|
 |
●ガリア航空戦、序
上空一面に広がるバグアのヘルメットワーム。
見渡す限りに敵が広がっている。バグアは本気だ。本気で、この航空戦を突破しようとしている。
フランス、ガリア上空における航空戦――戦端を開いたのは、【オラトリオ隊】だった。
「敵はFRだけではない。各員全力で応戦!」
天上院・ロンド(ga0185)が、【オラトリオ隊】各員に通達する。
「欧州をバグアに渡してはならない!」
「Program[Gr1.2]起動…情報網構築‥‥データリンク開始します」
コックピットの中で呟く秋月 祐介(ga6378)。戦闘の開始と共に、【380戦術戦闘飛行隊】が情報網を展開した。そういった後方要員の前に、小隊から個人参加まで、多数のKVが居並ぶ。
「正念場というわけか。なんとしても、乗り越えて見せないとな」
【オラトリオ隊】に続き、【夜修羅】の各機がヘルメットワームの群れへと突撃を掛ける。だが、一度敵陣に突撃を仕掛けたかと思えば、急制動を掛け、一斉に退いてみせる。
「さぁ、正に正念場ってヤツだよな――此処が!」
ガトリングで弾幕を張りながら、セキ・ユウスケ(ga8714)が突貫した。
その後にレイン・シュトラウド(ga9279)や月村・心(ga8293)が続き、ヘルメットワームを一機一機確実に叩き潰していく。その他多くの小隊も、レッドデビルの影が無い今、同じようにヘルメットワームやキメラを相手に戦っている。
戦場のイニシアティブは、人類側が握っていた。
少なくとも、現時点においては。
「勲章も報奨も必要ない、俺は俺の役割を果たすだけだ!」
味方の援護射撃の中、藤村 瑠亥(ga3862)のKVがキメラを機槍「ロンゴミニアト」で貫き、上空高く爆殺した。その攻撃に気勢を上げる傭兵達。だが――直後、前衛の傭兵達を、頭痛が襲った。
急転直下、嫌な予感が傭兵達の頭をよぎる。
おそらく、ファームライドが攻撃を仕掛けてくるだろう。それも、一機や二機だけという事は無い筈だ。
どこから出てくるか解らない以上、ゆめゆめ油断する訳にはいかなかったが、ファームライドを撃破する為には、この酷い頭痛の原因であるキューブワームを排除せねばならない。いや、ファームライドと戦う為だけではない。この頭痛や怪電波は、傭兵達の操縦、反応を少なからず狂わせる。
ヘルメットワームとの戦いを確実にする為にも、必ずや排除せねばならない存在だ。
「何としてでも突破するッ!」
「賞金は魅力的だけど、今回は黒子に徹しますか」
ミスラ・アステル(ga2134)やメティス・ステンノー(ga8243)が、展開するキューブワーム目掛け、銃口を開いた。突撃仕様ガトリング等が、脆弱なキューブワームを次々と破壊していく。
「敵後方のキューブワームを叩くぞ! タイミングを合わせろ!」
野太い声を響かせるルフト・サンドマン(ga7712)。【TEAM:UVA】がキューブワームへの攻撃を開始する。シエラ・フルフレンド(ga5622)の号令の元、フォーメーションを組んでの攻撃を加える。
一方でラピス・ヴェーラ(ga8928)以下、補給を担当する者達が後方待機している分、持戦能力は高いが、若干火力が薄い。
「我々の方針は「一撃離脱」。相手を引っ掻き回してやりますよ!」
叢雲(ga2494)が言い放つ。【八咫烏】は戦場を大きく迂回。後方よりキューブワーム目掛けて襲い掛かった。
「CWを残らず蹴散らします!」
「次から次へと‥‥いい加減お引取り願いたいものですね!」
隊員の木花咲耶(ga5139)と比良坂 和泉(ga6549)が攻撃を開始する。
見れば、キューブワームは幾多のヘルメットワームに紛れて浮遊している。そのやり方は、今までのバグアのやり方と比べると、かなり慎重な運用にも思えた。
●ゾディアック
傭兵達がキューブワームへ攻撃を開始したのとほぼ同じタイミング。
突如、ファレル(ga7626)の機体が爆発、急激に高度を落し、幹線道路上を擦っていった。
「ふん‥‥」
辛うじて不時着に成功したファレル。
だが、この奇襲でハッキリした。ファームライドが現れたのだ。彼の機体が狙われたのは、新型に偽装していた為だろう。
『綺麗――本当に綺麗』
どこからともなく、倒錯的な女性の声が響いた。
一瞬の揺らぎの中から、赤い悪魔が笑顔を覗かせる。その機体にはバルゴ――乙女座のエンブレムがあった。光学迷彩の解除と同時に殺到する攻撃をひらりと避けたかと思うと、人類側のフォーメーションを崩そうと、ファームライドは翻弄するような高機動を見せ付けた。
「出たわね‥‥聖ジョージの加護のあらんことを!」
ファームライド出現と同時に、【ミナス・ティリス】が急上昇を掛ける。
「黄道12宮か‥‥ブライトン博士も中々茶目っ気があるな?」
リャーン・アンドレセン(ga5248)が呟く。
「一太刀ぐらいは浴びせたいものだ」
「‥‥あたしは、やれることをやるだけさ」
偶然並んでいたジーン・ロスヴァイセ(ga4903)と時任 絃也(ga0983)が、それぞれ言葉をかわす。
同時に、何機ものKVが火を吹き、或いは爆発し、その翼をもがれていく。
「もうお仕舞いにさせて頂き、たい‥‥ですけど‥‥クッ!」
【天衝第二班】所属、佐柄 麟(ga0872)の機体が、巨大な剣に貫かれた。
『よそ見していて宜しいのかしら?』
アリエス――牡羊座だ。
同じ女性の声である事に違いは無いが、バルゴを倒錯的とするならば、こちらは享楽的な印象だった。そのまま剣を振るって機体を寸断すると、空中で再変形、そのまま姿を消して駆け抜けていく。
「負傷者や墜落機は後方搬送だ、早く!」
スピーカーで報せながら、アッシュ・リーゲン(ga3804)は、対象者に損傷や負傷の度合いに応じてタグを付け、搬送部隊へと引渡す。【ヘイムダル】は後方支援、被撃墜者の回収に当っていた。
突如、爆炎が吹き上がる。
彼等の直ぐ近くを弾丸が走り、光学迷彩を解除したファームライドが突っ込んで来た。
「奴を倒して、俺が「赤い悪魔」の称号をいただくぜ!」
直後に、ファームライドの機影を3.2cm高分子レーザー砲が掠める。
声の主は霧島 亜夜(ga3511)だ。後に、【スカーレット】が続いている。攻撃を避けたファームライドが、そのまま【ヘイムダル】を照準から外し、逸れていく。
追い立てるように殺到する傭兵達。
「救護は俺らに任せろ。あんた達はしっかりFR撃ち落としてくれよ!」
告げた神城 天矢(ga0098)は、空を舞うファームライドの横腹に、双子座――ジェミニのエンブレムを見た。
それとほぼ同時に、天矢の機体は大爆発を起こした。
『二人居るのにねー?』
『ねー?』
合流し、交じり合うように加速するファームライド。二機目のジェミニだった。
「注意して、照明弾を使うわ!」
味方に対し、広域チャンネルで呼びかける皇 千糸(ga0843)。
告げて、友軍機が爆発した空間目掛け、照明弾を叩き込む。雲に紛れて飛んだ照明弾が、物凄い閃光を放った。微かな揺らぎ、機影が、光を浴びて雲に投影される。
『‥‥下等生物のくせにっ!』
揺らいだ空間がきらめいた。
「見・つ・け・たぁッ!!」
直後、千糸のKVが機を貫かれ、爆発する。
彼女の叫びに、周囲の傭兵達が一斉に振り向く。
「FR確認しました!」
続けて、【月狼】の音影 一葉(ga9077)が叫ぶ。
【月狼】や【天衝第二班】が、バルカンやガトリングによる弾幕を一面に張った。避けきれず、数発がファームライドの機体を擦る。これがただの弾幕であったら、何ら意味を成さなかったろう。しかしその弾丸には、ペイント弾が混ぜられていた。
一瞬の乱れの後に、姿を現すアクエリアス――水瓶座。
これを突破口に、傭兵達は辺り一面にペイント弾をばら撒いた。
暫しの時を置いて、奴等の機影を捉えた。確認できる限り、ファームライドは5機。これに数多のヘルメットワームが加わる。余裕のよの字だって、無い。
一方、主戦場から少し離れた空域。
「録音開始‥‥」
静かに呟くNORUN(ga5405)。
録音機が拾う音――いや、声は、奴等ゾディアックのものだ。声紋から奴等の年齢や体型等を解析、或いはその性格等を推察し、後々の対策に役立てる為だ。
●持久戦
光学迷彩こそ無効化したものの、傭兵達は変わらぬ苦戦を強いられ続けていた。
ファームライドの苛烈な攻撃は傭兵達を次々と撃墜し、尚健在だ。イギリスからの援軍や、前回から投入されているナイチンゲールも、少しずつその数を減らしている一方、多くの傭兵達がファームライドへ攻撃を集中させている事もあり、ヘルメットワームの数は遅々として減らない。
人類にとって、この制空権を敵に握られてはならないのに、思うような戦いは展開できていない。
「さて、俺は俺に出来ることを着実にやらせてもらうぜ」
稲村 弘毅(ga6113)は険しい眼付きを更に険しくして、後方からの狙撃を続けていた。ファームライド等を相手にするつもりは無かった。
「ハ‥‥まだ飽きないのかねぇ、敵さんも!」
紙一重で攻撃を避けた。アグレッシブファングを展開し、ケヴィン・ウェーラー(ga2524)がKVスピアでキメラを刺し貫く。だが、その攻撃で隙が生じた。上空から急降下を掛けてきたヘルメットワームの攻撃に、機体が揺れる。
Uターンし、再び銃口を向けるヘルメットワーム。だが相手は、そのまま火を吹き、墜落していった。
「無駄死には、つまらないと思うわ」
味方の支援に廻るエマ(ga8395)のKVが、脇を過ぎ去っていった。
「どりゃー! 行くぜ、岩ちゃん!」
猫を被り忘れて可愛い顔が台無しとは口が裂けても言えないが‥‥李 舞亞(ga9858)が怒号と共に岩龍を滑り込ませ、妨害電波を展開する。ふと、周辺の傭兵達の頭痛が緩和された。だが、岩龍一機の働きでこうもなる筈が無い。
轟音を響かせ、見慣れない機体が姿を現した。
ドイツ製の試作電子戦機『ウーフー』だ。
岩龍との採用競争に敗れた試作機の投入――ウーフーは、確かに高い性能を発揮していた。高い妨害電波が、傭兵達の戦いを効率的に支援する。しかし、こんな試作機までも投入するという事は、もはや、欧州を守るUPCに後が無い事を示してもいた。
クリアになった頭を振るい、クリア・サーレク(ga4864)やヴィラード(ga9762)、鷺宮・涼香(ga8192)といったキューブワーム狙いの傭兵達が殺到する。
いずれにせよ、今は一機でも多くの敵を撃墜するしかないからだ。
前線から少し離れた所でも、傭兵達の喧騒は耐えなかった。
「レンチ頂戴! 早く!」
損傷した機体を前に、シイナ・ライティエッタ(ga6544)が駆けずり回る。
「欧州の解放までは近いんだから。朝日を拝まないまま、死なないでよね‥‥!」
彼女は、銀髪を油まみれに汚しながらも、延々と続かんばかりの補給、整備作業に没頭していた。彼女だけではない。大泰司 慈海(ga0173)や芦川・皐月(ga8290)といった単独参加の傭兵から、【ヘイムダル】に【TEAM:UVA】といった小隊まで、補給に回った傭兵も様々だ。
「修理」を必要とするのは、KVだけではない。人間もだ。
(‥‥この前よりは、マシになってるかな?)
