ジャングル・ザ・フロントミッション
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【JTFM】現在の状況

※8月3日更新

【これまでの共通OP】

――2009年10月

膠着した南米戦線に一つの変化が訪れた。
独立戦争時に南米で身柄を拘束したルイス・モントーヤが自白をしバグアの基地や戦力の情報が明らかになったのである。
UPC南中央軍のジャンゴ・コルテス大佐はこれを元にコロンビアへの先手を撃つことで流れを変えようと動き出した。

作戦コードは【JTFM=ジャングル・ザ・フロントミッション】。
泥臭いジャングルに傭兵達が集う‥‥。


――2009年11月末 クルゼイロ・ド・スウル基地

「作戦の方は順調に運んでいるようだな」
 ジャンゴ=コルテス大佐は葉巻を咥え、白い顎鬚を撫でながらコロンビアの地図上で動いた作戦地点を確認する。
 ボゴタ基地の大規模攻略作戦、カリ基地への大きな陽動作戦、メデジン基地へのローラー作戦などが実行され、そのどれもが成果を上げていた。
 ルイス・モントーヤからの情報もさながら傭兵達の活躍が大きいのはいうまでもない。
「国境部の偵察も行われましたが、まだコロンビアをこちら側に引き込めたわけではありません。エクアドルやベネズエラの反応が気になるところです」
 ジャンゴの隣では着慣れない軍服に身を包んだ南米らしい浅黒い肌でプロポーションのよい美女がたっていた。
 ミス・ボリビアでもあったソフィア・バンデラスである。
「一つの意見として取り入れておこう。元ミスが軍人となって作戦に参加するとは意外だな」
「周りが戦火に見舞われている中、中立国だからと閉じこもっているわけにはいきません。平和のために戦いたいんです」
「Soy bueno senorita(OK、お嬢さん) その気持ちを忘れるんじゃないぞ。次の作戦をはじめようか」
 娘ほどの年頃の女性の強い目にジャンゴは不敵に笑い次なる作戦へと動きをみせるのだった。


――2010年1月中旬 UPC本部

「コーヒー農園の解放と、ボリビアへの偵察など進んでいられるようですね」
 リネーア・ベリィルンド(gz0006)はUPC本部の受付で資料を整理しながら目の前の男に声をかける。
「こちらの被害も大きく、大きな作戦には動けていなかったが傭兵達がよくやってくれたよ」
 煙草をくわえ、火をつけようと男―ジャンゴ・コルテス大佐―はポケットからライターを出すも、禁煙の看板をリネーアに指差され手を引っ込めた。
「北米からのKVの輸送、KVと共有できるアストレア戦車の副武装の補充で戦力は整ってきた。これからどこへ動くか定めなければならないな」
「そのようですね。JTFM関係の報告書も多数上がってきていますし、依頼としてもいくつか出ています」
 ジャンゴは上層部への報告も兼ねてラストホープへと今、足を運んでいる。
 決して、美人オペレーターの顔を拝みにきたわけではない。
「少しでも被害を減らしながら戦おうと思うのであればボリビアと同盟や一時的な協力を取り付けたい。上はいい顔をしないだろうがな?」
 煙草をくわえ、口寂しそうに揺らしながらジャンゴはこれからのことについて吐露した。
「コロンビアもバグア領から競合地帯‥‥ゆくゆくは人類領へとなればいいですね?」
「エルドラドのユイリー代表がコロンビアと友好関係になりたいと張り切ってもいるようだからな。若いものを見習って年寄りがまず動かなければならない。」
 南米の平和のためにジャンゴは決意を新たにする。
 やるべきことはまだまだ多いのだから‥‥。


