バレンタイン強襲戦
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第2フェイズ統合情報

■第2フェイズ オープニング本文

 如月。暦の上では春の入り口。
 春に向けて、多くの命が芽吹き始めるこの季節だが、諸手を挙げて春だ!と叫ぶにはまだ少々寒すぎる。ゴットホープで能力者達が囮として『第二次バレンタイン終了のお知らせ』を「真面目に」遂行したその翌日。輸送機の群れは、一路南下していた。渡り鳥の群れのように。
「目的地はタシーラクじゃなかったのか?」
「‥‥どうやら、それもスパイ対策らしい」
 最後の機へと乗り込んだ傭兵がそう呟く。よほど注意深い者でも、輸送機の数の割に、乗り込んだ人数が少ないことには気づけなかっただろう。残りの人数は、もう少し小さな別の輸送機に詰め込まれていた。文字通り、詰め込まれた形である。
「食料や物資の通常輸送に偽装しているのでね。少し我慢してもらいたい」
 リヴァプール伯ウォルター・マクスウェル准将は、あっさりとそう言ってのけた。そもそも、この移動計画はマクスウェル准将の指揮による。緻密なこの英国貴族は、このような分野は得意らしい。

●氷下の轟竜
 数日後、ベーリング海峡を越え、北極海へ入った位置にて。

「ミサイル、接近、距離――!」
「いらん、急速潜航!」
「は、はい! 急速潜航!!」
 間一髪とは言わないが、ギリギリで攻撃を回避し、ユニヴァースナイト参番艦はその巨躯を海中へと潜らせた所だった。
「ふぅ‥‥あの、艦長」
「何か?」
 新兵というわけではないが、その乗組員の挙動からは緊張が伝わってくる。心配そうな表情から発せられた言葉に、艦長の沖田俊作は表情を何一つ崩すことなく応えた。見た目だけでも、かなりの年齢だと判る。堂々とした佇まいは歳相応の経験により培ったものだろう。
「先ほどから浮上、回避、潜航を繰り返しておりますが‥‥」
「なんだ、疑問か?」
 横から飛んできたのは艦長の返答ではなく、所用でブリッジまで呼ばれていたズウィーク・デラード軍曹だった。艦長のご機嫌を横目で確認しながらポリポリと頭を掻き、代わりに答える。
「ただの陽動じゃ意味がないのさ。でき得る限りこっちに敵さんの目を、な」
「うむ」
 敵が去ったのを折に、氷の切れ辺りへ再度浮上を確認しながら静かに相槌を打つ沖田。ほっと胸を撫で下ろした音がデラードから聞こえた気が、しないでもない。
 艦長が肯定をしたように、参番艦の行動派大規模な陽動である。『偽りのバレンタイン』作戦の最終目的地はグリーンランドだ。それがバグアに知られぬよう、『バレンタイン中止のお知らせ』同様、戦術目標は別に設定されていた。
「にしても、流石に煩いな。まだ随分距離がある筈だが、勤勉な事だ」
 目的のバグア氷上基地は非常に多くのHWを保持していると思われる他、氷塊に偽装したアグリッパが多数に渡り流されている。その性能は過去の作戦でも証明されている通りだ。空からは難攻不落と言ってもいい。
 文字通り、バグア北極圏の守りの要だ。
 更にダメ押しに、分厚い氷の上には氷上仕様のゴーレム、キメラ。これでは氷伝いに陸戦を仕掛けるのも簡単ではない。

 という情報が艦内にも十分に伝わっているのに、流れる空気には緊張以外の何かが漂っている。

 そう、それは勝利の確信。

「噂の『氷上基地』も、下の守りは疎かさ。何も、体当たりは弐番艦だけの十八番ではないんだぜ」
 もう、時は間近に迫っている。作戦開始の合図と共に空中部隊を発艦、再び潜航。氷の上での戦いが敵の気を引いてる間に、参番艦は水中を一気に詰める作戦だった。
「だが今はまだ早い。こうやって首を竦めているフリをせねば、な」
「なるほど‥‥!」
 デラードの丁寧な補足と艦長の一言に納得がいったのか、乗組員はうんうんと一人頷きながら持ち場へと戻っていく。
「まぁ、心配要素は勿論あるもんですけどねぇ‥‥」
 その後ろ姿を眺めながらぽつりと呟くデラード。
 氷上基地の下への備えは比較的甘い。とはいえ、全くのゼロという訳でも勿論無い。機雷や水中用機動兵器等の障害は存在する。あくまで、空から仕掛けるよりマシというに過ぎない。
「噂をすればって奴だねぇ‥‥」
 ソナーに反応する無数の光点。ミサイル攻撃に業を煮やした敵が、水中部隊を回してきたのだろう。
「予定通りだ。これより作戦を開始する」
 艦長は動じずにそう告げた。一拍遅れて、艦内警報が響く。
「ようやく出番か。危うく寝るところだったぜ」
 ぐるりと地球を半周し、ベーリング海峡で参番艦に合流していた能力者達が慌しく動き出した。
「フン‥‥こんな時の為に彼らがいる」
 沖田は不敵な笑みを浮かべるのだった。