古都 洋恵(ga7634)は心の中で呟く。
その手には救急キットがあり、避難民や負傷兵を相手に、腕を振るっていた。
「‥‥本当は、わたくし達が‥‥活躍しない方が‥‥いいんです‥‥よね‥‥?」
ふと手を止め、姫藤・蒲公英(ga0300)が呟く。
「ポジティヴでな? ネガティヴになったところで、良い事なんて何一つない」
通りがかった瑛椰 翼(ga4680)は、不証した民間人に肩を貸しながらそう応じた。
その通りだ。彼等傭兵は、いつか自分達が活躍しなくても良い日来る事を、自ら掴もうとする者達だ。そんな事で悩んでも、ネガティブになっても、仕方が無い。
低空を直進するKVの編隊。
「戦場に英雄はいない。いるのは、ただの人間だ‥‥だが、人間を侮るなよ!」
操縦桿を握り締め、クラーク・エアハルト(ga4961)は低く唸った。
「俺がやるのは露払いまでだ。後は他のヤツがやってくれる!」
須佐 武流(ga1461)の連装ロケット弾ランチャーが火を吹き、地上に展開しているキメラやゴーレムに次々と直撃弾を喰らわせる。【シャスール・ド・リス】の小隊は、空戦の間隙を縫い、敵地上部隊への攻撃を続けていた。
戦局は、バグア軍優勢のまま一進一退を繰り返し、持久戦の様相を呈していた。
人類側の作戦は、あくまでファームライドの息切れを待つものだったが、それ以上の攻撃能力が、バグアにはあった。ファームライドは言うに及ばず、のみならず、ヘルメットワームの大軍が、想像以上に強烈な攻撃を加えてくる。
制空権はじりじりと抑えこまれていく。
傭兵達は焦れた。
最早ダメか――そう思いかけた。その時だ。
『ユ、ユニヴァースナイトが‥‥』
傭兵達の多くが、リネーア・ベリィルンドの通信を聞いた。皆に緊張が走った。
『ユニヴァースナイトが、敵後方への奇襲へ成功しました!』
●レコンキスタ・フライト
『使えない奴等‥‥』
吐き捨てるように、アクエリアスは呟いた。
『撤退ですって。命令である以上、仕方なくってよ?』
諌めるでもなく、宥めるでもなく、アリエスが告げ、喉を鳴らす。
二機のファームライドが突然機首を翻すその様は、傭兵達からも確認されていた。ユニヴァースナイトの奇襲成功の報――これを考えれば、ファームライドの撤収はそれが原因であるのは明らかだった。
――とは言え、帰ろうと踵を返した敵の背を前にして、はいどうぞお帰り下さいなんて、そんな間抜けな話、ある訳が無い。
「誰でも良いからファームライドを落とせよっ! 俺も全力でいくぜっ!」
急加速を掛け、ザン・エフティング(ga5141)ら、【アングラー】小隊がファームライドに追いすがり、進路を妨げる攻撃を加える。試作G放電装置や、フレア弾の爆風など、その攻撃は眼を見張るものがある。
ファームライドが生じさせた隙に、傭兵達は攻撃を加えようとして――
『アハハハハ! 燃えろ、燃えろ、燃えろッ!』
横合いから殴りつけるバルゴ。気でも狂ったかのような苛烈な攻撃に、組み立てた隙の全てを台無しにされてしまい、アクエリアス、アリエスの二機は戦場を離脱する。
「‥‥上等だ。砕け散るのは俺かお前か――勝負だ、ゾディアック!!」
スラリと雪村を抜き放ち、上空から襲い掛かる煉条トヲイ(ga0236)。
瞬間に変形したバルゴが、攻撃を切り払い、勢いに任せてトヲイの機体を切り裂く。だが、ファームライドに対する攻撃は絶えない。その他の天衝が散々相手をしてきたファームライドを前に、【天衝本隊】が本格的な攻撃を開始したのだ。
「お前らが余裕顔で戦場に出てこられるのも‥‥今日までだ‥‥!!」
続けて、【渡鴉】がファームライドを追い立てるように、食い下がる。
「人類の未来に、大地と精霊の加護を!」
「右目の礼だ。イタリアと地中海は、返してもら‥‥何ッ!」
ロケットランチャーを放つチャペル・ローズマリィ(ga0050)に、急制動を掛けた暁・N・リトヴァク(ga6931)の二機が爆発する。
「バカにはバカの戦い方がある、ってな!」
撃墜した二機を追い越し、如月・彰人(ga2200)の機体が最高速度でファームライド目掛けて突っ込んだ。呆気なく避けられ、反撃の一撃を叩き込まれる彰人。
『――美しいッ! これぞまさに芸術だわ!』
次々と墜落していくKVを前に笑うバルゴ。
「何度翼を折られたって!」
突貫するエミール・ゲイジ(ga0181)からのレーザー攻撃が空を焼き、三機のファームライドはパッと散開した。その動きは、人間であれば、耐えられないような無茶苦茶な機動だ。
「ただ与えられた力なんかに‥‥俺達は負けねぇ!」
『『――イヤな奴っ!』』
まるでエコーのように、ジェミニ各機から二人分の声が響き渡る。言い切るが早いか、ファームライドの機首が火を吹く。銃弾がエミールに殺到し、機体を大きく揺さぶったが、しかし、撃墜にまでは至らなかった。傭兵達の猛烈な弾幕に、照準を阻害されたのだ。
ファームライドは、人類の兵器に比べれば青天井の性能を見せ付けている。
だが――無敵ではない。
ファームライドは二機が撤退し、今や三機。
戦場全域をカバーするには数が足りていなかった。ファームライドの奇襲を受けなくなったUPC、そして傭兵達は、ヘルメットワームを一機一機確実に撃破。バグアの攻勢を受け流す事に成功し始める。
残ったファームライドは相変わらず凶悪な攻撃力を発揮したが、戦局を覆すまでのものではない。
やがて――残ったファームライドも踵を返してスペインの空に消え、ヘルメットワームがその後ろに続く。
人類は遂に、バグアに制空権の確保を断念させた。
<執筆:御神楽>
●スペイン・サラゴサ上空
上空でUPC・バグア両軍の航空戦が火ぶたを切った同じ頃、ピレネー山脈南側に防衛ラインを敷くUPC陸軍陣地を目指し、超音速で迫る機影があった。
『キューブワームが残り少ない。目標に到達次第、全機光学迷彩で突入する!』
『おい、俺の報告を聞いてなかったのか? もう奴らは対策済みだぞ』
『いいじゃないですか。ここは、隊長殿のお手並み拝見と参りましょう』
人類側には傍受不可能な重力波に乗せて、そんな会話が交わされる。
全員男性らしい、という点を除けば年齢はバラバラ。そしてお世辞にも「一枚岩の結束」とは言い難い。
それでも間もなく「彼ら」はその搭乗機を不可視のベールに包み、一路フランス方面を目指して低空侵攻を開始した。
●スペイン・フランス国境付近
前線を数km後退させたバグア軍は、あれ以来不気味な沈黙を続けている。対する人類側も無闇に仕掛けるわけにいかず、とりあえず損傷したKVの修理や補給などを行いつつ、両者は久しくにらみ合いを続けていた。
「やっとこさ終盤か‥‥軍もよくここまでもったな」
S−01の風防を開け、心地よい外の風に当たっていた飛燕(ga8908)の耳を、パイロットなら誰でも聞き覚えのある甲高い音が打った。
超音速機が発する独特のソニックブーム。スペインの方角からだ。
慌てて目を凝らすが、晴れ渡った空にそれらしき影は見あたらない。それでも不審に思い、友軍に無線で警報を発した。
前回の戦闘で多数のキューブワームを撃墜したため、幸い通信状態は良好だ。
「これは激戦の予感が!!」
【ハヤブサ特攻隊】グラットン・S・彩(ga1321)が整備兵へ大声で合図しつつ、愛機ハヤブサへと身を翻して飛び乗る。