――2010年3月末 コロンビア

 コロンビアの三大バグア軍基地が陥落した後。
 強固な防衛力を誇るキメラ闘技場を除き、国内のバグア勢力は続々と周辺国へ撤退して行った。
 しかし、彼らが国内に残したキメラの総数は数百体とも言われ、これらは物資の流通を妨げ、住民達の生活を脅かしている。
 また、コロンビアの重要な収入源である石油や宝石類の採掘をも困難にしているのである。
 広大な国土を我が物顔で跋扈するキメラに困り果てていたジャンゴ・コルテス大佐が助け舟を出したのは、意外な人物だった。
 UPC南北中央軍中将のヴェレッタ・オリム(gz0162)である。
 彼女は、北米のとある場所に隠匿された『UPCキメラ研究所』の所長を兼任しているのだが、エイジア学園都市にある付属研究員養成校で使用する教材用キメラが不足している。
 つまり、その調達場所としてコロンビアに目を付けたらしい。
 キメラ闘技場の影響か、それとも南米の変化に富んだ地形のせいか、そこに棲息するキメラはバリエーションに富み、未だ研究も進んでいない。
 生け捕りにする必要は無いが、出来る限り大量に調達して欲しい、とのオリムの命に、コルテス大佐は、傭兵を動員した一大キメラ狩りを計画したのであった。


――2010年3月末 クルセイド・スウル基地

「ベルディット少尉が殉職か‥‥いや、今は二階級進んで大尉だったな」
「闘いに犠牲はあるのはわかっていますが、やり切れませんね」
 ジャンゴ・コルテス大佐の言葉にソフィア・バンデラス准尉は顔を俯かせて答える。
 多くの兵士が戦いで散っている中、いまだ自分は大きな成果を出せてはいないことが悔しくも悲しかった。
「だからといって准尉が無茶をすることはない、君には生きてこの戦争を感じてボリビアの民を救う手助けをして欲しいのだからな」
 ソフィアの心を見透かすようにジャンゴは優しい瞳で見つめてくる。
「そうですね‥‥私の国ボリビアは周辺諸国との戦争、内紛の他、百回以上のクーデターが繰り返されていました。バグアの圧力で前政権が倒れ今の中立体制になったのですがまだ国境付近では決着のつかない闘いがあります」
 自らの国のことを省みてソフィアはますます顔を俯けた。
「まずはその小競り合いに決着をつけてボリビアの民を安心させるところからだな。現在の政府のいう撤退の要求は受け入れたいがバグアの出方によっては難しいかもしれん」
「そうですね‥‥」
 ジャンゴの突きつける厳しい現実はソフィアを悩ませる。
 自分は国のためにこれから自分が何ができるのか‥‥。
 彼女は悩み続けていた。


――2010年5月末 クルセイド・スウル基地

「ボリビアは国王としてはUPCにつくという意志を見せたようだな」
 ジャンゴ・コルテス大佐は報告書を眺めながら火のついていない葉巻を咥える。
 4月に起きたアスレードの急襲を受け、ボリビアの流れは変わろうとしていた。
 しかし、内部へスパイが潜入していたことがあったりとUPC軍にもバグアの魔手がジワリと忍び寄っている。
 ため息でもでようとしたとき、ドアがノックされた。
「入れ」
「どうも、大佐。ラストホープでULTに対してボリビア国民に対する能力者発掘の支援要請をしてきたわよ」
 敬礼をするまでもなく、長年の付き合いでもあるかのようにレオノーラ・ハンビー(gz0067)は部屋に入ってくるなり事務的な報告を行う。
「副官が丁度出払っていてな、昔のコネで付き合ってもらってすまないな」
 コルテス大佐のほうも気にした風でもなく、娘でも見るような顔でレオノーラに答えた。
「カミリア少尉‥‥いえ、大尉ともそこそこ交流もあったからね。ボリビアへの協力が少しでもできればね」
「まだ、中立国ということを守ろうとするマガロ一派や、どうやらバグアと繋がっているらしいオニール・トランスポーターなど火種は多い。内戦が起きてしばらくは荒れるだろうがここを乗り切りたいものだな」
「ええ、コロンビアほど簡単にはいかないわよ」
 コルテス大佐とレオノーラは南米の地図の中央にあたるボリビアをじっと眺める。
 この小さな国が今、混沌を迎えようとしていた。


――2010年7月末 クルゼイロ・ド・スウル基地

「ボリビア国内も大分荒れてきたか‥‥副官がいないというのも困るものだな」
 ジャンゴ・コルテス大佐は窓の外を眺めながら一人ごちた。
 アスレードによる首都攻撃、キメラの発生や、能力者になろうとするものへの妨害工作。
 それらを乗り越えてきてはいるものの国が荒れれば国民の不安も募る。
 少年王のミカエルと摂政のマガロが意見をたがえていてはまとまるのも難しくなっていた。
「何よりも‥‥副官がいないと、どうも書類整理が滞るな」
 机の上に高層ビル街のようになっている書類を眺める。
 処理をしても仕切れないほどに雑務から、重要な案件までたまり始めていた。
「早いところ決着をつけたいものだ‥‥」
 それはバグアとの戦いか、書類の山なのか分からない‥‥。

