹雪の元となっているというスノーストームをどうにかしなければ、反撃の糸口は掴めない。
 だがそのスノーストームは完全に見失っている。左翼を叩き潰した以降の足取りがさっぱり掴めない。
「敵新鋭機、来ましたッ!」
「こちらブルーレパード。スノーストームを目視。防衛ライン方面へ向かっ――」
 霞澄 セラフィエル(ga0495)との無線が途切れる。直前に聞こえたのは小隊の者だろう。立ちふさがるか、逃げ切れずに撃墜されたのか。ブルーレパードの位置を考えると、今このときにも眼前に現れる可能性がある。
「月狼全機、包囲準備。この機を逃がしはしません」
 声をあげたのは、実質この戦場で最大戦力となる月狼の終夜・無月(ga3084)だった。それまで後方に下がっていた機体も含め、五十機を軽く超えるKVが前に出て行く。
 他にも各隊が、必ず現れるだろうスノーストームに備える。
 二本の光線と、無数のミサイルが吹雪を切り裂いて飛来したのはそのときだった。一直線に無月機を狙った光線は、僅かにそれてルアム フロンティア(ga4347)機を貫く。断末魔も上げずに吹き飛んだ機体の影から、スノーストームが現れた。
「今です」
 機体を後退させながら無月が下命すると、さすがに危険と判断したのか、スノーストームは空へ飛び上がる。追いすがるように、多種多様な弾丸が浴びせかけられるも、猛吹雪の影響により狙いが正確ではない上、理解の追いつかない機動によってそれを避けたスノーストームは、逆にSSプロトン砲及び小型ミサイルを発射。月狼の機体を次々に沈黙させていく。
 【西研】が、スノーストームに正面からぶつかりに行く。ラージフレア散布の上、機体特殊能力を使用してのG放電装置の一斉射撃。【西研】の十八番GSAだった。スノーストームは更に上昇しMRの影に隠れる。MRに命中した攻撃が【西研】各機に跳ね返ってくる。それで、機体が限界に達していた一機が墜ちた。反射に乗じて、スノーストームが死神鎌で吶喊してくる。
「ドクターを、失わなければ‥‥!」
 ランドルフ・カーター(ga3888)機がスノーストームの正面からレーザー砲を撃つも、避けられ切り裂かれる。が、避け、切り裂くという動作のためにほんの一瞬とはいえ止まらされたことが、スノーストームにとっての誤算だった。或いは、吹雪を過信し過ぎていたのかもしれない。
 スノーストームが今いるのは、人類側防衛拠点のほぼ直上。しかも低空。互いに信号で位置把握を努め、吹雪に隠れるスノーストームの位置をほぼ特定した人類にとって、その隙は見過ごしてはならないものだった。地上、空、あらゆる方位から【西研】もろともと吹き上げられる弾雨。スノーストームは即座に飛行形態へと変形すると、空域からの離脱を図った。
 不気味な機動で回避を続けるスノーストームだが、いくらなんでも無茶だった。逃がせばまた来ると確信し、全軍の一斉掃射のうち、ほんの数発が、その硬い装甲を貫いた。浅いと、誰もが思ったその瞬間、奇妙なことに吹雪がブレた。猛威を振るっていた吹雪は突如として消え去り、雲一つ無い空が露わになる。
 ぽかんと、呆気に取られている暇もない。
 全軍はすぐさま形勢を立て直し、歪だったラインを形勢し直すと、敵掃討に乗り出した。その戦力の三割を既に消費していたバグアは、ろくに戦う意志も見せずに撤退。
 タシーラク北の防衛戦は、辛くも成功となった。

 無論、これで終わりではない。次に現れるスノーストームは、雪辱に燃えるはずだ。メイズリフレクター共々、十分な対応をしなければならない。

<担当 : 熊五郎>


【 避難経路確保 】
●タシーラク防衛戦
 メイズリフレクターの登場は、戦場に混乱をもたらした。
『Leoより各機。今のところ敵は来てないよ‥‥』
 通信機から響く、リオン=ヴァルツァー(ga8388)の声。機動小隊『修羅の風』やアイギスといった各小隊は、偵察隊として空を飛んでいた。
「この段階での脱出は‥‥」
 グリーンランドの空を窓から見上げるディグレス。突然の攻撃により、人類側の指揮所は少なからず混乱している。正確な敵の様子が解らない現段階で避難を開始するのは、リスクが大きいのだ。
