MID NIGHT SUMMER
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8月7日の報告
7月30日の報告



●退却戦
「コルカタまでは後どれくらいだ?」
 銃弾の嵐の中、武林虎太郎(ga4791)のKVが地を蹴る。機体はあちこちがすす汚れ、損傷も目立ち――とはいえ、これらは全て本当の損傷ではない。模擬戦なのはもちろんだし、彼が自分でそれらしく塗装したものだ。
 映画的演出、映像の為にそういった気配りを心がける傭兵がいれば、そのすぐ近くではまた、演習である事を忘れたかのように白熱した模擬戦が繰り広げられている。
「敵の第一陣を発見したわ。蟹じゃないけど、みんな気を引き締めてね」
 瞬雷所属、篠岡 澪(ga4668)から発せられた言葉に、傭兵たちが視線を走らせる。
 そこにはバグアの先頭部隊が展開しており、ワームやゴーレムを従え、最後尾に喰らいつこうとしていた。
「出来ることをするまでさ、必ず護り切ってみせる!」
 突撃仕様ガトリングを抱える神崎 信司(gb2273)。
 セラ・インフィールド(ga1889)と九条院つばめ(ga6530)の各分隊に別れた上で、ガーデン殿部隊は敵の先頭集団に猛烈な弾幕を浴びせる。
「どうしたどうしたぁ! 豚のように逃げて俺を満足させてみろやぁ!」
 御門 砕斗(gb1876)の駆るKVが、ゴーレムを配下に引き連れ、彼らに攻撃を加える。
 いかにも悪役、といった感じの彼の攻撃の前にじりと後退する
 しかし次の瞬間、彼のゴーレム部隊は自身のKVもろとも集中砲火を受け、進撃を停止させた。
「さぁ、全力全開手加減抜きの時間です。レッツプレイ!」
「誰であろうと、人類の敵には容赦せんっ! 覚悟せよ!」
 鈴葉・シロウ(ga4772)が指示を下すと、彼らはわざと注目をひくような攻撃を加え、囮の役割を果たす。
 続けて、オットー・メララ(ga7255)がヒートディフェンダーを振るった。ガーデン殿軍セカンドだ。整然と一歩後退したガーデン殿部隊に代わり、バグアに対する前衛に立った。再びバグアから攻撃を加えられるとこれも受け流し、今度はセカンドが一歩後退――彼らの採った戦術は遅滞防御だった。
 他の部隊も様々に戦闘を展開しているが、同部隊は数が多い。
 自然、殿部隊全体の流れはある程度その動きに同調した。
「螺旋紅蓮隊、ここにありー!」
 槍ぶすまならぬドリルぶすまを展開する銀野 すばる(ga0472)ら螺旋愚連隊に、前回同様名乗りに悪戦苦闘するマジカル♪シスターズ。天道 桃華(gb0097)をはじめ、やる気はあっても度々邪魔が入る。ただそれは、バグア側にとっても同じ事で。
「粉砕! 爆砕! 大・喝‥‥のわー!?」
 しっ闘士☆督戦隊が一人、白野威 奏良(gb0480)が真正面から攻撃を喰らい、ひっくり返る。
「SESフルドライブ! 吶喊します!!」
 井出 一真(ga6977)が叫んだ。攻撃を加えたのは若葉の第弐部隊。飯島 修司(ga7951)が反撃を指示し、彼らはそれぞれの得物を手に反転攻勢に出る。隙が見えたのももちろんだが、バグア側の攻撃隊は、その攻勢を維持し続けるには数が不足がちだった。
「結果はどうあれこの戦い、終わりにしようか」
 十得・梨緒(ga0524)が呟く。
 影狼の眼前には、月狼の部隊が展開している。
「‥‥さぁ、仲間を連れ戻しに行くわよ!」
 紅 アリカ(ga8708)の指揮の下、月狼の分隊が展開する。
「この先に行く場所なんぞ無い。此処であんたらは終焉や!」
「これでひとまず幕にしましょうか」
 烏谷・小町(gb0765)や新居・やすかず(ga1891)が口にしたように、もはや戦闘は終息に向かいつつあった。 「余計な盛り上がりはもう不要なのかもね。これが‥‥」
「さて‥‥どう身を振るべきか。どちらにせよ、居場所はないんだがな‥‥」
 UPCの実力を見る為に離反したのだ、というのが楓姫(gb0349)の弁。既にバグア側で戦う理由も無いのだ。それぞれに思惑あって、今度は逆にバグア側から離反する者が相次ぐ。もちろん、鐘依 透(ga6282)が言うように居場所があるとは思えないが、そういう彼だって、故あれば寝返ってみせる人間だった。
 こうなれば、後はもうドミノ理論のようなもので、影狼をはじめ離反者が相次ぎ、バグア部隊の劣勢は覆しようもなくなった。

 殿での遅滞防御と時を同じくして、避難民の誘導、輸送も急ピッチで進められていた。ただ、どちらかといえば、避難誘導を実際に行うのは個人参加の傭兵や小規模部隊が中心であり、避難民には怪我をしていたり、車も無い徒歩の者も多く、そうした条件が重なり、効率的な避難誘導は難しい状態だった。
 とはいえ、避難民の中にはリーゼント三人組や女性を口説く者など、結構――というか案外のんびりとした光景も広がっている。
「まだ乗れますよ、他にはいませんか?」
 KVにそっとコンテナを抱えさせ、コルカタへ向かうエルネア・トゥフィード(ga8374)。
「指示に従って避難してください!」
「皆さん、えぇと、避難先は‥‥」
 避難誘導をしていた赤崎羽矢子(gb2140)の隣、鳳・歌織(ga1897)の肩を誰かが掴んだ。乗れと言うのは、紫藤 望(gb2057)だ。
「はう!」
 何かと首を傾げる彼女を捕まえて、望はリンドヴルムのエンジンをふかした。女子供を優先させて避難させるつもりだったが故に、おろおろとしていた歌織が間違わせてしまったらしい。
 ちなみにAU‐KVに一般人を乗せる場合、速度に気を払わないと重傷させるので気をつけよう。
「足が‥‥」
 足をくじき、座り込む麓みゆり(ga2049)。
 実際には傭兵の立場で標準的な避難民をやるのは中々難しい。心理や普段までを意識して、彼女は避難民を演じていた。そんな彼女へと襲い掛かる、大型のキメラ。そのキメラを蹴り飛ばし、ルード・ラ・タルト(ga0386)の金色のハヤブサが大地を踏みしめた。
「そっちは危ないぞ、こっちに逃げ‥‥ぎゃー!」
 悲鳴と共に視界から消えるKV。
 何事かと驚いたみゆりは、つい演技も忘れ、KVの消滅現場に駆け寄った。
「落とし穴‥‥?」
「‥‥マ、マントが無ければ即死だった」
 落とし穴の中には、『対クラブワーム専用巨大落とし穴』と書かれた紙が一枚。しかし、落とし穴を掘った犯人は、遂に解らずじまいだった。


●コルカタ防衛戦
 対するコルカタ周辺では、変わらず激戦が繰り広げられていた。
「どこからも抜かせはしないって!」
 UPC陸軍に扮する諫早 清見(ga4915)が、近づくキメラ目掛けてフットコート済みの蹴りを叩き込む。
 UPCは、次々と戦力を投入するバグアに苦戦を強いられていた。絶え間なく続く攻撃を前にしても、難民の列を晒す訳にはいかず、後退する事もできない。
「えぇい、近づけさえすれば‥‥!」
 ハンマーを振るうヴォルク・ホルス(ga5761)に追随し、ロッド・レイ・ビクシア(ga7744)が愚痴った。
 もはやこれまでかと覚悟した瞬間、ソードを振りあげたゴーレムが爆散した。
「間に合った!? ここは任せて!」
 グリク・フィルドライン(ga6256)改め、チェラル・ウィリンがブルーファントムを引き連れ、颯爽と現れる。
(え、演じきれ‥‥私‥‥!)
 当のグリクがガチガチに緊張しているのはご愛嬌。彼女らだけでなく、各地に展開する遊撃部隊が劣勢な方面に向かっては、人類側の劣勢を穴埋めして回っている。
「俺達の動きで少しでも戦況が打開できるなら‥‥やるしかない!」
 ブラックアサルトの剣野勇斗(ga8350)がゴーレムの肩を掴み、ゼロ距離射撃を浴びせる。彼らの後方には難民を運ぶKVやUPC軍の車両が急ぎ足に駆け抜けている。そして、各地でUPCの活躍に守られた難民の先頭が、今コルカタに達しようかというまさにその時だ。
 その途上に、黒い影が現れた。
 コックピットから姿を見せたのは、ゲオルグ・シュナイダー(ga3306)‥‥ではなく、一応佐渡京太郎。イエローマフラーの面々だ。
「京太郎って‥‥髪の毛しか同じじゃないじゃないか」
「再生KV怪人マッホー。ロンゴミニアトでおお暴れだ!」
 いまいち乗り気でない者もいれば、ノリノリな者もいる。熊谷真帆(ga3826)もそうだ。
「本当にやりたい放題ですね‥‥」
 夕凪 沙良(ga3920)が呟く。バグアの攻撃に急行したのはフェニックス隊だった。設置した罠は生かせないが、状況が上京ゆえに止むを得ない。周辺には、既に傷つき、不時着したKVもある。難民だけでなく、彼らを放って置く訳にもいかなかったからだ。
「中身が何であれ‥‥守る事には‥‥ここは‥‥通さない‥‥」
 名前の割に強気な表情を見せる夜羽 ハク(ga8230)。
「助かりました‥‥」
 KVから通信を送るシエラ・フルフレンド(ga5622)。
 が――UVAと書かれたKVマントの影から、彼女は、突然にスナイパーライフルを取り出した。
「‥‥な〜んて、嘘ですよっ♪」
 その言葉を合図に、損傷していたKVが次々と武器を手に機体を起こし、周辺のUPCへ奇襲を仕掛ける。
「撮影とはいえ手を抜く訳にはいきません」
 上空から降下するレヴィア ストレイカー(ga5340)。彼らの部隊が画策したゲリラ戦術は見事成功した――かのように思えた。
「なっ!?」
 コルカタへのルートを遮断したバグア軍は、突如として後方を襲われた。
「いやーん!」
 姫川ミュウ(ga4713)は反撃する暇もなく機体を貫かれ、爆発とともに衣服がやぶけて放り出される。何事かと驚く避難民達。そんな彼らの周辺に、多数の煙幕弾が打ち込まれる。
「ワシらの事は置いていけ! 安心せい、弾が尽きるまでは持たしたるわ!」
 時雨・奏(ga4779)が模擬弾を辺り一面にばらまき、にやりと笑う。
 コルカタへのルートを塞いだバグア軍の後方を強襲したのは、前回の早くから都市へ入り、陣地構築に全力を掲げていたガンアンツだった。
「うっうー! ガンアンツ総員、砲打撃戦用意!」
 低空から進入し、変形、土を撒き散らせて着陸する比留間・トナリノ(ga1355)の雷電。
 更には、彼らの攻撃に同調してガーデン先行部隊が動き始めた。
「道は俺たちが切り拓く。安心してついてきて」
「正面は引き受けましょう!」
 神撫(gb0167)が避難民の前にKVを着陸させ、レン・ヴィアータ(ga8843)が民間人を巻き込まぬよう、ウォーサイズを手に突出した。UPCの建てた作戦が的中したのか或いは監督の演出か。UPCはバグアの裏の裏をかき、見事に挟撃体勢へと持ち込んだのだ。