――2010年11月 クルゼイロ・ド・スウル基地
 ブリーフィングルームでジャンゴ・コルテス大佐は映像を眺めている。
『‥‥ボリビア国王、ミカエル・リア(gz0362)としてここに宣言をします。我らボリビアはUPCへの加盟をここに宣誓し、協力することを誓うと』
 一部ではあるが報道されているボリビアの加盟式の映像であり、これによって南米の情勢が変わることを意味していた。
 8月から10月にかけての大規模な防衛作戦により、中立からバグアとの対立、そして戦いを行うことを若き国王が決めたのである。
『国民の皆さんにはこの決定に反対する人もいるかもしれません、この国は内戦の絶えない国でした。この数年中立を保つことで平和を手にして来ました』
 騒然としていた会場が静かになり、映像の中のミカエルはおどおどした様子を抑え、力強くしゃべろうと真剣な表情を見せていた。
『ですが、それは傍観者になるということです。国境の傍では同じように人々が苦しんでいます。平和のために戦っています。それを見過ごしていくわけにはもういかないのです!』
「いうようになったな、あの小公子も‥‥これも能力者と直接触れ合ったお陰だろうか」
 映像を眺めていたコルテスは髭をなでながら、15歳という若さながらに国王となった少年を見守っている。
『だから、戦いましょう。この国だけの平和ではなく、世界の平和のために‥‥。そのために皆さん協力してください!』
 頭を下げるとカメラのフラッシュに合わせて歓声と拍手が轟音のように響いた。
 そこで映像と共に自分の気持ちもコルテス大佐は切り替える。
「ここまでやってくれたのだから、答えてやらねばならないな。まずは隣国のコロンビアのキメラ闘技場からだ」
 地図に表示された一点を眺め、コルテス大佐は部下を呼び作戦会議を始めるのだった。

――『2011年 1月末 コロンビアのキメラ闘技場制圧』

 この一大転機はUPCの南中央軍にとって大きな成果だった。
 ボリビアの解放に続き、着実に南米からバグアの勢力を追い出すことに成功している。
 だが、コロンビア闘技場は崩壊し、貴重な研究資料等も破棄されていることから安心はできなかった。
 大規模作戦であるボリビア解放戦からベネズエラに動きはないが、エクアドルの多数戦力が沈黙を守っているのは逆に不気味であるy。
 未だに密林は最前線のままだった‥‥。
 
 2011年 2月 クルゼイロ・ド・スウル基地
「エクアドルからの進軍でカリを制圧されたか‥‥」
 苦虫を噛む顔でジャンゴ・コルテス大佐は報告書に目を通す。
 闘技場の陥落を目指して全軍に指揮をしていた隙を狙っての見事な作戦といえた。
 無論、こんなことができる人物は一人だけである。
「ソフィア・バンデラス(gz0255)‥‥いや、グローリーグリムだな」
 元補佐官として、傍らにおいていた女性の名前を呟き、コルテス大佐は眉間に皺を寄せた。
「今なら、まだ増援を食い止めることができる。すぐさま傭兵とKV部隊を借り出し、カリ基地を包囲するのだ」
 手を振りかざし、コルテス大佐は部隊に指示をする。
 補給も手早く、すぐさま次の戦いへ南米の戦線は動き続けていた‥‥。