 講堂の中には軍人達も次々と訪れ、架設の指揮所が準備されていく。仁王像――というか巨大な筋肉の壁たるタイタス(ga6061)とゴリアテ(ga6067)の間を抜け、傭兵や軍人が次々と講堂へ出入りし、講堂の中は一気に慌しくなった。
「そうだ。電子戦機の無い小隊への支援を頼みたい」
 そんな中、風間・夕姫(ga8525)は軍の高官を捕まえ、傭兵への情報支援を要請していた。
「だ、だが、傭兵と我々の指揮系統を考えると‥‥」
 軍人が答えかけた、まさにその時だ。
 大きいな爆発音と共に、びりびりと柱が揺れた。
「くっ、近い!」
 唇をかみ締める夕姫。
 即座に飛び込む敵襲の報せ。北方より現れたバグアが、散発的ながら攻撃を開始したという。もちろん、その情報は本部周辺に展開する傭兵たちへももたらされた。
『出ましょう、のんびりしていると、激戦で避難どころではなくなるかもしれません』
『‥‥えぇ、仕方が無いですね』
 井出 一真(ga6977)からの通信に、篠森 あすか(ga0126)が応じる。
 若葉隊をはじめ、傭兵を中心としたKVは次々と滑走路を離陸し、或いは陸路からゴットホープ方面への展開を開始した。


●敵中突破作戦
『こちらアイギス。キメラと接触したわ』
 ナレイン・フェルド(ga0506)が通信機に呟く。
 先行偵察隊は、向かう先々、空陸を問わずキメラに接触した。だが、本部へと届けられる報告によれば、いずれの場合も敵は小集団であり、接触した傭兵達と同様、偵察部隊である可能性が高いと思われた。
「サンド・ウォームの姿は無い‥‥が!」
 ヒートディフェンダーを振るう赤村 咲(ga1042)のワイバーン。
『一匹一匹はたいした事無いわ。忙しいったら、ありゃしないけどね!』
 I.C.Eに所属するエリアノーラ・カーゾン(ga9802)が、地殻変化計測器を埋め込むレイヴァー(gb0805)の前に立ちはだかり、周囲へと視線を走らせた。事実、現れる敵は量、質ともに低級であり、彼等にとってはものの障害とはならなかった。


『よぉし、雪はどかした! これで飛べます!』
 ラマー=ガルガンチュア(ga3641)の岩龍が、ゆっくりとマニピュレーターを振るう。滑走路から除かれた雪が左右に山積にされ、傭兵達は、嫌が応にもグリーンランドの寒さを思い知らされた。
 滑走路から飛び上がり、編隊を組んでアンチジャミングを展開する瞬雷。
 後続隊が出撃するに従い、小隊は分散して各隊の支援へと廻る。
 傭兵達が避難経路へと向かう一方で、来賓を含む避難民達は、軍が準備した車へ乗り込み、空港へと向かって順番に移動を開始していた。
「こちらです、落ち着いて行動して下さいね」
 呑気そうな笑顔で民間人の誘導に当たる赤霧・連(ga0668)。
 中には、笑顔に苛立つ者もいたかもしれない。だがそれ以上に、今は不安を与えない事こそが大切と彼女は考えていた。誘導だけではない。食料や医薬品がどの程度残っているかも、誘導が済み次第チェックしなければならないのだ。
 陸上において、講堂から空港へ続く短い路上、凍てついた川を越える橋の隣に、風怪(ga4718)はいた。グリーンランドにおいて、島を横断する道路は存在しない。それどころか、町と町を繋ぐ移動手段はほぼ空路に限定されており、陸路で移動するのはこうした短い距離だけだ。
 ならば、だからこそ、ここで敵の妨害、足止めを食らうのは危険だった。
「こっちは異常ねぇぞ、そっちはど‥‥ちぃ!」
 岩陰から現れ、牙をむく大型のキメラ。
 避難民の車列が、わっと乱れた。
 その前に立ちはだかり、狼のような体躯に彼は躊躇無くガトリング弾を浴びせ掛ける風怪(ga4718)。そうして動きが鈍ったキメラの側面目掛け、ユーリー・スヴェルフ(gb2551)がヒートディフェンダーを手に突っ込み、叩き伏せる。
『安心してくれ‥‥処理した』
 その言葉に移動を再開する車列。
 敵の残骸等をロジャー・藤原(ga8212)が始末する傍ら、空港にたどり着いた者から順番に、輸送機等へと乗り込んで行った。


「こちら『青い薔薇』、敵影は無し。現地域を確保したよ」
 ティル・エーメスト(gb0476)からの通信が情報網を介し、他隊へと伝えられる。
 傭兵を中心とした『颯』は、修羅の風やアイギス、ICEといった小隊が先行偵察を行うと共に露払いを行い、後続小隊が各要所要所を抑える形で展開していく作戦をとった。