姿を見せず、空から来る敵――となれば、考えられるのは「奴ら」しかいない。
報告は「月詠」の情報網を通して能力者たちへ伝えられ、数分の間を置かず全ての傭兵部隊が臨戦態勢に入っていた。
「ここで、負けるわけにはいきません。全力で参ります!」
【ガーデン】千神 悠人(ga9141)が緊張に口許を引き締める。
スペイン偵察任務で、そして今回の攻防戦で、奴らの奇襲を受け数多くの仲間が傷ついてきた。今度こそ、そう易々先手を取られるわけにはいかないのだ。
【フェニックス】【リンクス】【雪風】【月狼】【Astraea】【ソーディアス】【暁の騎士団】等、ファームライド迎撃を担当する各隊もSES機関を震わせ人型のKVを起ち上げた。
姿なき敵が放った攻撃により、早くも数機のKVが被弾し地面に膝をつく。
「ファームライド‥‥今までの借りは、ここで全部返させてもらう!」
「サラゴサで貸した勝ち星、今日は返してもらいますよ!!」
【月狼】の宗太郎=シルエイト(ga4261)、平坂 桃香(ga1831)を始め、傭兵達は前回同様、スナイパーライフルやバルカン砲、ガトリング砲等に仕込んだペイント弾を一斉に発射し対光学迷彩の弾幕を張った。
夕立のごとく降り注ぐ染料の中、ヤドカリの殻を横倒しにしたような、あの赤く忌まわしい機体が実体を現わした。
その数――合わせて7機。
同時に、スペイン側後方で待機していたワームとキメラの群が前進を開始した。
『ほら見ろ、この前と同じだ! だから連中を甘く見るなと――』
『うるさい! キューブワーム展開、総員戦闘開始! ここさえ突破すれば、イタリアまで我が軍を阻む者などいないッ!!』
陸戦形態に変形し、傭兵達の砲撃をかわしつつ地表に降下するファームライド。
迎え撃つ能力者KV部隊とUPC陸軍、さらに地上のバグア軍も交え、本格的な陸戦が開始された。
「月狼戦略陣、肆式磔!」
総隊長、終夜・無月(ga3084)の指揮の下、この戦域に展開する部隊としては最大戦力【月狼】を中心に傭兵達が練り上げた策を実行する。
ペイント弾で敵の光学迷彩をいぶりだした後は、敵前方に煙幕を張り、部隊連携「陽炎」支援砲撃を受けつつ接近。SES武器のワイヤーで絡め取り、何とかFRの動きを封じようと図る。
だが相手も伊達に「赤い悪魔」の異名を取った新型機ではない。ある者は剣型の武器を振るってワイヤーを断ち切り、またある者は俊敏な動きでワイヤー自体を回避し、逆に有効射程に入ったKVを次々と返り討ちにしていく。
FRのうち機体に「射手座」と「山羊座」のエンブレムを持つ2機が後退し、人類側の類似兵器より長い射程と威力をもったスナイパーライフルによるアウトレンジからの狙撃を開始。
さらに20機を超すキューブワームが上空に展開、KVの電子機器を狂わせ能力者に激しい頭痛を起こさせることで、UPC軍の被害を益々拡大させていった。
乱戦の中、【放課後クラブ隊】の新条 拓那(ga1294)は頭上から発せられる怪音波に悩まされつつも、小隊の仲間達と共に隊列を組み、戦場を進んでいた。
大規模作戦中にあって異例の事だが、拓那にはFRの――正確には公表された「ゾディアック」メンバーの1人に、何としても会わねばならなかったのだ。
タートルワームを盾とし、常に祖点を移動つつ狙撃を続ける、スナイパー仕様のFR2機。あのどちらかに「彼」が乗っているに違いない。
『シモン! お前を貫いた俺はここだ!』
オープン回線で呼びかける。CWのジャミング下であるにもかかわらず、驚いたことにはっきりと返信が来た。
『あの時の傭兵か‥‥何の用だ?』
――確かに「彼」の声だ。
が、何かが違う。肉体は同じでも、中身は既に――。
『俺が化物にしたお前とのケリ、今つける!』
一瞬の沈黙。否、嘲りを込めた含み笑い。
『‥‥くだらん。実にくだらん事にこだわるな、人類という生き物は』
拓那は横にいたゼラス(ga2924)に合図し、仲間達と行動を起こした。
煙幕弾を発射し射線を妨害。一気に突入し、近接戦にもちこんでシモンのFRを破壊しようと――。
だが、間合いに入る寸前に2機のFRは彼らの視界から姿を消した。
『おまえたちと遊んでいる暇はない――消えろ』
次の瞬間には全く別の方角から複数の砲撃が浴びせられ、拓那とゼラス、そして二人を庇おうとした石動 小夜子(ga0121)、神楽坂・奏(ga8838)、鉄 迅(ga6843)ら【放課後】のメンバーをまとめてなぎ倒していた。
「あのサイコロどもを墜とさなきゃ始まらないね‥‥」
風間・夕姫(ga8525)、ビッグ・ロシウェル(ga9207)、社 朱里(ga6481)らはKVを低空飛行させ、浮游するCWを狙いバルカン砲やミサイルを撃ちまくった。タートルワームのプロトン砲に狙われるが、皮肉にも対FR用に使われた煙幕が弾よけのカモフラージュとなってくれた。
「戦場はアタシ達のステージ! 気合入れてくよ!」
上空のCWが全て掃除されたところで再び「月詠」の回線が復旧。シェリー・ローズ(ga3501)、結城ハニー(ga5427)ら【ヴァルキュリアーズ】の熱唱がKVの無線から力強く響き渡る。
傭兵たちをリスナーとして情報を提供するラジオ番組【FM−Rev】も放送を再開した。ちなみにMCのルュニス(ga4722)はなぜか水着姿である。
FRとの戦闘は担当部隊へ任せ、他の傭兵達は周囲のキメラやゴーレム、タートルワームの掃討へ専念した。
「足元を固めないと掬われるよ‥‥」
高村・綺羅(ga2052)、奥津城(ga8201)、木村徹(ga9842)らフリーの傭兵たちは無謀な突撃は控え、己の力量に見合ったキメラを着実に仕留めていく。
「エースの相手は無理でも、戦い慣れたワームならそうそう後れは取らない!」
ブレイズ・カーディナル(ga1851)、綾峰・透華(ga0469)、佐間・優(ga2974)ら【8246小隊】。あるいは鋼 蒼志(ga0165)、風羽・シン(ga8190)、夜十字・信人(ga8235)ら【Cadenza】は、敵地上戦力の要であるタートルワーム、およびゴーレム相手に高い戦果を挙げた。
今回、UPCより「賞金首制度」が公表されたことで懸念されていた混乱が、ここガリア陸上戦線において殆ど見られなかったことは特筆に値する。
FRの脅威を事前に知らしめ、日頃は一匹狼で行動しがちな傭兵達に統制ある行動を選ばせたという点に関して言えば、一連のスペイン偵察任務、および初期2回フェイズで払われた犠牲は決して無駄ではなかったのだ。
「さて、君らは負傷者だ。気持ちは分かるがまずは治療が先だ」
大破したKVから脱出した負傷兵を助け起こし、神代 律(ga7387)が後方の救護所へと送り届ける。
救護所で続々運び込まれる負傷者の介抱にあたりつつ、桜井 唯子(ga8759)は苦々しく呟いた。
「こんなに怪我人を‥‥。ファームライド‥‥いったいどんな奴が乗ってるっていうのよ?」
すぐ近くの補給所では、【ハーベスター】【BWB】他の各隊が慌ただしくKVの補給や応急修理、避難民誘導等にあたっている。
「この物資一つ一つが兵の命を繋ぎ止めるはずなのです‥‥」
ナオ・タカナシ(ga6440)は最新鋭機ワイバーンを駆りながらもあえて補給任務を志願し、前線への物資輸送、並びに負傷者の搬送に尽力した。