 ――2011年 2月中旬 ラストホープUPC本部

「ん〜! 終わったわ」
 リネーア・ベリィルンド(gz0006)はパソコンに座って固まった体を伸ばした。
 両腕を上にもっていったため、自然と胸を突き出す形となり、たゆんと盛大にゆれる。
 彼女が作業をしていたディスプレイには南米の連動作戦『ジャングル・ザ・フロントミッション』の資料がまとめられていた。
「そういえば、この時期に尋ねてくる人もいたわね」
 ふぅと、息をつくと膨大な資料をまとめたものを提出に向かう。
 依頼の数も30を超えていて、見直してみればその流れも一つの歴史といって過言ではないレベルだった。
「人々の心を変え、国を動かした‥‥。能力者の力って本当にすごいわ」
 自分とは違い命を奪うだけではなく救ってきた能力者の奮闘に思わずリネーアは頬をほころばせる。
「けれど、犠牲がないわけではないし‥‥ここからが正念場かもしれないわ」
 ベルディット=カミリア(gz0016)大尉を筆頭に、UPC軍も優秀な人材を失ってきた。
 その分、敵もキメラ四天王やバグア四天王などの手駒を失っている。
「私の戦いはここで能力者達を送り出すこと、そして事務作業よね」
 提出用データを印刷してリネーアはデスクから立ち上がり、執務室へと向かうのだった。

――2011年3月 クルゼイロ・ド・スウル基地

「ソフィア・バンデラスは逃したもののカリ基地での包囲戦は我々の大勝だ。これだけの損害を与えればバグアももうコロンビアへ干渉するだけの余力はないだろう」
 ジャンゴ・コルテス大佐はブリーフィングルームに集まっている兵士達に向けて告げる。
「よって、こちらからも攻め手に入る。被害があるのはこちらも同じであるため、先ずは現状を片付けていく」
 大きなテーブルの真ん中に広げられた地図に駒を置いてコルテス大佐は説明を続けた。
「現在のところ逃亡中のキメラ四天王などを片付ける。コロンビアでのことはここで清算して次の勝負へと出る」
 ニヤリと片方の口元だけを上げたコルテス大佐の顔に思わず笑いをこぼすものもいる。
「そして、今後はコロンビアから逃走先であろうエクアドルへと軍のKVの修繕を済ませて出撃を行う。これにはグランマーゴイも投入し、決着に向けて一歩優位に立つべく動くぞ。作戦は以上だ、休めるものは休み、エクアドルへの出撃体制を整えてくれ」
 大まかな南米戦線『JTFM』の終わりまでの道筋が見えてくる。
 密林の覇者となるのは、人か、バグアか‥‥。


――2011年4月。
 カリでの包囲戦に勝利した事によりコロンビアの地からバグアの拠点を一掃してから、およそ1ヶ月。
 その間、コロンビア国内ではバグアの残存戦力の掃討と戦力の回復が行われた。
 バグア側もキメラ四天王のケットシーを暗躍させて兵糧攻めを行い、バグア四天王のティルダナがUPC南中央軍を退けるなど一部では奮戦したものの、人類側に大きく傾いていた大勢の流れを変えられる程ではなかった。
 そしてこの1ヶ月の間にUPC南中央軍はコロンビア各地の戦力を集結、どうにかエクアドルへ進攻する体勢を整えたのだった。

 事前に行っていた先行偵察により、エクアドルの首都であるキトに到るまでの間に3つの拠点がある事が判明している。
 セオリーに従えば各拠点を各個に潰してゆくのがベストであるが、この3つの拠点は相互距離が近く、1つの拠点を攻めている間に他の拠点から増援が送られて挟撃される危険性があった。
 そのため、UPC南中央軍の総司令であるジャンゴ・コルテス大佐は戦力不足は傭兵部隊で補い、3つの拠点を同時攻撃を敢行する事を決意する。

 こうして、エクアドルをバグアから解放する最初の侵攻作戦が開始されたのだった。

――2011年8月 エクアドル某所。

 UPC南中央軍大佐ジャンゴ・コルテスが、【ジャングル・ザ・フロントミッション】の最高責任者に任じられたのは、2009年秋の事だった。
 コロンビアを奪還し、ボリビアをバグアの魔手から守り、ギガワームを叩き潰し、カリ基地への奇襲にも打ち勝ち、彼らはこのエクアドルまでやって来た。
 無論、進軍は困難の一言に尽きたが、彼らはULT傭兵と共に数々の障害を打ち破り、進み続けた。
「傭兵達に協力を求めたのは、正解でしたね」
 傍らの副官ボリス中佐が呟き、夜空を見上げた。
「南中央軍は、物資も資金も乏しい。傭兵を積極的に起用した、あなたの方針は正しかったのでしょう」