 散発的な敵の抵抗を排除し、次々と駒を進める傭兵達。
 だが、そのまま簡単に撤退させてしまうほど、バグアも優しくは無かった。
「ちぃ、きやがったな!」
 ダグラス・コール(ga3315)が舌打ち、スカイクレイパーにディフェンダーナイフを構えさせる。
 若葉隊の前に突如として現れる雪原迷彩の施されたゴーレム。カモフラージュネットを払いのけるその様子を見るに、先行偵察隊をやり過ごし、待ち伏せていたのだろう。
「ダグラスさんは後ろへ!」
 ロジャー・ハイマン(ga7073)ら、数人の傭兵が電子戦機を守ろうと、自機を前面に押し出す。
「各機、火力を集中して突破口を開きます! 攻撃開始!」
 小隊長の号令以下、若葉第二小隊の各機は、一斉に砲を構え、立ちはだかったゴーレムの一機目掛けて火力を集中させた。ゴーレムは待ち伏せていたとはいえ、少数であり、堅実な連携を取る彼等の前に次々と撃破されていく。
 敵抵抗の排除を確認し、氷床へ地殻変動計測器を打ち込む守原有希(ga8582)。そのがてら、彼はゴーレムの残骸をちらりと見やった。その肩には、明らかに対空用の砲が積まれていた。
「対空砲‥‥やはり、避難機を狙っていたのでしょうか?」
 そして、彼等がゴーレムと接触したのと時を同じくして、若葉第一小隊もまた、上空でバグアのヘルメットワーム群と接触していた。
「くっ、今までどこに隠れていたんでしょうね」
 奇襲を警戒していた沖 良秋(ga3423)がヘルメットワームに気付いた。プロトン砲の光条を避けつつ、彼は歯をかみ締める。
「新型も厄介だけど‥‥まずはゴットホープに繋げるっ!」
 夕風悠(ga3948)が前面に機を立て、スナイパーライフルを放つ。真っ直ぐに空をきったそれはヘルメットワームの胴体を貫き、それを合図に、彼等は激しい航空戦に突入した。
「入学式の邪魔するなんて‥‥むむむっ」
 敵は、彼等第一小隊よりもやや後方に位置する、蕾小隊にも襲い掛かっている。
 呉葉(ga5503)は遠距離攻撃によって敵の接近を阻みつつ、視線を走らせる。他方面からの攻撃は無し――やはり、狙いはタシーラクとヌークを結ぶ、この直線ルートだ。


 氷床の上を、KVの一群が駆け抜けていた。
「蕾より連絡よ。前方にゴーレム、キメラ混成軍。接触まであと2分!」
 フィオ・フィリアネス(ga0124)の一言に、小隊員達は肩を強張らせた。
「奴等も交戦中だろ? 良く見つけられたな」
「けど、おかげで助かるわ!」
 ゼラス(ga2924)の言葉に、笑顔で応じる近伊 蒔(ga3161)。
 そうこうしているうちに、前方には次々とバグアが現れる。それも、かなりの数だ。あの数を秘匿するのは難しい筈で、新たに投入された戦力か。となれば、おそらく強力な部隊がその任に当てられている筈だ。
『放課後クラブ各機、押し通るぞ! 貫け!』
 後続として、T−ストーン小隊や、その他フリーの傭兵逹が続いた。
『後に続く! 全軍突撃っ、道を切り開け!』
 小隊員に号令を下す、Tストーン隊長、クリス・ディータ(ga8189)。
 彼等一斉に前進を開始した傭兵に対し、バグアはその場に留まり、弾幕によって突撃を押し留めようと試みる。
 中央に位置して盾を構えたゴーレムが、自らは盾で攻撃を弾き返しつつ、ミサイルランチャーから次々とミサイルを吐き出した。
「わあっ、んなろぉ!」
 被弾し、S−01を傾かせつつも攻撃の手を休めず、高日 菘(ga8906)はゴーレムを狙う。だが、ゴーレムが手にする盾で防がれてしまい、生半可な攻撃ではダメージを与えられなかった。だが、ゴーレム一機相手にゆっくりと戦う訳には、勢いを殺されてしまう訳には行かないのだ。
「援護をお願い。突っ込むわ」
 空間 明衣(ga0220)は仲間の支援攻撃の只中、盾を構えて突出し、ディアブロの固有能力、アグレッシブフォースを発動すると共に試作剣『雪村』を振るい、盾もろともゴーレムを叩き切る。
 一番槍だ。
 彼女に続いて敵中へと突っ込む放課後クラブ。
「よぉし、片っ端から落としてやるぜっ!」
 ゼラスの言葉に、放課後クラブは一斉に加速する。コックピットで前のめり気味に叫ぶ篠崎 宗也(gb3875)も、試作型リニア砲を振り回し、展開するバグア軍へと襲い掛かる。