スペイン・アフリカ方面から多少の増援を得ているとはいえ、元々の兵力が貧弱なバグア侵攻軍である。陸上の主力であるゴーレム、タートルワームをほぼ喪失し、頼みの綱のFR以外は対人用の中小型キメラ若干を残すのみという、事実上の壊滅状態に陥っていた。
『どうも旗色が悪いな。このあたりが引け際ではないか?』
『ジジイは黙ってろ! 俺達にはまだ切り札があるッ――アースクエイク部隊、前進せよ!』
ゴゴゴォ‥‥という地鳴りが地の底より響いてくる。
ふいに大地が割れ、1機のKVが呑み込まれたかとみるや、大破状態で吐き出された。
地中ワームのアースクエイクだ。
EQ接近を察知するため、今回も陸軍歩兵部隊がKVと共同行動を取っていたのだが、前線での激しい対ワーム戦、また中小型キメラに襲われる危険性からいったん後退させざるを得なかったのだ。
やむなく何名かの能力者がKVを降り、生身で対人キメラと戦いつつ、EQ接近を無線で仲間に報せることとなった。
地上でEQ索敵にあたる仲間達のため、フィル・フォーチュン(ga6082)は近寄るキメラどもをSライフルで撃ち払った。
【蒼穹武士団】の増田 大五郎(ga6752)がK−111で自ら囮となり、EQが食らいついて来た瞬間ツインブーストを発動し離脱。周囲で待ち伏せていた雪ノ下正和(ga0219)、リュウセイ(ga8181)らが一斉攻撃する――名付けて「蚯蚓釣り作戦」。
当初予定していたKVの赤外線感知こそ使えなかったものの、地上の仲間達の情報と大五郎の体を張った漢気により、これで同隊はEQ2機の撃退に成功している。
‥‥惜しむらくはツインブーストの練力消費が大きすぎ、1回ごとに補給のため帰還しなければならない事であったが。
「焦るな! 敵は体がデカいだけのミミズだ、皆で連携すれば必ず倒せる!」
EQ攻撃を専門とする【Elevado】のMIDOH(ga0151)、Laura(ga4643)、シュワルツ・ゼーベア(ga8397)らも地上班からの情報を元に、地中ワーム狩りの戦果を挙げていった。
出現当初は「打つ手無し」と怖れられたバグアの地底兵器に対しても、傭兵達は徐々に彼らなりの戦術を編み出しつつあったのだ。
激戦のさなか、「月詠」情報網を通じてKV全機の回線に吉報が飛び込んだ。
『ユニヴァースナイト、スペイン北部に到着! またUPC軍からの増援部隊もこちらに向かっています!』
傭兵達の口から歓喜の声が迸る。
と同時に――。
今の無線を傍受したのだろうか? FRのうち「射手座」「山羊座」「天秤座」の3機が唐突に宙へと舞い上がった。
『どうやらゲームセットだな』
『私はこのへんでお暇させて頂きますよ。こんな所で捕虜になるのは御免ですからね』
『私もだ。我が研究を成就させるまで、みすみす犬死にするわけにはいかん』
『待て! 貴様ら、勝手に――』
『まあこんなものでしょう。僕らは臨時に招集された寄せ集め部隊ですから‥‥さて、如何致します? アスレード隊長』
『クッ‥‥ここまで来て退却などできるかッ! こうなれば、俺達だけでもイタリアを目指す!!』
勢いづいて攻勢に転ずる傭兵達の目前で、残り4機となったFRの機体が妖しい赤光を放った。
「変態伯爵のKVもどきにいつまでデケェ面させるなよ!! 全機、斉射!!」
伊佐美 希明(ga0214)の号令の下【リンクス】隊が一斉射撃を浴びせるも、特殊性能で機体強化を施した「ゾディアック」のFR部隊には殆ど通じず、反撃により隊長機、及び遊馬 琉生(ga8257)を沈められ撤退を余儀なくされた。
「力に頼るしかできない。弱い人間の典型だよ、お前達は‥‥」
佐嶋 真樹(ga0351)が怒りと哀れみを込めて呟くが、今はその圧倒的な「力」の前に、傷ついた僚機を庇いつつ後退するしかない。
配下のワームやキメラ部隊が壊滅し、3機の仲間に見捨てられた後もなお鬼神のごとく戦い続けるFR部隊の中に、ひときわ猛威を振るう1機が存在した。
「魚座」のエンブレムを持つこの機体が「隊長機」らしい――ということは、傭兵達も薄々感づいていた。
だが、何かがおかしい。戦闘能力に関していえばおそらく7機のうちで最強かもしれないが、その戦い方にはどこか未熟な――喩えていえばパワーだけに任せて戦う新人ボクサーのような青臭さが感じられる。
後に何人かの傭兵が残した証言によれば、このときコクピットの風防ごしに一瞬見えたパイロットは――まだ二十歳前の少年の様だったという。
【フェニックス】の夕凪 沙良(ga3920)が「魚座」FRの目の前でロンゴミニアトを一発発射、爆発の隙に背後を取ろうと図ったが、その前に敵の近接兵器の直撃を受け大地にくずおれた。
だがその直後、FRを覆っていた赤光がふいに薄まり、その動きが目に見えて鈍った。
周囲を取り巻く傭兵達の脳裏を、以前から囁かれていたある「仮説」が過ぎる。
奪われたカプロイア社試作機の特性。超短期決戦用機体。
――練力切れ。
「エースなんていらないわ。数の力っていうものを見せ付けてあげる!」
『ふざけるな! ここを突破する程度の燃料は残っている!』
ファルル・キーリア(ga4815)がすかさず自部隊【雪風】に指示を飛ばした。
【月狼】【雪風】を中心に余力を残した部隊も加わり、勝機と見た傭兵部隊が持てる火力を「魚座」FRに注ぎ込む。
ギギギギギ‥‥
FR隊長機の各所から煙が上がり――ついに「赤い悪魔」はその動きを止めた。
「次に三枚に下ろされたいのは、誰かしら‥‥?」
紅 アリカ(ga8708)が、残り3機となったFRをにらみ据えた。
『チッ。俺たちもずらかるか‥‥誰かあのボウヤ、いや隊長殿を助けてやりな』
『仕方ありませんねえ‥‥。ダム・ダル、手を貸してください。‥‥隊長殿ほどではないですが、我々も撤退分を考えればギリギリです。奴らの抵抗に手間取りすぎた』
『‥‥』
「蟹座」のFRが早々に舞い上がり、ソニックブームの響きを残してスペイン方面へと飛び去る。
逆に「蠍座」「牡牛座」の2機は、動きを止めた「魚座」の元へと近づいた。
そうはさせじと傭兵達が集中砲火を浴びせるが、2機のFRは再度赤光を輝かせ、その攻撃を尽く弾く。後先考えずに暴れていた「隊長機」とは違い、彼らはそれなりに練力のペース配分を考えつつ戦っていたようだ。
しかし、それも既に限界が近いのだろう。機能停止した「魚座」のコクピット部分をもぎとるなり、両機は憎悪の砲火を浴びつつそのまま上空へと逃げ去った。
「逃がしちゃダメよ! 1機でも多く撃墜しなければ!」
ファルルの指示により【雪風】の瑞浪 時雨(ga5130)、ラルス・フェルセン(ga5133)、ティーダ(ga7172)らが飛行形態で追撃するも、結局スペイン方面のバグア勢力圏へと逃げ込まれてしまい、やむなく引き返してきた。
能力者達の間に、安堵とも虚脱とも知れぬ空気が広がる。
残存のバグア軍も潮を退くように退却し、ガリア陸上防衛の戦闘は人類側勝利に終わった。しかし友軍の被害も大きく、このうえ戦線を押し上げる余力は残っていない。
加えて対FR戦に限っていえば、380機に及ぶKV部隊が総掛かりで辛うじて1機を撃破――しかもパイロットには逃亡されてしまった。
果たしてこれを「勝利」と誇っていいのか?