●迂回奇襲
「全機続け‥‥奴らの喉を噛み千切る‥‥」
 不破 梓(ga3236)らAstraeaの3機が、山腹を飛び越えて姿を現す。
 バグア軍も、少なくない部隊が正面での衝突を避け、迂回しての奇襲を試みていた。中には忌咲(ga3867)のHW(もどき)のように、フレア弾を搭載した機体まである。
「一人でも多く道連れに‥‥」
 ナスカのKVから、ミサイルが放たれ、陣地に着弾した。
「よし、殿に向か‥‥何だ!?」
 ソーディアスの編成を整えたライアン・スジル(ga0733)が、異変に首をひねる。
 敵発見の報告が駆け巡る中、最も早く対応したのはT−ストーンだった。
「皆‥‥いくよっ! 突撃っ!!」
 クリス・ディータ(ga8189)の指揮の下、T−ストーンの前衛を担うディアブロ各機が戦闘態勢を整えた。
「最後くらいは派手に行きたいところだな、と‥‥」
 先陣を切り、ハンマー一本を振りかざすアルト・ハーニー(ga8228)。
「はいはい、真面目にやるわよぉ」
「援護開始、あたったらゴメンね!」
 同隊のバーバラ・シャン(ga8206)や、他部隊の八界・一騎(ga4970)といった者からの援護射撃を受けつつ、ディアブロら前衛部隊は、敵奇襲部隊の迎撃に突貫する。高い突破能力を発揮した一斉攻撃ではあったが、バグア側がかなりの戦力を迂回や奇襲に投じていた事もあり、UPCにとっても優勢とは言い難い状況が続く。
「殿方面は優勢のようですが、都市部に――」
 夏 炎西(ga4178)と通信をとるメアリー・エッセンバル(ga0194)。
 バグア軍を挟撃したガーデンとガンアンツは、戦場における攻勢を維持していた。都市へのルートを塞がれている為に難民は未だ足止めを食っていたが、挟撃下にある敵に、戦場を覆すだけの戦力は残されていない。
 この方面における戦いは、UPCの完勝に終わるかに思われた。
「ルピナス6より各機へ、本機は是より――」
 夜十字・信人(ga8235)の言葉に、メアリーはひょいと通信画面を覗き込む。
「亡霊に戻る」
 直後、彼女の機体が衝撃に襲われる。
 隊長が沈黙する。ガーデンの指揮系統に乱れが生じた。
「味方内に敵反応‥‥く、またか‥‥」
「うろたえるでない! デイジー隊は戦線を維持するのじゃ!」
 しかし、一度生じた混乱は抑え切れない。その隙をついて離脱する包囲下のバグア軍。
「ちっ、時間切れだ‥‥!」
 アスレード役の須佐 武流(ga1461)が舌打ちひとつ、地を蹴る。スリーカードといった工作員達も、これをチャンスと混乱に乗じて姿を隠す。逃がす訳にはいかないと、それでも何機かのKVがバグア軍や信人の背後を認めて追撃するものの、今度は側面からの攻撃に足を止められてしまう。
「さて、さくさくいきますか」
 デューク フラガ(ga4792)と沢良宜 命(ga0673)の二人が、その撤退を支援する為、追撃機を牽制しつつ並んだ。
「何を遊んではるん‥‥目的は達したんやから、早う離脱せな」
「ふん‥‥」
 激戦が繰り広げられる中に生じた混乱。
 そうなれば当然、その隙を狙う輩も現れる。
 先の戦いで人類を裏切った8246小隊だ。戦力を温存していた彼らはリディス(ga0022)の指揮の下、ブーストで一気に接近。難民がまだ都市に到達していない事もあって、構築された陣地に向けて無制限に火力を発揮する。
 しかし――一度裏切った者達を捨て置くほど、人類は甘くなかった。
「その裏切りの対価‥‥高くつくわよ」
「裏切り者には制裁を‥‥ってね‥‥」
 この時を待ちわびていたのは、8246小隊の一部に、夜修羅、チームG・Lらの面々。
 裏切り部隊を取り囲み、一気果敢に攻め立てる。
「こんな‥‥こんな‥‥」
「戦場で向かい合ったからにはすべき事は1つでしょう?」
 中には説得を試みる者もいたが、多くはまったく耳を貸さない。
「あいつはここで食い止める‥‥」
 桜崎・正人(ga0100)の構えたボウガンから矢が放たれた。
「おいしいところは譲るから、しっかり決めて来いよ?」
 呟く水葉・優樹(ga8184)。3.2cm高分子レーザーの銃口が輝くと、矢を避けたリディスの脚部が爆発炎上し、機はぐらりと揺れる。更にはカウンター覚悟の佐間・優(ga2974)の攻撃を無理やり避けたが為に、その背後に大きな隙が生ずる。
「ここでお前を討ってみせる! 俺達の手で!」
 ブレイズ・カーディナル(ga1851)のKVが、躍り出た。
 ブースト状態のKVが捨て身の一撃を仕掛け、リディスのKVを真っ二つに切り裂き――直後、爆発した。
「ざぁ〜んねん、今回はここま‥‥」
 言いかけたレイラ・ブラウニング(ga0033)の機を、イレーネ・V・ノイエ(ga4317)のスナイパーライフルD−02が貫いた。
「古今東西裏切り者の末路は‥‥死だ」


●コルカタへ
 少女に向かったミサイルを前にKVのマントが翻る。
「全く‥‥こういうのは柄ではないんだがな‥‥」
 藤村 瑠亥(ga3862)の呟きに重なって、弾幕が視界を覆った。
 雪風各機による一斉射撃だ。民間人のコルカタ入りは未だ適わず、逆撃を狙おうにも、彼らはゴーレムやキメラの群れを前に足止めをくらっていた。
「‥‥獣には獣の戦い方ってものがあるんだよっ!」
 敵陣中央に切り込み、片っ端から切り結ぶ鷹代 朋(ga1602)。
 しかし敵の数は多く、ひとつふたつ潰したところで焼け石に水だった。要所要所の各戦線ではUPC優勢で戦闘が推移していたが、UPCには避難民を守らねばならないという『脛』がある。対するバグアは難民だろうとUPCだろうとお構いなしに攻撃を仕掛けられる。
 決定打を欠いたまま、人類は苦戦を強いられていた。
 一機、また一機と撃ち減らされていくUPC。
「このままではジリ貧だ! 援軍は、援軍はまだなのか!」
 サルファ(ga9419)は悔しそうに歯噛みした。彼ら白銀の魔弾や、蒼穹武士団、自由なる疾風といった各隊も既に満身創痍で、これ以上支え続けるには無理がある。
「くそッ、ディスたんでも駄目か!」
「早く後退しろ! 新調した機体を棺桶にする気か!」
 鬼非鬼 つー(gb0847)を庇い、前に飛び出すカララク(gb1394)。
「回避‥‥作動しない!? ここまでか‥‥ッ」
 そのまま彼の機体は上半身を吹き飛ばされる。
 上空から現れたのは、アイロン・ブラッドリィ(ga1067)のKVだ。バグアに撃墜、回収された機体が、今度は敵として現れた。
「これは‥‥!」
 明らかに反応の違うその動きを前にして驚く傭兵達。
 それも、彼女のKVは並み居る傭兵達の全てを無視し、難民の列へ目掛けて攻撃を仕掛けている。
 ――突然、場違いにも思える音楽が響いた。
「みんな〜、私の歌を聞いて〜っ! ふ〜かからのお願いだよっ」
 雪村 風華(ga4900)の言葉に、上空を見上げる。
 IMPだった。IMPが、KVに大型のスピーカーを取り付け、大音量を響かせていた。バグア側のゴーレムや先のKVはぴくりとも反応を示さないが、傭兵達は人間だ。音楽が流れれば、耳に入る。
「よぉし、こうなったら!」
 スピアを引き抜き、アイロンの前に立ちはだかる近藤勇美(ga6548)。勇美の攻撃を受けて鍔迫り合いになったその合間を縫い、レア・デュラン(ga6212)の放ったライフル弾が空を切る。
「――覚悟は決めたんですから‥‥! ぼ、ボクも逃げてばかりじゃありませんっ!」
「いい気になり過ぎさ!」
 続けて、風宮・閃夏(ga4632)が斬り付けた。
「これで‥‥開放され‥‥」
 言葉は最後まで続かない。方々から連続した攻撃を受け、アイロンのKVが爆発する。
 だが、傭兵達の反撃もここまでだった。戦力を使い果たし、第何派になるのかも解らないほど攻撃を受け流し、彼らは限界に達してた。これ以上はもたない、かくなる上は、避難民を逃す為、決死の覚悟で強行突破を――誰もがそこまで考え始めていた。
 しかしどうした事か、もはや限界となった彼等を捨て置き、バグアの軍勢はじりじりと後退を始め、終には全軍撤退していったのである。
「何故‥‥」
 桐生院・桜花(gb0837)が首を傾げる。
 ややして、彼ら陸軍の元に、空軍から一通の通信が届けられた。
 

