バレンタイン中止のお知らせ
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作.烏鷺山ぷうのすけ


※この4コマはフィクションです。
 
バレンタイン中止のお知らせ

●対バレンタイン宣戦布告文書
 そもそもバレンタインデイとは、ローマ皇帝クラウディウス2世が兵士の結婚を禁止していた時代に、聖ウァレンティヌスが秘密裏に兵士を結婚させたことが露見して処刑されたことに由来します。
 この一見、横暴に思えるクラウディウス2世ではありますが、当時のローマを脅かしていた侵略者を撃退した功績によってローマ市民の圧倒的な支持を得ていた人物でもあります。
 聖ウァレンティヌスの示した愛の尊さはもちろん普遍のものではありますが、バグアの侵略に晒されている地球人類の心情的にはクラウディウス2世は横暴とのみ切って捨てるべきではない偉人ではないでしょうか?
 私たち傭兵はクラウディウス2世の功績にあやかり、せめて世俗化したバレンタインのお祭り騒ぎ、すなわちチョコレートのプレゼントなどというモテない男を浮き彫りにする悲しい行事は中止にすることで、バグア打倒の決意を新たにする日としてバレンタインを迎えるべきではないでしょうか?


●立ち込める暗雲
『バレンタインとは愛の祭典なのです。我々は人類の一員として、苦しい戦いを耐え抜かねばなりません。しかし同時にまた、我々は人類の一員である以前に一人の人間。人間は、決して愛無くして――』
「うるせー! ひっこめー!」
『なっ、人の話は最後まで聞きなさいよ!』
 スピーカーを介しての口喧嘩を遠眼に眺め、早川 雄人は首を伸ばした。
「またゲリラ演説か? 最近増えたな」
「どうにも、美しくないね」
 隣にを歩くのはカラス・バラウ(gz0028)。
「おまえは、どうせ賛成だろ? 沢山貰ってるし」
「‥‥人の意見を勝手に決めるのは頂けないね。僕は反対だよ」
「意外だな」
 そういう早人自身はさして興味も無さそうで、ぼんやりと演説の方角を眺めている。
「かといって、こちらから要求するのは美しいものではないし、血眼になって中止になるのも美しいとは思えないけどね」
 まぁ、実際のところ、カラスの本音は別のところに、それはもう利己的なところにあったりするのだが、それはそれ、これはこれ。彼はそういう男だ。今更気にしても仕方ない。


「バレンタインは中止すべきよ。そう思わない?」
「何て事言うのよ、反対反対! バレンタインを潰そうなんてどうかしてる!」
 二人の女性が、顔を近づけてわいわいと言い合っていた。
 そんな二人に挟まれたような格好で、チェラル・ウィリン(gz0027)は黙ってジュースをすすっていた。ストローがズズズと音を立てる。
「チェラルもそう思うでしょ? ねっ!?」
「か、彼氏がいるからって、貴方ねぇ!」
「さぁ、どうかなー‥‥?」
 傭兵仲間の言い争いに巻き込まれて、チェラルはつい笑顔で応じる。
 実を言えば、あんまり興味が無い。いや、人並みに恋だってしてはいるし、そういった意味ではバレンタインは楽しみだが、中止だ推進だと理屈を並べてややこしくされても、難しい事を考えるのは苦手なのだ。
 中止派賛成派、そして中立的な人間をも巻き込んで、バレンタイン騒動は混迷の度合いを深めていった。