ひとつはっきりしているのは、取り逃がしたゾディアック・メンバー達が、今後もあらゆる局面で人類の強敵として立ちはだかって来るであろう、という事だった。
後に残されたFRの周囲に、傭兵たちのKVが恐る恐る集まる。
過去の実例から、放棄されたバグア機体が自爆する可能性もあったからだ。
『誰か‥‥安全を確認できる者はいないか?』
『では、自分が行きましょう』
志願したのは、つい先日傭兵登録を済ませたばかりの樹野 秋也(gb0196)。あまり準備もできず初陣となったため、とりあえず味方の援護ができれば――と、KVスピアに煙幕銃のみの装備で駆けつけた新兵である。
しかし最近発見された新クラス・エキスパートである彼には、敵のトラップを見抜く特殊スキル「探査の眼」があった。
R−01から降り、生身のまま慎重に放棄FRの機内へと潜り込む。
数分後――。再び姿を見せた秋也は両腕で大きく丸を作った。
「大丈夫です! トラップや自爆装置の類は見あたりません!」
バグア軍新型機を人類が鹵獲した、記念すべき瞬間であった。
<執筆:対馬正治>
【白き空、青き海、赤き大地に、黒き残影】
ナポリはイタリア北部に位置する海辺の街だ。大戦以前には、その豊かな観光資源と、美味しい魚介類やチーズ等でそれなりに有名な町だったが、今やそこはイタリア攻防戦最大の激戦区となりつつあった。
「やはり、一筋縄ではいかないか‥‥」
バグアへの猛攻が始まる中、既に何機かの機体が落とされている。後方から支援していた荒志波 霧人(ga0414)の目の前では、大破する機体もあった。たとえ相手がキューブワームといえど、油断は出来ず、機体を捨ててでも退かないと言い切った数人が、機体の損傷が激しく、補給所送りとなっていた。
「ソロ各機へ! 3島制圧に向かっていた戦艦が、こちらへ攻撃を開始した! 単機でやってたら、やられるばかりだ。何処かの小隊に合流してくれ!」
Romeoの聖・真琴(ga1622)が、小隊に所属しない者達に声をかけて行く。そこへ、隊内の策敵担当でもある熊王丸 リュノ(ga9019)から、敵の迎撃部隊が現れた報告が入った。
「おっしゃ、真琴、皆! リュノ中心に展開。取り返すで!」
隊を指揮する篠原 悠(ga1826)が、そう命じた。決められた位置へと隊員達が動く。それは、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)率いる、カルヴァリオもだった。
「<Quena>より全機へ。今こそネックレスを外して青い空を取り戻そう!」
両機にはそれぞれ、分隊長の指示を遵守し、ペアを組むよう命じてある。イタリア戦線にふさわしく、花と女性の名を冠した隊員達が、岩龍を中心に大空へと展開するが、そこへキューブの群れが妨害電波を発する。
「現れましたね。先にあいつらをやりますよ〜」
ブルーレパード隊のハルカ(ga0640)が、ガトリングでそのCWへと弾をばらまく。ペアを組んでいた霞澄 セラフィエル(ga0495)は、メンバーの真壁健二(ga1786)の機体に目を丸くする。
「って、真壁さん、アナタどれだけ持ってきてるんですか!」
「詰めるだけつめてきた。200発はあるから、遠慮なく盾にしとけ」
最後まで残っているのがディスタンとばかりに、D02の照準をCWに向ける彼。もちろん、盾になるのは自分自身だ。そうして、彼らがCWを撃破して行く間、ラシード・アル・ラハル(ga6190)率いる空戦部隊Simoonが、隊員達を4列に配置し、援護を失ったヘルメットワームへと襲い掛かっていた。もちろん、ただで済むわけもなく、A班で一番危険な役をになっていたラシード以下如月(ga4636)、鞠絵・エイデル(ga8236)他、何人かの隊員が生贄となる。
「各員に通達。そちらに近い部隊が補給が入り用だ。急いで行ってやってくれ」
そうして、あちこちで激戦の火花が上がる中、東條 夏彦(ga8396)率いるハニービー小隊が、壊れた機体を的確に直して行く。柊 香登(ga6982)と玖堂 暁恒(ga6985)が負傷者を運搬し、その間にクラウディア・マリウス(ga6559)とステラ・レインウォータ(ga6643)が修理にあたり、他の面々が警護に当たると言う陣形だ。
そうして、出撃と後退を繰り返している頃、UPC艦隊の砲撃にあわせ、IMP隊が空中援護を開始する。それぞれ、自慢の武器を持ち込んだ彼らは、半ば爆撃をするように弾をばら撒いていたが、味方を庇った夕凪 春花(ga3152)と、ステージの歌姫となった小田切レオン(ga4730)が、重傷者リスト送りとなっていた。
それでも、敵の陣形は空中からの猛攻により、崩れ始めていた。そこへ、UPCから一気に突撃を開始せよとの命が下る。湧き立つ傭兵達は、上空部隊に呼応するように陸上から、ナポリへと襲い掛かる。醐醍 与一(ga2916)が機動力を生かしてビームコーティングアクスをたたきつけ、その間に前へと出た千草・姫子(ga3955)が、一撃を食らわせた直後に引き返す。別名、キングオブチキン戦法。狡賢く生きないと人生は楽しめないとの事。
迎え撃つHW達。その激しい交戦に、幾人かの傭兵達が散って行く。小隊に属してはいないが、ペアを組んだ風宮・閃夏(ga4632)と二桜塚・如月(ga5663)や、ソロで接近戦を挑んだ鈴木紅葉(ga8448)等が、重傷になる。中には、堂々と名乗りを上げてしまい、大破しちゃった葵 鉄泉(ga9861)や、囮として挑発しまくっていた為、盛大な被弾を被ってしまった紅蓮・シャウト(ga9983)のような機体もあるが、相手には徐々に疲労の色が見え始めていた。
「右斜め47度…敵足、微妙に止まってる…。今ならいける‥‥えっ!」
直後、リンディ小隊で、敵の状況を確かめていたミア・神城(ga1823)が、その敵影に気付いた。
『やれやれ。ゆっくりナポリ名物を堪能させても貰えないようだな。そんなに言うなら、相手をしてやろうじゃないか』
そう言ったかどうかは定かではないが、現れた敵影は‥‥漆黒。
「あれが‥‥シェイド!」
白河・瑞穂(ga4867)が、変形して挑むが、あっさりと避けられ、地面にたたきつけられる。それは、ゲック・W・カーン(ga0078)の率いる【瞬雷】によって、各小隊へと報告されて行った。
「五大湖での借りを全てお返ししますわ。魔眼起動! 亀も影も逃しませんわよ!」
シャレム・グラン(ga6298)が0’s小隊を率いて、果敢に攻め込んでいた。だが、相手もさるもの。その後ろから、影に率いられるように、新たな増援が現れる。
「ゴーレム持ち出してきたか‥‥。毎度の横槍入れさせて貰う…! ヘルムリーダー【Zero】、突貫するッ!」
機影を見るなり、稲葉 徹二(ga0163)が、ハンマーボールを振り回した。あたりはするものの、やはり前衛の被弾率は高い。バディを組んでいた獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)が、その打たれ強さを駆使して壁になろうとしていたが、シェイドは容赦しなかった。
「蔓薔薇に覆われた石の壁、穴を開けさせるものですかっ!」
ガーデン大隊を率いるメアリー・エッセンバル(ga0194)、陸上とシェイド対応に分けた小隊を、まるで花を飾るように、小隊で囲い込む。まずメアリーのルピナス小隊が煙幕をばら撒き、九条院つばめ(ga6530)のアスター隊、月神陽子(ga5549)のダリア、そして神鳥 歩夢(ga8600)のアネモネ隊が、交互に波状攻撃を行っていた。中には、テュレル(ga7382)のように、前に出たがために重傷を負う機体もあるが、有栖川 涼(ga6896)は、確信を持って言った。
「影は無いが形は在る。少なくとも抜け目はある訳だ」
その証拠に、シェイドを含む敵勢力は、能力者達の執拗とも言える攻撃を食らって、静かにその高度を下げて行く。問題は、その下に広がるのが、市街地だったと言う事。
「落下地点に教会なんて‥‥罰当たりな真似、させるか‥‥!」
岸村 源治(ga4822)がゆっくりと降下してくるシェイドを見上げ、その落下地点と思しき場所に向かう。そこは、市街地の中でも、人々の心のよりどころとも言うべき十字架の場所。