 やはり最も強力な攻撃を敵へ加えたのは、放課後クラブ隊だった。一点に火力を集中し、敵を撃滅するのではなく、ただただ突破だけを目指して前進するその戦法は、騎兵戦の教本さながらに、スタンダードであり、強力だった。
 無論、生じた隙をそのまま見過ごしてやる必要など無い。
「いくぞ、僕が活路を切り開く!」
 ビッグ・ロシウェル(ga9207)がディアブロを走らせ、混乱した敵軍を前に、速度を落としもせずに突っ込む。
「グレネェィドッ・ランチャアァァァッ!」
 熱い叫びと共にミサイルやグレネードを次々と吐き出し、敵の混乱を加速させていく。
「まっけないんだからぁー!」
 豊満な大人の女性らしからぬ、呆気らかんとした声でライトディフェンダーを振るうリーファ(ga8282)。一番合戦 颯(gb2535)が小隊の攻撃を突破したキメラを公文氏ビームでなぎ払い、ロブ(gb0511)はスナイパーライフルを掲げ、敵を狙撃していく。
『前線部隊が経路上の妨害を排除した。今がチャンスだ』
 伝令役を買って出たウェンディゴ(ga4290)からの通信が届く。
 ウェンディゴの通信に頷くスヴェトラーナ・王(ga4482)。
「聞こえていたか? 速度を上げろ。今のうちに抜けるんだ」
「急ごう。襲われると厄介だ」
 セレノア・キューベル(ga5463)はペダルを踏み込む。低空を飛ぶ非力な輸送ヘリの周囲を抜け、傭兵はバグアの奇襲を警戒しつつ、編隊を守るようにKVを飛ばした。
 やがてヌークに到達した傭兵は現地の軍と合流し、返す刀で避難経路へと戻り、避難用の輸送機は、ほぼ制空権の確保された地域を縫って次々ヌークへと離脱していった。


●錯綜
 避難用の『足』が足りず、講堂の中には、未だ百人程度が避難できずに取り残されていた。
 もっとも、正確に言うならば、そのうちの何割かは自らの意志で残った者で、カンパネラ学園の生徒会長である聖那もそうだ。ヌークへと言われたのだが、彼女はあくまで固辞し、ここに残った。
 一方、AidFeatherやハーベスターといった各小隊も、行動付近に仮の拠点設営地を定め、行動を開始していた。
「物資通るよー、道あけてー!」
 佐竹 優理(ga4607)のディスタンが、小隊の先頭を歩く。
 ハーベスターは三機のリッジウェイを擁し、物資を満載した同機で拠点の設営予定地へ到着すると同時に、バリケードの建設を始め、AidFeatherのFog Timber(ga4060)は、リッジウェイをそのまま固定し、仮の救護施設とした。
(「‥‥敵影は無し‥‥よし」)
 無言のまま駆け回り、周囲へと視線を走らせる佐東 零(gb2895)。
 くれあ(ga9206)のスカイスクレイパーが拠点中央でアンチジャミングを展開すると、黒羽・ベルナール(gb2862)やシエラ(ga3258)といった各隊の護衛機が配置につき、外部からの襲撃に備えた。
「急患です、治療をお願いしますっ」
 救護所は、体裁が整うと同時に慌しくなった。
 白鳳 雛那(ga4679)のように、前線で撃墜され、負傷したパイロットを運んできたり、初期の戦闘で負傷した民間人が、一斉に運び込まれたからだ。
「そちらを押さえて下さい、早く!」
 やや声を荒げ、リタゼリーナ・ブルー(ga0003)はメスを振るう。
 老若男女地位その他に関係なく、彼女は重傷者から順番に治療に取り掛かって行く。他の医療経験者も運び込まれる患者達に次々と処置を施し、応急処置の済んだ者から順に離脱用の輸送船へと運ばれていった。
「全く、ミカエルが見れるから来たって言うのに‥‥次っ」
 超機械を構え、次々と練成治療を施すオリビア・ゾディアック(gb2662)。彼女の周囲では、椎野 のぞみ(ga8736)をはじめとする傭兵達が眼を光らせ、内部からの攻撃警戒に当たっている。
「すいません、遅れました!」
 AU−KVから飛び降り、荷解きを始める千祭・刃(gb1900)。
 運んできたレーションを桜井 唯子(ga8759)が受け取ると、彼女は、急いで負傷者の元へと配布する。
「何か不足しているものは?」
「AB型の輸血パックが不足してる! 調達してきてくれ!」
「解りました!」
 大声をあげる言瀬 一文(ga6253)の言葉に応じ、声を張り上げた。