 グアヤキルは、もう目と鼻の先だ。
 そこには、南米バグア軍総司令官ソフィア・バンデラスが居る。
 これは決戦になるだろう。誰もが、そう考えていた。

 人類側の進軍ルートは、三方向。北からグアヤキルに進攻する本隊と、チリ海兵隊を中心とする南方プナ島への上陸部隊、ペルーを通り敵の退路を断ちつつ南東を攻める増援部隊だ。
「ソフィアか‥‥」
 かつての副官の顔を脳裏に浮かべ、コルテスが言う。
「折角、ボリビアを守り切ったんだ。あいつを、祖国の土に埋めてやりてぇな」
 驚いた顔をして、それから静かに頷いたボリスを見つめ――男は、手の中のテキーラを飲み干した。



 ――2010年3月某日。


「なあなあリネーア君、今JTFMの状況ってどうなっとるんや?」
 リネーア・ベリィルンド(gz0006)に気安く語りかけたのは、南米でゲリラを率いている新米能力者エイシャ(gz0282)であった。JTFMとは南米での軍事行動を示す作戦コードで、ジャングル・ザ・フロントミッションの略である。
「目下コロンビアを制圧中。ボゴタ基地、カリ基地と言った敵の主要な基地を落として、今は残ったメデジン基地を攻略している最中よ。あとは内地平定。コロンビアの主力産業でもあるコーヒー農園もエイシャさんのゲリラと傭兵のみんなが協力して局所的ではあるけど解放したし、あとコロンビアで注目すべき点と言えば、キメラ闘技場かしらね?」
「キメラ闘技場?」
「ええ。新型キメラの性能チェックや、バグア派の人類のための娯楽施設で、ペルーとの国境付近のジャングルにあり、道もわかっているわ。でも強力なキメラや強化人間、バグア兵が多数いるせいで、UPC軍としては手をこまねいている状態なのよね。現状では警戒を強めながら動向に目を光らせていると言ったところかしら」
 リネーアはそう言うと溜息をついた。
「この間もキメラ闘技場に偵察を送り込んだみたいなんだけど、逆に人質に取られてしまったの。派遣されたのは、みんな実力を持った能力者だったのにね」
「そうなんか。うち知らんかったわ。で、内地平定のほうは進んでるんか?」
 エイシャの問いに、リネーアは否と答えた。
「コロンビアの戦力は充実しているんだけど、メデジン基地はまだ落ちていないし、周りの国から偵察のHWが飛んできているし、野良キメラもたくさんいるし、まだまだ競合地域。人類領とは言えないわねー」
「大変やなぁ‥‥そう言えば、バグアの偉いさんがコロンビアに来とったな」
「グローリーグリム(gz0255)ね。ケットシーと名乗る猫型キメラをお供にしているわね。UPCでは彼が南米バグア駐留軍の総司令官だと見ているけど、前線に出てきて生身でKVを相手にするとかとんでもない強さを持っているわ」
 グローリーグリムは異性人型の、戦斧を武器とするバグアである。今までのデータからその強さは最低でもゾディアックレベルと見られており、十分な警戒が必要とされる。また、ケットシーは身長が1.5m程で二足歩行をする黒猫型キメラで、巧みに人語を操る知能の高さから、キメラ闘技場における最上位のキメラではないかと考えられている。だが、戦闘にはほとんど参加せず、グローリーグリムについて回っているだけのため、その強さは皆目不明である。
「リネーア君よう知ってるなぁ」
 エイシャが感心すると、リネーアは「これでも報告書には一通り目を通していますからね」と微笑んで見せた。
「ほかにも教えてあげましょうか? たとえば周辺諸国の情勢。最近新しい動きがあったのはボリビアね」
 中立国ボリビア。クーデターで成立した新しい政権が牛耳る国だ。今は15才の国王を据え、摂政が政治を取り仕切っていた。
 ボリビアに変化が訪れたのはコロンビアが陥落しつつある状況を見て、国王のミカエル・リアがUPCにつくべきかバグアにつくべきか、揺れ始めたからである。これに対し摂政のマガロ・アルファロは中立を貫くべきだと主張していたが、そのマガロに暗殺の危機が迫ったのだ。
「摂政を暗殺して国王を武力で脅せば、容易に国の意見は変わります。バグアの拠点に変えてしまうのに労力は掛かりません」
 当時護衛を担当したフェリックス大尉の言葉である。
 それを防ぐため、元ミス・ボリビアでありUPC南中央軍のジャンゴ・コルテス大佐の補佐官でもあるソフィア・バンデラス准尉の働きかけで、一個大隊がボリビアに派遣され、10人の傭兵がそれに従った。
 中立のボリビアにとってUPCの助力を得るのは苦渋の選択だった。だが、現在のボリビアは、能力者どころかSES内蔵の武器すら有しないのだから、強化人間1人を排除できるかさえ怪しかった。物理的に暗殺を防ぐ手立てが無い故の選択だったのである。
「で、どうなったんや?」
「護衛の任務は無事成功。現在も護衛は継続中よ。コルテス大佐はボリビアとの同盟や一時的な協力関係を作り上げたいようね。上層部はいい顔をしないでしょうけど。ここ最近のJTFMの動きといえば、こんなものかしら?」
 リネーア溜息をつきながらそう言った。上層部との折衝に苦悩するであろうコルテス大佐に同情してのことだった。
「わかった、いろいろとありがとな」
 エイシャは礼を言うと、本部を後にした。ジャングルへと帰るために。