「奥義『影走り』! 卑怯とは言うまいね」
その建物の影に潜んだ彼、素早く剣を振った。破壊してやるとばかりに、ソニックブレードの一太刀浴びせる彼だったが、相手はシェイド。支給機体のS−01では、そこまで至らない。
『無論だ。ご褒美あげよう』
「何、うわぁっ!」
冷静にそう言って、岸村にそのご褒美‥‥すなわち、機体の大破を施す京太郎。
『どうしても地上でやりあいたいと言うのなら、相手をしてやる。だが、覚悟はしておけよ』
そう言って、シェイドが後ろへと合図する。と、そこへ現れたのは、シェイドと同じく漆黒に塗られたゴーレム達だった。
「まずいっ! 市街戦へ持ち込む気だわ!」
「飾りじゃないのよ、ドリルは。あっはぁ〜♪」
銀野 すばる(ga0472)と銀野 らせん(ga6811)が、そのゴーレム達を市街地に入らせないよう、自前のドリルをやりぶすまならぬドリルぶすまに見立てて、立ちふさがる。半歩間合いをずらしたゴーレム部隊を見下ろす位置に、数機のKV。
「ここで引いたら、女がすたる。引かぬ、媚びぬ、省みぬ! 魔法少女に逃走は無いのよ!!」
螺旋紅蓮隊の奏でるBGMに乗り、派手なポーズと名乗り上げで登場する天道 桃華(gb0097)と、マジカル♪シスターズ。
「三位一体! 天下無敵の純情美少女、乙女組参上!」
いや、彼女達ばかりではない。魔法少女が呼び水になったのか、乙女組までチーム組んで登場していた。
『バカが』
場に広がる華やかな空気を、塗り替えるかのような京太郎。彼女達がポーズを決めるその下から、突き上げるように駆け抜ける。
「こらぁっ! お約束を無視するなんてずるいー!」
怪我をした乙女組の戎橋 茜(ga5476)が文句つける中、ヒヨコ隊から出張してきた黒頭巾(ga7171)が、ため息をつきながら回収を頼んだ。
「言わんこっちゃない。ガンアンツさん、お願いしますよー」
「おう、軍隊アリが、押し通るぜー」
フェブ・ル・アール(ga0655)がそう言いながら、チームでタイミングを合わせて波状攻撃している。その間に、ガンアンツに追従していた皆城 乙姫(gb0047)が、発生した怪我人を回収していた。
「よし、押してきたな。一気になだれ込め!」
「砲撃用意! バグアの猛攻をこっちで援護するんだ!」
その間に、榊兵衛(ga0388)の率いる榊分隊と、ゼロ・マクスウェル(ga5118)のいる旅風が、砲撃を開始する。巻き起こる激しい対空砲火の乱打。
「行こう、みんな。今でも僕達の助けを待っている、多く人達の為に!」
その間をかいくぐるようにして着地したイエローマフラー隊が、流 星之丞(ga1928)の指揮の元、戦火の広がるナポリの街で、海岸部隊を誘導するように、その穂先を敵へと向けた。
「ナポリタンが、ないだとぉーーーーーー!」
中には、猫瞳(ga8888)のように、イタリアンパスタを求め損ねて轟沈している奴もいるが、情勢は陸軍到着と共に、UPC側へと傾き始めていた。
「緋霧の歌声や…頑張らな、な」
その彼らを勇気付けるようなIMPの緋霧 絢(ga3668)が歌声。響いたその声に、クレイフェル(ga0435)はそう呟く。
「とうっ! 切り裂け光の翼”想怒迂殷愚”。我等ナポリ一番乗り!」
背中に『悪世流☆全開』の幟‥‥当然KVサイズである‥‥を立てた阿野次 のもじ(ga5480)が嬉々として、皆が戦っている間に、ナポリの街中へと足を踏み入れる。もはや一番のりもへったくれもあったモンじゃないが、他の前衛部員‥‥蓮沼千影(ga4090)や櫛名 タケル(ga7642)と共に、ペイント弾入りのガトリング弾をばら撒いている。戦域も広がっていたが、その分制圧を完了する地域も多かった。
だが、その時である。
「シェイド、どこいった!?」
雪兎(ga8884)が、カメラアイを周囲へと向ける。乱戦に紛れて、シェイドの姿が見えなくなっている。霧島 深夜(ga4621)の話では、ファームライド各機はスペインに現れたらしい。
「そこかっ!」
「きゃああんっ! せっかく黒く塗ったのにーー!」
ユージン・足羽(ga7682)が狙ったのは、シェイドに『仲間と思って寄って来てもらえる様に』、機体を真っ黒に塗ったコレット・アネル(ga7797)だ。
「モンスターに見えても、モンスターじゃないからね。でも、その女優魂は評価するわよっ!」
羽曳野ハツ子(ga4729)がディフェンダーでゴーレムの動きを受け止めつつ、下がるように誘導している。
「く‥‥シェイドはどこだっ!」
ペガサス分隊のエクセレント秋那(ga0027)が、その姿を探した刹那、見えたのは。
『ここだよ』
「何っ!」
数機のゴーレムを引きつれ、UPC司令部の真上へと現れたシェイド。
「この‥‥!」
隊長の白鐘剣一郎(ga0184)が、ガーデン小隊と共に、彼を囲い込もうとする。しかし、その速度は、ゴーレム達よりも早い。囲い込みきれず、突破を許してしまう。
「本部に奇襲! 緊急対応班は至急帰還してください!」
ガーデン小隊が、緊急対応班に連絡を取っている。その間に、ロッテ・ヴァステル(ga0066)率いる、突撃機動小隊【魔弾】が、盾になるかのようにフォーメーションを組んでいた。
「どうやら、射程が強化されてるみたいね‥‥」
月影・透夜(ga1806)が、右翼後衛に陣取りながら、自身の方まで届く弾に舌を巻く。
「黒き影よ‥‥最後は美しく、咲き誇れっ!!」
『遅い。数に頼れば良いと言うものでもないよ』
隊長のロッテ、戦術フォーメーションの陣頭に立ち、シェイドへと挑む。だが、その熱さと想いとは対照的に、冷静に刃を受け止めるシェイド。
「このぉっ!」
こっち向け! とばかりに、横合いから射撃する錦織・長郎(ga8268)。おかげで、シェイドをロッテから引き剥がす事には成功したが、逆に重傷を負ってしまう。
「私が守ります。落ち着いて狙ってください」
駆けつけたセラ・インフィールド(ga1889)が、分隊を指揮しながら、盾になる。被弾率はかなり高いが、ここで退けば、他のガーデン隊員達が大破してしまう。退くわけには行かなかった。
「京太郎ぉぉぉぉ!!」
『数で押すなと言っている!』
その間に、Zephyrの鷹見 仁(ga0232)がチームメイトと囲い込むようにして、シェイドに迫る。しかし、部下の機械的な動きでは、彼に対抗する事は出来なかったようだ。
炎上する司令部。その炎を背負うように、司令部の中から、西研の面々が前へと進み出た。
「ならば少数精鋭で行こうじゃないか。キョータロー君!」
また会えて嬉しいよ。と言いたげな所長のドクター・ウェスト(ga0241)。見覚えのある姿に、京太郎の口元もにやりと笑う。
『あの時のか‥‥。なるほど、頭は回るようだな』
彼の率いる小隊が、フォーメーションを仕掛けた。他の小隊と違うのは、それが決して機械的な指示に従っているわけでは無いと行った所か。
「けひゃひゃひゃひゃ!」
『狂人はお互い様と言うところか』
どちらが悪役だかわからない笑いを浮かべ、その身に肉薄したウェストのバニシング・ナックルが炸裂する。ばちり、と大破する西研の面々。しかし、シェイドも大きく後退するハメになっていた。
「スペインのファームライドが撤退しました。アフリカからの増援が、あと1時間で到着するそうです」
ペガサス分隊のみづほ(ga6115)が、そう報告してくる。それは、京太郎達にも届いたいのだろう。
『潮時か。いいだろう。イタリアはくれてやる。せいぜい、ナポリの食事でも楽しんでおくと良い』
ブースターが吹かされた。直後、イタリア各地からバグア軍が撤収して行ったとの報告が入ってくる。
かくしてナポリは奪還され、UPC陣営の地図は、大きく塗り替えられる事になるのだった!
執筆:姫野里美
●来寇
照明弾の閃光が青い空に輝いた。
「全速離脱!」
敵接近の第一報に成功した斑鳩・眩(ga1433)の機体を無数の光線が貫く。全力で後退を試みるが、猶予は許され無かった。
刹那、機体は乾いた木の葉のように燃え砕けながら落下してゆく。
「眩さん!!」
フィアナ・アナスタシア(ga0047)が叫ぶ。
無数のヘルメットワーム瞬く間に距離を詰めてくる。間に合わない!
