ボリビア防衛作戦
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――敵情報 第3フェイズ


●軌道上:某所
 地上を見下ろす『そこ』で、ブライトンは一つ頷いた。
「キュアノエイデスが死ぬ、か」
「統合の限界を突破、暴走を伴いつつギガワーム3047との機械融合の開始を確認しました。キュアノエイデスの推定喪失時刻は2時間37分後です」
 告げるドットは、先の交戦で専用機のゼダ=アーシュを中破させている。人類がそれだけの敵であった事を認めざるを得ない、と彼は淡々とつけたした。
「‥‥我らを他所に配した辺りからするに、キュアノエイデスは当初より破れる覚悟だったのだろ‥‥でしょう」
 そう報告したリノは、敬愛するブライトンの前だと言うのに苛立ちを隠してはいない。オリ=グレイの提出した生身での交戦記録を確認してから、老人は微かに笑った。
「この星は異常だな。‥‥面白い」
 バグアの機動兵器と生身で渡り合うような異星人はこれまでにもいた。他ならぬオリ=グレイ、ゥイーヴスらのヨリシロもそうだ。吸収してもなお、科学的に分析できぬ特殊な技術を持つ異星人もいた。デヴィルの音波感覚、ドットの生体機械などがそうだ。しかし、それは全てバグアの襲来以前に完成されていた生体や技術だ。戦いが始まって10年やそこらで、こうまで極端に戦闘力が変化した例は無い。
「キュアノエイデスは言っていた。この星の人類は、記録にある限り常に同族殺しをし続けて居る、と。つまり、常に成長を余儀なくされていたと言うわけだ。いわば戦闘に特化した生物なのやも知れぬな」
 エミタという特殊金属。そして能力者。これらは人類が独力で得たものではない、と彼は理解していた。しかし、未知の『力』を己のものとしていく適応力は、人類が備えている生得の物なのだろう。
「エクアドルを動かす許可を、与えよう。SESだったか。その力が我らの手の及ばぬものでは無いと知ってなお、彼らが折れぬか見てみたい」
 折れぬならば、まだ伸びるのだろう。ブライトンはそれを期待している。彼らがブライトンの用意した障害を越え、高みを目指し、そして最後は自らの糧となる事を。愚かな地球人類、と呼びつつもブライトンはこの星の住人を愛している。彼に、知識と力を与えてくれるであろう餌として。

●エクアドル:某所
 意外としっかりした航跡を描きながら、小さなカプセルはエクアドル国内のバグア拠点にたどり着く。開いたハッチを抜け、格納区画へと降下。
「‥‥クソがッ」
 タロスや本星型ワームの並ぶ一角に、乱暴に着地した。それを待っていたかのように、奥の暗がりから一体の異形が静かに姿を現す。名をシバリメ。妖艶な女性の上半身と蜘蛛の如き下半身を持つゼオン・ジハイドが5番だ。
「手ひどくやられたようねぇ? アルちゃん」
 くすくすと、笑う気配と共に、そう声が掛かった。笑いの波をを繰り返すように、カサカサと周囲で音がする。
「ケッ。こいつら、案外やりやがるぜ」
 表面のやや焦げたカプセルの扉を内側から蹴りあけ、不機嫌そうにアルザークが顔を出した。ティターンで十分、と豪語して出撃した結果がこれでは、ゼオン・ジハイドの沽券に関わる。カプセルの表面を殴りつけると、焦げた表面がいやな音を立ててへこんだ。
「あらあら、やる気満々って感じね。でもね‥‥」
「キュアノエイデスが死んだ? デヴィルの旦那に続いて、か!?」
 油断したな、と自分を棚に上げて呟くアルザーク。しかし、驚きは無い。先に刃を交えた連中の腕を考えれば、キュアノエイデスは武闘派というよりは知略派だっただけに不覚を取る事はありえる。
「そうか。俺様もまだやり足りなかった所だ。お前がアフリカから来たって事は、まだ一当てやるんだろうが?」
「ああ、次の出撃命令? 現地人の回収だって」
 シバリメの声に面白くなさげな色が加わるのは、仕方が無いだろう。彼女たちにとって見れば消耗品に過ぎない強化人間のアキラやネヴェの為に自分たちが動くと言うのは、嬉しい物ではない。一敗地に塗れたばかりのアルザークにとっては尚更だが。
「‥‥アルちゃんにも、専用機の使用許可がブライトン様より出てるわよ」
 ささやくように付け足した一言が、いらただしげだったアルザークの表情に喜色を戻す。漆黒のゼダ・アーシュ。彼の手足となり戦場を駆けてきた機体だ。
「あたしも、あたしの子達と遊んでこようかな。キュアノちゃんも一人じゃ寂しいでしょ。たくさん、送ってあげないとねぇ?」
 カサカサ、主の声に同意するように音が返る。シバリメの周囲を這い回る蜘蛛の姿のキメラ達が、暗がりから這い出てきた。人形形態で立つゼダ・アーシュの横、駐機しているフォウン・バウへと爪でしっかりしがみつく群れ。薄い紫の高速機が、遠くアフリカから彼女を運んできた専用機だった。

●ボリビア:カフェ『アレハンドロ』テラス
 ボリビア国内、スクレ。ボリビアの政治的中心は、4月のアスレードの強襲でラパスからこの街に避難してそのままになっていた。ブラジルでの激しい戦いはこの地にあっては嘘のようだ。これまでも、バグアと人類の戦争から距離を置き続けてきたこの国は、揺籃の中でまどろんでいた。それが今日、終わりを迎えるとは、道行く人々の誰も考えてはいないだろう。
「最初っからこうすれば良かったのに、バカばっかし」
 喫茶店で、カップを指で弾いた女が言う。年の頃は、30過ぎ。化粧で雰囲気を変えているが、ゾディアック山羊座プリマヴェーラ・ネヴェだった。向かいに座るスーツ姿の青年が口元だけで笑う。リリア直属のトリプルイーグル最後の一人、アキラ・H・デスペアというのが彼の名だ。
「南米の国家はおおむね、民ではなく上が動かしています。気に入らないならば、上を挿げ替えればいい。貴女なら良く知っているでしょうがね」
「‥‥うっさい」
 細めた目で睨むネヴェに、アキラは軽く肩をすくめて答える。
「そろそろ、プラントが目を覚ます時間ですよ」
 アキラが腕時計に目を落としたのと時を同じくして、周囲の空気がかすかに変わった。彼が仕掛けてきたキメラどもが目を覚ます‥‥筈の市街の南側丘陵や大型機の発着可能な空港方面ではなく、なぜか北側に薄く煙が上がっているのが遠めに見える。叫び交わす兵士の声に注意すれば、聞こえてくるのは魚座のあの男の名だった。アースクエイクを使って侵攻して来たらしい。
「‥‥これは驚きました。国境警備に穴を作ってあったとはいえ、よくここまで来れましたね」
 ほんの僅かの自失の後、アキラは何事も無かったように紅茶をすする。サイレンを鳴らしながら街路を走る装甲車を見て、ネヴェは先ほどの感想を少しだけ訂正した。この国も、ずっと昼寝していたわけでもないらしい。
「さて。官邸の方は彼らに任せましょうか。どうせ国境を強引に突破してきたのでしょうから、目だってくれるでしょう」
「了解。あたしたちは真ん中の離宮‥‥だっけ? 王様の方だね」
 どうせ浚うなら、中年の摂政より線の細い美少年の方が楽しい。拉致できなければ、殺してもいい。目立たぬように潜入するルートや狙撃地点は、アキラが幾通りも調べ上げてあった。




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