 <担当 : 御神楽>


【第二回カニイベ】
 蟹‥‥いや、ギガンプ‥‥ゼラス(ga2924)命名‥‥の内部へと侵入する傭兵達。しかし、その周囲にはまだ相当数のヘルメットワームが残っており、また洗脳された傭兵達さえ布陣していたこともあって、辺り一帯の空域には総勢1000機近い飛行物体が浮かんでいた‥‥。
「それでは、私も、接近してみたいと思います」
 その姿を『緊急速報FM−Rev』とペイントされた機体に乗った影守・千与(ga4725)がレポートと言う形で映していく。カメラ担当の蛇穴・シュウ(ga8426)が俯瞰で戦いの全体図を、視聴者に余すことなく通達していた。
「しっかし、撮影の空気してねぇ奴等が多いな……カメラ入んぞ! 道開けとけよ!!」
 千与の機体に併走するようにして、そう声高に告げる柊神・祢於(ga4633)。事前にカメラが入ることを、傭兵達に告げている筈なんだが、彼らはきっちりと小隊を組み、陣を敷き、人を配している。あちこちであがる白煙は、信管を抜いているにも関わらず、結構な衝撃を施していた。おそらく積極的に挑んだ者達は、挑みすぎて怪我をしている者もいるだろう。脆い機体なので気をつけなければと思いつつ、彼はゆっくりとギガンプの中へと侵入していくのだった。
「カット! じゃあ次、ワーム内部行きまーす! ただ、外側も撮るんで、外の演習部隊も覚悟しててくださいねー」
 画面が切り替わり、KVのアクセスロットにカメラをねじ込んだM2(ga8024)が、各傭兵部隊へとカメラを向けた。ごっつい衣装に身を包んでいる者や、蟹の張りぼて準備中の者、さらに自前の武器に磨きをかけている者など、傭兵達も準備とメイクと衣装に気合を入れている。そんな彼らを『撮影』の腕章付けた腕で、カメラを担ぎ、彼は緊迫する蟹の内部へともぐりこんでいた。カメラが一台では足りないので、同じ404隊にいたネヴァン(ga7635)が、UPCの制服を着てKVにカメラを搭載して追走する。彼らがまずそのレンズを向けたのは、蟹の奥に鎮座するバグア達だった。
「ボス。能力者どもがワーム内に進入いたしました。ですが、ご安心を。つい先ごろ、秘密兵器が完成いたしました」
 妖しいフラスコ香る部屋で、そう言って頭を垂れる白衣姿の藤田あやこ(ga0204)。幾重にもヴェールをたらした向こうに鎮座するバグアのボスに、後ろに並んだ5人を紹介する様は、まるで悪の天才科学者だ。
「さぁお前達。行って、バグアに花咲く真紅のあだ花、ドクターアヤコの名を、未科研の連中に知らしめてくるのですわ! をーほほほほ!」
 高笑いするあやこ。その高笑いに見送られるようにして、5体の影は、音もなくその部屋を後にする。
 暗闇で覆われる画面。そこに、ゴールデン・公星(ga8945)の提供したテンポの良い曲が響き、ナギ(gb0978)の乗った機体が、その闇を切り裂くかのように駆け抜ける。その軌跡はCTSの文字となり、闇を赤く燃え上がらせていた。
 白い灰が画面を染める。そのフェードアウトが開けた時、見えたのは蟹の外側で激戦を繰り広げる数多くの部隊だった。それもその筈、8割の部隊は大真面目に演習をやっているのである。中には山田ヨネ(ga8471)のように、行動力を落としつつ撃墜を狙ってみたり、エリザベス・シモンズ(ga2979)のように、アフリカからの敵を警戒していたりもした。そうして、あちこちで派手な消耗戦を繰り広げる中、カメラは再び蟹の上へとその映像を落とす。そこでも激しい戦闘が繰り広げられているらしく、あちこちで白煙が上がっている。その中にゆらりと現れる5つの影。
「露払いは私が!」
 そこへ、シャレム・グラン(ga6298)が避けろとばかりに全弾を撃ち込む。ミサイルがまるで納豆のように糸を引きながら、四方八方へと襲い掛かる。だが、同じ様に付き合いで撃ち込んだ大和長門(ga7140)に、影はその弾をはじき返して血祭りに上げていた。
 だがそこへ、
「おのれ、何者だ!」
 シャレムが激昂するように叫ぶと、その5つの影はまとっていたマントをばさりと脱ぎ捨てる。現れたのは、パッショーネ小隊の演じるバグア四天王とそのメイド、ライサ・フォッシュ(ga7179)だった。
「私はバグア四天王の南の王だ。南国トロピカルフルーツ爆弾で楽園気分で逝け」
 と、フローシァ・アベノチカ(ga7175)
「私はバグア四天王西側の王だ。ニューヨークへキテクダサーイ♪」
 と、ミリセント・ウイレム(ga7177)
「私はバグア四天王東の王。この労働者ロケット砲で粛清デース!」
 と、ニナ・ライト(ga7178)
「私はバグア四天王北の王だ。このブリザード攻撃を受けてみろ」
 と、メシー・フローネル(ga7174)。
 と、その瞬間だった。
「はーーーーーっはっはっはっはっは!!! 華麗に蟹パーティーさ!!」
 天空から響き渡る高笑い。見れば、金色のふんどしに金色の鉢巻きを纏った七瀬 帝(ga0719)が、UKを従えて強襲するところだった。そのUKから、他のKVが続々と出撃してくる。その中の1人、レーゲン・シュナイダー(ga4458)が『☆蟹工船☆』と派手な大漁旗を掲げ、蓮沼千影(ga4090)の飛行形態KV上に人型KVで仁王立ちとか……物凄いバランス感覚である、
「空の漁師の生き様をよッく見ておきな! 蟹の土手ッ腹に風穴開けてやろうじゃないか!」
 彼女はそう言うと、いきなり主砲をぶっ放した。白い光線が飛び散り、四天王が逃げ惑うと、足元の艦長殿がこう叫ぶ。
「皆、内部に突っ込め! 蟹味噌ゲットだー!」
 こうして、バグア軍への強襲が行われた事により、ギガンプは内外ともに激戦に追い込まれていく。フローシァが、ウクレレを弾きつつUKにビタミン豊富な椰子の実爆弾を投下し、まったりとした脱力感溢れる攻撃をばらまけば速攻標的にされ、ミリセントが星条旗柄に塗装したKVで登場しUK「ぷち女神砲」で狙撃する。しかし、整備不良の為か、ごつい口径のロケット砲を積んだ真紅のKVを持ち込んだニナごと爆死。その間に、氷の結晶を纏ったような衣装のフローネルがUKの窓を狙うが、逆に熱湯を浴びせられて退散していた。
「わ、わたしはバグア四天王の…えーん許してくださーい」
 残ったライサ、どういうわけかビキニ水着姿になって土下座中。そんな四天王の変わりに現れたのは、オラトリオ隊の演じる子蟹達だった。
「いっくよー!」
 目には目を、蟹には蟹を! という訳で、蟹型装甲を付け参戦した弓亜 石榴(ga0468)が泡ビームと称する射撃をぶちかます。
「やられたら蟹ミソ出ちゃうぞ! 気をつけろ!」
 なんぞとカメラに向かって叫んでいるが、その割に使う弾は実弾だったりする。ちなみに速攻で退場を食らった。こうして激戦の模様が写され、背後ではそのBGM代わりに兎佐川・芽衣(ga4640)の歌声が響いている。
『絶望の闇今切り裂いて 羽ばたけ 騎士の翼よ』
 だが、その絶望を体現するかのように、真紅に塗ったユーリ・クルック(gb0255)の機体が現れる。ステアーによく似たそれには、補助席の部分にエレナ・クルック(ga4247)が乗っていた。
「君がいなくなってくれた方が能力者達が死に物狂いになってくれるのでね、落ちてもらうよ・・・ユニヴァース・ナイト!」
 性別的に無理があるらしいのだが、変装の名人と言うことで男装し、引き続きジャック・レイモンド役をやっているようだ。彼女の号令で場は一気にシリアスへと変わり、空に浮かんでいた傭兵達が次々と襲い掛かる。
「道は俺がこじ開ける!! 後は任せた・・・うおおおおおおおおおおおおぉぉ!!!!!」
 叫びながら、フレア弾を投下する鮫島 流(gb1867)。爆炎が上がるその中で、バグアの反撃は後ろから来ていた。
「何っ! どうして!」
「くくく。貴様の隣にいるのは、敵か? 味方か? 貴様らは中から崩壊する!」
 どうやら紛れ込んでいたスパイの1人だったらしい。意味ありげに笑って、UPC軍に混乱を引き起こす絵上 望(gb0646)。
「…目を負傷しました…誘導してください。敵まで」
「えぇぇぇ!」
 その裏切りにより、手痛い被害をこうむる憐(gb0172)。
「左…少しずれた、ちょい右……そのまま真っ直ぐ…」
 その彼女の願いに、泣きながら誘導すクリア・サーレク(ga4864)
 こうして、遅々とした速度で蟹の隔壁を強襲する能力者達。だが、バグア軍もただ迎え撃っているわけではなかった。
「きゃは☆悪い子ちゃん、馬鹿ね〜♪」
 ミッシング・ゼロ(ga8342)が楽しげにそう言って、各地に仕掛けた罠を発動させる。その多くは人を生け捕りにする。捕らえた人員はオブシティン・バールド(gb0143)が洗脳し、即席のスパイに仕立て上げていた。
「ふぅぁはははははは! BSアンテナのお陰でバグア軍に操られてるぞぅ! アンテナ壊すなよ!」
 自分で言ってちゃ世話ないが、負傷した所をバールドのワームで鹵獲された寿 源次(ga3427)が、KVの頭にパラボラアンテナみたいなのを取り付けて、暴れている。念の為に言うと、BSは衛星放送ではなくバグアスタイルだ!
 そんな即席スパイ達に次々と捕まってしまう傭兵達。集められた彼らは、久野 凪(ga5321)の手によってヴァルキュリアーズに連行され、薔薇将軍シェリー・ローズ(ga3501)が奏でる呪歌で動きを鈍らされながら、公開処刑場へと送り込まれる。そこでは、十六夜 勇加理(ga4677)がTVカメラのようなものを回し、中継がかかっているように演出されていた。
 だが、あわやギロチンの刃が下ろされようとしたその刹那、その手を弾き飛ばす一本の薔薇。
「何!?」
「残念ながら、そうはさせないよ。わが社は顧客を大切にするのがモットーでね」
 そう言って、薔薇を口に華麗な赤いマントの男装コスプレで現れる神崎・神無(ga1871)。どうやらカプロイア伯爵役らしい。彼女は、CGで壮麗に武装したKVのマントをばさりと翻し、合図を送る。と、バグア側のカメラがいっせいにスパークを起こしていた。
「UPC全軍に通達。ギガンプの制御系を掌握します」
 まるでカメラを逆回転させるかのように、超高速で回復するCGを合成した姿で、蟹の上の須磨井 礼二(gb2034)がそう言ってきた。何でも、竜の血で回復が早いと言うのを演出したいらしい。それと同時に、彼と同じくリンドヴルムを操る竜装騎兵隊が新品ぴかぴかの翔幻を手に、中枢部へと向かう画面へと切り替わっていた。
「認めさせてみせます・・・ドラグーンの有用性。軍にも他の能力者にもッ!」
 生身ではさほど強くはない自分達の体。それを補い、局地戦を可能にしたAU−KVの能力を最大限に広めようとする文月(gb2039)。幻霧と煙幕を発動して突入すると、KVでは入れない細い通路を通って司令部か動力部を目指していく。浮き足立ったのは『たそがれ』の軍勢達だ。
「えぇい、王はどこだ!」
「よくよく私は、気紛れな君主と契約したものだな……けど、それも悪くないか」
 巻き起こる爆音の中、エリク=ユスト=エンク(ga1072)が主を探して右往左往している横で、深いため息をつく柚皓 寛琉(ga8921)。どうやら王様、戦場で迷子中らしい。
 だが、その時だった。
「ポイントαに敵機出現!」
 UKオペレーターのヤヨイ・T・カーディル(ga8532)が悲鳴じみた報告をしてくる。その直後、通信機から漏れてくる発射音。エマージェンシーがかかり、ブリッジが慌てている姿が映し出される。その中心にいたのは。
「かかったな、アホめ!」
 因幡・眠兎(ga4800)が、UPCの制服を着たままヤヨイに銃口を向けていた。誰かが「裏切り者め‥‥」と呟くと、彼はこう言ってふんぞり返る。
「裏切者とは人聞きが悪いね。元より私は私の味方なんだよ」
 おかげで出撃ハッチに細工をされ、ヤヨイはせっかく真紅に塗装した自分のKVを出せずにいた。そこへ後ろの入り口ドアが開き、パグアに扮した一団が悠然と現れる。
「頂こう」
 ボス役のUNKNOWN(ga4276)、艦長役に銃口を突きつけながらそう言って口元をにやりと歪ませる。そんな中、バグア側副官の桜塚杜 菊花(ga8970)が「このUKはバグア軍が占拠した!総員降伏せよ!」と、銃を取り上げにかかった。しかし、相手もむざむざとやられては居ない。
「俺の名はコンドル──故郷の空を奪われた借り、返しに来たぞ、バグアども!」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)率いるカルヴァリオ隊が、母艦を取り戻そうとその鯉口を切る。
「えぇい、うっとおしい。主砲、借りるぞ」
 アンノウン、UKに取り付けられた主砲の起動ボタンに手をかける。そこにはまだ大量の蟹が戦っていた。
「おやめください! 射線軸上にはまだ我が方がっ!」
「どきなさい。ボスに手出しはさせません」
 QUERCUS(ga4907)が止めようとするものの、護衛を兼ねている菊花に阻まれてしまっている。こうして、アンノウンの指先がスイッチカバーを開けた直後だった。
「獅子身中の虫には早々に退場して貰いましょう。キミは頑張りすぎだ…」
 UKの窓辺に、FRに偽装したテトラ・シュナウザー(ga0218)が現れる。彼はそう言うと、ためらわずに引き金を引いた。画面が切り替わり、UKのブリッジが盛大な爆音と共に吹き飛んでしまう。
「時間がありません、司令部の破壊が最優先です。敵プロトン砲の発射を阻止せねば!」
 その衝撃で吹き飛んだ隔壁をディフェンダーで切り飛ばしつつ、緑川 めぐみ(ga8223)が突破口を開こうとする。そこへなぜか仮面をつけたザン・エフティング(ga5141)が、依然と同じ格好で援護を始めていた。
「正義のガンマン マスク・ド・テキサス参上! 援護するぜっ!」
 バレバレなんだがとりあえずそれはさておき、彼の所属するアングラー隊と、特務部隊:零小隊が司令部へ向けて進軍していく。その続けられる押し合いに、バグア側の最後の隔壁が破られようとしていた。
「惰弱な餌がギガンプを制するつもりか! 片腹痛い! いみじく逝けぃ!」
 放課後クラブ隊を率いるゼラス(ga2924)が隊員達に片手を挙げる。
「HouKA-GO! Crab 合体承認!」
「了解。プログラムデバイス、セーフティリリース!」
 フィオ・フィリアネス(ga0124)がカバーのガラスを割り砕くのを合図に、彼らは自分のKV‥‥もちろん、あらかじめ蟹装甲を張ってある‥‥で、組み体操のように寄り集まっていく。出来上がったのは、巨大な合体蟹型ロボットワームだ。もちろん後でCG処理するので、とりあえず組み体操のままである。
「究極合体…HouKA−GO! Crab!」
 赤霧・連(ga0668)がコールする中、どぉぉぉーーんっとピンクの煙が舞い散った。
「うりゃうりゃうりゃあー! 木っ端微塵やぁぁ!!」
 組み体操なので殆ど動けないが、それでは演技にならないので、胴体部分の高日 菘(ga8906)が胴体部分からカニカニビームを乱射していた。比較的自由になる尻尾担当の御坂 美緒(ga0466)が後ろで、陸に上がったお魚のようにぴちぴち跳ねている中、雪村とチェーンソーで鋏代わりに振り回す空間 明衣(ga0220)。
「挿入歌いきますよ〜♪ 主題歌の用意はできいるのでしょうか?」
 反撃し、砕かれた放課後クラブ隊の面々が子蟹として足元をちょろつく中、シェリル・シンクレア(ga0749)がメロディを奏で始めた。彼女をコーラスに、歌声を乗せるのは妹のフィリス・シンクレア(ga8716)だ。
「割かれた痛み、溢れる想い、それももう終わりにしましょう。生きるでもなく、死ぬわけでもなく、ただただ、深い眠りに、永久の闇へ」
 赤い瞳を宿らせるバグア達。囚われる人々。だがそれでも耳を傾けなかった者達もいる。
「必ずご主人様を取り戻す!」
 メイド隊の月森 花(ga0053)、メイド長として敵に回った主の宗太郎=シルエイト(ga4261)を囲い込んでいた。中には愛紗・ブランネル(ga1001)のように「…ご主人様になって?」と、手当たり次第に魅了と言う名の愛想を振りまいているメイドさんや、そもそも性別が間違っているにも関わらず、可愛いからと言うただそれだけの理由で女装させられ、「コ‥‥コクピットの中なら映される事はないよね‥早く私服に着替えたい‥」とぷるぷるしているベルみたいなメイドさんもいる。
 しかし、主は未だ隔壁の向こうだ。と、その声が届いたかのように隔壁が盛大に吹き飛ぶ。
「顕現せよ‥万難を排し全てを屠り喰らい尽くす誇り高き狼の王よ‥‥」
 浪々と流される終夜・無月(ga3084)の前口上。その割にはきっちり実戦装備である。その前口上に答えるようにして、隔壁の向こうから現れたのは。
「天衝の皆よ、我らの行く手を阻むバクアは聖闇へと還るのみと教えてやれ!!」
 そう。かつては大隊を率いていた漸 王零(ga2930)である。
「零、お願い戻ってきて‥‥私の元に‥‥私にはあたたが必要なの!!」
 静まり返る現場。えと、シリアスなシーンが台無しなんですが、王 憐華(ga4039)さん。

