カプロイアの職人の
朝は早い

 カプロイアの職人の朝は早い。
 朝起きると最初にするのは子供たちの朝食を作ることだ。
「こんなご時世だからね、男たちはみんな戦場に行っちまって」
 一家を守る母親と最先端兵器ナイトフォーゲルを作り出す職人。
 彼女達はそんな二つの顔を持つ。
 子供たちを学校に送り出すと、入念な素材のチェックを始める。
 大きな製造機械は使わない。代々受け継がれてきた職人の道具類のみで材料を加工し、組立ててゆく。
 だから、どんなにがんばっても1ヶ月に限られた数しか作れない。
「コンピュータ制御の機械類で作ったんじゃ、魂がこもらないのよ。 1から手作業で作る事で魂のこもったナイトフォーゲルが出来るのよ。伯爵さんはそれがよくわかってるの」
 「伯爵さん」と総帥・カプロイア伯爵を親しげに呼び、職人は笑いながら語る。 カプロイア社のこだわりのナイトフォーゲルは、こうした信念から作られている。
 しかし、先日発売されたA-1ロングボウの製造はドローム社の大量生産のラインに委ねられた。
「ロングボウをね、製造をドローム社に任せたっていうのは、やっぱり悔しいわ。あたし達こそが全線の兵隊さん、旦那や恋人や息子を守ってるんだって、そう誇ってたからねぇ。
‥‥でも、それも時代の要請なのかもしれないわね」
 そう語る職人の横顔は寂しい。
 夕方になると子供たちが学校から帰ってくる。
 ナイトフォーゲルの油で汚れた手をきれいに洗うと、次は夕飯作りで大わらわだ。
 食事の前には必ず祈りを捧げているという。
「天にまします我らが神よ。あなたは我々に今日も仕事とパンを与えてくださりました。女の手を使って戦闘兵器を作る罪深き私どもをお許しください」
 ナイトフォーゲルの製造には誇りとともに罪悪感も感じている。

 そんな職人の元にA-1ロングボウが帰ってきた。伯爵の指示により、自社製造によるロングボウの限定生産が決定したのだ。
 職人たちは自分たちこそが元祖であるという想いをこめて、形式番号を「A-0」、名を「フェイルノート」と改めた。
 彼女たちが丹念に作り上げた白銀の騎士「A-0フェイルノート」は販売できる数が揃わない為、遊技場の景品に並べられる見通しだ。

(編集部注・本記事は記者の個人的な“印象”を語ったもので、全てが事実ではありません)
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