アジア決戦
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12月1日の報告

<報告書は前編:後編から成る>


 スペインマドリッド上空、その日は晴天だったのかもしれない。夜明けの遅い冬の早朝、戦火で焼かれた街路樹の残骸で鳥達が羽を休め、楽しそうに囀りあっている。だがそれも数刻の事、異常な気配を感じた鳥達は、一斉に羽をばたつかせ空へと飛び立つ。それらの先に見えるのは太陽の待つ青空ではなく、様々に彩られたUPC軍そして能力者達の傭兵で作られた混成のKVであった。
「バグア軍の隊列はキューブワームを前面に展開、敵最大戦力と思われるギガ・ワームが後方に控えている。恐らく奇襲部隊である迷彩型ワームが主力、それを最大限に活かすための布陣だろう」
 マドリッドへと攻撃をかけて来るバグア軍を迎え撃つために戦地へ赴く能力者達、そして迎撃予定地点へと向かう道中で情報伝達の専門家チームであるラピットイヤーαの隊長、朱雀院沙羅(ga5440)がチームを代表してバグアの状況を味方へと伝えていた。
「逆に言えばワームの迷彩さえ剥げば敵戦力の大半は削れることになる。あたしのチームでも全力で情報収集に努めるが、それぞれ注意してくれ」
「元からそのつもりよ」
 答えるのは「八十六」所属のルー・シレティカ (ga8513)だった。「八十六」では敵に電子戦用の機体であるキューブワームに対抗する形で岩龍を用意、それを護衛・死守することで迷彩型ワームへと対応としていた。
「迷彩付きの存在が事前に分かってるだけでもありがたいことね」
 もし迷彩型の存在が分かっていなければ奇襲をかけられていたかもしれない。そう考えるとルーの手にも自然と汗ばみ始める。加えてキューブワームがジャミングをかけて来るとなると更にやっかいなことになるだろう。既に肉眼で確認できる距離に見えるキューブワームを眺めながらそんな事を考えていた。同時に一つの危険性にも考えが及ぶ、既に近くに迷彩型ワームが潜んでいる可能性だ。その時、彼女の傍で小規模の爆発が起こる。付近にそれらしき敵機の様子は無い、間違いなく迷彩型ワームからの攻撃だった。
 奇襲気味に開始されたマドリッド上空戦であるが、序盤はバグアが主導権を握っていた。原因は迷彩型のワームの存在である。迷彩型の存在がいる事を事前に察知したUPC及び能力者達であったが、存在が分かっていても見えなければ対応が遅くなる。むしろ存在を知っているからこそ奇襲を恐れて攻撃の手が鈍る様子も見られた。加えてバグアの方ももこれまでの経験から戦い方を学んできたのだろう、電子兵装を持つ岩龍や比較的兵装の整っていない一般機に狙いを定めているのは明らかだった。自チームの岩龍のために慌ててフォローに入るルー、だが無理な体勢も影響したのだろう、右翼に被弾を受けていた。
 一方敵の狙いが一般機であることを悟ったO’s所属シャレム・グラン(ga6298)は、損害の大きな機体から撤退を促していた。
「ゼロス小隊が援護しますわ」
 同じくO’sに所属する大和長門(ga7140)が撤退の目隠しと迷彩型ワームの位置特定のために弾幕を張る。
「迷彩は弾幕であぶり出しってね」
 そして大和の狙い通り一瞬だけ弾幕を掻き分け逃げる物体があることが判明、だがそれ以降迷彩型ワーム近寄っては来ず、遠距離攻撃を仕掛けてくる。弾幕のおかげで命中ししづらくはなっていたが全くあたらないわけでもない、それらの攻撃からシェレムは身を挺して守るのだった。
 また一般機が狙われているという情報を聞きつけ、8246小隊所属の水上・未早(ga0049)も班員達と援軍へと向かう。。
「小隊の損害を報告! 岩龍、周囲の戦況! 次、往きます!」
 まだ特定できないものの得た情報を元に迷彩型ワームの位置を絞り込む水上、相手の位置さえ分かればまだ対処の仕方が変わる。そのために絶えず情報を確認している。だが同時に一つの懸念もあった。残弾である。
 仕方ないと言えば仕方ない事ではあるが、まだ戦況はUPCの不利な状況である。ここで一旦引くというのはバグアの士気を上げる事になりかねなず、タイムロスにも繋がる。いずれ来るはずの反攻のチャンスの為にも弾数そして錬力を残しておく必要があった。
 だが弾を節約しているだけでは守れるものも守れなくなることも事実、水上と同じく8246小隊所属のブレイズ・カーディナル(ga1851)は彼女とは異なり、今この場に全てをかけていた。
「お前らが正しいと言うなら‥‥突破して見せろ! 俺達が全力で阻止して見せる!」
 あらん限りの声で身を張り味方を鼓舞するブレイズ、士気を回復させるまではいかなくとも落とすわけにはいかない。その願いが通じたのか被害はそこまで拡大していない。だが水上の望む反攻のチャンスを掴む為には、迷彩型ワームの位置特定が必要不可欠だった。

 皆に望まれた反攻の機会はそう遅くない時間に訪れた。迷彩型ワームにペイント弾がかかったのである。つけたのはFeuerFrei! 所属の井上源一郎(gb1409)、彼の持つH-112長距離バルカンが迷彩型ワームを捕らえたのだ。
「ついに出てきたな迷彩ワーム!」
 井上は迷彩型ワームにペイント弾を命中させた後すぐに、共有情報網であるMDへと連絡を入れる。そこからがUPCと傭兵部隊達の反撃だった。
「よーし、落ち着いて一本行こうか」
 迷彩型ワームがいかに脅威といえど、姿が見えてしまえば陸に上がった魚も同然。オラトリオ隊の弓亜 石榴(ga0468)は自分に言い聞かせるように一声気合を入れて、気味が悪い程に大量に沸いたキューブワームの群れに突撃をかけた。
「敵陣の奥深くにいると思ったら、前面に出てきてくれて助かったわ」
 キューブワーム自体の戦闘能力は然程高くない。問題なのは奴らの持つジャミング能力である。だからキューブワームを守るようにギガ・ワームが展開するというのが弓亜の予想だった。もし仮にそうであれば、ギガ・ワームの攻撃をを無視しなければキューブワームの元まで辿りつけなかっただろう。その時は味方に場所の情報を送れればいい、そう悲観的に考えていた。だが現実に待っていたのはキューブワームの群れ、これ程願ったり適ったりの陣はなかった。
「R−01隊突撃!」
「お姉ちゃんの後に続けー!」
 弓亜の後ろには同部隊所属の高木・ヴィオラ(ga0755)、高木・リート(ga0757)の姉弟が続く。二人も敵からの反撃を恐れず、味方からの支援を信頼して攻撃を仕掛けていく。
 多少の反撃を受けつつも構わずキューブワームを撃墜していくUPC軍、迷彩型ワームもペイント弾のおかげで完全に場所を特定され戦略的な意味合いが減少。勝負時と判断したのかギガ・ワームが後方から進軍してきたのだ。