 ていく2。
「零、お願い戻ってきて・・・私の元に・・・私には貴方が必要なの!!」
 涙ながらに説得を試みる憐華。しかし、その声は届かず、漸は無月に向けてその刃を振り下ろした。受け止める無月。こうして一騎打ちが再開される。そんな中、裏切った仲間達を何とかして正気に戻そうと、各地で説得が始まっていた。
「あたし達の力は仲間にぶつけるモノではないでしょ!?」
 聖昭子(ga9290)がぶつけられる攻撃に耐えながら、訴える。その無抵抗な姿に、ココロを取り戻す月城白夜(ga9285)や龍零鳳(ga2816)のようなものもいるが、事はそう簡単に運ばない。
「王よ、天衝や皆が貴方の帰還を待ってます。だから!」
 そう言って、ソードウィングのを翻す葵 宙華(ga4067)。ともすればそのまま撃墜してしまいそうなぎりぎりの速度で持って、漸の機体へと体当たりする。強い衝撃に彼の機体が揺れた。
「く‥‥この‥‥うわぁぁぁぁ!」
「零ーーーーー!」
 機体がスパークする。心配した憐華が叫ぶ中、周囲に白煙が立ち込める。見れば、宗太郎も小麟(gb1863)も、他の傭兵達がばら撒いたフレア弾にやられひっくり返っていた。
「やったか?」
 葵がそう呟いた直後、三人の機体がぴくりと動く。
「我は何を‥‥」
「目ぇ覚めたみたいだ‥‥」
 漸と宗太郎が交互にそう言った。沸き立つ傭兵達。だがその直後だった。
「あはははは。まさかここまでとはね。だけど、ここまで来たら返すわけには行かないよ!」
 リリアン役の水理 和奏(ga1500)がそう言って高笑う。直後、どぉぉぉんっと盛大な爆音が響き、周囲の壁が続々と崩れ始めた。
「まずい。撤収するぞ!」
 元に戻った漸が、そう隊長らしく脱出を示唆する。崩れ落ちる壁の向こう側で、リリアンはものすごく感情を込めた一言でこう言い放っていた。
「ここは退いてあげる‥‥けど中佐、貴方とは運命で結ばれてるの。忘れない事ね」
 それは多分、彼女の本心だろう。崩れ落ちる蟹の中で身を翻しながら、彼女は一瞬だけ本来の和奏自身の顔に戻り、『中佐のおじさん‥‥』と呟いて、カメラの前から退いていく。
 こうして、超大型蟹型ワーム『ギガンプは、傭兵達の活躍により、その身を爆散させるのだった。
 
