極東ロシア戦線
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極東ロシア戦線
●深淵の底に在るもの



「喩えていえば‥‥人類側にとっての『港湾施設』といったところでしょうか? ただし港といっても、荷物が運ばれてくるのは海ではなく、宇宙からになりますが」
 第1次偵察部隊の持ち帰った情報の分析を終えたUPC諜報部の分析担当官が、総本部の参謀達に報告した。
 バグア軍がウダーチナヤパイプの底で建設中の軍事施設。それはどうやら、あの赤き遊星――すなわちバグア本星――から大量の軍需物資を受け入れる巨大な「搬入施設」らしいという。
「それはつまり、軌道エレベーターという事かね?」
「いえ、軌道エレベーターを高緯度に設置するのは‥‥ああ、関係ないので詳しい説明は省きましょう。どのような技術を用いてるかは不明ですが‥‥おそらく敵の本星側にも同様の施設が建造され、重力の影響を極力受けずに迅速、かつ安全に大量の物資輸送を可能にする‥‥そう、テニスのラケットといえば想像していただけますか? あんなイメージで、いわば2つで1セットの宇宙往還の支援システムかと」
 おそらく数日間ろくに寝ていないのだろう。血走った目を眠たげに細め、担当官は分析結果を淡々と解説する。
 後に『ゲート』と呼称されることになる、バグアの秘密施設について。
「単なる輸送基地‥‥?」
「やれやれ‥‥人騒がせな」
 てっきり新たなギガ・ワームや巨大プロトン砲など、どんな秘密兵器が建造されているのかと危惧していた参謀達の間に、ひととき安堵の空気が流れた。
「それで諜報部としては、その『港湾施設』が完成した場合、今後の戦局にどう影響すると予測しているのかね?」
「決まってるでしょう? 戦争が終わります」
「‥‥何?」
 怪訝そうに聞き返す参謀達に対し、担当官は皮肉めいた笑いを浮かべた。
 ――相変わらず、眠たそうな顔で。
「考えてもご覧なさい。今まで我々が戦ってきたのは、あくまで彼らのごく一部‥‥地上に展開した戦力だけです。もちろんこれまでもバグア本星からの物資輸送はあったでしょうが、それは大型宇宙船などをタンカー代わりにした、ごく慎ましい量に留まっていたはずです。何しろ、軌道上から物資を降ろすには色々と障害がありますからね‥‥重力だの、大気圏突入時の空気摩擦だの‥‥フワアァ‥‥いえ失敬」
 大あくびをひとつかいてから、
「『あれ』が完成すれば‥‥もはやそういった障害を殆ど無視して、彼らはローコストで好きなだけの兵力を本星から地球へ送り込めます。まあ未知の技術なので詳細なシミュレートは困難ですが‥‥建設中の施設規模から推定して、さして時間をかけず終わるでしょうな、この戦争は。‥‥バグアの圧勝という形で」
「‥‥!?」
 参謀達とてプロの軍人である。分析担当官の言葉の意味を悟り、一斉に青ざめた。
「そんな技術があるというなら、奴らはなぜ今までその施設を造らなかったのだ? 時間は充分にあったのだぞ!」
「そうですね。兵力を節約したかったんじゃないですか? 鹵獲兵器やら占領した施設の利用やら、彼らなりに節約してますし‥‥けど、戦争が長引いて向こうもいい加減ケリをつけたくなった、と。あいにく宇宙人の心理分析は自分の専門外ですが」
 肩をすくめて苦笑する担当官。
「さて、要件が済んだところで‥‥そろそろ失礼してもよろしいでしょうか? 正直、今の自分にとって‥‥人類の未来より、暖かいベッドの方が重要問題でしてね」

●極東ロシア戦線
 分厚い永久凍土の上をツンドラ(地衣類)とタイガ(針葉樹林)が覆う、広大な極東ロシア。
 3月も半ばを過ぎているが、この地に春が訪れるのはまだ先の事である。
 主要都市のひとつ、ヤクーツクにおけるこの時期の温度、実に−20°前後。
 元より人口の希薄な土地であったが、およそ10年前に地球がバグア軍の本格侵攻を受けてからも、それはあまり変わっていない。
 この地を領有するロシア連邦はその中央部をバグアに占領され、かつての広大な領土を東西に分断されることになった。
 本国方面からの補給線を断たれた極東ロシア軍は苦境に立たされ、北極経由で北米から届く細々とした援助物資を糧に辛うじて点在する都市や村落を守っている。
 もっともロシア領内におけるバグア軍の優先攻撃目標は首都モスクワへと向けられているため、現在モスクワ周辺の戦域(ロシア側でいう「西部戦線」)では激しい攻防が繰り広げられているのに対し、極東方面に対しては専らキメラを主体とした散発的な攻撃が行われる程度だった。
 一年の大半を氷雪に閉ざされるシベリアの地は、侵略者バグアから見てもさして魅力的には映らなかったらしい。語弊はあるが敵側の「目こぼし」を受ける形で極東ロシア地域は未だ人類側勢力圏で在り続けたのだ。
 ――そう、つい半月ほど前までは。