「遂に本命の登場ね。それじゃいくわよ、夜空に輝くその名はスター・マイン突撃〜〜」  まずギガ・ワームへと先陣を切ったのはスター・マイン所属の火絵 楓(gb0095)だった。弾幕を張りつつギガ・ワームへと接近、残弾全てを一斉射撃して攻撃を仕掛ける。
「エアリル・シュートいくわよ」
 手ごたえはあった。相手が未完成のギガ・ワームだった事も一つの理由なのかもしれない。 
だがそれをあざ笑うかのように、ギガ・ワームはプロトン砲を火絵の周囲を包む弾幕ごと発射する。撃墜までには至らなかったものの、一時撤退を余儀なくされた。だが彼女の作った時間は無駄ではない。UPCは補給と隊列の組換えをする時間を得たからである。
「‥‥守る‥‥そのために、‥‥狙い撃つ‥‥」
 火絵の作った時間を使い、スター☆ライズは負傷者の救援、補給に向かった。だがバグアの戦力はギガ・ワームだけではない。既に姿を晒したとはいえ迷彩型ワームも敵であったし、キューブワームも厄介な存在である。そして迷彩型ワームも一機だけとは限らない。そこでイスル・イェーガー(gb0925)、椎野 ひかり(gb2026)、蒼河 拓人(gb2873)の三人が囮役となりながら敵を陽動、他部隊員が動きやすいように敵を引き付けていく。
「妹は危険な前線に向っているんです! こんな所で負けられませんわ!」
「顔も名前も知らない誰かのために、それが自分の戦う理由だよ」
 それは武器を奮って戦うことだけが能力者のやるべきことではないという彼ら彼女らの心の叫びでもあるようだった。
 敵の薄い場所を怪しみ、レーゲン・シュナイダー(ga4458)が突撃仕様ガドリング砲を打ち込めば何もない筈の空が更にペイントの色に染まる。
 そして僅かな休憩と補給を済ませ、満を持して登場したのが天衝本隊、天衝四神隊、天衝遊撃隊だった。
「皆‥‥骸墜を仕掛ける‥‥我らが大刃でギガ・ワームを何とかするんだ!!」
 天衝本隊総隊長である漸 王零(ga2930)の宣言とともに進軍する三部隊、陣を組みつつギガ・ワームとの距離を詰めていく。迎え撃つはギガ・ワーム三機、そして未だ無数とも言える数を誇るキューブワームである。やがて二つの勢力が直接ぶつかりあう。だが、その間隙を縫ってギガ・ワームへと特攻をかける機体があった。とらとら☆ぷらとーんの鳳・朱雀(ga9178)である。
「一太刀浴びせみようってだけさ!」
 極限まで身軽にしたかったのであろう、彼女の操るKvはディハイングブレード一振りのみしか携帯していなかった。その甲斐もあってか、周囲の敵を全て友軍に任せて一人ギガ・ワームへと降り立つことに成功する。そして錬力のあらん限りを使い、唯一の武器にアグレッシグ・ファングを乗せを未完成部分へと突き立てていった。本来なら命中を考えるために大振りはできないところであるが、今回は相手が違う。大きさが数倍もある相手だ、外す訳が無かった。
 だが標的が一つなら狙いやすいのはギガ・ワームにとっても同じ、可能な限りの砲台が彼女の方へと向けられる。注意をそらそうと八神零(ga7992)、水理 和奏(ga1500)が尻尾の部分を狙いに急行するが、その前に鳳がギガ・ワーム三体の集中砲火を受けることとなった。
 鳳の安否も気になった二人であったが、落下しつつも手を振る余裕があることを確認、そして安堵の気持ちの中、ギガ・ワームの尻尾へと攻撃を仕掛けていく。
「ギガ・ワーム‥‥相手にとって不足はない‥‥」
「中佐のおじさんいなくても、僕やってみせるっ‥‥狙うは再び、怪しい尻尾っ!」
 その二人に合わせるように、他の隊員達もギガ・ワームへと取り付く。そこで天衝遊撃隊所属の霧島 深夜(ga4621)の元に連絡が入った。既にギガ・ワームの未完成部分には亀裂が入り、内部への侵入が可能になっているということだった。
 その情報を元に余力を残した形で未完成部分のあるギガ・ワームを撃墜、更には一機を退却に追い込み、残る完全体の一機を戦線の奥に押し込むことに成功したのであった。

<担当 : 八神太陽>



 グラナダ要塞。
 バグア軍の欧州における拠点の一つであり、山脈という天然の要害と大型拡散偏向プロトン砲やミサイルサイロ、対空砲を備える難攻不落の要塞である。
 しかし、いかに難攻不落を謳われた要塞といえど、機動戦力の主力を北のマドリードへ向けた今、その防衛能力は大きく低下している。
 防衛能力を減じているとはいえ、要塞西方に設置された対空基地は24を数える。
 それら全てを突破し要塞へと致命傷となる打撃を与える事は困難を極める事は確実だ。