 
 <担当 : 姫野里美>
 
 
 
 ●仮設野戦病院
 アラブ戦線通信に異常が発生しているらしい、という情報が心に引っかかりつつも、中東で何事も起きないよう祈りながら撮影は継続されている。

 激戦の最中の撮影なので、続出する負傷者はキャンプテント内で治療を施された。
 治療班の中心は医者である辰巳 空(ga4698)を初めとする医療関係者。重傷患者は空達が、軽傷や応急処置が必要な怪我の治療は治療班志願者達が行っている。
 負傷者は出演者、スタッフ、一般人問わず多数。中には負傷者に演じているモブもいる。
 篠原 悠(ga1826)は、女優として前線で怪我をした兵士を看護する役に挑む。
「怪我人はこっちへ! 歩ける人は歩いて! 人手が足りない!」
 負傷者役の出演者が多いので、本物の負傷者と演技者の区別がつかなくなった、というのは裏話。
 重症、軽傷問わず相次いで負傷者が続出したため医療器具は不足がち。それをフォローするのは弥生 イト(ga8472)。カートを押して医療道具を各テントに運搬と多忙を極めているが、医療班は大助かり。
 医療班は負傷者の手当てだけでなく、迷子センターやメンタルケアも兼ねている。
「これやるから元気出せ! な?」
 那智・武流(ga5350)は、親とはぐれて泣いている子供が無事親と会えるようにと実家の神社のお守りをあげ、乾 智世(ga1739)は『練成治療』で負傷者の治療に取り組んでいたが、力が尽きたのでメンタルケア担当となり、武流同様子供を励ましていた。
 飴玉をひとつ差し出すと頭を撫で「大丈夫。めっちゃ強い兄ちゃん姉ちゃんが、悪いやつらをやっつけてくれるかんな」と元気付け、朝河 ヒカリ(gb2289)も「諦めたら本当に終わりです! 絶対助かります! 絶対勝ちます!」と一般人を励ましている。
 郭桃花(ga3104)は医療班だが、医療に従事せず精がつく炊き出しの料理を作り、出来立てのものを負傷者達に配っていた。
 オブライエン(ga9542)は、銀龍(ga9950)、黒須 信哉(gb0590)と共に無線機で治療班と随時連絡を取りつつ、迷子アナウンスを行い親を捜していた。

●忙しない作業
 医療班も忙しいが、補給班も猫の手が借りたいほどの忙しさだった。
 撮影ではあるが実戦さながらなので、機体の損傷は激しく修復・整備・補給等の作業は迅速に行われなければならない。
 小隊『ファフニール』は、小隊長である狭霧 蓮(ga0213)、紅露(ga4649)の2人が中心となり、各通信網の情報を元に各部隊の位置関係を把握し、管制と連携、補給・修理に降りる部隊と飛び立つ部隊の安全を撮影カメラの位置に注意しながら誘導を行っていた。
 狭霧 雷(ga6900)は補給専門の滑走路を確保し、簡易補給で済む機体を優先的に下ろしつつ上空にいる機体を多く確保。霞 燐(ga6901)は補修・修理専用滑走路を確保し、そこに修理等の必要な機体を下ろすように誘導して、着陸が難しい場合は支援にあたっている。
 弓亜・真琴(ga0470)は、機体損傷の軽微の物から順に修理をしつつ、疲弊しきった操縦者にゆっくり休むよう気遣った。
「疲れた方はゆっくり休んでいてください。死んだらもう守ることすら出来ません。ちゃんと戻ってきて下さいね」
 補給と修理を行いながら、全員無事に戻ってきてほしいと願う真琴の傍では、ドジっ子ながらも手伝っている蝦夷りす(ga1559)が転んで「えう〜」と言っている。横では、縞りす(ga5241)が一所懸命頑張っていたが燃料を零してしまい同じようなことを言っていた。
 風巻 美澄(ga0932)は後方にて整備・補給任務に従事し、機体の事前チェックを中心に、万一の事態がないようにと入念に整備に取り込んでいる。

●資材運搬は重労働
 橘翔(ga8205)率いる『ワンショットスターズ』は小隊長である翔からの指示に応じ、適宜必要な資材を運搬することに専念し、リディア・クライブス(gb1550)は不測の事態に備え実戦装備の準備をしておいた。
 水円・一 (gb0495)は、最悪の時のために備え、弾薬を含む戦闘で使われる通常資材を搬送したが、困ったことがひとつ。
「悪いが、これに判子をくれ。何が来て何が無いのかぜんぜん解らないと担当が泣いていたぞ。そろそろ危ないかもな」
 それだけ、撮影が佳境に迫っているのだろうか。
 やれやれ‥‥とぼやきつつも資材を運搬する手伝いをしているのは結城 秋人 (ga4050)。
「なんか変な空気が流れてるようだから、もしもの時のため実弾の資材運搬をやっとこう」
 不穏な空気を感じ取ったユズ(ga6039)も、資材を運び込んでいる。
 L70・セエレ(ga7284)率いる小隊『Legions』の隊員は余剰積載に限界まで物資を搭載し、海軍拠点へと物資を搬送中。
「物がねぇと、現場は動かないしな」
 フィート・ソードグラス(ga8353)はナイトフォーゲルを駆使して数多くの物資を運び出しつつ、そんなことをぼやいていた。

●撮影現場は修羅場だ
 撮影も後半に差し掛かったため、スタッフ一同は神経を張り詰めているが、それは補助担当者も同じだった。
 撮影班が出るそれぞれの行動は把握すら困難なほどで、一歩間違うと現場が混乱に見舞われかねない。
 月代・千沙夜(ga8259)、 シンクレア(ga8260)はADとして撮影準備を行い、 雨宮慶(ga4715)は機材類のセッティングを。
 メイク担当のKOKUI(ga7499)は5つのメイクセットを引っさげ、『化粧を行う男性』という役を自身の中に作り、見事にその役になりきって一所懸命のメイク作業を施していく。丁寧、美麗、そして素早くががモットーなのか、1人当たりの所要時間は凄く短い。
 スタッフに確認しながらメイクをしていたジェミリアス・ボナパル(ga8401)と伊佐美 希明(ga0214)から、その素早さに驚嘆の声が漏れた。

「撮影ってこんなに大変なんだぁ‥‥」
 撮影機材を覚醒して運びながら感動していた森木 久美(ga4642)は、羽曳野ハツ子(ga4729)が行う本業女優の演技指導に偶然居合わせる。
「戦闘シーンのリアルさに比べ、それ以外がダメじゃ勿体ないじゃない!」
 休業中だが、女優根性はあるハツ子の意見。
 小隊『爆雷班』の主な仕事は、役者のマネージメント。マリア・ベースハート(ga7273)を中心に、出演者のスケジュールを調整している。
 明星 那由他(ga4081)は遅延箇所や人手不足、機材の不調など問題が出てくる頃だろうと思い、全情報を統合した新スケジュールを作成して発行、円滑に撮影が進むようにし、混乱が起きないように全スタッフへ漏れなく通達できるよう注意している。
 不安があろうと、放送は確実確約確定的に行うと藍晶・紫蘭(ga4631)は決めている。ので、スタッフからの報告があるまではと、空いた時間を使って周りの出演者分の原稿を書いていた。偵察隊の情報によっては緊急速報を纏め、各戦域のスタッフに配布するのが彼女の役目だ。

 撮影スタッフに必要な情報を伝達するのは、朱雀院沙羅(ga5440)が隊長を務める小隊『ラビットイヤーα』。本隊、第2分隊、第3分隊に別れ、刻々と変わる状況に対応するため通信チャンネルをフルオープンし、緊急事態の通達がいつでも迅速に出来るようにスタンバイ。
 迅速な情報伝達で撮影をスムーズに進ませる『ラビットイヤー』の通達は、中東戦線へのアンテナも兼ねていた。

●バリエーション多き炊き出し
 後半戦に突入したこの頃、皆、お腹がすいたことだろうと思い、裏方では炊き出しが始められていた。
 オルキーデア・ソーナ(ga8198)率いる 『最古&斧小隊』メンバーは、歌いながらカレーを作っている。
「ニンジン刻んで〜タマネギ刻んで〜ジャガイモを切って〜♪」
 こちらもカレーだが、工口本屋(gb1954)が配布しているカレー弁当は超甘、甘口、中辛、辛口、天国への扉の5段階。最高の辛さは別名『地獄の釜』。
「ふふ‥‥これに耐えられるか?」
 撮影中に激辛を食べる猛者はいるのだろうか?
『裏飯屋』は、ミリタリー食を作りつつ古河 甚五郎 (ga6412)と森里・氷雨(ga8490)を中心に撮影補助中。美装済みの損壊用建造物、大破用ナイトフォーゲル、火爆特効と各種測定器を施し、水中戦、防衛戦、救助の訓練とシミュレーション用のデータ収集をいつでも行えるようスタンバイ。その側では、水中戦撮影後に入る風呂焚きが行われている。
 聖 海音(ga4759)の手作り重箱弁当にお茶を差し入れ、Laura(ga4643)は気分転換にとスパイスマサラティーを入れてスタッフ達に配った。