●事変
 真夜中、ラスト・ホープのとある一角にて――
 何やら日本風の趣漂う宿屋、看板には池田屋の号。狭苦しくも感じる旅館の中、二階の広間では多数の傭兵達が額を付き合わせていた。
「情報は確かなんだろうな?」
「確実な情報だ。輸送手段は大型船」
「荷揚げは」
「2月5日」
「よし!」
 頷き、一人の傭兵が立ち上がる。
「決行だ。我々の積年の恨み、今こそ晴らすべし!」
 興奮気味にまくし立てた男が、拳を握り締める。
「ヤツ等に‥‥バカップル共に正義の鉄槌を下す時が来たのだ!」
 ざわつく室内。
 傭兵が、机に手を叩き付けた。そこに広がっているのは、何やら怪しげな計画書と、例のバレンタイン中止広告。
 部屋の入り口には、妙に達筆な書体で、『反バレンタイン非モテフォーラム行動派何たら主義うんたらかんたら皆々様御一行』等と長々と記された看板がどんと掲げられている。
「毎年のように繰り返される、チョコ何個しか貰えなかったよ〜、等という謙遜のふりをした自慢!」
「それも今年で終わりよ!」
「その通りだ、断固阻止すべし!」
 めいめいに気勢をあげ、傭兵達は騒ぎ続けていた。
 そんな中、どうにも気後れした様子の女性が一人。冴木・玲(gz0010)だ。熱気に包まれる部屋の空気を前にして、あきらかに引いている。
 参加者には、女性も少なくない。
 バレンタインとは、貰えるか否かという点だけが問題となる行事ではない。その裏には、本命と義理を使い分け、愛に祝福されたバレンタインデーを過ごそうと画策する、女性同士の熾烈な権力闘争が繰り広げられている。もちろん、女性から女性へチョコを渡すという光景も、別段珍しくは無い。
(とはいえ、凄い気合ね‥‥)
 知人に誘われて興味半分で顔を出したは良いが、どうにもこれは過激だ。
 彼女自身、物心ついた頃から剣術一筋十何年。バレンタインデーだ何だとおおはしゃぎする人を見るにつけ、自分への挑戦状に感じてしまったりもする。それぐらい灰色‥‥、否、鍛練一筋の青春時代をすごしているのだが、しかし。
(このままじゃ、どこまでも暴走するわね‥‥)
 あまりに気合が入りすぎていて、ふと、そんな事が心配になる。
 ふと、顔をあげる冴木。
「すいません、お酒をお持ちしたのですが‥‥」
「あ、はいはい。今あけますね」
 参加者の一人が、出入り口の方へと歩いていき、襖を開く。おお酒が来たかと振り向く参加者達。集まる視線。しかしその先には、従業員はおらず、十数名の男女が、ハリセンを手に立っていた。
「御用改めである! 神妙に縛につけぇい!」
「なぁッ!?」
 襖を開けた女が、一刀の元にデコッパチを叩かれる。
「しまった、突撃隊だ! どうしてここを!?」
 どう考えても看板のせいだ。
「ぬがっ!」