 そんな彼の元に、何人かの負傷者が駆け寄り、不安そうな顔を見せた。
「戦場の様子はどうなっている?」
「バグアは直ぐに来るのか?」
 他の地域から来たであろう彼なら、何か知っているのではと思っての行動だろう。
 だが、彼は物資の輸送を担っているのであって、前線と往復している訳ではない。もっとも、ここも前線のようなものではあったが。
 そんな彼等の頭上で声がした。
 アンジェリカのコックピットから身を乗り出すシエラ。
「今は耐える時です‥‥反撃のチャンスは必ず」
「大丈夫! 皆いるから、負けっこないよ!」
 同様に黒羽がコックピットから顔を出し、シエラの二の句を告いだ。とにかく今は、可能な限り非戦闘員を脱出させ、バグアの攻勢に対処しなくてはならない。その事を理解したのか、負傷者達はぞろぞろと治療所へ散らばっていった。
『最後の輸送ヘリが出る。離脱する方は急いで‥‥』
 リヒト・ロメリア(gb3852)がその通信を最後に、KVのエンジンを停止させ、コックピットから飛び降りる。駐車場への攻撃を防ぐ為、KVそのものを盾としたのだ。意地と矜持で残っていたような一部要人や、新たに出た怪我人を中心に避難する者を選び、誘導する鴉(gb0616)。カプロイアに感じている恩もあって、ごねる重役を説得して車へと押し込む。
 柊 理(ga8731)やファサード(gb3864)も生身で避難誘導に当たるが、しかし、二人とも、その雰囲気は緊張していた。何故ならば――
「皆さん、またゴットホープで会いましょうね」
 最後の避難者を見送ろうと立ち上がる聖那。
 一瞬柔らかな表情を見せて眼を伏せた彼女に向けて、避難民の一人が駆け出した。
「くたばれっ!」
 腹に何かを抱えて飛び出した男の前に、柊が立ちはだかった。はたと気付いた男が避けようとするが、その頭部にファザードのハリセンが叩き込まれる。
「いや、まあ‥‥とりあえず気絶しておいてください」
「やっぱり、こういうのが出ましたね」
 深い溜息をつく柊。
 内通者による工作活動の報告は、機体整備に当たっていたミッシング・ゼロ(ga8342)や、ハニービー所属の宮明 梨彩(gb0377)にも伝えられた。やはり内通者が居た――その事実を再確認した彼女達を含む幾人かの傭兵は、探査の眼を用いて辺りを見回り、警戒を更に強めた。
 本部周辺を静かに見渡す林・蘭華(ga4703)。
「‥‥もし。そこのお婆さん」
 列をそれた民間人――と思しき老婆を、彼女は呼び止める。
 そのままふらふらと歩く老婆。一見すれば彼女の声が聞こえていなかったかのようにも見えるが、老婆は通信機器の並ぶテントへと駆け出した。
「待ちなさい!」
 追う蘭華。
 老婆の足元に、銃弾が撃ちこまれる。
「動くと撃ちます‥‥!」
 見やれば、アサルトライフルを構えて藤木 千歌(gb2006)が立ちはだかっていた。
 老婆が怯んだ一瞬の隙に、老婆はたちまち取り押さえられた。


 今、このタシーラクには、全員が同時に離脱するだけの輸送手段は無い。
 負傷者や要人、非戦闘員、或いは子供から優先させて離脱させた事で、講堂や救護所に残る者は軍人や、民間の成人男性が中心となっていた。
 いくら頑丈とはいえ、彼等は能力者やマシーンとは違う。神経も消耗するし、腹も減る。暖を取らねば凍え死ぬ。
「‥‥よし」
 ボイラー室で何者かが顔を上げる。
 操作パネルの明かりにぼうっと顔を照らされるのは、羽曳野ハツ子(ga4729)だった。他の誰もが顧みなかった、暖房設備を何よりも最重視し、わざわざここまでチェックに来たのだ。
「この世のぬくぬくは、この私が守ってみせるわ」
 固い決意を胸に秘め、彼女はそのまま他の暖房機器のチェックへと向かった。
 講堂の本部近くに設置された調理場では、何名かの傭兵が忙しそうに働いていた。それこそ人を煮込めるぐらい大きな鍋に、Kali・Yuga隊肉や野菜の具材を放り込んでいた。ごくありふれた炊き出しの準備光景だ。
 ただ、誰が、一体どこの誰が、こんな事になると想像しただろうか。
「隠し味、入れま〜す」
 それは唐突だった。
 弱火にして鍋がぬるまったのを確認し、レイチェル・レッドレイ(gb2739)がそう宣言したかと思うと、数人の女性がぽいぽいと着ているモノを脱ぎ捨て鍋の中に入った。