 ――2010年8月某日。

「やあお嬢さん。忙しいとこ悪いんだが、今の【JTFM】――『ジャングル・ザ・フロントミッション』の状況を教えてくれるかい?」
 UPC本部のリネーア・ベリィルンド(gz0006)を訪ねてきたのは、メルス・メス社の営業社員リカルド・マトゥラーナ(gz0245)であった。
 その目的は、2009年秋より南米で展開中の一大侵攻作戦――『ジャングル・ザ・フロントミッション(通称【JTFM】)』の概要と現在の状況を知ることである。
 チリに本社を置くメルス・メス社にとって南米の情勢を把握することは危機管理という観点で重要であり、同時にビジネスチャンスでもあるのだ。
「カリ、メデジン、ボゴタ基地を攻略したコロンビアでは、既に人類による統治が再開されています。都市部を除いて野良キメラが歩き回っている状況ですし、まだ競合地域の域を出ていませんが、UPC軍とULT傭兵の協力でキメラ狩りが進められていて、少しずつですが治安も向上していますよ。隣接するバグアの要塞国家ベネズェラの動向が気になりますが、今のところ、コロンビアへの偵察以上の行動は見せていませんね」
「そうかい。じゃあコロンビアは平和に向かってるってわけだな」
「ええ‥‥キメラ闘技場は除きますが」
 リネーアの返答に、キメラ闘技場について良く知らないリカルドは、カウンターに片肘をつきながら首を傾げてみせた。
「ペルーとの国境付近のジャングルにある、バグアと親バグア派の娯楽施設です。その所在も判明していますし、潜入した傭兵もいるのですが‥‥どうやら、そこはキメラの研究施設も兼ねているようですね。強固な防衛戦力に阻まれて、UPC軍も安易に攻撃出来ずにいます」
「そいつぁ物騒だねぇ。‥‥そういや、南中央軍のアイドルにスキャンダラスな事件があったって話は?」
 一通りコロンビアの状況を理解した後、リカルドが思い浮かべたのは、【JTFM】を指揮するジャンゴ・コルテス大佐の傍らで微笑んでいた美しい女性准尉の事である。自社機体の売り込みに行った先で何度か顔を合わせた程度ではあったが、その後彼女の身に起きた事件については、リカルドの耳にも届いていた。
「コルテス大佐の補佐官――ソフィア・バンデラス(gz0255)准尉ですね。彼女は残念ながら、メデジン基地の残敵掃討任務中に襲撃を受け、『グローリーグリム』というバグアに憑依されてしまったようです。バグアと化したソフィア准尉が、南中央軍の情報をバグア側に流していたという報告があります。それに、UPC軍では、彼女が南米バグア軍の総司令官だと考えていますね」
「‥‥なるほど、な」
 リネーアの話を聞き終わり、珍しく沈痛な面持ちで息を吐くリカルド。