●胸を過ぎる安危
 撮影だが、全てが終了したのは偵察隊の報告より先だった。
「後片付けだろうと行動は素早くだ! トロトロするな!」
 大道具を抱えた黒羽・勇斗(ga4812)の一言を合図に、レフ板を持った的場・彩音(ga1084)、 遊馬 琉生(ga8257)、音声担当の夕波綾佳(ga8697)、雑用係のオリバー・フリッツ(gb2010)は空薬莢を拾いつつ、自前のハンディカメラで役者達の素顔直撃撮影していたリリエーヌ・風華・冬堂(ga1862)は急いで撤収にと向かう。
 鷹司 小雛(ga1008)は前半よりも緊迫したムードで忙しない看護に追われていた最中、蟹撃破の報告が届いて気にはなったものの、負傷者を放っておくことは出来ずに今も看護に追われている。蟹退治成功という結果だったら、いの一番に喜んだことだろう。
 スタッフ、傭兵達は片付けを行いながら、偵察に向かった人々の安危を気にかけていた。報告はまだ届かない。
 撮影は終了したが、まだすべてが終わったわけではないような気がしてならない。
 撮影現場にいた全員、何故かそう思えたのだ。
 終わりではなく、また始まりに戻るのではないか。そう思うスタッフや傭兵がいることだろう。
 考えていても何も変わらないし、始まらない。
 撮影現場にいたスタッフ、傭兵、役者を含む一般人達はもやもやした不安を抱えつつ、ただ偵察隊隊員の無事を祈るのだった……。
 
 <担当 : 竹科真史>  
 

●カット『再戦』
 散っていった者もいた。負傷して出撃できない者もいた。それでも、彼らは諦める事など出来るはずもなかった。
「ちっ、まずいな‥‥しかし、ここで引く訳にはいかない!!」
 月狼九番隊隊長、ラルフ・レインウォーター(ga8610)の言葉は、再度闘いを挑む者達全員の気持ちを代弁していた。彼らには護るべきものがあるのだ。ここで退いては守れない。
 一度拠点に退いて補給を終えた傭兵達は、諦める事なくワームへと切り込んでいく。
「人間にはねぇ! 一生に一度全てを捨ててでも何かをやらなきゃならないときがあんのよ!」
 後続の傭兵達が進む道を開く為、ソフィア・アナスタシア(ga5544)は機体と共に一気に水中へと潜り、全ての弾薬をワームへと撃ち込む。だが、圧倒的な数量の差に、弾薬は直ぐに尽きてしまう。
「まだまだ死ねないんだから‥‥っ!」
 それでも果敢に直接攻撃へと切り替えワームを薙ぎ払うが、相手が多過ぎた。次々に襲い来るマンタワームを前に、為す術もなくなりかけた、その瞬間。
「無理せず退け‥‥俺達が護る」
 無線を通して声が聞こえてきた。それは小隊『月詠風華』メンバーのものだった。
 ガディ・ストライデント(ga8437)は機体を水上すれすれに飛行させ、グレネードで強襲をかけた仲間達からワームを引き離す。その間にソフィアは戦線から後退する。
 立ち代って強襲へと向かったのはレディー・M(ga8354)だ。
「ほーほほほほ! ひれ伏しなさい、バグア共!」
 ‥‥いくらこれが映画撮影だからと言って、少しノリがおかしくはないだろうか?
 若干戦場に似つかわしくない高笑いを響かせながら、一時後退していくメンバーからワームの視線を自身へと向ける様に攻撃を繰り出す。それに合わせて最前線へと機体を躍らせたのは氷雨・翡翠(ga1860)だ。回避能力をフル稼働し、近距離で敵の目を引き付ける。
「はっ、蟹って言ったら足とミソだろ。喰らい尽くしてやるぜ!」
 それを確認して、鷹見 仁(ga0232)が蟹本体へと突進した。飛行形体から陸戦型に変形し、本体へと乗り移ろうとする。しかし、それを阻む形でルンバ・ルンバ(ga9442)が機体を繰り出す。
「まったく‥‥死に急いでさ、まぁいいや覚悟は出来てるよね」
 やけにノリノリなのは何故だろう。まぁ、滅多な事じゃ悪役になんてなれるものでもないので、この際楽しんでしまえと割り切っているのかもしれないが。
 最早疑問系にもなっていない問い掛けの直後、凄まじい勢いで鷹見の機体へ次々と攻撃を与えていく。そう、それこそ機体が大破してしまうまで。
「おい、ちょっとやりすぎじゃ‥‥!?」
「あーほら、俺いま敵だから♪」
「楽しそうに言うな!!」
 大破、と言っても使用しているのはペイント弾だ。本気で攻撃を受けたわけではないにしろ、これは映画撮影。攻撃を受けて機体が大破してしまえば、そこで出番はジ・エンドだ。鷹見の機体はそのまま撃墜、という形で海へと落ちていくのだった。と、同時に。
「きゃあんっ!」
 攻撃を受けて、レディーの機体が撃墜されてしまう。
「はいはい。お疲れ〜。撃墜の機体は一旦戻ってペイントを落とすか撮影班に映像を撮られるかの二択ね。ちなみに本気で怪我した人がいたら挙手する事〜」
 撃墜した機体から這い出してきた鷹見とレディーに、声をかけて浮き輪を放り投げ、エルドリエル(ga5205)は陽気に声を上げる。
「怪我してたら挙手出来ないんじゃ‥‥」
「ツッコミ入れてる暇があるなら機体を早く陸に戻してね〜。ゴミと間違えて回収しちゃうわよ?海は大切にしないとね」
 にっこり笑顔で、空恐ろしい事を口にするエルドリエルに、鷹見とレディーは大急ぎで自身の愛機(ペイントまみれ)を回収してもらう手筈を整えるのだった。

●カット『犠牲』
 多くの犠牲を払ってもなお、蟹は健在だった。悔しさのあまりに唇を噛む者、悲痛に顔を歪ませる者。様々な表情が映し出されていく。
「あっ、あれを見ろ!」
 誰かの声に、傭兵達の視線が蟹の上部へと向かう。そこには。
 蟹の内部で戦っていたのだろう一人の傭兵が、敵役の大道寺イザベラ(ga4684)によって捕らえられていた。
「捕まった捕虜は、公開死刑って相場は決まってるからね」
 悪役らしく笑って、手にしたサブマシンガン(中身はペイント弾)を捕虜へと向ける。
「バグアに逆らえばどうなるか、よく見てなさい!」
「やめろーっ!!」
 傭兵達の叫びも空しく、捕虜はサブマシンガンによってその命を散らせてしまった。
「くっ‥‥」
 ナッシュ(ga9055)が、隊長であるラルフへと視線を向ける。その瞳には、蟹に対する憎しみが宿っていた。
「隊長、指示を!」
「変わらずだ。我ら月狼九番隊は、援護を行なう」
「‥‥了解、しました‥‥」
 今直ぐにでも蟹へと攻撃を加えたい気持ちを必死に押し止めて、ナッシュは右手をきつく握りこんだ。

「ちっ‥‥! 俺も今直ぐ‥‥!」
「駄目ですよ。今の貴方が出撃しても、無駄に犠牲が増えるだけです」
 負傷した体を無理矢理起こそうとするマートル・ヴァンテージ(ga3812)を、高須 アルフレッド(ga7812)が止める。
「しかし高須、誰かが行かねば! 敵の隙を作るくらいなら、今の俺でも‥‥!」
「マートルさん。気持ちは分かりますが、貴方の怪我は酷いんです。これ以上無茶をするなら、麻酔で無理にでも眠らせますよ」
 悔しさと痛みに顔を俯かせたマートルに、高須はそれに、と言葉を続けた。
「きっと、他の皆さんもそう思ってます。大丈夫ですよ。マートルさんの分も、皆さんが戦ってくれます」
「‥‥あぁ、そうだな‥‥」

●カット『更なる犠牲』
「こうなったら、他の傭兵達の為に、血路を開くのが我らの使命!」
 海軍軍人役の鏑木 硯(ga0280)の声が響く。
「よせ鏑木!」
 同じく海軍軍人役のエメラルド・イーグル(ga8650)の声を振り切って、後に続く仲間の為に、そして、今尚蟹へと攻撃を続けている傭兵達の為に、敵の密集する蟹本体の周辺へと特攻をかける。
「ふっ、BOSSの留守は守ってみせましょう」
 向かってくる鏑木を確認して、バグアの幹部役である綾野 断真(ga6621)は蟹の周囲に自爆ワームを何重にも展開させる。ワームを眼前にしながらも、鏑木は怯まない。
「ここで退くわけにはいきません。後の皆さんが少しでも有利に戦える様に‥‥!」
 そう叫ぶと、攻撃を行いながら自爆ワームの群れへと突っ込んでいく。蟹本体の直ぐ側で、巨大な爆発音が響く。 「後は‥‥頼みます‥‥」
 アラーム音の鳴り響くコクピットの中、頭部から流れる血で、もう前も見えない。
 爆発し、撃墜された鏑木の機体を見て、エメラルドが叫ぶ。
「鏑木ー!!」

●カット『犠牲の先の希望』
 もう何人の傭兵達が犠牲になっただろう。
 もうどれくらいの費用が、ぶっちゃけかかっているのだろう。
 後者はどうでもいいとして、傭兵達は必死に奮闘を続けるが、まだ蟹本体は健在のままだ。
「皆、俺が攻撃を仕掛ける。援護してくれ!」
 海軍役の神楽克己(ga2113)の声に、遊撃・迎撃担当メンバーが声を上げて答える。
「水中は俺達『分派水中部隊』に任せな!」
「後ろにも神楽さんにも攻撃させません!」
 『分派水中部隊』の二人、威龍(ga3859)と烈飛龍(ga5901)が、機体を駆り、水中から攻撃を仕掛けてくる敵へと攻撃を開始する。
「そう簡単には行かせないわよ〜」
 敵役として立ちはだかる草壁 蛍(ga4708)だったが、二人の絶妙なコンビネーションを前にあっさりとやられてしまう。それでも、演出の為と盛大な水柱を立てて水中で爆発しましたといわんばかりに爆薬を炸裂させる事は忘れない。
「映像的にも、これくらいないとインパクトないでしょ?」
「だからって火薬量多過ぎじゃあないですか?」
 威龍のツッコミに、小さく笑って言葉を返す。
「強い敵だけじゃ、面白みないじゃない」