「不覚‥‥ッ!」
 次々とハリセンの凶刃に倒れて行く傭兵達。
「散れ散れ! 他日を期すのだ!」
 誰かの一言が契機となって右往左往。大あわてで逃亡へと移る。
 そうはさせじと、揃いのカーキ服を身に着けた集団が突入し、あるいは窓辺に立ちはだかる。その腕に見えるVAの腕章――バレンタイン・アサルト。通称、突撃隊。バレンタイン中止の陰謀を粉砕する実行部隊だ。
「ちょ、ちょっと! そんな暴れたら店に迷惑が!」
 思わず立ち上がり、冴木は声をあげる。
 だが、混乱した室内で、彼女の声に耳を傾ける輩は居なかった。それどころか、逃げる素振りも見せぬ冴木目掛け、男性がハリセンを手に襲い掛かる。
「覚悟ぉぉぉ!」
「あなた達、いーかげんに‥‥っ!」
 タックルする彼の背に肘を食らわせ、畳へと叩きつける冴木。めきりと、かなり痛そうな音がした。
「みーちゃん!」
 男が畳にめり込んだ直後だ、悲鳴交じりに、女性の声が響く。
 駆け寄り、女性は男を抱き上げて顔を覗き込む。
「しっかりして!」
「ゴメン、二人で一緒にバレンタインを過ごそうって誓ったのに、俺は‥‥」
「そ、そんな事言わないで、みーちゃん!」
 周囲の喧騒もどこ吹く風、突如始まる山場(おそらく)に、逃亡を試みていた中止派達が、ぴたりと脚を止めた。錆び付いたブリキ人形のように、ぎぎぎと振り返る。彼らの眼に飛び込んだのは、熱い抱擁を交わす二人の男女。
 周囲には桃色のフィルターが掛かり、なんびとたりとて寄せ付けぬ絶対障壁が展開されている。
「ちくしょう‥‥」
 誰かがポツリと呟いた。
「ちっくしょおぉぉぉっ!」
 涙を眼に浮かべ、半ばヤケクソ気味に踵を返すその男。腰からハリセンを抜き放つと、突撃隊が待ち構える室内へと再突入する。その動きに触発されたのか。振り返っていた男女十数名、同様にハリセンを抜いて室内に舞い戻る。
 しかし、彼らの行く手には、多数の突撃隊員が立ちはだかっていた。踵を返した彼らはあっという間に押し包まれ、ハリセンで袋叩きにされる。
「男女の恋路を邪魔するヤツは、チョコの角に頭蹴られて死んでまえ」
「哀れだ。愛を理解せぬ者達は‥‥」
 余裕すら垣間見える、憐憫の表情。
 それは、持ちたる者特有の驕りだったのかもしれない。
「ほ、ほざけぇ!」
「えぇいままよ! こうなれば一人でも多く道連れだ!」
「バカップルどもを血祭りにするぞ、続けッ!」
 次々と部屋へ舞い戻り、戦いへ身を投じる傭兵達。
 あまりに馬鹿馬鹿しくなって、冴木は窓から路地裏へと飛び降りた。
「‥‥」
 ふと振り返って二階を眺める。中からは喧騒が響き、それはいつ止む訳でもなく続く。こうなっては、どちらかが全滅するまでハリセンの応酬が止む事はあるまい。それは、あまりにも不毛な争いであった。