 母国を救いたいと、使命感溢れる瞳で語っていたソフィアの姿を思い出し、行き場の無いやるせなさが募る。
「それから、現在大きな動きがあったのは、中立国家のボリビアですね」
「ボリビア、か。ULTの援助を受け始めたって話は本当かい?」
「ええ、本当です。ボリビアは、建国以来クーデターや内乱の絶えない国でした。バグアの圧力で前政権が瓦解し、現在は王制を敷いていますが、2007年に中立を宣言して以降、人類にもバグアにも味方しない状態を保っていました。ですが、【JTFM】発令以来、コロンビアを失ったバグアがボリビアへの武力行使を始めたんです」
 真剣な表情で説明するリネーアを見つめ、リカルドは小さく何度も頷いてみせた。その顔は、敏腕営業社員が兵器販売ルートを考えているようにも、ただの好奇心旺盛な中年男性が野次馬根性を働かせているだけにも見え、真意が読み取れない。
「そうかい。ってことは、ボリビアはUPC加盟への動きを見せてるってことだな?」
「そういう見方もできますが‥‥」
 リカルドの問いに、リネーアは困ったような顔で首を横に振った。
「ボリビアの現政権で実権を握っているのは、強硬な中立派のマガロ・アルファロ摂政なんです。彼は、UPC軍の軍事介入を極端に嫌い、こちらとしても、『エミタ適性検査と移植手術の提供』『支援物資やSES兵器の寄付』、この二つを、軍ではなく、あくまでも『ULT独自のボリビア国民支援活動』として許可してもらうしかありませんでした。しかし、国民や議員の間では少しずつUPC加盟への動きが広がっています。親バグア派の暗躍も囁かれているようですから、UPC軍としては出来るだけ早く、ボリビア国内での駐留を実現したい‥‥といった状況です」
「‥‥なるほど。一筋縄ではいかねぇ事情があるって事だな」
 パタパタと扇子で胸元を仰ぎながら、呟くように言うリカルド。
 リネーアは、そんな彼をカウンター越しに見つめ、オペレーターらしく微笑んでみせる。
「あとは、ブラジルのマナウスですね。バグアの占領地になっていましたが、彼らがベネズェラに撤退した今、その施設跡を利用して人類側拠点の構築が進められていて、間もなく、基地として機能を開始するそうですよ」
「そうかい。そりゃ、格好のビジネスチャンスかもしれないな。部下に営業行かせてみるかねぇ」
 リカルドはポン、と手を打つなり、急にいつもの昼行灯状態に戻ってしまったようで、一言リネーアに礼を言うと、ポケットに手を突っこんでフラフラと歩いて行ってしまった。
「じ、自分では働かないのね‥‥。あら、いけない。また【JTFM】の依頼が来ているわ」
 リカルドを見送ったリネーアは、ディスプレイに映し出された依頼内容を確認し、慌てて仕事を再開する。


