己丑北伐 ‐基礎情報‐
" target="mypage">mypage
" target="mypage">" width="130" height="180" border="0" id="side_waku08_r2_c2" name="side_waku08_r2_c2"/>
help
logoff
シナリオとは  
プレイングの書き方  
シナリオ利用規約  
マスター紹介  
  
本部に戻る  
己丑北伐――基礎情報

●極東ロシア地域
 短い夏が過ぎ去り、気温は既に氷点下を下回ることも珍しくない。
 冬将軍の到来を前に、バグアから奪還したここシベリアの資源開発を少しでも進めるべく、世界各地から集まった研究者、技術者、UPC軍人、そして多数の労働者達が額に汗し、寸暇を惜しんで働き続けていた。
 豊富な地下資源の採掘もさることながら、重要なのはその運搬ルートだ。冬季の低温にはアスファルトが耐えられないこの土地では、昔ながらの鉄道輸送が主流である。そこで新たな鉄道網の敷設による陸上輸送力の強化が急がれ、そして効率は悪いながら航空輸送もまた補給線として重要な役割を担っている。
 最近ではカンパネラ学園の地下で建設中の大規模施設『闘技場』のための建設資材需要も相まって、永久凍土とタイガが広がる不毛の大地は、各地に点在する開発拠点がそのまま町と呼べる程の規模に拡大し、かつてない活況を呈していた。
 中国東北部やウランバートルから長駆進出してくるバグア軍の襲撃は散発的にあるものの、遭遇率はさほど高くない。バグア軍が極東ロシアでの有効な拠点を失ったこと、逆に人類側の拠点が増えて十分な哨戒活動が可能になったことで、作業もより安全なものとなっていた。

「ロシア人が何で酔いどればかりなのか判ったぜ。確かにこの寒さじゃ、ウォッカでも飲まなくちゃやってられねぇや」
「どうせ飲むなら、俺ぁ冷えたビールの方がいいな。ガンガン暖房をかけた硝子張りの温室で、ここの雪景色を眺めながらよ!」
 中東出身と思しき褐色の肌の若者がぼやけば、一緒に働いていたオーストラリア人の中年男が言い返す。
 皮肉なことに、いまシベリア開発を支える労働力の多くは故郷の地をバグアに占領されたアフリカ、中東、オーストラリア等から逃れてきた難民達である。彼らのうちL・Hやその他の人類側勢力圏に移住できるのは、一部の豊かな者達に過ぎない。UPCと各国メガコーポレーションが音頭を取って推進するシベリア開発には「故郷と行き場を失った難民達の雇用対策」という一面も兼ねていたのだ。
 現地の住民にいわせれば「まだ序の口」の寒気も、彼ら熱帯や砂漠気候の暑い国から来た異邦人にはかなり堪える。10月で既にこの有様だから、本格的な冬季を迎えたらどうなってしまうのか――威勢良く冗談を飛ばしあいながらも、湧き上がる不安は抑えきれない。
 そんな時、彼らは顔を上げ、遙か彼方に擱座した「巨人」の屍――ラインホールドの残骸に想いを馳せて己を鼓舞する。
 20年以上もの間、防戦一方だった人類軍が、初めてバグアから勝ち取った輝かしい勝利の記念碑。続く北米戦では撃墜こそ逃したものの、あのシェイドを中破にまで追いやったと聞いている。
 もはや我々は滅亡の恐怖に怯えるだけのひ弱な存在ではない。能力者の様に直接バグア軍と戦えるわけではないが、いまこの大地を開拓する作業工程の1つ1つが、人類軍に豊かな資源をもたらし、いずれは祖国の解放に繋がる――その想いが、彼ら外国人労働者をして辛い作業に耐える心の支えとなっていたのだ。

 だが、人類の未来を切り啓くはずの極東ロシア開発に、いま暗い影が忍び寄ろうとしている事を彼らは知らなかった――。

●瀋陽〜バグア拠点
「単なる力押しで何事も成し遂げられるなら、誰も苦労はしません。あなたには最期までお解りにならなかったでしょうね‥‥バークレー」
「え? 隊長、いま何かいいました?」
「いえ、単なる独りごとですよ。ふふふ‥‥」
 背後に控える遊撃隊員のドリス(gz0267)に答え、シェイク・カーン(gz0269)は含み笑いと共に眼鏡をかけ直した。
 現在彼女達がいるバグア軍基地は、元はUPC中国軍が使用していた施設だ。
 瀋陽といえば、バグア占領前はアジア3大メガコーポの一角、奉天北方工業公司の本社があった街でもある。今はバグアの技術で大幅に改装されているが、それでも所々に当時の奉天公司が技術の粋を集めた中国きってのハイテク都市の面影を留めていた。
 司令室の一角に空間投影方式で浮き上がる巨大スクリーンには、高さが低い代り面積の広いビルの屋上一面に太陽発電パネルを設置した、一見すると太陽エネルギー発電所風の建物が映されている。
 シェイクが配下のオペレーターに指示すると、間もなくビルの一部が大きく横へスライドし、天井の開いた地下施設から、発射台に据えられたロケットがせり上がってきた。

