MX-Sコロナ
●小型・高性能
 メルス・メスのKVは、以前より大型のものは少なかった。
 劣悪な環境として知られていた南米戦線を支えていたメルス・メスにとって、兵器とは強力である以上に、使えなければ意味のないものだった。
 機体の大型化は開発工程とパーツ数の増大を招き、整備の煩雑さとイコールであるとすれば、メルス・メスの目指すKVの方向性は自ずと定まっていたといえよう。
 しかし、KVの黎明期にドローム系の技術を導入して開発した『GF−106ディスタン』の整備性はよいものとは言いがたいものであった。当時の高性能機と呼べる性能ながら、ドローム社からの人材受け入れなどもあり、兵器としての総合力では習作という面が強かったといえる。
 しかし、ディスタンの開発・運用によって得られた経験により、以降のメルス・メスは整備性というものを常に意識して機体開発に臨むこととなる。
 特に、MX−0サイファーからMC−01ソルダードへと繋がる『Type−M』と呼ばれるKVシリーズにその特徴は顕著であり、中でも『次期主力』を謳ったソルダードの整備性は非常に高いという。
 この整備性に、機体の小型化が果たした役割は決して小さいものではない。
 また、機体の小型化はエンジン出力の余裕にも繋がり、高い加速性能と機動性の元ともなっている。
 昨今のKVの進歩を「恐竜的な進化」と呼んだのはメルス・メスの某営業マンだが、大型・高性能化というその潮流に流されなかったメルス・メス開発陣の意地が、小型軽量機という独自路線を堅持させた。
 近年の宇宙用KVの実用化において、兵站管理の観点からKVを一定サイズ以下に統一する流れがあり、S-01リヴァティーを筆頭に「小型」KVが台頭している。しかし、地上最強を誇る幾つかの機体から性能的に見劣りすることは否めない状態である。
 結果として、メルス・メスは時代を先取りしていた形になるのかもしれない。コロナという宇宙用の高性能KVをいち早く、完成させることができたのはまさにこの為である。

●ハイロウ
 MX−Sの能力の全てはハイロウに集約されていると言っても過言ではないが、それはハイロウが当機の最大の弱点とも言えること意味する。
 その対策として、宇宙戦闘用の簡易ブーストによって発生する余剰練力によって、ハイロウは常時薄い斥力場で守られている。
 これにより、いわゆるデブリなどのダメージからは完全に防護されているが、流石に敵の攻撃に対する防御力は機体と同等である。
 もっとも、これだけ高度で複雑なシステムの強度としては、それでも常識外であろうが。
 また、機体とハイロウは相互に独立しており、整備の際はハイロウを丸々交換することも可能だという。
 ハイロウそのものは工芸品に近い代物ではあるが、最低限の整備性と生産性はこうした形で確保されている。

●ディメンジョン・コーティング(DIMMC)
 機体の防御性能に比例して出力が上昇する、という特性を持つDIMMCの元となったのは無論フィールド・コーティング(FC)であるが、実際の母体となったのはMX−0サイファーのFCではない、という情報には恐らく驚きが伴うであろう。
 DIMMCの母体となったのは、MX−Gフォルタレーザ(開発コード『フォートレス』)のフィールド・コーティングB型、拡散型FCと呼ばれるタイプである。
 これは周囲の場に斥力フィールドを張り巡らせるもので、効果は弱まるものの、フィールド内の全ての対象を防護する能力だ。
 つまり、「特定の一対象」ではなく「特定の場」に対してフィールドを展開するという原理。
 「DIMMCは、そのちょっとした応用」と開発者のフィリップ=アベル博士は述べている。

 なお、メルス・メス社はディメンジョン・コーティングの略称をDCとしていた。しかし、銀河重工製のディフェンスコーティングが既にDCの略称を使っていた為、DIMMCが略称となった。

●MXシリーズ
 メルス・メスの高級機、つまりフラッグシップモデルという位置づけのMXシリーズは、その代表機としてMX−0サイファーが挙げられよう。
 実際に傭兵向けの販売がなされているのはこれだけだが、正規軍のみ、そして実験機も含めれば機種は3つが存在する。
 1つは前述のサイファー。もう1つは、UPC北中央軍に少数が配備されているMX−Dエリミナル。最後が、実験機であるMX−Gフォルタレーザ。
 このいずれもが、高い機体性能と、最先端技術の一角である斥力制御系の特殊能力を備えた高性能機だ。
 MX−Sコロナの直接の母体となったのは、このうちのサイファーであるが、前述のとおりDIMMCに関してはフォルタレーザの影響が大きい。
 残るはエリミナルだが、実はコロナにはそのデータも活かされている。
 エリミナルは珍しい多脚型のKVであったが、それは『多脚による地上・空中を問わない姿勢制御のテストモジュール』が必要だったからだ。
 つまり、無重力空間における姿勢制御に通じる機動実験である。
 これはエリミナルの特異な戦闘機形態から、ある程度の予測をつけていた関係者は多いという。
 また、同機は『セイス・プラーガ』という専用兵装、いや、その兵装を運用するための専用KVであったが、その設計思想がハイロウに大なり小なりの影響を与えたことも事実である。
 このようにMX−Sコロナは、メルス・メスの宇宙用旗騎であると同時に、MXシリーズの集大成でもあるのだ。

●フォルタレーザ
 MX−Gフォルタレーザは、初期生産型の数機がロールアウトした段階で開発が中止されている。
 時期的にはボリビア解放直後であり、南米における喫緊の課題が解消したこと、同時期に開発されたMC−01ソルダード、及びレアル・ソルダードにリソースを集中するべきと上層部が判断したこと、以上がその理由とされている。
 一見もっともらしい理由に見えるが、その実は当時のメルス・メスには並行して異なる機種の機体を開発できる程の体力がなかった、と見ることもできる。
 結局、ソルダードの生産が軌道に乗り、南米が比較的落ち着きを取り戻した後も、フォルタレーザの開発が再開されることはなかった。