「いつまでも簡単にはやらせない!」
 わざと避けやすい弾を乱射しながら、ヴェイン(ga4470)は蟹周辺の敵を一箇所に誘導していく。見事罠に引っかかった敵を、次々に仕留めていくのはレィアンス(ga2662)だ。
「後ろへ通すわけにはいかない‥‥なら、通ろうとする全てを叩き潰すまで!」
 確実な攻撃で、蟹周辺の敵の数は徐々に減っていく。しかし、その分自分達も怪我を負っている。それでも、傭兵達は諦めなかった。
 そして。
「今だ神楽!」

●カット『一撃』
 蟹の上に立っているのは、敵役のルード・ラ・タルト(ga0386)だ。神楽は蟹へとKVで特攻を仕掛け、自身は空中で飛び降り蟹の上へと着地する。さっきまで神楽の駆っていたKVが、見事に蟹の足のうち1本へダメージを与える事が出来た。
「世界はバグアのものじゃない! この魔王克己様のものだ!」
「‥‥台詞、間違ってません?」
「後で編集しておきましょ」
 撮影班がやれやれ、といった様子で肩を竦める。
 が、神楽の攻撃空しく、蟹が突然の攻撃に暴れ、彼は海へと投げ出されてしまう。
「はいはい、こっちも回収しまーす」
「あ、ちょっ、待て! 俺の最高の出番を‥‥!」
 有無を言わさず、エルドリエルが海中から首根っこを引っつかみながら神楽を回収する。
「台詞間違えた段階で、本当ならNGだったのよ?救助してもらえるだけでも感謝して欲しいわ」

●カット『絶望の先の勝利』
「きりがない‥‥!」
 小隊『月詠風華』の黒塔 美鬼夜(ga6975)が、押し寄せるワームへと攻撃を続けながら小さく叫ぶ。
「足1本じゃ、流石に倒れてくれないみたいですね」
 同じ小隊の流・玄雨土(gb1672)も、これ以上後ろへと敵を進ませない為に必死に攻撃を加え続ける。
「駄目なのか‥‥あれだけ犠牲になっても、俺達は勝てないのか‥‥!」
 絶望。
 その二文字が、傭兵達の頭を過ぎる。
 演習用ペイント弾も使いまくり、愛機は無残にもペイントまみれ。
 ‥‥訂正。
 沢山の仲間が負傷、または散っていったというのに。
 勝てないのか――
 誰もが諦めかけた、次の瞬間。信じられない光景が目に飛び込んできた。

 蟹本体が、大破し、崩れ落ちたのだ。

「‥‥勝った‥‥?」
 水中でワーム相手に交戦していたファルル(ga2947)が、モニターに映ったその光景に呆然と呟く。
 その言葉は、無線を通じて傭兵達に響き渡る。

 勝った。
 勝ったのだ。
 あの巨大な蟹に。

「やった! 勝ったぞ!!」
「俺達の勝ちだ!」
 其々が歓喜の声を上げ、仲間と笑いあう。
 長いペイント弾との戦い‥‥
 いや、長く厳かった巨大蟹との戦闘は、ようやく終わりを見せたのだった。

 <担当 : 風亜智疾>



-----------------------舞台は唐突に現実へとうつる--------------------------



 ――まずは、中東周囲の勢力状況に説明を付けるべきだろう。
 アフリカ大陸はバグア軍の支配下、ヨーロッパはギリシャとイタリア三島を争奪中で、トルコは東半分が競合地帯。
 中東はインドを残してほぼ全滅、インド軍こそ健在である筈だが、通信に異常が発生した今、断言することは危険だろう。
 東南アジアは無事だが、それを動かすかどうかは今回の偵察にかかっている。

 中東、シリア国境。
 地図で言えばトルコのすぐ真下で、サウジアラビア・イラク、その次にアラブ首長国連邦と繋がる。
 ギリシャの横、或いは地中海東海岸だと言えば判りやすいだろうか。
 この中、競合地帯で済んでいるのはサリアとサウジアラビアのみ、無為な戦闘を避けるとなると、これ以上は進むことは出来ない。
 天候は砂嵐、KVの稼働にこそ支障はないものの、歓迎したい状況であるとも言い難かった。
 ――――視界が酷い。
 これまでの敵を顧みて、中東へと赴いた面々は少なからずファームライドの光学迷彩を警戒しているもの、これでは敵が誰であろうと同じだろう。
 前向きに考えれば、自分たちの姿も敵からは見えない――そう解釈すべきだが、そこに電子戦が加わった途端誰も彼もが顔を渋らせる。
 自分たちはジャミングのノイズ下で、向こうはほぼ万全な状態にある。たとえるなら透明人間と戦っている感じだろう、……さぁ、振り出しである。
 人類はホーミングミサイルと言うとても素晴らしいものを開発していて、今はそういった物が自分たちを狙っているかもしれない訳だ。
 ―――笑えない、そう誰かが悪態をついた。

 トルコ側、およそ地中海に少し寄った辺り。
 現地UPC軍の協力も得、傭兵達の拠点はここに臨時設営されていた。
 KVが着陸・離陸できるような簡易滑走路、戦闘に使う銃弾の類。これまでの飛行で消耗した燃料の補給も行い、偵察に赴く面々をバックアップする。
 中心となってそれらを手配するのは【ハニービー】、手際のよさはこれまでの積み重ねか、単純なノウハウだけではなく、上手く回すこつも覚え始めているのだろう。
 簡単な形を整えた後、補給所の運営を隊員に任せ、隊長であるカーラ・ルデリア(ga7022)はクラウディア・マリウス(ga6559)および高坂 旭(gb1941)を連れて偵察隊の後を追う。
 拠点周辺は【八咫烏】が哨戒に立っていてくれるため、万が一後方を襲撃されても、もろに打撃を喰らう事はないだろう。
 そもそもの原因は、中東戦線からの連絡が途絶えた事にある。そしてトルコ側はその理由を知らないのだという。
 情報は綾波 結衣(ga4979)によって聞き出され、回線を介して各員へと通達される。
 何かあったのはトルコ側ではないという事だろうか、通信設備の異常以外に他のアクションは見あたらないと言われ。当の競合地域内部といえば、ジャミングは確かに強い。
 強いて言うなら『何もないのが不気味』――彼らはそう語った。それは文字通りの意味で、ジャミングが強まった時期から侵攻などのアクションがぴたりと止み、しかし既に占領地域の守備は堅く、境界線を巡回するワームの数は以前に増して多いのだという。
 何もないというには不気味すぎるその状況、少し危険だが、競合地域、可能ならバグア支配地域の方も見に行くべきだろう。
 ほぼ全ての小隊が岩龍を連れていったおかげか、情報網【蕾】は互いの距離を抑える事で辛うじて構築出来ている。その辺の調整も情報を処理する【蕾】の仕事だ。
「こちら若葉隊【蕾】所属、呉葉です。応答願います」
 返ってくる応答を一つ一つ確認しつつ、状況と情報を統合して各部隊へと転送する。
 奥に行くにつれ、外との連絡は辛くなったのだが……この辺は生きて帰って、情報を持ち帰るしかないだろう。
 ……その前に、どこまで進めるかという話もあるのだが。

 砂嵐を突き抜け、フェザー砲が空を凪ぐ、巡回ワームから放たれ、能力者達を襲う光の砲撃だ。
「次から次へと……!」
 トルコ軍の言う通り、巡回ワームの数は確かに多かった。それこそ一隻を相手している間に、ワームが三隻四隻と集まってくる位には。
 これら全部が周辺を巡回していたというのなら、相当の数であるのは確かだろう。
 各小隊共にワームが織り出す警戒網に引っかかり、各所で足止めを喰らっていた。
 相手は無人機である上に重力で敵を感知している、低空飛行を駆使しても、その包囲網を潜り抜ける事が出来た小隊はいない。
 一隻一隻の力は断じて強くない、しっかりと連携を組んだ傭兵達の敵では無論ないのだが……足止めを喰らってるこの状況が良好とは、割と言い難かった。
 いっそ、一旦引き返すべきか。大した情報こそ集まっていないが、偵察がずるずると長引くのは好ましくない。
 敵増援を次々と報告する度、【蕾】隊の面々の表情は芳しさを失っていく。バックの面々が襲われた……というわけでもないのだが、若葉【壱】の護衛の元、そろそろ撤退を伝令すべきか、悩み始めていた。

 一方、【ペガサス分隊】【ラーズグリーズ隊】【魔弾】【渡鴉】は東南アジアまで赴いていた。
 距離の都合、やや手間取りはしたが――期せずアメリカ大陸経由で世界をほぼ一周し、なんとか無傷で現地に到着出来てはいる。
「何を好き好んで、大勢でこう遠回りをするのか」
 そうガリーニンのパイロットから苦笑を頂戴し、
「まさかバグア軍が占領地帯を素通りさせてくれるとか、補給なしでアフリカ大陸を無事一周できるとか思ってませんよね?」
 もう一人のパイロットから淡泊な――冷ややかと言うべきかもしれない視線を頂戴はしたが。
 今回。何が悪いかを問うなら、それこそラストホープが大西洋側にいたのが悪いと言うべきだろう。
 図体の大きい要塞なのだ、機動性の高い動きこそ期待すべくもないが、それでも時が悪かったと言わざるを得ない。
 中東戦線の主力はインドにあり、ヨーロッパからインドに赴くルートはバグア支配地域に遮られている。
 アフリカ大陸を回るのはリスクが多すぎる、後は北極海を回るか、アメリカ大陸から太平洋を渡るかだが……。
 残念な事に、今回の撮影現場はアジア周辺にはなかった。実地撮影を行うなど、そんな不謹慎な事を考える人間は流石にいなかったらしい。
 南方空域に赴く旨を彼らが報告すれば、中佐はガリーニンと暇をもてあましているUPC軍能力者をパイロットとして同行させ、そして到着した今現在に繋がる。
 ガリーニンは補給のため東南アジアの拠点にて待機、インド付近へは傭兵達が単独で赴いていた。
 パイロットからはああ言われたが、こちら側からも情報がありそうな事には違いないだろう。
 ラストホープとの通信はかなり離れた海上において現在良好、先に準備を完了したヨーロッパ側の偵察隊は行動を開始している筈だが。ジャミングに見舞われてるせいか連絡状況は良くないと言う。
 まぁ、彼らは彼らで上手くやるだろう。そう思い直し、四隊はインド洋へと突入していく。
 【ペガサス分隊】【ラーズグリーズ】はアラブ方面を、【魔弾】は敢えて別のルートを選択し、【渡鴉】はその護衛を兼ね共にインド方面へと向かっていった。
「アラブ南側は……確かまだ競合地帯だった気がするが」
 白鐘剣一郎(ga0184)が呟く、ここには【蕾】などの現地情報網も届かず、陸地に近づいた今は外部との通信さえ怪しい。
 小隊間の情報網だけなんとか確立していて……まぁ、その辺は北西の面々と同様だ。
 彼らもまた不要な交戦は避ける方針であるため、陸地まで近づく行動に難航していた。精々頑張ってかすめる位で、しかしそれは撮影のために速度を落とす行動と相反する。
「カメラワーク……ちょっと心配ですね……」
 これを見た人は情報以前に酔うかもしれない、そう朧 幸乃(ga3078)は顔を曇らせる。頑張ってなんとかしようとはしているのだが、度が過ぎると撃墜の危険があるため難しい。
 一方、【魔弾】及び【渡鴉】もまた撮影に難航していた。
「この辺りは……人類側地域だと思ってたのですけどぉー…?」
 御山・映、相沢 仁奈、アロンソ・ビエルなど小隊の護衛をしながら、幸臼・小鳥が首を傾げる。インドの最前線は確かパキスタンの辺りだ、しかしその手前のインドでは人っ子一人見あたらなかった。
 辛うじて撮影出来たのは、廃棄された施設や街のようなもの。
 本来ならもう少し戻って様子を見に行くべきだろうが、何かに惹かれたように彼らは先へと進んでいく。
 何か、ありそうなのだ。【渡鴉】の護衛も受け、更に奥、パキスタンへと。
 下の風景が見える程度に高度を抑え、遠目に見える視界には街と、それを覆って天蓋を作る銀色の円盤。それは緩慢に、まるで蜂のように此方へと向かってきていて―――。
 間違っても突っ込める相手ではない、ロッテ・ヴァステルの声が間髪入れずして響く。
「……拠点に戻るわよ!」