 迎撃の砲火を潜り抜け、先行する対空施設攻撃を担当する部隊が攻撃を開始する。彼らの後続となる本隊には爆装を施し鈍重となった機体も数多い、対空施設を潰さない事にはそうした鈍重な機体はカモとなる。
 ここを突破できるかが要塞攻略戦の成否を握るといっても過言ではない。
「さて、露払いに行きますか」
 特務部隊:零所属の河崎・統治(ga0257)、ルティア・ネレイド(ga8336)、青島・遼平(ga0258)、河崎丈治(ga6877)の4機は菱形編隊を組み、部隊の中でも最前列に展開していた。
 彼らの機体から放たれるロケット弾とフレア弾は、タートルワームを初めとする対空兵器群に痛打を与えるが、いかにベテランの傭兵といえど全ての対空砲火を潜り抜ける事は難しい。青島の駆るR−01改とルティアのバイパーが直撃弾を受け、煙の尾を引きながら墜落する。
「やはりタートルワームが厄介ですね〜ですが、攻略させて頂きます〜」
 シェリル・シンクレア(ga0749)は隊内の情報網である月読を介して周囲情報や伝達事項を隊長へと報告、また自分の所属する班へと情報を伝達する。
 彼女のような隊長への情報を伝達する役割の者としては、月森 花(ga0053)やシックススリープス(ga0262)など、班分けした部隊にそれぞれ配置されている。
 月狼は部隊を小分けして報告官を配する事で、総指揮官である終夜・無月(ga3084)の負担を減らし、指揮へと専念できる体勢を整えていた。
「無粋な物をまた、無頓着に作ってくれたものだな‥‥」
 第弐中隊六番隊に属するゴルディノス・カローネ(ga5018)は指揮官からの指示を受け、バイパー改の翼下に搭載したロケットランチャーを眼下の対空施設に向けてばら撒く。84mm8連装ロケットランチャー3基と127mm2連装ロケットランチャー1基から放たれる大量のロケット弾が対空ミサイルキメラのサイロや対空ミサイル車両などを破壊する。
 同じく月狼所属のチリュウ・ミカは攻撃を自機に引き付けてでも攻撃部隊の進路を確保するために部隊前面を飛び回る。
 当然ながら集中攻撃の餌食となるが、彼女の稼いだ時間は攻撃部隊が攻撃を行うのに充分な時間となる。

 山脈に作られた形状ゆえか、上空からの爆撃の効果が薄い施設に対しては、人型へと変形し、降下作戦を実行する傭兵も数多い。
 空中での人型変形による降下は隙も大きく対空砲火の格好の的になる。しかし、これまでの教訓を活かし、煙幕弾による射撃妨害を実行してからの降下により、比較的多くの傭兵が空挺降下時の隙を突かれる事無く無事に降り立つ。
「幻霧発生装置‥‥作動」
 マーニ・ラグナロク(gb3028)などドラグーンが操る翔幻もまた、機体特殊能力の幻霧発生装置を作動させ、降下支援を行う。
「オウル03より01、SAMサイトデータ転送完了」
 アークバード隊のハンナ・ルーベンス(ga5138)が対空施設を目視とレーダーにて確認し、隊長機へとデータを転送。管制機を兼ねる隊長機が戦域に張り巡らされた情報網【蕾】へと転送する。
 対空施設の情報を転送しつつ、脅威度の高いと判断される箇所は破壊。対空施設の防衛部隊は専門に編成した班による対応を取るアークバード隊は新規に結成された部隊の割には連携の取れた動きで効率的な対空施設の処理に成功していた。
「皆さん、必ず生きて帰りましょう」
 伝達された情報を受け取り、戦域各部へと転送するのはアキト=柿崎が隊長を勤める若葉【蕾】だ。
 基本的に彼らの仕事は爆撃護衛ではあるが、それに留まらず構築した情報網にて戦域各所の戦況を伝えるのが主たる役目となる。

 対空施設の防衛網を先方の対空施設攻撃部隊の傭兵達の活躍で潜り抜けた爆撃部隊の目に、ムラセン山が映る。遠めには良く分かりにくいが、ムラセン山の頂が割れ、大型の砲台がその姿を現す。砲口に光が収束し放たれた光弾はある程度の距離を飛んだ後、拡散。光の雨と化して爆撃隊へと降り注ぐ。
 敵の戦略兵器である大型拡散偏向プロトン砲の一撃だ。
 事前情報でチャージに時間が掛かる事は判明済みだが、何度も発射されては部隊の損害が大きくなる。
「‥‥ス‥‥アーだ!」
 その時、乱れた無線から誰かの警告の声が響いた。
 通信網として各部隊間で構築した【蕾】を経由した無線から流れた声は細部こそ聞き取れないものの、ほぼ全ての傭兵がその単語から危険を悟る。
 対バグア戦争の初期段階から出現しているにも関わらず、その驚異的性能により未だ撃墜された記録を持たないステアー。彼の者の刃の前に倒れた傭兵は相当数に上る。まさに悪魔の形容が相応しい機体だ。
 ステアー襲来の報告に対して新鋭機を相手取る部隊が前衛に立つ。
 中でも新鋭機との対峙を幾度かしてきたドクター・ウェスト(ga0241)率いる小隊【西研】は、Zephyrと共に比較的命中率の高いG放電装置による集中攻撃、Gストリームアタックを企図していた。
 やがて彼らの眼前に圧倒的戦闘力で周囲のKVを撃墜していく真紅の機体が現れる。随伴するのは少数のヘルメットワームだ。
「周辺の友軍機に連絡、GSAに合わせた連携攻撃を期待する!」
 ハワード・ラヴクラフト(ga4512)がステアーへと乗機である岩龍を向けたG放電装置のトリガーを引こうとした刹那、ステアーから大量のミサイルが放たれる。
 K−01小型ミサイルを模した大量のミサイルが、ステアーを半包囲する形で機種を向けていたGSA参加機へと降り注ぐ。
「直撃弾っ!?」
 その中の1機、音影 一葉(ga9077)の駆るディスタンがあっという間に装甲を吹き飛ばされ爆散する。彼の他、【西研】所属機では、国谷 真波(ga2331)、ロバート・ブレイク(ga4291)、無荒戸 哲夫(3815)らが餌食となる他、GSA参加機の中でG放電装置を備えた機体の半数以上が刹那の接触で撃破されていた。 
「馬鹿の一つ覚えだな、何度も同じ手が通用すると思うな」
 撃墜され煙を噴いて墜落する機体へとステアーのパイロット、佐渡・京太郎が冷笑を向ける。