 そして今日も、幾人かの傭兵達が南米を目指し、高速移動艇に乗り込んで行くのであった。



――2011年 2月某日。

「やぁ、リネーア女史、久しぶりだね。また南米戦線の最新情報を教えてくれるかい?」
 UPC本部のリネーア・ベリィルンド(gz0006)を訪ねてきたのは、メルス・メス社の営業社員リカルド・マトゥラーナ(gz0245)であった。
「リカルドさん、丁度半年ぶりですか? その話題は‥‥昨日資料のまとめができたところですよ」
 帽子を軽く押さえながら話しかけてくるリカルドにリネーアは笑顔で資料の読み出しをはじめる。
 南米戦線最大の作戦といえば、ジャンゴ・コルテス大佐が主導している【JTFM】――『ジャングル・ザ・フロントミッション』だ。
 半年前の8月にリカルドが尋ねてきた時は、コロンビアのバグア拠点であるカリ、メデジン、ボゴタ基地を攻略して暫くの頃であった。
「キメラ闘技場の陥落もあって、コロンビアのバグア軍は壊滅しているといっても過言ではありません。野良キメラの掃討も進み、コロンビア国内はかなり治安が向上していますね」
「以前にも説明を受けたが、キメラ闘技場はペルーとの国境付近にあったバグアと親バグア派の娯楽施設だったね」
「キメラの研究施設も兼ねていましたが、昨年末から今年1月にかけ、大きな攻略作戦が行われました。四天王と呼ばれるキメラ、バグアが数名敗走したようですが、闘技場は爆破され、物理的にも崩壊しています」
「なるほど、キメラの研究資料等は瓦礫の下ということかな?」
 強固な防衛戦力に阻まれていると聞いていたため、リカルドは意外そうに口笛を吹く。
 しかしながら、メルス・メス社の社員としては『情報』という資源の有無が気になってもいた。
「残念ながらそうなります。ただ、戦闘を行った傭兵の話では脱出への時間稼ぎを行うと四天王の一人サント・マスカラードが言っていたようですので、バグアの手で多くの資料が持ち出された可能性もあります」
 リネーアは報告書の内容を確かめつつ、リカルドに説明する。
「ビジネスチャンスが一つなくなったというわけか‥‥実に惜しいね」
「他の話もあります。周辺諸国の動きですが、昨秋、大規模作戦『ボリビア防衛作戦』が行われました」
「初の南米大規模作戦だったね。戦場の泥沼化でバグアも本腰を入れていなかった南米だが、そうも行かなくなったと‥‥」
「はい、コロンビアの基地を取られたバグアとしては、ベネズェラとエクアドル間で戦力の分断が懸念されました。中立国のボリビアがUPC側に傾くことを嫌うバグア勢力により同国への干渉が始まり、UPC軍もまた、同国にUPC加盟を働きかけました」
「中立の姿勢を示すために、ボリビアの地下に眠っている資源をどちらの勢力にも輸出しない政策をとっていたんだったね。まあ、バグアにすれば、そんな政策に義理立てして手加減してやる気は毛頭なかった、ってことか」
 ジョリジョリと音を立てつつリカルドは顎鬚を撫で上げた。
「そうですね。アスレードによる首都への突撃作戦などで威圧し、更にはべネズェラのネブリナ山要塞からの巨大砲『シパクトリ』による威嚇射撃も行われました」
「確か、シパクトリ発射と同時に、ボリビアがバグアの宣戦布告を受けたんだったね。そこでUPC軍が加勢して、大規模作戦が発令されたってわけだ」
「その通りです。そのときには兼ねてより能力者との打ち合わせで計画されていたワンオフKV『グランマーゴイ』が出撃したという報告もあります」
「ああ、うちの会社で作ったあれね。デザインとしては悪目立ちすぎてどうかと思うけど‥‥ジャミング装置がそろっているのは好評らしいね」
 能力者との意見のすり合わせの末、半年をかけて完成したグランマーゴイはボリビア防衛作戦の一部を担う活躍をしている。
「ボリビア防衛作戦では、ゼオン・ジハイドの一人であるキュアノエイデス(gz0324)の死亡が確認されています。ギガ・ワームと融合した末に、ULT傭兵達の活躍で撃破されたようですね」
「その辺も大変だったようだね。そうだ、ソフィア・バンデラス(gz0255)は未だに健在だったか」
 ジャンゴ・コルテス大佐の補佐の任に就いていたソフィア・バンデラス准尉は、メデジン基地での作戦行動中にグローリーグリムと呼ばれるバグアの憑依を受けている。そして、現在は南米バグア軍の総司令官の地位にあると考えられているのだ。
 UPC軍内の事情に詳しい彼女がヨリシロとされた事は、南米のUPC軍にとって非常に痛手であった。
「厄介な敵は健在か‥‥これは忙しくなりそうだ」
 けだるげな顔を向けるリカルドにリネーアは真剣な顔で話を続けた。
「ソフィアは現在、キメラ闘技場へ戦力が集中している隙を狙って、カリ基地を制圧しました。UPC軍はカリ基地を包囲し、そこに駐留するバグア戦力を殲滅する方針のようです。ヴァルキリー級二番艦のヴァルトラウテも動いています」
「まだまだ油断はできない、といったところかねぇ。説明ありがとうさん、お嬢さん」
 リカルドは粗方の説明を聞き終えるとスーツの襟元を正して、きびすを返す。
「南米に戻られるのですか?」
「もちろん、ジャンゴ大佐にうちの商品を売り込んで、早く南米を平和にしてもらわないと困るんでね〜」
 片手をポケットにいれ、空いた手を振りながら振り返ることなくリカルドはUPC本部を後にしたのだった。





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