 UPC諜報部が入手した極秘情報によれば「シベリアのウダーチナヤパイプ(露天掘りダイヤモンド鉱山の巨大な縦穴)内部においてバグア軍が大規模な軍事施設を建設中」だという。
 その真偽を確かめるため、UPC総本部は大規模なウダーチヌイ偵察作戦を実施。
 傭兵部隊を主体にした第1次偵察の結果分析によって、UPC軍上層部に衝撃が走った。

『バグア本星からの無尽蔵の補給を可能にする港湾施設が完成間近である』

 名古屋防衛戦以来、紆余曲折を経ながらも辛うじて積み重ねてきたささやかな勝利。各国メガコーポレーションにおいても新型KVが続々と生産され、人類はこれから本格的な反攻に転じようとしている――そんなUPC上層部の楽観論を一気に吹き飛ばすような『ゲート』の情報。
 UPC総本部は直ちに『ゲート』破壊を決意し、各方面軍の司令部とも協議の上、極東ロシア地域への大規模派兵を決定。
 動員可能な全ての戦力を注ぎこんでも『ゲート』完成を阻止せねばならない。
 しかし極東地域におけるロシア以外の大国、日本と中国はそれぞれ自国内に居座ったバグア軍の攻勢を凌ぐのに精一杯で、あまり多大な援助は期待できそうにない。
 補給ルートの都合上、極東ロシア軍支援にあたっては北米大陸を管轄するUPC北中央軍が主戦力にならざるを得ないだろう。
 事態の重大さを鑑みてか、北中央軍から派遣される援助部隊の中には五大湖解放戦や「バレンタイン中止」騒動で(良くも悪くも)名を馳せたヴェレッタ・オリム(gz0162)中将の姿があり、また機動力の高さを活かして第一陣として現地へ赴く傭兵部隊を統轄するため、かの「原子時計」ハインリッヒ・ブラット准将が任命されることとなった。

●決戦前夜
『ラインホールド、東京から極東ロシアへ北上せり』

 その報せをブラット准将が聞いたのは、正規軍に先立ち第1陣としてラスト・ホープから出撃する傭兵部隊を統轄するため、彼自身が極東ロシアへと向かう途上でのことだった。
「強敵‥‥だな」
 重々しく呟き、瞑目するブラット。
 アジア決戦の後、そのままバグア東京軍防衛の要になるかと思われていた巨大移動要塞が突如として日本を離れ、(その大きさからは)想像もつかぬスピードでウダーチヌイへと移動。しかも本体の周囲数十kmに射撃補助装置「アグリッパ」を展開、ウダーチナヤパイプを含む一帯を強固な対空防衛網で覆ってしまったのだ。
 そのアグリッパ防衛のためゾディアックを含むバグア精鋭部隊も呼び集められている。
 『ゲート』が膠着状態にあるこの戦争を早期終結(むろんこの場合敗れるのは人類だ!)に導く存在であれば、当然の備えであろう――。
 ラインホールドに続き、バグア側はモスクワ方面、ウランバートル方面からも増援部隊を呼び寄せている。
 人類・バグア両軍ともにかつてない規模の戦力が集結しつつあり、これまでは戦略的空白地域であった凍土の大地を舞台に、過去のあらゆる大規模作戦を上回る一大決戦が開始されるのは時間の問題と思われた。

 とはいえ主な補給線が北極圏経由に絞られる分、人類側の戦略的不利は免れない。対するバグア軍は、ユーラシア大陸の各地から輸送艦ビッグフィッシュにより迅速に兵力を補充できるのだから。
 物資欠乏に苦しみつつも、モスクワ方面の様な泥沼の消耗戦とは無縁で居られた極東ロシア軍にとっては、まさに青天の霹靂のごとき事態である。
「チクショウ! 何だってこんな場所に基地なんか作りやがる!?」
 あるロシア人兵士は、天に浮かぶ赤い遊星を仰いで怒鳴りつけ、ウオッカの瓶を地面に叩きつけたという。
 半ば絶望的なムードすら漂う極東ロシア軍基地に一条の光明が差し込んだ。
 正規軍に先がけ、ラスト・ホープからの援軍として能力者の傭兵達が到着したのだ。

「Добро пожаловать!(ダブロー パジャーラヴァチ=ようこそ)」

 極東ロシアの永久凍土で、先陣を引き受ける者たちの邂逅であった。


執筆 : 対馬正治(監修 : クラウドゲームス)
Event illust : 山本七式




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