極東ロシア戦線
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極東ロシア戦線――追加情報1

「極東ロシアにおいて、バグア軍の軍事生産基地が秘密裏に建設されているそうだ」

 天を摩するような超高層ビルの最上階。
 議長役を務める男の言葉に、円卓を囲む10名足らずの男女は、訝しげに互いの顔を見合わせた。
「初耳ですね。極東における彼らの重要攻略目標は北京ではなかったのですか?」
「確かにこの季節、酷寒の極東ロシアは人類にとって不利な戦場ですな。雪解けの前に、占領地域を広げておこうという魂胆でしょうか?」
「どうやら‥‥そういうレベルの話ではないらしい」
 参加者からの質問に対し、「議長」は陰鬱な表情でかぶりを振った。
「詳しい事は私も知らされておらん。だが‥‥現在建設が進んでいるその基地は、かつてない大規模なものらしい。完成すれば、それこそ極東ロシアはおろか、北極経由で北米大陸まで一気に席巻できるほどのな」
 会議のメンバーが一斉にざわめいた。
「そんな馬鹿な!」
「話が違う! 我々と彼らは‥‥きょ、共存共栄‥‥そういう申し合わせではなかったのですか!?」
(「共存だと? 脳天気な奴だ。我々の同志に加えるべきではなかったな‥‥」)
 所詮相手は宇宙から来たバケモノだ。これまでは、たまたま双方の利害が一致していたから運良く「協力関係」らしきものが維持されていたに過ぎない。
「すでに最初の接触から20年。本格的な開戦から10年近くが過ぎようとしている‥‥連中も、どうやら考えを変えてきたようだ」
 もはや人類側では殆ど流通していない「はず」のハバナ産葉巻に火を点けながら、「議長」は告げた。
「もう地球人相手の退屈な戦争には飽きた。このあたりでケリをつけ、次の『狩り場』へ乗り換えよう――とな」
「そんな‥‥では、我々はどうなるのですか!?」
「さてね? 連中が利用価値を失った惑星をどう扱うかは知らんが‥‥少なくともほんの末端とはいえ、奴らと関わってしまった我々を放置して立ち去ってくれる程の寛大さは期待せん方が良いだろうな」
「‥‥!」
 死人のごとく青ざめた一同を見渡し、「議長」は葉巻の煙を悠然と吐いた。
「とはいえ、まだ希望が失われたわけではない。何しろ、この情報をもたらしたのも他ならぬ『奴ら』なのだから」
「いったい‥‥どういうつもりでしょう?」
「奴らも決して一枚板ではないということだよ。建設中の大規模拠点を足がかりに一気に地球の完全制圧を目論む勢力を仮に『急進派』とすれば、その一方で現在の膠着状態をもう少し長引かせようという『漸進派』とでもいう勢力が存在する‥‥らしいな」

『穏健派』ならぬ『漸進派』。
 凶暴な侵略者であるという点では同じだが、地球攻撃を続ける一方で時には手抜きとも見える稚拙な戦略で後退し、また一部の人類に限定的とはいえ技術提供までして故意に戦争を引き延ばすバグア幹部が、今また事実ならば戦局全体に関わるほどの重大情報をリークしてきた。
 決して人類に好意的なわけでも、平和共存を望んでいるわけでもない。
 つまりはバグア上層部にも、まだこの戦争を続ける事自体に何らかの「意義」を見出している派閥があるという事だ。

「さて‥‥我々に与えられた選択肢は2つ。このまま『急進派』の行動を見過ごし滅亡を受け入れるか、『漸進派』の情報を信じて何らかの手を打つか――」
「しかし‥‥UPCには何と説明します? 万一、我々の行為が露見するような事になれば――」
「案ずるには及ばん」
 葉巻の煙を深々と吸い、「議長」が微かに笑う。
「軍の上層部にも我々の協力者はいるし、情報の提供には何重ものフィルターを通して慎重を期する予定だ。そうだな‥‥できれば軍の方で偵察を行う様に仕向け、たまたま『重大な脅威』の存在を察知した――そういう筋書きが望ましかろう」

●極東ロシア〜アムール州
「ううっ。今日も冷えるぜぇ」
 川沿いの小さな町に駐屯するUPC軍兵士が、真っ昼間からウォッカを呷りながらぼやいた。
「おい、小隊長に見つかったらどやされるぞ。だいたいキメラが襲ってきたらどうする?」
「フン。こんな寒いだけの辺鄙な場所、キメラだって来るもんか‥‥おまえも一杯やるか?」
 分厚い防寒コートを着込んでも、なお肌に突き刺さるような寒気。
 凍土に覆われたこの土地に、まだ春は遠い。
「‥‥しかしこう寒くちゃ敵わん。俺も能力者になれりゃよかったぜ」
「いや、これだけ寒いと能力者でも防寒装備なしじゃ辛いらしいぞ? それにエミタの移植なんぞ受けてみろ。おまえなんか、まず真っ先に西部戦線行きだな」
「そいつぁ勘弁して欲しいな。‥‥あそこは地獄だって噂だ」
 広大な国土をバグアに侵され、西に引き裂かれたかつての「超大国」ロシア連邦。
 しかし現在の所バグア軍の矛先は首都モスクワへ向けられ、ここ広大なシベリアの地は一部の競合地域を除けば、敵味方から放置された「空白地帯」と化している。
 ――だからこそ勤務中に呑気に酒など飲んでいられるわけだが。
 だが、兵士達はまだ予想だにしない。
 この酷寒の大地を舞台に、間もなく過去のあらゆる大規模戦闘をも凌ぐ凄絶な総力戦が幕を開けようとしている事を――。


執筆 : 対馬正治




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