一瞬の感情のぶれを元に戻す事も許されず彼女の機体もまた無数の光線が貫き‥‥一筋の煙の筋となって消えてゆく。
突然の照明弾の閃光。消える味方。戦場でその意味を解さない者は居ない筈だ。
「来たぞ!」
佐倉祥月(ga6384)がネットワークに情報を繋ぐ。
味方の撃墜、押し寄せてくるヘルメットワームの大群。即座にそれは【蕾】に伝えられシシリー島に展開する【Tr】‥‥陸・海・空、全ての隊、そして個人へとリレーされてゆく。
間もなく姿を現した無数のヘルメットワームは得物を狙うピラニアの様にシシリー島へと殺到する。
シシリー島の戦域で迎え撃つ能力者は合計332人。
空中に展開する能力者は【櫻小隊】【放課後クラブ隊】【若葉隊】【若葉】【私設傭兵団:神城台】【燕・スワロウトレイル】【護龍】【フルーツバスケット】の各小隊に義勇兵の51を加えた、およそ150。内、敵の警戒に当たっていた約50機が【蕾】へ情報を送り、或いはヘルメットワームに立ち向かってゆく。
迎撃するKV突破し、シシリー島上空に到達したヘルメットワームが見慣れぬ『何か』を落下させる。それが地上に到達すると、火炎が巻き上がり爆音と轟音が響く。
塹壕をひたすら掘り続けている【スカベンジャー】の周囲にも、それは投下される。焔の帯が広がり砕かれた土壌や建造物の破片がシャワーの様にまき散らされる。
「そんな馬鹿な!」
空から降ってくる物体は人類側の『フレア弾』に酷似した爆弾だった。
何故? どうしてバグアが人類の様な兵器を使うのか? 誰もが言いしれぬ不吉さを感じる。
爆撃は一時の猶予も与えないかのように続く。【零小隊】【櫻小隊】【若葉】【霞】【フルーツバスケット】【スカベンジャー】を中心とした約60名に数人の個人が陸上で敵を待ちかまえていた。
次々と爆発で巻き上げられた土砂が熱を持って頭上に降り注ぐ、地上で活動する能力者達にとって、それはとても長い時間に感じられただろう。
「これより電子支援を開始します」
篠崎 美影(ga2512)が装置を起動させる。本当の長く苦しい戦いの始まりだった。
イタリア半島を目指すバグア軍にとってシシリーに居座る能力者達は大きな障壁となっており、これを排除する必要があった。
ヘルメットワームを主軸とした航空兵力が予想外の爆撃を行ったのはそのためだろう。
しかし、このことは能力者達にとって有利に働く。投下の際に出来る一瞬の隙を見逃さなかったのだ。
敵を少しでも減らせればと、大曽根櫻(ga0005)は、照準を合わせて高分子レーザー砲を放つ。しかし、耐久力に優れた大型のヘルメットワームは損害をものともせず何食わぬ様子で、地上に向かって行く。刹那、光の槍の様なものが突き刺さり‥‥爆発する。
「ニャ〜☆ 行っにゃよ〜☆」
アヤカ(ga4624)の放った必殺のエネルギー集積砲であった。独りでは倒せない敵でも仲間と一緒なら倒せる。
島の上空に侵入してきたヘルメットワームは地上の手頃な目標に狙いを定め爆弾を投下すると、相変わらずの優れた機動性を見せつけ、KVの編隊のなかに割り込むよう浸透してくる。
「さーて見せてもらおうかしかしら? 新型機の性能とやらを!」
藤田あやこ(ga0204)の放ったレーザーが爆弾を落下させた直後のヘルメットワームに命中する。刹那、左右に行動する僚機の攻撃が殺到し、ヘルメットワームはバラバラに砕け落下してゆく。
一方、天草・渉(ga0015)達が放ったロケットランチャーの爆発が投弾体勢のヘルメットワームの体勢を崩させると、タイミングをずらして飛来したホーミングミサイルが的確に命中し空に大きな炎の花を咲かせる。
ユーニー・カニンガム(ga6243)を中心とする【護龍】のメンバーも堅実な編隊を組み、効率よくヘルメットワームを葬ってゆく。心配されたキューブワームの数も少なく。効果が発現する前に破壊されてゆく。
能力者の殆どが単機での行動を避けていたのに対し、数の優勢を生かさず、単騎での行動を繰り返すヘルメットワームは次々と討ち取られてゆくゆくのだった。
こうしてヘルメットワームの第一派の攻撃は、決死の覚悟の能力者の活躍に数十機の機体を失うというほぼ全滅に近い損害を被ることになる。
その後も絶え間なく現れる小型・中型のヘルメットワームに対しても、優位に戦いを進める能力者たちであったが、次第に補給が間に合わくなる。っそして、迎撃が息切れし始める。
空での優勢に比較して、海での戦いは苦しく苛烈であった。
水上・水中での戦いを挑むのは【櫻小隊】【テンタコルス海兵隊】【アナイティス】【海坊主】【ゲソレンジャー】【LH水泳部】【S.G】【Erfolg】【アクアリウム】を中心とした53名。
この戦力で正面から敵に向かえば、全滅する可能性があり、シシリーの孤立を防ぎ、退路を確保する役割からも無理な戦いを行うわけには行かなかった。全滅するわけには行かない。敵の海岸線へ上陸は阻止不能であった。
それでも、諦めない。
海上に閃光が走る。囮となった鯨井昼寝(ga0488)シシリーに向かう敵の注意を惹く。2機のタートルワームが昼寝の機体に誘引される。
ファームライドを意識して引かれた自部隊を大魚と化すよう意識された陣からの息のあった攻撃は強力であり、瞬く間に2機のワームを葬り去る。
そして、この事を大兵力の存在と誤解した敵が【アクアリウム】に対して戦力の多くを裂くことになる。
「よっしゃぁ今だ!」
レーン・M・アルトナー(ga4384)が叫ぶと、ゲソレンジャー、テンタコルス海兵隊、LH水泳部、アナイティス、海坊主、ゲソレンジャーが分離した敵の水中部隊に向かって一気に攻勢にでる。
「通りたくば美海たちの屍を踏み越えていけなのですよ」
美海(ga7630)が言った。敵の上陸は阻止することができなかったが、進行速度を緩める事は可能だ。
ファームライドは現れなかったが、アクアリウムの活躍を中心に周囲の戦力が、少ない戦力で最大の戦果を上げさせる事に成功していた。
「今日は来客が多い、ですね」
無茶推奨を豪語するアグレアーブル(ga0095)が複雑な思いを込めて呟く。
後に判明するが、僅か7人の部隊が、シシリーに向かうバグア上陸軍の進行速度を勝敗を左右するほどに遅延させる最大の要素となるのだった。
一方独立した行動を取るマリア・ベースハート(ga7273)を中心とした爆雷班が実施する獏らい攻撃も一定の効果を上げていた。【わんわんわんこ】が戦いで傷ついた仲間を後退させようと現れ‥‥そして、味方を後退させる代償に敵の標的となり撃破されてゆく。
海では善戦を続けるも、敵は次々と海岸に到達し、その凶刃を振るい始める。
だが、上陸を開始した敵には地上部隊の反撃が待っていた。味方の弾幕に援護されたソード(ga6675)がタートルワームにロンゴミニアトを突き立てた刹那、大音響と共に火柱を上げて爆発する。シア・エルミナール(ga2453)、安藤 有希(ga4898)らレーザーをタートルいワームに集中させダメージを積み重ねて行く。
菜姫 白雪(ga4746)も少しでもみんなの役に立てればとアグレッシヴファングの力を込めた渾身の一撃を放つ。
多すぎる敵。しかし、若葉隊を始め零小隊、フルーツバスケットが少しずつ戦線を下げながらも善戦をしている。敵を確実に食い止めていた。
『留められる』、誰彼となくそう思い始めたとき、機体上にゴーレムを乗せた多数の大型ヘルメットワームが突如現れた。さらに、海中から一斉に姿を現したタートルワームが激しい砲撃を開始するのだった。
●崩壊
前線を突破したヘルメットワームが補給拠点の上空に侵入し、次々と爆弾を投下してゆく。
ミハイル・チーグルスキ(ga4629)が煙幕を放つと、辰巳 空(ga4698)が降下してきた敵に渾身の一撃を叩き込む‥‥墜ちない。力が足りないと悔やんだ刹那、アグレッシヴファングの力を載せた菜姫 白雪(ga4746)の必殺の一撃が叩き込まれる。一瞬の沈黙の後、爆発するヘルメットワーム。
途切れる事のない攻勢に、矢弾・燃料を使い果たした味方達が補充を求めて後退してくる。
「他で耐えている仲間の為にも、頑張りましょう!」
白鳳 雛那(ga4679)が言う。
【櫻小隊】【零小隊】【最古&斧小隊】【わんわんわんこ】【フルーツバスケット】【WaB】【Reloaded】【BWB隊】の各小隊を中心に個人参加の20名ほどを加えたおよそ76名が補給活動を行っている。
ひっきりなしに戻ってくる味方の機体を、仲間の傷を必死で癒し、戦場へと送り返してゆく。
補給重視の方針をとった小隊が多かったため、物資の消耗は早く、回数も多くなっていた。
最古&斧小隊のメンバーが物資を補充する為に動くが、消費のほうが圧倒的に早い。
その時、爆弾の一つが弾薬庫のシェルターの天井を貫通し、内部で爆発する。拡がった猛烈な火炎は集積されていた物資の誘爆を引き起こす。
空は黒煙に包まれ、巻き上げられた水蒸気が煤を含んだ黒い雨となって降り始めた。
消し飛ぶ物資、それでも、後方の人々は絶望しない。
残り少なくなった物資を与え、癒しを施すと戦士を戦場に送りつづける。
しかし、内陸への侵攻を開始したゴーレムをはじめとする強力な地上部隊が補給拠点にも迫ってきていた。
「ドリルというものはあまり趣味ではないのだが‥‥」
緑川 安則(ga0157)がそう漏らした刹那、ゴーレムが爆発する。敵を食い留めよう‥‥いや少しでも進行速度を遅らせようと必死の戦闘が繰り広げられている。しかし、南部の海岸からの敵の増援は留まる所を知らない。
「斬って斬って斬りまくるのみ!!」
森木 久美(ga4642)はそう言うとディフェンダーを構えて走る。
地上で戦線を維持していたのは56人。陸戦に特化した【零小隊】は強力であり、海岸近くでは暫く善戦していたが、手数に勝る敵の前に後退を余儀なくされていた。そして、海岸地帯を突破されると水上戦力との連携も絶たれてしまい、補給の隙を突かれたことも重なって、瞬く間に内陸への侵攻を許すことになる。
「みんなの役に立つって決めたんだ!」
須賀(ga9334)が迫り来るゴーレムに挑む。後方で支援に当たっていた者も迫り来る敵を迎撃せざるを得なくなり始めていた。
「もう一踏ん張りなのですよ〜」
小鳥遊 憐(ga5574)が煙幕を放ち時間を稼ぎながら、根拠の無い励ましを叫ぶ。
