GSS-04タマモ
●FETユニット
 タマモの特徴はエミオンスラスターの一種であるFET(Flexible Emion Thruster)ユニットにある。
 奇しくもエミオン研究の雄であるメルス・メス社のコロナと同時発売となったタマモであるが、両社それぞれの特徴を持ったエミオンスラスターの対比は非常に興味深いものであるといえる。
 非常に強力なコロナのエミオンスラスター「プロミネンス」を完成させたメルス・メス社に比べると、銀河重工が保有するエミオンスラスターの技術は全メガコーポレーションが持つ標準的なものに過ぎない。ハヤテがエミオンスラスターを搭載しなかった点で出遅れていたとする向きもある。
 エミオンスラスターは宇宙では有望な姿勢制御システムであり、この技術蓄積を放棄する選択は将来的な競争力への影響が懸念された。
 しかし、開発時点での標準レベルのエミオンスラスターでは、タマモの要求仕様を満たすことは難しい状況であった。

 聖書には「新しい酒は新しい革袋に盛れ」という言葉がある。
 新しい発想(酒)は、新しい様式(革袋)の中で生きるという意味である。
 しかし、タマモの完成を手伝ったのは、その逆の「新しい酒を古い革袋に」であった。
 日本人だけに古びた革袋に侘びと寂びの風情でも見出してしまったものか。
 あるいは革袋ではなく、酒器であれば、より納得がいくだろう。

 新しいエミオンスラスター(酒)を、古いシコンのテールスタビライザー(革袋)と組み合わせたのがFETユニットである。
 柔軟に稼動する9枚のテールスタビライザーは大型化したシコンの機体に運動性を付与するものであったが、当然ながら真空の宇宙空間では機能の一部分しか機能しない。
 しかし、フレキシブルな多数の稼動部による機体制御の概念は既に完成していたと言ってよく、これを古いからという理由で捨てるには惜しいものであった。
 一方のエミオンスラスターは、前述のとおり、単体での高出力化には限界があり、一定以上の成果を見出すのは困難な状況であった。
 そこで銀河重工は小型簡易型のエミオンスラスターを用意し、テールスタビライザーを援用したフレキシブルアームに取り付けるというブレイクスルーを行ったのである。
 技術的に強化不能なエミオンスラスターをむしろ簡易化し、テールスタビライザーの空力的な特性を代替させたのである。

 一つ一つの出力が低めの小型簡易エミオンスラスターはフレキシブルアームの有機的な可動によって、タマモの運動性をより高次元に引き上げることに成功したのである。