●誰が為に
「以上が、昨夜発生した池田屋事件の概要です」
 生真面目そうな軍人が、レポートを手に説明を終える。
 会議室の中には高級軍人が居並び、みなそれぞれに、ポカンとした表情をしていた。ヴェレッタ・オリム中将(gz0162)もまた、眉間に手をやり、深い溜息をついた。
「ハァ‥‥」
「如何なさいましたか。化粧でも崩れましたか」
「まったく、傭兵共は何を考えているのだ‥‥」
 再びの深い溜息。
 報告官の言葉を華麗にスルーして、彼女は顔をあげた。
 そこには、既に新たな報告官が立っている。
 結局のところ、昨夜の騒乱は双方痛み分けで終わった。最終的には全員に謝罪と反省文を提出させ、現在はUPC本部の廊下でバケツを持って立っている。ただ、並べておくと喧嘩しかねないので、十分な距離はとってあるが。
「双方共に、得物をハリセンにする程度の分別はつくようだし、昨晩は単なる喧嘩で済んだから良かったものの‥‥」
 言いかけて、オリム中将は、ハインリッヒ・ブラット准将(gz0100)へ眼を向けた。
「えぇ、騒動があまりに激化すれば、双方に深刻な対立を残しかねません」
「それだけではない。その混乱に乗じて、破壊活動等があっては困るのだ」
 オリム中将の厳しい態度に、周囲の将官達は気圧され、小さく息を飲む。
「准将、そもそも君が傭兵達に甘過ぎるのではないか?」
 ムスリと頬を膨らませる。
 おそらく偶然ではあろうが、珍しい。
「聞く所によれば、ショップでは大量のチョコレートを仕入れるそうではないか。バレンタインを禁止せよとは言わないが、何も奨励するような必要は無いだろう‥‥?」
 三度目の溜息。
 その言葉に、ブラッドはロッタの事を思い出す。
 本当に商魂たくましい少女だ、と感心もするが、確かにこのまま放置する訳にもいかない。かといって、UPCと傭兵達の関係を考えれば、傭兵たちの私生活に高圧的に介入するのは強い反感を買うし、そもそも、中止や奨励のどちらに肩入れしてしまうと後々まで遺恨をのこしかねぬ。
「元はと言えばあの広告、か‥‥」
 腕を組み、生真面目そうに口を結ぶ准将。
 溜息ばかり吐くオリム中将を見やるに、彼女が広告主だという噂はしょせん噂であろう(と思う)が、この結果を予測して広告を打ったのであれば、広告主は相当の策士だ。
「閣下。私に意見があるのですが、よろしいでしょうか」
 可愛らしい声がして、皆はふと顔をあげた。
 立ち並ぶ軍人達の中に、青いツインテールの女性が混じっている。女性‥‥と呼べるのかすら怪しいぐらい小柄な女性だ。どうも、どこかで見た事がある気もする。
「何だね。述べたまえ」
 ブラット達が口を挟む前に、老齢の高級軍人が発言を促す。
 その言葉にそれっと机に駆け寄った女性は、書類ケースからプリントを取り出し、皆へ配る。
「何だねこれは。『バレンタインチョコレート争奪戦』‥‥?」
「はいですっ」
 ぐっと拳を握り締め、彼女は説明を始めた。
 その内容はこうだ。
 まず、競技区画を設け、チョコレートをここへ搬入する。参加者達はこのチョコレートを狙って争奪戦を繰り広げるのであるが、もちろん、覚醒やSESといった危険な要素を全面的に禁止。ルールを設けたレクリエーションに転化させる事で、制御可能な範囲で暴れさせようというものだ。
 つまり、無秩序に暴れる事を阻止する為、UPCが先手を打つ格好だった。
「そして、推進派が勝利したら、チョコレートは半分をラスト・ホープに流通させて、残り半分を前線の兵士さん達へ。中止派が勝利したら、その時は今回仕入れた分は、全て子供達に配ってしまうのです」
「ふむ‥‥」
「一応、在庫があるから最低限のチョコレートは確保できますし、両方に大義名分もあるから、内戦に発展するより良いと思うのです」
 顎に手をやってプリントを眺めていたブラッドは、小さく頷いて顔を上げた。
「悪くない案と思いますが、いかがですかな、閣下」
「‥‥そうだな。本当ならこんな馬鹿騒ぎも抜きにしてもらいたいが、まぁ、この程度なら良しとしよう」
 四度目の溜息。
 おそらくは、今日の会議最後の溜息となる。
 頭に少々下品な言葉のつく程に真面目な彼女も認めた事により、会議の方向は凡そ決したと言って良い。結局のところ、他に強い反対意見も出ず、バレンタインチョコレート争奪戦(仮)の実施は決定された。
 会議も終わり、皆それぞれに立ち上がり、解散し始める。
 やれやれと立ち上がったオリム中将は、ぐっと背伸びをした拍子、はたと気付いて眉を寄せた。
「‥‥ん? 在庫?」



●開戦前夜
 争奪戦の開催が発表されてからというもの、傭兵達の地下活動がにわかに活発化し始めた。
 港ではバイヤーの手によって最新式のモデルガンが高額で売買され、ハリセン職人達は強力なハリセンを一本ずつ丹念に仕上げて行く。傭兵達の宿舎にはバレンタインの中止と推進、それぞれを訴えるビラがばら撒かれ、スパイや工作員による情報戦も激化。一部では女性陣の準備した手作りチョコレートによる買収工作も行われていると聞く。
 そして、ラストーホープに謀略が渦巻く中、『X−Day』は遂に訪れた‥‥


OP執筆 : 御神楽
Event illust : 竜生真希



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