グラナダ要塞攻略作戦
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クリス・カッシングの演説


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●堕落者の論理

「私はカッシング。ルーマニア科学アカデミー正会員のクリス・カッシングだ。肩書きには、元がつくやもしれぬがね・・‥」

 それは、イベリア半島全域に渡る一方的な通信だった。テレビやラジオ、短波・長波、軍用・民生問わずに流れる、甲高い老人の声。

「・・‥私は今宵、わが同胞たる人類諸君に1つの問いかけをしようと思う。君たちの最後の希望たる能力者、そしてそれを生み出すUPCは信頼に足るのか、という問いを」

 ペッ、と中年の男性士官が唾を吐く。普段ならたしなめるはずの女性士官も、今はそれを忘れて立ち尽くしていた。見上げた空は薄暗く、晴れ間は見えない。

「彼らは私を、非道な人体実験を行う悪と断罪する。しかし、彼ら自身が生み出している能力者の安全性は、誰か確認したかね? 私の知っている限りで言えば、調整を定期的に行わねば暴走、発狂、あるいは死に至る不完全な存在であるはずだ。そして、UPC上層部は口をつぐんでいるが、私はあえて話題に上げたい事がある。世界を守る為に立ち上がった彼らの余命は如何ほどかね? 彼らは子孫を残す事が出来るのか? 彼らはまだ、我々と同じく人類なのか? と」

 暗い室内で、膝を抱えてテレビ画面に見入る幼い双子。バックライトに照らされたその横顔はいつになく真剣だった。その背後、ソファに横たわった青年は退屈そうに天井を見上げる。

「‥‥あえて言おう。UPCとは、同胞たる人類を怪物に変えてまでなお、既成の地位権力にしがみつく愚か者を守る為の軍隊である、と。人類の進化について、我らがエミタ嬢は先日、趣き深い演説を行った。だが、私は進歩について語りたい。旧態依然の下らぬ権力闘争を続け、旧世紀には人類を二度の大戦に導いたイデオロギー社会を脱しなければ、人類に進歩はない。‥‥その為に変革の鉄槌を下してくれるのが、外来者たるバグアなのだ」

 ざわめく所員の中、白衣の少女は目を閉じてその声に耳を傾ける。呆れたように見下ろす青年を気にもせず、少女の表情は恍惚としてさえいた。

「UPCの執拗なプロパガンダに怯える大衆諸君。バグアを不当に恐れる事は無い。彼らにとっての価値は、君達のもつ財産や生命にはないのだから。バグアの支配を受け入れたとしても、諸君の99%は昨日までと何も変化を感じないはずだ。いや、大いなる変化があるというべきか。もはや流れ弾に殺される事はなく、権力者に不当に搾取される事もなく、無意味に飢える事もない。真実の自由を謳歌できる事を、この私が保証しよう」

 銀髪の男は、どっしりした作りの椅子に背を預け、盟友の声へ耳を傾ける。その手が掲げた深紅のグラスに、静かな微笑が映りこんでいた。

「残りの1%‥‥、バグアに選ばれたものにとっては、変化は劇的かつ逃れられぬものかもしれない。誤解を怖れずに言うならば、彼らは人類の生体的上位者、捕食者なのだ。しかしながら、選ばれた事に胸を張り、誇るがいい。彼らが価値を見出すのは、個人の智慧のみなのだから。彼らが捕食に至るのは、候補者が死ぬか、思考が停止してそれ以上の進歩が見込めない場合のみだ。‥‥コレはある意味、知性ある者にとって死よりも不快な停滞から救ってくれている、と言えないかね」

 静かなカウンターで、男は眼鏡の奥の目を細めた。見せた反応は僅かにそれだけ。後は流れてくる声に一顧だにせず、怜悧な青年は手元のグラスにそっと口をつける。

「私は、グラナダで半年待った。君たちが真実に目を向ける事を。あるいは、耳を傾ける事を。だが、頑迷な軍人はいまだ砲火を交えたがり、我らの寛容に付け込んで盗んだ勝利を声高に喧伝する。理性と融和による平和的解決を信じて軍を下げた私を嘲笑うかのように、彼らは我が同志スコルピオをグラナダの空で討った。私は今、悲しみに満ちてこう宣言せざるを得ない。同志の流された血を無駄にせぬ為に。そしていまだイベリア半島を鉄と火で支配し続けるUPCに我らの寛容にも限りがあると教えるために」

 瀟洒な別荘で耳を傾けていた女は、不意に身を起こした。黙考の時間は終わりだ。戦の匂いと、流血の気配を感じて彼女は微笑を浮かべる。それは妖精のように無邪気な笑みだった。

「‥‥私は、明日をもってイベリア半島全域における全面攻勢に転ずる事を、ここに宣言するものである。UPCの将兵諸君、並びに傭兵諸君。君たちが戦うべき大義がその旗の下にあるか熟慮したまえ。民衆諸君、一日の猶予をどうか有意義に活用して欲しい。ひとたび放たれたメギドの火は、焼き尽くす相手を選びはしない。君たちを守る事が出来るのは我々か、旧指導者か。私は同じ地球に生を受けた同胞として、どうか貴君達が誤った選択を為されぬ様、心から願うものである」

 ある者は冷笑し、またある者は怒りを胸に、『人類の敵』の声を聞く。しかし、彼の声を耳にした多くの力なき人々は、不安に暮れる目で天を仰ぐしか出来なかった。



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