「レーダに光点‥‥早い!?」
 伝書鳩隊隊長の柊 香登(ga6982)は愛機である高性能電子戦機ウーフーのレーダに2機の敵機が急速に接近してくる事を確認し、視線を前に向ける。
 瞬く間に視界に現れた1機の赤い機体からの容赦ない攻撃をぎりぎりの機動で回避する彼だが、まるで彼の回避機動を予測していたかのようにプロトン砲の火線が走りウーフーのエンジンが吹き飛ぶ。機体から脱出する間際に彼の前を駆け抜けた赤い機体の翼に描かれたエンブレムは双子座のものだ。
 一瞬のうちに僚機を撃墜されたロレンタ(gb3412)が情報網【蕾】を介してファームライド出現の報を呼びかける。
「こいつを落とすまでは、落ちるわけには…っ!!」
 LYNX小隊のオリヴァー・ジョナス(ga5109)は撃墜される前に、フレア弾だけでも放出しようとしたが、限界を迎えた機体は彼の思いを果たす事も無く失速する。
 双子座の戦闘には以前まで感じられていた遊びの気配は全く無い、先日の大規模戦で恐怖という感情を覚えたミカ・ユーティライネンとユカ・ユーティライネンは戦士として格段の成長を遂げていた。
 一切の遊びの要素を廃した双子座の戦いは、目前の敵に対して全力の戦技を持って対応し、KVを撃墜する毎に動きのキレ、速度、連携共に向上していく。
 ファームライドは光学迷彩を利用した奇襲による短期決戦型の機体だが、動きそのものも素早い。
 以前の双子座であれば突破できただろう防衛網は鉄壁の壁となり傭兵達の前に立ち塞がる。
 
 山脈を獣となって駆けるのは朧 幸乃の駆る(ga3078)ワイバーンだ。彼女の所属する小隊、白銀の魔弾の任務は爆撃部隊の護衛だ。
「失敗は、名古屋の戦火再来、ですか‥‥私たちで、阻止します‥‥」
 名古屋防衛戦で廃墟となった街を思い、朧は小隊の最前列に立ち疾走する。
 陸戦では四足獣形態を取るワイバーンは山脈などの足場の悪い場所でこそ最大限の力を発揮する。同小隊に属する仲間と共に爆撃機にとって厄介なタートルワームや対空砲台を潰し、爆撃機の安全を得ていく。
 空では襲い掛かるヘルメットワームを相手に爆撃機防衛を担当する傭兵達が迎撃を優勢に進めていた。
 陽動作戦が上手くいったのか、ヘルメットワームの数はそう多くはない。大型拡散偏向プロトン砲から放たれる拡散プロトン砲の雨は厄介だが、発射タイミングさえ見切れば回避その物は簡単だ。
「陸と空から挟みこめ!いいか、後続の為にも押し通せ!!」
 放課後クラブのゼラス(ga2924)の声に応じるように、彼らの機体から放たれた弾丸が空では爆撃機を狙ったヘルメットワームを砕き、陸ではタートルワームを吹き飛ばす。
 爆撃機防衛部隊の中でも月狼は複数の部隊を展開し、効率的に防衛網を構築していた。
 煙幕弾や幻霧発生装置によるサポートを受けた爆撃は徐々に大型拡散偏向プロトン砲へと損傷を入れつつあった。
「『緋色の閃光』の名を賭けて、この施設何としてでもぶっ潰してやるぜ!」
 霧島は大型拡散偏向プロトン砲の砲口目掛けて突撃を開始する、砲身内部で機関部を破壊するつもりで機体を駆けさせるが、大型拡散偏向プロトン砲周囲に設置された対空砲台からの集中砲撃を受けて彼のワイバーンは火球へと変じる。
 最も砲身内部で砲台の爆発に巻き込まれれば機体から脱出できても命はない。それを考えれば、彼にとってはここで撃墜された事は幸運と言えたかもしれない。
「せっかく調整したものを、簡単に破壊させてやる訳にはいかんな‥‥アレが指揮官か?」
 ステアーを駆る京太郎は全体として押され気味の戦線を押し上げるために、大部隊の指揮官機に狙いを定める。
 向かう先は月狼の終夜だ。
「‥‥今、無月さんに負担を掛けさせるわけには‥‥ここで食い止めます!」
 その前に立ち塞がるのはベルのミカガミだ。
 ミカガミの信条である身軽さを活かしてステアーの動きに追随しようとするが、現時点でKVの能力を超えたステアーに追いつく事は出来ない。ベル以外にも終夜のサポートに回る機体は多いが、ある者は機体を撃墜され、またある者は引き離される。
「隊長‥‥私がお守りします‥‥!」
 真紅の暴風と化したステアーはその身をぶつけるように終夜の駆る機体へと駆けるが、その眼前にセレスタ・レネンティア(gb1731)のバイパー改が自らの機体を盾にするかのように割り込む。
 ステアーは機体を減速させる事無く逆に速度を上げ、紅翼の先端から紅く輝くレーザーブレードを展開する。
 一見するとステアーから大きな光の翼が広がったようにも見えるそれは、盾として展開するセレスタの機体ごと終夜の機体を一刀の元に両断する。
 指揮官機を落とされ、月狼の連携が乱れる。
 その乱れに乗じて指揮下のヘルメットワームに爆撃機への攻撃を指示しようとする京四郎の眼前に2機の機体が現れる。
 護国の双月を名乗る月神陽子(ga5549)と如月・由梨(ga1805)の機体だ。バグア側からも比較的脅威度の高い傭兵として知られる彼女達の機体からの容赦ない連携攻撃を信じがたい機動で回避するとステアーはレーザーを撃ち放ちつつ2機を翻弄。
 ヘルメットワームやゴーレムだけでなくファームライドの相手すらこなした経験のある彼女らを一瞬の後に叩き落す。
 しかし、京太郎がいかに一騎当千の働きを見せようと、全てのKVを凌ぎきる事は困難だ。
 彼らの防衛網を突破し、指揮官機撃墜から部隊を立て直した月狼隊の一部とCadenzaとGargoyle所属の機体が大型拡散偏向プロトン砲を射程内に収める。
 Gargoyleのイレーネ・V・ノイエ(ga4317)は多少の被弾を気にせず一番槍を狙い強襲降下を図るが、健在の対空放火の直撃を受け撃墜される。
 爆撃の下準備として煙幕弾を展開し、自機への攻撃を防いだ上で、彼等は対空砲火を潜り抜け、大型拡散偏向プロトン砲への攻撃を開始する。
 数分間に一度、岩肌に偽装したシャッターが開き、砲口を見せるプロトン砲から四方へと拡散弾が放たれる。
 シャッターの防御力は頑強で、周囲に着弾したフレア弾やロケット弾の打撃力だけではその下に隠れたプロトン砲へ直撃弾を与える事は困難だ、プロトン砲を撃破するにはシャッターが開いた瞬間を狙わねばならないが、タイミングは非常にシビアだ。
 翼を翻し、再攻撃を開始するために山頂付近を旋回するKVへ対空砲の火線が延びるが、その大半が投下された煙幕に遮られ致命打には至らない。
「『良い子の家』は此方だな、一足早いクリスマスプレゼントだ!」
 シャッターが開きプロトン砲の砲口が姿見せる、砲身の奥が輝きメディウス・ボレアリス(ga0564)を初めとする傭兵達による集中攻撃が始まる。
 多くの弾は砲台近辺からの対空砲火により阻まれるが、ラウラ・ブレイク(gb1395)が対空砲火がフレア弾などの迎撃に捉われる隙を付き、変形降下、練剣「雪村」の刃を砲身根元へと突き立てる。
 乗機であるアンジェリカのSESエンハンサーにより出力を増大させた練剣「雪村」の連撃に砲身が崩れ落ちる。
 大型拡散偏向プロトン砲の爆発を見届けるとステアーはその機首をアフリカ大陸へと向ける。
 彼にもう少しの戦力があれば、結果は異なっていたかもしれない。

