己丑北伐 ‐基礎情報‐
" target="mypage">mypage
" target="mypage">" width="130" height="180" border="0" id="side_waku08_r2_c2" name="side_waku08_r2_c2"/>
help
logoff
シナリオとは  
プレイングの書き方  
シナリオ利用規約  
マスター紹介  
  
本部に戻る  
己丑北伐――基礎情報

●カメル共和国〜バグア軍基地
「燃料補給と応急修理だ! 準備が整いしだい再出撃する!」
 地下ハンガーに着陸したステアーZCのコクピットから降りるなり、駆け寄ってくる下級バグアの整備兵達に向い、シモン(gz0121)は不機嫌そうに怒鳴った。
「奴らを甘く見ていた。まさか片道飛行のジェットブースターで極音速の奇襲、とはな‥‥」
 ステアーZC、そして護衛ワームの周囲に取り付き慌ただしく作業にかかる整備兵達を眺めながら、悔しげに呟く。

 戦闘中「グレプカ、破壊される」の報せを受けた時は、そのまま休火山方面へ直行し自ら傭兵達の決死隊を殲滅することも考えた。しかし、すぐに無駄な戦力の浪費であると思い直し、ひとまず補給のためこの基地へと帰還したのだ。
 グレプカの喪失は確かに痛い。だがそれはカメル・バグア軍全体としてみれば小さな損害だ。まだ試作段階のグレプカは人類側にブラフをかけるためのカードの1枚に過ぎない。むしろあれだけの敵戦力をカメル方面に引きつけたことを思えば、瀋陽方面で指揮を執るシェイク・カーン(gz0269)への義理は充分果たしたといっていいだろう。

 とはいえ、カメル駐留バグア軍司令官としての顔に泥を塗られた事に変りはないが。

「ハリ・アジフの容態はどうだ?」
「はっ。左腕切断の重傷です。現在、後方の基地で治療を受けている最中ですので命は取り留めるでしょう」
 シモンの問いに、士官クラスのバグアが答えた。
「アジフの身辺警護を厳重にしろ。場合によっては一時オーストラリアに退避させても構わん」
「畏まりました」
 シモンは背後に立つ残りのNDFメンバー、ルカとマティアに振り返った。
「マルコ達のことは聞いたな? 今後NDFの指揮はルカ、おまえに任せる」
「はい。光栄です、シモン様」
 背筋を伸ばし敬礼するカメル人の少女。
 だが間もなく、その唇からクスリと笑いが洩れた。
「でも、不甲斐ないですね‥‥グレプカひとつ守れないなんて。結局、あの2人も『失敗作』――NDFの名に値しない存在だったのですわ」
「あいつら、もー死んじゃったのぉ? ダサっ!」
 青いパイロットスーツのポーチから棒付きキャンデーを取り出したマティアが、包装紙を破り捨てしゃぶり始める。
「それでシモン様、早速追撃部隊を編制し、カメル本土に侵入した虫ケラどもを殲滅なさるのでしょうね?」
「いや、その必要はない」
 僅かに思案した後、シモンは答えた。
「グレプカ破壊に成功したとはいえ、敵の奇襲部隊もかなりの損害を受けたようだ。しかも退路を断たれた袋の鼠。慌てる事もあるまい」
「では、私たちの出撃先は‥‥?」
「レーダーサイトからの報告によれば、敵の巨大母艦は未だカメル近辺に留まっているらしい。おそらく初期の陽動任務を終えたあと、グレプカを破壊した友軍部隊の救出作戦に移行するつもりだろう」
「つまり、彼らはまた戻ってくるのですね? わざわざ、私達に墜とされるために」
 ルカが穏やかに微笑む。その瞳の奥に冷酷な光を湛えて。
「そういうことだ。まずは救出部隊から撃破する。国内に孤立した敵軍は、その後ゆっくり始末すればよい」
 そう告げてから、ふとシモンはハンガー内に駐機する漆黒の本星型HWに目を向けた。
「‥‥メイは何処へ行った?」

●復讐の老爺、挺身の童女
 豪州へと移動する艦内で、ハリ・アジフはその知らせを聞いた。腕はもはや、戻らないと。
「動かないで下さい、うわっ」
 制止する医務兵の腕を振り切って、老人は自らの腕を眼前へ伸ばした。視覚は、痛みよりも明確にその欠落を伝えてくる。そして、屈辱をも。かっと目を見開き、老人は獣じみた動きで窓へと走りよる。兵士が気味悪げに一歩下がった。
「‥‥あ、あの部隊はどこへ行くのだ。その連中だ!」
 窓の外を行く輸送艦とその護衛と思しき編隊を、彼は震える指で差した。
「は、海上に発見された敵空母を迂回し、敵の大型戦艦覆滅の為にシモン様の下へ‥‥」
「UKなぞステアーに任せろッ‥‥。それより奴らを、奴らを生きてかえすなァッ!!」
 勢いよく、残った右腕を窓に叩きつける。高空の気圧差に耐える積層ガラスの表面に、小さなヒビが入った。
「し、しかしっ」
 抗った兵士を、ジロリと睨み上げる。
「私の階級はあの部隊の指揮官より上だ。貴様よりもだ。いいから、命令通りに動かぬかッ!」
 シモンが要請した豪州よりの増援部隊が、その進路を僅かに転じたのはその直後の事だった。この齟齬が、どのように影響するかは、神のみぞ知る。