 ――弾道ミサイル。

「何かカッコ悪いなぁ〜。地球人の、しかも10年近く昔のポンコツ兵器を引っ張り出すなんて‥‥」
「その認識は今日限り改めなさい、ドリス」
 穏やかなシェイクの言葉の裏に鋭利な刃物のごとき怒りを感じ取り、背中の翼を除けば人間の少女と変わらないエイリアン型バグアは怯えたように半歩下がった。
「よいですか? 地球製であろうがバグア製であろうが、兵器など所詮はみな道具。道具には各々適切な使用法があるのです。その使い途を誤ったばかりに、極東ロシアではラインホールドが墜とされ、北米ではステアーやシェイドが撃墜寸前に追い込まれました。力だけに頼る者は、いずれは別の力によって滅ぼされる定めなのです」
 彼女自身も参戦した北米戦の結末に対し、シェイクは深い失望を覚えていた。
 シェイドが人類に敗れたからではない。現在地球上にいるバグアの中では、ディエア・ブライトン(gz0142)博士に次ぐ大幹部であるはずのエミタ・スチムソン(gz0163)までが、一皮剥けばバークレーと同類の「武力の信奉者」にすぎない事を知ってしまったからだ。
(「戦士の誇り? はっ! たかが戦闘機の操縦が巧みだの、生身での殴り合いが得意だの‥‥そんな野蛮な連中が幹部面してのうのうと軍を動かしている。我がバグアは、いつからこんな愚かな種族に成り下がってしまったのかしら?」)
 バークレーの死後、撃破されたラインホールドから単身脱出したシェイクに対し、上層部からの風当たりは冷たかった。「バグア遊撃隊長」などという曖昧な肩書きを与えられたものの、要は左遷と同じ事だ。
 だが、運命は彼女に予期せぬチャンスをもたらした。

 極東ロシアでは完敗。北米では辛うじて痛み分けに持ち込んだものの、人類側に対して長らく「バグア軍事力の象徴」として恐怖と威圧感を与え続けたシェイドまでもがボロボロにされた事で焦燥に駆られたバグア上層部は、巻き返しのため極東ロシアへの再侵攻を決定。その総司令官としてシェイクが任命されたのだ。
 またとない好機。ここで極東ロシア戦での汚名を返上すれば、バグア軍内における自らの地位が格段に高まるのは必至であろう。
(「下品で野蛮な男だったけど‥‥あいつの屍が私の出世の踏み台になってくれるなら、感謝するべきかもしれませんね」)

 シェイクは背後を振り返り、技術幹部を務める配下のバグアに問い質した。
「それはそうと、ユダはいつ完成するのですか? いかにシェイド以上の高性能といっても、継戦時間があんなに短くては使い物になりません」
「も、申し訳ございません。もちろん完成を急がせてはいるのですが‥‥専用エンジンの開発が遅れており、代替エンジンにも幾つか技術的問題がございまして‥‥」
「仕方ありませんね‥‥それでは、近々配備が決まった新型ゴーレムの方に期待しましょう。シェイドやステアーで優雅に戦う時期は終わりです」
 指先で眉間を押さえてため息をもらし、シェイクは再び空間スクリーンに視線を戻した。
 画面の中では、既に準備を整えた弾道ミサイルが発射へのカウントダウンを刻み始めている。
「でも、大丈夫ですか? こんなの使って『漸進派』の連中に目をつけられたら、あのバークレーみたいに‥‥」
「心配ありませんよ、ドリス。上層部の許可はとりつけているし、私はあの男とは違う。地球人は猿などではなく、我がバグアにとって有益な生物資源‥‥ただし飼い方を誤って我々に仇を為すような害獣に育てては元も子もない。そういうことです」
 空間スクリーンの中で、炎と煙を吐きながら弾道ミサイルが天空を目指し高々と舞い上がる。
 その光景を眺めながら、シェイクはさも愉快そうに甲高い声で笑った。

●オホーツク海上空
 晴天の空をロシア領目指して飛行を続ける大型輸送機の編隊があった。
 ヤクーツクで燃料を補給し、シベリア開発の最前線にある仮設空港へ必要な物資や機械類を届ける。帰路は空になった貨物室にシベリアで採掘された資源をたっぷり詰め込んでL・Hに持ち帰るのだ。
 万一のため傭兵KV部隊が護衛にあたっているが、最近はHWの襲撃も殆どなく、今回の輸送飛行も問題なく終わるものと思われた。
「8時方向より、高速飛行物体を探知!」
 電子戦機ウーフーより、僚機のKVへ緊急通報が入った。
「HWか? 全機、戦闘態勢に入れ!」
「いえ、違います! こ、これは――」
 ウーフーパイロットと隊長機との交信が終わる前に、唐突に広がった青白い放電光が投網の如く編隊全てを包み込んだ。
 8機で編隊を組んでいた輸送機部隊は一瞬にして全機が爆発。パイロットや乗員には、最後まで何が起きたのかさえ判らなかったろう。
 護衛のKV部隊も10機中7機が墜落。残る3機は機体に大きな損傷を負いつつも、命からがら沿岸の基地へ不時着することができた。