●氷点下の白谷
 寒い。
 寒い、寒い。
 寒い、寒い、マジで寒い。
 そんな声が至る所から聞こえてくる。
 辺りを見渡せば、しっかりと防寒具に身を包んだ傭兵とAU−KVに身を包んだ傭兵の姿が確認できる。
 ここは、ゴットホープから北へ800kmほど、ウペルナビク(Upernavik)の東方、グリーンランド沿岸部の人類側前線基地。バレンタイン騒動明けの傭兵を通常の補給物資のフリをしてゴットホープより輸送したのだ。ついさっきまで身を投じていた馬鹿騒ぎの空気とは打って変わって、どの傭兵も真剣な表情だ。この切り替えの速さがあるからこそ、この作戦は実行できるものになっている。
 基地に集まった傭兵達の目標は、とある洞窟を踏破すること。距離にして200km。経路周辺の8割方は、第一作戦段階で傭兵達から得た情報により既に図面化されている。ルートはハッキリとしていた。
 重武装の進行とはいえ、能力者であれば覚醒せずとも一昼夜で踏破し、それぞれの持ち場に着くことは十二分に可能だ。勿論、想定されている所要時間は、野良キメラや落盤などの自然災害を考慮に入れたものである。
『当然の準備と配慮だ』
 準備手配をしたティグレスがこの場にいれば、きっと当たり前のようにそう応えていただろう。バレンタイン作戦決行直前に、積み出し用の港の確保へ向かったところで、ティグレスの消息は途絶えていた。
 心配は心中に収めて、聖那は集まった傭兵達へと本作戦の注意点を伝える。
「現地に着くまで、消耗をでき得る限り抑えるのが本行程の最重要課題です」
 そう、作戦の本番は道中ではないのだ。200kmの洞窟を越えた先にこそ、真の本番が待っている。

 氷河に削られたU字谷の奥に佇むヘルメットワーム基地。
 コードネーム『ホワイトバレィ』

 西部沿岸、チューレ南東。クラウルスハウン(kraulshavn)のある半島の、付け根付近にそれは存在していた。
 大型、中型、小型とりまぜて少なく見積もってもヘルメットワームを100機は擁していると推測され、更にその大、中の全てが有人機と想定される。有人機と言う時点で、現地には強化人間やバグアが数十名はいる可能性が濃厚。それらを速やかに制圧し、ヘルメットワームを一機たりとも稼動させないことが本作戦全体の勝利への絶対条件だ。
「でも、狙う場所はもちろんあります。バグアもうっかりさんですからね」
 地盤が悪く、大規模な掘削が面倒だったのか、中型以上のヘルメットワームの駐機場は地上に存在する。無くとも飛ぶに支障は無いはずだが、U字谷の底部には滑走路に類した物が南へ伸びていた。
 一方、小型無人ワームは地下に収納されているのだ。発着口は谷の西側岸壁の下側に2箇所存在することが確認されている。そこを封鎖すれば、一時的にであっても無力化が可能と目されていた。

「本作戦の目標はいくつかありますけれど、大きく分けると三つです」
 普段ならティグレスがするだろう、細かい詰めも今日は聖那がせねばならない。彼女は指を折りながら説明を続けた。
 底部滑走路の北から東側に並んでいる、中、大型を確保するのが一つ。
 普段は滑走路の雪掻きをさせられているらしい一般人の確保や退避をさせるのが一つ。
 そして、基地に存在するバグアの速やかな殲滅が一つ。
「ホワイトバレィの内部区画は谷の西側に沿って地下に存在し、現在確認された限りでは出口は複数存在します」
 外に出てくる出口を封鎖する班、並びに突入して敵を排除していく班。それと、次作戦フェイズの持久戦に備え準備を行う班。生身での最初の一手に成功しない限り、作戦目標は達成できない。
「バグアの強化人間の数は最低でも20名は固い」
「これらはHWの機数から考えてのことなので、実際はそれよりも多いはずですね」
 内部へ突入する隊の面々が、そう言い交わす。
「俺たちが向かうまで、何とかしろよ」
 愛機の横で、別の傭兵が洞窟へ向かう仲間を見送った。後続のKV隊が現地に向かうのは、作戦予定時刻の30分後だ。奇襲が成功し、制圧がなっていればよし。そうでなかったとしたら、血みどろの撤退戦を行わねばならないだろう。

 バレンタイン強襲作戦。その作戦のメインフェイズとも言える、文字通りの強襲に相応しい過激な内容に、傭兵一同は決意を今一度強く改め作戦に臨むのだった。

 白き谷の沈黙を目指して。

執筆 : 虎弥太

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