 あまりの唐突さに事態を把握できず、たまたま周囲にいた軍人や傭兵逹――主に男性――は、皆、一様に唖然としていた。
「な‥‥なななな‥‥」
 唖然とする者逹の中に、ティグレス・カーレッジが居た。顔を真赤にして、わなわなと震えている。
「何をやってるんだぁぁああああっ!?」
「美味しいもの食べたら元気が出るよ‥‥?」
「そ、そういう事じゃ‥‥!」
 きょとんと首を傾げる佐倉・咲江(gb1946)を前にして、ティグレスは普段の彼からは想像もできないほどオロオロと慌てていた。そんなほのぼのとした一時が流れもしたのだが。
「そ、その、とにかくそれは――ッ!?」
「伏せて下さいっ!」
 空を切る何かの音、そしてティスホーン(ga8673)の声に、ティグレスが振り返る。
 直後、着弾。
 近くで巻き起こった爆風に煽られたティグレスが、鍋に激突してしまい、ひっくりかえす。
「皆様、大丈夫ですか?」
 舞い上がる粉塵の中を払いのけながら、ティスホーンが辺りを見回すと、傭兵や軍人達がむせ返りながら現れる。鍋をがらんと転がった下から、ティグレスが上体を起こした。
「くっ‥‥」
 防衛線付近は多数の精鋭傭兵部隊が配備されており、UPCが優勢だった筈だ。ならば、何故。突然敵に押し込まれたとでもいうのだろうか――思案を巡らすティグレス。掌に柔らかかい何かがあたった。


●本部防衛線
 状況は、少し遡る。
 数十機のKVが一斉に展開し、本部周辺を固める。8246と夜修羅の小隊だ。
(何か腑に落ちない‥‥本当に襲撃だけ‥‥?)
 小隊の展開を確認しながら、水上・未早(ga0049)は息を飲み込んだ。
 彼等8246小隊は不測の事態に備え、本部の指揮通信システムの補強に当たっていた。真正面から力攻めで来るので無ければ、狙われるのはおそらく、防衛部隊に情報と指示を与える為の指揮系統だからだ。
『各機に通達。北部方面で猛吹雪が観測され――』
「吹雪?」
 情報網に耳を傾けていた天道 桃華(gb0097)は、その報告に首を傾げた。
 マジカル♪シスターズのように、遊撃隊として防衛に当たる考えの隊は多く、彼等は敵本隊が現れるのをじっと待ち構えていた。多くの隊は最前線の様子を気にしていた為、その報告は、多くの隊で確認されると共に、妙な違和感を覚えさせた。
「‥‥とにかく今は、目の前の敵を‥‥」
 小隊員に指示を出す、プロジェクトSG隊長、サーシャ・ヴァレンシア(ga6139)。
「大丈夫だ。今はまだ、敵の攻撃も少数なのだからな」
 逃げ遅れた民間人を背後に走らせながら、アメリア・バルナック(gb2163)は辺りを見回した。事実、彼女が言うように、敵の攻撃は極僅かだった。もちろん、本部周辺にはメイズリフレクターが展開しており、知覚兵器による撃破等、幾つかの試みも徒労に終っており、そういう意味では油断できない状況ではあった。
 ただ、直接本部を攻撃せんと現れた敵は、傭兵逹の防衛網に阻まれ、少数での攻撃を仕掛けては、退却する事を繰り返しており、UPCは優勢を維持していた。
「けど、確かに変ですよね〜」
 8246小隊、岩龍のアンチジャミングによって通信を受けていた伊万里 冬無(ga8209)は、小さく首を傾げつつ、計器類へ眼を落した。レーダーの類はメイズリフレクターによって妨害されており、その機能は極めて制限されていた。
 計器類を確認しながら、ふと、顔をあげる。
 その時、地平線に何かが光った。
『でぃーーーふぇーーーんすっ!』
 だがその何かが直撃する瞬間、KVの装甲をも貫く銃弾が、盛大な金属音を響かせて斜め上へと弾かれる。冬無機の眼前に、岸・雪色(ga0318)のKVが割って入っていた。両手にシールドを抱えた、盾籠もり仕様のバイパーだった。
「敵襲ッ!」
 夜修羅隊長、山崎 健二(ga8182)が声を張り上げる。
「第二撃、来るぞっ!」
 傭兵達の反応は早い。
 敵の確認もそこそこに、即座に戦闘体制へと入り、敵の攻撃に備える。
 次々と飛来する弾丸が反応の鈍いKVを数機、貫く。その正確無比な攻撃は、間違いなく手練れだ。
 やがて姿を現す赤紫の影――ステアー。
 その後続には、キメラとヘルメットワームを中心とした混成部隊が続き、防衛線を張る傭兵逹に向かい、一直線に突き進んでくる。