 ハンガー内の片隅で、結麻・メイ(gz0120)は医療セクションに属する顔見知りのバグアと密かに会っていた。強化人間としてメンテを受ける際、よく世話になる相手だ。
「それで、約束のものは?」
「ああ、持ってきた」
 カメル人の医師をヨリシロとするバグアは、白衣のポケットから透明な小袋を取り出した。中には何かの薬品と思しき白いカプセルが数個入っている。
「効き目は確かなんでしょうね?」
「まあな。しかし後の責任はとれないぞ? 被験体の強化人間には死亡者もいる」
「‥‥構わないわ」
 ひったくる様に小袋を受け取ったメイは、そのまま踵を返し自らの搭乗機へと走り去った。


●中国・瀋陽
「さすがに攻めるとなると厄介な街ね」
 UPC特殊作戦軍のマウル・ロベル(gz0244)大尉は建物に機体を隠しつつ、進撃の機会をうかがっている。道の突き当りにある武装内蔵ビルに設置された機銃座が絶え間なく弾幕を張っている為、マウルの部隊は建物の影から進み出きずに張り付けられていた。
 傭兵達の奮戦によって城門は破られ、周囲の城門に設置されていた兵器群も沈黙している。これで後続の部隊は円滑に瀋陽市街地へと進撃を開始した。
 が、それは作戦の第1段階を突破したに過ぎない。これから第2段階として困難な市街地戦闘が待っている。要塞化された瀋陽の真骨頂は都市そのものを兵器とし、市街地戦における最大限の有利を引き出そうとした設計思想にある。
「アナートリィ中尉、次の銃撃が止まったら突撃するわ。バックアップをよろしく! スミス少尉、根岸少尉は私と一緒に突撃、機銃座を破壊して次のポイントを確保。いいわね」
「了解。バックアップします」
 マウルは部下のアナートリィ中尉、他二人の少尉に呼び掛けると、銃撃のインターバルを待つ。難度かの銃撃を受けて、機銃による弾幕には(おそらくはリロードによるであろう)インターバルがあることが分かっていた。
「3、2、1‥‥GO!」
 弾幕が途切れた間にマウルの部隊は通りに身を躍らせる。アナートリィ機は弾幕を張って敵の側面攻撃を牽制し、マウル機以下の3機は武装内蔵ビルの機銃を破壊すべく吶喊する。
 しかし‥‥。
「敵っ!? 中尉、二つ目の交差点、3時方向!」
「了解!」
 マウルは視界に敵を捉えたが、突撃を止めずにアナートリィに足止めを任せる。もたもたしていれば、武装内蔵ビルからも攻撃を浴びる。アナートリィも即座にそれに応えて、敵の進路上に弾幕を張る。
 マウルが機銃座に意識を戻した刹那――
「きゃああっ!」
 マウルの世界が激しく揺れた。
「大尉!」
 アナートリィ機の弾幕を意に介さず、飛び出してきたバグア機は3機のKVを瞬く間に破壊した。
「‥‥くっ‥‥中尉‥‥逃げなさい‥‥こいつ‥‥ユダだわ‥‥」
 破壊されたKVの中から敵機を見上げる。
 血で赤く染まるマウルの視界に、バグア軍の最新鋭高性能兵器「ユダ」があった。

「腐ってもユダですか。代替ユニットでも挙動は悪くないですね」
 シェイク・カーンはKVを撃破したユダのコクピットで、数多くのアラームが点灯する計器類にうんざりしながらも性能の高さは認めざるを得なかった。
「シェイク様。現在、ユダは足りないエネルギーを無線送電によって補っております。1番発電所にある送電装置により照射を行う一定範囲内ではユダの性能を十分に引き出すことが可能です。ですが、なにぶん急造品の送電装置でありますので、長距離を高速移動されては送電装置の追尾が間に合いません。照射範囲から出てしまった場合、内蔵バッテリーによる稼働時間は10秒ありません。照射距離の問題から渾河を越えることも‥‥」
 技術幹部のバグアが念を押すようにシェイクに説明する。
「照射範囲内での運動性は確保できても、戦場を俯瞰できる機動力はないに等しいというわけですね」
 やれやれと言った様子を見せるシェイク。力の強さを誇示するばかりで、使いづらい兵器など彼女がもっとも嫌うところである。
「この局面でユダをどう利用するか。私の指揮にかかっているわけですね。ドリス!」
「はい、シェイク様。なんですか?」
「あなたは強化人間達を率いて1番発電所を守りなさい。あなたに与えた金色のタロスは、他よりもチューンナップされていますが、慢心は無用です。ただ、持ちこたえてみせなさい」
「了解しました。シェイク様はどうなさるんですか?」
 シェイクの命令を受けたエイリアン型バグアのドリスが逆に質問をする。
「ユダで敵に圧力をかけます。それで敵の動きを制限すれば、動きを読み迎撃は容易くなります。逆に敵がユダに食いつくなら、できる限り囮になるまでのことです」
 シェイクにはユダで勝つつもりは初めからない。だが、利用できるのであれば利用できるなりに使うまでである。
「ハルペリュンは後方で全軍の指揮をとりなさい。敵を押し包んで撃退しなさい。この戦いを決めるのは‥‥」


執筆(カメル方面) : 対馬正治
文責 : クラウドゲームス


BACK TOP