 一方、ギガワームの工場区画では、多数の傭兵を前にしても一歩も引かない双子座により頑強な抵抗が続けられていた。
 煙幕弾や幻霧発生装置の効果で迎撃効率を大きく減じた工場区画の一部こそ爆撃で被害を受けたものの、双子とゴーレムが護る区画は一切の被害を受けていなかった。
「露払いは慣れてるつもりさ‥‥本命の邪魔はさせねえぞ」
 夜修羅の龍深城・我斬(ga8283)が同小隊の仲間と共に双子座へと挑むが、双子座の息のあった連携を打ち破るには至らない。
 配下のゴーレムや対空砲台をも利用した巧みな連携攻撃は傭兵達に決定打を出させない。
 迂闊に接近すれば、双子座の駆るファームライドの火力と機動力、戦技の前に撃墜される。接近しなければ工場への爆撃は不可能。
 慎重に攻撃のタイミングを測る傭兵達だが、不意に地上施設の一部が内部からの爆発で吹き飛び、対空砲台の活動が停止する。
 更に砲台を撃破した戦力も合流し、対空砲台の活動が低下した隙を突き、工場区画への爆撃を開始する。
 対空砲台の活動が停止しては双子座の迎撃も完全なものとはならない。
「レッツゴー、ボンバー!」
 空戦部隊Simoonの鳳・つばき(ga7830)の投下したフレア弾を始め、Gプラズマ弾やロケット弾が降り注ぐ。フレア弾などの投下前に煙幕弾を撃ち込んではいたが、元より工場区画の攻撃には精密な爆撃を行うつもりがない。
 今までは双子座によって頑強に護られていた区画は、防空施設の機能低下と同時に突入した傭兵達の爆撃によって既にかなりの打撃を受けていた。
 防空施設の機能低下は要塞内部へと突入した別働隊による中枢施設の破壊に成功した事を意味するが、放っておけば予備系統へと切り替わり機能回復をするだろう。
 防空設備が機能回復を果たす前に、施設に壊滅的損害を与える必要がある。
 また、爆撃機防衛隊のグリフィン隊も施設上空でファームライドとの交戦を続けていた。
 双子座の狙いはあくまで施設を攻撃する爆撃隊なのだが、プロトン砲破壊によって攻撃目標を集中する傭兵達を前になかなか攻撃を仕掛けられない。
「爆撃が終わるまでの間、その頭引っ込めてもらいます!」
 レイアーティ(ga7618)の攻撃を機体をロールする事で回避したミカ。その影から飛び出すユカの駆るファームライドからの一撃を受け、レイアーティの機体は爆散する。
 双子座のコンビネーションは周囲を敵機に囲まれてもいささかの衰えも見せず、果敢に戦闘を繰り返す。
「機体性能の分は気迫で補う‥‥!」
 しつこく食い下がるブラックアサルトの剣野勇斗の機体を撃墜するが、既に工場施設は傭兵達の攻撃により壊滅的損害を受けていた。
「迷っていてもしかたなしか。できることをただやるだけだな」
「これが人の底力ってヤツだ! 人間舐めると痛い目を見るぞ!!」
 Cerberus(ga8178)は同じ部隊‥‥シャスール・ド・リスのクラーク・エアハルト(ga4961)と共にギガワームプラントへの爆撃を敢行する。
 ギガワームプラントも既にかなりの損害を受け、中で調整中だったギガワームがクラークの放った84mm8連装ロケット弾とフレア弾がトドメの一撃となり、調整中のギガワームは飛び立つ事無く爆散する。
 既に傭兵達の主目標である、大型拡散偏向プロトン砲が沈黙し、ギガワームプラントも潰した今、傭兵達がこの戦域に留まる理由はない。
 情報網【蕾】を介し、撤退命令が伝達されると、傭兵達も迅速な撤退を開始する。
 傭兵達の撤退と時を同じくして防衛目標を失った双子座は戦域から離脱した。