 補給所の一角、飲み物を放り出し、智久 百合歌(ga4980)がKVへと駆けて行く。
「野暮の一言に尽きるわね」
 彼女がコックピットに滑り込むと同時に、同ガーデン・ガーベラ小隊長、鈴葉・シロウ(ga4772)からの通信が飛ぶ。
「ステアーが出ました、補給は切り上げて下さい!」
 こういう『いざ』に備えてこまめに補給を行っていた事もあり、致命的な欠乏は無い。遊撃隊たる彼等は、敵ステアーに対処する為、補給を切り上げて次々と補給所を起った。
 ステアーは遠距離から正確な砲弾を放ちつつ、ホバー走行のように氷床を進んでくる。
「ステアー‥‥あの人でしょうか?」
 ジャック・レイモンドかもしれない――戦い方からそう推察しつつも、月神陽子(ga5549)は、自機を囮とする為に前進させた。多少は、名を知られているという自負がある。敵が自分を狙ってくれば、味方の十字砲火点に誘い込めるかもしれなかった。
 続いてガーベラ隊が突出し、ステアーへと向かう。
 壬影(ga8457)が弾幕を張り、ガーベラ隊各員は互いの死角を補いつつステアーに集中砲火を加えるも、火力が足りない。ステアーを撃破できれば言う事は無いのだが、彼等だけで撃破するのは流石に無理だった。
 ステアーからの反撃で一機、また一機と損傷し、撃破されていくガーベラ隊。
「招待状はお持ちですか? 無ければ、此処は通せませんね」
 荷粒子砲にワイバーンを貫かれながらも、ラルス・フェルセン(ga5133)は尚もステアーに食い下がる。彼等がステアーを相手に積極的な戦闘を挑んでいる間、ステアーはガーデン隊との交戦に集中する事となる。限定的ではあるが、事実上、ステアーを無力化できるのだ。


●突入、そして。
 煽られるように防衛線への突入を試みるキメラ群。
 大戦力同士が、正面からぶつかり合った。
 防衛線の中核を担うのは、この方面において最大勢力を誇るガーデン各隊だ。今までも、デイジーとルピナスの小隊は交互に最前線へと立ち、バグアによる攻撃を良く防いできた。
「無粋な来賓には、お引き取り願いましょうか!」
「ルピナス小隊、前へ。敵を押し留めます」
 鹿嶋 悠(gb1333)とセラ・インフィールド(ga1889)がそれぞれのガーデン小隊に号令を下して迎撃戦を展開すると、戦場はあっという間に火力の応酬試合と化す。
「敵は正面からだけ‥‥」
 櫻第一小隊所属、クリスティーナ・ロート(ga0619)は小隊長の死角をカバーしつつ、周囲の敵影を確認した。正面以外のは敵影は無い。おそらく、敵は大軍を用いてこちらを擦り潰すつもりだ。
「これ以上近づけさせてたまるか!」
 ディスタンを前面に立たせ、8246小隊全体の盾となる佐間・優(ga2974)。
 前面に突出した彼女を狙い、バグアの砲火が集中する。同時に、優に気取られた敵機目掛け、憐(gb0172)やクリア・サーレク(ga4864)がバリケードの裏から射撃を加える。
「何か新たな敵情報はある?」
『確認されていない。敵軍はおそらく、現在展開している分で全ての筈だ』
 阿野次 のもじ(ga5480)の問い掛けに答える本部。
「なら、今いる敵を一機も撃ち漏らさなければ良いんだな!」
 8246小隊と肩を歩調をあわせ、水葉・優樹(ga8184)ら夜修羅小隊が敵先頭集団を押さえに掛かった。敵の数は多い。だが、ステアーを除けば、抑えきれない数ではなかった。


 真っ白な氷床の上を、ガーデン・フリージア隊が駆ける。
 バグアが防衛線の正面へ取り付いてから後、彼等は戦場を大きく迂回していた。狙うはただ一点、敵軍側面だ。総計11機から成るフリージア隊はバグア側面を捉え、敵を突き崩さんとして剣を抜いた。
 斬園 雪花(gb1942)、水無月 霧香(gb3438)の二人と一丸となって敵中へと突入する九条院つばめ(ga6530)。KVの手にハンマーボールを掲げさせた彼女は、ケルベロスタイプの頭部を全力で打ち砕いた。
「私達は敵を穿つ一条の剛槍――その勢い、もはや留まることを知らず、です!」
 柔らかいわき腹を狙った突撃。
 その一撃に混乱するバグア。
 その時は確かに、奇襲が成功したかに見えた――のだが、彼等は敵中への突入と殲滅戦を両立しようとしてしまったが為に進撃速度を鈍らせてしまい、逆に、混乱から立ち直った敵による集中攻撃に晒された。