もう耐えきれないと思い始めた地上部隊に悪夢のような報が【蕾】から届けられる。
退路になるはずの海上交通路にも先鋒隊と思われるキメラ及びヘルメットワームが姿を現しUPC軍が応戦中だという。
僅か4名によって試みられた施設を爆破し敵を巻き込むという起死回生の企ても、敵の空爆等の状況には対応できずに完全な失敗に終わる。
そして、その事実を知らなくても増え続ける敵、減る一方の支援という現実を突きつけられ、傭兵の表情にも絶望の色が広がり始める。
「イタリア本土からバグア軍が撤退を開始しました!」
その時、スィーリン・ハルシャ(ga8187)の声が【蕾】のネットワークの中を駆ける。
『シシリー島を放棄、全軍イタリア方面へ後退せよ』と命令が下る。
絶望の戦場から逃れよう‥‥、ある者は負傷者の肩を取り、ある者はKVの補助席に乗せられ撤退を開始する。
「どんな大波が来ようと防ぎきってみせる」
鏑木 硯(ga0280)の言うその言葉の通り、
【404隊】、【アクアリウム】が後ろ盾の中心になり、シシリーの能力者達、そしてUPC軍は撤退する。
イタリアを目指す能力者達の攻撃は進路の上に残る全ての敵へと収束して行くのだった。
上空を覆っていたヘルメットワームの姿が消えてゆく。
人類が初めて、失った土地を取り戻した瞬間であった。
<執筆:加藤しょこら>
(監修:音無奏・みそか)
●今回の受勲者・賞金獲得者を発表する<該当者にはUPC軍鉄菱勲章を与える>
5月27日に叙勲の様子の報告と、賞金反映が行なわれる。
●勲章授与一覧
≪小隊の部(小隊長に勲章授与及び、小隊に特別功績点配布)≫
小隊【アクアリウム】(No29) 代表者:鯨井昼寝(ga0488)
叙勲理由:シシリー島戦において、効率的敵を倒す試みと、撤退時の組織的支援を評価したため。
小隊【月狼】(No17) 代表者:終夜・無月(ga3084)
叙勲理由:ファームライド(アスレード機)撃墜に貢献したため。
小隊【雪風】(No103) 代表者:ファルル・キーリア(ga4815)
叙勲理由:ファームライド(アスレード機)撃墜に貢献したため。
小隊【西研】(No40) 代表者:ドクター・ウェスト(ga0241)
叙勲理由:ナポリ奪還戦において、奇襲をうけた司令部を防衛し、シェイド本体を迎撃した功績により、勲章を授与する。
小隊:突撃機動小隊【魔弾】(NO.57) 代表者:ロッテ・ヴァステル(ga0066)
叙勲理由:ナポリ奪還戦において、奇襲をうけた司令部を防衛し、シェイド本体を迎撃した功績により、勲章を授与する。
≪個人の部≫
鏑木 硯(ga0280)
叙勲理由:シシリー島戦において、効率的敵を倒す試みと、撤退時の支援を評価し、勲章を授与する。
樹野 秋也(gb0196)
叙勲理由:撃墜されたファームライド鹵獲への貢献を評価し、勲章を授与する。
皇 千糸(ga0843)
叙勲理由:照明弾によって一瞬だけでもFRを視認下に置き、ペイント弾の隙を作ったことを評価し、勲章を授与する。
●特別報奨金授与者
樹野 秋也(gb0196)
<直接撃墜ではないが、破壊か鹵獲を決定づけた行動を評価し150万クレジット授与する>
終夜・無月(ga3084)
<小隊の活躍を鑑み、合計500万クレジットを授与し、小隊員全員に均等に配布する。
分配方法については調整を行いたい場合は、ユーザーID、パスワード、どのIDにどの金額を与えるのかを付けて、代表者がcts@crowdgate.co.jpまで連絡すること。尚、期限は26日14:00迄とする>
ファルル・キーリア(ga4815)
<小隊の活躍を鑑み、合計400万クレジットを授与し、小隊員全員に均等に配布する 。
分配方法については調整を行いたい場合は、ユーザーID、パスワード、どのIDにどの金額を与えるのかを付けて、代表者がcts@crowdgate.co.jpまで連絡すること。尚、期限は26日14:00迄とする>
●機体大破・重体
斑鳩・眩(ga1433)<注意! 再起不能となる一歩手前>
フィアナ・アナスタシア(ga0047)
鯨井昼寝(ga0488)
ファルル ga2647
綾波 結衣 ga4979
安藤 有希 ga4898
オレンジ☆ロード(ga9359)
村居 零(ga9437)
斑鳩(ga9781)
ポポ・マフィン(ga4177)
アルクトゥルス(ga8218)
フランネル(ga4869)
野村 承継(ga4870)
須賀(ga9334)
新条 拓那(ga1294)
伊佐美 希明(ga0214)
夕凪 沙良(ga3920)
皇 千糸:ga0843
如月・彰人:ga2200
煉条トヲイ:ga0236
●機体大破
葵 鉄泉(ga9861)
紅蓮・シャウト(ga9983)
岸村 源治(ga4822)
天道 桃華(gb0097)
榊兵衛(ga0388)
猫瞳(ga8888)
セラ・インフィールド(ga1889)
ドクター・ウェスト(ga0241)
佐柄 麟:ga0872
神城 天矢:ga0098
チャペル・ローズマリィ:ga0050
暁・N・リトヴァク:ga6931)
鏑木 硯(ga0280)
リリエーヌ・風華・冬堂(ga1862)
氷雨・翡翠 ga1860
●重傷
荒志波 霧人(ga0414)
岡村啓太(ga6215)
言瀬 一文(ga6253)
千堂 紅葉(ga6521)
ビッター・エアハルト(ga7614)
フィル・ローランド(ga8855)
火絵 楓(gb0095)
平島 智(gb0113)
聖・真琴(ga1622)
篠原 悠(ga1826)
篠原 凛(ga2560)
聖・綾乃(ga7770)
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)
翠の肥満(ga2348)
リン=アスターナ(ga4615)
ハンナ・ルーベンス(ga5138)
藤宮紅緒(ga5157)
なつき(ga5710)
阿木・慧慈(ga8366)
アンドレアス・ラーセン(ga6523)
ハルカ(ga0640)
霞澄 セラフィエル(ga0495)
真壁健二(ga1786)
ラシード・アル・ラハル(ga6190)
如月(ga4636)
鞠絵・エイデル(ga8236)
パティ・グラハム(ga7167)
夕凪 春花(ga3152)
小田切レオン(ga4730)
風宮・閃夏(ga4632)
二桜塚・如月(ga5663)
鈴木紅葉(ga8448)
ミア・神城(ga1823)
白河・瑞穂(ga4867)
シャレム・グラン(ga6298)
稲葉 徹二(ga0163)
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)
テュレル(ga7382)
銀野 すばる(ga0472)
銀野 らせん(ga6811)
リリィ(ga0486)
弓亜・優乃(ga0708)
大門・雷美(ga8541)
戎橋 茜(ga5476)
二階堂 審(ga2237)
ゼロ・マクスウェル(ga5118)
上ヶ崎 丈二(ga8399(
榊 刑部)ga7524(
クラリッサ・メディスン)ga0853(
小鳥遊神楽)ga3319(
ゲオルグ・シュナイダー)ga3306(
ソフィア・シュナイダー)ga4313(
クレイフェル)ga0435(
阿野次 のもじ)ga5480(
蓮沼千影)ga4090(
櫛名 タケル)ga7642(
狭霧 雷)ga6900(
カイ・ミスト)ga8240(
霞 燐)ga6901(
風見 蒼)ga8219(
山本)ga6624)
オーク(ga6628)
スパイシー(ga6673)
沙雪(ga7095)
厭離穢土(ga7483)
佐岳師祐子(ga4931)
33ki(ga2929)
コレット・アネル(ga7797)
ユージン・足羽(ga7682)
羽曳野ハツ子(ga4729)
エクセレント秋那(ga0027)
白鐘剣一郎(ga0184)
ブレイズ・S・イーグル(ga7498)
ロッテ・ヴァステル(ga0066)
楓華(ga4514)
錦織・長郎(ga8268)
藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)
鷹崎 空音(ga7068)
崔 南斗(ga4407)
夏 炎西(ga4178)
東野 灯吾(ga4411)
北柴 航三郎(ga4410)
張央(ga8054)
風山 幸信(ga8534)
金 海雲(ga8535)
鷹見 仁(ga0232)
エル1(ga1874)
エル2(ga1875)
エル3(ga1876)
エル4(ga1877)
エル5(ga1878)
エル6−2(ga1879)
エル7(ga1880)
エル8(ga1881)
エル14(ga6545)
エル16(ga6547)
国谷 真彼(ga2331)
ランドルフ・カーター(ga3888)
ロバート・ブレイク(ga4291)
ハワード・ラヴクラフト(ga4512)
乃木 遼 ga9231
神塚獅狼 ga6742
アグレアーブル ga0095
ジュエル・ヴァレンタイン ga1634
遠石 一千風 ga3970
虎牙 こうき ga8763
エル21 ga8985
エル22 ga8986
エル23 ga8988
エル24 ga8989
ゼラス(ga2924)
石動 小夜子(ga0121)
神楽坂・奏(ga8838)
鉄 迅(ga6843)
ヒマリア・ジュピトル(gz0029)
遊馬 琉生(ga8257)
ロイ・キューブリック(ga4439)
白虎(ga9191)
相麻 静間(ga4704)
晴彦(ga0711)
霽月(ga6395)
フィーロ(ga7235)
真田 一(ga0039)
NAMELESS(ga3204)
バーナード(ga5370)
近藤勇美(ga6548)
鷹代 朋(ga1602)
雪村 風華(ga4900)
優(ga8480)
クリストフ・ミュンツァ(ga2636)
土方伊織(ga4771)
カリム・エストローネ(ga8852)
天龍寺・修羅(ga8894)
リオ・マクドール(ga9044)
ファレル:ga7626:
エミール・ゲイジ:ga0181
|
|
 |
 |
 |