 戦闘が終息したからといって、戦いが終わったわけではない。
 戦闘の後には新たな戦いがある。
 月狼の専属補給班・救護班として活動していた聖闇十字の活動は戦闘終息後が最も忙しくなる。
 「何で無茶なことをしたんですかっ!」
 サイト(gb0817)が自身で持ってきたテントを簡易病室として、搬送されてくる怪我人の中から重傷者を中心に応急処置を施していく。
 医薬品などの治療に必要な物資がたりなくなればメガホンで対応。緊急を要する者には練成治療を施してゆく。
 本格的な治療は基地へ帰還してからとなるが、ここで応急手当を施す事で生存率はぐっと高まる。
 こうした活動あって命が助かる傭兵も多く居る事から、こうした補給・救護を担当する部隊も前線に出る部隊同様、あるいはそれ以上に重要な存在なのだ。

<担当 : 左月一車>



●グラナダの風
 ざらり、と地上の風が埃っぽさを含んで通り過ぎていく。
 上空では、既に足の速い敵機との空戦が繰り広げられている。
 マリアードの真正面、この局面における最大の主戦場となるこの場所にはUPCの正規軍の本隊が配備され、更に多くの傭兵達が敵の本隊を正面から受け止めるべく集まっていた。
『ザ‥‥ザザッ‥、とう願います‥‥ガーベラ01‥敵本隊‥ザザッ』
 既に戦い始めている空戦部隊からの情報が届く、ノイズ混じりなのはいまだジャミングの影響が強いと言う事だろう。
 表情を変える事無く、梶原 暁彦(ga5332)は情報を手早く整理し、情報網【MD】に配信を開始する。
 それと同時に、自らの所属する小隊を纏め上げる機体へ通信を開く。
 通信を受けた彼は、愛機のシートで彼に任された信頼に応えるべく告げた。
 ――前方より、敵陸上部隊の接近を確認。
『なるほど――さてそれでは諸君。Ahead Ahead Go Aheadだ!!』
 兵舎ガーデンから成る4小隊、総勢42機のガーデン隊長代行、鈴葉・シロウ(ga4772)の号令に応え、各機が一斉に攻撃布陣を取り迎撃するのだった。
「敵を貫く疾風となれ――ではなく、なるっ!! ってあら?」
「敵に味方の剣が届くまでの時間、稼いでみせます! えっ?」
 KV達が一斉に布陣の動きをみせる一角で、正面あわせになった機体があった。
 予め打ち合わせられた陣形の位置へ移動する僚機にならい、智久 百合歌(ga4980)とリゼット・ランドルフ(ga5171)も配置につこうとした時、お互いが同じ位置を取ろうとして思わず機体同士で顔を見合わせる。
「あら、どうしました?」
 それを、すぐ後ろの配置にやってきた壬影(ga8457)とラルス・フェルセン(ga5133)が事態を察する。
 大所帯ゆえに起こったミス。陣形配置の番号を間違えて覚えていたのだ。
「リゼットさん、こちらに来てください」
 ラルスの言葉に短く頷き、リゼットは陣形と動きを修正してその位置につく。
 部隊の連携を重視する。
 ガーデンにおける、その徹底した指示はこういった突発的な事態でも、スムーズに働いたようだ。
 即座の対応で、【ガーデン・ガーベラ】小隊は他のガーデン3隊に遅れること無く進軍を開始した。
 他の傭兵達の乗るKVもそれに続き各々の持ち場へと散っていく。
 その後方を正規軍の重機が固める。
 
 そして程なく――両軍が激突した。

●撃ち貫く光
 重機が地面を揺らし、砲撃が敵の前面で炸裂する。
 質を勝る、量。
 それは、UPC正規軍の基本戦術と言えた。
 能力者は決して多くない。少なくともバグアの兵力全てに対応出来るほどは居ないのが現状だ。
 KVを巧みに操る者が少なくても、戦車を数台揃えれば同じだけの火力を出せる。
 しかし、やはりKVの様に機敏に動いたりする事は出来ない。それ故に、『不得手』を埋めるのが戦略であり、戦術であると言えた。
 能力者としても、正規軍の存在は大きい。――だからこそ、彼らを活かす事も重要なのだ。
 
 最前線の花形よりも裏方の燻し銀を狙へ。
 それが小隊【Infantry】の選んだ戦場だった。
「塹壕は有効だったようです」
 砲撃を撃ち放ったばかりの対戦車砲を構えたまま、常世・阿頼耶(gb2835)の乗るKF・HA−118が成果を報告する。
 塹壕を幾重にも掘り、そこから一方的な弾幕を張る。これにより、戦車に到達する前に、キメラ達を蜂の巣にして寄せ付けない。
 たった3機の小隊ではあるが、彼らの掘った塹壕を使い多くの傭兵達が同じ様に弾幕を張っている。
 お陰で戦車付近まで到達したキメラは少なく、被害は抑えられ。結果として戦車からの援護射撃も減らず、敵を退ける力となって傭兵たちの戦果を後押ししていた。
 やや近くまで突撃してきたキメラの攻撃が、傍で炸裂し地面を揺らす。
 しかし、次の瞬間にはライフル銃で頭を撃ち抜かれ、崩れ落ちる。
「私達だけの成果ではない」
 答えたのは、応戦する戦車の砲撃音の中でもよく通る声。ライフル銃の再装填をした彼女は、同じ隊で元陸自出身の井筒 珠美(ga0090)だ。 
 直ぐ横で綿貫 衛司(ga0056)も大型のキメラへの攻撃の手を休めずに、同意する。
 巨大なキメラは、耐久力に優れていたようだが、他の塹壕からも掩護攻撃が加わり、巨体を他と同じく大地へを鎮めさせる。
 足元に空の薬莢がばら撒かれ、ガトリングの再装填のタイミングを計ろうとした時――それは起きた。