『それ以上は危険よ、退却して!』
 メアリー・エッセンバル(ga0194)からの言葉に踵を返し、幻霧に紛れて後退するフリージア隊。更に、離脱を支援する為に、白銀の魔弾小隊へと支援要請を出した。
「ガーデンから通信。来たわ」
 白岐 氷雨(gb2804)からの通信を受け、彼等の小隊は隊を二分し、敵の左右へ同時に攻撃を仕掛けた。
「敵影感知。キャンセラーを発動する」
 右方に廻ったカララク(gb1394)のイビルアイズが、その専用システムを起動し、敵を撹乱する。
 ゴーレムから放たれたミサイルが目標を見失い、てんで勝手な方角へと飛び交う最中、脱落者を出しつつも、フリージア隊は辛うじて敵中を脱した。だがそれは、同小隊の脱出支援に、少なくない戦力が割かれた事も意味していた。
 バグアは、その隙を見逃さなかった。
「くっ、抜かれた‥‥!」
 KVの脚部を破壊され、地に倒れる常 雲雁(gb3000)のKV。傭兵による弾幕の中、盾を構えたゴーレムが強引に防衛線を突破し、キメラの群れが無秩序にこれへ続き、無理矢理防衛線をこじ開けていく。
「おっと、ここから先に行きたきゃ俺を倒してからにするんだな!」
 シールド同士をぶつけ、ユニコーンズホーンを構える岡村啓太(ga6215)。
「来たな‥‥」
 綿貫 衛司(ga0056)はP−120mmを水平に発射し、突破を図る敵キメラを粉砕した。綿貫属するInfantryやフェアリー・チェスといった各小隊や傭兵逹は、この時に備えて防衛線の内側に展開していた。
 蒼穹武士団がバリケードを利用して迎撃に当たる一方、S・M・G等は敵の攻撃に晒されている箇所に向かい、戦力を補強する。
 しかし、第二線を敷いて対抗する事そのものは成功しているが、元々本部に近い戦場だ。互いの攻撃は流れ弾となり、何発かはタシーラクの町や、本部施設へと着弾する。内側へと入り込んだ敵との乱戦は避ける為にも、突破した敵集団を叩く必要があった。
「奴等を押し返すぞ。戦場の先輩としてカンパネラの生徒に恥ずかしい所を見せるわけには――な!」
 激しい攻防戦の最中、鋼 蒼志(ga0165)率いるCadenzaは隊を二班に分け、一斉に動く。
「演奏開始か‥‥みんな、準備は良いな!?」
 今まで、脆弱な岩龍故に自衛に徹していた字夜・由利奈(ga1660)も、連携名『演葬』の指示が下ると同時にライフルを振るい、敵へと弾丸を叩き込んでいく。テトラ・ヴォルケン(ga8309)のグレネードを初めとして、様々な攻撃をキメラ群に殺到させ、その勢いを殺した瞬間を狙い、隊の残り半分が逆撃を仕掛ける。
「――邪魔だ」
 遮蔽物から躍り出て、時枝・悠(ga8810)のディアブロが敵を寸断した。
 怯むキメラ。
 一瞬、生じた隙。
「こちらの手の内を覚えさせてやる必要は無い‥‥殲滅する」
 追い討ちとばかり、夕凪 沙良(ga3920)逹フェニックス小隊が頻繁に移動と攻撃を繰り返す。一時的に防衛線を突破したバグアだが、先ほどのフリージアと同じか、もしくはそれ以上の集中砲火を前に次々に数をすり減らし、その攻勢は遂に限界へ達した。
「今よ! 一気に押し返す!」
 戦場の流れが、再び傭兵逹に傾いた。
 雪風の小隊長、ファルル・キーリア(ga4815)が声を張り上げる。
「ロックオン‥‥全弾発射!」
 結城加依理(ga9556)の阿修羅がショルダーキャノンとミサイルポッドを乱射し、最後まで留まっていたタートルワームを完膚なきまでに叩き潰した。
 盛大に炎を吹き上げ、崩れ落ちるタートルワーム。
「引き上げていく‥‥?」
 破損した機体の修復に当たる傭兵達。その中で一人、Innocence(ga8305)は面をあげ、遠ざかっていく爆炎を見詰めた。まるで、タートルワームの爆発を合図とするように北部からの戦力が途絶え、先ほどまで激しい攻撃を加えていたバグアは、粛々と後退し、やがて、バグアはこちらの射程外まで引き上げると、様子を窺うように行動を停止する。
 後には、未だ撃破手段の見付からぬメイズリフレクターだけが不気味に残された。

<担当 : 御神楽>

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