●ラスト・ホープ〜UPC総本部
「このところオホーツク海やシベリア上空で頻発する輸送機編隊の遭難‥‥北方軍諜報部と合同調査の結果、原因は異常気象でも、HWや飛行キメラでもない。おそらくバグア軍の新兵器であろうとの結論に達しました」
 東アジア軍高官が集まる緊急会議の席上で、EAIS(東アジア軍情報部)部長、ロナルド・エメリッヒ中佐が公表した。
「高速で飛来した弾頭から広範囲に発せられる放電攻撃。我が方のG放電装置に似ておりますが、その威力と効果範囲はけた違いです。何しろKVのレーダーが弾頭を捉えた瞬間には、対空兵器の射程外から編隊全体に範囲攻撃が及ぶわけですから」
 エメリッヒ中佐の発言に、会議場がざわめく。情報部ではこの新兵器に対し、既に『雷公石』という呼称を与えていた。
「それは、HWから発射されたものかね?」
 参謀の1人が質問する。
「いえ。被害ポイントがある一定距離の半径円内に集中していることから、地上発射式‥‥発射元は瀋陽と推定されます。バグア占領前は奉天公司の本社所在地、そしてUPC中国軍が対バグア用に考案された対艦弾道ミサイル発射基地のあった場所‥‥おそらくは奉天製の対艦離弾道ミサイルの弾頭にバグア製兵器を搭載した改造兵器かと」
 対艦弾道ミサイルは奉天がギガワームやビッグフィッシュ等の大型艦艇を直接攻撃する為に開発した兵器である。しかし、その巨体に比して速力の高いバグア艦艇に対して有効な命中精度を獲得できずに終わっている。
「弾道ミサイル‥‥?」
 人類側においては既に「前世紀の遺物」と化した兵器の名前に、会議の参加者達は一様に戸惑った。
「ミサイル本体が人類製ならば、発射段階で地上から迎撃できんのかね? 対空レーザーやミサイルで」
 弾道ミサイルの迎撃技術は対バグア研究の副産物として大きく発達している。現在は主として親バグア国家からの弾道ミサイル攻撃に備えた迎撃施設が一定の密度で配置されている。
「残念ながら、開発途上で人口密度も低い極東ロシア地域では迎撃施設の密度が足りません。他地域からでは発射から命中までの時間が短すぎて地上からの迎撃は無理です。ミサイル発射を事前に察知しようにも、肝心の偵察衛星や早期警戒衛星は全てバグア軍に破壊されておりますので」
「つまり、事実上迎撃不可能、極東ロシア付近の空路は閉ざされたということか‥‥」
 将官の1人が、呻くように呟く。
「皮肉なものだ‥‥10年前、侵攻してきたバグアに対してまるで役立たずだった旧式兵器が、今になって我々に牙を剥くとは‥‥」
「さらに悪い報せがあります。中国東北部のバグア軍が、極東ロシア方面に向けて大規模な北上を開始しました。狙いはシベリア開発の妨害と思われます」
「通商破壊でジワジワ締め上げ、直接侵攻でとどめを刺そうという魂胆か‥‥!」
「軍司令部はこの件に対し、どういう対策を講じるつもりか?」
 議場が喧噪に包まれる中、先日、総本部の軍司令部高官との会合を済ませてきた椿・治三郎(gz0196)中将が壇上に上がった。
「一度発射されれば迎撃不可能の新兵器、『雷公石』‥‥これを阻止するには、発射元の瀋陽を叩くより他ありますまい」
「しかし‥‥瀋陽はバグア占領以来、市街地全体が改造されて完全な要塞都市と化していると聞く。あるいは、あのラインホールドより手強い相手ではないか?」
「左様。我が東アジア軍、及び極東ロシア管轄の北方軍だけでは戦力不足です。他のUPC軍にも援軍を要請し、大規模作戦として実施するべきでしょう。既に軍司令部の内諾も得ております」
「‥‥」
 東アジア軍、各国の代表が表情を曇らせる。
 かつての「アジア決戦」以来アジア各地でバグア軍の動きが活性化し、彼らはそれぞれ国内にバグアの占領地や競合地域を抱えているのだ。
 そんな彼らの弱腰を叱咤するように、椿中将は一際語気を強めた。
「攻撃は最大の防御なり。時を逸し、座して死を待つは用兵の愚である。このまま手をこまねいていては、シベリア一帯は人類側にとって最も不利な厳寒期にバグアの再侵攻を受ける事になりますぞ。あの極東ロシア戦――いや、名古屋以来、多くの尊い犠牲を払って積み重ねてきた成果がここで無に帰するのを、黙って見過ごすおつもりですか!?」

執筆 : 対馬正治

BACK TOP