「……やれやれ、ばれたか。今日は客が多い、あちこちから来られて対応が間に合わなくなる」
 柔らかな声がぼやく。たしなめるように、同じ位柔らかで軽蔑しきった瞳が能力者達を見据えていた。
 ジャック・レイモンド駆るシェイド、此処を突破しないと偵察は行えず、やむを得ず押し合いを続けていた能力者達の前に現れたのがその存在だった。
 無論、コスプレなんかではない、機体にも伝わる悠然とした身のこなしも、不敵すぎる冷ややかな笑みも本人のモノである。
 【蕾】経由で、退却指令は既に全員へと伝わっている。しかし当然のように撤退戦という名の交戦は続き、アラブから次々と送られてきているのだろう、ワームの群れが押し寄せている。
 そして、それだけではない。
「ファーム、ライド……」
 殿に立つ【Simoon】の隊長、ラシード・アル・ラハルが普段よりやや低く――据えたような僅かに震える声で呟いた。
「苦労した割には報われなかったようだな、なァ?」
 応えるのは割と久しぶりかもしれない、柄の悪い少年の声。
 ジャックは前に立つその少年に対して首をすくめ、ノーコメントとばかりに口を噤む。
 立つのは【魚座】アスレード駆るファームライド、掲げるエンブレムは間違いなく本人である魚座のもので、それは以前見えた時と寸分違わぬ姿だった。
 確か前回の戦いにてUPC軍に鹵獲され、大量のダミーと共にラストホープへと輸送された筈だが……。
 疑問を問うより早く、陶然とした女性の声が響く。
「うふふ……ちなみに誰かのお下がりではなくってよ、まさかと思っていたのだけれど、本当に当たりを引いてしまうなんて」
 運がいいでしょう? 【牡羊座】ハンノックユンファランがシェイドの後ろから声を響かせ、機体を覗かせる。 「当たりを引いたのはね、この子。見覚えがあるでしょう?」
 赤い機体の傍にいるのは、やはり赤い機体だった。しかしそれはファームライドではなく、他にファームライドの機影は見えず、傍に佇むのはナイトフォーゲル……F-108、ディアブロ。
「うふふ……凄い皮肉よね、ファームライドを取り返したのがお仲間の元機体だもの」
 取り返したのは実力だけど、中身は偶然よ? そう無邪気に笑って彼女は微笑む。
 これの持ち主の名前、言ってあげましょうか、そう付け加えもして。
 ハンノックユンファランは話すだけで追いすがりもしない、アスレードが先んじてはしゃいでるせいか、ジャックも特に手を出すことはなく――後方にて傍観に徹していた。
 襲いかかってくるのはアスレード駆るファームライドとヘルメットワームのみ、しかしそれも数が増えれば厄介なもので、シェイドの後方にて漂うキューブが非常にうっとうしい。
 どこに潜んでいたかって……コンクリートに擬態して、あちこちに埋まっていたらしい、恐らく砂漠中あちこちに隠れているのだろう。
 気のせいか、遙か地平線から何か砲台のようなものも向かってきているような気がして、長居が禁物なのは確かのようだった。
 まずは最後尾の【蕾】が若葉【壱】に護衛されて離脱する、追いすがるワームを【Cadenza】が阻み、しかし勇み余りすぎたかアズメリア・カンス、黒江 開裡がアスレードに撃たれて負傷、【わんわんわんこ】に引きずられていった。
 指揮である鋼 蒼志までが傷を負い、最後まで壁になれば――と思うも、前衛がほぼ崩れ去ったことにより小隊ごと撤退を余儀なくされる。
 機体を惜しまず戦闘を仕掛け、負傷したイグニスは居合わせた木場・純平に回収され、欠員が続出して戦線が僅かに崩れるも、それは【ヘルム】がすかさず穴埋めを行った。
 B班が向かってくる敵を迎撃し、崩れかけた戦線をA班が押し戻す。C班は後退する面々の護衛を行いつつ、後退指示を出しながら、戦場周辺にも気を配っている。
「抜ける物なら抜いてみよ!私は護衛においてもエキスパートだッ!」
「ほう、言ったな?」
 ジーン・SBが叫ぶ言葉に反応したのはジャックの方で、前で暴れ回っていたアスレードを気にする風もなく――文字通り射線をちょっと気にしただけで――近づく事すらなく、範囲を抑えて射程を増やしたプロトン砲を狙い撃ちで放った。
 結果、【わんわんわんこ】と【ハニービー】の仕事が増えたのは言うまでもない、後ろで撤退状況ををうかがっていた叢雲が苦笑を漏らし、頃合いだと見ると、そろそろ下がってきませんかと殿の面々に回線を送る。
 まだ撤退していないラスト三組は【Simoon】【天衝】【ヘルム】、回線を受け、三班の面々は各個頷いた。
 三班共々戦線を下げ、【八咫烏】が下がったその後ろにつく。三班の内、尤も消耗が高いのは積極的に戦いを挑んだヘルムで、当然だが【八咫烏】の余力はまだ十分すぎる程ある。
「少しの時間くらい粘ってみせるさっ、早く行け!」
 すぐに追いつくからと、緋沼 京夜が撤退を促す。下がっても問題ないから、ここは自分たちに任せろ。小隊内で同時に交わし合うアイコンタクトはそれが確かである事を示す。
 撤退と同時に食い込まれては厄介だからと、叢雲の指令のもと、【八咫烏】が仕掛けた。
 不知火真琴が放つ試作型G放電装置が光を散らし、蓮杖 美影が84mm8連装ロケット弾ランチャーを叩き込む。
 【天衝】も攻撃に加わり、127mm2連装ロケット弾ランチャーを御山・アキラが放ち、ノビル・ラグが試作型G放電装置を機動させ、八神零が短距離高速型AAMで打ち据える。
 まだ終わらない、【Simoon】も幾度かの戦いで弾薬こそ消耗しているが、負傷度合い自体はそんなに高くないのだ。
 ノエル・イル・風花のアンジェリカが3.2cm高分子レーザー砲で破壊的な光の軌道を描き、藍紗・T・ディートリヒが同じく光の射撃でワームの大群に穴を開けた、ワームの攻撃はフォル=アヴィンに届く事が出来ず、装甲に弾かれて霧散してしまう。
 飽和どころじゃない猛烈な攻勢に、ワームの波がせき止められる。その隙を見て、各小隊から一斉に煙幕が上がった。
「行きますよ……!」
 誰が先、と言う訳でもなく、煙の帳を隠れ蓑に全員が一斉に方向転換を行う。
 ブースト点火、オン――指揮がなくても判っているのか、撮影隊や岩龍たちは先に離脱を済ませている。殿の面子は心置きなく全力疾走し、戦場シリアを後にした。

<担当 : 音無奏>


<映画による>
・死亡
アイロン・ブラッドリィ(ga1067)
リディス(ga0022)


・機体大破
メアリー・エッセンバル(ga0194)
レイラ・ブラウニング(ga0033)
カララク(gb1394)



・重症
ルード・ラ・タルト(ga0386)


<偵察による>
機体大破・重体
イグニス:ga6063

機体大破:
アズメリア・カンス:ga8233
黒江 開裡:ga8341
ジーン・SB:ga8197

負傷:
鋼 蒼志:ga0165
エル4:ga1877
エル6−2:ga1879
エル1:ga1874
エル3:ga1876
エル8:ga1881
エル2:ga1875
エル7:ga1880
白鐘剣一郎:ga0184
美弥:ga7120
稲葉 徹二:ga0163
ブレイズ・S・イーグル:ga7498
エル12:ga6488
エル009ノ1:ga6483
エル天(10):ga6485
エル15:ga6546
わんこ:ga5343
エル11:ga6486
エル13:ga6533
アンジェリカ 楊:ga7681
ラシード・アル・ラハル:ga6190
緋沼 京夜:ga6138
崎森 玲於奈:ga2010
御影・朔夜:ga0240
八神零:ga7992
ノビル・ラグ:ga3704
セン・カーン:ga6314
E・ジス・カーン:ga6318
ゴエイ・カーン:ga6315
センスイ・カーン:ga6317
コウ・クウ・ボ・カーン:ga6316
月影・透夜:ga1806
幸臼・小鳥:ga0067
羅・蓮華:ga4706



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