 一瞬の眩い閃光――そして、衝撃と熱波。


「きゃあぁぁぁあぁぁぁ!!」
 その衝撃は、歌声を戦場に届けていた【ヴァルキュリア】小隊の元にも届いていた。
 隊の前面で壁役を買って出ていた結城ハニー(ga5427)の、黒と銀でカラーリングされたバイパーが大きくひしゃげる。
 更に、先陣を切っていた隊長機も相手をしていたキメラごと巻き込まれる。あまりに不意だった為、咄嗟に対応が出来ない隊長機を、その直ぐ側で直衛していたXN−01がその身を挺して割り込み庇う。
 衝撃をモロに受けた機体は悲鳴をあげ、装甲が砕け、片腕が吹き飛んだ。
「イザベラ!」
『‥‥だ、大丈夫‥です』
 直ぐに事態に気が付き、駆け寄って傾く機体を支えた隊長機――シェリー・ローズ(ga3501)の呼びかけに、大道寺イザベラ(ga4684)は辛うじて音声のみの通信を返し応えた。
 駆動系の他、あちこちにダメージがあるようだが幸い声色はしっかりしていて生命に問題は無いようだ。
「状況報告を」
 イザベラの無事を確認した隊長は、即座に冷静を取り戻すと、小隊内の通信回線を開き指示をだす。
『これは‥‥グラナダ要塞からの拡散偏向プロトン砲です!』
 物陰で被害を免れ、情報をかき集めたレベッカ・ジュール(ga7039)が報告すると、同時に全員がそのデータを共有する。
「この距離で撃ってきたって言うの‥‥?」
 思わず呟いた安藤 有希(ga4898)の言葉に、改めてモニターに映された上空からの計測データを見る。
 これまでの沈黙を破り、グラナダの要塞から発射されたプロトン砲の砲撃は、周囲のキメラごと彼女達を吹き飛ばしたのだ。それも、当初の予測より遥かに長い射程範囲を見せつけ炸裂していた。
 ――もう一撃直撃したら、もたない。
 プロトン砲に巻き込まれたキメラも、ぽっかり空いたこの場所へ殺到するのも時間の問題だろう。
「一度下がって、態勢を立て直すわ。それと――後退中も、歌えるわね?」
 アルトの声を持つ女王の言葉に、歌姫たちは力強く応える。

『はぁーい、現場のるゅににんにゃもし。ご無事ですかー?』
 そこへ、甘ったるさを感じさせる通信が入る。
 見ればそこには、同じ戦場放送という舞台で戦う事を選んだ部隊、【FM−Rev】のルュニス(ga4722)と早坂恵(ga4882)の機体が立っていた。
『一度下がるのなら、掩護しよう』
 被害の出た一般部隊の状況を受け、救援のニュースを流さなければいけない。だが、被害報告だけでは士気は上がらないというもの、それに対して歌姫の果敢な姿は正に『うってつけ』と言えよう。
『歌ってもらえるか』
「‥‥勿論よ」
 この歌が誰かの心の支えとなるのなら――
 この声が枯れるまで、戦いは終わらないのだから。

 その言葉にルュニス達は、放送とのリンク準備を手配する。
 間もなく連絡を受けた、FM−Revの戦闘担当が歌姫の後退をフォローすべく集結するだろう。
 ――人類は確かに、踊らされたのかもしれない。
 恵は思う。
 だが、終わらない曲は無い。
 だから自分で踊る為のダンスナンバーは、自分たちで決める。
『私達は踊らされるだけの存在ではないと奴等に教えてやろう!』

●地を這うもの
 その頃、プロトン砲の影響を回避した小隊【咎人】は、ある異変に気が付いていた。
「さて‥‥お出ましになるようですよ」
 小隊内と『嵐』に参加している友軍からのデータを受け取り、情報網MDに流していた蓮角(ga9810)は何処か嬉しそうにも聞える様子で通信を飛ばした。
 作戦名『嵐』
 弾幕による制圧と近接戦闘を効果的に広げる事で、戦線を面として引き上げ隙間無く『地殻計測器』を設置していく作戦。
 そして彼が見張っていたのは、――地殻変化計測器の変動値。
 敵はプロトン砲に続いて畳み掛ける事で、此方の動揺を誘いたかったのだろう。
 だが、
「残念だったな――警報と予測出現位置、確認!!」
 隊長・藤村 瑠亥(ga3862)が不敵に笑みをこぼし僚機に注意を飛ばし、自機の操作パネルに指を滑らせる。と、ほぼ同時に大地に突如大穴が口を開く。
 ――アースクェイク。
 レーダーでは捉えられない地中を自由に移動し、その巨大な口でKVごと飲み込む脅威の敵。
 だが、存在を予測し地殻変化計測器を広く展開した傭兵達の前ではその能力も大きな意味を成さない。
 邪魔なキメラを叩き伏せつつ、アースクェイクに警戒しなければならない。だがそれも、情報網MDの存在により易々と出現ポイントを予測される。
 もはや、脅威は脅威ではなくなった。
 予測地点では情報を受け、即座に上空へ、または後方へと退避し、その被害を最小限に食い止める。
 そして顔を出した所へ、周囲からの猛攻を受ける一方的な展開が繰り広げられていた。

 その中で、特にアースクェイクへの攻撃を買って出ていた小隊があった。
「地面の下は蟻の天下だッ! 汚いツラして徘徊するなッ!!」
「地中の主は芋虫だけじゃないってことを教えてやります!」
 塹壕を飛び出し、弾丸と熱い怒号が飛ぶ。彼らの名は【ガンアンツ】小隊。
 蟻を名乗る以上、この戦いを譲る訳にはいかないというものだろう。
 アースクェイクが出現した報告を得ると、その撃破の優先順位を上位にした彼ら。攻撃の為にアースクェイクが顔を出し、彼らはその目標が再び地中へと潜る事を許されなかった。
 アースクェイクへの対策を中心に作戦を立てて来た彼らの動きは的確だった。
 彼らの
 装甲を貫く滑腔砲の徹甲弾が、
 無数の銃創を刻むバルカンが、
 弾幕を炸裂させるガトリングが、
 そして、空を裂き6連装ロケットランチャーがアースクェイクへと吸い込まれ、鉛の雨が降り注ぐ。
 集中砲火の弾幕にアースクェイクは悲鳴を上げるように大きくのたうった。
 そこへ、がら空きになった顎下へ皇 千糸(ga0843)の操る雪村が突き刺さる。
「―――――刺し、穿つ!」
 切っ先が上顎を貫き払った時には、確かな手応えを感じて、千糸はその場を離れた。
 地へと屈服したそれはもがく様に暴れるが、やがては動きを止める。
 制した蟻は高らかに銃器を振りかざす。
「我ら銃兵蟻! 地べたを這いずり、敵を撃ち抜く!」
 隊員達の言葉に、改めて名への誇りを認識させられたかもしれない。
 比留間・トナリノ(ga1355)は強く頷くと、隊員の乗るKVを顔を見て労うようにした後、次の目標への号令を出した。
「そうです、蟻地獄に立ち向かう蟻だっているという事です!」
 彼らは装備の点検をすると、次の目標へと進軍を再開した。
 さぁ、銃兵蟻の名の下に、奴らの顎を食いちぎれ!

●持久戦
 姫君達の歌が、FM−Revのチャンネルで流れている。
 そして戦う彼らを支えるべく、もう一つの戦場に身を置き戦う者たちが居た。
 燃料の補給、弾薬の補充に人と重機が行き交う、前線に程近い後方の臨時の補給地点。
 整備士は補給に留まらず、あちこちに運び込まれる破損したKVの補修に追われ、損傷した乗り手、一般兵への手当て等に奔走する。
 まさに人海戦術の戦場といえる。
 持久戦の様相を呈してきた今、整備補給へ尽力した【EGG】もまた影の功労者と言えよう。
 正規の整備兵と連携した彼らの手によって、再び戦場へ戻り戦果を上げた機体が確かにあるのだから。

 整備兵と共に後方のメンバーが新たにKVを見送った頃、前線はじりじりとした一進一退を続けていた。
 いまだプロトン砲の閃光は止まず、一般部隊――取り分け小回りの効かない戦車への被害は大きなものだったが、直接要塞に空爆へ向かった仲間を信じ、戦線は維持しつづけられる。
 それは一般部隊も、傭兵部隊も変わらなかった。
 キメラ自体は、KVが集団でかかればさほどの脅威ではない。しかし、倒しても倒しても波状に襲い来る事と、蓄積する消耗は馬鹿に出来るものではない。
 だが、この戦場においての最大の傭兵小隊の層の厚さは、正面突破を受け止めて跳ね返すに十分な厚さであった。
「各機、攻撃開始! 豪華絢爛…舞踏会はまだ終わりませんよ!!」
 鹿嶋 悠(gb1333)の号令で、ガーデン旗下の左翼【ガーデン・デイジー】がキメラの集団を飲み込んで屠る。
 後衛の射撃掩護が無数に放たれれば、前衛が傷ついたキメラを確実に落とす。
 ガーデンは、最大規模ゆえにプロトン砲の影響も懸念されたが、ローテーションを巧く組み負傷兵を立て直しつつも戦線を維持し続けていた。
 それでも、初期に戦線を広く押し上げた為全てがガーデンの様に優勢という訳ではない。
 アースクェイクは既に全て沈黙したのか、質で劣るキメラは数に物を言わせ突っ込んでくる。
 小さな部隊等は、流石の長期戦には耐え切れず後退する程ではあったが――
「これよりわたし達は戦線の穴を埋める! ディアブロ隊突撃!」
 連携の取れたKVが十数機、割り込むと陣形を取ってキメラ達を押し返す。
 クリス・ディータ(ga8189)率いる【T−ストーン】小隊が後退した穴を埋め、弾幕の雨を降らせたのだ。
「演説は内容はアレだが服のセンスが雰囲気をぶち壊しにしてるな‥‥」
 トリガーを引きつつも、ぼやき仕事をする風間・夕姫(ga8525)に、何言ってるのと笑う御凪 由梨香(ga8726)はディフェンダーを閃かせ、地面を蹴る。
「暴れ回るよー♪」
 そう言うが早いか、キメラへ突っ込こむ由梨香を見ていた後方の仲間から、感心とも呆れとも取れない感嘆符が漏れる。
 彼女によって、キメラ達は次々と倒されるがすぐに新手がやってくる。
「う〜ん、わらわらと椀子蕎麦風味‥‥。ま、淡々と掃除しますか」
 呟いたミリート・ファミリス(ga8694)は、仲間の為に言葉どおりライフルを構え掩護するのだった。

 むろん、大規模な小隊だけが活躍していたと言うわけではない。
 キメラの反撃に遭い苦戦する正規軍の元へ、一機のKVが助太刀に入るように敵集団へ突っ込んでいく。
 突如、助太刀した機体へキメラが群がろうとするも、すんでの所を後方から追いついてきた機体に撃ち払われる。
「‥‥」
「あまり無茶しないでください、何より大切なのは生還することですよ」
 無言の機体と、それをフォローする機体。夜坂桜(ga7674)と番 朝(ga7743)のようにペアで戦果を伸ばすものが居る一方、単機で参加した、ルイス・ウェイン(ga6973)のように友軍との連携を図る者の存在もまた、突破を阻む壁として大きな役割と果たしていた。
 
●一つの終結
 流石に多くの兵士たちに疲れの色が見え始めた頃。
 陸戦よりも先に開戦していた空戦の部隊から、ギガワームを退けたという一報が入る。
 通信網MDやFM−Revによってその知らせが全チャンネルで伝わるその前に、
 ――遠くで要塞のプロトン砲が黒い煙を上げた。
 この瞬間、大勢は決する事となる。
 残存のキメラ部隊が、最後の足掻きとばかりに突撃をしてくるが、だが勢いにのった陸戦隊がマドリードの司令部を見せる事を許すわけもなかった。
 ここに、グラナダ攻略作戦におけるマドリード防衛・陸上戦の終わりを見る。

 吹き抜けた風は、埃っぽさに加えて、血と硝煙とオイルの匂いを混ぜ込みなんとも生温かったが、兵士達に漸く一つの終結を感じさせるのだった。
<担当 : コトノハ凛>


<監修 : 音無奏、紀藤トキ、みそか>


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